幼い少女たちは、とあるテレビを見ていた――。
『スカイバトルチャンピオンシップ決勝戦、勝者は……カントー地方、クチバシティのカケル!』
「ワーーーーーーッ!!!!」
「すごい……すごいよフウコ!」
「本当に……うちらもこんな大きな舞台に立ってみたいね……!」
テレビを見ていたのは、まだ9歳というトレーナーになれる年齢一歩手前のミソラと、小さい頃からの幼馴染であり親友でもあるフウコ。
放送していた「スカイバトル」とは、空を飛んでいるポケモンや宙に浮いているポケモンのみに参加資格がある、いわゆる空中戦でのバトル形式だ。
バトルマニアからの人気は高く、カントー地方からガラル地方まで、全国から参加者が集っている。
「スカイバトル……かっこいい……決めた。私、スカイバトルに参加できるくらい……ううん。優勝できるくらい、強いトレーナーになる」
「うちもうちも! その時は……ミソラとは『好敵手』になるのかな……」
「『好敵手』……」
好敵手。その響きにミソラは燃えるものがあった。
そう。ミソラとフウコとは家も近所で付き合いが長い関係だが、バトルをするという可能性があるということだ。
「その時は全力で戦うからよろしくね。フウコ!」
「うん!」
☆
――5年後。
「スカイバトルチャンピオンシップ、いよいよ決勝戦となりました! 最後に勝ち残ったのは……なんと史上初! 二人とも女性トレーナーです! カロス地方、ミアレシティのミソラ! そして同じくカロス地方、ミアレシティのフウコ!」
「ワーーーーッ!!!!」
『あの憧れ』から5年の月日が経ち、ミソラとフウコは14歳となり、お互いにスカイバトルに参加できるくらいのポケモントレーナーになっていた。
「久しぶりだね。フウコ」
「久しぶり、ミソラ! うちら、本当に『好敵手』になったんだね……」
「そうだね……」
あの日の言葉を思い出しながら懐かしむ二人。親友という立場だったが、この日だけはいつになく真剣な顔つきだ。
「悪いけど、今日だけは容赦しないから」
「こっちのセリフだよ。うち、ミソラと戦えるのワクワクしてたし、今もゾクゾクしてる!」
そう言ったあと、二人は丸型の機械に乗った。
これはスカイバトル専用の乗り物で、空中で自由に運転ができる。ポケモンに指示がが届きやすいようにスピーカーマイクも付いていて、強風の時も安心だ。
トレーナーが落ちないように足がしっかりと器具で固定されていて、かなり丈夫にできている。
『自動選出の結果、先攻はミソラ、後攻はフウコとなります。では……バトルスタート!』
解説者の合図とともに、バトルは始まった。
この勝負は一匹同士で戦うというルールとなっており、どちらかが倒れたら終わりの真剣な戦いだ。
「行って。ピジョット」
「ピジョーーーーッ!!」
ミソラが繰り出したのはピジョット。彼女がトレーナーになって初めて捕まえ、大切に育てたポケモンだ。
「うちも! 出ておいで、アーマーガア!」
「ガアーーーーッ!!」
「アーマーガア……!? ガラル地方のポケモン……!」
「うちのママがガラル出身でね! ワイルドエリアで捕まえた中の一匹をくれたの!」
そういうことか、とミソラは納得する。
アーマーガアははがねタイプでもある。ひこうタイプのわざは効きにくい。
ピジョットには少々不利な状況ではあるが、ミソラの表情は余裕だ。まるで何かを隠し持っているかのような……。
「まずは……ピジョット、『たつまき』!」
「ピジョーーッ!」
ものすごい風が吹き荒れる。この『たつまき』というわざは、空を飛んでいる状態だと通常より威力が大きくなるのだ。
「ガアッ!」
「やるねミソラ! でもうちらだって負けてないよ……! アーマーガア、『しっぺがえし』!」
「ガッ!」
「ピジョッ!? ピジョー!」
『しっぺがえし』は後攻でわざを繰り出すと、威力が2倍になる。しかも運悪くピジョットの急所に当たってしまったようだ。
「ピジョット! 大丈夫?」
「ピジョ……」
「うん。まだいける……」
『両者、互角の戦いですが、ピジョットがややダメージ数が大きいです! 半分近く体力が減らされています』
早くも厳しい状況ではあるが、ミソラの表情はまだ変わってない。
「私、まだ負ける気なんて……ないから。フウコにだけは『勝ちたい』って気持ちがすごくあるの。ここで立ち止まるのは……嫌だ」
そう言いながらポケットからヘアゴムを取り出し、風になびく長い髪を結ぶミソラ。どうやら、本気モードになったようだ。
「ミソラ……うちも本気だよ。全力でぶつかるから、覚悟して!」
フウコも真剣な顔で頷いた。
「……そう来なくっちゃね。ピジョット、にほんばれ」
「ピジョーッ!」
ここでピジョットが攻撃わざを使わないという手段に出た。日差しが強い状態になり、とても暑い。
『おーっと。ここで変化わざです。何を考えているのでしょうか?』
「おいおい……」
「なんでにほんばれ……」
この選択にはさすがに観客も疑問だった。フウコも首を傾げる。
「……? よく分からないけどまあいいわ。アーマーガア、ヘビーボンバー!」
「ガアーッ!」
アーマーガアは思い切りピジョットにぶつかった。このわざは、体重が重ければ重いほど威力が上がる。
『ピジョットの体力は残りわずか、大ピンチだ!』
瀕死寸前のピジョットだが、ミソラはまだ諦めていない様子だ。
「私は……このステージに立てるまで何回もスカイバトルの予選を受けて、負けた。ぶつかって、傷ついて……自信がなくなりそうな時もあったけど、それでも強くなって、ここまで来たの。これはとっておきの技だから、当たるか分からないけど……イチかバチか賭けるよ。ピジョット、『ねっぷう』!」
「ピジョー!!」
「ガアッ!? ガアーーーー!!」
「!?」
なんとピジョットは『ねっぷう』を繰り出した。命中率が低いわざだが、奇跡的にアーマーガアに当たり、一気に体力が0になった。
『なんとここでほのおタイプのわざです! 効果は抜群、そして……』
「ガア……」
『アーマーガア、戦闘不能です! よってスカイバトル決勝戦、勝者は……カロス地方、ミアレシティのミソラ!』
「や……やった……」
夢だったスカイバトルチャンピオンになれた。ミソラは涙と震えが止まらなかった。
「おめでとうミソラ! 悔しいけど……楽しかった! お疲れ様!」
地面に降り、早速フウコからハグされた。ミソラは急なハグに、思わず照れてしまう。
「ありがとう……。フウコと初めてバトルして、今まで以上に……私も楽しかった。こんなに胸が熱くなったのは久しぶりの感覚だったよ。またいつか、バトルしようね」
「うん! あと『ねっぷう』すごかったよ! あんな強力なわざ、どこで覚えさせたの?」
「何回も予選落ちしたあと、実はホウエン地方に修行に行ってたの。そこでわざを教えてもらったんだ。」
「すごいなあ……ねえ、終わったらご飯食べに行かない? 修行話とか、今までの旅の思い出聞きたーい!」
「もちろん。私たちは……好敵手で、親友だからね」
『今回のチャンピオン、ミソラに最高の拍手を!』
パチパチパチ……と、拍手喝采の音が響き渡る。
ミソラに渡されたチャンピオンメダルは、キラキラと輝いていた。そして彼女の笑顔は、メダル以上に最高の表情をしていたのだった……。
これで終わりではなく、更なる高みを目指して、もっと遠くへ。好敵手であるミソラとフウコの旅は、これからも続いて行く――。