ネイチャーオールスターズ~世界を照らす生命の輝き~

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作者:花鳥風月
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読了時間目安:132分
2020年 ポケ二次お花見会場用作品(4/4 Part4まで公開済み)
★このしょうせつをみるまえに☆

モモコ「みなさんこんにちは! 『チームカルテット』で魔法使いやってるモモコだよ!」
ライム「オレはライム。タチワキシティの学校にパートナーと通ってるんだ!」
セイヤ「ボクはセイヤっていいます。『チームトゥッティ』のメンバーやってます」
モモコ「この小説の世界に入る前に、読んでくれているみなさんに渡すものがあるんだ。今から説明するね!」
ライム「おいおい、小説なのに渡すものってどういうことだよ?」
セイヤ「なんでも、みなさんの心の中に届けるらしいよ」

 読者のみなさんの心の中に、手のひらサイズの1本の杖が渡る! 先端には桜の花を模した宝石がついている。

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モモコ「今、みなさんの心の中に杖が入り込んだハズだよ。『グレースステッキ』っていうんだって」
ライム「なんか日曜の朝に出てきそうな見た目と名前してるな」
セイヤ「これも魔法の一種なの?」

 セイヤが首をかしげると、モモコは「その通りだよ」と元気よく答える。

モモコ「たとえば、物語の途中でわたし達がピンチになったとするじゃない? そんな時、次元の壁を越えてみなさんの思いを込めながら心の杖を振って欲しいんだ!」
ライム「分かった! よく映画で光るやつ振りながら「がんばれー」って応援するやつだよな!?」

 ライムが目をキラキラさせている。小さいころ、マドカと一緒に映画を見た時、ライトを振りながら映画のキャラクター達を応援したのを思い出したのだ。

モモコ「そうそうそれ! あんな感じでみなさんにもわたし達を応援して欲しいんだ!」
セイヤ「応援の力でボク達が強くなるって、なんだか燃えてくるね」
ライム「というわけで、『ネイチャーオールスターズ~世界を照らす生命の輝き~』!」

3匹「「はっじまっるよー!」」





★Prologue 魔法の国・セレナーデ☆



 どこかの世界にある魔法の国・セレナーデは、黄金色の砂が広がる砂漠地帯に位置している。中心部にそびえたつ大きな城から、1人の男性が地上を見下ろしていた。
 花は一輪も咲いておらず、オアシスともいえる湖もない。目の前に映る景色は砂と、そこに小さな集落を作っている人やポケモンばかり。
 男性__シャドウはこの国を誰よりも愛していた。だからこそ、この住み心地がいいとは言えない現状に心を痛めていた。昔はこの国は砂漠ではなかったことを、知っていたというのも大きい。
 シャドウは椅子に腰かけると、愛用の水晶玉をのぞき込む。こことは違う別の世界は、豊かな自然に溢れていた。
 温かな陽だまり、生い茂る緑、川の水面はまるで星空のようにきらめいている。とりわけシャドウの目を引くのは、満開の桜達。風が吹くたびに桜吹雪が発生し、花びら達が水面でバレエのように踊っている。
 なんてきれいなんだ__シャドウは思った。豊かな自然は、見ているだけで安らかな気持ちになる。特に桜の季節と言えば春。冬の間は眠りについていたポケモン達も、起きてくる頃だろう。心躍る時期であるのは間違いない。
 それと同時にずるい。なんで自分達の国には自然がない。なのに__という妬む気持ちも、シャドウの中に芽生えていた。

「見える、見える。私の世界にはなく、他の世界にはある『生命の輝き』が見える」

 くたびれた顔でそうつぶやくシャドウの姿を見て、1匹のポケモンは辛くなる。フーパと呼ばれる珍しい種族のポケモンは、シャドウのパートナーだ。セレナーデが砂漠化する前から、ずっと一緒に過ごしてきた。

「他の世界から『生命の輝き』を奪えば、セレナーデが復興するんじゃないか……?」

 それはつまり、他の世界も今のセレナーデのような、あるいはもっとよくない事態に陥るかもしれないことを意味している。そのことを、フーパはよく分かっていた。
 そして、他の世界とセレナーデをつなぐ役割__それが自分に課せられているということも、フーパはよく知っている。自分の力が、パートナーによって悪用されるかもしれないのだ。

「トデア、分かっているな。お前のリングはいろんな世界とつながっている。お前の力があれば、この国に自然を取り戻すことができるかもしれないんだ」
「えっ……あ、その……」

 シャドウは口調こそ優しいが、目は笑っていない。国を愛するあまり、手段を択ばなくなってしまったのだろう__トデアと呼ばれたフーパは、そう推測する。
 トデアはパートナーであるはずのシャドウが、まるで知らない人のように見えた。シャドウの何か恐ろしいことを考えている目を見て、トデアは胸のドキドキと震えが止まらない。

「トデア、ちょっと外に出てくる!」

 そう言いながら忙しなく、トデアは城の窓から出ていく。シャドウとは決して目を合わせずに。あのままシャドウと一緒にいれば、自分の身も危ないかもしれないと、本能が言っていた。
 シャドウの言う通り、トデアはいろんな世界をつなげるリングを操る力を持つ。しかし、まだリングの力を上手く扱えないことから、力を制御してもらっているのだ。その力が解き放たれたらどうなるか__それはトデア自身にも分からない。自分でも得体のしれない力を、他の世界から『生命の輝き』を奪うために使われるワケにはいかない。
 人やポケモンの気配がほとんどない、広々とした砂漠に出てきたトデアは、呼吸が短くなっていた。逃げるように城から出てきてしまったが、これからどうすれば。
 セレナーデは砂漠化してから一気に衰退してしまった。優れた力を持つ魔法使いやポケモンは、住みやすさを求めて別の地域に出て行ってしまったのだ。しょうみな話、今セレナーデに住む魔法使い達では、シャドウに太刀打ちするのは難しい。
 
「どうしよう、シャドウが、シャドウが……」

 シャドウと同じくらいの力がある魔法使い。あるいは、強い絆で結ばれた人間とポケモン。魔法使いでなくても、人間とポケモンが力を合わせることで得られるものの大きさは計り知れない。シャドウのパートナーをしてきたトデアだからこそ、考えられた選択肢だ。
 これらの条件にマッチした者を呼び寄せれば、シャドウの目論見も阻止できるかもしれない。トデアはそう考えた。しかし、トデアの魔なる力は完全なものではない。成功するかどうかは、大きな賭けになる。でも、このまま放っておけば、シャドウが取り返しのつかないことをしてしまう。
 
(お願い、誰か助けて。トデアを、この世界を__)

 トデアは自分の右ツノに引っかかっているリングを手に取り、目の前にセットする。そして、助けを乞うようにリングの中へと入っていった。





★Part1 タチワキシティ☆

 

「!」

 学校も部活もないその日、珍しくマドカは早起きをした。なんでも、不思議な夢を見たからだ。
 アラビアンナイトのような砂漠の世界で、三角帽子を被った男の人と紫色のポケモンがいて、何やら話をしていた。話している内容も、よくはっきりと覚えている。『生命の輝き』がどうこうとか、他の世界から奪うとか。最後には、紫色のポケモンが祈るようにリングの中へと入っていったが、夢はそこで途切れている。
 ただの夢であるハズなのに、何となくマドカは胸騒ぎがする。まるで、夢の中の出来事が、本当にあるんじゃないかと。

《うわっ!》

 隣で眠っていたパートナーのエモンガ・ライムが飛び跳ねるように起き上がった。何の前触れもなかったものだから、マドカは驚き我に返った。

「なっ、どしたのライム?」
《マドカこそ。オレより早く起きてるなんて珍しいじゃねーか》
「ちょっと変な夢見て。そしたら目が覚めちゃったの」

 一度、マドカとライムは「中身が入れ替わる」という経験をした。元に戻った後も、マドカはポケモンの言葉が分かるようになっている。あまり大勢の人がいる前では、それをオープンにすることはないのだが。
 夢の中に出てきた紫色のポケモンも、マドカの夢の中ではしゃべっていた。あの三角帽子を被った人は、絵本の世界に出てくるような魔法使いの姿をしていた。魔法の力か何かで、ポケモンと会話をしていると考えてもおかしくないのだが、ポケモンの方がしゃべれる力を持っているようにも見える。いずれにしても、「一般的」にはあり得ないような光景だった。

《変な夢?》

 ライムが気になる様子を見せているものだから、マドカは夢の話をする。話を聞いていくうちに、ライムが何か言いたげな顔をしているのがマドカにもよく分かった。

「__それで、最後は紫色のポケモンが輪っかの中に入っていったところで目が覚めたんだけど……」
《マジ、かよ……》
「マジって?」
《オレがさっき見た夢と、全く同じなんだよ》
「えっ、そーなの!?」

 誰かと同じ夢を見るなんて、幼なじみで大親友のアキヨや実の兄のコウジですらなかったのに。ライムが家でも学校でも、一番一緒にいる存在だから、と言われれば納得がいくが。あるいは、入れ替わったことで夢さえもリンクするようになったとか。様々な憶測を立ててみるが、本当のところはよく分からない。
 ライムもまた、マドカと夢の内容が全く同じであることに驚きをまだ隠せない。これが一体何を意味しているのだろうか。

「よく分からないけど……なんだかんだ言って偶然かもしれないよね! 気にしてても仕方ない!」

 マドカは胸騒ぎする気持ちを振り払うように、そう言い張る。自分の不安が杞憂に終わってくれれば、そんな思いも込められていた。

「それに、アラビアンナイトみたいなあの世界。ちょっと映画みたいだったし! だからドキドキしたのかも」

 続けながら、マドカは思いっきりカーテンを開ける。昨日の夕方ニュースで見たところ、今日のタチワキの天気予報は晴れだったハズ。桜も満開になるって言われていた。きっと窓の向こうには、目がくらむほどロマンチックな桜並木が__。

「えっ」
《どうした、マドカ? ヒヒダルマみてーに固まって__!?》

 マドカが窓の向こうを凝視しているものだから、ライムも気になって一緒に同じ景色を見ようと窓際に身を向ける。そして、外の光景を見て絶句する他なかった。
 イッシュではイタズラ好きな神様と呼ばれるポケモンが言い伝えられていることもあり、天気予報が外れることは珍しくない。傘いらずと言われていた日なのに、土砂降りになる日もある。突然町の建物に雷が落ちては、大騒ぎになることも何度かあった。しかし、今日の様子はワケが違った。
 空は黒い雲が渦巻き、風ひとつ吹いていない。少し遠くに見える港町では、海が干上がっていた。
 これはおかしいと思ったマドカは、身支度を整えるとすぐ外へと飛び出す。もちろんライムも一緒だ。外にはマドカとライムだけでなく、他の住民やポケモン達も姿を見せていた。雨も雷もないのに、どうしてこんなことに。ざわつく人々の心には、不安がのしかかっていた。マドカと同じぐらいか少し年上の学生の中には、スマホで写真や動画を撮ってSNSに拡散しようとする動きも見える。

《マドカ! やべーよあれ!》

 ライムが指さす先は、1本の桜の木。今日には満開になるハズのそれは、バキバキと乱暴な音を立てていた。それが桜の木が枯れていく様であると、見る者すべてが一目で分かる。ひとつの生命が、あっけなく終わろうとしているのだ。まるで、ガラス玉を落としたらすぐに割れてしまうように。
 あの桜の木は、マドカやライムが小さい頃から生き続けていた。新学期に桜が咲くところを見て、「今年度も頑張ろう」っていつも思っていた。小学校やプレイヤ学園の入学も、あの桜がいつもお祝いしてくれていた。それくらいにはマドカにとって、ライムにとっても特別な桜の木だったのだ。

「うそでしょ……なんで? なんでこんな……」

 生命を終えたのは、桜の木だけではない。タチワキ中の草木すべてが、色彩を失って枯れ果てていく。生命の終わりをよく知っているマドカとライムは、余計に胸がジリジリと痛むような気持ちになった。
 ここでマドカとライムは、夢の中で出てきた言葉を思い出す。

「生命の輝き……」

 シャドウとか言ってたか、あの三角帽子の男性は。彼は、生命の輝きを他の世界から奪うと言っていた。でも、まさか、そんな。胸騒ぎの正体ってこれだったのかな__桜の木が生命を終えた悲しさを上書きするように、マドカは信じられない気持ちでいっぱいだった。
 その時。草木をこすり合わせたような音が聞こえてくる。風などによるものではなさそうだ。一番に気付いたライムは、音のする方へと足を運ぶ。ここからすぐ近くの、どこかの茂みの中から聞こえてきた。

「どうしたの? ライム」
 
 マドカはつられるように、ライムの後を追う。
 茂みをいくつか探し、ほどなくして音の主は見つかった。紫色の身体を持ち、耳の代わりにツノが生えている。歳は……見たところライムよりも少し下くらいだろうか。いや、そんなことよりも。

「ね、ねぇ……この子!」
《夢の中のアイツだよな!?》 

 紫色のポケモンは、気を失っている様子だった。ケガはないみたいだが、このまま放っておくワケにもいかない。マドカはポケモンを抱きかかえると、再びライムと共に家に引き返した。





「……うぅ……。うーん……」

 どれくらいの時間が経ったのだろうか。
 マドカの部屋のベッドに寝かせられていた紫色のポケモンが、ようやく重い目を覚ます。マドカとライムだけでなく、コウジのパートナー・ピカチュウのスダチも一緒にポケモンの目覚めを見守っていた。マドカが家に連れてきたとき、ことを説明すると「一緒に見守りたい」と自ら名乗りを上げたのだ。

《あっ! 気がつきましたわ!》

 真っ先に身を乗り出したのはスダチだ。耳につけているピンク色のリボンが揺れている。

「ここは……えっと……」
《マドカ様のお部屋ですわ。あなたが倒れていたところを、マドカ様とライムさんが見つけたんですのよ》

 リンオウが続けるが、いまいち紫色のポケモンは状況が読めていない様子だ。寝起きなものだから無理もないだろう。

《ライムはオレで、マドカはこいつ。お前は……もしかしてトデアか? 夢の中に出てきた》
「うん、トデア、フーパのトデア」

 トデアはうなずく。やっぱり、とライムはすんなり納得した。マドカの方は、夢が正夢になってしまった、と言わんばかりに驚いたような顔をしているが。

「あのねトデアちゃん、知ってたら教えて欲しいの。今この世界で、何が起こっているのか。なんでトデアちゃんがあそこにいたのか」
《おいおいマドカ。そんな詰め寄ったらビビるだろ》

 あっ、とマドカはトデアとの距離が近くなっていたことに気付く。またやっちゃった__マドカは「ごめん」とトデアに謝り、少し距離を置く。それでもトデアは、マドカに対して深いな思いを抱いていない。むしろ、自分も今の状況について伝えたかったくらいだった。

「ううん、いいんだ」

 そしてトデアは話し始めた。自分が何者なのか。この世界で、何が起ころうとしているのか。

「トデア、『セレナーデ』っていう魔法の国から来たんだ。セレナーデって、お花や水がキレイな国だったんだけど、突然全部なくなっちゃって……。パートナーのシャドウは、それでおかしくなっちゃったんだ」
「おかしくなっちゃった、って?」
「どうすればセレナーデが元に戻ることができるか、それを考えていたんだ。どんな手を使ってでも、国の自然を取り戻す。そればかり考えていて」

“どんな手を使ってでも”というトデアの言葉に、マドカとライムは身が強張ったのが分かった。自分達も学校の部活で、手段を択ばないやり方で欲しいものを得ようとした人がいることを知っているからだ。

「シャドウは、セレナーデとはちがう世界にある『生命の輝き』を奪ってしまえばいいって言ってた。でも、『生命の輝き』を奪われたら、その相手の生命も終わっちゃうから……」

 トデアの言うことは、ほぼほぼマドカとライムの見た夢の内容と同じだった。セレナーデの雰囲気も、シャドウのイメージも、すんなりと頭に入ってくる。ただひとつだけ、分からないことがあるとすれば。

《その『生命の輝き』って何なんだよ?》
「生きているもの全てに宿っている輝き。セレナーデだけじゃない他の世界の人やポケモンにも宿っている。もちろん、見えていないだけでマドカとライムにもあるんだよ」
《どうしてわたくし達は見えないんですの?》
「見えるのは、セレナーデの中でも優秀な魔法使いやポケモンだけなんだ。シャドウもそうなんだ」
「へぇ! じゃあトデアちゃんも、すごいポケモンなんだね!」

 えへへ、とトデアは照れくさそうに笑う。不安そうな顔をしていたトデアが、ようやく初めて笑ってくれた。ほんの少しでも笑顔を見れたことが、マドカもライムも、スダチも嬉しかった。
 だがトデアは、また真剣な顔に戻ると話を続ける。

「でもシャドウは、トデアの力を利用しようとしている。トデア、いろんな世界を行き来できるから、いろんな世界の生命の輝きを奪おうと……。でも、トデア、そんなことしたくないから……」

 トデアの声が、微かに涙で上ずった。
 だいたいの事情はここまでになる。入れ替わりというマジカルな出来事を体験したとはいえ、まさか本物の魔法使い__のパートナーポケモンに出会ってしまうとは。自分達のような魔法が使えない一般人・一般ポケモンでも、もしできることがあれば。夢に出てきたのも、何かの縁かもしれない。
 マドカは笑顔を作ると、トデアの頭を優しく撫でてやった。

「ありがとう、トデアちゃん。辛いのに話してくれて」
《オレ達にできること、何かあるか?》

 マドカとライムの優しさが、トデアの心にポッカリ空いた穴を埋めてくれる。パートナーがどこか遠くに行ってしまうような、すれ違ってしまう辛さもまた、マドカもライムも経験していた。だからこそ、同じように心を痛めているポケモンを見て、無意識に寄り添いたくなったのだろう。
 そうしみじみ思いながら、スダチもえへんと胸を張る。

《わたくしもお手伝いしますわ!》
「ありがとう。マドカ、ライム。あと……」
 
 トデアは涙をごしごしと拭うと、顔を上げた。かと思えば、コテンと首をかしげて、ずっと抱いていた疑問を口にする。

「そこのピカチュウ、名前なんだっけ?」





 マドカ達がトデアにお願いされたこと。それは『魔法使いの捜索』だった。
 トデアがこの世界に来た理由が、シャドウに対抗できる魔法使いを探すこと。シャドウは生命の輝きを目で見ることができるくらいには、優秀な魔法使いだ。1人2人だけの力では、不足していることだろう。なるべく多くの魔法使いを見つけ、協力してもらう。そしてトデアと一緒にセレナーデに来てもらえるように、掛け合ってみる。

「トデアの持ってる2つのリング。二手に分かれて別の国へ行こう」

 片方のリングにはマドカとトデア、もう片方のリングにはライムとスダチ。スダチはお姉ちゃん的存在として、ライムと活躍できるのが嬉しそうだ。

「ライムもスダチちゃんも、2匹で大丈夫? あたしはトデアちゃんが一緒だから安心だけど……魔法使いがいる世界に行くんだよね?」
《大丈夫ですわ! わたくしがライムさんをお守りします!》

 それならいいんだけど、とマドカは付け加える。“おや”としてライムと離れることに、不安が残るのだ。

「じゃあみんな、行こう」
《了解ですわ!》

 トデアの号令で、マドカ達はそれぞれリングの中へと入っていく。
 リングの中は、まるで永遠に広がっている宇宙のようだった。夜空みたいに暗く、辺りには星のような輝きが散らばっている。それでいて、まるで吸い込まれていくかのような感覚が、全身にまとわりついていた。自分達が部屋のホコリになって、大きな掃除機に吸い込まれている。そんな感じがする。
 この感覚、どこまで続いていくんだろう。そう思っていると、遠くに金色で縁取られたリングが見える。トデアが身に着けていたものと同じだ。もしかすると、あれが出口なのかな__各々はリングを潜り抜けて、それぞれ別の世界へとたどり着いていた。





★Part2-1 メレンゲ村☆



 ポケモン達だけが住む世界は、いくつもの大陸に分けられている。『夢の大陸』は、その中でも特に小さな発展途上大陸だ。規模の小ささに反するように、住んでいるポケモン達はみな活気づいている。
 小さな集落『メレンゲ村』の魔法使い達も、その一員である。中でも『チームトゥッティ』という魔法使いチームは、新米ながらポテンシャルの高さから期待されている。

「私、お友達とお花見するなんて初めて……。ワクワクしてきた」

 チーム最年少のワニノコの少女・ルリアは大きな桜の木を見てうっとりする。まだ桜は花開いておらず、つぼみのままだが1週間後には開花するといわれている。

「えっ、ルリアそうだったの!? だったら来週は思いっきり楽しんじゃおうね!」

 ルリアの肩を自分に寄せるように、キャッキャとはしゃぐのはチコリータのハノン。チームのリーダーも務める彼女は、いつも元気いっぱいだ。ルリアはびっくりしたのか目を丸くしていたが、ハノンが自分以上にお花見を楽しみにしていることが分かると顔をほころばせた。
 年齢も育ってきた環境もバラバラのチームトゥッティだが、メンバーの仲はとてもいいことで知られている。ムードメーカーのハノンに、ルリアはいつも助けられている。しかし、ハノンはその元気さゆえに突っ走ってしまうこともよくある。

「そういえばハノン、神社の方は大丈夫なの? 季節の変わり目だから、何かしら行事もあるんじゃないかな?」

 たいていハノンのブレーキ役になっているのが、このヒノアラシの少年・セイヤだ。ハノンとは魔法使いになる前からの付き合いで、遠慮が少ない関係にある。

「あ、それはだいじょうぶ! 一番直近の行事は来月にあるから!」
「あんまり無理しないでね……? 季節の変わり目って、体調も崩しやすいから」
「まぁまぁセイヤ。ハノンだって、そこんところはセーブしてるさ」

 エネコの青年・マナトがセイヤをなだめている。チーム最年長にあたる彼は、いわばメンバーの円滑剤。頼れるお兄さん的存在なのだ。セイヤはどうしても、心配してしまうのがサガなのか、「だといいんだけど」と頬をふくらませている。
 しかし言ったそばから、それは突然やってきた。

「!?」

 何かを察知したように、ハノンはばっと空を見上げる。綿あめをちぎったような雲が流れる青い空。まるで何にもないように見えるが、あの空からただならぬ魔力を感じる。
 ハノンは霊感が強く、セイヤ達には見えないようなポケモンの幽霊なんかも見えてしまう。しかし、今感じられる魔力はこれまでに感じたことのないパターンのものだった。魔法使いの魔力、暗黒魔法、霊力__さまざまな力が交錯する世界だが、初めて感じる力にハノンは胸騒ぎがする。

「どうかしたの? ハノン姉」

 ルリアがおずおずとハノンに声をかける。

「あ、ううん……。ちょっと空が変だなって思ったんだけど、気のせいかも?」

 ところが、気のせいではなかったようで。ハノン達の頭上から、ズズズと大きな低い音がうなっている。ティンパニやバスドラムの音とはちょっと違うが、その音はだんだん大きくなっていく。まるで鼓膜が破けそうなくらいに。
 何事かと思いセイヤ達も空を見上げる。そして、空いっぱいに広がる“それ”を見て驚くほかなかった。
 金のリングで縁取られた、巨大な穴が開いている。ハノン達どころか、桜の木まで飲み込んでしまいそうなくらいには大きかった。かと思えば、穴の中から誰かが飛び出してくるではないか!

「おぉおおおおちぃいいいいいいいるぅううううううう!」

 ハノン達からすれば、見たことのない生き物が落ちてきた。頭に毛が生えていて、マントとはちょっと違う布を身に着けている。片割れの紫色の方は、ポケモンかもしれない。人間の少女・マドカとフーパのトデアが、メレンゲ村に不時着した。
 トデアは宙に浮く力があるため墜落せずに済んだのだが、マドカは運悪く頭から落ちた。イタタタ、と頭を押さえながら、マドカはゆっくりと起き上がる。そして、目の前に広がっている景色に心打たれた。萌黄色のじゅうたんが辺り一面に広がっており、遠くには新緑の山が見える。すぐそばには透き通った水が川を作って流れており、太陽の光で水面が輝いている。川を照らす太陽はというと、雲ひとつない青い空に浮かんでいた。

「す、すごい……! 自然がいっぱい! 桜きれい!」

 思わず見とれてしまったマドカだが、すぐに自分の目的を思い出す。遊びに来たんじゃないんだった、魔法使いを探しに来たんだった。この近くにいないだろうか、とマドカが辺りを見回したその時。

「あ」
「えっ」

 マドカとハノンの目が合う。もっといえばセイヤやルリア、マナトも。まるで運命の出会いかのように、ビビビッとくるような何かが、マドカの全身を駆け巡る。それはハノンも同じだったようで、しばらくの間マドカを凝視していた。
 何よりマドカが驚いたのは、自分の目線がポケモン達と同じものになっていたこと。ポケモン達が大きいのか、自分がポケモン達に合わせて小さくなってしまったのか。それは今の段階では分からない。

「は、はじめまして……?」

 マドカはぎこちない様子であいさつを交わそうとする。今までライム達とは普通に会話をしていたマドカだったが、別の世界でもそれが通用するだろうか。気持ち悪いって思われないだろうか。そんな不安を頭によぎらせながら。
 ハノンはそんなマドカの気持ちを察したのか、ニッコリと微笑む。そして、精いっぱいのマドカのあいさつに応えた。

「はじめまして! あたしハノンっていうんだ! あなた、名前なんていうの?」
「あ、あたし、マドカ! えぇっと、この近くに魔法使いっている?」

 ハノンの応えを待つ前に、すぐ近くで大きな物音が聞こえる。何かを崩したようなその音の正体は、すぐに分かった。
 ばっと振り向くとそこには、砂でできた“ナニカ”が3~4体の集団となってうごめいている。物語の世界でよく見る、バケモノや怪物そのものだった。正体不明のバケモノ達は、口から砂のビームのようなものを辺りに発射する。ビームを受けた草木達は、みるみるうちに枯れていった。マドカが朝に見た、桜の木が枯れていくのと同じような光景が、そこにあった。

「あれ、砂の魔物だ……! 魔法の力でシャドウが送り込んでいるんだ!」
「トデアちゃん、どうにかできないの!?」
「トデアが使えるの、リングの力だけなんだ。シャドウの魔法には、敵わないよ……!」

 マドカとトデアは心を痛める。せっかく自然がキレイなこの世界も、生命の輝きを奪われてしまうのか。桜の木が枯れ、辛い思いをしたマドカだが、あんな思いはもう他の誰にもして欲しくない。
 このまま万事休すか。そう思ったマドカとトデアだが、状況の流れが変わろうとしていた。
 ハノンが仲間達と一緒に、砂の魔物に立ちはだかろうとしていたのだ。

「マドカちゃん。さっき、この近くに魔法使いがいるかって聞いてたでしょ?」

 ハノンは前足で、和傘を構えていた。この状況下で和傘、彼女がタダモノではないことがよく分かる。セイヤは鍬、ルリアは鉄扇、そしてマナトはモーニングスターで向かい打つつもりだ。今さらながら、ハノンとその仲間達が紫色のマントと三角帽子を身に着けていたことに、マドカは気付いた。この時点で、もう伏線は張られていたというのか。

「あたし達ね、その魔法使い『チームトゥッティ』なんだ!」

 そう言いながら、意気揚々としてハノンは砂の魔物に突っ込んでいく。それからの光景は、例えるならアクション映画そのものだった。
 マナトが回転しながらモーニングスターで砂の魔物を殴りつける。よろめいたところに、ルリアが水をまとった鉄扇で追い打ちをかけ、たたみかけるようなダメージを与える。続いてセイヤが豪快に炎をまとった鍬でとどめを刺す。一見殴りに殴りを重ねるシンプルな戦い方だが、少しでもタイミングを間違えると、相手に反撃のチャンスを与えてしまう。全員のタイミングを合わせているからこそ、成り立つ連携プレーだった。
 最後の仕上げとして、ハノンが和傘の柄から『やどりぎのタネ』をさらに大きくしたような植物のタネを飛ばす。身動きが取れなくなった砂の魔物は、重なるダメージで力尽きたのかサラサラと音を立てて地面に還っていった。
 危機的状況を脱したマドカ達だが、辺りの自然は元には戻らない。これにはハノン達も驚いていた。
 ルリアが弱弱しい声を上げて、その悲痛な思いを口にする。

「ど、どうしてぇ……? みんなで力を合わせて倒したのに……」
「ルリア。やべーヤツらを倒すことと被害を受けた場所の修復は別問題だ。さっきのヤツら、ミュルミュールでもインサニアでもなさそうだな」
「ボクも見たことがないや。そこの2人なら、何か知ってそうな気がするけど……」

 セイヤがじっと、マドカとトデアを見つめる。全てを話したところで、この子達は協力してくれるだろうか。トデアはビクビクした様子で不安をつのらせる。それでも、生命の輝きは今みたいに奪われてしまう。であれば、自分達ができることをやらなければ。意を決して、マドカはチームトゥッティに話を切り出す。

「あ、あの! もしハノンちゃん達が魔法使いなら、お願いがあるんだけど……!」 

 マドカはトデアから聞いた話の内容と、自分の夢の内容をすり合わせて、チームトゥッティに説明する。セレナーデのこと、シャドウのこと、生命の輝きのこと、トデアがシャドウから逃げてきたこと。説明に自信がないところは、その都度トデアに「合ってる?」と尋ねながら、とりあえず言うべきことは伝えたつもりだ。

「なるほどな、だいたい分かった」
「私達だけの世界じゃなくて、魔法使いがいないマドカさん達の世界も手を出されていたの……」

 神妙な顔をしながら、マドカはうなずく。

「このトデアちゃん、危ないのを分かったうえであたし達に助けを求めてくれたの。だから、世界のためにもトデアちゃんの力になりたいんだ!」

 ここで第2ステップに進めるか。魔法使いのチームトゥッティは、マドカ達に手を貸してくれるだろうか。ぐっと拳を握りながら、マドカは彼らの反応を待つ。緊張が高まる中、少し間を開けて、マドカに向けて返事を口にしたのは、ハノンだった。

「いいよ。あたし達でよければ、お手伝いさせて!」
「ハノンちゃん……!」

 マドカは顔を上げる。ハノンは頼もしそうにマドカとトデアに微笑んでいた。セイヤとマナトも、ハノンと同じような顔をしている。ルリアもまた、少し自信はなさそうにも見えるが、優しいまなざしをマドカ達に送っていた。

「生命が終わっちゃうなんて、やっぱりマズいもんね」
「そうだな」
「知ってるポケモンも少ないのなら、知ってる私達で何とかしないと……!」
「みんな……ありがとう!」





★Part2-2 星空町☆



 ポケモン達だけが住む世界にある大陸のひとつ『音の大陸』。魔法使いの文化が特に進んでいる大陸だ。大きな時計台がシンボルマークの『星空町』でもまた、若き魔法使い達が活躍している。
 この星空町、1週間後に『花見祭り』を控えている。町のポケモン達で桜や音楽、おいしい食べ物を楽しもうというイベントだ。星空町のポケモンは、お祭り好きが多い。そのため、イベントの準備から気合が入るのがお決まりだ。
 海岸からは、春にピッタリともいえる軽快でさわやかな旋律が聞こえてくる。力強く轟くトランペットに、チャプチャプ波が弾むようなフルート。そよ風のように緩やかに響くユーフォニアムと、それらすべてを支えるバリトンサックスの音色だ。
 この世界に最初に来てから、ライムとスダチが真っ先に耳にしたのがこのアンサンブルだった。コンビナートやらポケウッドやらで、ワイワイ賑わっているタチワキとは少し違った、オシャレな雰囲気のある町という印象だ。

「これだけオシャレな町なら、魔法使いもいそうですわね」
「すげー! ポケモン達がほうきで空飛んでる!」

 見たこともない光景に、ライムはエキサイトしている。年相応にはしゃぐライムの姿を見るたびに、スダチは安心する。少し前まで、気を張っていたように見えたライムだったが、入れ替わり事件の後から変わりつつあった。本来の明るく、ちょっとやんちゃな性格が戻ってきたようにも見える。
 しかし、いつまでも観光ムードでもいられない。今の自分達の目的は、協力してくれる魔法使いを探すこと。とりあえずは町の中を歩き、魔法使いっぽいポケモンに声をかけてみるといいのかも__ライムとスダチは、もう少しポケ通りの多いところをうろうろすることにした。

「にしても、ポケモンしかいない世界なんだな、ここ」
「まるでおとぎ話のようですわ」
「こないだの入れ替わりも、ある意味じゃおとぎ話とかマンガみてぇだけどな」
「マドカ様が今もポケモンとお話ができるのも、その名残ですわね」

 そんな世間話をしながら歩いていると、ライムとスダチは異様な光景に出くわす。ポケモン達が自分達の方へとどっと押し寄せてきたのだ。まるで何かから逃げているようにも見える。

「な、何だ!?」
「もしかして、生命の輝きについて何かあったのかもしれませんわ!」
「行ってみようぜ!」

 ライムとスダチは、ポケモン達をかき分けるように先へ先へと進んでいく。ようやく、ポケモン達の波が引いたと思えば、ライム達は窮地に立たされていた。砂の魔物が集団となって、ライムとスダチを囲んでいたのである。
 これがシャドウと直接関係があるのかは分からない。しかし、セレナーデが砂漠の国であることから察するに、この魔物がシャドウの配下的存在である可能性は極めて高い。
 砂の魔物達は、ライムとスダチに一斉に襲い掛かる。こんなたくさんのポケモンかどうか分からないものを、相手にできるだろうか。ライムの『ほうでん』ならできるかもしれないが、砂という特性上、電気を通さないだろう。
 このままじゃやられる__ライムが諦めかけていた時。

「『トルナード』!」

 上空から、光り輝く風が吹き荒れる。砂の魔物達は、身体が砂埃のようになり風と一緒に空中を舞う。自分達は助けられたのか__ライムとスダチがそう思っていると、4匹のポケモンが自分達の目の前に姿を現す。まるで、守ってくれるかのように。
 風を発生させたのは、1匹のハリマロンだった。空飛ぶほうきに乗りながら、右手に剣を構えている。おまけに紫色のマントと、同じ色の三角帽子を身に着けている。助けてくれてありがたい……にしても属性てんこもりだ、とライムは思った。ふと、ライムはハリマロンと目が合う。属性てんこもりでありながら、そのあどけなさを感じさせる雰囲気は自分と変わらない年代の子どものように見える。

「もーっ! 花見祭りのアンサンブル練習してたってのに、ジャマしてんじゃないわよ!」
「まぁまぁコノハ。町の平和を守るのが、僕達魔法使いの役目ですから」
「砂の身体にボロが出てる。ライヤ、コノハ、今がチャンスだ!」

 続いて現れたのはケロマツ、ピカチュウ、フォッコ。これまたかわいらしい見た目をしている集団だ。ハリマロンと同じマントや三角帽子を身に着けていることから、仲間のようなものだろうかと、ライムとスダチは推測する。
 一方の魔法使いポケモン達は、砂の魔物と激しい戦いを繰り広げる。
 ケロマツは水をまとった手裏剣を乱れ打ち、フォッコはまばゆい光のシャワーを降らす。彼らを援護しているのがピカチュウで、弓矢をケロマツ達に放ち続けている。一見同士討ちかとも見えるが、その実全くの逆で、ピカチュウの弓矢を受けて、ケロマツ達のパワーやスピードが上がっているようにも見える。
 やがて砂の魔物達は恐れをなしたのか、あるいは力尽きたのか地面へと還っていく。ひとまずは追い払うことに成功したようだ。

「大丈夫? ケガとかない?」

 ハリマロンがすぐさま地上に降りてくる。大丈夫ですわ、とスダチが丁寧に答えていると、ケロマツ達も駆け寄ってきた。

「魔法使い……?」
「え?」
「あ、えっと。オレ達魔法使いを探してるんだけど、もしかしてお前らそうかなーって思って」
「いかにも! アタシ達は魔法使いよ! そしてアタシは、プリティー魔法使いコノハちゃん!」

 フォッコはコノハと名乗り、じりじりとライムに詰め寄っている。ほのおタイプということもあり、暑苦しい空気が漂っていた。そこにブレーキをかけるのが、他の3匹の役目。

「暑苦しいぞ、コノハ」
「目の前のエモンガ、すごい困った顔してるよ!」
「えっ! もうやだアタシったら~!」

 なんだかマドカみたいなヤツだ。ライムとスダチは、心の中で意気投合していた。

「初めまして、僕達は『カルテット』という魔法使いチームなんです。魔法使いを探しているって言ってましたけど……」
「そうですわ! 実は__」

 ライムとスダチは、今この世界で起こっていることについてチームカルテットに説明をした。朝起きたら、桜の木があっけなく枯れてしまったところから始まり、自分のパートナーがフーパを連れて、他の世界に助けを求めに行っているところまで。
 今回の件についてトデアのように専門知識がないライムとスダチは、「ざっくりとしているけど」と前置きをしているが、重要な点はすべて伝えたつもりだ。

「やべーやつじゃん、それ」
「クライシスとはまた違うんでしょうか……?」
「ライヤが分からねぇって相当だな」
 
 ピカチュウのライヤは、かなり物知りであることが伺える。ライム達がその目で見た生命の輝きが奪われる事件は、あまり多くの人やポケモンに知られていないのだろう。魔法使いに、しかもこんなにも早いうちに伝えることができてよかったと、ライムは心の底から思った。

「オレ達も魔法は使えねーし、今も何が起こってるのか全部は分かんないんだ」
「でも! 現実にさっきみたいな砂のバケモノもいましたの! だから、魔法使いのみなさんのお力を、お借りしたいのですわ!」
「お願いだ!」

 ライムとスダチは、そろって頭を下げる。そこまでするか、とチームカルテットはしどろもどろ。でも逆に言うと、ここまで深刻なことになっているとも考えられる。それに、いつも戦っているような敵とは違う存在が、星空町に現れた。だとすれば、自分達のいる世界もどうなるか分からない。
 そうなれば、出す答えはひとつ。チームカルテットは、全員が同じ考えで一致していた。

「分かった! わたし達協力するよ!」
「ほ、ホントか!?」
「うん! わたし、モモコ。よろしくね!」
「オレはライム。本当にありがとう!」

 ハリマロンと名乗ったモモコが、ライムと握手を交わす。これでようやく、解決の糸口が見えてきたかもしれない。ライムはそう思った。
 しかし、まだまだ安心はしていられない。ここからマドカ達と合流し、セレナーデに向かわなければいけないのだから。





★Part3 子ども達の出会い☆



 リングを潜り抜け、マドカ達はマドカの部屋に戻ってきた。ハノン達チームトゥッティは、初めて見る人間のいる世界に驚いている。夢の大陸に住むポケモン達からすれば、人間はおとぎ話に出てくるような、いるのかいないのかも分からない存在。その人間がポケモン達と生きている世界を見るのは、新鮮を通り越して驚きしかなかった。

「こ、ここが人間の世界……人間のお部屋……」

 特におどおどした様子でビビっているのはルリアだ。人見知り__改めポケ見知りが激しい彼女は、見るものすべてに酔いそうになっている。対象的に落ち着いているのが、マナトだった。興味津々に人間のいる世界を、なめ回すように観察している。
 ほどなくして、少し遅れた形でライムとスダチが帰ってきた。チームカルテットを引き連れて。おかげでマドカの部屋は、ちょっとしたサファリパーク状態だった。幸い、小柄なポケモンばかりでマドカの部屋がキャパオーバーになることはなかったのだが。

「すっごーい! 人間のいる世界って初めて!」 
「星空町の建物の何倍も大きいですよ! どうやって造ってるんでしょうか!」

 中でもコノハとライヤは大はしゃぎ。ケロマツのミツキは落ち着いたように見せているが、どこかそわそわしていた。内心でははしゃぎたくて仕方ないのかもしれない。
 3匹の誰とも違う様子を見せているのは、モモコだった。どこか懐かしいような、安心したようで少し寂しい思いが込み上げてきていた。人間からポケモンの姿になった、という事情を持つモモコは、久しぶりに人間のいる世界に来た__帰ってきたことになる。何も思わないことはないのだ。

「あれ!? もしかしてチームカルテット!?」

 ハノンがチームカルテットの姿を捉えると、驚いたように声を張り上げる。チームカルテットもチームトゥッティも同じマントを身に着けていることから、顔見知りだったのだろう。ハノンの声に応えるように、モモコも大喜び。知り合いがいることで、心強さが一気に増していた。

「ハノンちゃん? ハノンちゃんだぁ!」
「お前らも来てたんだな!」
「すごい緊急事態、ってカンジだけど……チームカルテットもいてホッとしたよ!」

 一方のマドカはすぐにライムを見つけると、ぎゅっと抱きしめる。いつも一緒にいるからこそ、ライムもマドカが無事に帰ってきたことを確認すると安心した。

「ライム、スダチちゃん! 無事に帰ってきたんだね!」
《マドカ様も無事でよかったですわ!》

 感動の再会を喜んでいるところに、外からひとつの声が入り込んでくる。マドカとライム、スダチにとって、馴染みのあるこの声はすぐに分かった。

《マドっち~! ライムく~ん! 大変! 大変だよ!》

 声の主はマリルの男の子・リンオウ。マドカやライムとは幼なじみにあたる。マドカが窓を開けると、リンオウは1匹でマドカの家の前まで来ていた。いつもなら、彼のパートナーのアキヨに連れられているハズだが、どういうことだろうか。

《タチワキ中の人やポケモンが、何かヘンなんだ!》

 どうやらタダゴトではない様子だ。もしかしたら、出会っている間に何かあったのかもしれない。一同は忙しない様子で、部屋から出て行った。





★Part4 セレナーデへ☆


 リンオウから詳しい話を聞くために、マドカの部屋から外へと出てきた一同。リンオウの口から語られたのは、あまりよくないタチワキの現状だった。
 草木の枯れは朝よりも進んでおり、人やポケモンの姿も見えない。

「「人やポケモンが倒れていく!?」」
《次々とみんなの調子が悪くなって……。アキヨちんも今、おうちで寝てるよ》

 それもそのはず。リンオウの話によれば、身体の不調を訴える人やポケモンがこの短時間で後を絶たないというのだ。その原因は、詳しいことは分かっていない。いきなり高熱が出たとか、一斉にお腹が痛くなったとか、明らかに病気といえるものではない。何となく頭が痛い、だるい、何もする気が起きない。そんなカンジの“なんとなく”調子が悪い状態が、タチワキに住む者達に蔓延しているというのだ。
 大親友のアキヨもその中にいると聞き、マドカは彼女の身を案じる。

「アキヨちゃんが!? 大丈夫なの!?」
《熱もないしどこか痛いってワケでもないみたいだから、たぶん……。でも、朝からタチワキがヘンなんだ。何か関係があるんじゃないかなって思ったんだけど……》

 チームトゥッティはメレンゲ村の生命の光が奪われたさまを見ているが、チームカルテットは生命の輝きが奪われた成れの果てを目にするのはこれが初めてとなる。このままでは、自分達の住む町も同じことになるのではないか。いや、それよりも前に、マドカやライムは辛い思いをしているんだ。想像するだけで、チームカルテットは心が痛くなる。
 そんな中で追い打ちをかけるように、トデアが重い口を開く。

「きっと、シャドウが人間やポケモン達からも、生命の輝きを奪い始めているんだ」 
「生命の輝きって、植物とかが奪われたら枯れるんだろ? そしたら、人やポケモンって__」
「このまま放っておくと、死んじゃうと思う」

 ミツキの言葉に被せるように、トデアは残酷な結果を告げた。
 トデアは分かっていたのだ。ゆくゆくはシャドウが人やポケモンの生命の輝きに干渉しようとすること、またその結果を。そして、シャドウは優秀な魔法使いだから、敵う魔法使いが少ないということも。
 一同は途方に暮れる。様々な世界をまたいだ規模の緊急事態を、どう乗り越えればいいのだろうか。

「そんなの、ダメだよ!」

 啖呵を切ったのはマドカだった。マドカは自分にとって、“特別”な桜の木から生命の輝きを奪われた。だからこそ、シャドウのやり口を許せない気持ちが誰よりも大きい。それを抜きにしても、生命の終わりがどんなものか、マドカはよく知っている。幼いころに参列した、ライムの母の葬式。入退院を繰り返してきたライムの過去。家族の一員や、大切な誰かの“死”に直面してきたマドカだからこそ、この理不尽な状況は我慢ならなかった。

《マドカ……》
「桜の木も、大好きな人も、みんな死んじゃうなんて、そんなのダメだよ。辛すぎるよ……」
「俺だって嫌だ。生命を奪うなんて、そんなやり方間違ってる!」

 ミツキもまた、同じ気持ちだった。魔法使いとして、魂を抜き取られたポケモン達を助ける仕事をしている。魂を抜き取られているポケモンは、一時的とはいえ仮死状態になっているのだ。だが、ミツキがここまで思いを強くさせているのには、もうひとつ理由があった。
 仲間のモモコのことだった。モモコは小さいころに、命に関わるかもしれない病気にかかっている。それは今でも変わらず、死と隣り合わせの状態で生きている。大切な誰かがいなくなるかもしれないことの恐ろしさは、分かっているつもりだった。

「あたしも! 嘆き悲しむ魂が増えるのは、メレンゲ村の巫女としてガマンならないよ!」

 ハノンも声を上げる。霊感が強いハノンは、ポケモンの幽霊が見える。自分で望んでいなかった生命の終わりを迎えた魂とも、触れ合ってきたのだろう。現にご近所さんのセイヤが、魔法使いの戦いに巻き込まれた家族を亡くしている。同じような思いをする人やポケモンは、もう見たくなかった。

「ねぇ、トデア。これからトデアの国に行けばいいんだよね?」
「……うん。トデアのリングで、セレナーデに行けるよ」

 モモコの問いに、トデアは小さくうなずいた。しかしながら、トデアはずっとおどおどしている。シャドウがいかに手ごわい存在か、パートナーであるトデアが一番よくわかっている。道を踏み外そうとしているパートナーを、食い止める事ができるのか。その不安が、ずっとつきまとっているのだ。
 トデアの気持ちを察したのか、マドカは元気づけるような言葉をかけてやる。

「大丈夫だよ、トデアちゃん。あたしは魔法使いじゃないし、ポケモンでもないけど……。これだけたくさん魔法使いが集まってくれたんだよ。きっとなんとかなるって!」

 根拠のない自信のように見えるが、ライムはマドカの真意をよく分かっていた。マドカは口ではああ言っているが、本当は戦う力がないことにコンプレックスを抱いているハズだし、不安も抱えているだろう。でも、不安ばかりを抱いていたら、何も始まらない。それに、周りには自分の話を信じて集まってくれた魔法使い達がいる。だから頑張れるのだと。
 マドカの励ましは、周りだけでなく自分自身にも言い聞かせているのだ。

「マドカ……そうだよね」

 トデアは意を決し、右ツノのリングをセットする。ここにいる全員が潜り抜けることができるように、魔力を込める。このトデアの魔力は本物であり、一瞬でリングの大きさを増すことに成功した。魔法使い歴がそこそこにあるチームカルテットは特に驚いている。
 かくして、いよいよセレナーデに行くこととなる一同。シャドウがいるということを考えると、緊張が走る。でも、仲間となってくれるポケモン達がこれだけいるならば、きっと大丈夫。誰もがそう信じていた。

《何だかよく分からないけど……。タチワキ以外のところも、大変なことになっているみたいだね》
《その通りですわ》
《僕、アキヨちんを助けたい。マドっち達について行ってもいいかな?》
「もちろんだよ!」

 リンオウもまた、自ら同行を志願する。パートナー__大切な人を助けたいという気持ちは、彼も同じだった。

「じゃあ、行くよ」

 トデアの号令で、一同はリングをくぐっていく。星空町やメレンゲ村を行き来した時と同じ要領だろうと思っていたが。

「「うわぁああああああぁああーッ!?」」

 タチワキからセレナーデに行くにはかなりの魔力が必要だった。それはすなわち、リングに吸い込まれていく力も大幅に増加していることになる。
 ヤバイ、ヤバイ、ヤバイ。どこまでも落ちていく。このままじゃ、あたし達の身体が引きちぎれそう。一周回って楽しくなってきた。まるでライモンの遊園地にあるような、ジェットコースターみたい。
 マドカはそんなことを考えながら、吸引力に身をゆだねるように落ちていく。辺りを見回しても、どうにも薄暗い。自分の家も庭も、もうどこにもなかった。ただその代わり、自分達と一緒に吸い込まれてきた砂埃や雑草が宙を舞っている。
 このままどこまで落ちていくんだろう__そう考えていた時、ようやく金で縁取られたリングが見えてきた。向こう側から光が差し込んでいるということは、あそこが出口なのかな。
 予想通りだったようで、一行は出口と思われる方へと引き寄せられていく。そしてようやく、長い長いフリーフォールモドキは終わりを告げた。

「いったぁい!」
「目が回るかと思った……」

 一同がリングを潜り抜けると、そのまま地上へ真っ逆さま。落ちた先は、サラサラした砂の上だった。ちなみに一番乗りはチームトゥッティ。
 たどり着いた場所は青い空、強すぎる日差し、広大な砂丘。絵にかいたような砂漠だった。日差しの強さは、くさタイプのハノンやみずタイプのルリアには刺激が強すぎたようで、2匹は顔をしかめる。
 辺りを見回すと、ポケモンや人間が集まっているような場所がある。少し遠くに目をやると、丸い屋根の建物がいくつも並んでいる。中でも一番大きな建物は、まるでお城のようにも見えた。ここがセレナーデなのだろうと、チームトゥッティは推測した。

「「ぎぇえええええええ!」」
「「落ちるぅうううううう!」」

 続けてチームカルテットやマドカ達も落ちてくる。

「うっわ、口の中に砂入ったぁ!」

 マドカは砂に埋もれた顔を上げると、「ぺっ、ぺっ」と苦い顔をして砂を吐く。

「ライムは!? リンちゃんもスダチちゃんも、みんないる!?」
「そんなデケー声出さなくてもいるって。でも、なんだよここ。夏みたいに熱いぞ……?」
「みずタイプの僕はカピカピになりそうだよ」
「マドカさんも無事でよかったですわ」

 ライムとリンオウは、特に砂漠に慣れていないのか、その暑さにげんなりしている。スダチやコノハは、汚れた身体をぷるぷると振るわせ、砂埃を振り払う。あの人間は、マドカという名前の女の子であることも間接的に分かった。

「みんな、大丈夫ですか?」

 一方で、ライヤが残った面々の様子をうかがっている。このうちモモコは、は目を回して伸びている。ミツキの「おーい、生きてるか?」という声掛けに右手を上げていることから、かろうじて意識はあるようだ。

「ここがセレナーデだよ。魔法使いがポケモンと一緒に暮らしているんだ」

 トデアの案内で、一行はセレナーデの通りを探索する。
 セレナーデの風景は、マドカとライムが夢で見たものと全く同じだった。土壁の建物が立ち並び、頭にターバンを巻いた人々がポケモンを連れ歩いている。少し歩くと砂煙が立ち込め、呼吸器が敏感な者は咳き込んでしまう。おまけに太陽がギラギラと町を照らしており、お世辞にも住みやすいとはあまり言えなかった。
 実際、通り過ぎる人の目は生気を失っているものが多い。ここいらをナワバリとしているポケモン達もまた、じめんタイプやいわタイプのポケモンが多かった。

「ライム、大丈夫? 顔が死んでるよ」
「モモコもどうだよ? 埃っぽいと息苦しいんじゃねーか?」
「いや、へーきへーき。余裕」
「わたしも」

 ライムは体力がなく、モモコも呼吸器が強くない。パートナーともいえるマドカやミツキが、それぞれ心配するのも無理はない。実際、ライムはセレナーデの暑さにバテており、モモコも砂煙が舞うたびにマントで口元を抑えている。
 それでも2匹は心配をかけさせまいと、強がるようなそぶりを見せている。ここまで来たのに、自分達の都合でくたばっていられるかという意思が、モモコからもライムからも見て取れた。ミツキとマドカは目を合わせると、「お互い大変だな」と言いたげに苦笑いする。
 この一連の流れを見ていたライヤとコノハ、スダチとリンオウはそれぞれ「似た者同士だ」と心底思っていた。

「あっ、トデア! あれなぁに!?」

 セイヤが声を上げ、一行は足を止める。目の前には確かに、三日月型の大きな石像が聳え立っていた。気が付けば、ここは町の中心部のようなところだったようで、なんとなく人通りも多い。石像周りに腰かけている人やポケモンがいることから、ちょっとした憩いの場にもなっているようだ。
 何の変哲もないただの石像のように見えるが、隣には石板が立てかけられている。そこには説明書きのように、何かが彫刻で書かれていた。トデアがふよふよと石板の前まで来ると、静かに読み始める。

「『この石像は、生命の輝きが集まるほど光り輝きます。その時、きっと大いなる奇跡が起きることでしょう』」

 大いなる奇跡が何を意味しているのか、それはトデアにも分からない。しかし、この石像がずっとセレナーデを見守り続けてきたことには間違いないようだ。そして、やはりここにも現れた『生命の輝き』というキーワード。今回の事件のヒントになればいいのだが、と一行は自然と思ってしまう。

「これは生命の輝きに反応して光りだす、不思議な石像。トデアやシャドウが生まれる、ずっと前からあるんだって」 
「トデアはこの石像が光っているの、見たことがあるのかい?」

 マナトが興味深々に尋ねる。

「1回だけ。あの時はセレナーデもこんな感じじゃなかった。植物も水もあって、キラキラしてた。人やポケモン達の輝きも、もっと__」

 まるでトデアの言葉に被さるかのように、ザーッと大きな音が辺りから聞こえてくる。石像や一行を取り囲むかのように、砂の魔物が姿を現していた。ところが今回は砂の魔物だけではない。岩をいくつもブロックのように積み重ねた、人型の魔物も混じっている。
 ルリアが悲鳴を上げながら飛び跳ねているところを、ハノンが前に出て守るように構えている。自分達の世界で、大切なものを守るために戦っている魔法使いだが、だからといっていつも堂々としているワケではない。実際、この砂や岩の魔物達は魔法使いポケモン達の何倍も大きな身体をしている。まだ子どもというくくりに入る魔法使い達なら、恐れをなしてしまう方が自然だ。

「ひぃっ! また怖いの出たぁ!」
「また魔物ね! メッチャ襲ってくる!」
「大丈夫です! 数だけでは向こうと僕達とで、そう大差はないハズです!」

 一方でライヤは気丈に振る舞っていた。弓を手に持ち、いつでも攻撃ができるように構えている。賢いライヤは、この状況が自分達にとって100パーセント不利ではないことに気付いていた。
 ここで真っ先に先陣を切ったのは、ミツキだった。魔物達の頭上まで大きくジャンプし、水をまとった手裏剣を雨のように降らせる。そこにモモコも続き、風の刃で魔物達の足元を狙う。

「そうと決まれば行くぞ! 『流星群落とし』!」
「『トゥールビヨン』!」

 ミツキとモモコに触発されるように、コノハも続く。その背後から、ライヤが光の弓矢を放ち、能力を底上げしてくれていた。おかげでコノハがハートのステッキから放つ炎は、魔物1体をまるまる包み込むほどの威力を誇っていた。
 もちろんチームトゥッティも負けていない。マナトのモーニングスターは岩の魔物の身体を崩しており、ハノンが巨大な宿り木で砂の魔物の動きを封じている。そこにセイヤとルリアがたたみかけるように殴る。セイヤは炎をまとった鍬、ルリアは水流を発生させる鉄扇で。

「ルリア、とどめは任せたよ!」
「わ、分かった! えぇええーいっ!」

 この魔法使い達の激戦を、眺めているマドカ達。初めて会った時も助けられ、今もこうしてみんなが頑張っているのを見ているだけでいいのだろうか。でも、自分達は魔法使いはない、ただの人間とポケモンなのだ。
 葛藤していたマドカの足を、つんつんとリンオウがつつく。リンオウはマドカを見上げ、提案をする。

「僕達も助太刀した方がいいんじゃないかな?」
「そうですわね! マドカ様、わたくし達に指示をお願いしますわ!」
「できることあったらやるって、言ってたじゃねーか」

 スダチとライムも続ける。
 そうだった。あたし、自分で言ったじゃないか。これだけたくさんの魔法使いが集まったから、大丈夫だって。なんとかなるって。だったらそれを、自分の力で照明しなきゃカッコがつかないじゃないか。
 ペチンとマドカは自分の両頬をたたき、気持ちを改める。気合十分のマドカの指示が、辺りに響き渡った。

「わかった! リンちゃんは『アクアテール』、スダチちゃんは『ほっぺすりすり』! ライムはそのあと『ほうでん』!」



 この戦いの様子は、水晶玉を通してある者から見られている。チームカルテットとチームトゥッティ、そして、魔法は使えないが魔物に立ち向かおうとする子ども達。彼らが魔物達を相手に善戦している。
 水晶玉の持ち主__シャドウにとってこれは誤算だった。この光景をしっかりと見てみれば、パートナーのトデアがいるではないか。外に出ると言ったきり、いなくなったと思えば。シャドウは、別の世界から来た子ども達がトデアに連れて来られたものと分かっていた。やっかいな子ども達を仕留めるために魔物を召喚したが、これではまるで意味がない。

「トデア、余計なことをしてくれたな」

 魔法使いのピカチュウが、「数では大差ない」と口にしていた。とすれば、この大所帯をバラバラにしてしまえば、確実に葬り去ることができるのだが。
 いや、待てよ。
 ふと、シャドウはあることを思いつく。この子ども達、生命の輝きにあふれている。彼らの輝きを奪えば、セレナーデの復興に利用できるかもしれない。思い立ったようにシャドウは、パチンと指を鳴らした。これであの子ども達も終わりだ、そう確信しながら。



 シャドウの魔法の効果は、すぐに戦う魔法使い達に現れた。空間が大きくゆがみ、足元がおぼつかない。各々の周りの景色は、ぐにゃりと溶け合っていく。空の青、土の茶色、ポケモン達の身体のいろんな色。目がチカチカして、酔いそうだった。
 耳の奥がギィインと変な音がする。耳鳴りだろうか。頭もクラクラして、立っていられない。でも、今ここで倒れるワケにはいかない。
 そうは思っていても、シャドウの魔法に耐えられる力は子ども達にはなかったようで。一行の意識は、徐々に薄れていった。





★Part5-1 おもちゃの国のビックリハウス☆



「うぅ……うーん……」

 意識を取り戻したリンオウは、ゆっくりと起き上がる。辺りは何もない、広々とした草原。さっきまでいたセレナーデとは、違う場所に来ているようだ。確か自分達は、トデアのリングでセレナーデに行き、石像の前で魔物と戦っていたら、空間が歪んで、意識を失った。ことの経緯をちゃんと覚えていることに、リンオウはホッとする。
 しかしながら、マドカやライム、スダチの姿はどこにも見当たらない。その代わり、マドカ達が連れてきたという、紫色のマントを羽織ったポケモンが2匹、自分のそばで倒れていた。ピカチュウのライヤとエネコのマナト。2匹とも魔法使いだったハズだ。

(マドっち、ライムくん……スダチん……?)

 ほどなくして、ライヤとマナトも目を覚ます。意識を失う前に、目の前がぐにゃぐにゃしていたこともあり、目覚めはあまりよくなさそうだった。

「ど、どこでしょうか、ここは……」
「まだ頭がガンガンする……」

 マナトが痛む頭を押さえている。ライヤも帽子の形を整えながら、今自分が置かれている状況を確認していた。見覚えのない場所、はぐれた仲間達。幸い一緒にいるのは、ちょっと顔見知りの魔法使いと初対面の幼いマリル。心を完全に許している相手がおらず、若干の不安がよぎる。
 だが、それはマナトもリンオウも同じだ。全員が不安を抱えて立ち止まっていては、何も始まらない。そう思ったライヤは、自ら率先してリンオウに声をかける。

「あなたは、確かライムやスダチさんと一緒にいた子ですよね」
「リンオウだよ! えっと、僕達の他に誰かいるのかな?」
「いや。見たところ、俺達だけみたいだな」
「他のみんなとは、はぐれちゃったんですね……」

 ライヤの言葉に、リンオウは俯いてしまう。マドカ達はどこにいるのだろうか。無事だろうか。魔物に襲われていないだろうか。様々な心配ごとが、リンオウの小さな心にのしかかった。

「どうしよう。トデアくんもいないし、僕達だけで……」

 心細さから、リンオウはふにゃんと顔を歪ませる。つぶらな瞳には涙の膜がうっすらと張ってあり、今にも涙がしずくとなってこぼれ落ちそうだった。リンオウの気持ちを察したライヤは、優しく声を投げかける。マナトもライヤにつられるように、リンオウが立ち上がれるような言葉を選んだ。

「大丈夫ですよ、きっとすぐに見つかります」
「そのためにも、まずここがどこなのかハッキリさせないとな」

 魔法使いお兄ちゃん2匹の言葉は、リンオウにとってとても心強いものだった。うるうるした目をそのままに、リンオウはニッコリと笑ってうなずいた。
 そんなやり取りをしている時だった。ガチャガチャと音を立てながら何者かが近づいてきたのは。怪訝な顔をして3匹が音のする方を向くと、1体のロボットが立っていた。2本の脚で立っているその姿は、ポケモンというよりも人間に近いものだった。

「コンニチハ。オモチャノクニヘ、ヨウコソ。ココハ、パスポートフヨウノ、ダレデモハイレルステキナオクニ。ゴユックリ、オクツロギクダサイ」
「おもちゃの……国?」
 
 目の前には、カラフルなブロックで組み立てられた大きな門が聳え立っている。何だかよく分からないけど、仲間達と合流するには周辺情報から。ライヤとマナトの考えは一致していた。手始めに3匹は、おもちゃの国に入ることとした。





「見て見て、ライヤくん! マナトくん! ロボットが歩いてる! カロスのお人形さんも!」

 おもちゃの国は、文字通りおもちゃ達が意思を持って暮らしている国だった。住民だけでなく、建物や動いている乗り物まで、町を構成しているものすべてが、おもちゃでできていた。町中を駆け回りながら、リンオウは見るものひとつひとつに目を輝かせている。
 リンオウが大はしゃぎしている姿が、3匹の中で最年長のマナトにとっては微笑ましかった。幼い子どもというのは、気持ちの切り替えが早い。そのことを、マナトはよく知っているつもりだった。

「ずいぶんはしゃいでいるな、あのマリルの坊や」
「でも確かに、興味深いですね。どんな仕組みでおもちゃ達が動いているのか……」

 ライヤもまた、おもちゃの国について興味津々だ。魔法のひとつの可能性もあるが、もしかしたら科学で動いているのかもしれない。普段から勉強が好きな方であるライヤは、一度気になる物事があると、その仕組みや起源を考えずにはいられない。いわゆる、探求心が抑えられないタチだ。

「そういえば、マナトさんも魔法使いなんですよね。どこの町ですか?」
「メレンゲ村だよ。そっち__音の大陸は大変だろ。暗黒魔法の被害が特に増えてるって聞いてるぞ」
「そうなんです。ポケモン達のミュルミュール化がどんどん進んでいて」

 思えば、音の大陸以外の魔法使いとゆっくり話すことはめったにない。もっといえば、ライヤは星空町生まれの星空町育ち__いわゆるジモティーだ。逆に言えば、星空町の外の世界に直接触れることが、よっぽどのことがない限り皆無と言っても差し支えない。そういう意味では、チームトゥッティは貴重な、別の国にいる魔法使いの知り合いになる。

「ミュルミュールってさ、ようはポケモン達の負の感情だろう? 今回のシャドウってヤツのソレも、暗黒魔法とかミュルミュール化の一種なのかな」
「……どうでしょうか。僕には、分からないです」

 ライヤには、マナトの声色がまるでふんわりしたようなものに聞こえた。ふんわり、というのはちょっと違う。ひどく落ち着いているというか、まるであっけらかんとしているというか。上手く言語化できないが、ライヤがマナトの言葉に違和感を覚えたことは、間違いない。
 少なくとも星空町の魔法使いは、ポケモンのミュルミュール化を深刻に捉えている者が多い。そのせいかライヤは、マナトの口ぶりが自分達とは違うスタンスからくるもののように感じた。まるで、大ごとだと思っていないような。たぶん今のライヤにとって、一番しっくりくるのはこの言葉だろう。

「サアサア、ヨッテラッシャイミテラッシャイ。オヘヤガグルグルマワル、ビックリハウスダヨ」

 にゅっ、と効果音がつけられたかのように、ひとつの顔が一行の間に割り込んでくる。キバツな顔をしているそれは、真っ白な肌に星や紅ほっぺのカラフルなペイントが施されている。肝っ玉の小さいライヤは「ひぃっ」と女々しい悲鳴を上げる。人間と共に生活しているリンオウは、自分達に声をかけてきた者の正体がピエロであることをすぐに見抜いた。

「タビノポケモンサン、ビックリハウスデタノシンデイキマセンカ」
「えっ?」
「エンリョハイリマセン、サァ、ドウゾ」

 カタコトでそう言うピエロは、ぐいぐいと一行を引っ張っていく。すぐ目の前には、ピエロに負けず劣らずカラフルな建物があった。これがビックリハウスなのだろう。
 ピエロの強引さに、一行は流されていく。あっという間にビックリハウスの中へと連れて行かれ、座席に座らせられる。ご丁寧に身体を固定するベルトもついており、有事の際にケガをすることもないように見える。
 明らかにうさん臭さ98パーセント。ほぼ無理やり連れ込まれた形にはなったが、この3匹の考えていることはほぼ同じだった。ものすごーく怪しい、でももしかしたら、仲間達と合流できるヒントになるかもしれない__頭脳派のライヤ、飄々としたマナト、そして年相応に無邪気なリンオウだからこそ、この考えにたどり着いたのだ。
 しばらくして、3匹の目の前に人型のおもちゃが現れた。木を組み合わせてできた身体のそれは、おもちゃの兵隊のようだった。辺りを見回せば、同じ姿をしている兵隊が部屋のあちこちに佇むように立っている。まるで警備員のようだった。

「サァサァオマチカネ! コノレバーヲヒケバアラフシギ! オヘヤガグルグルマワッテ、マカフシギナセカイヘ!」
(やたらとセールストークのように、ビックリハウスをプッシュしてくるおもちゃ達。そしてカッチリ僕達を固定しているベルト。妙ですね……)

 だが、ライヤは警戒心を解かずにはいられない。常に相手の様子をうかがいながら、いつ何があってもおかしくないように構えている。

「レバー、ガチャットネ」

 おもちゃの兵隊が、壁に取り付けてあるレバーを上から下へ下ろす。まるで連動するかのように、座席がガコンという音を立てた。するとなんということか、ゆっくりと3匹の目の前の景色が変わり始めた。変わる__というよりも、「回転している」という方が正しい。天井が床に、床が天井に。その動きは最初こそゆっくりだったが、徐々に早くなっていく。目まぐるしく景色が変わっていくものだから、リンオウもマナトも目を回していた。

「目、目がグルグル回る……。僕もう酔いそうだよ……」
「これはキッツイな……」

 ライヤもまた、乗り物酔いに近い感覚に耐えようとしている。気持ち悪さから細めた目に、微かに映るのはおもちゃの兵隊達。しかしよく見ると、兵隊達はおもちゃですらなかった。まるで『ばけのかわ』を剥がしたかのように、その正体を露わにする。
 木でできた身体は、サラサラと崩れるように砂へと変わっていく。周りの兵隊達すべてが同じように姿を変えていくことから、ライヤの予測は確信に変わった。
 このビックリハウスは、砂の魔物達によるワナだったのだ。

(やっぱりワナでした! いや、それよりも。今ここで酔えば、奴らの思うツボです。でも僕達は、身動きが取れない……!)

 目が回っている反動で、頭を上手く働かせることができない。おまけに身体も動かせず、力任せに抵抗することも難しい。これは絶体絶命__そう思われた時だった。

「うぐ……うあぁあああああああーッ!」

 ライヤの隣に座っているリンオウが、ふとましい雄たけびを上げる。そうかと思えば、リンオウはとんでもない行動に出た。リンオウが身体全体に力を込めることで、ベルトがギシギシと悲鳴を上げている。ベルトはリンオウのパワーに耐え切れず、引きちぎられた。さらにリンオウは、ライヤとマナトのベルトも素手で引き裂く。
 部屋の天井と床はまだグルグル回っているが、3匹は身動きが取れるようになった。ライヤもマナトも驚きはしたが、これは紛れもなくリンオウのファインプレーだ。

「ありがとうございます。助かりましたよ、リンくん」
「お前、ちっちゃいのにめっちゃ力あるんだな」
「で、でも怖かったよ……! 僕達、ここでやられちゃうのかと思った!」

 リンオウの短い脚はガタガタと震えている。本当はリンオウも、怖かったに違いない。そんな中でも勇気を振り絞って、ライヤとマナトを助け出したのだ。拘束から逃れたライヤは、クラクラする頭を抱えながら考える。ビックリハウスから脱出する方法、あるいは砂の魔物達を蹴散らす方法。何でもいい。この囲まれた状況を打破するには。
 自分達が座席から離れた今も、自分達の視界の回転は止まらない。ということは、動いていたのは自分達が固定されていた座席ではない。だとすれば__ここでライヤは、この部屋の仕掛けに気付いたのだ。

「マナトさん、リンくん! 分かりました!」
「わ、分かったって何が……?」
「この部屋のカラクリです。この部屋、天井と床が動いている仕組みになっているんです。その証拠に今も、部屋がグルグル回っているように見えているんです!」
「すると、どうすればいいんだ?」
「壁のレバーを壊せば、この回転は止まります。そうすれば、僕達も惑わされずに戦うことができるハズです!」

 なるほど、とマナトが納得する。リンオウも、「そうと決まればさっそく」と壁へと真っ先に向かっていった。ライヤとマナトもリンオウの後に続き、いざ__そう思った時だった。 

「ザンネンデシタ」

 砂の魔物の声と共に、3匹の足元がパカッと開く。このビックリハウスは視界だけでなく、足元までビックリだったようだ。
 3匹とレバーの距離は、実にあと1メートルもないくらい。あと少しのところだったが、3匹は地の底まで真っ逆さま。断末魔だけが、暗闇に響き渡ることとなった。

「「うわぁあああああああああ!」」





★Part5-2 ゼンリョクでぶつかれ!☆



「すっごーい! 見て見て、ミツキくん、マドカちゃん! おまんじゅうが空飛んでる! こっちは鉄の塊が走ってるよー!」
「た、たぶんあの空にあるのは飛行船で、あっちは車なんじゃないかな」
「へぇー! あたし、メレンゲ村以外のこと疎いから、全部別の国みたいに見えるよー!」

 田舎育ちのハノンは、町の風景に大はしゃぎ。ハノンの反応が斬新だったもので、ミツキもマドカも、そしてトデアもついていけていないのが実際のところだ。
 3匹と1人がやってきた場所は、近未来的な雰囲気の漂う町。町の中心に聳え立つ、ガラス張りのタワーからいくつもの道路が通っている。空には小型の飛行船が行き交っており、触ると柔らかそうだ。走っている車の形も、どことなくシャープでスタイリッシュ。ハノンでなくても、ワクワクする気持ちは誰でも持つであろう。

「こんな調子で合流できるのか……?」

 ミツキはやれやれと溜息を吐く。見たところ、この町にはモモコ達チームカルテットのメンバーはいない。他のトデア招集メンバーと一緒にいればいいのだが、と一縷の望みにかけたいところだ。
 マドカはトデアを抱きながら、ミツキと並んで町を見て回る。平静を装ってはいるが、内心ではライムのことが心配でたまらない。途中で具合が悪くなったりしていたらどうしよう、対応できるだろうか。チームカルテットに会いに行っていた時はスダチが一緒だったが、今はそうじゃないかもしれない。

「そうだ! トデアちゃんのリングで、他のみんなのいるところに行けない?」
「できない。ちゃんとした場所が分からないと、みんなのいる場所にたどり着くことはできないんだ」
「あっちゃー、そういうシステムなんだね」

 トデアが星空町やメレンゲ村へのリングを開けたのは、そこに魔法使いがいると目星をつけていたからだ。しかし今は、誰がどこにいるのか、そもそも他のメンバーが一緒にいるのかどうかも分からない。そうなれば、トデアの力は有効に使うことができないのだ。
 だとすると、ひとつマドカの中に疑問が生まれる。なぜ、魔法使いでもない自分やライムの前に、トデアが現れたのだろうか。そう尋ねようとした時、ミツキがトデアを見上げて別の疑問を投げかける。

「なぁ、トデア。ひとつだけ聞きてぇことがあるんだ」

 コテンとトデアが首をかしげる。

「シャドウ__お前のパートナーを止めて欲しいってことだけどよ。シャドウを倒して欲しいのか?」

 それはあまりにも残酷で誠実な問いだった。ミツキのド直球な質問に、トデアの顔が凍り付くのが分かる。ミツキもまた、トデアの反応は想定内だったのか、前置きをした。ただ、自分の質問で相手が萎縮してしまったり、嫌な思いをしてしまうのは、ミツキとしても心苦しいものだった。

「ごめん、意地悪で聞いてるワケじゃねーんだ。ただ……お前のパートナーって聞いたから、カンタンにぶっ潰していいものなのか、分かんなくて」
「ミツキくん……」

 マドカは声を落とす。言われてみれば確かに、というのがマドカの心境だった。自分に例えるなら、ライムが悪いことをしていたとして、それを他の誰かが事情も知らずに懲らしめていいものなのか__と言われているようなものだ。自分にとって、ライムは“特別”なパートナーだ。それはきっと、トデアから見たシャドウも同じなのだろう。ミツキは、それを直球で問いているのだ。

「シャドウは、本当は悪いヤツじゃないんだよ」

 トデアは開口一番にそう言うと、続ける。こころなしか、トデアの語りは早口に聞こえた。

「泣き虫なトデアのこと、いつもよしよししてくれて。魔法も上手で、いつもセレナーデのこと考えていて、困ってる人やポケモンがいたら、魔法で助けてあげてて……! あと、お料理も上手なんだよ! キッシュが一番上手なんだ!」
「トデアちゃんはシャドウさんのこと、大好きなんだね」

 ミツキもマドカも、茶化さずにトデアのシャドウ愛を受け止めていた。コクコクとトデアは首を素早く縦に振る。だとすれば、トデアにとって大切なパートナーを力ずくでねじ伏せるのはベストではない。

「じゃあ倒さない以外の方法、考えようぜ」
「たとえばどんな方法があるの?」

 トデアの問いに、ミツキとマドカは言葉を詰まらせる。これから考えるにしても、いい解決方法があるかどうかはノープラン。言い訳をすれば、急ピッチで物事が進み、これまで事態をゆっくり理解していなかったというのもあるが。

「アタックあるのみだと、あたしは思うよッ!」

 先ほどまで近未来都市に興奮していたハノンが、足を止めて振り返る。カラッとした声でそう言うハノンは、話を聞いていないようですべて聞いていたような口ぶりだ。

「とにかく、今のトデアの思いをシャドウにぶつける! それしかないっしょ!」
「体育会系のノリだな……」
「えー? じゃあミツキくんは、他にいい案ある?」
「えーと……とりあえず『やめろー!』って叫ぶ! とか?」
「似たよーなもんじゃん!」

 熱いハノンと、クールに振る舞うミツキ。表面的には正反対だが、根本的な部分はそう変わらないと見て取れる。マドカはそんな2匹に、親近感を抱いていた。綿密な作戦や上手い言葉は思いつかないが、だからこそありのままの自分達で真っすぐ進んでいけばいいんじゃないか。

「とにかく前進あるのみ、だね!」



『不法侵入者注意。排除せよ。不法侵入者注意。排除せよ』



 マドカの意気込みに被さるように、無機質な声がどこからか聞こえてくる。おまけにサイレンの音まで聞こえてきて、SFやアクション映画によくありそうな展開になってきた。気が付けば、一行は謎の集団に包囲されていた。宇宙飛行士のような防衛服を着込んでおり、レーザー銃のようなものを構えている。これはヤバイやつかも__マドカのカンが、そう告げていた。

「な、何なになに~!? ていうかあの飛行船の操縦士、砂の魔物だよ!」

 さらに追い打ちをかけるように、空中には大量の小型飛行船がスタンバイしている。ハノンによれば、飛行船を動かしているのは砂の魔物だという。そうなれば、レーザー銃の集団も顔が見えないだけで砂の魔物である可能性が高い。ミツキとハノンは、すぐさまに各々のウェポンを構える。数では不利かもしれないが、こちらは危険なところを何度も渡り歩いてきた魔法使いだ。

「ミツキくん、一緒に戦おう!」
「分かった! マドカはトデアを守ってやってくれ!」
「う、うん!」

 マドカはトデアを抱いたまま、逃げられそうな場所を探す。ミツキとハノンが戦っている間であれば、必ずどこかに隙が生まれると見たのだ。
 ハノンは伏せるようにミツキ達にジェスチャーで促すと、和傘から黄緑色の粉を撒き散らす。いわゆる魔法の粉が砂の魔物達に降りかかり、彼らの動きが鈍った。『どく』か『まひ』、あるいはそれらに似たような症状が現れているのだろうか。猪突猛進なハノンだが、扱う魔法は至ってトリッキーなものが多い。
 地上の動きが鈍った隙に、ミツキは魔法のほうきに乗りかかると空高く飛び上がった。飛行船集団と対峙しようとしているのだ。セレナーデで使っていたのとは違う形の棒手裏剣を構えると、連続して飛行船を打ち落としていく。かなりの威力があったのか、打ちどころの悪かった飛行船は爆発しているものもある。
 そうした中でマドカは、戦場から外れた安全な場所を見つけ、トデアと避難していた。近くの物陰から、ミツキ達の戦いを見つめるマドカ。戦いに出向けないのは心苦しいが、ここでトデアを守り切らないとシャドウと対峙できない。
 トデアもトデアで、守られてばかりの自分に不甲斐なさを感じていた。もっと自分に力があれば、状況は違っていたのかもしれない。ライムやモモコ達と合流できたかもしれないし、戦いに参加できていたかもしれない。

「大丈夫かな、ミツキもハノンも」
「きっと大丈夫だよ。2匹共、すごいカッコイイもん!」
「でも……あの砂の魔物はシャドウの魔法。トデアでも勝てないのに……」

 引け腰のトデアの気持ちが、マドカも分からないワケではない。しかし、立ち向かう前から諦めていては、開ける道も開けないんじゃないか__マドカがそう思っていた矢先。

「ぐあぁあっ!」
「きゃぁあっ!」

 目を離しているうちに、防衛服を着ていた砂の魔物がその姿を表していた。ミツキとハノンが、砂の山に囚われているではないか。さすがに黙って見ていられない、そう思ったマドカは、思わず身を乗り出して戦線に入ろうとしたが、これが大きなアダとなった。

「ミツキくん! ハノンちゃ__うわぁああっ!」
「マドカ!」

 マドカとトデアも砂の魔物に取り込まれつつある。魔法が使えない、ただの人間である自分はもう__そう思ったマドカは、トデアから手を離し、逃げるように促した。

「トデアちゃん、トデアちゃんだけでも逃げて!」
「で、でも……」
「もし、ライムやモモコちゃんに会ったら、伝えて欲しいの。ちょっとピンチかもって……」
「あ、ぅ……」

 マドカも、ミツキも、ハノンも捕まってしまう。助けなければいけないことは分かっているけど、自分はシャドウに立ち向かえるほど強くない。今ここで一番ベストなのは、自分がこの場を逃げて誰かに状況を知らせること。トデアは目にいっぱいの涙を溜めながら、その場から逃げるように立ち去っていく。トデアはツノに引っかけてあるリングを目の前にセットすると、声にならないくらいの叫びを響かせながらリングをくぐっていった。
 このままどこに行くか分からない。でも、もし思いが届くのなら、誰か魔法使いのいるところへ飛んで行って欲しい。自分を逃がしてくれたマドカのためにも。

「頼んだよ、トデアちゃん……」





★Part5-3 おいしさは半分こ☆



「おいしい~っ!」
「最高ですわ!」

 チョコレートがかかったドーナツを頬張り、コノハはご満悦。口元にドーナツのカケラがくっついているのも、お構いなしだ。スダチも隣で、ふわふわの綿あめにかぶりついていた。お菓子に夢中になっている2匹だが、ルリアはオロオロしている。勝手に食べてしまっていいものなのか、などと言いたいのだろう。
 3匹が飛ばされてきたのはお菓子の国。家も、大地も、空の上の雲も、何もかもがお菓子でできている。流れている川も、ほんのり甘いニオイがする。ジュースでできているのだろう。

「あ、あの……。勝手に食べちゃって、大丈夫なんでしょうか……? そのドーナツも綿あめも、地面にあったものですよね……?」
「大丈夫っしょ! だってこんなにおいしいんだもん!」
「ルリアさんも座って休まれてはどうでしょうか? 魔法使いとして戦ってくださったんですもの。疲れていると思いますわ」
「それは、その……」

 顔が晴れないルリアだが、コノハもスダチもめげずにルリアに関わろうとする。ついついこんなカンジの子を見ていると放っておけないところ、また、ついつい世話を焼いてしまうところからして、2匹は似た者同士なのかもしれない。
 こんなにおどおどしている自分に、どうして優しくしてくれるのか。ルリアは、お姉ちゃんポケモン2匹の優しさに応えたいと本心では思っている。しかし、心を開くまでに時間がかかってしまうのが、ルリアの特徴だ。チームトゥッティの仲間でさえ、最近やっと4匹の空気に慣れてきたところだ。

「ねぇ、ルリア。今は大変かもしれないけど、アタシ達、こうして一緒にいられたのよ。1匹だけはぐれてるより、すごいラッキーだと思わない?」
「……はい……」
「それに、こうして一緒にいられるのも何かのご縁ですわ。今なら砂の魔物もいませんし、ちょっと一休みしませんこと?」

 なんだかハノンに似たお姉さん達だ__ルリアはそう思った。自然と心を許してもいいような、そんな気がする。コノハは外国のポケモンとはいえ、同じ魔法使い同士。スダチにしても、ここまでトデアを助けようと、人間の女の子やパートナーのエモンガと行動してきた。悪いポケモンではない、むしろいいポケモンであることは、間違いないだろう。
 ルリアは2匹に促されると川のほとりに腰かける。すると、コノハとスダチがそれぞれ、ドーナツと綿あめを分けたものをルリアに手渡した。

「わたくし、誰かと一緒に食べるご飯やお菓子が大好きなのですわ。1匹で食べるより、とってもおいしいんですのよ!」
「アタシもアタシも! 何かこう、おいしさ3割増し、ううん! 100割増し的な!?」

 実際に、2匹の言う通りだった。ルリアがかじったドーナツも、綿あめも、びっくりするほどおいしいのだ。思わずルリアの顔もほころんだものになる。不安だった気持ちが、まるですうっと溶けていくかのようだった。
 嬉しい気持ちや楽しい気持ちは、独り占めするのはもったいない。誰かと分かち合うからこそ、イミがあるものになるのかも__ルリアはそんなことを考えていた。

「私、チームのみんなとお花見の下見をしていたところだったの。でも、桜の木が枯れちゃって……」
「そうでしたわ。メレンゲ村のみなさんも、故郷がやられているのですわね」

 ルリアが同じ境遇にあったことを思い出し、スダチは心を痛める。

「だったらさ、これ以上スダチさんやルリアみたいな思いをする人間やポケモンが、増えるワケにはいかないよね」

 コノハの声色は、先ほどまでのキャピキャピしたものではない。ルリア達の悲しみを受け入れる慈悲深さと、何としてでもシャドウのたくらみを阻止しようという決意。その2つが入り混じったような、落ち着いたものだった。
 スダチもルリアも思い出す。コノハは一見イマドキの女の子のように見えるが、本当は正義感にあふれた魔法使いであることを。
 重苦しい空気はあまり好まないのか、コノハはすぐに笑顔を見せると元気のいい声で続ける。

「さっ、お菓子食べたらすぐ動きましょ! 早くアタシ達の仲間と合流しなくちゃ!」

 すっくと立ちあがる一同。幸せな気分になれるお菓子の国を離れるのは、ほんの少しだけ名残惜しいのが本音だ。だが、仲間達の安否に代えることはできない。早く合流して、シャドウのもとへ行こう__そう思っていた矢先、予想もしていなかった事態が起こる。
 どこからともなく、白くて大きな塊が飛んでくる。その気配に真っ先に気付いたのが、コノハだった。普段から魔力を察知することができる彼女は、白い塊が魔法の産物であることをすぐに見抜いたのだろう。

「スダチさん、ルリア! 伏せて!」
「えぇっ! どうしましたの!?」
「コノハさん……!?」

 ワケが分からないまま、スダチとルリアはコノハに言われた通りに身を地面に伏せる。自分達のすぐ後ろでは、白い塊が不時着した鈍い音がうなっている。ほんのり甘いニオイが漂ってきた。もしかして白い塊は、お菓子か何かだったのだろうか。
 3匹が振り向いて確かめてみたところ、やはり大きな大福が転がっていた。まるで自分達の身体が、スッポリ包まれてしまうほどのビッグサイズ。モロに食らっていたらどうなっていたことだろうか。
 顔を上げた時には、3匹は囲まれていた。もちろん仕掛けてきたのは、砂の魔物。シャドウの配下が、自分達にじりじりと詰め寄っている。

「スダチさん、戦える?」
「もちろんですわ! わたくしもできることは、全部やりたいんですのよ!」

 このメンバーの中で、唯一魔法使いではないスダチも、コノハとルリアに交じって戦う気満々でいる。ルリアも勇気を振り絞るように、両手に鉄扇を構えた。コノハは「さすが、嬉しい」と歯を見せて笑い、魔法のステッキを構えた。
 砂の魔物がじめんタイプのポケモンと同じ性質ならば、でんきタイプのワザは効かない。確実に使えるワザがあるとするならば、『くさむすび』だろうか。グミでできた芝生を利用しながら、スダチは地面のあちこちにトラップを仕掛ける。運が良ければ、大ダメージを与えることができるかもしれない。
 トリッキーさと大ダメージの両立を狙うことならば、コノハも負けていない。ステッキの先端部分にあたるハートから、まばゆい光のシャワーを放つ。砂の魔物達は、光で目が眩んだのか、上手く動くことができずにいた。その隙にルリアが、水をまとった鉄扇で砂の魔物を殴りにかかる。
 この連携がうまくいったおかげで、砂の魔物の大半を立てないところまで追いつめた。時間を取ってしまったが、早いところ先を急がなければ__そう思っていた時だった。

「きゃぁっ!?」
「ひぇっ、なにこれ……?」
「動けないですわ!」

 砂の魔物に気を取られており、自分達の頭上への注意が払われていないことがアダになったようだ。まんじゅうが空から降って来て、3匹の身体を包み込んでしまったのだ。もちもちしていて粘り気の強いまんじゅうに身体が絡め取られ、もがけばもがくほど動けなくなっていく。
 3匹がじたばたしているうちに、砂の魔物達が体力を回復している。元気を取り戻した魔物達が順次、コノハに、スダチに、ルリアに近づいていた。





★Part5-4 強くないけど頑張れる☆



 雲から木や花が生えている、不思議な世界。雲の上よりずっと上には、青い空が広がっている。雲よりはるか上に、広がる空の色はいつだって変わらない。よく「雨の日でも雲の向こう側には青い空がいつでも待ってる」なんてマンガや映画の世界のセリフで聞くが、本当にその通りだと実感する。 

「のどかだねぇ……」

 雲の上で仰向けになりながら、モモコはつぶやく。ここにいるのはモモコだけではない。今日初めて会ったエモンガのライム、そして遠く離れた国の魔法使い・セイヤ。いつも一緒にいる仲間達とはぐれてしまい、行くアテも見つからない。この世界を探索してみたはいいものの、似たような景色が続いていたところだ。同じような場所をずっと回っているような錯覚に陥り、3匹は疲れ果ててしまった。砂の魔物が襲ってくる様子もないため、こうして少し一休みしている、というところである。

「そうだな」

 時間が経っていく中で、3匹はそれなりに親睦を深めたようだ。持っている力も生まれ育った場所も違う面々だ。性格にしても、穏やかで物腰が低いセイヤとしっかり者でチャキチャキした印象のライム。そんな2匹を足して2で割ったような性格をしているモモコと、全員が似ている“キャラ”ではない。
 しかし、不思議とシンパシーを感じる部分がある。「なんかよく分かんないけど、同じニオイがする」という印象だ。

「ねぇ、モモコもライムも。セレナーデにいた時、体調のこと心配されてたけど……具合悪いの?」

 ふと、セイヤが疑問を口にする。話せばちょっと長くなるが、言ってしまっていいものなのか__モモコとライムは、すぐに返事をすることができなかった。2匹の反応から、もしかして地雷を踏んじゃったかもしれない。セイヤは慌てた様子で起き上がり、ぺこぺこと頭を下げる。

「あっ、ごめん! 変な意味はないんだけど! もしそうだったら、あんまり無理しないで欲しいなって」
「ううん、そこは大丈夫だよ。ただ__」



「うわぁああああああああああん!」



 モモコが続けようとしたのとほぼ同時に、空の向こう側から誰かの声が聞こえてくる。ばっと上を見上げると、金色のリングが現れていた。リングから出てきたのは、トデア。ものすごいスピードでこちらに落ちてこようとしている。この中の誰かが受け止められるか? あっ、でもここ雲の上だから落ちても柔らかいかも。そしたら問題ない? でももしものことがあったら__あれやこれやと考えているうちに、トデアは雲の上へと落ちて行った。

「な、なにごと!?」

 正確には、ライムに激突するように不時着した。思い切りぶつかってきたものだから、ライムはトデアと一緒になって雲の上で伸びている。

「うわぁ、痛そう……」
「トデアもライムも、大丈夫?」
「な、何でオレがこんな目に……」

 セイヤとモモコが一緒になって、ライム達を介抱する。ちょっとシチュエーション的にはギャグめいているが、奇跡的にモモコ達と合流することができた。トデアは、身体を痛めながらも少しホッとしていた。



「マジかよ!? マドカ……」
「ミツキも捕まっちゃったなんて……」
「他のみんなは、大丈夫かな?」

 トデアから近未来都市での出来事を聞き、3匹は驚きを隠せない。大事なパートナーが、みんなまとめて砂の魔物に捕まってしまったのだ。そうなれば、他の仲間達も無事では済んでいないかもしれない。最悪の事態が、頭をよぎっていた。
 トデアはトデアで、両目をうるうるさせながら俯いている。モモコにとってのミツキ、ライムにとってのマドカ、セイヤにとってのハノン。彼らがどれだけ大切な存在か、痛いほど分かる。もし自分が、シャドウが誰か悪いヤツに捕まったって聞いたら、気が気ではいられない。そう思うと、トデアは本来であればモモコ達に合わせる顔がない。

「ごめんなさい、ごめんなさい! トデアがいくじなしだから。トデアがシャドウに敵わないから! トデアが……」

 雲の上に、トデアの涙がすうっとこぼれ落ちる。雲はスポンジのように、涙をしゅぅっと吸収していった。
 モモコも、ライムも、セイヤも、トデアの気持ちを考えると胸が痛くなる。きっと、パートナーが捕まったことに、強い責任を感じているのだろう。自分達に怒られるとでも、思っていたのかもしれない。
 それと同時に、トデアの気持ちがほんの少し、いや、とても分かる気がした。自分のせいで誰かが大変な目に遭ってしまうことの辛さは、分かち合える者がとても少ない。そのことも、よく知っているつもりだった。

「ちゃんと言ってくれて、ありがとう。マドカちゃんとの約束、守ってくれて」

 まずモモコは、トデアを労わる言葉をかける。小さな胸が押しつぶされそうになりながらも、トデアはマドカとの約束をひとつ守ったのだ。ことの経緯を、モモコやライム、誰かに知らせること。それは間違いなく、トデアの強みだ。言われたことをきちんとやり遂げようとする力がある。

「だったら話は早いよ! 早くミツキ達を助けに行こうよ!」
「でも、相手はシャドウだよ? それに、トデア弱虫だからすぐ逃げちゃうし……みんなみたいに強くないよ!」

 これがきっと、トデアが声を大にして言いたかったことなのだろう。啖呵を切ったようにそう言うと、トデアははぁ、はぁと息を荒げる。むしろ、弱虫の自分がここまで行動を起こせたことが、奇跡ともいえる。いや、ことの始まりはトデアがシャドウに利用されるのが怖くて逃げてきたこと。結局自分は逃げてばかりじゃないか。自己嫌悪の沼に、トデアはズルズルとハマっていた。
 みんなみたいに強くない。この“みんな”が誰のことを指すのか、考えることはそう難しくない。たぶん、戦っていた魔法使いやライム達のことを指しているのだろう。
 確かに、他の魔法使い達は強い。ミツキ達チームカルテットのメンバーも、チームトゥッティも魔法の才能に恵まれたポケモン達だ。ライムやスダチ、リンオウも魔法使いではないが、砂の魔物に立ち向かえるだけの実力がある。でも、その中に自分が含まれているかと言われたら__モモコはそれを言葉にするために、トデアに向き直る。

「トデアには、わたし達が強く見えるの?」

 コクリとトデアはうなずく。

「そんなことないよ」

 それが、モモコの出した答えだった。トデアだけでなく、ライムとセイヤも「えっ」と声を落とし、目を丸くしている。あれだけバリバリ戦っていた魔法使いなのに、という言葉が口から出かかるほどには驚いていた。
 さらにモモコは続ける。「自分の話になっちゃうんだけどね」と前置きを添えて。

「ライムとセイヤくんには言いかけてたけど、わたし、喘息あるんだ。ちょっとでも埃っぽいところに行くと、すぐ発作出ちゃうの」

 あまりにも突然の、しかも明るいとは言い難いカミングアウトに、ライム達はさらに返す言葉がなくなる。あっけらかんと話しているモモコと、告げられた病気がリンクしないのも、当然のことといえる。

「ミツキ達……チームのみんなはフォローしてくれるけど、いつまでもしてもらってばっかりなのも、あんまりよくないって思いながら生きてるんだよね」

 話しながら、モモコは自分でも信じられない気持ちでいた。自分の身の上話なんて、苦手なモノのひとつだったハズなのに。ほんの少しでも、自分のことを知ってもらいたいという気持ちが、芽生えてきているのだろうか。これもすべて、ミツキ達のおかげなのだろうと、モモコはつくづく実感する。
 だが、その厚意に甘えてばかりではいけないということも、いつも思っていた。仲間達からもらった優しさを、多くのポケモン達に分けていく。そんな生き方をしたいと、ここ最近で思えるようになったのだ。
 モモコの話に感化されたのか、ライムも続けた。

「それ、すげー気持ち分かるわ。オレもちょっと前まで病院と家のハシゴ生活だったから、周りには至りつくせりだったんだよ。今でもしょっちゅう熱出るし」
「ライムも?」
「見えねーか?」

 見えないよ、とモモコは即答する。
 ライムもまた、自分の弱い身体と戦っている子どもだった。その分だけ、マドカ達家族や、病院の人をはじめとした周りの人々に助けられてきたのだろう。そんな風に見えないのは、それだけの努力をしてきたのかもしれない。周りに心配をかけたくない、助けられてばかりではいけない。その気持ちは、モモコにもよく分かる。

「実はボクも、病気じゃないけど。周りが見えなくなって、迷惑をかけちゃうことがあるんだ」
「「見えない!」」

 さらにセイヤもカミングアウトするものだから、モモコとライムは声を揃えた。

「でしょ? ボクも何でそうなっちゃうのかよく分からなくて、辛かったりもするんだ」

 トデアは、魔法使いやそれに準ずるポケモンなら、必ず強いと思い込んでいた。だが、実際は違ったのだ。少なくともここにいる3匹は、自分の弱い部分と戦いながら生きている。自分の弱さから逃げるのではなく、どう向き合っていけばいいか。それを考えたり行動に移しながら。

「わたし達もみんな、どこにでもいる普通の子だよ」
「だけど、支え合って、優しさをもらって、前に進んでいくんだ」
「だからトデアも、きっと大丈夫。そのためにボク達、ここにいるんだから」

 3匹の話を聞いて、トデアはほんの少しの希望を見出した。自分も変われるのかな。ここにいるみんなみたいに、自分の弱さと向き合うことができるのかな。

「トデア__」

 まるでトデアの言葉を遮るかのように、何か大きなものが空の向こうから降ってくる。それはひとつだけではなく、まるで子どもポケモン達を取り囲むようにフォーメーションを組んでいた。
 襲撃者は砂の魔物。パートナー達が捕まったとトデアから事前に聞いていたものだから、やはりか、と3匹は身構える。
 ここでやられてしまえば、自分達もお縄につくことだろう。だが、今の状況を全て鑑みれば、負けるワケにはいかない。

「モモコ、ライム、セイヤ」

 絞り出すかのようなトデアの声を、3匹は聞き逃さない。

「トデアにも戦わせて。トデアも戦いたい」

 ミツキ達が捕まったところを目の当たりにし、話をしたことでトデアの気持ちが変わりつつある。まだおどおどした雰囲気はぬぐい切れないが、トデアが一歩前に進もうとしている。戦力が増えるなら、それに越したことはない。3匹はトデアの気持ちを尊重することとした。

「もちろん。ボク達だけじゃ、この数は相手できないからね」

 モモコはサーベル剣を、セイヤは鍬を構えると、砂の魔物との戦いに身を投げる。炎をまとった鍬が砂の魔物を切りつけ、光る風の刃は、魔物達の身体を吹き飛ばしていく。もちろんライムも善戦した。でんきタイプの技は、砂の魔物に効きそうにないが、しっぽを使った攻撃で確実に相手を狙っていく。非効率的かもしれないが、それが一番効くと思ったのだ。それに、モモコとセイヤがフォローしてくれる。少し前の自分だったら、自分から誰かを頼ろうなんて思わなかっただろう。
 トデアも大活躍した。ゴーストタイプの力を込めた塊を飛ばし、砂の魔物の注意を引き付ける。その隙に、サイコパワーで砂の魔物を捕らえ、ねじ伏せていく。騙し打ちのような戦法は、シャドウに教えられたものだったことを、トデアは戦いながら思い出した。
 どれぐらいの砂の魔物を蹴散らしたのだろうか。特にモモコとライムはフィジカル面が不安定だ。体力の消耗が激しく、これ以上戦いが長引けば厳しい局面になるだろう。

「だいぶ倒したよね……?」

 息を切らしながら、モモコが確かめる。砂の魔物はほとんどいなくなっている。何とかこの局面を乗り越えたと判断してもいいだろう。

「さすがにもう出てこねーだろ」

 ライムもぐったりしていた。ポケモンでもない相手と長い時間戦っていたのだから、無理もない。
 砂の魔物がこれ以上増えそうな感じでもないし、急いで仲間達を助けに向かおう__そう思っていた矢先、トデアが何かに気付いたかのように声を張り上げる。

「みんな、危ない!」
「「え?」」

 不幸にも、気付くのがほんの少しだけ遅かった。
 雲の中から、メキメキと音を立てながら大量のツタが伸びてくる。トデア以外の3匹は、逃げる間もなくツタに捕らえられてしまった。ツタが身体を締め付け、もがけばもがくほど身動きが取れなくなっていく。文字通り雁字搦めの状態だ。
 そうでなくとも、砂の魔物との戦いで一同は消耗しきっている。抵抗する力が残っていないというのが現状だ。

「な、なんで雲の中からツタが……!?」
「動けねぇ……!」

 中でもまだ体力が残っているセイヤでさえ、鍬をつかむことすら許されない。
 今動けるのは自分だけだ、なんとかしなきゃ__そう思ったトデアだが、背後にはツタがスタンバイしていた。背後の気配に気付く前に、トデアもツタに捕らえられる。
 これで子ども達は全滅してしまった。これからどうなってしまうのだろう、まだそれぞれの仲間達とも合流できていないのに。一同の心に不安が募る中、どこからともなく何者かの声が響き渡る。

『まさかここまで手こずらせてくれるとは、思ってもいなかったよ』

 低く落ち着いたその声は、一見穏やかなものに聞こえる。しかし、トデアは声を聞いた瞬間、ひどく怯えたような顔をしていた。

「シャドウ……!」

 トデアが声の主の名を口にする。これがシャドウ__囚われの子ども達は、警戒心を隠すことができない。

『安心するがいい。お前達の仲間は、全員私の元で預かっている。ただし、ここまで私のジャマをしてくれたものだから、それ相応の待遇を受けてもらおう』

 次の瞬間、一同は一瞬にして雲の上の世界から姿を消す。シャドウが魔法によって、呼び寄せているのだ。





★Part6 生命の輝き☆



 雲の世界で捕まってしまったモモコ、ライム、セイヤ、トデアの4匹。シャドウの魔法によって連れて来られたのは、広い部屋のような場所だった。
 地面から生えている樹木が、壁にはり付けられているかのように広がっている。それだけではない。草花もわずかながら、踏ん張るように咲いている。部屋のようではあるが、まるで植物を育てる温室や庭とも捉えることができる。
 気が付けば、一緒にワープしてきたトデアの姿が見当たらない。その代わり、残る3匹に施された拘束は壁の樹木に変わっていた。身体が樹木に取り込まれているかのようであり、力が吸い取られている感じがするのがよく分かる。
 しかしながら、この空間で異質なのは、どの植物もどこか活気がない。樹木はコケが生えており、草花はしおれている。幸いなのは、まだ枯れていない__生命が完全に尽きていないところだろうか。

「セイヤ!」

 ハリのある高い声が、4匹を出迎える。それがハノンのものであると、セイヤはすぐに分かった。ハノンもまた、樹木に囚われている状態だ。ハノンだけではない。彼女の少し奥には、コノハとルリアの姿もあった。

「ハノン! 無事……じゃないけど、よかった……!」
「まさか、セイヤまで捕まっちゃうなんて……」

 案の定、樹木にはトデアに呼び出されてきた全ての仲間達が捕らえられている。雲の世界組が捕まるよりも前に、他の仲間達も砂の魔物との戦いの末敗れたと推測できる。
 ところが、ただ1人だけ樹木に囚われていない者がいた。

「マドカは……? マドカはどこだよ?」

 そう、マドカの姿が見当たらない。今回関わった者の中では唯一の人間だ。まさか無事では済んでいないんじゃないか__ライムが良からぬ憶測を立てていたのだが。

「こっち、こっち!」

 樹木のすぐ近くに、鳥ポケモンを入れておくようなカゴ型の檻が構えられている。マドカはその中にいた。見たところ、大きなケガをしている様子はなく、雰囲気も至っていつものマドカだ。それだけでも、今のライムにとっては大きな安心材料だ。 
 カツ、カツと。感動の再会ムードを遮るかのような足音が聞こえてくる。ヒールのある靴を鳴らすようなその音の主は、すぐ目の前まで現れた。   

「クックック、登場人物がみんな揃ったようだな」

 マドカとライムが夢で見た通りの魔法使いが、そこにいた。闇色の大きな三角帽子に魔法使い用のローブ。長く垂れ流した前髪の奥には、ギラリと光る大きな目。よくよく見ると、鼻スジは真っすぐで肌もキレイなのに、ちょっともったいないかも__なんてことを考えている場合ではない。

「お前がシャドウだな!?」

 真っ先に噛みついたのはミツキだった。ケンカ腰のミツキに対しても、シャドウは落ち着いた姿勢を崩さない。しかし、その声色は軽いものではなかった。

「いかにも、私はこの国の王にして魔法使い・シャドウ。よくも私のジャマをしてくれたな。トデアに何を吹き込まれたのかは知らないが……」

 イラつく感情をむき出しにしているシャドウの傍らには、薄い膜のようなものに閉じ込められているトデアがいる。邪悪な力によってできた膜なのか、トデアは苦しそうな顔をしている。

「「トデア!」」
「これからお前達には、セレナーデ復活のための一部になってもらう。お前達の生命の輝きを、私の計画に使わせてもらう」
「シャドウ、もうやめようよ。そんなことしたら、ここにいるみんな死んじゃうよ……」
「だからどうした。ずいぶん余計な事をしてくれたが、お前も私の計画の一部なのだ。封印された魔力を解き放ち、全世界の生命の輝きを吸い取るのだ!」

 か細い声で訴えるトデアだったが、シャドウは聞く耳を持たない。今のシャドウは、他者から生命の輝きを奪うことしか頭になかった。
 シャドウは懐からひとつのツボを取り出す。まるでトデアを模したようなそのツボをトデアに突きつけた時、あふれ出すように魔力のオーラが放たれた。その魔力のパターンや大きさに、コノハとハノンはゾワリとポッポのような肌を立たせる。今までに感じたことがないくらいの、暗黒魔法に近いパワー。その力の源は、怒りや嘆き悲しみといった、負の感情だ。

「あぁあああああああぁあああああああああああああッ!」

 膜の中のトデアは、ツボから放たれた魔力を浴びて声にならないくらいの叫び声を上げる。明らかにトデアにとっていいものではないことが、一目で見て分かる。

「ちょっと! トデアに何してくれてるのよ!」
「すごく苦しんでるじゃないですか! やめてください!」
「何がいけない。自分の愛するものをよみがえらせるためなら、私は手段を択ばない!」

 ライヤとコノハが声を張り上げる。それを遮るかのように、シャドウは樹木に向けて右手を掲げた。まるで反応するかのように、樹木が子ども達の力を吸い取っていく。いくら力が有り余っている魔法使いポケモンでも、シャドウの大きすぎる魔力には敵わなかった。
 その中で、マナトは憂いを帯びたような顔をして、力なくつぶやく。

「……その気持ちは、否定はしないぜ」

 マナトも過去に、手荒いことをしてでも守りたいものがあったのだろうか。

「トデアさんの姿が、どんどん変わっていく!」

 ルリアが、もともと青い顔をさらに真っ青にしている。ルリアが驚くのも無理もない。シャドウ以外の、ここにいるすべての者がトデアの変貌ぶりに驚いていた。
 モモコやライムくらいのタッパだった身体は、何倍も大きくなりシャドウを上回っている。胸元はまるで空洞のようにポッカリ空いており、手に至っては6本に増えている。眼光は鋭く、口の奥からも鋭くとがった歯が何本も潜んでいる。ルリアよりもずっと幼い子どもの面影は、どこにもなかった。

「これが、トデアちゃんなの……?」
「聞いたことがある。トデア__フーパって、本当は大きな力を持っているけど、不思議なツボでその力が封じられてるって。そこから放たれる力は、信じられないくらい大きいって」

 ポケモン知識の引き出しから、モモコは思い出したことを淡々と口にする。聞いたことがある、という話が本当ならば、これからとても恐ろしいことが起きるハズだ。

「さぁ、トデア。お前のその力を世界に見せつけるのだ!」

 予想通り、トデアはシャドウの命令に従うように動き出す。
 グォォオオオーッ、と野太い声を上げながら、トデアは大量のリングを召喚した。トデアとシャドウが手分けしてリングに魔力を送り込むことによって、つながっている世界から生命の輝きが吸い取られていく。もしかしたらつながっている世界は星空町かもしれないし、タチワキシティかもしれない。メレンゲ村につながっている可能性もある。そうでなくとも、どこかの世界で、数多くの生命が終わってしまっているかもしれない。

「見ていることしかできないなんて、そんな……」
「わたくし達の世界も、もう……」

 リンオウとスダチがうなだれる。樹木がエネルギーを吸い取る力も、比例して増していった。囚われの子ども達も、抵抗する力が底をついてしまった。
 そうしている間にも、トデアとシャドウは様々な世界から生命の輝きを奪い続けている。でも本当にそれでいいのだろうか。トデアは、あれだけ勇気を振り絞って助けを求めてきたのに。ここで屈してしまうのは、どうしても納得がいかない。

「ダメだよ、トデアちゃん!」

 檻の中から、マドカが声を荒げる。

「トデアちゃん、シャドウさんのことが好きなんでしょう? 好きだからこんなこと、してほしくないって思ってたんだよね!?」

 トデアの動きがピタリと止まる。シャドウが「構わぬ、続けろ」と吹き込んでいるが、トデアの中で揺らぎが生じていた。マドカの声を認識するトデアの心が、まだ残っていたのだ。

「なのに、なのにこんなゴールで、トデアちゃんはいいの!?」

 マドカの訴えに反応するかのようにトデアはその場にしゃがみ込み、悶え苦しむ。胸の奥がドクドクと音を立て、頭がズキズキと痛む。自分の本当の気持ちがどこにあるのか、ミツキやマドカに話を聞いてもらい、且つ雲の世界の戦いに混ざったことでやっと分かったのに。

「グオォォオオオオオオオオオォオォオッ!」
「トデアちゃん、思い出してよ! あたし達に助けてって言った時、トデアちゃんはどうして欲しかったの!?」
「グアァアアアアアァアアアアアアアッ!」

 この言葉がとどめとなり、トデアの中から邪悪なオーラが真空波と化して吹き飛んでいく。解き放たれた姿であることには変わりないが、トデアの目に輝きが戻った。正気に戻ったトデアは、苦しみから解放されたのか、肩で呼吸をしている。目からはポロポロと涙がこぼれ落ちており、姿は変わってもトデアはトデアであることを再確認させられる。

「トデアは……トデアは、シャドウにこんなやり方をして欲しくなかった。セレナーデが良くなる、もっといい方法を一緒に見つけたかった……!」

 泣きじゃくるトデアの姿に、マドカはどこかホッとした気持ちになった。敵わない相手だと思っていたシャドウでも、自分の呼びかけでトデアを正気に戻すことができた。確かにシャドウは強い相手だが、何らかのやり方で向き合うことができる相手だと、証明されたからなのかもしれない。

「トデアめ……! せめて、せめて私の力だけでもォォオオッ!」

 一方のシャドウは、自分のパートナーでさえ見限られたと思っていた。すべての力を開放するかのように、リングにさらなる魔力を送り込む。
 しかし、いくらシャドウでも今の状態では世界中の生命の輝きを奪うことは難しいと思われた。というのも、シャドウ自身も自分の目的に盲目になりつつある。闇雲に力を開放し、消耗することで体力が底をつくことだろう。
 だが、セレナーデの王でもあるシャドウは、よく頭を使っている。底をついた体力は、捕まえた子どもポケモン達から吸収すればいいだけのこと。尖った言い方をすれば、囚われの身となった一同は、シャドウの生命維持に利用されている。そう言っても、言い過ぎではなかった。

「マドカ、どうすればいい……?」

 チームカルテットも、マドカと一緒にいたライム達も、チームトゥッティも。大きな樹木の中でぐったりとしている。力を吸い取られている今、意識があるのかもよく分からない。トデアが正気に戻ったところで、できることはほぼゼロに等しいのだ。
 それでも、マドカはまだ何かできることはあると信じ、諦めない。

「みんなはピンチだし、あたしは戦うことすらできないけど……。でも、できることはまだ残ってる!」

 これまでマドカがしてきたこと。それは誰かに助けを求めること、それだけ。魔法が使えない人間だから、という理由で戦いをライム達に任せてきた。でも、助けを求めることも、また大事な仕事であることをマドカはよく分かっていた。トデアがそうしたように。自分達がチームカルテットやチームトゥッティにそうしてきたから、やっとここまで来ることができた。
 できることは限られているが、駆けたい。何もしないで立ち止まっていては、何も始まらない。
 
「みんなお願い、力を貸して! みんなの生命の輝きで、ハノンちゃん達を、モモコちゃん達を、ライム達を助けてあげて!」

 マドカはセレナーデの人やポケモン__ひいては、次元を超えてこの戦いを見ている人々に届くように、声を張り上げて呼びかける。
 すると、マドカの胸から桜色の光が放たれる。光はさらに分散すると、トデアのリングの向こう側へと飛んでいく。やがてマドカから放たれた光のひとつは、一本の手のひらサイズの杖となった。先端には桜を模した装飾が施されており、魔法のステッキのようにも見える。

「これはグレースステッキだよ! セレナーデに代々伝わる、人やポケモンの生命の輝きが形になったモノなんだ!」

 トデアは目を丸くさせ、グレースステッキの登場に驚いている。しかし、今は驚いている場合ではない。この杖を使って、魔法使い達を助けなければ。そう世界中に呼びかけなければ。

「みんな! グレースステッキを振って!」
「魔法使い達の頑張りを見てくれたみんな! 力を貸して!」

 人もポケモンも、グレースステッキを振る。先端の桜は、光り輝いている。マドカとトデアもステッキを手に取ると、囚われの魔法使い達に向けてステッキの先端を向けた。
 最初は小さな光のように見えたが、やがてリングの向こう側から光が飛んできた。世界中から集まってきた、生命の輝きだ。

「もっと、もっとみんなの輝きを分けて! 次元を超えて! どこまでも!」

 その思いは、囚われの身の子どもポケモン達のもとへ届いていく。魔法使いではないライム、スダチ、リンオウの3匹も、例外ではなかった。
 セレナーデ以外の世界からも、生命の輝きが集まってきた。それだけではない。この戦いをずっと見てきた者達が、次元という次元を超えてエールを送っている。





『チームカルテット、頑張れ!』



『ライム頑張れ! スダチもリンちゃんも頑張れ!』



『子ども達に、力を!』



『チームトゥッティ、頑張れ!』



『みんな、頑張れ!』





 やがて、すべての人やポケモン達の思いは温かな光となり、奇跡を起こす。
 子ども達を動けなくしていた魔なる大木は、みるみるうちに浄化されていく。拘束から解放された子ども達は、新たな力へと目覚めていく。
 チームカルテットが身に着けている帽子とマントは純白のモノに変わり、神々しさを感じさせる。チームトゥッティは頭と足元に、大きな光の環が飾られていた。

「力が……溢れてくる!」

 ライム達魔法使いではない3匹もまた、姿に変化がみられる。なんと、魔法使い達が身に着けていたマントと帽子が、装備として追加されていたのだ。
 これが、次元を超えて起こされた奇跡。マドカが呼びかけてくれたから、トデアがその呼びかけを世界中に発信してくれたから、そして世界中の人々の思いが届いたからこそ、子ども達はパワーアップすることができたのである。誰かが1人でも、1匹でも欠けていれば、奇跡は起きなかっただろう。
 今なら、マドカとライムは自分達がセレナーデの夢を見た理由が分かった。マドカが生命の輝きを集めるよう呼びかけ、ライムが魔法使い達と同じ力を得るためだったのだ。

「「みんな、ありがとう!」」

 ライム達が自分達の変化に気付き驚いたのは、それから間もなくの話である。

「って、何だこのカッコ!?」
「まるで魔法使いのみなさんのようですわ!」
「なんだかカッコイイね」
「めっちゃイケてるわよ、3匹とも!」

 コノハがニッと、3匹に笑いかける。奇跡によって、ライム達も魔法使いとしての力を得たことが嬉しいのだ。
 一方でシャドウはというと、「パワーアップしたからどうした」と言わんばかりに子ども達を見下ろしている。
 
「私に立ち向かうというのか」
「もちろんだよ。わたし達は絶対に、自分達の大好きな世界を諦めない」
「そして、トデアの……友達の大好きも、お前のことも守ってみせる!」

 モモコとライムが真っ先に先陣を切った。ありったけの生命の輝きをまとった子ども達は、シャドウのもとへと向かっていく。シャドウを倒すのではなく、生命の輝きの尊さを思い出してもらうために。
 マドカもグレースステッキをシャドウに突きつけるように、魔法使い達と走っていた。これから何が起こるのか、ものすごくドキドキする。だが同時に、ワクワクもしていた。これが、未来の生命に繋がる光になることだけは分かっていたから。

「「すべての生命に、祈りと祝福を! 『ネイチャー・エスポワール・ショック』!」」

 子ども達が天に手を掲げたその時。辺りが白い光によって包み込まれていく。これが、生命の輝きの力なんだ__誰もが、その光に包まれることに、心地よさを感じていた。 



「シャドウがセレナーデのことが大好きなように、あたし達も自分達の世界や、一緒にいる仲間のことが大好きなんだよ」
「それを奪うなんて……やっぱりボク達も辛いし、キミも辛いんじゃないかなって思うんだ」

 ハノンとセイヤは、自分達の故郷であるメレンゲ村に思いを馳せる。自然が豊かで、のびのびしたあの景色は誰かひとりだけのモノでもなければ、奪われるべきモノでもない。それでも、生命にいずれ『終わり』が来ることを、ハノンもセイヤもよく知っている。だからこそ、大事にしたいと心から思える。

「でも見てみろよ。すげーキラキラしてるぞ。生命の輝き」
「こんだけセレナーデの人達の生命は輝いてるんだよ。きっと大丈夫だよ」

 人やポケモンの魂の輝きはふとしたことで消えてしまうことを、ミツキとモモコは日々感じながら過ごしている。その分、他者からの輝きで照らされてきた魂も、いくつも見てきた。自分だけではどうにもならないことでも、誰かと手を取り合えばできるかもしれない。その思いに掛けることは、決して無駄ではない。

「もしシャドウだけじゃどうにもならないなら、セレナーデの奴らが。それでもムリなら、オレ達が力になるから」
「だって、シャドウにとってセレナーデは“特別”なんでしょう?」

 誰もが誰かにとっての“特別”。マドカとライムは、身をもってそれを気付かされた。魔法使いじゃなくても、ちっぽけな自分達でも、自分達が感じてきたことを伝えることができる。そして、誰かにとっての“特別”は、決して脅かされてはいけないもの。大切にされるべきものだ。桜の木も、セレナーデも同じだ。

「行こう。トデアが待ってるよ」

 マドカがシャドウの手を引く。シャドウの顔は長い髪に隠れてよく見えなかったが、ほんの少しだけ口元が笑っているのが見えた。
 どうか、安らかな気持ちになっていますように。セレナーデを愛する心優しき魔法使い・シャドウに祈りと祝福を。その思いを胸に、一同は暖かな光に包まれた。





★Part7 生きてるって最高!☆



「あっ、気が付いた!」
「ビックリするほど白かったんだな、お前」

 シャドウが目を覚まして最初に飛び込んできたのは、マドカとライム、そして戒められた姿に戻ったトデアだった。他のポケモン達も、シャドウを取り囲むように目覚めを待っていたと、想像するのはそう難しくない。
 先ほどまで闇色の服を身に包んでいたシャドウだったが、今は雪のように真っ白なものへと変わっていた。これがシャドウの、本来の姿なのかもしれない。
 重い頭を抱えながら、シャドウはこれまでの自分の行動を思い出す。失った生命の輝きを取り戻すために、罪なき者達から生命の輝きを奪おうとした。自分と同じ思いをする者達を、他でもない自分が増やそうとしていたことを。思い出せば思い出すほど、シャドウは自責の念に駆られる。あと少しのところで、自分は多くの人やポケモンを殺してしまいそうになったのだから。

「私は国を愛するあまり、他の誰かが愛する国を壊そうとした。それがどれだけ愚かなことか、今は分かる」
「シャドウ……」

 トデアがシャドウに寄り添う。彼の悲しみや後悔が、痛いくらいに伝わってくる。

「すまなかった。どう詫びていいのか、私には……。国も、もう……」

 シャドウはなかなか顔を上げようとはしない。トデアに呼び出されてきた子ども達や、国の人やポケモンに合わせる顔がないのだろう。その目は、涙で潤んでおり、且つ光っているようにも見えた。

「そうでもないみたいだよっ」

 シャドウの悲しみを断ち切るかのように、ハノンがカラッとした笑顔で割って入る。ハノンはシャドウに、いや、今回の件に関わった面々に示すように視線を少し離れたところに移す。
 そこにあった光景は、人やポケモンがセレナーデを立て直そうとする姿だった。生命の輝きのおかげで、大地に草原が広がり、川に水が流れるようになった。しかし、まだ花や木が豊かとは言い難く、小ざっぱりとしている。だからこそ、セレナーデに住まう者達が手と手を取り合ってこの国を復興させていく。そんな意気込みが、見ている側からも伝わってくる。
 さらに視線を奥の方までやると、広場にある石像が光をまとっている。子ども達がシャドウに放った光と似たような魔力が感じ取られた。生命の輝きが集まれば、石像は輝く__いつかの言い伝えが、ふと思い出された。大いなる奇跡が、今目の前で起こっている。

「この国の人もポケモンも、みんな自分達の国が大好きなんですね」

 ライヤがしみじみと噛みしめるように口にする。
 シャドウが暴走してしまったのは、自分がセレナーデを愛していたから。だが、セレナーデが大好きなのは、自分だけではなかった。セレナーデが大好きな人やポケモンの思い、そして、次元の遥か向こうにいる人々の生命の輝きが、奇跡を生み出したのだ。
 生命の輝きは奪うものではなく、みんなで分けていくもの。そのことを、誰もが知ることができた。

「シャドウ。あなたが国を復興させるために、協力をお願いすることを、国の人達は待ってたんじゃないかな」

 マドカの言葉に、シャドウはハッとする。
 国の人々が求めていたのは、他の誰かから奪うことではない。手を取り合いながら、生命を育んでいくために動くシャドウを求めていたのだ。
 もちろん、国の人々だけの力ではどうにもならない。実際、マドカ達がセレナーデに来た時、人やポケモンの目は死んでいた。一度しなびてしまった心だったが、マドカ達の活躍を知ったこと__他の誰かの生命の輝きに触れたことによって、また活力を取り戻した。逆に言えば、自分だけ、ひとりだけ、セレナーデという一国だけでは、どうにもならなかった。
 シャドウは、ひとりよがりになっていたのだ。

「ひとりよがりになる気持ち、スゲーわかる。でも、思ったより周りは優しいと思うんだ」

 ミツキの言葉に、モモコ達チームカルテットのメンバーは重みを感じていた。ミツキもまた、少し前までひとりよがりで頑張ろうとしていた者のひとりだったのだから。

「トデアもお手伝いする! トデアも、シャドウが大好きなこの国が大好きなんだもん!」

 トデアは思いっきりシャドウの胸にダイブする。マドカとライムに会った時のトデアは、逃げることしかできずにいた。しかし、トデアの気持ちの中でブレなかったものがある。シャドウへの『大好き』という気持ちだ。大好きなパートナーのことを、トデアは最後まであきらめなかった。それがどれだけありがたく大切なことか、シャドウはよく分かっている。

「トデア……お前にも悪いことをしたな。こんな私に、これからもついて行ってくれるのか?」
「もちろんだよ! だって、それがパートナーだもん!」



 セレナーデ復興の第一歩を踏み出させてくれたお礼として、シャドウは国を上げてお祝いのパーティーを開くこととした。
 広々とした大地の上で、人やポケモンは食事をしたり、おしゃべりを楽しんでいる。今振る舞われている食べ物達も、分け与えてもらった生命。そのことに感謝をすることを、誰も忘れていない。
 やわらかい南風が舞い、伸びかけの草が揺れる。澄んだ空気はめいいっぱい吸うと、とてもおいしかった。

「いやー、セレナーデってめっちゃいいとこなんだな。大好きになるのも分かるぜ」
「分かるぅ! パワーがみなぎってきそう!」

 ミツキとハノンは、すっかり意気投合しているようだ。持っている皿の上には、山盛りにされた料理が乗せられている。よく動き、よく食べる2匹の性格が表れていた。傍らではモモコがスダチと何やら楽しそうに話をしていた。

「それにしても、身体によさそうな国だよね」
「健康を重視されるのでしたら、とっておきの健康ドリンクのメニュー知ってますわよ!」
「ほんと!? 教えてスダチさん!」
「いや、やめとけ! すっげー苦いぞ!?」
「あら、ライムさん。よく言うではありませんこと? 『良薬は口に苦し』って!」

 騒がしくなってきているところ、ライヤは一歩引いたところで全体の様子をうかがっていた。そこに寄り添うようにやってきたのは、チームトゥッティのルリアだった。

「あなたは、確かマナトさんと同じチームの方ですよね」
「あっ、えっと……はい」
「マナトさん、魔法の実力すごいですよね。とてもブロンズランクとは思えないくらいです」
「そう、ですよね……。私も頼りにしてて……」

 世界と世界を超えた出会いも、生きているからこそできたこと。長い戦いも、楽しい時間も、生きているから共有することができる。みんなが楽しんでいる姿を見て回り、マドカは満足そうにしていた。少し離れた場所に目をやると、トデアとシャドウが楽しそうに笑い合っている。ハッピーエンドで終わってよかった__そう思っていたところ、マドカはあることを思い出す。
 自分の家の近くにあった桜の木。すべての始まりにして、マドカが失ってしまったもの。一度失った生命は、もう元に戻ることはない。セレナーデが魔法の力で完全な復興を遂げられなかったことが、それを裏付けていた。

「人間の少女よ。マドカといったな」

 背後からシャドウの声が聞こえるものだから、マドカは「ひゃあ」とびっくりして跳ね上がる。傍らにはトデアも一緒にいた。

「トデアと最初に会ったのは、お前とそのパートナーと聞いた」
「そう、だね」
「私達の問題に巻き込んだお詫びとして、お前の欲すものを何でもひとつ差し上げたいのだが……」
「えっ!? 別にいいよ! 何で!?」
「シャドウ、マドカ達に感謝もしているんだよ。ごめんなさいとありがとう、両方の気持ちを込めて何かプレゼントしたいんだって」
 
 トデアが言葉足らずなパートナーのフォローをする。初めて会った時のおどおどした姿は、もう見られなかった。

「本当に何でもいいの?」

 シャドウはコクリとうなずく。
 これはガチなやつだ。とはいっても、特に今欲しいものと言われてもピンとくるものがない。でもせっかくの機会だし、何かもらっておきたい。何より、シャドウの気持ちを無碍にはできない__いろいろと頭をひねらせたマドカだが、ふとあるものが候補に挙がった。
 金銀財宝だとか、不老不死の身体だとか、そういう夢あるものではないかもしれない。でも、今の自分が一番欲しいものといったら、これなのだろう。そう思いながらもマドカは、自分の思いをシャドウとトデアに告げる。
 もちろん2人は驚いていた。本当にそんなものでいいのか、と。

「いいの。あたし、今一番それが欲しいんだ。これからのあたしとライム……ううん、これから生まれていくかもしれない、すべての生命のために」

 これまで自分が関わってきた、すべての人やポケモンに想いを馳せながらマドカは微笑んだ。





★Epilogue 次の生命のために☆



 セレナーデでの出来事から何日か経ち、プレイヤ学園の新学期が目前に迫っていた。
 この日も、マドカは珍しく早起きをする。身支度を整えると、机の上に置いてあるひとつの小さな袋を手に、外へと出て行った。
 雲一つない青空を仰ぐ。タチワキの朝日が、今日も活動するために起きてきた自分を祝福してくれる。当たり前に朝を迎えられるって、何て素晴らしいんだろう。あの出来事から日が浅いからかもしれないが、マドカはそう思うばかり。
 不思議でマジカルな事件による犠牲。マドカにとって“特別”だった桜の木は、今はもうない。ずっと自分やライム達を見守ってくれた桜の木がないのは、とても辛いものがある。それでも、立ち止まっているだけではいけない。桜の木の時間は終わっても、自分達の時間は流れていくのだ。
 ふと目を閉じると、最後の戦いでのみんなの声がリフレインする。

 ハノンとセイヤが言っていた、自分達の世界の愛。
 ミツキとモモコが示してくれた、生命の輝きの尊さ。
 そして、ライムがシャドウに差し伸べた小さな手。小さいかもしれないけれど、重ね合わせていけば大きな力になる。それは次元を超えた、生命の輝きの力によって証明された。
 
「きっと大丈夫。信じてるよ、あたし」

 手に持っていた小さな袋には、一粒のタネが転がっている。このタネは、明日、明後日、1週間、1ヶ月、1年後にはどんな生命をはぐくんでいるんだろうか。
 そんな期待を胸に、マドカは袋の中のタネを手に落とすと、枯れた桜の木の隣に埋めた。いずれ大きな桜の木になることを夢見ながら。




★Cast☆



<ポケモン・ザ・ワールド~希望の魔法使い~>
ミツキ
モモコ
ライヤ
コノハ

<マインドショック!>
マドカ
ライム
スダチ
リンオウ

<ポケモン・ザ・ワールド~祈りの魔法使い~>
ハノン
セイヤ
ルリア
マナト

<Original Character>
トデア
シャドウ
砂の魔物達 いろいろ
セレナーデのみなさん

<Special Thanks>
この小説を読んでくださり、生命の輝きを見せてくれた読者のみなさん


おしまい

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