とある魔法使いの物語

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作者:ソラ
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読了時間目安:49分
ここは闇の街、フィンスター二ス。
闇の街と言うだけあって、街はいつも暗い。
雰囲気がという話ではなく、この街にいくつか存在する洞窟で採れる「闇鉱石」という光を吸収する鉱石の影響で街全体が本当の意味で暗いのだ。
とはいえ、この街で暮らしているポケモンは暗くないのか? と問われるとそう言うわけでもない。
そんな街であるからして、外界から訪ねてくる者はほとんどおらず、街から外界に出ていく者もほとんどいない。
たまに訪ねてくる者といえば気まぐれ屋が多い、空の魔法使いぐらいだろう。
フィンスター二スとはそういう街である。
しかし、そんなフィンスター二スにも変わり者はいる。

「……また、行くんですか?」

商人であるフォクスライのテイラは店を出ていこうとした1匹のポケモンにそう訊ねた。
テイラの声に振り返った1匹のマフォクシー、名前はローダン。
いかにも魔法使いのような長いローブを身に纏い、右目をローブと同じ暗い紫色の布で覆った姿は普通のマフォクシーならば浮いてしまいそうな色の組み合わせだが、ローダンは通常のマフォクシーとは違い、やや濁ったような灰色と紫色の毛並みをしているので、服装が浮いてしまうようなことは無い。
いかにも闇魔法使いと主張した格好をしているローダンはテイラに優しく微笑むと、穏やかな口調で答えた。

「はい。 ……それが私の仕事ですから」
「そうですか。 ……まあ、お気をつけて」
「おや、テイラさんが心配してくれるとは珍しいですね?」
「……まあ、行き先がリヒトシティなうえ、あなたは片目が見えませんからね」
「……」

リヒトシティ、それは闇魔法使いならば行きたがらない光魔法使いの街。
テイラに言われ、ローダンは俯きながら右目を覆う紫色の布に手をあてる。
覆われていない紫色の左目が一瞬、揺らいだように見えたがすぐに顔をあげるとテイラに先ほどと同じ微笑みを浮かべて答えた。

「お気遣い感謝します。 しかし、心配は御無用です。 こう見えて私、結構強いですから」
「どうですかね。 その胡散臭い笑顔で言われても、あまり信用できないです」
「これはまた手厳しい評価ですね。 私の仕事上、笑顔は大切なのですが少し自信を失いそうですよ。 ……っと、もうこんな時間ですか。 それではまた」

ローダンはテイラにお辞儀をすると足早に店から出ていった。

―――――――――――――――――――――――――

「あっ、ローダンさん」

声をかけてきたのはきつねポケモンであるクスネのスリック。
まだ子供だがこの街の立派な案内役として働いている子だ。

「こんにちは、スリック」
「また光の街に行くのか?」
「そうですね。 ちょうどさっき君のお母さんにも同じ事を聞かれましたよ」
「そうなのか。 ふーん、母ちゃんがねー」

あまり興味なさげに返事をしながらチラチラとローダンに視線を向けるスリック。
興味が無いというより、別の事に関心を向けているからといったほうが正しいか。
なにしろ、スリックがローダンに対してこのような仕草をする時はお菓子をねだっている時だからだ。
事の発端はローダンがまだこの街に来たばかりの頃、
スリックに街を案内してもらったお礼として手作りのドーナツを渡したことに始まる。
元々、ローダンは趣味でこういったお菓子を作るのが好きなのだが、その日はたまたま作りすぎたドーナツを小腹がすいた時に食べようと思って持ち歩いていた。
それをお礼として渡したのだが、スリックは甘いお菓子が大好物だったようで、すっかり懐かれてしまった。
それからローダンはスリックに会う度に手作りのお菓子を渡している。

「すみません。 今日は材料が無くてですね……」
「えっ、そうなのか……」
「作り置きのクッキーぐらいしかありませんでした」

肩掛け鞄から取り出したクッキーの入った紙袋を渡すと、シュンと垂れ下がっていた耳と尻尾が見る見るうちに元気を取り戻し、花が咲いたかのように満面の笑顔をするスリック。

「わあ! ありがとう、ローダンさん!」

美味しそうにクッキーを頬張るスリックの姿を微笑ましく見守るローダン。
あまりスリックにお菓子を渡しすぎてはいけないと思った時期もあったが、スリックの母親であるテイラに

「スリックにお菓子を渡してくれているそうですね。 よそ様から勝手にお菓子をくすねなくなったので助かっています。 ありがとうございます」

と言われたので、毎日何かしらのお菓子は持ち歩くようにしている。
相手が子供といえど、自分が作ったお菓子を大喜びで食べてくれる存在は素直に嬉しく、ありがたいものだ。

「ローダンさんのお菓子はいつも甘くて美味しいから大好きだぞ」
「それは良かったです。 今度は光の街で入手した材料でシフォンケーキでも作りましょうかね?」
「ホントか! 楽しみだなー」
「フフッ、期待していてくださいね。 それではまた」
「行ってらしゃい、ローダンさん」

口元にクッキーの食べかすをつけたスリックに見送られながらローダンは闇の街を後にした。

―――――――――――――――――――――――――

フィンスター二スから数日かけてローダンは光の街、リヒトシティに到着した。
リヒトシティはフィンスター二スと正反対に「光鉱石」という鉱石が採れる洞窟が存在し、夜間だろうと関係なく明るい。
そんな明るい街に似合わない服装をしているローダンは嫌でも好奇の目に晒される。
道行くポケモンの視線を感じながらローダンはポケモン魔法協会、通称ギルドと言われる施設内に入った。
ギルド内でも向けられる複数の視線を無視し、ローダンは施設内にいる1匹のフーディン、リヒトシティのギルドマスターを務めるトニスに話しかけた。

「こんにちは、トニスさん」
「……来たか。ブリッツさんなら奥の部屋だ」
「ありがとうございます」

トニスに会釈をし、奥の部屋の扉を開けると中にリヒトシティの長であるエレキブルのブリッツが腕を組んだ状態で椅子に腰かけていた。

「こんにちは、ブリッツさん。 いえ、お久しぶりです……と言った方がいいですかね?」
「そんなことはどうでもいい。 とりあえず座れ」
「では、失礼します」

ブリッツに促され、ローダンはブリッツの正面の椅子に座った。

「以前、お話した件。 ……少しは考えてくれましたか?」
「光鉱石と闇鉱石の話なら何度交渉に来てもこちら側の回答はNOだ」
「どうしてですかね? フィンスター二スだけでなくリヒトシティにとっても利益のあるお話だと思うのですが」
「確かに、あんたの提案してきた『光鉱石と闇鉱石を組み合わせた事業』が成功すればこちらの利益も相当な上、街の宣伝にも繋がる。 正直、良い話だと思った。 だが、闇魔法使いと共同で進めるって点が許容できない。 あんたが闇鉱石をリヒトシティまで運んで、それを光魔法使いが主体となって進めるって話なら別だがな」

想像していた通りの返答に小さくため息をつくローダン。
光鉱石と闇鉱石、2つの鉱石を利用して、ギルドや街の生活を豊かにする新たな道具を作成するというのがローダンの提案している事業内容だ。
例えば、光魔法使いで生まれたが種族の特性上、リヒトシティの明るさが苦手なポケモンや反対に闇魔法使いで生まれたが、暗すぎるのが苦手なポケモンがいたとする。
ここで光鉱石や闇鉱石をそのまま使用するとほとんどの光、または暗闇を吸い取ってしまうため、鉱石単体では使い勝手があまりよくない。
そこで細かい微調整などができる光と闇、両方の特性を持った新しい道具を作成しようというわけだ。

「……確かに、私が闇鉱石をリヒトシティに運ぶ事は可能でしょう。 しかし、闇鉱石を加工するための技術やノウハウまでは運べません。 それはリヒトシティの光鉱石に関しても同じです。 この事業は鉱石だけでなく、それぞれの鉱石について深く理解している技術者がいてこそ成立する話です」
「ああ、それぐらいわかっている。 だが、あんたが思う以上に光魔法使いと闇魔法使いの溝は深い。 この街の全員が闇魔法使いに対してあまり良い印象を持っていないとまでは言わないが、よく思っていないポケモンの方が大多数を占めている。 これはリヒトシティの長として断言できる事実だ。 それに、フィンスター二スの長からも許可は貰えてないだろ?」
「……そこは否定しません」
「なら、やはりこちらの回答はNOだ」
「……わかりました。 今回は引き下がります。 ですが、私がフィンスター二スの長から許可が貰えた場合、考え直してくれると約束してください。 今回、あなたが承諾しない理由として話した内容はあくまで印象的な部分でしかありません。 相手の事を理解しようともせず、勝手な印象だけで困っているポケモンを救える機会を逃すのは愚かな事だと私は思いますので」

今回の事業が成功すれば、今までリヒトシティやフィンスター二スに住みにくかったポケモンを減らすことが出来るだけでなく、差別に苦しむポケモン達が新たに生活できる拠点を増やすことだってできるかもしれない。
そして、できるならば、その過程で光魔法使いと闇魔法使いの関係がいい方向に進んでほしいと私は願っている。

「いいだろう。 だが1つ条件がある」
「条件、ですか?」
「簡単な事だ。フィンスター二スでその右目を隠している布を外した状態で今回の話を街のポケモンに認めてもらう事だ。 それが出来たら考えてやる」
「……また嫌らしい条件を提示してきますね」
「当然だ。 さっき、印象がどうだか話していたあんた自身がそれを証明していないとこちらも信用できないというものだ」
「……」
「これでわかっただろ。 どう足掻いたって光魔法使いと闇魔法使いは相容れない存在なのさ」
「それでも私は」
「いい加減にしろッ!!」

ブリッツは苛立ちを隠そうともせず、声を荒げて立ち上がった。

「はっきり言うぞ。 光魔法使いのあんたが正体を隠してまでこんな事をする必要なんてない。 俺はあんたの実力を買っているし、あんたがギルドに貢献した実績も評価している。 だからこそ、闇魔法使いのためにここまでする事に納得できない。 こんな外交官のようなことは止めて、リヒトシティに戻ってきたらどうだ?」
「……それはできません。 私にこの街の明るさは眩しすぎます。 それに、私は闇魔法使いのためではなく、私自身のために今の仕事をしていますから」
「……わかっていると思うが彼が死んだのはあんたのせいじゃない。 あれは事故だ。 あんたが責任を感じる必要はないんだぞ?」
「わかっています。 ですが、私が彼にあんな事を言わなければ……とずっと考えてしまうのですよ。 ……そろそろ時間ですかね。 それでは失礼します。 約束の件、忘れないでくださいね」
「正気か? お前が光魔法使いと分かった途端に攻撃されるかもしれないんだぞ?」
「私はいつだって正気です。 それに、ここで諦めるようでは彼と再会した時に合わせる顔がありませんから」

いつものように微笑みを向けてくるローダンにブリッツは観念したようにため息をついた。

「はぁ……相変わらずあんたは頑固だな『光炎操る狐の魔法使い』さん」
「その恥ずかしい名前は過去のものです。 今の私はただのローダンですよ。 それではまた」

ブリッツに挨拶をするとローダンはリヒトシティのギルドを後にした。
1匹、部屋に残されたブリッツは大きく息を吐くと椅子に腰かけた。

「トニー、そんなところで様子を見てないでこっちにきたらどうだ?」

開いたままの扉の陰からこのギルドのギルドマスターであるフーディンのトニスが静かに姿を現した。

「すまない。 立ち聞きをするつもりはなかったのだが」
「別に構いはしない。 それで、どうした?」
「ブリッツさん。 そろそろ我にも教えていただけませんか? あのマフォクシーについて」
「ああ、そういえばトニーは知らなかったな。 もう数年以上前の話になるな。 まだギルドマスターがお前じゃなかった頃、このギルドには炎技を操る凄腕の光魔法使いがいたんだ」
「それならば、我も聞いたことはあります。 確か圧倒的な炎による技と洗練された光魔法から『光炎操る狐の魔法使い』と呼ばれていたとか」
「そう。 それがさっきのマフォクシーさ」
「なっ!? ……いえ、そんなはずはありません。 我の知る情報だとその魔法使いは鮮やかな色の毛並みをした狐のポケモンだったはず。 失礼な言い方ですが、先ほどのマフォクシーの毛並みはとても鮮やかな色とは言えないかと」
「信じるかどうかはトニー次第だが、あいつは紛れもなく光魔法使いだ。 ある出来事がきっかけでこの街を去ってしまったがな」
「ある出来事?」

―――――――――――――――――――――――――

「さて、ブリッツさんと約束した手前、彼女に事情を説明しなければいけませんが、どうしたものですかね……」

リヒトシティからフィンスター二スの自宅まで戻ってきたローダンはブリッツに告げられた条件をどうクリアしていくかに頭を悩ませていた。
ブリッツの言っていた光魔法使いと闇魔法使いの溝は深いことぐらい、自分でもよくわかっている。
この右目を覆う布は光魔法使いの特徴である銀色の瞳を隠すためにもつけている。
ブリッツの言う通り、自分が光魔法使いだとばれる事を恐れたまま、いつまでも右目は事故で見えない事にし、嘘をついたまま生活し続けている者の意見など信用できなくて当然だ。
光魔法使いと闇魔法使いの関係を改善させたい。
その気持ちに嘘偽りはない。
だが、光魔法使いであることを理由に正体を隠しているのもまた事実。
ブリッツの言った条件を承諾した以上、この闇の街、フィンスター二スで光魔法使いである事を口外しなくてはいけない。
いつかそんな日が来るとは思っていた。
思っていたのだが、いざ口外すると何が起きるかわからない。
それがとても怖い。
私がこの街のポケモンに拒絶される分には構わない。
長年に渡り、街のみんなに嘘をついてきたのだから当然の報いとして受け入れられる。
しかし、それがきっかけで光魔法使いと闇魔法使いの溝が深くなってしまうのだけは避けたい。
あの時、彼から託された思いのためにも。

「ジオラ、私はどうすればいいのでしょうかね」

ポツリとそう呟き解決策を考えるが、溝を深めることなくブリッツの条件を達成できるいい案は思い浮かばなかった。
そもそも、仮に正体を明かして受け入れられたとしても、光魔法使いと闇魔法使いが協力し合える何かを見せなければ、閉鎖的な性格の多い闇魔法使いから光魔法使いに歩み寄る事は不可能だろう。

「……このまま考えても何も思いつかなそうですし、気分転換にお菓子でも作りましょうかね」

ローダンは立ち上がるとリヒトシティで購入した材料を取り出し、慣れた手つきでお菓子を作り始めたのであった。

―――――――――――――――――――――――――

「へへっ、ローダンさんいつもありがとう!」
「いえいえ、ところでルマさんを見かけませんでしたか?」

ローダンは約束通り、スリックにリヒトシティで入手した材料で作った紅茶味のシフォンケーキを渡した。

「ルマさん? うーん、最近は見かけてないなー」
「そうですか」

ルマというのはフィンスター二スに古くから住んでいるムウマージで実質、この街の長である。
性別はメスで年齢不詳。 主な特徴は3つ。
1つ、頭に三日月型の黄色いアクセサリーをつけていること。
2つ、ほとんど見かけないレベルで神出鬼没であること。
3つ、独特な話し方をすること。
これらの特徴のおかげで、すでに魔女のような見た目をしているムウマージというポケモンに魔女要素をさらに詰め込んだ怪しい存在、それがローダンから見たルマである。
正直なところ、ローダンはルマに対して少し苦手意識があるのであまり会いたくない。
しかし、事業を成功させるためには会わないという選択肢はない。
というわけで、この街の案内人であるスリックならばルマの行方について知っているかもしれないと思い、聞きに来たのだがどうやら当てが外れたようだ。

「あ、でもディオンさんと話しているのはたまに見かけるぞ」
「なるほど、ディオンさんですか。 確かにギルドマスターである彼なら接触する可能性は高いですね……わかりました。 私は1度、ギルドの方に行ってみます。 教えていただき、ありがとうございます」
「どういたしまして! ところでローダンさん、何か悩み事でもあるのかー?」
「えっ? 何故そう思ったのですか?」

何気なく問いかけられた言葉に思わずビクッとしたローダン。
ブリッツに提示された条件を解決する良い方法は未だに見つかっていない。
ただ、このまま何も動かないよりは動いたほうがいいという漠然とした気持ちでルマに会いに行こうとしている。
その事に気づいたかのような問いかけをスリックがしてきたので、思わず聞き返してしまった。

「ん? そう言われると何でだろう? でも、なんかそう思ったんだよなー」
「直感、というものですかね? すごいですね。 スリックの言う通り、私にはちょっとした悩み事があります。 でも、些細な事ですのでスリックが気にする必要はありませんよ」
「そうなのか? それならいいけど、もし、悩みまくって答えが出ないなら1番やりたいって思った事をやればいいと思うぞ! オイラも美味しそうなお菓子を見た時に悩んだら、くすねてるからな!」

自信満々にどや顔で語るスリックに少し間をおいてローダンは吹きだした。

「フフッ、スリックもだいぶ大きくなりましたね」
「むっ。 ローダンさん、オイラのこと馬鹿にしてるな!」
「いいえ、馬鹿にしていませんよ。 自分が1番やりたいと思ったことですか……そうですね。 私は大切な事を忘れていたのかもしれません。 ありがとう、スリック」
「へへっ、オイラ、ローダンさんのその笑顔が大好きだからな」

右目に手を当てながらやさしく微笑むローダンの姿にスリックも満面の笑みで答えた。

「しかし、他の方のお菓子をくすねるのは感心できませんね」
「あっ、いや、でも、最近はくすねてないぞ! だから、母ちゃんには……」
「フフッ、わかりました。 今回だけは内緒にしておきましょう。 それではまた」
「うん、またなー!」

スリックに短くお礼を告げるとローダンはどこかスッキリした表情でフィンスター二スのギルドに向かった。

―――――――――――――――――――――――――

「ローダンか。 何しに来た?」

ギルドの中に入るなり、鋭い視線を向けて来たヨルノズクのディオン。
その鋭い視線に怯むことなくローダンはディオンに微笑みかけた。

「こんにちは、ディオンさん。 今、ルマさんを探していまして……」
「スリックから何か聞いてきたか……」
「おや、よくわかりましたね」
「俺はいつでもフィンスター二スを見張っている。 それに、お前はスリックと仲がいい」
「よくご存じで。 話が早くて助かります」
「フンッ、俺はお前が嫌いだ」
「それはどうも」

相変わらず微笑みを崩さないローダンに軽く舌うちすると、ディオンは顎で奥の部屋を指すと無言でその部屋に向かって歩き出した。
ついて来いの意味と解釈したローダンも無言でディオンの後に続く。

「ルマ、ローダンがお前に用があるそうだ」
「ローダン? ああ、貴方でしたカ。 光魔法使いである貴方がワタシに何の用デ?」

部屋の中に入ると、黒色と紫色の瞳をしたムウマージのルマが不気味な笑みを浮かべながらローダンを見てきた。
毎回、ルマと話す時はこの不気味な喋り方と心の奥底まで見透かしてくるような瞳が苦手だ。

「現在、私は光鉱石と闇鉱石、2つの鉱石を使った事業をしたいと考えています。 この事業には光魔法使いと闇魔法使い、双方のポケモン達の協力が必要不可欠です」
「なるほド。 つまり、実質的な長であるワタシの承諾が欲しいト……?」
「はい。 この事業が成功すれば未踏のダンジョン探索に役立つだけでなく、生まれ持った種族の特性上、適性のある魔法の街に暮らせなかったポケモンの数を減らすことが出来ます。 そして、光魔法使いと闇魔法使いの溝を無くすことにも繋がります」
「くくく……相変わらず貴方は面白い考えをしまス。 それで、貴方はワタシを納得させるために何をしてくれるのですカ?」
「…………私が光魔法使いであるとこの街のポケモンに公表します」
「そんな事をしたらお前がどうなるのかわかっているのか?」

脇で話を聞いていたディオンが珍しく声を荒げた。

「もちろん理解しています。 だからこそ、光魔法使いである私が闇魔法使いと手を取り合えると証明できる存在にならなければなりません。 そのためにはまず、自分の正体を明かすのが筋だと思います。 ……光魔法使いと闇魔法使いの橋渡し、それが今の私が1番やりたいことです!」
「くくく……そうですカ。 やはり、貴方は面白いですネ」
「ルマ! ローダンの提案を承諾する気なのか?」
「まさカ。 ……ですが、ワタシが承諾しないからと言って、貴方が引き下がる事は無いですよネ? あの時と同じようニ」


―――――――――――――――――――――――――
―――――――――――――――――――――――――


――数年前。
これはローダンが光魔法使いとしてリヒトシティに住んでいた頃の話。
当時、ローダンの毛並みの色は一般的に知られているマフォクシーと同じ、赤や黄色といった鮮やかな色をしていた。
当時のローダンは、ギルドに所属していたが複数匹のポケモンとはチームを組まず、いつも単独で行動していた。
ダンジョン探索をする際はチームで探索するのが基本なのだが、ローダンはポケモンの技も魔法の練度も非常に高く、単独で行動してもさほど問題は無かった。
いつも単独で行動していたため名前を知るものはほとんどおらず、その鮮やかな色の毛並みと炎と光魔法を駆使した戦闘スタイルから、いつしかギルド内で『光炎操る狐の魔法使い』などと勝手に呼ばれていた。

「おい! あんたか? 『光炎操る狐の魔法使い』って呼ばれているポケモンは?」
「はぁ……誠に不本意ながらその恥ずかしい名前はおそらく私のことですね」
「やっぱりか! さすがは俺! マジ冴えてるぜ!」
「自画自賛しているところ悪いですが、私に何か用があるのでは?」
「おっとそうだった。 とりあえず、要件の前にまずは自己紹介からだ。 俺の名前はジオラ。 気づいてると思うが闇魔法使いだ。 よろしくな!」

ローダンに声をかけた1匹のロズレイド。 彼は自らをジオラと名乗ると紫色の花が咲いている右手を差し出し、握手を求めてきた。
ローダンは渋々握手に応じると目の前にいるロズレイドをしげしげと見つめる。
やや濃い緑色の体に右手は紫色、左手は黒色の花が咲いているような手、闇魔法使いの証である黒色の右目、その右目とは対照的に炎のように明るい赤色の左目、そして首元には紫色のやや長めのスカーフ――もはやマフラーのようにみえるが――を身に着けている。

「へぇ、俺が闇魔法使いとわかってもちゃんと握手してくれるのか。 お前、中々変わった光魔法使いだな!」
「……あなたから握手を求めてきたのでしょう」
「ん? そうだったか? ……まあ、そんなことはいいや。 それより本題だ。 俺と一緒に闇鉱石を採りに行ってほしい!」
「はい? あなたは闇魔法使いでしょう。 ご自分で採りに行けばいいじゃないですか?」
「それが出来たら、こうして頼みに来てないぜー」

そこからジオラはローダンに理由を説明し始めた。 説明の内容をまとめると、
・種族的に光がある場の方がポケモンの技が使いやすいこと
・魔法使いとしての才能が壊滅的にないこと
・上記の理由により、暗い洞窟で光を吸収する闇鉱石を自力で掘り出すのは難しいこと
つまり、ジオラは自力で闇鉱石を採取しに行けないというわけだ。
ローダンのように扱う魔法と種族の使える技の親和性が高いポケモンもいれば、ジオラのように相反してしまうポケモンもいるのでこればかりは仕方がない。

「理由はわかりました。 しかし、なぜ私に頼むのですか? 光魔法使いならばギルドにもたくさんいるじゃないですか」
「それはな、あんたがぼっちだったからさ!!」
「……怒りますよ?」
「はははっ! 冗談だよ、冗談! ホントのところは、あんた以外の光魔法使いには断られちまったのさ。 ほら、闇魔法使いと光魔法使いって仲悪いし、たぶんそれだな。 うん。 きっとそうだ」
「なら今、光魔法使いである私に話しかけている闇魔法使いのあなたは何なのですかね……それに、引き受けてくれなさそうならばギルドに依頼として出せばいいじゃないですか?」
「いや、そうなんだけどさ。 俺が報酬として大金を払えるようにみえるか?」
「……見えませんね」
「だろ? だからあんたに頼みに来たのさ!!」
「ん? ちょっと待ってください。 その言い分だと、もしかして何の対価もなしに私に協力しろという事ですか?」
「対価? 対価かー、そうだなー……採れた闇鉱石の一部をあんたに譲ってやるってのはどうだ?」
「別に私は闇鉱石を必要としていないのですが」
「そうか? ならこの頼みを聞いてくれた暁には俺があんたとチームを組んでやる! これは豪華な対価だぞ! どうだ?」
「あなたとチームを組むことで私に何の得があるんですかね……」
「分かってないな~。 チームを組むという事は俺と仲間になるんだぞ。 仲間ってもんは損得とかだけの関係じゃないんだぜ? 苦楽を共にし、お互いを支え合い、そうして仲を深め合う事でお金では買えない『友情』が手に入るんだぜ!!」

右手を頭上に突き上げる謎のポーズを決めると、どや顔で言いきった余韻に浸っているジオラにローダンは顔に手を当て、大きくため息をついた。

「……なんかいい話のように語っていますが、仲間だろうと最低限の損得感情は必要かと思いますよ?」
「細けぇことはいいんだよ! んじゃ、そういうことだから、明日リヒトシティの門で待ってるぜ! それじゃあまたな!!」
「いやいや、そういうこととはどういうことですか!? 私はまだ引き受けるとは……ってもう行ってしまいましたか。 まったく、逃げ足が速いというか、何というか、嵐のようなポケモンでしたね。 他の光魔法使いが断った理由がなんとなくわかったきがしますよ……」

ローダンは1匹ぼやくと、明日から始まる苦労の日々を想像し、ひときわ大きなため息をついたのであった。

―――――――――――――――――――――――――

「いやぁ~助かったよ。 こんだけ明るければ洞窟の中でも草タイプの技が高い威力で出せるぜ~」

ローダンとジオラはフィンスター二ス付近にある闇鉱石が採れると噂のダンジョンに来ていた。
外は雨が降っている事もあって、ダンジョンに入るのは明日にしたかったのだが、ジオラが「洞窟内なんだし関係ないだろ。 そ・れ・に! 闇鉱石は待ってくれないんだぜ?」と言って、半ば無理矢理連れてこられてしまった。

「油断しないでください。 いくら洞窟内と言えど、今日の天気は雨だったので私の得意な炎攻撃は普段よりもキレが悪いです」
「わかってるってー。 おっ、でかい闇鉱石見つけたぞ! こりゃあ、すげぇ!」
「……本当にわかってるのでしょうかね」

呑気に大きな闇鉱石を袋に詰めていくジオラの姿に大きなため息をついた。
別に雨だから大きく弱っているわけではない。
ただ、雨に打たれていなくとも、炎タイプを持つポケモンとして雨という天候の日は、何とも言えない倦怠感を感じてしまい、結果として判断力が鈍ったり、技の精度が微妙に落ちてしまう。
懸念事項の1つとして、ジオラに伝えてはいるのだが、全く気にしていないようだ。

「おーい、ローダン。 ちょっとこのゴローニャ達、守りが堅くてなかなか倒せないから援護してくれよー」

少し目を離している隙に、ローダンよりもかなり先行していたジオラがダンジョン内のゴローニャ達と遭遇したようだ。
ゴローニャ達の目つきは明らかに正気ではなく、ダンジョン内にはこうした凶暴化しているポケモンが数多く生息している。
そのため、最低限の戦う力が必要不可欠となる。
ジオラはポケモンの技を使った戦闘ならば、単独でもかなり強い部類なので本来ならば問題ないのだが、ここは闇鉱石のダンジョン。
常に光を吸収する闇鉱石が点在している洞窟内では、草タイプが技を使用するのに必要とする光が不足しているどころか、常に枯渇状態なうえ、ジオラは魔法がほとんど使えないので、このダンジョンとは相性最悪であった。
そこで、ローダンが後方から炎技と光魔法で闇鉱石の吸収する光量を上回る光を出し続けることで、ジオラがこのダンジョンでも戦えるというわけだ。

「数が多いですね。 ここからではよく見えませんが何匹ぐらいいますか?」
「う~ん。 たくさんだな!」
「いや、たくさんではなく、おおよそでいいので数を教えてくれませんかね?」
「って言われても、たくさんはたくさんだ!」
「……わかりました。 適当なあなたに聞いた私が愚かでしたね」
「おいおい、ちゃんと俺はたくさんって教えたじゃねぇかー」
「それが適当と言うのですよ。 とりあえず、私の後ろに下がってください」
「はーいよっ!」

すたこらさっさと背後にジオラが隠れたのを確認すると、ローダンは目の前のゴローニャ達に持っていた杖を向け、攻撃の準備に入った。

「その光は、道なき道を照らしだし、その炎は、立ち塞ぐ者を焼き尽くす! フェア・ゲーエン! 光輝く炎で敵を焼き払え、シャイニング・フレイム!!」

ローダンの杖から眩い光を纏った巨大な[かえんほうしゃ]が放たれ、たくさんいたゴローニャ達を吹き飛ばした。

「さあ、今のうちに行きますよ」
「あ、ああ」

気絶しているゴローニャの脇を走り抜け、他のポケモンの気配が無い場所まで来ると一息つくことにした。

「さっきのすごい威力だったな! やっぱりあんたに頼んで正解だったぜ!」
「あのぐらいどうってことないですよ」
「魔法使う前の口上みたいなのもかっこよかったよなー! 他の魔法使いはフェア・ゲーエンっとしか言わないから味気ねぇなーって思ってたんだよ! 今度から俺も真似しよーっと」
「別に真似しなくてもいいですよ。 私の場合、口で言った方が頭でイメージするよりも正確にイメージできるので、そうしているだけです。 それより、どのくらい奥まで行く予定ですか?」
「そうだなー、俺が独自で調べた情報によると、このダンジョンの最深部には普通の闇鉱石の数倍以上の魔力を秘めた鉱石があるかもしれないらしい」
「信用性のない情報ですね。 しかし、魔力を秘めている鉱石と言っていますが、それはもう[闇の結晶]なのでは?」
「俺にもよくわかんねーが、[闇の結晶]になる1歩手前ぐらいなんじゃないかなと思ってる。 まあ[闇の結晶]のが俺的には嬉しいけどな!」
「あるといいですね」

そんな話をしながら2匹は最深部を目指した。

―――――――――――――――――――――――――

「いやぁ~助かったよ。 こんだけ闇鉱石が手に入ると思わなかったぜ! それに自然にできた[闇の結晶]まで手に入るなんてウハウハもんだぜ~」
「既視感あるセリフですが目的が達成できたようで何よりです」

満足そうな笑顔で大きな袋を背負うジオラを尻目に、ローダンは呆れた表情をしながら出口を目指した。
あの後2匹は無事に最深部に辿りつき、大きな闇の鉱石といくつか[闇の結晶]を入手する事に成功し、現在は洞窟を出るための帰路についていた。

「ありがとなローダン! おかげで俺の夢にまた1歩進んだぜ! え? 俺の夢が何か聞きたいって?」
「いえ、別に」
「そうか、そうか。 そこまで言うなら話してやろう。 あれは俺がまだスボミーだった頃の話だ。 まだ幼かった俺は――」
「……あなたは会話というものが何か知ったほうがいいと思いますよ」

ローダンの返答を無視し、得意気に自分の話をし始めたジオラ。
どうやらローダンの声は耳に入っていないようだ。
ここまでの付き合いでこうなっては止められないと理解しているローダンは、適当に相槌を打ちながら話を聞き流すことにした。
そんなこんなで話を適当に聞いているうちに、2匹は洞窟の出口が見える辺りまで戻ってきた。

「話すのもいいですが、出口が見えてきましたよ」
「おっ! やっとこの洞窟から出られるのか!」
「……ですが、外は土砂降りのようですね。 出口付近で雨が弱まるのを待ちませんか?」
「えー、いつ止むかわかんねぇじゃねぇかー。 走ればなんとかなるだろ!」
「草タイプのあなたはそれでいいかもしれませんが、私は炎タイプです。 少しは配慮してください」
「でもよー」
「はぁ……。 わかりました。 雨が弱まるまで待ってくれるならば、その見返りとして採れた鉱石は私が持って帰ります。 異論は認めません」
「……わかったよ。 あんたには世話になったしな」

ジオラが渋々と鉱石が入った袋をローダンに渡した。
――その時だった。
突如、大地が大きく揺れ出した。

「危ねぇッ!!」

ジオラに思いきり突き飛ばされ、鉱石の袋ごと洞窟の外に放り出されたローダン。

「ッ! …………たかが地震ぐらいで急に突き飛ばさないで――」

土砂降りの中、泥だらけになった手で目を擦りながら自分を突き飛ばしたジオラに抗議の言葉を投げかけようと振り返ったローダンは、視界に映る光景を認識した瞬間、言葉を失った。

「よ……お。 鉱石も……お前も無事みてぇだな」

ローダンの視界に映ったのは、崩落した洞窟の入り口。
そして、瓦礫の下敷きにされ、傷だらけのジオラの姿だった。

「ジオラさん!! 待っていてください! すぐ助けます!」
「俺のことは……いい」
「何を言ってるんですか!? こんな瓦礫ぐらい私の魔法と技で――」
「やめろ! そんな事したら、完全に洞窟は埋もれちまう」
「ですが、それではあなたが!!」
「いいんだよ。 お前ならわかってるはずだ。 洞窟が崩壊したらどうなるかぐらい」

雨の中、悲痛な顔で訴えるローダンとは対照的に優しい笑顔で話すジオラ。
洞窟の状況は、入り口付近が崩落した状態に過ぎない。
もし、力技で瓦礫を除去しようものなら、その衝撃で最悪の場合は洞窟が完全崩壊してしまう可能性があり、洞窟で暮らす多くのポケモンを危険に晒してしまう。
その事ぐらいローダンにも理解はできた。
しかし、瓦礫に顔と右手以外を潰された状態のジオラは誰がどう見ても重症。
助けるためには悠長に瓦礫を撤去している時間などない。

「わかってますよ! ですが、あなたの命とこの洞窟内に住むポケモンの命、どちらかを選ぶ事なんて私にはできません!!」
「甘ったれた事、言ってんじゃねぇ!!」

まだ動かせる首を無理やりあげてジオラはローダンを睨み付けて怒鳴った。

「あんたは『光炎操る狐の魔法使い』と呼ばれるぐらいのポケモンだろ!? なら、今やるべきことをやれよ!? あんたが今やるべきことはここで嘆くことか? 違うだろ!」
「……ジオラさん」
「弱音を吐くのも嘆くのも今することじゃねぇ! そんなもんは後からでもできる!」
「……そうですね。 今、私がすべき最良のことは救援を呼ぶこと。 ……ジオラさん、待っていてください。 必ず助けを呼んで戻ってきます!」
「へへっ、それでいい。 ほら、これを持って行け」

ジオラは右手で首のスカーフを外すとローダンに手渡した。

「ここから1番近いのはフィンスター二スだ。 もしかしたら、光魔法使いのあんたの言葉を信じねぇかもしれねぇ。 けど、俺のスカーフをディオンって奴に見せれば信じてくれるはずだ」
「わかりました。 それまで死なないでください。 あなたにはまだ対価を払ってもらっていませんから!」
「ハハッ、律儀だな。 ……俺のスカーフ、あんたに託したぜ」

ローダンは立ち上がると、受け取ったスカーフを握りしめて土砂降りの中、救援を呼びにジオラの前から去っていった。

「……ごめんな、ローダン。 仲間になるって対価は払えなさそうだぜ。 もう、全身の感覚がねぇんだ。 だけど、あんたになら俺の夢を託せる。 光魔法使いと闇魔法使いを仲良くさせるっていう俺の夢を……俺はそれで満足だ」

ジオラは1匹、そう呟くと安らかな表情で目を閉じた。


それからしばらくして、事情を聞いたディオンとルマを連れてローダンは崩落した洞窟に戻ったが、ジオラは穏やかな表情で息を引き取っていた。
後日、ディオンからジオラが首に巻いていたスカーフは彼が光魔法使いと闇魔法使いを仲良くさせるとディオンの前で宣誓した際に巻いたものだという事を教えてもらった。
そのために、闇魔法使いの街であるフィンスター二スの代表ともいえる闇鉱石を使って光魔法使いと闇魔法使いの間を取り持とうとしていた事も。
ローダンは彼の夢を引き継ぎ、闇鉱石や闇魔法使いについて知るため、フィンスター二スに移住することを決意した。
光魔法使いである事を隠すため、託された夢を継ぐ決意もこめて、ローダンは紫色のスカーフで右目を覆った。
光魔法使いであるローダンが移住する事に反対していたディオンとルマを納得させるため、洞窟で採れた[闇の結晶]を全て飲みこむ荒業もした。
当然、体内にそんなものを大量に取り込んだ結果、体が拒絶反応を起こし、ローダンは3日3晩、強烈な激痛と吐き気に襲われ続けた。
その過程で赤や黄色といった鮮やかな色と言われたローダンの毛並みは、やや濁ったような灰色と紫色の色に変色してしまったが何とか[闇の結晶]を取り込むことに成功した。
――おかげでリヒトシティに行ってもローダンが『光炎操る狐の魔法使い』と認識されなくなったのは嬉しい誤算であったが――
こうして光魔法使いでありながら、取り込んだ[闇の結晶]により闇魔法が使えるようになったローダンは、闇魔法が使えれば自分も闇魔法使いであると無茶苦茶な理論を通してディオンとルマを納得させ、フィンスター二スに住むことが認められた。


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「[闇の結晶]を体内に取り込ム。 ……命の危険すらある愚行を実行できるポケモンなど、世界中を探しても貴方ぐらいしかいませんヨ」
「……でしょうね」
「その貴方がここに住むと言った時と全く同じ目つきをしているのですから、ワタシに止められるわけありませン」
「……今のローダンなら、俺達が反対してもきっと無茶な方法で突破してくる。 そういうことか?」
「そウ。 ならば、条件付きで承諾したほうがいいですよネ?」

ディオンは逡巡するよう顎に翼を当て、しばらく考えるとローダンの方に視線を移す。
ジオラのためにも、今の自分が1番やりたいと思った事のためにも、引き下がる気の無いローダンの目つきにディオンは深くため息をつくと観念したかのように言った。

「わかった。 ここはルマの意見に従おう」
「くくく……では、条件を言いまス。 ワタシを含めたフィンスター二スに住む全てのポケモンをこのギルドの前に集合させまス。 そこで貴方は光魔法使いである事を告白すると同時に光魔法使いと闇魔法使いが協力し合えることを示すのでス」
「わかりました」
「そうですネ……3日後の夜、なんてどうでしょうカ? 闇魔法使いであるフィンスター二スのポケモンが1番力を発揮できる時間帯でス。 ぴったりでしょウ?」

これはローダンが光魔法使いと闇魔法使いが協力し合えると示せずに反感を買った場合、どうなるかわかっているのかという最後の警告だろう。

「……いいでしょう。 その提案、お引き受けします」
「くくく……3日後が楽しみですネ」
「どうせ、そのセッティングは俺がやるんだろ?」
「もちろんでス」
「チッ、おい。 俺とルマがここまでするんだ。 下手な結果を出したら絶対に許さないからな」
「わかっています。 無理な要求を呑んでいただきありがとうございました。 それではまた」

約束を取り付けたローダンは3日後に向けての準備をし始めるのであった。

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そして、3日後の夜。
ディオンがローダンから重大な連絡があると街中のポケモンに呼びかけ、ギルドの前には多くのポケモンが集まっていた。

「みなさん。 お集まりいただきありがとうございます」

フィンスター二ス中のポケモンの視線がローダンに向く。
心臓の鼓動が高まるのを感じながら、大きく深呼吸をするとローダンは右目を覆っていたスカーフを外し、ゆっくりと目を開いた。
ローダンの瞳の色が銀色である事に気づいた最前列のポケモン達がざわつき始めた所で、ローダンは話し始める。

「前にいる方はお気づきかもしれませんが私は……光魔法使いです」

ローダンの言葉に集まったポケモン全員がどよめいた。

「私は今まであなた達の優しさに甘えて嘘をついてきました。 自分を闇魔法使いと偽り、平然とこの街に住み続けていました。 しかし、そんな嘘も今日で終わりにします。 今までみなさんを騙し続けて、申し訳ありませんでした」

ローダンは深々と頭を下げた。
それに対するフィンスター二スのポケモンからの返事はない。
ローダンは頭をあげて話を続ける。

「現在、私は闇鉱石と光鉱石を使った事業をしたいと考えています。 この事業は光魔法使いと闇魔法使い、双方が力を合わせてはじめて成功するものです」

この事業は2つの魔法使いの力が合わさらなければ決して成功する事は無い。
だが、現実的ではない話でもある。

「……みなさんご存知の通り、光魔法使いと闇魔法使いの溝は深い状況にあります。 過去に光魔法使いと衝突した方もいるでしょう。 今なお、憤りを感じている方もいるでしょう」 

元来、光魔法使いと闇魔法使いの多くは性格が真逆なポケモンが多い。
一朝一夕で協力体制を築くのは難しいだろう。

「しかし、その光魔法使いと闇魔法使いがお互いの知識と技術を持ちあう事により、生活を豊かにするだけでなく、多くの危険に晒されているポケモン達を救う事ができると私は思っています」

あの時……いつも単独で行動していた私に他にも仲間がいれば。
あの時……ジオラの頼みを引き受けてくれる光魔法使いが他にもいれば。
あの時……私が雨など気にせず洞窟から出ていれば。
そんな後悔が私の心に重くのしかかる。
だが、ジオラの死を無駄にしないためにも私はこの事業を成功させたい。
させなければならない。

「……突然、こんな事を言っておいて厚かましいお願いをしているのは百も承知です。 ですが、どうかみなさんのお力を貸していただけないでしょうか? お願いします!」

ローダンは再度、深々と頭を下げた。
しばしの沈黙の後、1匹のポケモンが口を開いた。

「1つ、いいですか?」

声を出したのはこの街の商人であるテイラだった。

「あなたの事情はわかりました。 ですが、あなたは勘違いしているようですね。 この街のみなさんがあなたに憤りを感じている事はありませんよ」
「そうだ! ローダンさんが光魔法使いなのには驚いたけど、ローダンさんはローダンさんだ! きっと、みんなもそう思っているはずだぞ!!」

テイラの言葉を継ぐように息子であるスリックが言い放った。

「ああ、スリックの言う通りだ。 ローダンはローダンであることにかわりねぇ!」
「閉鎖的なワシらに変わってローダンはいろいろしてくれているのをワシらはちゃんと知っとる」
「光魔法使いは好かねぇが、ローダンさんは別だ」
「……みなさん」

スリックの言葉に続いて集まったポケモン達が口々に同意の声をあげる。

「嘘をついていたのは褒められたことではありませんが、あなたがここ数年、流通の少ないこの街のために尽力している事ぐらい、全員知っています」
「……テイラさん」
「しかし、あなたの事業は本当に成功するのですか? 闇魔法と光魔法が打ち消し合うように闇鉱石と光鉱石の効力も互いに打ち消し合うと私は思うのですが」
「今からそれを証明してみせます。 みなさん、少し下がってください!」

ローダンの呼びかけに応じて、この場のポケモンがローダンから数歩離れる。
それを確認すると、ローダンは杖を空に向け、ゆっくりと魔法を発動する言葉を口にした。

「光と闇、合い入れぬ存在が合わさった時、我が炎は新たな未来を指し示す! フェア・ゲーエン! 光と闇の炎、ライトアンドダークネス・フレイム!!」

ローダンが空に向かって放った巨大な[かえんほうしゃ]は半分が光り輝き、半分が大きな影を纏った炎であった。

「なっ!? 光魔法と闇魔法を混合させた[かえんほうしゃ]だと!?」
「へェ。 ずいぶんと面白い事をしますネ」

ローダンの後ろで静観していたルマとディオンだが、今の[かえんほうしゃ]には驚きを隠せなかったようだ。
街のポケモン達も口を開けて今の光景に唖然としている。

「これで証明できましたかね」
「うん! とってもすごかったぞ! ところで今のはどうやったんだ?」

興奮冷めやらぬ様子のスリックがローダンの元に駆け寄ると、キラキラした眼差しで先ほどの[かえんほうしゃ]について聞いてきた。

「まず、光魔法と闇魔法は互いに打ち消し合う性質を持っていますよね? しかし、それは直接ぶつかり合った場合に起きる事象です」
「それはオイラも知ってるぞ。 基本中の基本だからな!」

えっへんと小さな胸を張って答えるスリックに微笑みを浮かべながら問いかける。

「ではどうしたら打ち消し合わないと思いますか?」
「それはオイラにはわからないぞ。 基本中の基本じゃないからな!」

潔くわからないと胸を張って答えるスリックの姿はある意味、清々しかった。

「答えは簡単、直接ぶつかり合わせなければ問題ありません。 私は元の[かえんほうしゃ]を緩衝材とし、光魔法と闇魔法の打ち消し合う事象を回避し1つの技にしました。」
「おぉー! オイラにもできるかな?」
「光の結晶を使用すればできると思いますよ。 私達は魔法使いである前に同じポケモンなのですから」

それからしばらく、街のポケモンから質問攻めにあった。
みんな、ローダンの事を光魔法使いと知っても以前と変わりない接し方をしてくれた。
中には過去の出来事について話した際に涙ぐむポケモンもいたほど、真摯に話を聞いてくれた。
その後、ディオンはローダンの事業に協力してもいいと名乗り出たポケモンの対応に追われ、気が付くとギルドの前にはルマとローダンだけになっていた。

「くくく……貴方の抱いていた不安は杞憂だったようですネ」
「そうですね。 ……ルマさんはこうなると最初からわかっていたのですか?」
「さあ、どうですかネ? ……知っていますカ? 闇魔法使いは閉鎖的な性格のポケモンが多い、という事だけが特徴ではないという事ヲ」
「闇魔法使いの特徴、ですか……」

答えを焦らすかのような怪しい笑みを浮かべるルマを横目にローダンは、世間一般でしられる闇魔法使いの特徴について思い出してみた。
闇魔法使い。
他の魔法使いとコミュニケーションも取ろうとせず、物事を悲観的に考えてしまうポケモンが多い魔法使い。
その性格上、閉鎖的になりやすく、対局の位置にいる光魔法使いと仲が悪い。
しかし、闇魔法使い同士での仲間意識はとても強く、義理堅い一面もある。

「まさか……!」
「くくく……どうやら、この街のみなさんは貴方を仲間と思っているようですネ。 とても羨ましいですヨ。 ホント、羨ましイ……」

最後の方が少し怖く感じたがルマなりに気を使ってくれたのだと思う事にした。

「なら、ルマさんも私を仲間として認識してくれていると考えていいのでしょうか?」
「くくく……ご想像にお任せしまス。 もっとも、貴方の事業がきっかけでフィンスター二スが闇魔法使いにとって住みにくい街になった場合は、貴方を無限暗夜へと誘いますけどネ」
「フフッ、そうならないよう善処します」

笑って答えたローダンの表情は迷いなどもうない晴れた空のような笑顔であった。










これにて闇魔法使いと光魔法使いの橋渡しとして1歩を踏み出したポケモンの物語はおしまいです。
彼はこの後、どのように事業を成功させるのか、その物語は読者である、あなたが探してみるのも面白いかもしれませんね。
しかし、この物語はポケモンだけが暮らす魔法の世界「エアツェール」に数ある物語のうちの1つにすぎません。
さて、次はどのような物語が綴られるのでしょうかね。
熟読したつもりですが、あれこれ設定をつけてしまったので、
禁止事項に該当していないか怖かったりします(^_^;)

ちなみに登場したキャラクターの元ネタは花言葉ですので、
お暇な方は調べてみてください。
[ローダン→ローダンセ] [ジオラ→グラジオラス]

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