流声群

しおりが挟まっています。続きから読む場合はクリックしてください
 
作者:ドリームズ
ログインするとお気に入り登録や積読登録ができます
読了時間目安:12分

この作品には残酷表現があります。苦手な方は注意してください

「ブス」
「お前なんて、生きてる価値ないんだよ」
「こっち来ないでくれる?私達までブスになっちゃう」

いや……やめて……ッ。
一人の少女が踞っている。彼女の周りには、大勢の女子生徒がおり、彼女を取り囲み、暴言を浴びせている。
白羽 真はくば まこと。それが、彼女の名前だった。しかし、この地獄きょうしつには、自分の名前を読んでくれる人なんて、一人もいない。ここでは、私はいなくなる。
言葉はナイフだとよく言うが、正にその通りである。ドスッという音を立てながら、彼女の心に刺さって刺さって。彼女の心がボロボロになって、使い物にならなくなるまで、繰り返されるのであろう。
彼女はとても優しく、成績もそれなりに優秀な方で、周りからとても頼りにされていた……はずだった。しかし人生というものは、とても意地悪である。ちょっとした事で、クルッとひっくり返ってしまうのだから。彼女は内面だけでなく、外面も良かったのだ。なので、学校内では人気の女子であった。しかし、それがいけなかった。それに嫉妬した他の女子達に、目をつけられてしまったのだ。彼女の気が強ければ良かったのだが、生憎そうではなかった。彼女の気が弱いところをいい事に、他の女子達のいじめは、エスカレートしていくばかりであった。
グループの中で、一番権力を持った女は、恐怖で震えたまま踞っている彼女を無理やり起こすと、目線を合わせて言い放った。

「死ねばいいのに」

その言葉で、彼女の思考は完全にショートした。そうだ……死ねば楽になれるかもしれない……。だって、元々私はいらない存在なのだから。生きている価値なんてないのだから。生きている事が罪なのだ。だから、死んだ方がいいのだ。
死んだ方が……死んだ方が……死んだ方が……きっと……きっと……きっ……と……















「はっ!!」

一匹のピカチュウは飛び起きた。マコトは元人間の女の子で、アチャモの女の子 ホムラと、チーム白夜という名前で救助隊をやっている。先程の夢は、人間時代の記憶であろうか。どちらにしろ、いい気分ではない。それどころか、息は上がり、今にも過呼吸を起こしそうな勢いである。頭痛がする。気分が悪い。トイレに駆け込んだ彼女が、更に顔色を悪くして出てきたのは、それから数分後の事だった。
















「マコト、今日も頑張ろうね!」
「うん。」

外もすっかり明るくなり、ホムラがマコトを迎えに来たようだ。彼女はマコトに向かって、笑みを作り言った。マコトは、いつも通り頷きながら返事をした。しかし、ずっと一緒に活動しているホムラには、隠し通す事は不可能だった。

「……マコト、ちょっと顔色悪い気がするけど、大丈夫なの?今日は、救助活動止めといた方がいいんじゃ……。」
「ううん、大丈夫。その間にも、依頼主さん達は救助を待ってるんだし、休んでられないよ……。」

マコトの顔色の悪さに、ホムラは、今日は活動を休む事を進めたが、彼女は首を縦には振らなかった。少し心配だったが、一緒にいた中で、彼女が他人思いで、責任感が強い事は分かっていた。自分が休めと言ったところで聞きはしないだろうし、無理やり休ませたところで、絶対に引きずるであろう。とりあえず、マコトの様子を見ながら、依頼を受ける事にした。

「分かった。でも、しんどくなったら、すぐに言ってよ?」
「うん……分かった。」

彼女のいつもより弱々しい返事に、ホムラはますます心配になった。

















無事今日の依頼は終わった……と言いたかったが、生憎そうとは言いきれなかった。今日のマコトは可笑しかった。敵と闘っている時も、動きが鈍くて、攻撃が当たりそうになるし、ホムラが話し掛けても上の空だった。
楽しい話しをしたら、元気になるかもしれない。丁度明日、流星群が見られるという話しを耳にしていた彼女は、マコトに声を掛けた。

「マコト、明日の夜に流星群が降るんだって!」
「へぇ……そうなんだ。」
「明日、一緒に見に行かない?」
「……そうだね……一緒に行こうか。」

先程のように上の空ではなかったが、反応が鈍かった。これは、何かあったに違いない。ホムラは、直感的にそう思った。

「ねぇ、マコト。今日、変だよ?何かあった?」
「へっ!?なっ何でもないよ。」

マコトは、明らかに動揺している。しかし、何でもないと言い張る彼女に、ホムラは問いかける。

「何でもない訳ないでしょ?何で隠すの?」
「別に隠してなんかない……。」

ホムラは、とても優しいと評判であった。しかし、今回はそれが裏目に出てしまった。マコトの力になりたいが故に、彼女の本音を聞き出そうと、口調がだんだんとキツくなっていく。

「嘘だ!絶対に何かあった!」 
「だから、本当に何でもないんだってば……。」
「でも、今日のマコト、やっぱりおかs
「何でもないって言ってるじゃんッ!!」

ホムラの言葉は、マコトの怒鳴り声によってかき消された。その気迫に、ホムラは驚く。

「私が大丈夫って言ったら大丈夫なの!もう、ほっといてよ!!」
「でも……私、マコトの力になりt
「私の力になりたいって……ッホムラは私の何が分かるのさ!!」

その悲痛な叫びに、ホムラはハッとなった。そうだ……自分はマコトの事を知っているつもりで知っていない。そんな奴が力になりたいだなんて言ってきたら、腹が立つに決まっている。

「正直言って鬱陶しいんだよッ!!」

その言葉は、ホムラの心に刺さった。ホムラは俯くと、か細い声で言った。

「……そうだよね……ごめんね……ッ」

彼女の声は震えていて、今にも泣きそうだった。彼女はそう言い残すと、走り去った。彼女を呼び止めるための声は喉元で止まり、彼女が走り去った方向へ向けられた手だけが残った。自分はなんて事を言ってしまったのだろうか。いくらなんでも酷すぎる。心配してくれた相手に対して、あんな言葉を放つなんて、どうかしている。本当にダメだ……ダメな奴だ……。
基地の中に入っても、先程の出来事が頭の中をグルグルと回る。自分が自分自身を否定してくる。喉が閉まる。目頭が熱くなってくる。自身の瞳から流れ出す後悔。

「ッ……うッ……うぅッ……ッあぁぁ」

抑えていた嗚咽さえ、もう抑えきれない。暫く基地からは、彼女の嘆きが響いていた。

















次の日、起きてお助けポストを見てみると、ポケモンニュースや依頼の手紙に紛れて、一通の手紙が届いていた。ホムラからだった。内容は、今日は一匹で救助活動をするとの事だった。その手紙を見た瞬間、マコトは絶望した。自分は本当に取り返しのつかない事をしたのだと、改めて思った。彼女は、自分で自分の首を絞めてしまった。自分で一人になってしまったのだ。複雑な気持ちを抱いたまま、彼女は依頼を受けに行った。















今日の依頼もいまいちだった。達成はしたが、ぼぉーとして敵の攻撃に当たりそうになり、他のメンバーに迷惑をかけ、更には心配までさせてしまった。共に依頼を受けに来ていたアブソルは、ホムラと何かあったのだろうと薄々気づいてはいたが、自分が首を突っ込む事ではないと思い、何も言わなかった。いや、彼女達なら大丈夫だと信じて、何も言わなかったのかもしれない。
マコトは、今日共に依頼に来てくれた仲間と別れて基地へと帰る。その足取りは、まるで重りでも付けているかのように重かった。
彼女は怖かった。ずっとこのままなのだろうかと。彼女が一番頼りにしていたのは、あのホムラなのだから。ふと昨日の夢が、頭を過る。誰も助けてくれない、あの空間が。自分の周りからは、いつもみんないなくなっていく……。マコトは、不安で押し潰されそうだった。

「私って……本当に馬鹿だ……。」

そう口にした瞬間、溢れてくる雫。その時だった。後ろから声を掛けられたのは。

「マコト……。」

ホムラの声だった。マコトは慌てて涙を拭い、身体を強張らせる。それは、ある言葉が彼女の頭を過ったからだった。「救助隊解散」。彼女は、ホムラから何を言われても大丈夫なように身構えた。しかし、ホムラから放たれた言葉は、彼女が思っていた事と、全く真逆の物だった。

「昨日はごめんね……私、マコトの気持ち、何も分かってなかったね……。」

その言葉に、マコトは胸が締め付けられるような感覚に陥る。何でホムラが謝るんだ。謝るのはこちらの方じゃないか。優しくしてくれる相手の気持ちを踏みにじるような、酷い事を言ったのは自分なのに。

「……これからも、一緒にいてくれる?いや……いて欲しいんだッ!!」
「何で……私なんか……」
「マコトだからだよッ!!」

その心からの叫びに、マコトは後ろを振り返った。そこには、顔を歪め、今にも泣き出しそうなホムラがいた。その顔を見ると、何だか自分も泣きそうになり、彼女は俯き、歯を食い縛り涙を必死に堪える。

「優しくて、他人思いで、何事にも真っ直ぐになれるマコトだからこそ、私は一緒にいたいんだ。」
「そんなの……勘違いだって……ッ」
「……そうかもしれないね……。」

ホムラの意見を否定すると、彼女は弱々しく肯定した。やっぱりそうだ。何も分かってないんだ。マコトの心はキリキリと痛む。しかし、「でもッ!」とホムラが叫ぶ声が聞こえ、マコトは顔を上げた。そこには満面の笑みで、マコトを見つめるホムラがいた。

「でも、私は何度でも言うよ。私はマコトと一緒がいい!一緒に救助隊をやりたい!だって、私マコトの事




大好きだから!!」

もう我慢の限界だった。マコトはホムラに抱きつくと、声を上げて泣き出した。ホムラは一瞬固まっていたが、すぐにその小さな羽を、まるで子供のように泣きじゃくる彼女の身体に回し、ギュッと抱きしめた。マコトの耳には、彼女の背中を優しく撫でながら、「よしよし」と囁くホムラの声が聞こえていた。とても温かかった。













マコトは落ち着くと、昨日見た夢の事を、ホムラに洗いざらい話した。ホムラは、その悲痛な内容に、表情を強張らせていたが、やがてマコトの方を向き、微笑みながら言った。

「私は何があっても、マコトの事、嫌いになったりしないからね。一匹になんてさせない。」
「本当……?」
「うん。本当。」

その言葉に、マコトは泣き笑いの表情を浮かべる。それを見たホムラは、「本当に泣き虫だねぇ……」と、少し困ったような顔をしながら、彼女の瞳を飾る宝石を払った。
そんな時だった。無数の星が夜空を舞っている。ホムラと話している間に、いつの間にか夜になっていたようだ。その流星群に、二匹は釘付けだった。そして、ふとマコトはある事を思った。

「言葉はナイフって良く言うけど、私は言葉は流れ星だと思う。」
「えっ?何で?」

マコトの言葉に、ホムラは首を傾げる。確かに『言葉はナイフ』という言葉はよく耳にするが、『言葉は流れ星』というのは、ピンとこない。

「だって言葉って、この流れ星みたいに、光輝いて気づいてもらえる事もあるけど、ここまでたどり着けなくて燃え尽きた星のように、届かない事もあるじゃん。そして、大きな星だったら、絶大なダメージを受ける事もある。」
「……そうだね。流れ星だ。」
「でもね、傷つける事があっても、やっぱり言葉って綺麗なんだ。」

そう言って、マコトは夜空へと手を伸ばした。
ポケダン救助隊をやっている最中に思い付いた物です。救助隊のパートナーの子って、凄く優しいんですけど、悪く言うとお節介焼きなんですね。なので、絶対喧嘩する事あるだろうと私は思って、このような作品を作りました。本当に言葉って、美しいですよね。

感想フォーム

 ログインすると感想を書くことができます。

感想

お名前:オレンジ色のエースさん
 どうも、お疲れ様です。そうなんだよ、救助隊パートナーへの価値観はドリームズさんと一致。だからボクも作品の中で主人公と揉めてるけど。

 でもパートナーはいつも真っ直ぐ。真っ正面から主人公と向き合ってくれてる。これだけは確か。だから一番好き。今の世の中、真剣に真っ正面から向き合ってくれる人っていないから。

 言葉は流れ星。わかる。ボクも届けたい言葉とか届けられなかった言葉…………たくさんあるんだよな。

 今回も読みごたえありました。お疲れ様です。
書いた日:2020年03月15日
作者からの返信
有り難うございます!
そうですよね……私、救助隊進めていく内に思ったのが、「パートナーちゃん凄くお節介焼きだなぁ……」 
だったんですよ。これは絶対に喧嘩すると思って、思い付いたのが今回の短編小説だったんです。

でも、エースさんの言う通り、パートナーちゃんは凄く真っ直ぐでいい子で、主人公の事を一番に思ってくれている。だから、憎めないんですよねぇ……。

流れ星のくだりは、気合い入れて書いたので、伝わったみたいで良かったです!
書いた日:2020年03月15日