絶対領域未来、想定外は絆。

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作者:レイミラ
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読了時間目安:13分

この作品には残酷表現があります。苦手な方は注意してください

 ネイティオは、右目は未来、左目は過去を見ているという説がある。顔に反した喜怒哀楽なネイティオの心、ちゃんと私は見えているよ。
 私はネイティオ。未来と過去を見渡す者。突然だが、過去は素晴らしいものだ。過去の誤りは全てこれからの世界に収束する。過去があるから今がある。反対に、未来とは末恐ろしいものだ。「未来」という決定された結末を一本も道を反らさずに辿っていく。単純につまらない、終末を知る恐怖、そして「未来」という絶対の領域を現在の世界で変えてしまうと、その変動した未来が「不可」とされるならば、これから我々が生きる未来が歪んでしまう。
 歪むとどうなるか、それは私にもわかりかねるが、歪んだ世界が後に現れて、辻褄を合わせるために無理矢理元に戻るのだろう。元に戻るならまだいい方だがが、そこから世界の崩壊なども考えられなくはない。いわゆるブラックホールのようなものだ。「無」という存在が空間に留まるのが「不可」であるために周囲のものを飲み込むのと同様に、「未来」の変換が周囲に歪みを与えることがあると言うことだ。
 しかし、それはほぼ起きないだろう。なぜなら、私の見た未来は、私がどんなに変えようとしても、変わらないから。私が「未来が見えた!未来を変えます!」、という事を行った上での「未来」が見える。つまり、未来が見えたら手遅れだ、ということ。見えるだけ。それ以上は何も出来ないのが辛いことだ。

 おっと、喋りすぎも良くないな。とにかく…そのため私は、未来が見えているのに、未来を変えないように生きねばならない。ああ、息苦しい。だが、私の息苦しさは、昔と比べれば全然マシだ。なぜなら、
「えだまめ!一緒にご飯食べよう!」
白米が炊け、ニンゲンに呼び出された。『えだまめ』…私のニックネームだ。色だけで決めただろ?というツッコミは既にしてあるので隅に置いておく。そう、私は今、ニンゲンと共に生活している。彼女の名前は『チカ』。昔から私とチカで生活していた仲で、彼女は私の無表情からも感情を読み取ってしまう、なんというか、私からすればポケモンと同等の能力を使う種だ。私はそんなに顔に出ているのか?
「ねえねえ、今日ね、お花持ったチラーミィ見たの!」
私としてはどうでもいい話だが、彼女の持って帰ってくる土産話はいつもホッコリするものばかりだ。ちなみに昨日は「凍った水辺でスケートをしていたカチコールの5人兄弟」のお話だった。カーリング…だったかそんな名前の遊びをしていたらしい。そんな趣味は全く無いが、子どもたちの元気な様子を聞くことができて、私はそれだけでも十分だ。
「それでね、街の方にテクテク歩いてた!誰かにプロポーズするのかな?『頑張って!』って応援したくなっちゃう。」
 その後、彼女はチラーミィの奮闘劇を熱く語っていた。…しかし、彼女はチラーミィの後ろをずっとツけていたのか。チラーミィは、とんだ迷惑を喰らってしまってるな、これは。
 私は外出しないのか、と?私は基本的に留守番役で、実は家事をやっている。掃除に洗濯、ゴミ出し。買い物や料理はチカがやってくれるが、一緒にやることも多い。平日はチカが仕事場に行くため、午前中は私が家に居ることの方が多い。反対に、休日にはチカと買い物へ行ったり、チカの友人と遊んだりする。チカと居る時間が、私には未来の行方がどうだったかなんて気にならない、至福のときなのだ。とはいえど、我々の動きは『未来』というモノに縛られている不変の事実があるのだが。

 私はネイティだった頃に、親を失って、ろくに獲物も取れない。そんな私に、ロケット団の襲撃ときた。衰弱していた私は、敵に襲われても反撃できず、ボロボロになって死を迎えようとしていた。ロケット団が引いて、草むらに隠れてぐったりと倒れていた私を見つけた者が現れた。それがチカだった。傷ついた私を見るなり、周りをウロウロ見渡してから、私を抱えてその場を去った。てっきり、私はロケット団に連れていかれたのかと勘違いしていた。
 目が覚めると、チカが隣で寝ていた。勘違いしている私はシメた、と思って急いで逃げる準備をしていた。その時に私は気がついたのだ、私のケガを治してくれていることに。隣には、木の実とスープと五切れくらいの肉。きっとこれは罠だ、と思っていたのだが、私の腹は欲張りだった。置かれた食べ物を啄んではムシャムシャと木の実に食らいついていた。ハッと私は横を向いた。チカが起きていたのだった。…が、彼女は満面の笑みを見せて
「どう?お口に合うかな?」
騙されてはいけない、いやしかし…と、戸惑った私を見て、
「大丈夫だよ、わたしが守ってあげるから…。」
と、ゆったりとした柔らかい口調で囁く。チカ自身もウトウトしてきていて、遂にはカーペットの上で寝てしまった。
 それで私はどうしたらいいのか…。普通ならさっさとこの家から出て逃げ出しているが、私は受けた恩は返したいと思っている。でもどうやって恩を返せばいいのか、そしてもう寝てしまっている彼女はなにか幸せそうな夢でも見ているようだ。床からソファへ、まだ戻りきっていない私の念力を使って乗っけた。ソファに掛かっていた毛布を彼女へゆっくり掛けて、クッションを枕替わりに頭の方に敷いた。と、やっている間に、私はなにか彼女にしてやれないか…と考えていたが、一向に思いつかない。ふとふと食器棚の上を見ると、チカの家族の写真があった。そういえば、ここに家族の住んでいる形跡が無い。一人暮らしにしては歳も早い。…この時点で何となく察しがついていた。口にはしない、彼女も私と同じ辛い思いを背負って生きている。それなのに、私にとびきりの笑顔を見せてくれた。私の中でチカを疑う余地なんてもうなかった。

 ───そして今もなお、私の乱れた精神を綺麗に流してくれる、かけがえのない存在。私の事を何よりも気遣ってくれて、私の気持ちを誰よりもわかってくれる。冗談抜きで、私よりエスパーしている時だってある。ちょっと小腹が空いたな、と思った程度なのに、チカはすかさず「おやつ食べたいでしょ?一緒に食べよ!」と言ってきたり、掃除しようかなと思っただけでまだ行動に移していないのに、チカは「お掃除するの?チカもやるよ!」と言ってきたり。偶然ではなく、頻繁にこんなことが起こるものだから、稀に見るエスパー少女かと思ったが、そんな念力とか波導すら感じない普通の学生少女。不思議な力だな、と思った。
「不思議かな?えだまめの顔にわかりやすく出てるからね!」
またチカは心を読んできた。なるほど、私は顔に出やすいタイプだったのか、納得。

…鏡を見たが、私の顔は何度見ても変わらない。自分でも分からないとなれば、彼女は領域を超えた天才じゃないかな、知らんけど。うん、もう分からないということが分かりました。


 ある昼のこと。家の近くで事故があったようだ。左目で見た過去は、ペンドラーが車道に投げ出されて無惨な姿で轢き殺されていたそうだ。それ以来、彼の事故現場には白い百合が添えられている。チカはその花を指さして
「この前言ってたチラーミィちゃんも、この花だった。」
そう言って、チカは自分の持ってきた菊の花束を電柱に添えて、合掌して拝んだ。チラーミィも、誰かを亡くしたことを察した私だったが、別にチカに言わなくてもいいことなので、そっとしておいた。しかし、身も知らぬポケモンをいつになく真剣な眼差しで追悼するとは、やはり私を助けてくれるほど…否、それ以上のポケモンへの深い愛があるのだろう。…私の聞き間違いかもしれないが、チカが小さな声で「ありがとう」と言っていた気がする。チカも誰かに支えられて生きている、そう思うと、私もチカを支える責任があると考えるようになった。


 その日の深夜。私は見てはいけないものが見えてしまった。
───────────
「えっ…。」
キイイイイイイィィ!!!ガシャアアアア!!
───────────
明日、チカは。車に跳ねられて命の落とす。それはまさしくあのペンドラーのとそっくりだった。私は震えた。チカの布団でガクガクと、悲しみが押し寄せるのを必死に堪えて。そんな未来、あってはならない。しかし、未来は変えられない。この矛盾、誰がこんな選択を迫ったんだ。そんな時、チカが私の頬に優しく手を置いた。
「大丈夫…いい夢見ようね…。」
私の目を見てウトウトしながら喋った。私は耐えきれなかった。涙が溢れ出て止まらなかった。それなのに、彼女は涙を拭って私を寝かせようとするのだ。仕方なく目を閉じたが、この破裂しそうな気持ち、いつまでも収まらずに、眠れず朝を迎えた。


 「おはよう!早起きだね!」
なぜだ。なぜこういうときに限ってチカは私の心を見抜かない?彼女は急いで登校の準備を進め、私は朝食を作っている。
「じゃあ行ってきまーす!…ん?」
私はチカの手をギュッと握った。行かせたくない。そんな思いが強く出た。しかしそれを逆手に取ってしまったチカは、
「そっか!じゃあ一緒に学校行こ!」
手を引っ張られてチカに連れていかれてしまった。

 私は通学路をチカと歩きながら周りをしっかり確認する。…未来予知で見えたのはこの辺りだ。私はチカの手をさらにギュッと握った。するとチカもギュッと握り返してくれた。違う、そうじゃない。今はそうして欲しくないんだ。終わりの時が、近づいているんだ。

と、その一瞬の気の緩みだった。後ろから猛スピードで自転車が通った。

「きゃっ!?」

チカがビックリして私の手を離してしまった、その瞬間、歩車分離の縁石に足が引っかかった。

「えっ…。」

一瞬のことも、こうなると知っていた私にはゆっくりと見えた。終わりだ。…これで…本当にこれで私はいいのか。諦めていいのか。


───────────

「大丈夫だよ…私が守ってあげるから…。」

「大丈夫…いい夢見ようね…。」

───────────





…違う。思えば私はまだ…チカを守っていないじゃないか!未来を変える、変えてやる。どんなに無理だとしても…このコンマ3秒で、抗ってやる!


ガシッ!


離してしまったチカの手を、再び掴んだ!

間に合え…!テレポートだ!!
















…ここはどこだ?視界が悪い…。
「えだまめ…!えだまめ!!」
私を呼ぶ声。間違いない、チカだ。私はゆっくり目を開けた。眩しい。だが、それ以上に、彼女の笑顔が眩しかった。
「よかった…!!」
チカは泣き崩れて私の手を、握っていた。再び掴んだ、私の手を。周りを見て、右目が見えないことに気づいた。私は目を触ろうとしたが、そのときチカが、
「触っちゃダメだよ!右目からいっぱい血が出てたんだから!」
さらに、奥からは医者の格好をした人が現れた。…そこで私はようやく自分が病院にいることを把握した。
「右目からは原因不明の出血です。ですが、命には別状ないかと。」
「よかった…!」
「原因不明…ですが、心当たりはあります。あくまで伝説ですが…ネイティオは太陽を一日中見つめて未来と過去を見ると言われています。しかし証拠はどこにもなく、ネイティオのみぞ知る、ということですね。」
するとチカが自信を持ってこう言った。
「それ、本当ですよ!だって、私が学校に行くのを引き止めていたんですもん!」
あの時、私の異変にチカは既に気づいていたのだ。ただ知らんぷりではなく、元気づけようとできるだけの振る舞いをしてくれたのだ。遂にこの絆は、未来をも変えてしまったのだ。ざまあみろ、神様め。…と言うと、バチが当たりそうだから、心の中に留めて神様を嘲笑い続けるとしよう。


そして、次の昼。
「はい、眼帯!よくできてるでしょ!」
チカはどこまでもおみとおしなのだ。眼帯はもう何も見えない右眼を暖かく覆った。うんざりしていた右眼は、もうお役御免だ。使い捨てみたいになったが、最初で最後、私はこの右眼に感謝した。これからは、まだ見ぬ世界を、チカと共にして行こう。

 …いや、しかし…。眼帯に枝豆イラストのアプリコットを付けるセンスは、ちょっといただけないんだが…。
「あ…。…ふふっ、もしかしてそのアプリコット…気に入ってくれたね!」
チカに私の気持ちが分からないわけがない。が、今度は私がチカの気持ちを読めるぞ。チカ…私をからかってるだろ!
レイミラ短編シリーズ四作目、今回はネイティオがお題でした。どこかの世界線と繋がってるお話でした。

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