平和な島、アローラ

しおりが挟まっています。続きから読む場合はクリックしてください
 
作者:逆行
ログインするとお気に入り登録や積読登録ができます
読了時間目安:12分

この作品には残酷表現があります。苦手な方は注意してください

 ある日の昼下がりのこと。
 ハノハノリゾートの砂浜の一角にシロデスナにやられたと思われる人達が発見された。シロデスナはハノハノビーチの砂浜に出現する危険ないきもの。このポケモンは生気を吸い取り人間の体をすっからかんにしてしまう。狙われたら諦めるよりほかはない。
 アローラの砂浜には他にも危険なものがうようよいて、最たる例がナマコブシというポケモンだ。彼らは非常に小さいが、舐めていると口から内蔵を出して殴りかかってくる。まともに受ければ視野にお星さが浮かぶし、運が悪いと自身がお星さまとなって飛ぶ。 
 砂浜だけでなく、森の奥地等にも人々に危害を加えるポケモンが数多く生息している。マシェードというキノコに良く似たポケモンは要注意生物に認定されている。森に迷い込んだ人間を発見すると彼らは、どこにも逃さんぞと言いたげにあやしいひかりを打ち放す。わけもわからず自分をボコボコ殴る人間を毒に冒したり胞子で眠らせたり好き放題し、最後に生気を吸い取ってしまう。
 一部の森だけだがキテルグマという非常に凶暴なものもいる。彼らは人間を見つけると当然のごとく追いかけてくる。巨体にもかかわらず足が早く逃げ切るのは容易ではない。あげく泣き叫ぶ人間を抱きしめ背骨を折ってしまう。このポケモンは背筋力がとても強く人間の背骨を折るのは簡単のよう。
 その他にもアローラでは、野生のポケモンが人間を襲う事件が数多く勃発していた。だが、野生のポケモンをやみくもに殺すことは中々許されない。
 一般の人にできることは、要注意生物がいる場所には立ち入らないこと、育てたポケモンを肌身離さず持っておくことぐらいだった。
 被害に合うのはトレーナーの子供達が特に多かった。子供達は珍しくて強いポケモンが欲しいが故に、危険な場所にも恐れをなさず立ち入ってしまう。ここ数年で、島巡りを行う子供が急増したのも災いしていた。
 観光客の人々も被害に合うことが多かった。事前に良く調べずにアローラにやってきた人達は危険なポケモン達を警戒することなく刺激する。観光客数も年々増加しており伴って被害件数も増えているのが現状だ。
 アローラに住む人々はこの惨状を大いに嘆き悲しんでいた。どうにかできないものかと懊悩していた。しかし政府はこういった状況に対し積極的に動くことは少なかった。


 アローラ史に確実に残る大事件が勃発した。それが、ウルトラビーストの出現だった。
 愚か者が一人いて、ウルトラビーストの棲む場所、通称ウルトラホールの入り口を開けた。結果数匹ではあるが、この世界にウルトラビーストを迷いこませてしまったのだ。
 強大な力を持ったウルトラビーストは人類にとって危険な存在と化した。彼らは人間を躊躇なく襲う。普通のポケモンでも人間に攻撃することはあるが、ウルトラビーストは比較ならぬほど酷かった。数こそ少ないものの、与えた被害は絶大だった。
 ある島ではウツロイドというウルトラビーストが、強靭な肉体を持った男性に寄生した。寄生された者は斧やらナイフやらを手に持ち、しっちゃかめっちゃか暴れ狂った。目につく人に片っ端から刃を向けていく。散々暴れさせた最後に、ウツロイドはその人物を海にダイブさせた。
 またある島ではデンジュモクが電撃を放ち、次から次へと人々を黒焦げにしていた。マスコットキャラとしてお馴染みのピカチュウより遥かに強力なかみなりが地上に落ちる。しかも、デンジュモクは体力がなくなると発電所を襲撃し、エネルギーとなる電気を吸い取り、ゾンビのごとく何度でも復活する。かみなりは広範囲に降り注ぐため、逃げ場がどこにもない。ある人は教会にて「神よ。どうか怒りを沈めてください」と手を合わせた。デンジュモクは神ではないのでその祈りは効かず、無慈悲にも祈りを捧げた直後に、教会にかみなりが落下した。
 さらに別の島では、マッシブーンというボディービルダーと蚊を足してニで割らずに、そのまま出てきたようなポケモンが暴れていた。マッシブーンは町中に繰り出し、筋肉を見せつけるようなポージングを取った。その様子を目撃した人々は何を考えているのかてんで掴めないという恐怖と、筋肉を駆使して暴れてきたらどんな惨事になるのやらという恐怖に怯えた。やがてマッシブーンはとある建物の屋上まで上り、人々に向かって自慢の筋肉を堂々と見せつけた。町からは一斉に、阿鼻叫喚の声が湧き上がった。
 もっとも被害を出したのはアクジキングというウルトラビーストだった。アクジキングは人間だろうとポケモンだろうとお構いなしに片っ端から口に入れていった。いくら食べても満腹にはならないようで、大食い自慢であるカビゴンとは比較にならない量を食べる。しかも建物ごと口に放り込むので、家にいた人は家ごといかれてしまった。避難場所に逃げた人も同様だった。アクジキングに猛毒を喰わせることも試した。しかし毒は欠片も効かず人々は絶望した。
 人々の頼みの綱はカプ・コケコら島の守り神達だった。彼らはもちろんのことウルトラビーストに対抗した。だが守り神の力を持ってしても致命傷を負わせられなかった。
それどころか四匹とも危うく死に至るほどの重症を負ってしまい、しばらくの間、戦闘に復帰することが不可能になってしまった。
 頼みの綱が消滅した後ウルトラビースト達は各島々でさらに暴れ回る。残虐な行為は留まることを知らず激化するばかりだった。
 このままでは、アローラ全土が滅ぼされる。危機を感じた政府は、ようやく重い腰を上げた。
 政府は、各地域の実力あるトレーナーを集めた。
 トレーナーらは一致団結し、ウルトラビーストを一体ずつ倒していく計画を立てた。


 果たしてどうなったか。結論を言うと、彼らの攻撃はそれなりに効いたことは間違いない。軽症を負わせて怯ませることには成功した。だが、膝をつかせるところまでは惜しくもいかず、反撃を食らう羽目になった。高レベル高種族の軍団が束になっても潰せないほどウルトラビーストは頑丈だった。
 結局怒りに火を注ぐ結果となった。その後彼らの暴走はさらにさらに激化してしまった。政府の戦略は失敗を言わざるをえなかった。
 あるとき、ウルトラビーストは特殊なオーラを纏っており、それの影響によって並々ならぬ強さが備わっていたことが判明する。彼らは普通のポケモンとは完全に一線を画する存在であると分かった瞬間だった。 
 いつまでも終わらない彼らの暴走に人々は絶望していった。もう駄目だと諦めていった。アローラはこれにて幕を閉じるのだと。


 しかしそんな最中、救世主が現れたのだ。かつてアローラでチャンピオンの椅子に何年も座り、その後あらゆる地方で強敵をなぎ倒し、歴戦の猛者が集うバトルタワーにて何十連勝もしている神のごときトレーナー。
 前回の徴収時には無視をして来ないという愚行っぷりを見せたがさすがに自分が行かねば不味いと思い、はるばるやってきたのだ。
 彼の実力は他のトレーナーとは雲泥の差だった。
 暴れ狂う怪物共を続けざまに倒していき、ボールで捕獲した。活躍を見た人々は驚きのあまり口をあんぐりさせ一同に大喝采する。
 数多くの強いポケモンを従え、彼らに対して完璧といってよい指示を出す様は圧巻だった。彼は常識から外れるほどの応対力を持つ。その上ポケモン達は禍々しいオーラを纏うウルトラビーストに負けないスピード、パワー。惜しくも倒されることはあったが、すぐ元気の欠片で復活を遂げてお返しした。
 幸いにもウルトラビーストは団結することがないため、一体ずつ順に倒すことが可能だった。
 この時期にちょうどウルトラビースト専用のボールが開発されたのも幸運だった。通常のボールでは捕獲するのが困難だった。専用のボールを使う場合は、たやすいとまでは言えないものの難易度が大幅に下がった。 
 ウツロイド、デンジュモク、マッシブーンと次々捕獲に成功していく度に、それがニュースで瞬く間に伝えられ、世界の人々は歓喜しますます彼に期待が集まっていった。
 だがアクジキングだけは少々手間取っていた。ビルを丸ごと喰らう相手にはさすがに攻撃が通用せず暴走を食い止めることができずにいた。手持ちが連続で巨体に押し潰されたとき劣勢を感じとって一旦退却する。
 次にアクジキングの前に姿を現したときには、アローラの四体の守り神を味方に付けていた。誰もが予想しなかった状況だった。
 守り神達に協力してもらうのは前々から考慮には入れていた。だが、カプ・コケコらは死にかけるほどの重症を負っていた。この時期では一応回復は果たしていたものの、まだ本調子が出せるという段階ではなかった。
 一度惨敗した相手、かつ全力を出せる状況ではない中でもう一度立ち向かう意思が現れたのは、ひとえにこの人間を一流のトレーナーとして認めたからに他ならなかった。島の守り神達はこれ以後彼の手持ちとして、命令通りにしか動かないことを決意した。
 最後の一体となっても暴れ狂うアクジキングに、攻撃を再開する。彼はカプ・コケコらに的確に指示を与え、容赦なく傷を負わせていく。味方が倒されるたびに元気の欠片で回復し、じわじわとダメージを与えていった。
 ついに敵が動きを止めた。トドメにはZ技を放った。地面から現れた巨人の手はアクジキングを叩き潰した。Zリングはアローラの大地全てのエネルギーを吸収したかのごとく、神々しく輝いていた。
 アクジキングの捕獲にも成功し、これにてアローラは危機から脱出することができた。
 これで『元通り』の『日常』が帰ってくるようになった。今までと、何一つ変わらない生活が……。

 もう人々は、ウルトラビーストの脅威に晒されることはない。
 ウツロイドに寄生されることもない。
 デンジュモクに黒焦げにされることもない。
 マッシブーンに威嚇されることもない。
 アクジキングに喰われることもない。 

 ………………………………。


 月日が流れ、町の修復もかなり終わった。観光客もぼちぼち増え始めビーチにも人が戻った。島巡りの試練も再開され、子供達が旅をする光景もまた見られるようになった。
 もうアローラは『元通り』になったといっても差し支えない。彼らの『日常』は今日も流れてゆく。


 ある日の昼下がりのこと。
 ハノハノリゾートの砂浜の一角に、シロデスナにやられたと思われる人達が発見された。
 テレビではキテルグマに背骨を折られたトレーナーのニュースがやっていた。トレーナーは全力で逃げたがあえなく捕まってしまったよう。シルバースプレーをかけていたが効果が切れていることに気がつかなかった。
 海辺に建った家に一人の老人がいた。ウルトラビーストから逃れるために避難していたが、復旧された町にだいぶ前に戻ってきた。
 老人は大きなあくびをした後リモコンに手を伸ばす。「野性のキテルグマには十分な警戒を」とニュースキャスターが言い終わるタイミングで、徐にチャンネルを変更した。他に面白い番組がないことを確認すると、テレビを消してソファーから立ち上がる。
 老人は窓を開け海を眺めながら、気持ち良さそうに大きく伸びをした。晴れやかな表情を浮かべていた。今日は海風が心地良い。
 そして彼は、このような独り言を言ったののだ。
「すっかりアローラも、平和になったなあ」
 近くの砂浜では誰かがナマコブシに殴られていた。

読了報告

 この作品を読了した記録ができるとともに、作者に読了したことを匿名で伝えます。

 ログインすると読了報告できます。

感想フォーム

 ログインすると感想を書くことができます。

感想

感想の読み込みに失敗しました。

 この作品は感想が書かれていません。