レフィ探偵の事件簿 迷宮特急編

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作者:獣卵
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読了時間目安:32分

この作品には残酷表現があります。苦手な方は注意してください

気にしてはいけない事
⚠︎ポケモンのサイズ(デカくても2、3mだと思ってください)
⚠︎ポケモンじゃなくてよくね?(ポケモンしか書きたくないんです)
⚠︎多分続かないから短編です
 生まれた頃から、僕はずっと災難に巻き込まれっぱなしだ。今回は、最早才能とも呼べる程のその体質がもたらした寝台特急でのお話……

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〈迷宮特急〉

 寝台特急ライズ、七両編成のトーキョーとイズモを結ぶ数少ない寝台特急、そこに僕ことエーフィのレフィは相棒のミュウ、ミルと一緒にイズモからトーキョーへと向かっていた。一度乗ってしまえば、ノンストップで目的地まで向かうこの寝台特急では、何となく他の乗客の事が気になってしまう訳で。そういう訳で、僕は食堂車でコーヒーを嗜みながら、乗客の様子を伺っていた。
 まずは僕が座っている席とは真反対に位置する席に座っているデリバード。デリバードは机の上にカメラを置いて、懇切丁寧に拭いている。見た限り、あのカメラは何十万もする高いカメラだ。恐らく、何か風景でも撮るためにこの寝台特急に乗ったのだろう。あるいは、その帰りか。
 次に、カウンターに座るニューラとウソッキー。多分彼等は知り合いでも何でもないだろう。その証拠に、席を二つ空けて座っている。お互い見向きもしていないし、これで知り合いだったなら喧嘩中なんだろう。
 喧嘩中と言えば、先程から険悪な雰囲気を感じるのが僕の席の向かい側に座るノクタスとキレイハナ。ノクタスの方は先程から苛立たちそうに机をコツコツと叩き、憮然とした表情で座っている。時折舌打ちもして、見るからに不機嫌そうだ。そのノクタスをビクビクとしながらキレイハナは様子を伺っている。何が原因でああなったのか知らないけど、見ていてあまり気分が良いものではない。とはいえ、彼等が家族が彼氏彼女の関係かは分からないけど不用意に首を突っ込む訳にはいかない。ただでさえそうしなくても巻き込まれるのに。
 そして最後に僕の背後に座るサンダースとブラッキー。サンダースが一方的に喋って、ブラッキーは適当に相槌を打っている。彼等は一体どんな関係性なのか、まぁ友達なんだろうけど。
 こんな感じだろう。これが今回の僕の旅を共にする乗客だ。何事も無ければいいけど……
 と、思った矢先に食堂車に大きな音が響く。先程の暗雲が立ち込めるノクタス達の、ノクタスの方が机を叩いたみたいだ。

「じゃあお前は俺に死ねって言うのか!?」
「ち、違うよ!私はもっとしっかり将来の事を考えて……」
「うるせぇ!!」

 ノクタスが机を蹴る。固定式な為、机は動かなかったがそれでもあの勢いで蹴れば壊れてしまう。ノクタスの怒りに完全にキレイハナは萎縮してしまっている。他の乗客もなんだなんだと遠巻きに様子を伺っている。

「俺がどんだけ苦労してきたか分かっているのか!?」
「うぅ……」
「ちょいとアンタ」

 誰しもが割り込むのに躊躇してしまいそうな二匹の間に、カウンターで食事を取っていたニューラが割り込んだ。非常に凄い勇気だ。

「あぁ!?なんだお前!」
「さっきから話を聞いてりゃ、アンタ自分勝手や過ぎないかい?そこの彼女さんはアンタの為を思って色々言ってくれてるのに、それをアンタはでもだのけどだの、しまいには逆ギレかい?情けないねぇ」
「お前には関係ねえだろ!これは俺とピュレとの問題だろうが!」

 成る程、やはり二匹は彼氏彼女の関係か。そしてニューラはカウンターから彼等の話を盗み聞きをしていたと。確かにニューラの座る席からは彼等の話はよく聞こえそうだ。

「確かに関係無いかもしれないけれど、その無関係の奴等が他にもいるこの場所でそう騒がれちゃあ、関係無いですって貫ける訳ないだろう?」
「さっきからゴタゴタと……うるせぇんだよ!」

 怒りの限界点を迎えたノクタスはニューラに向かって拳を振り下ろす。やれやれ、短気な奴だ。

「なっ!?」
「ん……?」

 しかし、その拳をミルが受け止める。そしてゆっくりと拳を下させ、僕は彼等に近付く。

「流石に暴力は見逃せませんよ……。ナイスだ、ミル」
「♪」

 ミルは嬉しそうな表情を浮かべ、ビュンビュンと宙を舞った後、僕の頭の上に乗る。ここがミルの定位置だ。

「へぇ、アタシだけでもなんとかなったけど、助かったよ。ミル、だっけ?」
「♪」
「さてと、貴方達に何があったのかは知りませんけど、ここは食堂車です。騒ぐようなら他所でやってくれますか?」
「……ッチ」
「ああ!クータ君!」

 興が削がれたのか、クータと呼ばれたノクタスは舌打ちをして食堂車から出ていく。それをピュレという名前のキレイハナが追いかける。ピュレは食堂車から出る時に、僕達に一礼をして出ていった。正直に言うと、今の彼等を二匹っきりにするのは心配なんだけど、そこまで割り込むのは野暮というかお節介が過ぎるというか……

「アイツら心配だね、アタシが様子を伺ってくるよ」

 しかしこのニューラはそうじゃないのか、彼等の後を追いかける。まぁ、ここからは個々の問題だろうし、僕は僕で食事を取る事にしよう。そう思って席に戻ると、何故か僕が先程まで座っていた席の机を挟んで向かい側にサンダースが座っていた。

「自分、凄いなぁ!」
「……貴方誰です?」
「ワイの名前はリース!ブラッキーのラキと一緒に色んな場所を旅しとるんや!それにしてもその子ミルって言うん?すっごい力やねぇ!」
「♪♪♪」
「……ありがとうって言ってます」
「なんや、その子喋られへんの?でも可愛いのぉ〜、青色の身体が綺麗やわ!そんでえっと……」
「僕はレフィです」
「レフィか!レフィの身体も緑色でいいコンビやんか、名付けてブルーグリーンコンビやな!」
「その呼ばれ方は初めてですね……」

 こうやってグイグイ距離を近付けてくる奴も今までいなかった訳じゃないけど、もれなく事件に巻き込まれて……という結末を辿っているので恐らく彼も僕のせいで事件に巻き込まれて酷い目に遭うんだろうな、なんて思っている。伝えはしないけど。
 リースは余程僕達に興味を持ったのか、一方的にベラベラと喋っている。正直に言うとウザい。だが、今までの経験上こういう輩は大体被害者ポジションに収まりやすいのだ。最早この後に事件が起きる事を前提で話しているけど、それが僕の体質であり、才能であり、呪いだからね。このリースが何か被害を受ける前にまぁ冥土の土産って訳じゃないけど好きにさせてあげようっていうのが僕の考えだ。

「……御馳走様」
「おっ、ラキも食事終わったん?ほな、ワイらはここらで失礼するわ!楽しかったで!」
「……リースが御迷惑おかけしました」
「いえいえ」

 無表情で感情が読み取りにくいけど、ラキの方は常識的だと見た。破天荒なリースと冷静なラキ、組み合わせ的には真反対だけど、ああいう組み合わせだからこそ意外と仲良いっていうのはあるよね。
 さて、僕としてもずっと食堂車にいるつもりはない。食事を終えたらさっさと自分の部屋に戻るとしよう。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 この寝台特急は七両編成とはいったけど、その構成は1両目は運転席、及び車掌さん達の部屋。ここは乗客である僕達には関係ない場所だ。そして二両目が食堂車、食事はここか自分の部屋で食べる事になっている。三両目から七両目は全て個室、ただし三両目はワンランク上の個室となっていて、一両に二部屋しかない。他は一両に四部屋あるから、単純計算で約二倍の広さがあるという事だ。
 僕とミルの部屋は三両目、つまりちょっとお高い部屋って訳だ。お値段も普通より割増だけどとある事情から僕には関係ない。ともかく、普通の部屋より広いこの部屋のベッドで跳ねて遊んでいるミルを横目に、僕は本を読んでいた。ありふれた推理小説だ、寝台特急で起きた殺ポケ事件を解決していくお話。寝台特急っていうのが今の僕の状況とマッチしていてなんとも言い難い気分だけれど。

「?」
「……どうしたの、ミル?」
「??」
「部屋の前で話し声が聞こえる?誰だろう?」

 跳ねて遊んでいたミルが突然部屋の扉の方を向いて、不思議そうな表情を浮かべた。僕はそれを受けて、読んでいた本を閉じて部屋の扉を開けた。

「ん?」
「あっ……こんにちは」

 部屋の前にはピュレと、先程ピュレ達の間に入ったニューラが立っていた。ミルが聞いた話し声は彼女達のものだろう。

「どうかしたんですか?」
「いえ……実はクータ君が部屋の鍵を持ったまま私を追い出しちゃって……」
「全く酷い話だよ、自分の機嫌が悪いからってねぇ?アタシも部屋の扉を叩いて文句を言ってやったんだけどなーんも反応示しやがらない」
「……だから鍵持ってないので、部屋に入れなくて……」
「しょうがないからアタシの部屋に来なよって話してたんだ。ま、アタシにも原因がないって訳じゃないしそれくらいは構やしないと思ってね。……いや、アンタにも原因があるね。それにアンタのその部屋広いようだし……って思ったけど駄目だね、アンタは男、ピュレは一応とはいえ彼氏がいるからね」

 若干内心ドキドキしたけど、部屋に泊めろっていう展開にならないでよかった。

「部屋の前で立ち話して悪かったね。もしアンタがクータって野郎に会ったらピュレはアタシの部屋にいるって伝えてやってくれよ。アタシの部屋は四両目の五両目寄りの端っこだ、よろしく頼むよ」
「まぁ、それくらいなら良いですけど……えっと、名前は?」
「アタシはニル、アンタは?」
「僕はレフィです、会ったら伝えときますね」
「おう、頼んだよ。ふわぁ……何か眠くなってきたね」
「それじゃあ、お願いします」

 言伝を預かって僕は部屋に戻る。ミルはベッドで跳ねるのが飽きたのか僕の読んでいた本をバラバラとめくっている。

「あーあー、ページが分からなくなっちゃったじゃないか……」
「♪」
「そんな可愛い顔しても駄目」

 こういう悪戯っ子な側面があるんだよね。全く困ったものだ。




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




 その日は何も起きる事なく、寝台特急の中で一日を過ごした。この寝台特急は夜の十時から朝の六時頃までは徐行運転をする為、そこまでトーキョーに近付いていない。僕は身体を伸ばして部屋から出る。部屋から出ると、早速僕はリースと出会った。

「おっ、おはようさん!自分も朝飯かいな、一緒に食わん?」
「別に構わないけど……君のお友達は?」
「ああ、ラキの奴朝弱いねん。せやから部屋で寝とるんとちゃう?まぁ、ワイとラキの部屋、ラキが絶対同室は嫌って言うたから別々なんやけどね」
「へぇ……」

 僕達は食堂車へと向かう途中、他愛もない会話していた。しかし、それは突然聞こえた大きな悲鳴によって、掻き消されてしまった。

「きゃああああああ!!!!」
「な、なんや!?」
「向こうの方だ!」

 悲鳴が聞こえるやいなや、僕は悲鳴の聞こえた食堂車とは反対の方向にむかって走り出した。四両目、五両目、六両目と何も問題が無い中、最後尾の七両目、この寝台特急の一番端の部屋の前で、青い顔をしたニルと、腰を抜かして震えているピュレを発見した。

「どうしました!?」
「クータ君が……クータ君が……クータ君が!!」

 ピュレは必死に何かを伝えようとしているが二の句を継げない様子だ。ニルの方も部屋の中をただ見つめたまま突っ立っている。
 ふと、僕は部屋の扉が開いていて中の様子を見れる事に気付いた。そして、僕は再び自分が事件に巻き込まれた事に気が付いた。

 クータが、ベッドの上で胸にナイフを突き立てられ倒れていたのだ。

「どないしたん……って、死んでもうてるがな!?」
「……リース、今すぐ車掌さんを呼んでほしい。そして乗客全員を食堂車に集めるように」
「な、なんかよく分からんけど分かったわ!」

 リースは少し青ざめながらも車掌に事の顛末を話すべく、駆け出した。僕はニルの方に振り向き、肩を持って顔を合わせた。

「ニルさん、大丈夫ですか?」
「あ、ああ……何とか……だが、ピュレの方は……」
「ええ……しかしここにいても酷です、ピュレさんを連れて食堂車に行ってもらえますか?」
「アンタは……どうするんだい?」
「僕はちょっと調べますよ、大丈夫です。自慢すべき事じゃないですけど、慣れてるんで」

 ニルはコクリと頷き、ピュレに肩を貸して食堂車へと向かっていく。
 さて、と。再三言っているけど僕はよく事件に巻き込まれる体質なんだ。殺ポケ事件だって例外じゃなく、何度も巻き込まれてきた。だから言っちゃ悪いけどこんな事で動じたりはしないんだ。そんな僕が次にやる事はこの事件の謎を解く事。まぁ実際は警察やらその筋の方に任せるべきなんだろうけど、何というか事件にこんなに巻き込まれるなら自分で解決出来るならしてみようって思ったのが百回目くらいの事件の時、それからずっと事件に巻き込まれては解決するを繰り返している。
 という事で現場検証だ。

「ミル」
「〜♪」

 ミルはカメラを出して、至る場所を撮り始めた。まぁ、こうやって犯行がバレた後で証拠隠滅を図ろうとする犯ポケもいるもんで、それの抑止力にもなる。
 ミルが写真を撮っている間、僕はクータに近付く。完全に息絶えている。僕は合掌をし、クータとクータの周辺を調べ始める。
 まずクータの遺体だが、胸にナイフが突き刺さっている。クータ、というかノクタンの心臓の位置だ。ここにナイフであっても突き刺されたら、ひとたまりもないだろう。このナイフ自体は恐らく部屋に備え付けられていた金属製の物だ。これを胸に刺されてクータは死んだと見るのが妥当だろう。
 ベッドの上で倒れているという事は、寝ている所を刺されたと見るべきだ。現に、暴れたような痕跡もなく、油断している所にザクリ……その場合はピュレが一番候補として挙げられる。だが昨日クータは部屋に閉じ籠もっていた筈だ、もしかしたら夜にピュレが戻れたのかもしれないが、発見した時の状況を考えるとそれは考えにくい。まぁこれは後でピュレ達に話を聞けばいいだろう。

「?」
「ん?」
「?」
「シャワールームが湿ってる?」

 部屋にはシャワールームが備え付けられているが、ミルの表情通りこの部屋のシャワールームは若干湿っている。つまりこのクータは先程まで生きていた?しかしその場合解けない謎がある、それは後程に話すとするか。

「うわああああ!?」

 現場検証を進めていると、リースに呼ばれたのであろうマラカッチの車掌さんが来た。

「あ、車掌さんいらっしゃいましたか」
「こ、これはどういう事ですか!?」
「見ての通りですよ、殺ポケ事件です。僕は勝手ながらこの事件を調べさせてもらってます」
「か、勝手って貴方……」
「まぁまぁ……こういう事態には慣れっこなんですよ。時に車掌さん、この寝台特急はちゃんとMCSは入ってますか?」
「そりゃあMCSは……常時作動してますけど……」

 MCS、Move Cancel Systemと呼ばれる主に電車が飛行機、後は博物館等に搭載されているポケモンがその場所で技や、あとはメッソンの透明化能力のようなそのポケモン固有の能力を使えない様にされるシステムだ。だから僕もエスパーの力は使えないって訳。流石にミルのような常時浮遊している子の能力は封じ込まれないけども。しかし、それを無効化するシステムを使って悪さする奴もいる事もある。少なくとも、そうでない限り技を使っての事件では無いという事だ。
 さて、大体は調べ終わった。ミルも写真を撮り終えて暇そうにしているし、食堂車に向かって皆の話を聞こう。



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 食堂車には僕がお願いしていた通り、全員が集まっていた。何が起きたのか分からないといった顔、青ざめて俯いている顔、心配そうに辺りを見渡す顔、色んな表情があるけど、僕はそんな皆に向けて言い放った。

「さて、皆さん深夜一時から三時のアリバイをお教えいただけますか?」

 皆の顔が僕に向く。

「何言うとるんや、自分……アリバイって、ここに犯ポケがいるみたいな言い方やな」
「事実ですからね。この寝台特急はイズモからトーキョーまでノンストップの言わば動く密室ですからね。ここで起きた犯行はここにいる誰かの仕業という事です」
「……じゃあ貴方、とその上の子の可能性もあるって事だよね」
「それは無いです」
「アンタ……それはちょっと横暴すぎやしないかい?」
「横暴も何も事実ですからね」
「あ、あのぉ〜……」

 今まで黙っていたデリバードがおずおずと手を上げた。

「貴方って……今までいくつもの事件を解いてきたレフィさん……ですよね?」
「おお、知ってる方がいましたか」
「なんだい、アンタ有名なのかい?」
「主に警察辺りですね、僕は事件に巻き込まれやすい体質なんですよ」
「…………難儀な体質なんやな」
「僕と同じ電車に乗り合わせたのは貴方達の唯一の不幸ですが、この僕がバシッと事件を解決してみせましょう。……ま、犯ポケにとっては不幸ですけどね」
「じゃあ犯ポケが誰か分かっとるんか!?」
「あほ、まだ分かんないからアリバイ聞いてるんだろう?それでなんでそんな時間なんだい?」
「大体の死亡推定時刻は割り出せますからね、経験の為せる技です」
「……じゃあ、クータ君は……その時間に殺されたと……?」
「見るべきでしょうね、という事でお教えいただけますか?」

 なんとなく納得がいったのか、全員がそれぞれのアリバイを語り始める。

「アタシは寝てたね、勿論ピュレと一緒だ。起きてとりあえずクータの野郎の部屋に行ってみようって事でアタシがついていったんだ」
「待ってください、ちょっと聞きたいんですが、部屋の扉って開いてたんですか?」
「開いてた……ね、何度かノックしても反応しないもんだから試しに開けてみたら開いていたよ、なぁ?」
「はい……そしたら……クータ君が……」

 成る程、じゃあ密室ではなかった訳だ。しかしそうなるとクータが犯ポケを招き入れたか、あるいはこの部屋の鍵を開ける手段を持っていたか、あるいはクータが鍵をし忘れたか、という事になる。前者の場合だと、クータが招き入れるのはピュレくらいしかいないと思うんだけど……ニルと一緒の部屋で寝ていたというのはアリバイにするには弱い。

「ワイらはそれぞれの部屋にいたんやけど、一時半くらいにラキの部屋におったで。んで二時になったら自分の部屋に戻ったわ!」
「……リースの言ってる事は正しいよ」
「所で、君たちの部屋は何処なの?」
「ワイが六両目の食堂車に近い方から二番目でラキは五両目の食堂車に近い方の端やな!それと行きも帰りもあのデリバード、バード言うらしいねんけどアイツと会ったで。ずっと写真撮っとったで」
「ふーん、ありがとう」

 実質彼等にアリバイがあるのは一時半から二時までの間という訳かな。リースの言う事を確かめるべく、バードっていうらしいデリバードにもそこんところの話を聞かなきゃね。
 僕が考え込んでいると、僕の耳元にリースが囁いてきた。

「……と、言うよりよ……言っちゃ悪いねんけど犯ポケあのキレイハナちゃうん……?ワイらにはあいつを殺す動機なんか無いやんか……?」
「……廊下ですれ違いざまに舌打ちされた」
「え?」
「これを理由に殺ポケした奴を僕は見た事がある。動機があるから事件は起きるけど、動機の強さに事件の残虐性は関係ないってのが僕の持論でね」
「そ、そうなんか……ま、まぁワイは犯ポケちゃうからな!ラキもちゃうで!」

 そう言ってリースはとっととラキの下へ戻っていく。そう、僕はピュレとクータが関係を持っていて尚且つ険悪な雰囲気だったからピュレが怪しい……なんて考えはしないんだ。そんな凝り固まった考えは何度も事件に巻き込まれたら馬鹿馬鹿しいものだって気付くよ。

「それで、えっとバードさんで大丈夫ですか?貴方のアリバイは?」
「私は……日付変わった頃から朝の五時までずっと五両目で写真を撮っていました」
「……?何の為に?」
「よくぞ聞いてくれました!実はこの寝台特急のその時間にミラージュマウンテンと呼ばれるものが見れるんですよ!徐行運転してるのもありますけど、五時間ずっと見れるなんて凄い山ですよねぇ!」
「そ、そうですか……えっと、その写真を見せて貰う事は出来ますか?」
「ええ、いいですよ」

 バードはカメラロールを僕に見せる。何千枚も写真が撮られてるが、山の写真ばかりだ。撮った時間もバードの言う通り0時から五時の間だ。

「この一時半頃に撮った写真はブレてますけど……?」
「ああ、その写真ですね。実は私その時間に殺されたクータさんに出会ってるんですよ。撮ろうと思った瞬間に突き飛ばされまして……」
「それで、その後は?」
「クータさんは食堂車の方に向かっていきましたよ。その数分後戻って自分の部屋に戻っていきました」
「……成る程。ああ、あとリースさんに出会いましたか?」
「ええ、大体クータさんと入れ替わりになる形で。写真撮っているのを見て“ワイを撮ってくれへんか”っていうもんで一枚撮ってあげましたよ。あと二時頃にも再び」
「ありがとうございます」

 という事はクータは大体一時半頃までは生きていたという事になる。そしてこのバードのアリバイは写真の記録を見たらアリバイとしては十分だろう。写真を撮る位置を変えている様子も無いからね。リースの言ってた事も嘘じゃない事が証明されたね。
 そして、このバードがずっと五両目の廊下いたという事は……四両目から前の号車にいる者は全員バードに会うって事だ。だが、バードはクータとリースにしか出会っていないと……

「車掌さんにも話を伺ってもいいですか?」
「え、ええ……何か?」
「車掌さんはこの寝台特急の個室の部屋を自由に出入り出来ますか?」
「まぁいざという時の為にマスターキーがありますので……ただずっと運転手といましたよ。それに一両目と二両目の間には監視カメラがあるので、盗み出す事も不可能ですね」
「ふむふむ……」
「あ、すまんちょっとええか?」

 僕が車掌さんと話している時にリースが割り込んできた。

「深夜の二時半頃にな、ワイの部屋の天井からドンって音が聞こえたんやけどなんか落ちてきてへんか?」
「それは本当ですか?後で登って調べてみますね」
「……登れるんですか?」
「ええ、それぞれの車両の外側の端に梯子がついているので。ただ危ないので停止中のみとなります」
「なんか石でも降ってきたんかなぁ、怖いわぁ」

 まぁ、一応覚えておこう。次は皆の持ち物検査だ。皆の持ち物をそれぞれの机に出させる。ちなみに、その間にミルは車掌さんと一緒に他の乗客の部屋を調べてもらっている。

「ふむ……ピュレさん、この薬は?」
「それは……持病の薬です。私、心臓が悪くて……」
「成る程、他には財布等、MCSを無効化するような類のものはないですね」
「そんなんあるんか?」
「まぁ、MCSを無効化する機械作るとそれを無効化するMCSが現れて……っていうオタチごっこですけどね、今ミルに貴方達の部屋含めてチェックしてもらってますが、そういう物が無かった場合はこの犯行は技が使えないという事は分かります」

 そこへ丁度ミルが戻ってきて、めぼしい物は何も無かったと言わんばかりの表情を見せた。

「ふむ、どうやらそう見たいですね。つまり今回の犯行は技や能力の類いが使われていないという事です。それだったら推理は楽ですね」

 なんたって技や能力を考慮しなくていいからね。言ってしまえば瞬間移動を使って犯行した、とかも考慮しなきゃいけなくなるからね。
 さて、大体話終わったかな。とりあえず、まとめてみようか。

死亡推定時刻は一時半から三時頃
殺害場所は寝台特急ライズの七両目の一番端の部屋
死因は刺殺。暴れたような形跡はなく、恐らく被害者は寝ている所を刺されて即死したとみられる
凶器は部屋に備え付けられていたナイフ
バードは0時から五時までの間、五両目でずっと写真を撮っていた。一時半頃にクータと出会い、入れ替わる形でリースと出会う。リースとは二時頃にも再び出会った。
リースは一時半くらいに自分の部屋(六両目)からラキの部屋(五両目)へと向かった。バードとの証言とも、ラキとの証言とも食い違いはない。
ニルはピュレと一緒に部屋(四両目)で寝ていた。

 と、こんな感じかな。

「……とりあえず、先に申し上げておきますね」
「なんや?」
「僕は動機とかそういうのでこいつが犯ポケじゃないかと考えません。今回の被害者であるクータさんの彼女、ピュレさんはこの中で一番動機があると言えます。ですが、僕はそれでピュレさんを疑う事はしません。あくまで現場の状況、アリバイ、そういった事を考慮した上で推理をします」
「それは殊勝な心構えだ事、それも経験が培った考えかい?」
「ま、そういう事になります。さて、そういうのを踏まえた上で犯ポケは……」

 僕はゆっくりと犯ポケを前足で指す。

「貴方です、ピュレさん」
「……いや、王道やないかい!てっきり別の奴かと思ったわ!」
「そうですね、状況だけ見ると貴方が怪し過ぎますからね。だって0時から五時まで五両目で写真を撮っていたって事は……全員の部屋の場所的に貴方以外はバードさんと会わなきゃいけなくなるんですよ」
「そ、そうですよ……!バードさんがそこにいた以上、私はクータ君の部屋には行けません!それに私はニルさんの部屋にいたんですよ!?」
「そうだね、アタシはピュレと一緒にいた。これは十分なアリバイじゃないのかい?」

 ピュレさんは必死に弁明をし、ニルさんはそれを庇う形で同意する。

「そうですね、ではニルさん。貴方は起きてましたか?」
「…………!」
「貴方と別れる直前、ニルさん。貴方は眠くなってきたと仰っていましたね?それは即ち、貴方が部屋に戻り寝ていた事が容易に想像出来ます」
「だ、だが私は自分で言うのもなんだが眠りは浅い方でね。ピュレが何かしらの方法で犯行したとしても、無音で出ていき無音で帰ってくるなんて出来るのかい?それはリスキー過ぎないかい?」
「だから使ったんでしょうね、睡眠薬」
「……睡眠薬?そんな物、どこにも無かった……っ!!」

 ニルさんは何が得心がいったかのような顔で、先程ピュレさんが心臓の為の薬といった袋を見る。

「ピュレさん、貴方は心臓が弱い、と言いましたけど……そんな方が自身の彼氏であるクータさんの遺体を見て何も発作が起きないんですか?ましてやこの電車中に聞こえる悲鳴を上げたくらいなのに」
「そ、そんなの……」
「それともう一つ、ニルさんに確認したい事が。ニルさんはピュレさんに何か淹れてもらったとかしました?」
「アンタと出会う前……食堂車で紅茶を淹れてもらったよ……」
「ビンゴ、十中八九そこに睡眠薬を盛られましたね。そうやってニルさんを睡眠薬で深い眠りにつかせて、自分はその隙に犯行を行なった訳です」
「もしそうだとしても!バードさんがいた以上、私はクータ君の部屋に向かえないですよ!!」
「そう、そこですね。だから貴方はこの電車の天井を伝って、クータさんの部屋に向かった」
「っ……それだったら、そこのブラッキーさんにも犯行が可能じゃないですか?」
「残念だけど、クータさんを最後に見かけた一時半からはブラッキー、ラキさんの部屋にはリースさんが訪れていたんですよ。だからラキさんには犯行は不可能です。そして、もし訪れてなかったとしても、部屋の場所的にもそれは難しいんです」
「……部屋の、場所?」
「車掌さんが言ってましたね、各車両の外側の端の部分に梯子がついていると。窓から出てそれを使えば天井には行けます。ただ、それは自分の部屋が車両の隅の部屋である必要性があります。そして、偶然にもクータさんの部屋も、ニルさんの部屋も端っこです。そしてニルさんは睡眠薬で寝ていた訳ですから、天井を伝ってクータさんの部屋に行けたのは貴方だけなんですよ」
「あっ、じゃあワイが聞いた天井からの音は……」
「恐らく転んでしまったか何かでしょう。いくら徐行中とはいえ、動いている電車の天井を伝っている訳ですからね。そして、天井を伝ってクータさんの部屋に向かった貴方は、ベッドに上で寝ているクータさんを刺し殺した、と。彼氏彼女であれば、どれくらいの時間に寝るかも何となく分かると思いますしね。ミルに撮ってもらった写真をみてみると、クータさんの部屋の窓の鍵は開きっぱなしですし。どうですか、これでも認めませんか?」
「…………まだです、その、リースって方はバードさんと出会わずにクータ君の部屋に行けますよね?それに、クータ君とすれ違いでバードさんに出会ったって事は、一瞬とはいえ犯行が可能じゃないですか。例えば廊下で何か一悶着起こしてリースさんが刺し殺した、とか……」
「それは単純な話です。もしそうだと仮定すると、血痕に説明が付きません。当たり前ですけど、リースさんはクータさんの部屋の扉は開けられません。ですから廊下以外に、部屋を訪れてクータさんが部屋の扉を開けたとしても、ベッド周り以外に血痕が見つけられなかったのはおかしい話です。だから……犯ポケは貴方なんですよ」
「………………」

 ピュレさんは崩れ落ちて顔を覆う。ニルさんは神妙そうな顔でそれを見つめる。

「……やっぱり、限界だったのかい……?」
「………………はい。毎日の様に、罵詈雑言、暴力の嵐……精神を病んで睡眠薬を処方してもらっても、スッキリ寝付ける日は無くて……」
「そうだとしても、貴方は取ってはいけない最悪の選択肢を選んでしまった。ニルさんは貴方の身を案じて、出会って間もない貴方を部屋に泊めてあげた。……貴方は、こうして貴方を本当に想ってくれる方の手を取るべきだった。決して……その手を血で染めてはいけなかった」
「うぅ……うううぅ……!!」

 ピュレさんの嗚咽が、ただただ部屋に響いていった……



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 トーキョーに到着し、事情聴取(僕としてはもう慣れたもんだ)を終えて駅を出ると、丁度ピュレさんを乗せたであろうパトカーが通り過ぎていった。僕はそれを眺めながら、ピュレさんは己の行為をしっかりと反省して、再び会える事を願いながらパトカーを見送った。

「なあ、アンタ」

 そんな僕に、何者かが声をかけた。振り向いてみると、そこにはニルさんがいた。

「……アンタは、こういう事にいつも巻き込まれるって言ったけど……親しい友達が犯ポケだったって事はあるのかい?」
「えぇ、数える程」
「……そうかい、いいね、そう思えるなんて……正直言ってアタシは、時間は短いけれどあの子の事を友達だと思っているんだ。だから、とても辛いよ……」
「……そうやって貴方が思ってるだけでも、救われる訳です。彼女が出てきたら、真っ先に迎えに行ってあげてください。二度と彼女が間違わないように、貴方が彼女の親友になってあげてください」
「……そうさね。へっ、アンタ本当に良い男だね。でも災難に振り回されるのは御免だ、アタシは二度とアンタとは関わりたくないね。じゃあな」

 そう言ってニルさんは手をヒラヒラさせながら去っていく。

「…………そう言われるのも、慣れてる」
「……♪」
「ありがと」

 僕にはミルがいてくれたら、それで良いんだから。

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