ひととけっこんしたポケモンがいた。

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作者:豆シヴァ
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読了時間目安:9分
3月7日(サーナイトの日)を記念して、昔に投稿した短編を再編集したものです。
恋愛要素があるので、それでも構わない方はどうぞ。
 ひとと けっこんした ポケモンがいた。
 ポケモンと けっこんした ひとがいた。
 むかしは ひとも ポケモンも 同じだったから ふつうのことだった。


 シンオウ地方の図書館でとある本を読んでから、私はこの言葉がずっと頭に残っていました。
 かつては一般的だった、人とポケモンの恋愛関係…。異なる種族の壁を超越した、禁断の愛の誓い…。マスターのお側に仕えてから数ヶ月、この想いが報われないと分かっているからこそ気づきたくなかった。
 「尊敬」から「愛情」に変わったこの気持ち…。親愛なる我がマスター、こんな罪深い私をどうかお許し下さい…。

 「どうしたサーナイト?トレーニング中にぼんやりするなんて君らしくないな」

 「ハッ!?も、申し訳ございませんマスター!」

 いつもの朝練中だというのに、不覚にも私は余計なことを考えていました。はうぅ、最年長の私がしっかりしないといけないのに…。
 私の表情をじっと見ながら、マスターは何かを考え込む。熟練トレーナーの風格を漂わせる整然な顔立ちに、ほんのり白が混じったオールバックの黒髪。普段から寡黙で険しい表情をするマスターを怖がるポケモンもいますが、本当はとても優しくて慈悲深い人なのです。

 「今日もトレーナーハウスに行って、いつも通り子供たちの相手だ。連日の疲れが溜まっているなら、別のポケモンにするが…」

 「い、いえ、その必要はありません。私はマスターのお役に立ちたいだけですから…」

 マスターの心遣いはとても嬉しいですが、私が側を離れるわけにはいきません。ずっとマスターを支えると、私は心に決めたのですから…。
 今日もマスターはトレーナーハウスという施設で、若いトレーナーを鍛える指導者として働いています。既にジムバッジを8つ集めたマスターは、そのままポケモンリーグ公認トレーナーとなり、ポケモンバトルの先生になりました。本当はジムリーダーにもなれたのですが、なぜかマスターはそれを拒否してしまいました。ポケモントレーナーの憧れとも言える称号なのに、どうしてマスターは断ったのでしょうか?
 そんなことを考えてる間に、新米トレーナーたちがどんどんやってきます。は、早く整列させないと…あわわわ。お、落ち着け私、クールになれ。私だって先生の真似事くらいできるんです!

 「さ、さあ皆さん席に座って下さい!今日は、えーと…タイプ相性についての授業ですよ!」

 …夕方になって、ようやく終わりました。今までバトルしか経験してこなかったので、こういう作業にはまだ慣れてません…。

 「お疲れサーナイト、済まないな本当に。ポケモンなのに人間の先生の補佐をするなんて、やはり君にはキツい仕事だったようだな…」

 「そ、そんなことありません!マスターの為なら、どんなに苦しくても平気ですよ」

 「…そうか、だけど無理はするなよ。お前は私にとって大切な『ポケモン』だからな」

 「ぽ、ポケモン…」

 そう言ってマスターは、私の頭を撫でる。本来ならとても嬉しいはずなのに、なぜか私は胸がチクチクと痛み出した。やっぱりマスターは私のこと、単なる手持ちポケモンの一匹って思っているんですね…。
 でも、そんなことはとっくに知っていました。だってマスターは私だけに優しくしてくれるわけではない。どんなポケモンに対しても深い愛情を注いでくれるから、そんなマスターが私は大好きなんです。


…それなのに…どうして私は…こんなにも悲しくなってしまうのでしょうか?


 元々ラルトスだった私は、さみしがりな性格という理由でトレーナーに捨てられて、衰弱した状態で今のマスターに拾われました。それから私に家と食事を与えてくださり、バトルの基礎を教わりました。なかなかバトルに勝てない時期もありましたが、それでもマスターは私を見捨てずに、いつも温かく見守ってくれました。手持ちのポケモンが増えていく度に、いつかパソコンに送られてしまうという不安もありましたが、マスターはずっと私を側に置いてくれました。
 マスターは十分な愛情を注いでくれたというのに、私はどうしてもそれ以上の証を求めてしまう。これだけの信頼関係を築いているのに、まだ私はどこかでマスターに捨てられてしまうことを恐れている。マスターにとって絶対的な存在にならなければ、私の心の傷は治まらない…。
 マスターと家に帰った後も、この悲しみはまだ消えない。他のポケモンたちが食事を摂っている間も、私の気持ちは沈んだまま…。

 「どうしたサーナイト?手が止まっているが、あまりお腹が減っていないのか?」

 「…い、いえ、そういうわけではなく…その…」

 「…やはり疲れているのか?明日ポケモンセンターに連れて行くから、今日は少し早めに休め」

 あ、違う、そういうわけでは…。私はただ、マスターに―

 「クチ〜♪」

 「ん、おかわりが欲しいのかクチート?…ってこら、急に抱きつくと動き辛いじゃないか」

 「クチクチ〜♪(ガブッ)」

 「フフ、甘えん坊なやつだ。後で遊んであげるから、足に噛みつかないでくれよ」

 マスターが珍しく微笑んだ表情のまま、しゃがんでクチートの頭を撫でる。ああ、マスター…いつも厳格で怖い表情をしている貴方でも、そのような優しい顔をされるのですね。

 「…嫉妬なんて醜いですわ。楽しそうにしていただけなのに…こんな自分が嫌になります」

 私はご飯を残したまま、自分の部屋に戻ってベッドにうずくまる。様々な負の感情が私の心を掻き乱し、胸の突起物が弾けそうになる。

 「どうして私は、こんなに辛い思いをしないといけないのですか…?助けて下さい…マスター…」

 苦しみを紛らわそうとして、目を瞑りながらマスターを呼ぶ。私がサーナイトに進化してから、マスターは昔のように愛してくれなくなった。いや、お互い成長して大人になったから、付き合い方が変わったと言うべきだろう。でも、私だってたまには…マスターに甘えたいんです。

 …コンコン。

 突然ノックの音が聞こえて、私は心臓が飛び上がる。まさか、本当にマスターが来てくれた?

 「…サーナイト、もう寝たのか?少し失礼するぞ」

 ドアをガチャッと開けて、私の部屋にマスターが入る。あわわ、心の準備がまだできてないのに…。私が慌てて布団から出た後、マスターは私の隣に座った。

 「な、何かご用でしょうかマスター?」

 「いや、君の様子を見に来ただけだ。自分の『ポケモン』を心配するのは、トレーナーとして当然だからな」

 ズキッ!また胸が苦しくなる…。お願いですから、私をポケモンとして見ないで…。

 「…めて…さい」

 「ん、どうした?よく聞こえなかったが…」

 ああ、心が感情に支配されていく…。もう我慢できない…!


 「マスター…今夜だけでも、私をポケモンとしてではなく…一人の女性として見て下さい!」


 とうとう言ってしまった…。これでもう後戻りはできません。でも覚悟はできています。マスターに愛されようが捨てられようが、それが私の本望ですから。

 「なっ…!?まさかそんな言葉が君から出るとはな…。いや、もしかしてあの図書館に行った時からか。明らかに君の様子が変だったからな」

 …気づいていたのですか。 やはりマスターは私のことを気遣っていたのですね。

 「本当に君は…責任感が強いのはいいが、ずっとそうやって自分自身を抑え込んで、そんな君をどれだけ私が心配しているか、分かっていないだろう?」

 「だ、だって…私…また捨てられるのが怖くて…」

 「まったく…何の為にこの部屋があると思っているんだ。私は君を拾った時から、家族のように接してきたつもりだが、どうやら伝わってなかったようだな」

 「家族…?私がその一員ということですか?」

 「当たり前だ。もちろん無理にとは言わない、これは私が勝手に押し付けているだけだ。君の好きにして構わない」

 ああ、マスター…やっぱり私は、貴方のことが大好きです!

 「いえ、ありがとうございます。見に余る光栄です…フフッ」

 「…どうした?何か変だったか?」

 「いえ、こうしてゆっくりお話することがあまりなかったので、なんだか新鮮な感じですね」

 「そうか?まあ確かに、昔はそんなことをする余裕がなかったからな。これからはもう少し、ゆっくり話をする時間を作ろう。君が本当に伝えたい事を言えるようになるまでな」

 え、まさか、そこまでお見通しだったなんて…。さすが私の愛するマスターですね。

 「…本当によろしいのですか?いつかマスターを困らせるかもしれませんよ?」

 「…フッ、その時には何でも受け入れる器を用意しておくよ」

 そしてマスターは、私を優しく抱きしめてくれました。今までの苦しみが嘘のように消えて、快感に近いものが私の全身に走る。
 なんだか今夜はぐっすり眠れそうです。だって私の隣には、心を通わせた唯一無二のマスターがいるのですから…。









 ひとと けっこんした ポケモンがいた。
 ポケモンと けっこんした ひとがいた。
 いまでは ひとと ポケモンは ちがうものだけど こころはおなじもの。
投稿日過ぎちゃった…(T_T)
気を取り直して、おじさまトレーナーとさみしがりなサーナイトのお話でした。
性格厳選を悪く言うつもりはないけど、データから消されてしまったポケモンたちのこと、時々でいいから思い出してほしい。

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