刑徒服役中 脱獄計画中 夢喰進行中

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作者:要石の森
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読了時間目安:28分
この道より

我を生かす道はなし、

この道を行く。

           《武者小路実篤》
俺の名は スリープ。
かつてポケモンの悪夢を喰らう、『夢喰い屋』だった。

……そう。“だった”、のだ。


------------------------


ムンナ「今日から君は、『刑徒番号:096』だよ。スリープ、君」

スリープ「まだ番号でも、呼ばれるだけありがたいと思うよ……所長」


俺はかつて、その悪夢を喰う能力を悪用し、罪を犯した。
だから、この《メナーシ監獄》に収監されたのだ。

……自業自得だ。同情の余地もない。


ムンナ「で、だ……えっと、あれ、君の名前は何だったっけ?」

スリープ「所長……あのですね、俺の名前はスリー……」


… … バ シ ッ ! !


スリープ「!!?」

ムンナ「君を試した。どれ程、ここで利口に努められるのかをね……」

スリープ「は ぐ っ」

なんと、殴られる。

ムンナ「言ったろう。君はここでは《096》。元の名前など不要だし、今後、呼称することも許されないのだよ……」

スリープ(……洗礼って、ワケかい…………)


****


──数時間後《監房》


スリープ(まだ痛むぜ……あのヤロー)

監房には、看守が監視の目線を絶えず向けている。
しかし、俺の顔の腫れを気にする素振りも見せない。

つまりここでは、“常識”ということだ。

???「よぉ。その感じじゃあ、あの所長の手厚い待遇を喰らったってワケかい……兄ちゃん」

スリープ「……あ」

ゴローン「ん? 兄ちゃん、この俺に何か付いてるかい??」

スリープ(コイツは俺のことを知らなくとも、俺はコイツのことを知っている……)


──数ヶ月前


ゴローン『なんか……とてもいい夢を見ていた気がするが……。なんでぇ、眠気が吹っ飛んじまった』

スリープ『その夢、いただきましたよっと』


……ゴクン。


****


スリープ(いつか……おれが夢を “盗んだ” ポケモンじゃないか)


俺の罪……《無断良夢摂取罪》。
つまり、他者の見た良い美味しい夢を、俺は喰らい続けていたのだ。

それが、法に触れると知っていながら、だ。


ゴローン「俺の罪は、《器物破損》だよ。道をゴロゴロと散歩してただけなのによぉー。ところで、兄ちゃんは?」

スリープ「えっ、えっと……あ、そうだ、せ、窃盗罪……だよ」

……子どもの頃、木の実を盗んだだけ だけど。

ゴローン「へー、まぁ。色々あるさな」

スリープ(……しかし、こんな殺風景な監房かぁ。まぁ……罪を償うのには、うってつけの場所なのかな)

ゴローン「おい、兄ちゃん。たそがれてる時じゃねぇ……。来て早々だが、“作業”が始まるぞ」

スリープ「……あぁ。聞いているよ」


刑徒は、労働作業を日々課せられる。

なのだが、このメナーシ監獄のそれは、想像の範疇を超えていて……。



《作業所》



ガラ、ガラ……。


看守「オラッ、もっと早く載せんかぁッ!!」

スリープ(……ここまで、とは)


単純な作業。
ベルトコンベアーから運ばれて来る荷物を、目の前のBOXに積み込んでいくのだ。

なぜ監獄でそんな、どこぞや運輸の仕分けのようなことをやらせるのか。
軽っちそうな箱が、持った瞬間ズシリと重くなるのはなぜなのか。
そもそもそれらの荷物を、一体どこに運搬していくというのか。


疑問の種は尽きないが、看守からしょっぴかれるので、やらざるを得ないのだ。


刑徒たち「……」

そしてその作業時間は、なんと食事時と就寝時等を除く、ほとんどの時間を占めているのだ!!

しかしそんな劣悪な環境下で、刑徒たちは文句一つもこぼさずに、せっせせっせとそれらの作業を機械のように行い続ける。
もしこの監獄が何かの企業ならば、真っ黒認定どころでは済まないだろう。

スリープ(……)ハァ、ハァ


──正直、心が折れそうだ。


スリープ(だが、折られないぞ……決してッ!!)



──数時間後《監房》



ゴローン「いいか、兄ちゃん……これだけは伝えておく」

スリープ「なんだよ、こちとら初日にして色々と衝撃を受けているんだ。……ゲッ、小便、こんなタルにしろってか……」


ゴローン「「──俺たちは、脱獄する!!!」」


スリープ「……なんだって……?」

ゴローン「おっと、そうキョロキョロしなくても大丈夫さ。看守にはワイロを渡してちょいと離れてもらっているから」

スリープ「ワイロたって、そんな金どこから……。てか、俺“たち”って、まさか、俺も……?」

ゴローン「まだ、兄ちゃんは“たち”には含まれていないさ。……俺には他にもう一匹、仲間が居る」

スリープ「しかしその独房にゃあ、俺とアンタしか居ないぜ?」


《いや、イル……よ……?》


スリープ「! ……まさか」

ゴローン「その仲間の『テレパシー』、さ。兄ちゃんもエスパーポケモンだろうからわかるだろう?」

スリープ「し、しかし……一体どこに」

ゴローン「ちょっと、待ってろ……」ズリリ

スリープ「えっ」

なんとゴローンが、便所用のタルをずらす。

スリープ「こりゃあ…………」


──現れたのは、謎の“渦”だった。


ゴローン「これは、念力の渦……。このタルにわざわざ触れようとする看守もいないしな。この先に通じる『念力空間』に、その仲間が居るのさ!!」



──そして《念力空間》



ゴローン「さっ、上がりな」

スリープ「お、おじゃましまーす……」

スリープ(……!)


念力の空間だというから、どんな禍々しい光景が広がっているのかと思えば。
なんの変哲もない(ように見える)、どこの家にでもあるような一室だった。

ベットもある、トイレもある。冷蔵庫もある。
いや驚きだ、何だってあるぞ。


ニャスパー「ハジめまして。ワタシがこの念力空間に住む、ニャスパー。そのゴローンのおナカマよ」

ゴローン「ワイロの金は偽札さ……本当に精巧だろ。そのニャスパーの念写でこしらえるんだ」

スリープ「……まず、この念力の空間……アンタが作ったのか?」

ニャスパー「……」

スリープ「?」

ニャスパー、一瞬口ごもる。

ニャスパー「……ワタシが作ったワケじゃないよ。あとこれからは、互いにナマエで呼び合おう。刑徒番号なんかじゃなくてサ」

スリープ「あ、うん……」


****


スリープ「……つまり、この念力空間は、とある刑徒のエスパーポケモンが死に際の力で具象化させたもの……だと」

ニャスパー「ええ、死に際の念力ってモノは……とてつもないチカラを秘めているの。アナタもエスパーポケモン。その辺はわかっているワヨね?」

スリープ(しかし、家電や寝具までとは……そもそも電気やガスはどうやって)

ゴローン「変に難しいことを考えちゃあ負けだぞ」

スリープ(ま、負けか……? 俺の負けなのか……??)


……。


スリープ「……で、脱獄の計画ってのは」

ニャスパー「ワタシのようなエスパーポケモンを、もう一匹、ずっと探してた。アナタが正にうってつけ。この三匹なら……できる“かも”」

スリープ「おいおい……かもって」

ゴローン「いや、計画はほぼ完璧だ。だが不安要素に一つ、所長のムンナの存在がある」

スリープ「……あぁ、あの手厚い待遇のド腐れ所長か」

ゴローン「できれば奴と真っ向から鉢合いたくはない。脱獄の後に、奴を奴の罪で司法に裁かせる。もし上手くいけば、俺たちは恩赦を貰えるさ」

スリープ「ん? 奴に、何の罪があるっていうんだ。暴力罪か?」


ゴローン「《無断良夢摂取罪》だよ」


スリープ「!!?」

ゴローン「ムンナは何らかの方法で、刑徒たちの夢を奪い取っている。文字通り、私腹を肥やしているのさ」

ニャスパー「……それは間違いないの。でも、まだ確証が得られない」

スリープ(俺の罪と……同じ…………)

ゴローン「ん、どうした?」

スリープ「いや……しかし、どうしてそう言い切れる?」

ニャスパー「……言えない」

スリープ「?」

ニャスパー「まだ、言えないの……」

ゴローン「……乙女心を、察してやれ。俺にも話してくれないが、コイツの言うことは……なぜか信用できる。まぁ、途中で絶対に裏切らないとは断言できないが」

スリープ(乙女心……ねぇ)

ニャスパー「……もぐよ? ゴローン」

ゴローン「あ、すみません……もがないで」

スリープ(その乙女心がどこをもぐのか興味はある)


──そして


ニャスパー「計画は、三匹が分担する」


①ゴローンは、仕分け作業中にこっそりと、
 自分の身体の岩石を一部、荷物に紛れ込ませる。

②ワタシ ニャスパーは、その岩石の位置を把握する。
 きっと荷物が運搬される先に、出口の手掛かりがある。
 
③そしてスリープ。あなたが一番重要よ。
 念力空間に、あなたの超能力で通路を拓くの。
 岩石が辿り着いた先へ、ね。


スリープ(わかったようで、わからないような)

ニャスパー「わかって」

スリープ「……はい」

ゴローン「念力空間を広げられるのは、エスパーの力だけだからな。……ん。スリープ……弱ったな」

スリープ「ゴローン、なんだ?」

ゴローン「看守がどうやら、こっちに向かってるらしいぜ……。ワイロの時間切れには、まだ早いぞ」

スリープ「……何だってんだろうか」

ニャスパー「計画が早くもバレたってワケじゃなさそうね。もしかして……誰かに面会かしら? とにかく、この念力空間から出て」

スリープ(面会……まさか、ね)



《面会室》



スリープ(その、まさかだったよ)

ミミロル「♪」


ミミロル……この女の子もまた、俺にかつて、夢を卑劣にも喰らわれた被害者。

……なのだが。


『私、ず~っと待ってるから!
 おじさんがまた社会に出てくるまで……。
 ず~~~~っと……待ってるからぁッッ!!』


ふとしたきっかけでミミロルの町に起きた怪事件を解決に導き、逮捕される間際、このようなことを言われる程の仲となったのだ。


スリープ「あの言葉は、何だったんだ?」

ミミロル「ずっと待ってるって言ったけど、会いに行かないとはいってないもん」

スリープ「もんって……なぁ……こんな夜更けに」


(……)


スリープ「……夢のために、修行の旅を?」


ミミロル「だったんだけど、お金がその……尽きちゃって……」

スリープ「で、ここに走って来たワケか」

ミミロル「うん」

スリープ「……いつかの病弱具合が、信じられない程の猪突猛進さだな」

ミミロル「だから、今晩泊めてくれる?」

スリープ(ここは賃貸マンションでも一軒家でもないんだぞ)

スリープ「……でも来るアテはある。後でこっそり、俺の監房に来い」

ミミロル「わーい、ありがとうおじさん!!」



──再び《念力空間》



ニャスパー「……で、そのコが来ちゃった……ってワケね」

ミミロル「わぁ〜……私の部屋より、立派」

スリープ「他に場所もなかったんだ……計画をバラすようなことはしない(ハズ)。まぁ、しばらく仲良くしてやってくれ」

ゴローン「お? ジェラシーか、ニャスパー」

ニャスパー「……剥ぐよ? ゴローン」

ゴローン「…………剥がないで下さい」


****


ニャスパー「決行は、明日から! 今日はみんな、もう寝てしまって」

スリープ「来て早々に脱獄の計画に加わる刑徒ってのも、アグレッシブだよな」

ミミロル「そうだね、走り疲れて……もう……眠い……。あれ、おじさん」

スリープ「うん?」

ミミロル「ちょっと……やつれた??」

スリープ「……まぁ、来て、色々とあったからかな」

ミミロル(…………おじさん)

………
……



──翌日《作業所》


看守「オラッ、もっと早く載せんかぁッ!!」

刑徒たち「……」

ゴローン(全く、昨日と同じような台詞を吐いてやがるぜ。さて……)コロッ

手に持つ箱に、こっそりと岩石を紛れ込ませる。

ゴローン「うぅっ」フラッ

ゴローン(全くこの箱……持つ瞬間、いつもめまいがするんだよな。中身は見えなかったが……一体、なにが入っているんだろうか)


****


ニャスパー《岩石の位置情報を追跡。座標は984,635。……コンベアーに載って移動中……。停まった》

スリープ「これで、俺がそこへの通路を切り拓けば、出口への手掛かりが掴めるってワケだな」

ニャスパー《……うん》

スリープ「……フンッ!!」バゴッ

スリープ、通路を生成。

ニャスパー「──ゴローンが合流し次第、行く……よ」



──やがて



……シュタッ!


スリープ(ここ、は)


スリープ一同、切り拓いた通路より降り立つ。
しかし、荷物が運ばれていた先は、外部などではなく……。


ムンナ「やぁ、刑徒番号:075番に……096番。君らはやはり、利口ではなかったか」

スリープ「所長……室……!!?」

ゴローン(な、なぜ……よりにもよってムンナ所長の元に、荷物が運び込まれているのだ)

スリープ「クッ……“そういうこと”、だったのか」

ミミロル「ど、どういうこと??」

ムンナ「察しが良いな、流石は元『夢喰い屋』。あの荷物たちには何が入っていたのか刑徒共は知りたがっていたが……『『何も入っていなかったのだよ』』」

スリープ(そう、つまり──)


あの箱は、ポケモンの夢を……気力を奪い取る『仕掛け装置』だったのだ!!


ニャスパー「《無断良夢摂取罪》……わかってるわよね、“ムンナ所長”」

スリープ(耳が、痛い)

ゴローン「しかし、そんな精巧な装置を創る程の能力──貴様は一体」

ムンナ「あぁ、そうだ……ここまで知られてしまっては仕方がない。メナーシ監獄の所長というのは仮の姿……。真の す が  た   は──」

スリープ「なッ……?」

ニャスパー(……)


──ボワンッ。


一同「「!!!」」


ムンナの姿が煙と共に消えさり、代わりに現れたのは。

……この世の悪夢を全て体現したかのような、禍々しいオーラを放つ……。もはやポケモンですらない。暗黒に染まりきった、巨大な『闇』であったのだ。


“夢喰体”『ギラレラレ……我が名は《夢喰体》(ゆめくいたい)……。この世の全ての希望を喰らうために生まれた……ポケモンたちの悪夢の集合体よ…………』

ニャスパー「そんなこと、知っている」

ゴローン「えっ、ニャスパー……??」


ニャスパー「私の母親……《刑徒番号:678》のこと……。覚えていないとは言わせないわよッ、夢喰体ッッ!!!」



……
………


ニャスパーの母、ニャオニクスは……優秀な警察官だった。
ある時ニャオニクスは、メナーシなる監獄の所長が失踪した事件の担当となる。

……が、手掛かりは何も掴めず。
そうこうしている中、新たなるポケモンが、新所長の座に就くのだ。


ニャオニクス(私の勘が言っている。……コイツが、怪しい)


新所長……ムンナなるポケモンを探るため、監獄に侵入。しかしその時点でニャオニクスは、失敗を犯していた。


ニャオニクス(……つ、よ……い──)

“夢喰体”「ギラレラ……レェェェェェッ!!!」


新所長がポケモンではない規格外のバケモノであり、私腹を肥やすため、監獄を私物化するべく、前所長を殺害したということ。
その事実を、事前に計り知ることができなかったということ。


ニャオニクス(……)ハァ、ハァ


そして致命傷を負ったニャオニクスは《不法侵入罪》を被せられ、監獄に収監される……。


ニャオニクス(……この子の、ために……も)


ニャオニクスは、子どもを身ごもっていたのだ──


そしてニャオニクス、死に際の念力にて空間を生成。赤ん坊を空間に転送させる。
願わくば……母の意思を継ぎ、“夢喰体”を打倒してほしい……と。


………
……



ニャスパー「ワタシは今この瞬間のためだけに、ココまで生きてきたの……。夢喰体ッ……お前を倒す!!」

ゴローン「待てニャスパー……事情はわかったようでわからないような気がするが……」

ニャスパー「だから、わかってッ!!」

ゴローン「──持ち味の冷静さを失うなッ!!!」

“夢喰体”『面白い……パゴァァァァァーーーッッ!!!!』

ゴローン「お、俺たちも助太刀するぞ! ……ん?」ボワァッ

スリープ「うぉっ……これは」

ミミロル(身体が……動かない!?)

“夢喰体”『ギレレレ…………』

ニャスパー(恐らくは、あの“夢喰体”を形成するガス状の物体! あれに触れたら、身体の自由を奪われる……)

ニャスパー「──“サイケこうせん”ッ!!」ポワワワッ

念力の光線を、“夢喰体”に向け、発射。

“夢喰体”『接触攻撃が危険だからと、すぐさま遠距離攻撃に切り替える。その洞察力は褒めてやるが──』


“夢喰体”『『それだけで……この我に勝てると思い上がるなよッ、小娘!!』』


……シュウゥゥッ!!


ニャスパー「!」


“サイケこうせん”は命中することなく、“夢喰体”の一喝により、消し飛んでしまったのだ。


スリープ(つ、強い──)


ニャスパー(気持ちを、切り替えなければ)

ニャスパー「……“エナジーボール”」ビシュッ

草の念弾を、発射。

“夢喰体”『──ヌグォッ……フングッ!!』

一瞬は怯むも“夢喰体”、攻勢に転じニャスパーを狙う。

ニャスパー(……)シュンッ

しかしニャスパー、どこぞやへと姿を消失させ。

ゴローン「おぉッ、ニャスパーの“テレポート”」

“夢喰体”『小賢しいッ!』

ニャスパー「──“エナジーボール”ッッ!!」ビシュシュッ

別の場所より姿を現し、連射の、“エナジーボール”。

スリープ(ニャスパーの作戦は恐らくはヒットアンドアウェイだろう。しかしそれで、無尽蔵にも思える“夢喰体”を削りきれるか。そしてなにより……)


ニャスパーの、体力は持つのか──


ニャスパー(……)ハァ、ハァ

ミミロル「ニャスパー……汗がすごいよ、大丈夫なのかな……」

ニャスパー「“この一撃”で、終わらせるよ……“夢喰体”」

そしてニャスパー、何かを取り出す。

ゴローン「……あれは、《エスパーZ》? そんなもの、ニャスパー……どこで」

ニャスパー「母さんの形見なの……“夢喰体”! 足元を……見てみれば?」

“夢喰体”『……策を練っていたというのか、あの……エナジーボールの連射は』


“夢喰体”の足元には、草弾の連射により飛散した草々が、絡まり付いていたのだ。


ゴローン「やったぞ! これで“夢喰体”はしばらく身動きがとれない……」

ニャスパー「「喰らえ“夢喰体”! ワタシのゼンリョク……。
マキシマム……サイブレイカァーーーーッ!!!」」

“夢喰体”(お遊びは、ここまでだな)


ニャスパー、全身全霊の念力を、“夢喰体”へ浴びせにかかる。

──が。


……シュウゥゥゥゥ──


ニャスパー(! ワタシのゼンリョク……防かれたッ!!?)

“夢喰体”『このガスは《絶対悪夢》の鎧……あらゆる攻撃を、受け付けぬ……。我が本気を出せば、恐れるものはないッ!!』

ニャスパー「!?」

“夢喰体”『フンッ』ガシッ


──バギャアッ!!


ニャスパー「ゲ フ ッ ! !」

“夢喰体”、ニャスパーを鷲掴みにし、力強く床に叩きつける。

ニャスパー「……う、うぅ……」

“夢喰体”『もう、ダウンか。所詮は薄汚れた刑徒の娘。同じ運命を辿れ』

ゴローン「そ、そんな……今までのは奴の言うとおり、遊びに過ぎなかったのか」

スリープ「どうやって……戦えというのだ……」


一同が言葉を詰まらせた、次の瞬間。


スリープ「……戦うんじゃない……俺らのすることは、降伏だったんだ……」

ゴローン「……岩石以下だ、オレなんて……。そう、分解されて無くなればいい」

ミミロル「な、なにを言ってるの……みんなッ!!?」

ゴローン「……死のう」

スリープ「いや、生きて恥を晒そう……」

ミミロル(皆が諦めの境地に入ってしまっている……。これは、どういうこと)

“夢喰体”『……なぜだ?』

ミミロル「え……」

“夢喰体”『我はポケモン共の夢や希望を喰らうのが生き甲斐であり、存在意義。それなのに、貴様からだけは、奪い切れぬのだ……』

ミミロル(……そういうことね。スリープやゴローンは今、この光景を見せられて、それらを奪われてしまった)

ミミロル「みんな、私に掴まって!!」

スリープ「生まれ変わるなら、もっとカッコいいポケモンになりたい」

ゴローン「いや、そんな希望をもつのはダメだ。……ミジンコになろう。俺は」

ミミロル「いいから掴まってッ!!」ガシッ


──ボワンッ。


三匹を掴み、ミミロル、念力空間へと退避する。


“夢喰体”(ほう……)


****


ニャスパー「み……みんな、ごめん。勝てなかった……」

スリープ「死に急ぎたい」ガックシ

ゴローン「今すぐ土に還りたい」ガックシ

ミミロル「ニャスパー……そんなこと、どうでもいいの。あなたを助けられてよかった……でも──」


ニャスパー「ハァ、ハァ……」


ミミロル(早く病院に、ニャスパーを連れていかないと!)

ミミロル「ねぇ、そこのオトコたちッ!!」

スリープ「できれば自害を日課にしたい……ハァ」ガックシ

ゴローン「大衆の門前で自爆して果てたい……ハァ」ガックシ


ミミロル「「──あなたたちの“夢”……思い出してッ!!」」バシイッ


二匹「「……!!」」


ミミロル。二匹の顔を、思い切り引っ叩く。


ミミロル「特に……おじさんッ!」

スリープ「え、俺……?」

スリープの意識が朦朧とする中、ミミロルは彼に語りかける。

ミミロル「あなたはかつて、私を救ってくれたのに……。病弱だった私に優しく接してくれて、希望を与えてくれたのに……」


『世界中の 病気で苦しんでいるポケモンを救うことができる。
 私は、そんなお医者さんになるんだ。
 それが私の夢。あなたがポケモンの悪夢を“奪いし者”なら、
 私はポケモンたちに、笑顔を“与えし者”になってみせる!!』


ミミロル「“夢喰体”すら奪いきれなかった私の夢。そのきっかけになったあなたがそんな体たらくじゃあ……あまりに申し訳ないと思わないのッ!!?」


スリープ「!!!!」


------------------------



……
………


──数年前


スリープ(ハァ……夢喰い屋って、本当に儲からないんだよなぁ。こんな最底辺の仕事なんて、続ける意味はあるのかなぁ)


(……)


『ありがとうね、スリープ! これでもう悪夢に悩まされずに済むよ!!』

スリープ「い、いぇ……」

『すまないねぇ……スリープ。こんな年寄りを軽蔑せず、相手にしてくれて』

スリープ「あ、はい……」

『なんでそんな哀し気な顔なんだい?』

スリープ「べ、別に……」


『スリープ……アンタの仕事がつまらないなんて決して思うんじゃないよ。物事には、必ず存在意義がある。アンタの仕事が続いてるってのは、そういうことさ』


スリープ「……俺の、存在意義」


ある客の その言葉を受けてから、俺は俺なりに考えた。
『夢喰い屋』という職業の、本当の存在意義……。


──しかし、わからなかった。わからず仕舞いだった。


その時の俺自身が、欲望や闇に塗れたままだったから。


スリープ(いつか、見つけられるのだろうか。俺の、存在意義を──)


------------------------

………
……


スリープ「そして、とうとう見つけた!」

スリープは、ミミロルの方を見やり 言う。

ミミロル「おじさん! あなた、正気に……」


『悪の夢を喰らい、そのポケモンに希望や真実の夢をもたせること』


スリープ「それが、俺の存在意義」


『『世界中のポケモンが夢や希望で輝ける、そんな世界にしてみせる』』


スリープ「……それが、俺の夢だッ!! 見つけ出すことは、ミミロル……お前が居なければできなかった。この前も、そして、今回も……な」

ミミロル「……おじさん」

ゴローン「俺も、取り戻せたぜ。まごうことなき真実の夢を、な」

スリープ「あ、いたっけ」

ゴローン「『ゴローニャに進化する』。長年の俺の夢だった。しかしそれには、真の友との絆がなければ成立しないとされていた……が、お前たちが居る、今なら」


ゴローン「「叶う気が……するぜッ!!」」ピカァッ


スリープ「お、おぉッ!!?」

ゴローンの身体が眩き光に包まれ、そして。


ゴローニャ「……叶ったぜッ!!」ドドォンッ


──ゴローニャに、進化。


ゴローニャ「行くぜ兄弟! この監獄を脱出し、ニャスパーを救うんだぜッ!!」

スリープ「お、おぉ……」


…………その時、だった。


“夢喰体”『薄汚れた刑徒共よ。猛烈なる快進撃がこれから始まるとでも舞い上がっているのか?』

一同「「「!!!」」」


──念力空間に現れる、“夢喰体”。


ニャスパー(ここまで、なの……!?)

“夢喰体”『逃さんぞ……ゲギョガラァーーーッ!!!』

“夢喰体”、スリープたちを仕留めんと襲い掛かる。

ゴローニャ「しっかりと掴まれ、ニャスパーッ!!」

ニャスパー「うっ、ハァ、ハァ──」


……ゴロゴロゴロゴローーーーッ!!!


ゴローニャ、ニャスパーを抱え、大回転による逃走を開始。


ゴローニャ(この速度……進化無しでは なし得なかったぜッ!!)

スリープ(いいぞゴローニャ、そのままあの通路まで逃げろ)

“夢喰体”『無駄なことは言わせるな……逃さんッ!!!』ドドトドッ

……バクゥッ!!


“夢喰体”『!!?』


“夢喰体”の身体が、一部分 消し飛んだ。


ミミロル「真の夢を有する者には、その《絶対悪夢の防御》は無効化されるようね。そして生憎……そんな悪夢を喰らうことが、彼の……」


スリープ「そう。俺の、職業だッ!!」


“夢喰体”『貴様らアァァァァーーーーッ!!!』


「サイコワールズ・ジ・エンド・ローテーションッ!!!」


ド ガ ァ ッ ! ! !


“夢喰体”『グフガラァッ!!?』

黄金色の念力を纏いゼンリョクで回転するゴローニャの身体が、“夢喰体”に直撃。

スリープ「ファインプレーだぜ、ニャスパーにゴローニャ」

ニャスパー「ハァ……借りは返したわよ……“夢喰体”ッ!!」

スリープ「……全てはこの瞬間のためだ、俺のゼンリョク──」

“夢喰体”『この……ゴミ屑共がぁ……ドムガアァァァァーーーーッ!!!』



スリープ「『ロンズデーライト・グランド・ホール』ッ!!!」ドォォッ



“夢喰体”『!!!?』


かつて対峙した敵から受けし技『ダーク・ホール』に影響を受けしゼンリョク技。
ダイヤモンドにも勝る偉大なる輝きを誇る閃光の渦が、敵を激しく包み込み。


“夢喰体”『……げぐわぁ〜〜〜〜ッ!!!!』


──悪しき闇を、完全に消滅させるのだ。


… … シ ュ ウ ゥ ゥ ッ ! ! !


スリープ(……やった……)


“夢喰体”の存在は、この世から完全に抹消され。
存在していた意義なども、もはや何もかもが、失われた──


****



──数時間後



看守たち「私たちは、奴に利用されていたというのか」

看守たち「これからは再びメナーシ監獄にも、平和が戻ることでしょう」

看守たち「あなたたちには恩赦が与えられます。特別に……あなたたちを釈放することになりましたッ!!!」

ゴローニャ「おお、やったぜッ!」

ニャスパー「……みんな、ありがとう……」

ミミロル「すごいよおじさん! アタシたちと一緒に、さぁ、帰──」


スリープ「……悪いが俺は、ここに残るよ」


一同「「「え!?」」」


スリープ「俺は脱獄に協力するとは言ったが、一緒に脱獄するとまでは言ってないからな」

ゴローニャ「で、でもおじさん」

スリープ「俺の犯した罪は、恩赦なんぞでは消えないんだ。かつて、確かに犯した、到底許されるハズもない……罪──」

ミミロル「おじさん……」

スリープ「刑期を全うすることで、初めてミミロル、お前に顔向けできるんだ。俺のワガママ、聞いてくれないか……」


(……)


ミミロル「うん、わかったよ……おじさん!」

ニャスパー「あなたの決意は……堅いようだしね。あとあの空間、自由に使っていいからね」

看守「?」

ゴローニャ「でも時々は、遊びに いや……面会しに来るからな! 兄弟、いつか出所したら、一緒に岩石の山でも喰らいにいこうな!!」

スリープ「いや、それは遠慮しておくよ……」


一同「「「「──アハハハ!!!!」」」」


………
……



君は君

我は我也

されど、仲良き。

            《武者小路実篤》



刑徒服役中 脱獄計画中 夢喰進行中 − 完 −

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