Angel

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作者:ドリームズ
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読了時間目安:11分

この作品には残酷表現があります。苦手な方は注意してください

このココロを動かしてくれたのは、君だったんだよ?

~~~~~~

オレは、アイという物がよく分からない。サンダースのアイラは、アイという物が分からないのだ。分からないというよりかは、忘れてしまったの方が正しいのかもしれない。毎日あんな事をされていたら、当然の事なのかもしれない。ほら、今日も来た。

「よぉ、アイラくん?」
「元気にしてたかぁ?」
「まあ、今から元気じゃなくなるんだけどな!」

オレの周りを、何人かのポケモンが取り囲む。何人かの男子とオレしかいない教室に、鈍い音が響く。こいつらは、まるでオレを玩具のように扱う。オレは日頃の苛立ちを発散するサンドバッグらしい。男子達は、「生意気だ」とか「女っぽい名前だ」とか「生きている価値がない」だとか言いたい放題だ。
オレは、元々から運動神経もいいし、勉強もそこそこ出来る方だった。そのおかげで、学年内でも結構人気の方だった。だけど他の男子達は、それが気にくわないらしい。それもそうだろう。オレも逆の立場なら、いじめはしないけど羨ましいし、もしかしたら、その域を越えてしまうかもしれない。
やがて、男子達は満足したのか去っていった。散々痛め付けられた事で、重くなった身体を起こすと、一つの影が目に入った。

「大丈夫、アイラ?」

クラスメイトのアチャモのヒナタだった。彼女は、いつもオレの傷の手当てをしてくれる。最初こそ、女子に手当てをされるのは恥ずかしく思い抵抗したが、今やもうされるがままだ。

「今回も派手にやられたね。」

ヒナタは慣れた手つきで包帯を巻いていく。将来は医療関係の仕事が向いているのではないかと、一人呑気にそんな事を考える。前までは、しつこく痛くないか聞かれたが、それももうなくなった。オレが毎回痛くないと、平然と答えるからであろう。痛みというものは慣れるとよく言うが、正にその通りだと痛感した。本当に慣れというものは恐ろしい。
彼女はオレの手当てを終えると、何かを思い出したかのような素振りを見せる。

「そういえば、明日付き合ってほしい事があるんだけど。」

何事かと思った。女子からそういう誘いを受けるのは初めてだ。凄く驚いた。すると、ヒナタは小首を傾げる。

「何驚いてんの?アタシは、イオリが入院してる病院に見舞いに行くから、ついてきてほしいだけなんだけど。」

イオリ?そういえば前までオレの手当てをする時は、あともう一人いた気がする。そう、たしかイオリって名前のニンフィアだった。最近見ないと思ったら、入院していたのか。というか、そんな重要な事、もっと早く言ってほしかったんだが……。まあ、オレ自身、彼女の事を半ば忘れていたのだから、反論出来ない。なんて最低な奴なのだろうか。
脳内で自己嫌悪の嵐を起こしていると、ヒナタが嫌らしい笑みを浮かべながら言った。

「何?デートの誘いとかかと思ったぁ?」
「ッ!!うるさいッ!!」

彼女からの視線が痛くて、目を背けた。本当に彼女には敵わない。
















翌日、ヒナタと待ち合わせ、イオリが入院をしているという病院へと向かう。オレは、昨日の傷が目立たぬよう、パーカーを羽織ってきている。傷だらけの学生が病院の中を彷徨いていたら、絶対に大騒ぎになるに決まっているからだ。彼女の後をついていくと、ある病室の前で立ち止まる。彼女は、その引き戸を開けると、中へと入っていく。オレも遅れて入ると、そこは広い個室の病室だった。カーテンが開け放たれた窓から外を見ていたポケモン。彼女がイオリだ。彼女はオレ達の存在に気づいたようで、こちらを向いた。

「イオリ、来たよ。」
「おっお邪魔します?」
「いらっしゃい。」

イオリは、優しく微笑みながら言った。














「アイラくんも、来てくれて有り難うございます。」

イオリは、久しぶりにオレの顔が見れたのが余程嬉しかったのか、ずっと微笑みが絶えない。彼女は、オレがベッドの脇に来るや否や、傷の事を心配してきた。いじめがまだ続いている事を正直に話すと、彼女は少し悲しそうな顔をしたが、すぐに真剣な顔になり、「どんな事があっても、私はアイラくんの見方でいます!」と言った。その言葉を聞いた瞬間、何だか胸の辺りが暖かくなった気がした。
それから色々な事を話した。最近見た番組の話し。学校の話し。あと、ヒナタの奴、オレの恥ずかしい失敗話してやがった。

「アイラくんも、いつでも来てください。歓迎します。」

帰り際、イオリにそう言われた。その顔は少し寂しそうだった。オレはすぐに来てやりたくなった。それほど儚く脆い物だった。
ヒナタと二人、帰路についていると、彼女が話しかけてきた。

「あの子ね、結構重い病気にかかってて、手術しないといけないの……。それも、凄く難しいやつ。」

いつもの彼女らしい芯の通った声は何処かへと消え、代わりに弱々しい声が聞こえた。オレは口を挟まず、彼女の話しに耳を傾けた。

「今日はアンタが来たから、とても嬉しそうだったよ。有り難うね。」

何か出来ないかと思った。苦しんでいる彼女に、何か出来ないかと思った。

「イオリって、何か趣味とかないのか?」

無意識に聞いていた。ヒナタは目を丸くし、驚いている。それもそうだろう。いきなり男子が女子の趣味なんか聞いてきているのだから。

「えっ?う~ん……歌とかかな……。」
「歌?」
「うん。彼女、昔から歌うのが好きなんだよ。」

その言葉を聞いて、オレはある事を閃いた。ヒナタに先に帰ると告げ、家へと急いだ。オレにも出来る事があった事が、とても嬉しかった。














「曲を作ってきてくれたんですか!?」

翌日、オレは学校帰りにイオリの元へと出向くと、ある物を見せた。それは楽譜とスマホで録音した音源だった。要するに、自作曲を聴かせたのだ。彼女が歌う事が好きと聞いた瞬間、この事を閃いたのだ。元々オレは、曲作りをするのが趣味だったので、丁度良かった。昨日はずっと曲を作っていたせいで、ほぼオール状態だ。
彼女は音源を聴くと、とても驚いた様子でいた。

「とても本格的……凄いです!」
「ッ!大したことない……。」

久しぶりに他ポケに褒められた事により、無性に恥ずかしくなったオレは、彼女から目を背けた。彼女は一度聴いただけで音程を覚えたようで、小さな声で口ずさんでいる。その歌声がとても綺麗で美しくて、オレは彼女に呼ばれるまで聴き惚れていた。

「アイラくん?」
「あっ?あぁ……綺麗な歌声だなと思って……。」
「!有り難うございます。」

オレがそう言うと、彼女は驚いた表情をしていたが、すぐ笑顔になり言った。
そんな時だった。彼女の表情が一瞬にして歪んだ。

「大丈夫か?」
「えぇ……ッ大丈夫です……。」

彼女はそう言うが、オレにはどう見ても大丈夫そうではなかった。これはいけないと感じたオレは、ナースコールを押した。


















オレは自宅へと帰ると、看護師から先程聞かされた話しを思い出していた。イオリは、明日手術を受けるらしい。先程はその患部に痛みが走り、痛がっていたようだ。彼女は痛み止めの点滴を打ってもらうと、楽そうにしていた。しかしそれは裏返せば、痛み止めを打たないといけないほど、悪化しているという事だ。ヒナタは、イオリの手術はとても難しい物だと言っていた。オレはとても心配だった。そして、彼女の手術が成功する事を願った。ふと窓の外を眺める。そこには漆黒の闇の中に、キラキラと輝く星達があった。その中に、一際弱く光を放つ星があった。何だかあの星のように、イオリも消えてしまいそうな気がして、胸が痛くなった。この感情は何なんだ?とても痛い。そして、とても愛おしいんだ。これが『アイ』という物なのだろうか。

















次の日、オレはイオリの見舞いには行かず、直接家へと帰っていた。今日は手術の日だし、もし終わっていたとしても、まだ眠っているだろうと思ったからだ。早く帰って宿題を仕上げてしまわなければ。そんな事を思った瞬間、オレの身体に衝撃が走った。一テンポ遅れて、オレは気がついた。オレ、車にはねられたんだ。信号無視だった。オレの意識は一瞬の内に途切れた。














オレは気がつくと、空に浮かんでいた。背中には、天使のような純白の羽があしらわれている。オレはその二つによって、理解した。オレ、死ぬんだな。出来ればこんな死に方はしたくなかった。もう少し生きていたかった。もう少し、イオリと話していたかった。そんな事を思ったが、運命には逆らえない。オレは今日死ぬ運命だったんだろう。そう思い、止めていた羽をもう一度動かそうとした。その時だった。誰かがこちらに向かってきている。あれは……イオリ!?驚いた。いるはずのないイオリが、オレの方へと向かってきているのだから。彼女はオレの方へと一直線に向かってきている。このままではぶつかる。そう思ったが、何故だか彼女はオレの身体をすり抜けた。何だか嫌な予感がした。オレは背中を見てみる。そこには羽がなかった。代わりに、イオリに羽がついているではないか。オレは必死に彼女に手を延ばすが、それとは裏腹に、オレの身体は彼女から遠ざかっていくばかりだ。視界が歪む。心が痛い。彼女がオレの身代わりになったというのか?
酷い顔になっているであろう自身の顔を、彼女へと向ける。すると、彼女は晴れやかな表情をした。そして、口元だけを動かし、何かを伝えてきた。オレはしっかりとそれを捉えた。

あ り が と う 、 さ よ う な ら

「イオリ……」

オレの声は虚しく消えていった。



















あれから数年が経った。オレはあの後、無事息をふきかえした。後遺症も残らなかった。しかし、イオリの方は駄目だったらしい。あの時の事は、本当だったのだ。オレの幻覚なんかではなかったのだ。
あの後、オレは大分変わった。堂々とする事で、学年でもいじめられなくなった。そして、オレは社会人になり、働き始めた。職業は教師だ。そして、勤め先は、昔通っていた高校だ。これが、オレが出来る彼女に対しての精一杯の恩返しだ。
彼女はオレに愛という物を、思い出させてくれた。オレに勇気をくれた。そして何よりも、生きている事がとても素晴らしい事だという事を教えてくれたのだ。彼女がいなければ、今頃オレはどうなっていたのだろうか。今のオレがいるのは、彼女のおかげなのだ。だから伝えたい。今さらなのは、分かっている。だけど伝えたいんだ。


オレはイオリを愛していたんだ。


何処かで彼女が笑った気がした。
今物騒な世の中になっていますね。この御時世だからこそ、この小説を書きました。皆さん、十分に気を付けましょう。人間は一度死んでしまったら、二度目はないのです。もう二度とその人は帰ってきません。一人一人が気を付ければ、それだけ感染が広まらなくなります。
私は、皆さんが平和に暮らせる世の中に戻るよう、願っております。

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