「あー! また負けたー!」
静かな田舎の研究所に盛大な声が響き渡る。
「よし、これで俺の勝ちだな! このチップスは貰った!」
「うう〜……ホップの意地悪ぅ」
「でも勝負を持ちかけて来たのはユウリだぞ」
景品のチップスを頬張るホップ。それをじとっと眺めるユウリ。
事の発端はこうだ。
ホップが研究所で本を漁っていると、本の間から失くしていたポケモンカードを発見。久しぶりにポケカもいいなと思ったが、ソニアは出張で研究所にはホップ一人。そこに遊びに来たユウリ。その手にはお菓子のアソート。
「やっほー、ホップ。何持ってるの?」
「ユウリか。これ、本の間に挟まってたんだぞ」
そう言って、ホップは手に持ったカードをぴらっと見せてみた。ユウリの顔がぱあっと輝く。
「それ、失くしたって言ってたカードじゃん! 懐かしい。久しぶりにやりたいなあ」
「やるか? 俺は大歓迎だ!」
「でも私、デッキ持ってないよ」
「それがあるんだぞ!」
そう言って、ホップはザシアンのカードと失くしていたザマゼンタのカードを並べてニカッと笑って見せた。
「先に選んでいいぞ。俺には準備があるからな! えーと、マットと、ダメカンと……」
そうして、今に至る。
「ユウリってなんでポケカ弱いんだ? 実際のポケモン勝負だったら俺より強いのに」
チップスの最後一枚を口に放り込んで、ホップが言った。
「だって努力値とか個体値とか無いじゃん。全部その場でやらなきゃいけない。難しいよ」
「努力値……個体値……?」
「ああ、ごめん。こっちの話」
手をヒラヒラさせてお茶をすするユウリに、ホップはカップをぎゅっと握りしめて呟いた。
「ユウリ……お前、どこまで行っちまったんだ」
「ん? なんか言った?」
「何でもない! ユウリはどこまで行ってもユウリだもんな!」
「そりゃもちろん。どこまでも上を目指すユウリ様ですよ」
ユウリはそう言ってドヤっと胸を張った。それからニシシといたずらっ子のように笑うと、こっそりと言った。
「あのね。私、ワールドチャンピオンシップに挑戦するんだって」
「チャンピオン……? またトーナメントやるのか!?」
ワクワクと目を輝かせるホップ。だが、ユウリの表情は暗い。
「うん……でも、ホップは参加できないの」
時が凍りついた。
「それどころか、見ることも、いや、知ることすら出来ない、本来なら」
「なんで……どうしてだ?」
「主人公じゃ、ないから。この世界の外の、人じゃないから」
理解が、追いつかない。
ユウリが、外の世界から来た、人?
彼女いわく。
彼女を操るのは、この世界の外にいる「プレイヤー」という人物。ホップと勝負をしていたのも、トーナメントを勝ち進んだのも、ガラルを震撼させた大事件を治めたのも、「ユウリ」を通した「プレイヤー」なのだと。
「なんだよ……それ……。宇宙人じゃないかよ」
思わず口から漏れ出た言葉。ユウリは悲しく笑うと、何かに気づいたようにはっと顔を上げて
「ごめん。もう『プレイヤー』が来ちゃった。最後にレポートした所に戻っておかないと」
そう言ってユウリは去った。その後、来ることは二度となかった。ホップは激しく後悔した。だから、少しでもユウリの気配を感じた時は明るくこう言うことにした。
「ユウリ! 今日も勉強頑張ってるぞ! 大変だけど楽しいな!」