舞台裏のラストゲーム

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jupettoさん作『戦闘携帯のラストリゾート』https://pokemon.sorakaze.info/shows/index/2046/の
後日談となる三次創作作品です。作品時間軸は最終話『怪盗たちに、アローラ』の前に入ります。


「アローラに帰る前に、もう一度バトルをしようよ」

 一連の仕事を終えてアローラに帰る支度をするラディに、サフィールが試合を申し込んできた。
「わたしと?」
「ああ、また勝負しようって言っただろ」
 約束したのはフィフティフィフティのルールで、サフィールがジュカインを出して戦った時だろうか。……でも、あれ?
「そんな約束したっけ?」
「え? ……いや、してなかったっけ。ともかくまあ、アローラを賑わす怪盗乱麻の腕前をもう一度見てみたい。それに」
「それに?」
「最後のバトルシャトレーヌを倒さずして、このバトルリゾートでの怪盗の仕事は完遂しないだろう? バトルシャトレーヌ最後の一人、マダム・ウェザーの代理として俺はお前にバトルを申し込む!」

 バトルリゾートのバトルシャトレーヌは4人いる。チュニン、ルビア、キュービ、――そしてマダム・ウェザー。
 スズから名前だけを聞く最後のバトルシャトレーヌであるが、ラディは彼女と結局戦わずにホウエンを去ろうとしている。お宝を盗むことさえできればすべてのバトルシャトレーヌを倒す必要はないのだが、彼女と会わずに帰ってしまうことがラディにとって唯一と言えるこのリゾートでの心残りとも言える。
 今ここに最後のシャトレーヌの代理が前にいるのならば、これを倒さずして終わらないと言うのだ。

「……わかった、受けてたつ」
 彼女は目の前の全ての困難を断ち切る怪盗乱麻。売られた挑戦は買わなければその名が廃る。ラディは快く引き受けた。


 ◆  ◇  ◆  ◇  ◆  ◆  ◇


 最後のサフィールとのポケモンバトルはカードを用いたバトルシステムらしく、
 よりポケモンカードルールに近づけたバトルルールで行うことになった。
 本来のカードでは、ワザを使うためにはエネルギーカードというコストが必要になったり、ポケモンは進化前の状態からスタートして、戦闘中に進化させる必要などがあるが、さすがに普通のポケモンバトルでは不可能なので、そこはきちんと調整がされている。
 普通に試合ルールとの違いは大きく3つとなる。

・GXワザなどの独自のワザの存在
・ベンチスペースの存在
・道具の使用制限が緩い

 このルールではポケモンを直接バトルに出すことができず、一度ベンチに出した後に、バトルポケモンとして戦闘に出す。
 このベンチポケモンを見れば次に戦闘に出すポケモンが相手に分かったり、ベンチからバトルポケモンへの後方支援ができたりと、戦術を広げてくれることになっている。
 また、多彩な道具(グッズ)をつかうことが可能で、例えば『ポケモンキャッチャー』という相手の好きなベンチポケモンをバトル場に引きずり出すキャプチャーネットをトレーナーが使用できる道具もある。
 敗北条件は『降参』『自分のポケモンが6回戦闘不能になること』『バトルポケモンが倒れた時にベンチに戦えるポケモンがいないこと』の3つになっている。

【――と、まあ遠いイッシュ地方でよく見られる「ローテーションバトル」「トリプルバトル」「アイテムシューター」を足したようなルールですね】
 スズはそう解説するが、ラディはトリプルバトルはともかく他二つはやったことが無く、よく分からない。いくつかポケモンを出すが、戦うポケモンは1匹なので普通のシングルバトルではあるのだろうが。
【とりあえず覚えておくことは、ベンチに1匹以上のポケモンに出しておくことを忘れなければ、あとは普通のバトルと同じで構いません。サフィールがどんな道具を使ってきても驚かないことと、ラディがいつも通りの実力を発揮できれば問題ないです】
「わかった」
 スズの言葉を聞きながらラディは控え室で手持ちのポケモンを確認して戦闘準備を整え終えると、指定された試合フィールドに移動する。

 そこではサフィールが待ち構えていた。
「ようこそ」
「うっ 何それ、なにその服」
 着替えて現われたサフィールの服は、道化師みたいな奇天烈なカラーで、時代を間違えたようなフリルのついたドレスのような服で、とびっきり可愛い女の子が着るのならばまだ可愛げがあるかもしれないが、男のサフィールにはとても似合わない。
「は……? いや、昨日貰った服からさっそくだし着てみたんだけど…… もしかしてこれ、似合ってないのか?」
「すっごく…… キモチ悪い。似合うとか似合わないとかそういう問題じゃなくて、いつの時代? 服自体のセンスが時代遅れじゃないの」
「そ、そうなのか。 そうだったのか……」
 サフィール本人はこの服をそこそこ気に入っていた様子で、ショックを隠せない気落ちした声だったが、すぐに気を取り直してサフィールは対戦の位置についた。


「対戦よろしくお願いします」
「おねがいします」

 ラディの初手のポケモンはグソクムシャ。
 対するサフィールの初手はトロピウス。
 奇しくも、いや狙っているのだろうか、サフィールは最初に戦ったあの時と同じポケモンを出してきた。

「先攻はもらった! トロピウス、あまいかおり」
 辺り一面に南国を思わせる強いフルーツの香りが立ち込める。
 その瞬間にラディのモンスターボールから次々と手持ちポケモンが勝手に出てきてしまい、隠し玉として取っておこうと考えていたツンデツンデのレイまで出てきてしまう。

「えっ ちょ」
【近くにいるポケモンを呼び出してくるという甘い香りのフィールド効果ですね、このルールだとこういう効果も持っているようです。大丈夫ですか? 一度ベンチに出したポケモンは簡単に手持ちに戻せませんよ】
「問題ない、出す手間が省けた」
 相手もベンチにポケモンを出したようで、ベンチにはルンパッパ・ラグラージ・サーナイトが並んでいる。初めて会った時から連れていたサーナイト、ここで初めてバトルの場でお目見えすることになる。
「再び、あまいかおり」
「戻って、グソクムシャ  行ってこいポリゴンZ、冷凍ビーム」

 再び強いフルーツの香りがベンチを含めたフィールド全体に広がり、少し遅れて強い冷気を帯びた青い光がトロピウスを一撃で倒す。
 ベンチにはグソクムシャ・スターミー・ルカリオ・ハッサム・シルヴァディ・ツンデツンデの六体が並び、ベンチがすべて埋まってしまった。
 倒れたトロピウスの代わりにサフィールがバトル場に出てきたのはラグラージだった。

「ルンパッパ雨乞い そして、ラグラージ、だくりゅう!!」

 ルンパッパがベンチで怪しいおどりを踊りだすと、フィールド中に大きな雨雲ができて、たたきつけるような雨が降り出した。
 ラグラージは鈍く濁る大量の水流をその場に生み出して、ポリゴンZに襲い掛かる。
 その大波はそれだけに留まらず、ラディとベンチにいるポケモン達をも巻き込んだ。

「うわっ!」
【ベンチ攻撃ですね】

 バトルポケモンはベンチに攻撃してもよいし、ベンチポケモンもワザを使ってもよい。ただしベンチへの攻撃は大幅にダメージが軽減され、ベンチポケモンは相手のバトルポケモンに対して攻撃ワザを使ってはいけない。
 これは、カードに存在する基本戦術だ。

「でも、広範囲に攻撃をする以上は威力も控えめってこと! 臆せず攻める、トライアタック!」
「もう一度、だくりゅう! そして、一度ベンチ下がれ」
「とどめよ、トライアタック」
「まもるで受けとめろ。 再び出て、だくりゅう!」
「くっ ポリゴンZ……」

 追撃を加えようとしたところで、サフィールは素早くルンパッパと入れ替えてそのトライアタックを受け止め、直後にラグラージをバトル場に戻し、だくりゅうでポリゴンZは倒れた。
「こんなことならレイにワイドガードを覚えさせておくべきだった」
 複数攻撃のだくりゅうはツンデツンデが覚えるワザのワイドガードで防ぐことができる(このバトルにおいてはベンチへのダメージを防ぐ効果になるが)、今回は不意な勝負だったので準備できなかったが、事前にわかっていれば覚えさせておいただろう。
【後悔してもなんにもなりませんし、あっても変わらなかったと思いますよ】
「そうかもね、全体攻撃ワザを軸に戦っていくならばワイドガード対策を考えていないはずがないから、必ず対処策は用意してあったはず。それならばその対処策を無駄にさせたと前向きにとらえるべき、クルルクならばそうする」
【おや、判断基準にクルルクを】
「黙ってて」
 二人が話している間にサフィールは持っている手札に目を配り、2枚のカード選んでベンチに出していた。ライボルトと、氷タイプのアローラの姿のキュウコンだ。
 ラディがアローラ出身だから出したとか、そういうわけでは無いのだろう。

「グソクムシャ、であいがしら!」
「だくりゅう」
 ラディはグソクムシャに指示を出しながら、手元にいるシルヴァディの背中に緑色のARメモリを差し込む。
 だくりゅうの直撃で、グソクムシャはベンチに一瞬で戻り、新たに出るのはシルヴァディ!

「マルチアタック!」

 草タイプになったマルチアタック、ラグラージを包んでいる謎の透明な障壁を突き破り、相手のHPを一撃で葬り去った。おそらく、後ろのサーナイトがリフレクターや光の壁のような防御系のワザで壁を作っていたのだろう。

「戻れ。 いけ、キュウコン」
 戦闘不能になったラグラージの代わりに出てきたのは、氷タイプの白いキュウコン(アローラの姿)だった。
「フリーズドライ!」
 草に対して抜群となる氷タイプのワザ、だがシルヴァディの体力を削りきるにはちょっと足りない。
(厄介なラグラージを倒した、まだ行けるはず)
 ラディがそう思った、その次の瞬間。

「げんきのかたまり! 蘇れ! ラグラージ!!」
「ちょ、いやっ 待って。そんなのあり?」
【ラディ、落ち着いて、復活系の道具が使用可能なのでアリです。 そもそもこのバトルは戦闘不能にした回数で数えるので、先ほどの戦闘不能にしたものはカウントされてます。問題ないです】
「ま、まあ そうか」
【2体目のラグラージを出してきた認識でいきましょう】
「そうね。 とりあえず戻って、バレットパンチ!」

 シルヴァディは対ラグラージのため温存するためにベンチに戻し、代わりに出したハッサムでバレットパンチを打ち込む。
 4倍弱点には敵わず、アローラのキュウコンは一撃で倒れる。
 代わりに出てくるのは……やはりラグラージだ。

「だくりゅう!」
「また来たよ」

 ここのだくりゅうはハッサムで受けて、すぐにシルヴァディへと入れ替える。
 同時にサフィールはカードを投擲する。

「何度でも倒してやる、マル」
「そうはさせない」

 サフィールが投げたカードは、黄土色の長いロープになりバトル場を一周する輪っかになった。
 このロープにラディは見覚えがあったが……本来の使い方はバトルで使うものではない。まさか、こんなものをバトルで使うなど、思いもしなかった。
「そんな……」
「帰ってもらう」

 お互いのバトルポケモンが一瞬でベンチへと帰還し、ラディのルカリオとサフィールのサーナイトが代わりに現れる。
 ロープの正体は――《あなぬけのひも》
 そのカードの効果は『お互いのバトルポケモンはベンチに戻り、代わりのポケモンをバトル場に出す』

「サイドチェンジ!」
 サフィールはその直後にサーナイトにサイドチェンジの指示を出した。

 怪盗乱麻のラディの十八番、サイドチェンジ。
 任意の対象と瞬間的に入れ替わるワザで、ラディはレイが使うこのワザでいままで数多くの建物に忍び込み、建物から脱出して怪盗としての仕事をこなしてきた。そして今回の仕事でもキュービとの対峙の際にサフィールと共に使っている。
 そのワザの強さ、――使い勝手はラディ自身がよくわかっていた。
 
 一瞬でサーナイトがサイドチェンジでラグラージと入れ替わり、一切の隙を与えずにラグラージが再びバトル場に舞い戻る。だくりゅうがルカリオとラディのベンチポケモン達にまた襲い掛かる。
 ラディはすぐにシルヴァディに目を向けるが、先ほどのだくりゅうのダメージでわずかに残してあった体力は0になっており、戦闘不能になっていた。
 仕方なくそのままルカリオで戦うが、サーナイトが展開していると思われる障壁が邪魔してうまくダメージを与えられない。
 たとえダメージを与えられても、この戦闘が始まってからずっと、サフィールは隙を見てラグラージを何度もベンチに下げ、サーナイトがいやしのはどうを使ってベンチで回復させながら戦っている。

 重いラグラージの体をあんなに俊敏に行き来させることができるのは、おそらくラグラージが所持しているホバーボード――ラディがカードで見たことがあるデザインだった。たしか名前は《エスケープボード》で、その効果は『持たせたポケモンの入れ替えをおこないやすくする』

 生半可なダメージではベンチに戻って回復されてしまう。
 持たせてあった《きあいのタスキ》は意味をなさなくなり《オボンのみ》もすでに無駄に使う羽目にあい。
 この状況を打開する手が……ラディには何も浮かばなかった。

 そんな停滞した盤面をみたスズは、意を決してラディに提案する。
【こうなったら、もう出し惜しみをしないでいきましょう。お節介かもしれませんが、これがここでの最後の戦いになりますし、とっておきをみせましょう! ラディ、インカムを外部出力に切り替えてください】
「え?」
 言われるがままにラディは、スズの声が外に聞こえるように切り替えた。

【UB-11Rey transform!! unit set arm OK. Go overley!!】

 スズの音声と共にツンデツンデのレイが分解して、グソクムシャの腕・足・胴・頭にそれぞれ装着されていく。
 パーツの一つ一つが装着するごとにガチャーンと音が鳴って光を放つ。

【やれ我こそはアロラ之地の猛将ぞ、出会え! 我らの『戦闘携帯』っ! king mid light(近未来)SAMURAI(サムライ)! Overleyd Golisopod perfect form!!】

 ギュギュイーンという派手なシステムエフェクト(スズが流している)と共に、グソクムシャはくるっとその場で半回転して右腕を高く上げるとレイの最後のパーツが日本刀のような形に変形し、それを掴んでかっこいいポーズを決める。
 サフィールは、すっごくいい笑顔で歓声をあげて拍手をした。

「どういうことなの」
【お節介ですみません、でも手持ちポケモン達がノリノリで自分たちの『戦闘携帯の口上』を考えてましたし、やらずに帰るのはあまりに不憫だと思いました。ポケモンを『道具』としてポケモンを装備させて戦うことが認められる公認レギュレーションなんてカードを用いるここくらいで、アローラに戻ると出来なくなりますし】
「え……………………そうなの?」
【…………は?】
「ポケモンを『道具』としての装備が認められるって」
【…………ま、まさか。知らなかったのですかっ?! クルルクはレイとの戦闘携帯の相性が抜群であることから「これは是非ともラディが行くべきだ!」と膝を叩いて、それが貴女のホウエン行きを強く推薦した理由の一つでしたよ。チュニンさんはともかく、ルビアさんは戦闘携帯を警戒してその対策を講じてましたので、てっきり私はその対策ゆえに、ラディは“あえて”使ってないものだと思ってました】
「警戒されてたの?!」
【あ、はい。 ではルビアさんの録音ファイルを再生しますね――『相手のポケモンや“道具”を二つまで使えないようにも出来てな?』――パラサイトGXにはレイの“道具”としての使用を封じる効果がありました】
「…………いや、ごめん」

 ラディとスズが言い合う中に、サフィールが「あの……」と口を挟む。
「第二形態はあるの?」
「ないよたぶん、そんなもの」
「分かった、じゃあ始めていいね」

 変身シーンがきちんと終わったことを確認したサフィールは、ラグラージにだくりゅうを指示する。
 ラディは、そのだくりゅうはまずルカリオに受けてもらうが、さすがにルカリオは体力の限界で戦闘不能になり、代わりにグソクムシャがおどりでる。

「であいがしら!!」

 全身を包む甲冑が妖しく輝き、ツンデツンデの『戦闘携帯』でアシストされたグソクムシャの、その一撃の威力は桁違いだった。
 カード風に説明をするならば、この特性はベンチにいるなら使える。このポケモンについているすべてのカードをトラッシュし、このポケモンを「ポケモンのどうぐ」として自分のポケモンにつける。このカードをつけているポケモンは、ステータスが大幅に上がる。だろう

 ポケモンの力を人間に分け与えて、人とポケモンがいっしょに戦う、アローラに伝わる決闘技術『戦闘携帯』とは違う、大勢の人々から愛されたカードシステムが加わった、ポケモンの力をポケモンに与えるもう一つの『戦闘携帯』、これにはバトルシャトレーヌ達も警戒せざるを得ない。

 ラグラージを包んでいる透明な障壁が薄いガラスを割るように脆く砕け散り、HPを一撃で葬り去った。
 ラディは小さく拳を握りしめる。
(これは……いけるかもしれない)
 わずかに見えてきた勝利への希望だった。


「かみなり」

 あたりが眩い閃光に包まれたと同時に、轟音。

 雨が降りしきる中で目が慣れると、新たにバトル場に出されたライボルトの目の前に、仁王立ちをして黒焦げで戦闘不能になるグソクムシャの姿があった。
 ツンデツンデを装備させて防御力は大幅に上がっていたが、ここまでの戦いで体力を削られ過ぎていたことはどうしようも無かった。
 ラディは落胆した顔で、スターミーをバトル場に出すと。
 サフィールは2つ目のげんきのかたまりで復活させたラグラージを再び繰り出す。

「スターミー、じこさいせい」
「だくりゅう!」
「ハッサム、はねやすめ」
「だくりゅう!」
「くっ……」
「だくりゅう!」

 ラディの残りのポケモンはスターミーとハッサムの2匹。
 あまいかおりの本来の効果でワザが当たりやすくなっているので、向こうのだくりゅうが外れるのを待つことはできないが。一撃で倒せる攻撃力は無いので、スターミーとハッサムがじこさいせいとはねやすめの回復を繰り返せば倒されることは無い。その間にこちらもげんきのかたまりなどを使って誰かを復活させれば勝機はある。
 が……

「…………」
 ラディには分かっていた。

 この勝負の行方はすでに分かっている。
 ラディはバトル場にいるたった一匹だけで戦っているに対して、サフィールはバトルポケモンとベンチポケモンと道具、自信が持っているすべてを余すことなく使って戦っている。
 あまいかおりで相手のポケモン6匹をすべて出させた上で、全体技を連打して6匹すべての体力を削りきる。
 こちらが不利ならば素早く入れ替え適切なサポートをしながら、相手が誰かを壁にして態勢を立て直すことを許さず、圧力を加えながら盤面をコントロールする。

 ラディは自分のポケモン一匹だけで戦い、サフィールはお互いの盤面で戦っているのだ。

 これがかつてカードで征した、チャンピオンの盤面支配。

 さらに言えば、ここまでの戦いでサフィールはGXワザを使っていない。
 どんなGXワザなのかは不明だが、このバトルではだくりゅうを10回以上使っているので、存在するのかは知らないがおそらく解放条件が10回を超える水のGXワザだと思われる。
 仮にこの状況を打破できることができても、やってくるGXワザに対処できる気力は……ラディには無かった。

「………………うん、わたしの負け」

 でも、次は負けない。必ず貴方を倒して見せる。また勝負をしよう。ラディの悔しさをかみしめた声が部屋に響く。
 それと同時に『対戦を終了します』というアナウンスが流れた。
 最終結果は3-2 サフィールはトロピウスとラグラージを2回倒されて、ラディはポリゴンZとシルヴァディとルカリオとグソクムシャを倒された。
 結果の数字だけを見れば互角の良い勝負だった。



 ◆  ◇  ◆  ◇  ◆  ◆  ◇



 試合場から出る最中に、スズがラディに話しかける。
【ところで、サフィールの衣装について調べてみましたら、面白いことが分かりましたよ。過去の映像と照合しますと20年前のバトルフロンティアで使われていたフロンティアアイドルの衣装と70%一致しました。初心者トレーナーとバトルする『はじめて教室』などで使われていたようですね、こうして現存していたことに驚きですが、それをサフィールにも着られるように仕立て直したようです】
「つまり、どういうこと?」
【キュービさん、つまり彼はお母さんの昔の衣装を着ているようです】
「え…………」
 ラディの血の気がサーっと引く。

 サフィールとキュービ、その親子の間におこった確執はいまさら語るまでもないが
 キュービさんはなぜ自らの呪いと破滅のシンボルであるフロンティアの遺産を手元に置いていたのか、何故それを子どもであるサフィールに渡したのか、それも手渡しただけではなく彼が着られるように仕立て直した上で渡している。
 サフィールも何を思ってそれを受け取り、何を思ってそれを着てこの勝負に挑んだのか。


 ――すべては推測するしかないが、ラディには少なくとも確かなことがあった。
 わたしはとても失礼なことを言ってしまって、謝らなればならないのだと!

「サフィールくん!」
「へ?」
 ラディは試合場から出てきた、奇天烈でフリフリの服――この後の彼がリゾートの一員として活動する際の候補として母親から渡された仮衣装――を着たサフィールを見つけると、彼の目先50cmのところまで顔を近づけて言う。
「さっきはごめん、その服装、すごくいいと思う!」
「え、え、え」
「かっこいいよ、似合ってる!」
「ア、アア、アア、ア、ありがとう」

 ほっとした幸せそうな表情を浮かべるラディと、
 突如、可愛い女の子にすぐ目の前で「かっこいい」と言われた10代半ばの男の子の反応するサフィールを見て、
 スズはあきれた声で呟く。

【怪盗が予告状も出してないのに、とんでもないものを盗んでいこうとしないでください】




 ポケカ風のバトルなので、ポケモンにポケモンを装備させる戦術が来るだろうと思っていました。
 サフィールくんの本気デッキは開始2ターン目からメガレックウザの大群がわらわらと押し寄せて集団リンチを繰り返す鬼畜デッキらしいので、彼は本気で戦ったわけではなくベンチという概念が存在するカードゲームの面白さを見せたくてこのパーティ構築にしたのだろうと思います。

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