11年後のあなたへ

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作者:あるみ
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読了時間目安:7分
ポケダン空11周年記念の短編。
Cyberに連なるお話ですが、Cyber本編ではない番外編。
幕の降りた物語と、新たに始まる物語の隙間の願い。

一晩の突貫品ではありますが、私の想いを詰めました。この作品の要点は最後のモノローグに。

タイトルの意味、そして主人公の想いは様々な方向に向けて。
未来に、次の少年に、そしてあなたに。
あなたのその旅路に、祝福がありますように。
「ねぇ……起きて……起きてってば」

 聞き慣れた言葉に、ゆっくりと目を開く。
 視界に飛び込んだのは、やはり見慣れた顔。
 
「やばっ!……寝てた?」

「ぐっすりと、ね」

 どうやら仕事中に居眠りしてしまったらしい。日頃の疲れが溜まっていたか。長き旅を共にした相棒のリオル……ミナンがクスクスと笑っている。

 ちょうど今自分が顔を伏せていた大きな机の上には、まだ書きかけの書類が沢山乗っていた。それは探検隊の運営に関しての資料。期限が近いので今日中にと思っていたのだ。

「今日はいい天気だからねぇ……ぽかぽか陽気も気持ちいいよ」

 振り返って窓のほうをみると、綺麗な青空が見えた。まさに雲一つない快晴。それでいて心地の良い風が部屋を通り抜けていく。
 
 二階であるこの部屋からは、この建物の前にある広い空き地が見渡せる。ちょうど今は、探検隊の中でも下の子供たちが追いかけっこをしている所だった。無邪気な顔で走り回る子供達を見て自然と顔も緩んだ。

 この建物は、次第に組織として巨大化する我らが探検隊の本拠地として借り上げたものだ。
 二階建てではあるが小さめな建物。宿泊設備はないし、いつも探検に出払ってる為、探検隊のメンバーがここにいることも少なかった。

 この小さな隊長室。普段は自分しか入らないけれど、何故かリオルは机に腰かけたまま、窓の外を幸せそうな顔で眺めていた。

「ねえ、僕達、いっぱい旅したよね」

「……うん」

「深くて薄暗い洞窟にも行ったし、天に届くんじゃないかってぐらいの、高く険しい山にも登った」

「楽しかったよね」

「うん、本当に楽しかった」

 彼は窓の外を見つめたまま話し続けた。気持ちいい時折風が顔を撫でていく。



「ねぇ、次はどこを探検しようか」


「……」

 振り向いた彼の寂しげな表情。
 言わんとすることが何となく分かって、そして答えられずに沈黙を返す。

 時の歯車を巡る長い旅から、また長い時間が経った。
 彼との旅はどこに行っても楽しくて、そしてその度に自分たちは強くなった。それはあの事件が解決し、未来を守ったあともそうだった。


 でも──でも、もう十分に旅したのだ。
 世界を駆け回り、各地を回る中で探検隊は大きくなった。参加を希望するメンバーは増え、知名度はとんでもないほどに上がった。
 世界を救った英雄である自分は、世界の探検隊や救助隊をまとめあげるまでになったのだ。

 それはとても嬉しいこと。今までの自分たちの旅が認められた。みんなに歓迎されたのだから。
 だけどその代わりに、自分たちはもうあまり遠出をしなくなった。
 もちろん忙しいのもある。けれどそれより、もう満足してしまった、というほうが大きかった。

 
 傲慢を承知で言おう。自分たちはもう、世界を旅し尽くした。

 親方のギルドに入門し、あの小さな地下の部屋から始まった彼との旅は、確かにもう、終わったのだ。

 完全出来高制の不安定な生活から抜け出し、安定した暮らしを手にした。それはいい事のはずだ。だけど……。

 彼は、寂しそうな顔をするのだ。


「僕達、随分大きくなったね。変わったよ。僕も。君も」

「変わったかなぁ」

「変わったよ! 口調もちょっと変わったし」

 また可笑しそうに笑うリオル。
 そんな彼を見て自分も嬉しくなる。

「……プクリン親方、元気かなあ」

「元気でしょあれは。多分いくつになっても頼りがいのある親方だよ」

「そうするとぺラップはいつまでも振り回されちゃうね」

 親方のことであたふたしているぺラップが思い浮かび、思わず同時に吹き出してしまう。

 蒼穹とも呼ぶべき青空の下、親友と笑い合える。こんな幸せがあるのに、これ以上を望むなんてことは──

「あっそうだ。僕ねぇ、夢が出来たんだ」 

「夢?」

「そう! 僕、ギルドを作りたい!」

 彼は唐突にそう言った。ギルドを作る。それは組織のトップとなって探検隊を育成するということ。自分が制定し整備したことでもある。
 反対はしないけれど、急になぜだろう。彼は、誰かの上に立つということを苦手としていたはずだけど。

「何だかさ……楽しそうに遊ぶ子供たちを見てたら、彼らをしっかり育ててあげたくなっちゃって」

(ああ……)

 何となくその気持ちが分かって、また何も言えなくなる。

「ねえ、僕達の旅は……本当は終わったわけじゃないんだ」

 彼はしっかりとこちらを見据えてそう言った。

「形を変えて……これからもずっと……続いて行く」

「……ギルドは、ミナンだけでやるつもり?」

「……その予定だよ。それに、君は探検隊で忙しいでしょ」

 
 ああ、そうか……君は、別の道を行くんだね。

 徐に立ち上がって、窓際に寄りかかった。
 彼の言いたいこと……自分にもわかる。

「そう……俺たちの旅は終わったんだ。あの頃の探検はもう……戻っては来ない。それでも……俺たちの命は終わらない。形を変え、時には分かれて離れたりしながら──そして、最後には」

 振り返って彼の目を見る。相変わらず優しい顔をしていた。

「次の世代へと、受け継がれていく」

 ミナンは目を細めて微笑んだ。
 
「そう、次の世代に」

 二匹の間に風が吹いた。二匹を分かつ風。それでも自分たちは離れ離れになるわけじゃない。ただ別の道を行くだけだ。違う形の、同じ命を──

「ミナンさーん!! 隊長さーん!! 遊びましょうよー!」

 突然窓の外、空き地から声がかかった。
 遊んでいる若きメンバー、その中でマナフィがこちらに手を振っている。

「行く?」

 ミナンが優しい笑顔で訊いてくる。

「……俺はいいよ。仕事がある。ミナンが行ってあげて」

「そっか」

 そう言って彼は、今行くよ!と窓の下に声をかけ、部屋を出ていった。階段を駆け下りる音。もう少しすれば空き地に彼の姿が現れるだろう。


 自分ただ一人が部屋に残される。

 
 ……元より、自分はもう人間に戻りたいとは思わない。こちらにはかけがえのないものが沢山ある。
 ただ、それでもこの世界に生きるものには必ず終わりがあるのだ。
 それでも、この命が終わろうとも、その願い、意思は必ず次の世代へと受け継がれていく。


 ああ、そうとも。
 僕らの物語は既に幕を閉じた。あの夢のような日々は既に思い出となった。
 それでも、僕らはまた歩き出すのだ。


 風よ、もし届くなら。どうか伝えて欲しい。
 
 ジュプトル、君は元気にしているのかな。
 もしかしたら僕のこの気持ちは、かつて君が僕に抱いていたものなのかもしれない。
 僕はもう大人になった。だけど、君のいる未来に辿り着いた時、しっかりと胸を張れるように歩いていくよ。

 

 そして、あの輝かしい探検を、新しい物語を、これから切り拓く君へ。
 君はこれから、幾つもの困難にぶつかるだろう。思い悩む夜もあるかもしれない。
 でもきっとそれは、いつかの思い出となり、輝く宝物になる。
 だから、どうか悲観せずに進んで欲しい。

 願わくば、その小さくも輝かしい旅に、幸多からんことを。




──これは、物語と物語の隙間の願いの話。

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