変わらずのいし

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作者:みなと
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読了時間目安:11分

この作品は小説ポケモン図鑑企画の投稿作品です。

磯の香りが鼻を刺激するような湖の辺り。そこにはドロンチやドラパルトがドヤメシヤを世話をする小さな群れがあった。そんな小さな群れの中で僕は生まれた。
普通ドラメシヤはドロンチやドラパルトの上に乗って一緒に戦うことで成長していく。けど僕は頭の上に乗ることを殆どしなかった。誰かに頼らないで1匹で成長したい、そういう気持ちが強かったのだろう。そのせいでバトルで負けたりして他のドラメシヤより進化するのも遅かった。けどなんとかドロンチに進化した。そして僕は進化してからあることをやった。
群れから離れた。1匹でこの世界を見てみたいと思ったからだ。進化する前からずっと決めていたことだ。考えを変えるつもりはなかった。

ドロンチに進化すれば世話をするために頭の上にドラメシヤを乗せるようになる。もしドラメシヤがいなかったら他のポケモンを乗せようともする。僕らにとっての普通のことだった。けど僕は内心そう思っていても頑なにドラメシヤはおろか他のポケモンを乗せようとはしなかった。ずっと頭にポケモンを乗せなかったせいか、今となっては頭にポケモンを乗せないことに慣れてしまった。

ある日、森の中にたまごを見つけた。
緑の斑点がついたごく普通のたまご。群れで暮らしていた頃、ドラメシヤが生まれてきていたたまごも確かこんな模様だった気がする。しかしなぜこんなところにたまごが置かれているのか不思議だった。誰かが置きっぱなしにしたのかどうかは分からないが、無造作に置かれたそれを見てなんとも言い難い感情に襲われた。たまごに近付いた。そして気づいた時にはさっきまであったたまごが不思議にも僕の頭の上に乗っていた。あれだけポケモンを乗せようとしなかった僕だったが、恐らくだが捨てられたであろうそのたまごを見て内心にあった微かな母性が刺激されたのかもしれない。
僕はそのたまごを世話しようと、そう決めたのだった。

最初は頭の上から移動させようとはしなかった。若干平らじゃない頭部のせいで何度か落としそうになったこともあったがそれでも移動させようとはしなかった。けど寝る時だけは抱きかかえて寝ることにした。
そして数日が経った。昼間の日が森に差し込む頃、頭の上に乗せていたたまごがぶるぶると強く震えだした。そして殻の割れる音が頭上から響いた。たまごを手に取り、生まれてきたポケモンを見た。水のような皮膚にくるくると巻かれた尻尾、メッソンだ。たまごからメッソンが生まれたのだった。
最初にメッソンを見た時、その場に置いて何処かへ行こうかとも思った。けど離れようとすると涙目になって僕のことを見つめてきたのだった。意地張りの僕でも生まれたてのメッソンの涙目には母性が突き動かされてしまった。

それからというもの僕はメッソンの世話を見ることにした。今までドラメシヤを育てることさえしてこなかったから、どうやって世話をすればいいのか四苦八苦してしまった。けどドラメシヤの頃を思い出して一緒にポケモンと戦ったり、木の実を取りに行ったりしてドラメシヤを育てるかのようにメッソンを育てた。気づけば世界を見て回るというかつての夢はメッソンと過ごす日々に埋もれてしまっていた。
たまにメッソンを頭に乗せて空の旅を一緒に楽しんだりした。その時、初めて高いところに来たせいで怖がってしまったメッソンが頭から落っこちてしまったことがあった。身体を急旋回してなんとか地面に着く前に捕まえることができた。僕は危ないから一緒に空を飛ぶのは止めようとしたのだが、楽しかったからまた乗りたい!とメッソンが言ってきたのだった。だから本当偶に一緒に空の旅を楽しんだ。

ある時、メッソンが僕に向かってこう言ってきたのだった。
「お父さんみたいなかっこいいポケモンになりたい!」
それを聞いた時胸の辺りが痛くなるような感覚になった。僕とメッソンは種族が違う。僕のようなポケモンにメッソンが成れないことは僕でも知っていた。けど親に捨てられたであろうメッソンは僕のことを本当のお父さんだと思っているのだ。だからこそ、僕はこう答える他なかった。
「そっか、頑張ってね」
頑張っても僕と同じようなポケモンには成れない。そう分かっていたけど本当のことを言えなかった。メッソンを悲しませたくない、そういう気持ちが強かったのかもしれない。うん!と、返事をするメッソンの笑顔に思わず笑顔で返した。けど僕の心は雲が空を覆うかのような罪悪感に溺れていた。

それからまたしばらく経ったある時、散歩に行ったメッソンが帰ってこなかった。何かあったのかと思い心配して探しに行った。森や荒野、色んな所を探し回ったがメッソンは見当たらなかった。夜、川のほとりで涙目で縮こまっているメッソンを見つけた。どうやら探し物をしていたらしく気づいた時には辺りが夜になっていて怖くて動けなかったそうだ。僕を見るなり胸元にメッソンが飛び込んできた。よっぽど怖かったのだろう。最初はこんな時間まで1匹でいたことを叱ろうと思ったが、胸元で泣き噦るメッソンを見て怒る気が薄れてしまった。メッソンが落ち着いてきた頃、とあるものを僕にくれたのだった。
「…これは?」
「お父さんへのプレゼント!」
メッソンが苦労して取ってきてくれたそれは小さな丸っこい石ころだった。石にはネックレスのように首に付けられるように紐まで通してあった。特別な模様があるわけでも無いその辺で拾ってきたようななんら変哲のない灰色の石。けど何処と無く宝石のような、透明な水晶のような輝きがその石にはあった。
「ありがとう、大事にするよ」
首に掛けた石ころ。側から見たらただの石ころだが、僕にとってそれは特別な石ころのような気がした。その日から僕はその石ころを首にかけるようになった。

そしてまたしばらく経った頃、遂にメッソンがジメレオンに進化した。けど進化してもメッソンはメッソンのままだった。ちょっと臆病で僕のことを頼ってくれる。進化した時、彼はお父さんに近づいた!と言ってとても喜んでいた。けど僕は蔦が絡まったような気持ちだった。

ドラメシヤが進化してドロンチに成長したら、新しく育てるドラメシヤを頭に乗せることになる。進化したらこれ以上世話をすることはない。ドロンチが世話をするのは進化させるまでなのだ。
メッソンがジメレオンに進化した。けど僕の周りには新しく世話をするドラメシヤもいなければ世話をするようなポケモンすらいない。
餌の取り方、ポケモンとの戦い方等、ある程度1匹で生きていく上での知識も進化させる前から教えていた。僕はジメレオンから離れることにした。育てる前から決めていたことだ。それと僕の夢もまだ中途半端で止まっているから、夢を叶えるためにも、育てる前からそう決めていたのだった。

夜、ジメレオンがスヤスヤと眠っているのを見計らい、僕はジメレオンの元を離れていった。寂寥たる闇深い森を駆け、星の輝く夜空に向かって高く飛び上がった。
ジメレオンが僕がいなくなって寂しい思いをするのではないかとか、怖がって泣いてしまうんじゃないかとか、色々思うところはあったが、一度決めたことだ。考えを変えるつもりはなかった。

…手紙を残した。ポケモンだけが読める文字で書いた手紙。そこに僕との関係や離れる理由について書いた。彼がそれを読めるかどうかは分からないけど…。

それから僕は色んな場所を訪れた、人間達が暮らす大きな街や海が綺麗な孤島、誰も来ないような寂れた雪原など、色んな場所を巡っていった。この目で見る世界は何処までも美しく、そして何処までも広かった。ただそんな風景を見ている時でも首元で石ころが揺れる度、彼をことで胸が痛くなることもあった。

それから幾ばくか経った時のことだった。彼の元に戻ろうと思った。何処までも自分勝手で捻くれ者の僕でも、初めて育てた彼のことを忘れる事はできなかった。僕はあの森へと飛んでいった。
森を彷徨い、彼を探した。その時、僕は彼を見つけたのだった。僕より大きくなった身体。あの時のメッソンとは思えない程強く、そして逞しく成長していた。最初、茂みから出てきた僕に対して警戒している様子だった。指先の銃口を僕に向けていた。でもそんな彼に、僕はこう言った。
「もう頭に乗せてあげられないくらいになったね」
最初、彼は何のことだか分かっていない様子だった。しかし、僕のその言葉と首元に揺れる懐かしくもある石ころを見て思い出してくれたようだった。
「もしかして、おとうさん…?」
あの頃を思わせないような大人びた話し方。見た目だけで無く話し方も大分成長していた様子だった。そんな彼に向かって、ただ一言だけ、こう言った。
「うん、ただいま」
「…もう二度と、会えないと…思ってました…」
小さく鼻を啜る声が聞こえた。月に反射して一瞬だけ光るものが彼の頬をつたっていた。
「僕のこと、怒ってる…?」
あの時、勝手に離れていってしまったことを、彼がどう思っていたのか。それを直接聞きたかった。寂しかったのか、怖かったのか…それとも僕に対して怒ったのか…。
彼は何も言わなかった。
「…いえ、けどすごく怖かったし、寂しくもありました。だから、これからは、一緒にいてほしいです。…だめ…かな?お義父さん」
最初から、ここにくると決めたときから、僕の中ではそう決めていた。あとは彼の答えのみだった。彼がどうしたいのか、それだけだった。
「うん、もちろん」
今度は見捨てて何処かへ行ったりはしない。ずっと彼と過ごそうと、離れた分まで彼に寄り添ってあげようと、僕はそう決めた。もう考えを変える事はない。

あの頃のように抱えてあげる事はもう出来なくなった。代わりに今は僕が彼に抱えられている。なんだか僕の方が子どもっぽい感じもした。けど、久しぶりに触れた彼の身体はとても懐かしさを感じるような暖かさがあった。子供の頃を思い出させるような、そんな感じの暖かさだった。石はいつもと変わらない様子で僕の首元でゆらゆらと揺れていた。







「その石、まだ捨てないんですか?」
「思い出が詰まってるから、たとえ進化出来なかろうが捨てる気は無いね」
「……フフ、何処までもいじっぱりなんですね、お義父さんって」

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