MOONLIGHT

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作者:ドリームズ
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読了時間目安:14分

この作品には残酷表現があります。苦手な方は注意してください

虹色アンソロジーの小説です!
黒い色に、黄色い星が散りばめられたカーテンの隙間から、朝日が入り込んでくる。丁度顔の辺りに光が当たり、彼女は目覚める。寝ぼけながら閉めきられたカーテンを開けに行く。カーテンを開けた事で、辺りが明るくなる。ああ、朝が来てしまった。今日が始まってしまった。あまりの憂鬱さで、ため息が出る。外の明るさに目を細めた彼女の容姿は、部屋の中が明るくなった事でよく分かった。水色の長い耳。マイナスの模様の入った電気袋。クリーム色の小柄な身体。マイナンである彼女の名前は、アマネといった。彼女の魔法の存在を示す右目は、無造作に伸ばされた体毛によって隠されている。唯一見える左の黄色い瞳には、光は無かった。彼女は部屋の隅に掛けられているハンガーに手を伸ばす。それには、黒いリボンとフリルがついたポンチョが掛けられている。それを装着すると、今度は机の上に置かれた、黒いベールの付いた帽子を被る。これが、彼女が仕事を行う時の格好である。
彼女は部屋を出ようとドアノブに手ををかけたが、開けずに立ち止まり、横にある姿見に使う用の大きな鏡に目を向ける。そして、前に下ろされたベールを上に上げ、片目を隠している毛を横にずらす。そこには漆黒の闇を思わせる、大きな黒い瞳があった。











アマネは歩いて連絡所へと向かう。彼女の家は、ギルドや連絡所から近い場所にあるので、彼女は自宅から出勤している。彼女は朝礼が終わると、依頼を受けるために連絡所へと足を運ぶ。その途中であるポケモンと出会う。

「アマネさん、今から依頼ですか?」
「気をつけていってくるのですよ。」

それはこのエールデタウンの長を務めるラクトと、先程まで朝礼で前に立っていたエールデタウンのギルドマスターのプレリエだった。恐らく偶然ばったり会って、世間話にでも花を咲かせていたのであろう。アマネは、笑顔で返事をした……つもりだったのだが、二人にはその笑みが歪んで見えた。アマネがその場からいなくなると、ラクトは口を開いた。

「それにしても、気の毒ですね……。」
「そうですわね……。まだ二十歳にもなっていないのに、父親をうしなうなんて……。」

プレリエは俯きがちに言う。それを見たラクトも、自然と俯く。

「彼女のお母様は、療養のために故郷に帰られているのですよね?」
「ええ……。彼女達のようないいポケモン達が、何故このような目に合わなければいけないのでしょうね……。」

プレリエがそう呟くと同時に、ラクトは空を仰いだ。















アマネは依頼をこなした後、そそくさと家へと帰る。此処ではゆっくり外も歩けやしない。だって……

「見ろ、闇の魔法使いだ。」
「本当だ。」
「外なんか、出歩かなきゃいいのにな。」

街のポケモン達の視線が刺さる。正確には、街にいる光の魔法使い達の視線だ。昔から、闇の魔法使いと光の魔法使いは仲が悪い。闇の魔法使いは光の魔法使いを侮辱し、また光の魔法使いも闇の魔法使いを邪険に扱う。この時代になっても、その差別は消えずに残っている。しかし、アマネはそんな事はなかった。彼女はこのエールデタウンに住んでいた大地の魔法を宿す父親と、闇の魔法を宿す母親の間に生まれた。それ故、他のポケモンを侮辱するなど、あり得ない行為だと思っていた。しかし、いざ父親が亡くなるとどうだろうか。今まで何もしてこなかった光の魔法使い達が、暴力を振るうようになったのだ。今まで優しく接してくれていたポケモンの態度が、一瞬にして変わった。信じられなかった。あれらは全て、うわべだけの付き合いだったのか?
優しかった母親は、アマネを守り続けた。そのため彼女は肉体的にも精神的にも痛手を負った。その傷を癒すため、彼女は故郷のフィンスターニスへと帰郷している。
初めはアマネも痛め付けられていた。彼女は決してその事を口にしなかった。いや、出来なかったのかもしれない。しかし、毎回傷を作って帰ってくる彼女を見て、マスターのプレリエは可笑しいと思ったらしい。明らかに、戦闘時に出来る傷ではなかったからだ。彼女は毎回ギルドの他の魔法使い達や、時にはプレリエに治療してもらっていた。その度に彼らはアマネに大丈夫かと聞いた。しかし、彼女は決まって

「大丈夫。私が全部悪いから……。」

と言った。腕や足に巻かれた包帯や、頬に貼られた紅い染みの付いた大きなガーゼなどには合わないほどの笑みを浮かべて言うのだ。それを見た彼らは心を痛めた。それをアマネが知る事はこれからもきっとないのであろう。
しかし、最近になって虐める側もバレると思ったのか、彼女を痛め付ける事はしなくなった。しかし、その代わりに暴言の雨が降るようになったのだ。同じポケモンなのに何で……。自分は何もしていないのに……。
彼女の名前は、漢字という古代文字で表す事が出来る。彼女の父親が考古学者だった事が原因であろう。彼女の名前は「普」と書く。「普」と書いて「アマネ」と読ませるのだ。彼女は自分の名前が好きではなかった。それは、彼女の左目の色にあった。彼女の左目は黄色。この大陸では左目の色によって、これからどのような運命を辿るのかが分かる。黄色系の色は、何気ない日常、または非日常を送る事になるはずなのだが、これはどういう事か。非日常だとしても、こんな酷い非日常など聞いた事がない。いや……これが自分の「何気ない日常」なのかもしれない。痛め付けられるのが普通。何気ない日常なのだろう?
彼女は忌々しい魔法が宿る右目を押さえ、聞こえないふりをした。














「今日は皆さんに朗報があります。」

朝礼の際、プレリエはとても嬉しそうに言った。普通は何だと思うだろうが、その疑問は彼女の横にいる存在によってなくなっていた。

「こちらはミオさん。今日からここのギルドで働くことになりました。」
「宜しくお願いします!」

そこにいたのは、ピカチュウだった。アマネと同い年くらいだろうか。少し大きめのカーディガンを羽織り、首もとに三日月の飾りのついたマフラーを巻いている。まだ声変わりをしていない、少し高い少年声で彼は言った。
アマネはというと、凄く浮かない顔をしていた。それは、彼の右目にあった。彼の右目は綺麗な銀色をしていた。それは彼が光の魔法使いだという証拠であった。マスターは何を考えているんだ……。アマネは訴えかけるような表情で、彼女を見ていた。

「彼は、この街に来て日が浅いから、そうね……アマネちゃん、街案内を頼んでいいかしら?」

その言葉に、アマネは唖然とした。マスターは、今なんと言った!?自分に光の魔法を持つ少年を街案内しろというのか!?しかし、断る事も出来ず、アマネは首を縦に振った。
















街案内の際、アマネは無口であった。完全に無口という訳ではないが、施設などの説明をする以外、何も話さなかった。その為、すぐに街案内は終わってしまった。すると、ミオが行ってみたい所があると言ってきたので、彼女は渋々ついていく事にした。そのまま帰ってしまう事も出来たが、それをしなかったのは、彼女も何処かで、これではいけないと思っていたからかもしれない。
彼についていって辿り着いたのは、トレラント山だった。この山は、エールデタウンの少し北に位置する山である。比較的斜面は穏やかなので、ピクニックに来るポケモンも多い。頂上に着く頃には、日が落ちかけていた。一体何がしたいのだろうか。

「ここって夜空が綺麗な事で、一部のマニアの中では有名なスポットなんです。ほら、星が出てきましたよ。」

ミオは、空を指差し言った。それに釣られてアマネも空を見上げた。そこには、満天の星空が広がっていた。今日は新月のようで、いつもは月の光に負けている星達が、我こそはとその存在をアピールしている。まるで自分のようだ。アマネはそう思った。
ミオは、その満月を思わすような黄色い瞳と白銀の瞳を輝かせ言った。

「一度見てみたかったんです!もう少し見ていたいですけど、こんな暗い中、長居するのも良くないですし、名残惜しいですけど戻りましょうか。」

ミオはそう言うと、自身の箒に乗り、山を下っていく。その後を息を潜めるように、アマネもついていった。















エールデタウンに着くと、彼女達は自宅へと帰る為、街中を歩く。すると案の定、いつものように光の魔法使い達の視線が刺さる。しかし、今日はミオがいるせいか、暴言は吐かれなかった。けれども、やはり痛いものは痛い。アマネは、口を固く結び、足を速めた。その光景にミオは失望した。彼女が闇の魔法使いだからという理由だけで、こんな酷い事をしているのかと。光の魔法使いも、落ちぶれたものだなと思った。その時だった。

「私、家ここだから……。じゃあ……。」
「まっまた明日。」

笑顔で言いたかった。しかし、出来なかった。アマネの表情を見てしまったからだった。彼女の瞳は、この世の全てに絶望したかのように、暗く濁っていた。何かに耐えるようなその顔を見ると、笑顔なんて作れなかった。
彼女が家へと入っていくと同時に、ミオの近くに何人かの光の魔法使い達が寄ってきた。何だと思ったが、大体は予想はついていた。アマネには近づかない方がいいという内容だった。しかし、彼はアマネが闇の魔法を持っていようと、関係なかった。

「僕が誰と一緒に居ようが別に良いじゃないですか。少なくとも、僕は彼女を見捨てるつもりは、微塵もありません。」

彼はハッキリとそう言った。














次の日も、ミオはアマネのもとへと出向いた。本当に無意識だった。知らない間に、彼女の事を好いていたのかもしれない。しかし、出向くといっても、その日はミオも依頼を受ける予定だったので、会えたのは、もう日が暮れて空に星が瞬きだした頃だった。アマネはというと、早く家に帰りたかった。彼と一緒にいる所を他の光の魔法使い達に見つかりでもすれば、彼も自分と同じように痛ぶられてしまうかもしれない。どうしてもそれは避けたかった。しかし、昔から誰かの誘いや頼み事を断る事が苦手なアマネは、首を縦に振る事しか出来なかった。
彼女達は、ギルドの屋根に腰掛ける。魔法使いには、箒という便利なアイテムがある。箒を使えば、どんな場所へだって簡単に行ける。二人は暫く夜空を眺めていたが、ミオが口を開いた事により、静寂から解き放たれた。

「僕、つい最近まで入院生活送ってたんです。」

衝撃的なカミングアウトだった。こんな元気そうな彼が入院生活を?アマネは、全く想像がつかなかった。ミオは、相変わらず夜空を見上げながら話していた。彼の病は治りはするが、手術がとても難しいものだったらしい。彼はアマネの方を向くと、微笑みながら言った。

「僕、アマネさんの事、とても尊敬しているんですよ。」

何を言っているんだと思った。こんな会って日も浅いミオに何が分かるんだと思った。そんな尊敬出来る部分なんて、自分にはないと思った。しかし、そんなアマネとは裏腹に、ミオは複雑そうな顔をしながら言葉を紡ぐ。

「先程言ったように、僕の病気の手術は、とても難しいものでした。それだけでとても怖かったですし、何より毎日が苦痛でした。だって、いつこの鼓動が止まるか分からないんですから……。」

ミオの表情に、アマネは胸を締め付けられる。

「何度も投げ出しそうになりました……。こんな辛い人生なら、もういらないと……。だけど、貴女を見て思ったんです。こんなに酷い扱いを受けても、懸命に生きようとしている貴女を見て、自分は何をしていたんだろうかって……。沢山の人に大切に思われている自分がこんな事を思うなんて、どうかしていると。」

正直、そんな事はないと思った。だって、辛かったのは事実だし、自分がそんな目に遭ったら、同じ事を思ったであろう。しかし、彼が思った事なのだから、あえて口出しはしなかった。すると、彼は何を思ったのか、アマネの方に向き直るとこう言った。

「星が綺麗ですね。」

その言葉に、ドキッとした。だって、「星が綺麗ですね」の意味って……















「なんて事があったわよね……。」

アマネは懐かしむように言う。隣には、パートナーのピカチュウ_ミオが佇んでいる。彼女達は、その後チームを結成し、今では凄腕の魔法使いとして、有名になっている。ミオと共にいる事で、アマネも本来の自分を取り戻していき、以前より明るくなった。そのおかげか、街の光の魔法使い達の嫌がらせもなくなった。
今日でチームを結成してから、丁度一年経った。彼女達は、初めて出会った日に行った、トレラント山に出向いた。前は新月だったが、今日は満月が出ており、辺りを淡く照らしていた。

「アマネも以前より笑顔を見せてくれるようになりましたしね。」
「うっうるさいわね!いいじゃないの、良い事なんだから!!」

アマネは顔を真っ赤にして叫ぶ。以前の彼女なら、あり得ない行為だ。そして、もう一つ変わった所がある。それは、彼女の右目にあった。以前まで隠されていた右目は露になっており、その両目には以前のような暗さはなく、綺麗に澄んでいた。
ミオは空を見上げると言った。

「僕、昔から星や月が好きなんです。星や月を見ていると、何処へでも行けるような気がして……。」

彼の瞳はスッと細められていた。まるで、その光から逃げるように。それを見たアマネは、月を見つめながら言った。

「今日は月が綺麗ですね。」

きっと彼の事だから、この本当の意味は知らないであろう。そう思った時だった。

「……有り難うございます。僕も同じ気持ちです。」

そう言ったミオの頬は、ほんのりと赤みがかっていた。そんな彼女達を祝福するかのように、月光が二人を照らしていた。
星が綺麗ですね・・・「あなたに憧れています」

月が綺麗ですね・・・「あなたを愛しています」

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