虚ろな甘ったるい香り

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作者:草猫
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読了時間目安:7分
一足早いですがバレンタインの小説です。
ちょっとバレンタインへの解釈が変わり種かもですが悪しからず。
 バレンタイン。 それは恋する相手同士が愛を確かめ合うという、青春を生きる者にとってはピンク色に煌めく行事である。 そしてそれはチョコ会社の陰謀なのかはどうかは知らないが、異性にチョコを渡す行事へと変貌を遂げている。
 だが、正直それに興味の無い者も一定数はいるわけなのだ。 まあ、そういった者はかなりひねくれた異端者と周りは思うだろうが......。
 
 
 
 
 
 
 
 
 「......うわ」
 
 急に立ち止まる1匹のジャノビー。 学校の長い階段を死にそうになりながら上り、廊下へと辿り着いた瞬間この世の終わりかのような不機嫌な表情を見せた。
 何故かって? それは......
 
 「ゴーリキー君、はい、チョコですよ〜!」
 「あんがとマリル! ......うわめっちゃ旨そう!」
 「えへへ......心を込めた手作りだよっ!」
 「まじ!? すげえな......今食ってもいいか?」
 「もちろーん!」
 「どれどれ......うめえ! 最高だよお前!」
 「やったー! 嬉しい!」
 
 
 
 
 
 「キルリアちゃん、はい友チョコ!」
 「うわあかわいい〜! ありがとう! 何これ超可愛くデコってある!」
 「でしょ!? 結構頑張ったんだよ〜!ただ味見しすぎたからニキビとか心配......」
 「何言ってるのよ美肌なのに! というか私もチョコ持ってきたから!」
 「ええ〜! 更に心配.....でも食べちゃお!」
 
 
 
 
 お分かり頂けただろうか。
 廊下はピンク色とチョコの甘ったるい香りが充満していたのだ。 進学して、お菓子も黙認されるようになった事もあり覚悟していたが......これは予想外だった。
 
 (チョコ嫌いなんだけどなぁ......ま、仕方ないか)
 
 ジャノビーは気まずそうにイチャイチャするポケモン達のハートが飛び交う廊下を足早に通り過ぎて行った。
 そして、教室へと着いたわけだが......それでも解消された訳では無かった。 廊下が別クラスのカップルや親友ならば、教室は同クラス。 予想は出来たものの、少し彼女はげんなりした。
 のんびりと窓の外でも眺める。 空はこんな日でも変わらず青かった。 この青がバレンタインで浮かれた者達に届けばいいのにとか、ちょっと詩的なようなそうでないような事を考えてみる。
 そうこうしている間に始業5分前。 ポケモン達は徐々にそれぞれの教室へと戻って行く。 外からでもそのイチャイチャは聞こえてきたので、ジャノビーにとっては煩わしさが解消されて少しありがたかった。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 昼休み。 流石にチョコ渡し合戦は終息しているようだったが、代わりにチョコを食べるポケモンが増えた。 教室中が甘ったるい。 一難去ってまた一難だ。
 ジャノビーはのんびり1匹で母親お手製の弁当を食べていた。 別に何か理由がある訳では無い。 男子とか女子は仲の良い子達とグループを作って日常的に食べているが、ジャノビーはそれの必要性を感じないタチだった。 別に孤立しているという訳でもなく、クラスメイトとの仲も良好だ。 だが、のんびりと1匹でいる時間を大事にしたいというのがジャノビーの考えだった。
 ご飯を食べ終わって、歯磨きに出ようとすると......
 
 「ジャノビーちゃん」
 「ん?」
 
 振り返ると、そこにはシャワーズがいた。 彼女は袋を抱えてこちらへ聞いてくる。
 
 「みんなに配ってるんだけど、よかったらチョコ食べる?」
 
 案の定というべきか、チョコへの誘いだった。 確かに袋の中には小粒のチョコが沢山ある。 まさかの思わぬ心遣い。
 
 「ああ〜、ごめんチョコ食べれなくて......」
 「あっ、そういやそうだったね、ごめん!」
 「ううん、ありがとう」
 
 彼女はこちらを去り、また別のポケモンにチョコを渡す。 断るのは少し心苦しかったが、仕方ない。 快く受け取ったとしても、食べられずに親に渡してしまうのがオチだ。 美味しく食べてくれるポケモンが受け取った方が、 チョコもきっと本望だろう。
 にしても、チョコは一応元は植物なはず。 何故草タイプである自分には合わないのだろうか。 ジャノビーは少し悶々となって考えを巡らせた。
 ......そうしている間に、5限の始まりが迫っていた。 ジャノビーは慌てて歯磨きへと向かう。 水道の水は、この甘ったるい中でかなりの癒しとなった。 冬のせいか、やはりまだ冷たいのだが。
 
 
 
 
 



 
 
 6限、無事終了。 彼女の部活はかなり緩く活動も少ないため、さっさと帰ろうするが、また1つ声をかけられる。
 
 「ジャノビーちゃーん」
 「ん? どうしたの?」
 「はいこれ!」
 
 前置きも無しで、突然小袋を渡される。 淡いピンク色の小さな袋だ。
 
 「あの、私チョコ......」
 「うん、バレンタインチョコ作る時にそういや前チョコ苦手だって言ってたの思い出して......だからクッキーどうかなって。 何も入ってないやつ! 市販で申し訳ないけど、袋だけは凝ってみたよ!」
 
 その子はにっこりと笑う。 ああ、そういえばさりげなく話していたっけ......。 ジャノビーはその優しさに感謝しながらそっとその小袋を手に取った。
 
 「......ありがとう」
 「うん! どういたしまして! そんじゃまた明日ねー!」
 「あ、うん! また明日......」
 
 ーージャノビーは、こういう時にうまく喜びを表現出来ない自分が恨めしくなった。 でも、やはり少し嬉しいものがある。 さっきまであんなに苦しめられていたのに......
 
 「不思議だな、バレンタイン」
 
 ジャノビーはボソリと呟き、クッキーを手提げカバンにそっと入れた。
 
 
 
 
 



 
 
 家に帰って、クッキーをゆっくり食後に食べる。 ......ふむ、中々食べやすい。 完全にプレーンな味だが、甘いものが苦手な彼女にとってはありがたかった。
 家に着いた頃にはあの香りはもう無かった。 というか、明日には校内のあの香りは消えているのだろうか。
 
 「......流石に2日連続はごめんだな」
 
 ジャノビーはその後静かに布団に潜った。どうか、あの香りは彼方へと旅立つように祈って。
 
 1日だけならばいいだろう。 チョコ会社の陰謀による夢を見たって。 クッキーとはいえ、ジャノビー自身もその恩恵を受けたのだから。
 
 
 でも、これ以上続けば虚ろな甘ったるさが全てを包み込んで、少し過ごしづらくなってしまうだろうから。

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感想

お名前:豆シヴァさん
執筆お疲れ様です!楽しく読ませていただきました。

最初は淡白な印象のジャノビーちゃんでしたが、クッキーをもらって少し喜ぶ場面は微笑ましいですね。そんな気遣いに対して、素直に感謝を伝えづらいところも、彼女らしさが出てて良いと思います。
ホワイトデーには素っ気ない感じでお返しするんだろうな〜(ニヤニヤ)
書いた日:2020年02月11日
作者からの返信
感想ありがとうございますー!
やっぱ誰かに物を貰うっていうのはバレンタインとか関係無く嬉しいでしょうし、彼女にとっては良い1日というわけではなくとも、「悪くない1日」にはなったのだと思います!!
ホワイトデー......慣れないながらも美味しそうな物を探そうとするかもですねー!
書いた日:2020年02月14日
お名前:紫雲さん
 興味深く読まさせて頂きました。

 こういうワンシチュエーションで、何か大きな捻りやオチの無いお話ほど、逆に色々勘ぐってしまうタチなのですが、淡々と紡がれるジャノビーの見るバレンタインの世界が本当に青い色をしていて、甘い香りに満たされた空間がこちらにまで届いてくるようでした。
 でも、少しでもバレンタインに嬉しさを憶えたジャノビーの姿が可愛らしかったです。
書いた日:2020年02月07日
作者からの返信
感想ありがとうございますー!
確かに大きな山場のようなところは無かったですが、ジャノビーにとってはただの変わった1日に過ぎないので......空もジャノビーも通常営業なんですね、他がピンクに染まっただけで()
といっても、やはり生き物ですから羨望というのも少なからず持ち合わせてます。 もちろんジャノビーもそれが少しあるからこそこの日は息苦しそうな感じではありますけど、それに対して少しは救いを持たせる事は出来たかと思っています!!
書いた日:2020年02月08日
お名前:オレンジ色のエースさん
 バレンタインデー。本当は凄く素敵な日なのに、全ての人がその恩恵を受けられないちょっぴり寂しい日ですよね。ジャノビーのようにチョコが苦手な人にとっては、かなり憂鬱なんだろうなぁとか感じながら読みました。

 こういうの好きなんですよね。別の角度から物事を見られるような作品。執筆お疲れ様でした。
書いた日:2020年02月03日
作者からの返信
感想ありがとうございますー!!
ですよね、バレンタインはいい日だとは思いますけどジャノビーの様な子にとってはただの普通の日に過ぎないので......というか元々、特に日本にとって普通の平日とか休日にチョコだチョコだとわいのわいのやってるって、ちょっと不思議じゃないですか?(←そんな思考お前だけだ())
 
別の角度から見られると言ってもらえるのは嬉しいです!これもバレンタインの1つの形!!!()(ゴリ押し)
書いた日:2020年02月08日