サワムラー

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作者:セイ
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読了時間目安:3分
 サワムラー(約800字)




 手が疲れてきた。
 沢次郎は机にペンを置いた。最近はいつもこう。授業の予習に追われ、高校と家の往復で一日が終わる。遠方に住む中学時代の友達の元へも遊びに行っていない。勉強に疲れては、部屋の窓に一瞥をくれてやる。映るのは毎日同じポケモン――サワムラーの姿。庭で柔軟体操する野生のサワムラーの様子を、椅子に腰掛けながらぼんやり眺めていることが多かった。
 ある日の夜。帰宅した沢次郎が庭で目にしたのは、一風変わった光景だった。いつもは一匹だけのサワムラーが今日は何匹もいる。その数、ざっと33匹。群れの仲間だろうか。一匹が家の門の前にお尻を置き、開脚ストレッチ。すると180度開いた脚の向こう、別の一匹が同じように座って脚を開く。2匹のサワムラーの足裏と足裏とが一つに重なった。そして2匹目が道路の向こう側に伸ばした片足の先を、開脚した3匹目が自分のそれとでつなぎ合わせ――と、以下繰り返し。33匹のサワムラーが伸ばした合計66本もの脚は、一本の直線を描くように家から道の向こうへと続いていった。キックポケモン、サワムラー。片脚が最大3メートルまで伸びることで知られている。つまり、この脚たちは約200メートル先まで伸びていて――"じゅうなん"なサワムラーたちを横目に、沢次郎は歩を進め、脚の直線を辿っていった。
 やがて駅に着いた。瓦屋根の下、白熱灯の光が優しげに迎えてくれるだけの木造の無人駅。久方ぶりに訪れた。ここが、家から200メートル先。決して遠くはないけれど、長らく見向きもしなかった道の向こう側。伸ばした脚と脚とが、つないだ足と足とが導いてくれた場所。この先であの子は――足並み揃えて帰り道を歩いた友達は、どんな足取りで町を歩いているのだろう。彼方の地平線まで伸びていく線路に、沢次郎はしばらく見入っていた。
 帰ったら、ストレッチをしよう。ふと思い立つ。手足をほぐして、動かして、明日はもっと遠くの景色を眺めに行くことにした。伸ばした脚が、同じ星の大地を踏むこの足が、自分とあの子をつないでくれる。そう信じて。

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