貴女がしてくれたように

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作者:ドリームズ
読了時間目安:8分
死にたいシリーズ一周年を記念して、特別なお話となっております。
貴女がしてくれたように。今度は私の番だから。
〜〜〜〜〜〜
「ノゾミ、帰ろ〜。」

私はノゾミ。マイナンのノゾミ。
やっと最近になって、楽しい学園生活っていうのを送れるようになった。なんでかって?理由は簡単。去年まで、私は虐められていたから。今よりも根暗な性格で、正に「死にたがり」という単語が似合うような奴だった。なんてったって、毎日死ぬ練習というなの自殺未遂を繰り返してたしね。
そんな私を救ってくれた恩人、ピカチュウのカレン。彼女は少し特殊だった。なんと幽霊だったのだ。当時は全く気がつかなくて、事が終わった頃に担任によって発覚した。その時は驚きと同時に、感謝の念でいっぱいであった。彼女は死にたがりの私に、生きる希望を与えてくれた。普通の人間に言われるよりも、何倍もの説得力があった。
そういえば、今日ってカレンと初めて会った日じゃないっけ?なんだか懐かしいなぁ……。少し帰る前に寄っていこうかな。彼女と初めて会った、屋上に。一緒に帰ろうと誘ってくれた友達には悪いが、誘いを断り屋上へと向かった。
















夏の夕方独特の涼しい風が通り抜ける屋上。誰もいない屋上に、静けさを風が一緒に連れてくる。すると、誰かの気配がした。さっきの“誰かいない屋上”というのは、撤回だ。気配の正体を探ろうと、辺りを見回す。すると、屋上の壁の縁に、ピカチュウが佇んでいた。一瞬カレンの生まれ変わりかと錯覚してしまいそうになったが、すぐに違うと気がついた。一つは、そのピカチュウの尻尾にあった。カレンは女子であるため、尻尾の先端はハート型になっているのだが、このピカチュウは普通であるため男子だと分かる。そして何よりも、雰囲気が彼女とはまるで違っていた。彼女の面影らしきものを、一切感じなかった。よって、彼は全くの別ポケであろう。しかし、今はそんな場合ではなかった。私は直感的に分かってしまった。この子、飛び降りるッ。何回も自殺未遂を繰り返してきた私だ。感覚で分かってしまう。そう認識すると、無意識に口が動いていた。

「何してるの?」
「えっ」

彼はバッと後ろを振り向く。内心凄く焦っていたはずなのに、口から出た声色はとても落ち着いていた。しかし、彼は別のようだ。それもそうであろう。飛び降りようとしていたところを見られるのは凄く焦る。これぞ経験者は語るという物である。まあ、いらない経験なのだが。彼の反応に、少し懐かしさを覚えつつ、もう一度声を掛けた。

「諦めるの……?」
「アンタに何が分かるんですか……ッ」

その返答に、私は答える。彼がキツく噛み締める唇から血が滲むのが見える。

「分かるよ。」
「えっ」
「分かるよ。」

彼が目を丸くするので、もう一度繰り返した。そして、一呼吸置くと喉元に溜め込まれたものを解き放った。

「私も貴方と同じだったから。」

それが彼との出会いだった。














彼の名前はセイラといった。私は、毎日屋上で彼と話した。友達に何処に行くのか聞かれた際、正直に言うとなんと彼女も協力してくれたのだ。おかげで一早く加害者を発見する事が出来た。その加害者の名前を聞いて、私は眉間にシワを寄せた。その中には、去年まで私を虐めていた奴らの名前も入っていたからだ。私を虐めなくなって変わったんだなと思っていたが、撤回だ。あいつらは変わってなどいなかった。それがとてつもなく腹立たしかった。
私は今、セイラを虐めている元私の虐めっ子らを集め、その前に仁王立ちになっていた。この一年、私も随分変わったなと思う。前までこんな事、死んでも出来ないと思っていたのに。

「アンタ達、まだ虐め続けてんだって?私を虐められなくなって、今度は年下って……。アンタ達、どんだけイカれてんの?」

随分と無機質な声が出たと思う。自分でもびっくりする程だ。その声に、雰囲気に、完全に加害者達は怯えている。実に不愉快だ。しかし、愉快でもある。そんな奴らに、さらに鋭い眼差しを与えながら言い放った。

「言っとくけど、今のアンタ達は私よりも惨めだ。もう担任とも話しをつけてある。恨むなら、私の自殺未遂の件で考えを正せなかった自分自身を恨め。」

そう言い放つと、私はそそくさとその場を去った。去り際にあいつらが何か言っていた気がしたが、無視した。聞く価値もないと思った。今日もセイラと話す予定があるのだ。構っている暇などなかった。

















私は、前から気になっている事があった。それは、セイラが着ている物についてであった。何も上に羽織ってない私でもこんな暑苦しいに、彼はいつもカーディガンを羽織っているのだ。ただ極端に寒がりなだけなのかと最初は思っていたが、こんなに暑いのにそれはないなとこの頃思い出した。それに、私の直感が言っている。あの下には、何か隠したくなる物が眠っている。

「ねえ、カーディガン着てて暑くないの?」
「ッ!?」

私がそう言うと、セイラは明らかに動揺する。絶対何かある。というか、何があるかも薄っすらと勘付いている。私は単刀直入に聞いてみた。その方が、遠回しに言われるより負担が少ないはずだ。

「見られなくない物があるとか?例えば……



リスカした跡があるとか……。」

私が静かにそう言うと、彼は俯く。しかし、否定してこない事から、やはりそうなのだろう。私は彼に、カーディガンの袖を捲っていいか聞く。流石に突然袖を捲られたりしたら、誰しも驚くであろう。それに、今回はある意味特別だ。彼が力無く頷くのを確認すると、ゆっくりと袖を捲った。
袖を捲ると、予想通りの光景が広がっていた。そこには、数々の痛々しいリストカットの跡が残されていた。リストカットだけでなく、アームカットもしているらしく、その傷跡は腕までにも及んでいた。しかし、私は不思議と不快には思わなかった。それよりも心が痛かった。少し昔の私を見ているようであった。

「先輩は……僕が怖くないんですか……。」
「ん?何で?」

彼の声は震えていた。私は彼の本心を知りたくて、優しく問うた。

「こんな痛々しい傷だらけの僕が……怖くないんですか……?気持ち悪くないんですか……?」

今にも泣き出しそうな彼の声に、私は胸が締め付けられるような心地だった。

「怖くも気持ち悪くもないよ。」

そう言って私は、彼の傷だらけの腕を撫でる。彼は肩を震わせ泣いていた。瞳から溢れる滴が、宝石のようだった。とても美しかった。私は特に抱き締める事も背中や頭を撫でたりもせず、ひたすら彼の傷だらけの腕を撫でていた。

「すぐに変わろうとしなくていいから。ゆっくりいこう?」

私がそう言うと、彼はひたすら頷いていた。私は彼の力になれているのだろうか。私は彼ではないから、本心までは分からない。力になれていたらいいなくらいに思っておこう。ゆっくり溶かしていけばいい。彼女がそうしてくれたように。
私は、ふっと空を見上げた。

ねえ、カレン。私、ちゃんと生きてるよ。
貴女が私にしてくれたように、今度は私が助けてみせるから見ててね。

何処かで彼女が笑ったような気がした。
こんにちは、ドリームズです。
死にたいシリーズも、皆さんのおかげで一周年を迎える事が出来ました。本当に感謝いたします。今回は、一作目「死にたい?死なない……」の一年後の話しとなっております。成長したノゾミの姿を上手く書けていればいいなと思います。

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