戦意喪失

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作者:セイ
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 戦意喪失(約1,900字)




 ランダムマッチの対戦相手が見つからなくなってしまった。遠く離れたトレーナーとポケモンバトル! そんなキャッチコピーとともに全国各地のポケモンセンターに導入された施設。そこではWi-Fi通信機能を利用することで、ランダムにマッチングしたトレーナーとバーチャル空間でのバトルを楽しむことができる。ホログラムとしてバトルフィールドに現れる対戦相手は、全世界のトレーナー。その地方のポケモンジムを制覇した猛者達ばかり。私のパートナーポケモン――べロベルトが舌を巻くほど手強いのだ。自慢のポケモンたちを鍛えて、ランダムマッチに挑戦して、更なるレベルアップを目指す。それが私の目標、だったはずなのに。
「対戦相手とマッチングしない、ということですか」
 滞在しているポケモンセンターの2階。夜遅くの問い合わせにもかかわらず、受付の職員さんが対応してくれている。「そうなんです」と、退屈そうにごろごろしているべロベルトをボールに戻し、私は続けた。
「システムの不調にしてはちょっとおかしい気がしまして」
「と、いいますと?」
「運良くマッチングできたとしても、現れた対戦相手が、ふっ、とすぐに消えちゃうんです。まったくやる気が感じられない。まるで戦う前から戦意を喪失しているかのような、そんなエラーが出てくるんです」
「なるほど、戦意を喪失……。あっ! そういえば」
 何か閃いたように職員さんが声を上げる。
「心当たりが?」
「ええ。最近よくポケセンに遊びに来るポケモンがいまして、きっとその子の仕業だと思います。マーイーカ、というポケモンなんですけど」
 かいてんポケモン、マーイーカ。発光体を点滅させることで、敵の戦意をなくしてしまうとされる種族。話によると、近頃、野生のマーイーカがバトルフィールドに乱入してくるようになったのだという。なるほど、真相を掴めた気分である。備え付けのモニター越しに発光体を点滅させることで、対戦相手の戦意を喪失させているのだとすれば、なかなかマッチングしないのも納得がいく。
 次の日、早速マーイーカを探すことにした。思いのほかすぐに見つかった。ところが驚いたことに、このマーイーカ、まだ発光体を光らせられないほど幼いのだ。つまり、この子は悪くない。すっかり犯人扱いされて、ぷりっと膨れてしまったマーイーカ。そんなこの子を、べロベルトが舐め回すことで宥めてくれている。とても仲が良い。
「あのマーイーカ、あなたのべロベルトとは顔見知りだったみたいですね」
 ロビーでじゃれ合う2匹を見やりながら、職員さんが言う。マーイーカが“ひっくりかえす”を繰り出したらしい、べロベルトが逆さまになったまま壁にもたれかかっているところだった。
「そうだったんですか」
「ええ、ああやってべロベルトをひっくり返しているのを見て、思い出しました。あなたがほかの手持ちポケモンのトレーニングに行かれている時間なんか、よく一緒に遊んでいたなあと」
 だとすれば、今日は目一杯遊ばせておくのがいいのかもしれない。結局ランダムマッチはお預けのままだ、トレーニングルームに籠るよりもはるかに有意義だろう――そんなことを考えていたときだった。
「わーーーーっ!! べロベルトだあああーーーーっ!!」
 外から子どもたちの大群が押し寄せてくるではないか。ざっと30人以上はいる。学校の一クラス並みである。手にはみんなしてゲーム機を持っている。どうやらポケモンのゲームをプレイしているらしい。逆さまになったべロベルトの周りに群がって、一斉に通信を始めた。GTSにミラクル交換、マジカル交換、フェスアトラクションと流行りのマックスレイドバトル。どれもこれも、遠く離れたプレイヤーと遊べるもの。わいわいとWi-Fiをフル活用している様子を見て、ああ、そうかと合点がいった。

 べロベルトのお腹の辺り。大小異なる緩やかなアーチ型の曲線が3本、扇マークをなしている様は、あるものを連想させる――逆さまになったべロベルトのお腹の模様が、Wi-Fiのアイコンに見えるのだ。マーイーカにひっくり返され、子どもたちにWi-Fiスポットか何かと勘違いされるようになったべロベルト。そんなうちの子の元に大勢詰めかけて、こぞってWi-Fiに繋ぎ始めるものだから、電波が不安定。ネット回線が混雑していて、途切れやすい状況。ランダムマッチの対戦相手があたかも戦意喪失したかのようにいなくなるのは、こちらの通信環境のせいだったのである。
 何はともあれ、逆さまになったべロベルトの巨体を元通りにするのが先決だ。ポケモンたちだけでなく、トレーナーの私も筋トレに励むことにした。

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