サントアンヌ号 〜老婦人の想い出〜

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作者:要石の森
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読了時間目安:17分
──たった数日間の出来事なのに。
ボ~ッ、ボ~ッ──


船の汽笛は高らかに鳴り響く。
ここは、豪華客船サントアンヌ号。

そして……私は、この船に乗船しているしがない老婆。


《まもなく、当船は カントー地方 クチバ港 へと到着致します……》


クチバ港……あの日を、思い出す。
あれは、そう……50年も昔の出来事だった。

私の脳裏に焼き付いた、とある、懐かしき想い出──

………
……



──50年前


私の職業は、貿易商。
商品の輸出入を展開するのが仕事でした。

その一環として、豪華客船サントアンヌ号で世界各地を巡っていたのです。

贅沢だとお思いでしょうか?

でも、なにせ当時お金は使い切れない程にあったのだから、こういった客船にも乗船することができたのです。


《只今当船は、クチバ港へと到着致しました。そして、当船は一週間の間クチバ港へと停泊致します。なお、その間 船内パーティを催しますので、皆様方奮ってご参加下さいますように願います》


私(クチバシティ……か)


私はホウエンの出身だから、カントー地方に来たのは初めてのことでした。


──室内


私(……ふぅ)

しばらく私がくつろいでいた、その時。


……ガチャ。


私「?」


男の子「…………」


見知らぬとある男の子が、ノックもなしに、私の部屋へと入って来たのです。


私(……)


『無言で入って来るなんて、なんて子なの』
そんな印象を受けました。

そう感じた、矢先。


男の子「……アンタは、トレーナーか?」


男の子が、私に質問を投げかけました。

私「……いえ、私はポケモンを連れていないし、貴方と戦うことはできないわ」

男の子「……そうか」

その男の子、よく見ると……。

私「……あなたのポケモン、傷付いているわね?」

男の子「ああ。……負けた、からな」

私「負けた?」

男の子「……決まってるだろ。この船のトレーナーに負けたんだ」

私「……私、ポケモンバトルには疎くてよくわからないんだけど……。この客船のトレーナーさんたちは強いのかしら?」

男の子「ああ、強い。俺はここに来るまで負けたことなんてなかったんだが……」


男の子「…………ホントに、弱いポケモンたちだ!」


私「ポケモンが……弱い?」

男の子「そうさ、コイツらが弱いから負けたんだ。コイツらをもっと鍛えないと……勝つのは難しそうだ。世界は広い、思い知ったよ」

私(……)

男の子「なんだ?」

私「いえ、そのポケモンたちが弱いんじゃなくて……」

男の子「……なくて?」

私「なんだか上手く言えないけど……。他にもっと、大切な“なにか”が足りないんじゃないかな、と思って……」

男の子「……。そんな筈はないよ」

私「え?」

男の子「俺は、ポケモンは『強さが全て』だと思っている。強ければ強いだけ相手を実力でねじ伏せることができるし、屈服させられるしな。それが全てさ。後は何もない」

私「……あなた、融通がきかないタイプだとか……良く言われない?」

男の子「…………うるさいな、ほっとけよ」

私(どうやら、図星のようね)

私「でも、その性格……」

男の子「……?」


私(私の……弟に似ている)


何年も前に死んだ、私の弟に──


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………
……



私「アンタって、どうしてそんなに聞かない子なのッ!!」

弟「うるさいな! 姉ちゃんにはわからないだろ!!」


あの日も、私と弟は口喧嘩を続けていた。

きっかけは……なんだったかしら?
……思い出せない。


とにかく、それ程……忘れる程、つまらないことが引き金だったのです。


私「もう、知らないッ! あぁ、もうこんな時間……。私、買い物に行って来るからッ!!」

弟「おうおう、買い物でも地獄でも、どこにでも行ってしまえッ!!」

私「もう、減らず口も大したものねッ!!」ガチャッ


──バタンッ!!


弟(……ちぃ、なんだよ。でも、少し言い過ぎたかなぁ……)


激昂した私は弟を残し、一人、買い物へと出掛けました。



──これからあんな惨事が引き起こるなどと、知る由もなく。



──数時間後


私(今考えると、私もむきになっていたかしら……)


あんなくだらないことで、なにもここまで言うことはなかっただろう。
そう、私は感じました。


私(……謝ろう──)


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私(……あれ?)



──玄関の鍵が、開けられている。

しかも、『こじ開けられて』ッ!!


私「……ッ」ダダッ

気がつくと私は、駆け出していました。

私「お、お父さん……お母さんッ!!」ダダッ


そして、私の悪い予感は……最悪の形で“的中”します。


私(…………)


ドサッ……。


買い物の袋が、床に落ちる。
父と母は……惨殺、されていました。


私(な、なんで……なんで、こんなことに……?)


あまりのことで、泣くこともできない。


私(そう、だ……。あの子が、居ない……! あの子は、あの子は……!?)

……私の足は、次に、弟の部屋へと向かいます。

私「!」

弟の部屋に、入ると。

弟「お……お姉……ちゃん………。無事…………だったの………………」


血塗れで、倒れている弟。


私「ア、アン……タ…………」


呆然と、立ち尽くす私。


弟「……お姉……ちゃん…………」

私「もういいの、喋らないで! 今、人を呼んで来るから…………」

弟「ご……」

私「──え……?」



弟「「ごめん…………ね………………」」



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それが、弟の最期の言葉となりました。


私「う……」



私「「「…………うわあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあっ!!」」」



──父は、貿易商を営んでいた。

父は、利益を得るためならなんでも行っていたのだ。……粗悪な商品を、法外な値段で売り付けることも。

そのために被害を被った客が今回の犯行に及んだのだと、警察は検討を付けた。

そして、私は叔母の元へと引き取られることとなる。
周囲の人たちは私に同情してはくれたが、中には父の『自業自得』だと罵る声もあった。

悔しかった。そして、私は“私自身”が許せなかった。
身内の悪行を気付きながらも、それを止められずに、そして今回の事態を招いた私に、嫌気すら差した。

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犯人は見つからず、事件は難航を極めていた。

私はその後、父から受け継いだ財産を元に、父と同じように貿易商を営むこととなった。

父のようなことにはしまい。
真面目に、真剣に取り組むのだと、そう心に強く誓った。

……だが。

私(……ハァ。なんで、なんで、上手くいかないんだろう……)

私はまだまだ経験不足、そして世間知らずであった。
そんなこともたたり、中々事業は順調にいかない。


そして。
私は、このサントアンヌ号へと乗船した。


………
……


男の子「なんなんだ……アンタ?」

私「い、いえ、なんでもないわ……」

男の子「それならいいんだけどさ……」

私「…………そうだっ!!」

男の子「おいおい、次はなんだ?」

私「貴方のポケモン、私が元気にしてあげるわ! 薬も一通り揃っているしッ!!」

男の子「……え?」

私「ええ、いいの。これも何かの縁だし……。また傷付いたら、いつでも私の所へといらっしゃいなッ!!」

男の子「……」

私「ん、どうしたの?」

男の子「いや、ここまで歓迎されるとは思ってなかったからさ……。ここに来たのも、トレーナーと戦えるかもと思ったからだし……」

私「傷付いては、せっかくの戦も勝てなくなるわよ。あなた、その調子じゃポケモンセンターもあまり利用していないでしょ」

男の子「俺、人付き合い苦手だしさ……。あまりそういう所には行きたくないんだ」

私「もう、駄目よ、そんなことじゃ! じゃ、貴方のポケモン癒やしてあげるわね」

男の子「ち、ちょ……」


……テンテンテテテーン♪


私「うん、貴方のポケモン凄く元気になったわね。じゃあ、戦ってらっしゃいな!!」

男の子「感謝すると、そう言うべきなんだろうな」

私「回りくどいわね~。感謝する時は素直に『ありがとう』と、そう言いなさい!!」

男の子「あ、あぁ、わかった……」

こんな調子で、私と男の子の交流は続いたのだ。

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その男の子は、私に色々なことを語ってくれた。

カントー地方の田舎の町からこのクチバシティまで、はるばると旅をしてきたこと。
破竹の勢いでジムバッジを手に入れていったということ。

そして、このサントアンヌ号のトレーナーの強さに苦戦し、行き詰まってしまったということ。

私(……私も、同じだ)

私も、行き詰まっている。

この仕事を、果たして続けるべきなのか。私には、他に進むべき道があるのではないか。


──ある日


私「また負けたみたいね。はい、回復させてあげる!!」

男の子「……アンタさ」

私「ん、な~に?」

男の子「どうして、見ず知らずの俺にそこまで優してしてくれるんだ?
俺はどうも、疑い深い性格のようでね。そこがなにか、裏があるんじゃないかと思ってさ」

私「……」

男の子「どうしてだ?」

私「貴方が、私と似ているからよ。互いに、進むべき道に壁があり、それにぶつかって行き詰まっている。それに……」

男の子「それに?」

私「貴方が、私の死んだ弟に似ていたからよ。顔とかじゃなくて、言動とか、性格とかがね」

男の子(…………)

私「……」

男の子「……悪いな。辛いことを、思い出させてしまったようで」

私「いいのよ、気にしていない」

男の子「疑ってごめん。また、傷付いたらここに来てもいいか?」

私「ええ、もちろん!」

男の子「しかし……」

男の子(どうして、勝てないんだ?)


ポケモンのレベルだって、順調に上がっている。
命令の下し方も、間違ってはいないハズなのに……。


──そして


男の子「……今日も、あの人のところへ行かないとな」


その時、だ。


《乗船している客共、全員に告ぐ!》


男の子(な、なんだ……?)


《このサントアンヌ号は、我々『ロケット団』がシージャックした!!》


男の子「!?」


《命が惜しかったら、我々の指示に従ってもらう! まずは、おとなしくするんだッ!!》


「キャ~! ロ、ロケット団だわッ!!」

「まさか、このサントアンヌ号がジャックされるだなんて……!!」


男の子(まずいぞ、客たちは混乱している。このままじゃ、収集がつかない! それに、アナウンスは船長室から……行ってみようッ!!)


──そして 船長室


男の子「ア、アンタも来てたのか……」

私「ええ、この騒動を起こした犯人が気になって。つい……」

男の子「ポケモンも持ってないのに、度胸がある人だ……」


船長「う、うぐ……」


私(船長さん、椅子に縛られている……)

男の子「船長は船酔いしやすい体質と聞く。船酔いをした隙を狙って、縛り上げたのだろう。そして、そこに居るのは……」

下っ端「なんだぁ~、ここは餓鬼が来る場所じゃないんだぜぇ~~」

男の子「ロケット団……!!」


「……待ちなさい」


下っ端「ランス様、なぜ止めるんです! こんな餓鬼、この俺が……」

ランス「そいつはお前が敵う相手ではありません。聞いていますよ。ここまで我がロケット団の邪魔を、数々こなしてきた子どもがいるということはねぇ」

男の子「……フン。よく知ってるじゃないか、幹部さん」

私「貴方とロケット団に、そんな因縁が……」

ランス「しかし、私はそこらの下っ端とは違います。ここで本気でお前を潰すつもりで戦ってやりましょう。……出て来なさい、ゴルバットッ!!!」

ゴルバット『バーーットッ!』ボンッ

男の子「出てこい……フシギダネッ!!」

フシギダネ『フッシ~ッ!』ボンッ

そして、闘いが始まった……。

ランス「ふん……ゴルバット、“かみつく”ですッ!!」

ゴルバット『ゴ~~ルッ!!』

男の子「フシギダネ、かわして“つるのムチ”ッ!!」

フシギダネ『フッシ~ッ!』シュタッ

私(二人の戦いは、一見互角のように見える……。でも)

フシギダネ『フ、フシ……』

男の子「……!」

私(彼の方が、僅かに押され初めてる……!)

ランス「今ですゴルバット、“エアカッター”ッ!!」

ゴルバット『バ~……トォッ!!』ガシィッ

男の子「!」

フシギダネ『フシィ…………』グラッ

下っ端「ひゃ~ははは! 強い、絶対に強いッ、ランス様ッッ!! これは……勝負あったかぁ~っ!!?」

男の子「クッ……」

男の子(何故だ、何故、勝てないんだ……!?)


ここまでなのか…………!?


私「信じるのよ、貴方ッ!!」


男の子「……っ!?」

私「貴方のポケモンを信じられなくて、勝てるハズがないでしょっ!? 信じぬいたその先にこそ、勝利は見えるものなのよっ!! 諦めたら…………駄目なんだからあッ!!」

下っ端「なんだ~、このアマッ! 外野はすっこんでなっ!!」バシィッ

私「あっ……」ドサッ

男の子「!」

下っ端「へへ、いい気味だぜぇ」

男の子「…………フシギダネ、動くんだッ!!」

ランス「!」

下っ端「こ、こいつ、まだ戦う気力が……!?」

男の子「フシギダネ、俺はお前を信じる! だから、お前もその思いに応えてくれッ!!」

ランス「なにを……ゴルバット、この死に損ないにもう一度攻撃です! ……“エアカッター”!!」

男の子「フシギダネ、今こそ攻撃だ! 全身全霊を込めた……“はっぱカッター”だッ!!」

フシギダネ『フッシ~ッ!!』シュパパパ


ガ ア ン ッ ! !


そして、二匹の攻撃がぶつかり合った……。


フシギダネ『……フッシ~ッ』

ゴルバット『……ル』フラッ


ゴルバット『バーーーーットッ…………』


ドサァッ……。


ランチ「!」

下っ端「か、勝ったのは……そんな」

私「凄いわ、貴方、勝ったわっ! ロケット団の幹部に……勝ったのよっ!!」


客「ワアァァァァ~~~ッ!!!」


男の子「……いつの間にか、ギャラリーが増えていたな……。それよりアンタ、ありがとう。この勝負、勝てたのはアンタのおかげだ」

私「え?」

男の子「俺には、ポケモンを“信じる”気持ちがいつの間にか消えてしまっていたようだ。そんなことじゃ、勝負に勝てないのは当たり前のことだった。そのことに、ようやく気が付くことができたよ。……“ありがとう”」

私「いえ、私も一つ、貴方に教えられた」

男の子「ん?」

私「私も今の仕事を、まだまだ続けることにするわ。これから先、辛いことや悲しいことも待ち構えているかもしれない。……でも、それらを“信じる”気持ちをもって乗り越えていこうと思う。それを、貴方から教わった気がする。……“ありがとう”!!」

男の子「ハハ、お互い学び学ばれつつ、か。いや、本当に、ありがとう、な……」

------------------------

下っ端「お、お前、覚えておけよっ! お前はこの件で、ますますロケット団を敵に回してしまった!! これからのお前の運命が気の毒だぜ……ハハハ!!」

男の子「フン、いつでも来い。何回でも蹴散らしてやるッ!!」


こうしてロケット団たちは、クチバ警察に連行されて行くのであった。


──数時間後 船内パーティ


船長「さぁさぁ皆さん、本日の主役は見事ロケット団の魔の手からサントアンヌ号を救ってくれた……このボーイだっ!! 皆さん、本日はよく呑み貪ってくださいっ!!」


「うぉ~っ!!」

「やったぜ~っ!!」


男の子「……こういった場はなんか俺に合わないよ」

私「そんなこと言わないの! そうだ、貴方……私と踊りませんこと? 私、こう見えても社交ダンスを習ってましたのよ!!」

男の子「えっ、俺、ダンスは……」

私「いいから、踊りましょッ!!」

男の子「う、うわ~ッ!!」



こうして、楽しい夜は更けて行くのであった……。



………
……


私「行ってしまうのね……貴方」

男の子「ああ、この船もそろそろ次の目的地へと向かうし、それにいあいぎりの技マシンも船長から貰ったしな。クチバのジムにこれで挑めるよ」

私「寂しくなるわね……。……そうだわ」

男の子「なんだ?」

私「貴方の名前……聞けずじまいだったわね。貴方の名前……何ておっしゃるの?」

男の子「俺か?」



──俺の、名前は…………



------------------------


──50年後


どうやら私の家族を殺した犯人とあのロケット団たちには繫がりがあったらしく、その後、犯人は逮捕された。
思い返せば、あの戦いがあったからこそだ。

風の噂によると、あの男の子は全てのジムバッジを手に入れあのロケット団をも解散させ、チャンピオンに上り詰め……。
もはや私の手に届かない、伝説のトレーナーとなってしまったとか。

あの数日間が、まるで幻のよう……。

そしてサントアンヌ号は、私の故郷……ホウエン地方へと到着した。
ホウエンには、貿易商を任せた私の息子がいる。

今日は、息子に子どもが産まれたという知らせを受けて、このホウエンに帰って来た訳だ。

……名前は私が付けることになった。名前は、もう決めてある。

…………あのトレーナーの名前を、貰い受けて……。



「おぎゃ~、おぎゃ~……」


「お母さん。この子の、名前は……?」

「この子の名前は、そう、この子の名前は……」



…………、よ。
一期一会の、その想い出


サントアンヌ号 〜老婦人の想い出〜 - 完 -

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