摩天楼の影。摩天楼の星

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作者:にっか
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読了時間目安:10分
超絶久しぶりの投稿ですが、皆様元気でしたでしょうか?
まあ、書いてはいたものの投稿してなかったので、その中から一話投稿します。
恒例の誤字脱字はあるかと思いますが、生暖かく見守ってください。
「僕には墓石に見えた時もあるね」
「そうかのお? わしゃ、モノリスに見えるがの?」
「え? 何処でそんな映画観たの?」
 二ッ池の長老の意外な発言に僕は吹き出す。
「いつだかの、『二ッ池野外映画会』じゃったかなあ」
「そう言えばそうでしたね……」
 僕も見学に行って観ていた。すっかり記憶が他の記憶と混同している。
 僕と二ッ池の長老のニョロトノは僕の住んでいる神社の石段で。夕日でビルが影を延ばしているクチバシティを眺めていた。別に夕日を眺める為に石段に来たわけじゃないけど。

 ここ数日、この神社とポケモン保護区にもなっている二ッ池があるこの地域……。
 二ッ池は古くは風土記にも記載されている、由緒正しい降雨を祈る神聖な場所。のあるこの地域に落書きが多いと言う事で、僕と長老で確かめる為に見回りをしてきて丁度神社に帰ってきた所。
「ありゃ、ドーブルかの? 人間の落書きではなさそうじゃが。あまりあちこちに落書きされると、消すのも大変じゃろう」
「うん。町内会長が、『ドーブルの落書きを見たら町内会へ』って張り紙作っていたよ」
「この辺のポケモンじゃ無いからの。どこぞで捨てられたか、逃げてきたかじゃの」
 この神社がある一帯は、クチバシティに隣接している地域でもまだ開発されていない所が多い。理由としてはディグダの穴が近くにあって地盤の強度に問題があるから。僕としては三百年住み慣れたこの神社と、寂れつつも残っている農村が都市の波に飲み込まれていないというのは複雑な心境だけど、住み慣れた所が変わらないという事の安心感がある。
 開発の話は戦後すぐの頃から何度も上ってきているけど、ディグダの穴の件。それに、神社と二ッ池にその周辺が、地域住民の神事に関わる地域という事で保護区になっているという理由もあって何度も立ち消えになっている。それでも、最近は二つ池の近くに市電の停車場が出来ている。なんだかんだで、いつまでも農村ではいられないと言う事だろう。
「まあ、見慣れない種類だから、見つかったらすぐに保護されるだろうけど」
「しかし、この辺のポケモン達にも接触してこないとはのお。余程の対ポケモン恐怖症かの?」
「そうだね。落書きだけして、人間だけでなく。僕ら、ポケモンにも姿を見せないなんて」
 理由はあるのだろうけど、それは本人しか知らない事。僕や長老が推測しても、結局は推測でしかない。
 とりあえず、落書きを消す作業は町内会の皆さんにお願いする事になるけど。何か出来る事はないかなあ?

「さて、迎えも来たようじゃし。わしゃ、ここらで失礼するかの」
 長老は、座っていた石段から立ち上がると、杖をつきながら石段を降りていく。
「気をつけてね」
「お社様……、いやお姉様もの。年取ると足腰が弱るからの。ふぉふぉ」
 そう言って、石段の中頃で迎えに来たニョロボンに抱えられると、手を振りながら長老は去って行った。僕は見えなくなるまでその場で見送ると、鳥居をくぐって社殿の屋根に飛び上る。
 まったく……。年齢は僕の方が上だけど、老化は長老の方が先だろ……。寂しい事実だけど、「お姉様」と僕より若い年寄りに言われると少し胸が苦しい。
 陽が沈んで、この神社より西にあるクチバシティの景色は、墓石の群れから不夜城に一変した。振り返って東側の寂れた農村は秋の虫たちが静かにメロディを奏でる。僕はその音楽に耳を傾ける。ポケモンにとって保護区は安息の地だけど、それ以外の生き物にとっても安息の地なんだな。街が郊外へと拡がるにつれて、街に住めない生き物達がこの辺りに集まってきている。
 住みにくい場所になっているんだろうなあ。

「何を以て、住みにくいかは難しいけどね」
 僕がここに住み始めた頃は土地も痩せていて、小さな集落がいくつかあって。それから、人間達が土地を開墾して。田畑が増えて、何時の間にか外国との玄関口として大きな港が出来て。街が大きくなって。
「誰かが住みやすい。その逆で別の誰かは住みにくい。難しいなあ……」
 人間が二人以上いれば諍いが起きる。って言うけど、生物が二種類以上いれば争いが起こる。自然の摂理はそうなんだろうね。共存共栄か。無理ではないけど、ハードルは高いんだろうな。この辺りは自治会と、伝統というお守りでなんとか共存は出来ているけど。
「いつまで続くのかな?」
 正直、伝統なんて誰かが継がないと消えるだけだし。この地域の民間信仰も、終わればディグダの穴なんて人間の力でどうとでもして。最後は、あの摩天楼の一部になるんだろうな。でも、現実そう遠くない話だろう。だって、一五〇年で小さな漁村がカントー地方出も有数の街になるなんて、ここに住み着いた頃の僕には想像できなかったし。
 あー、でも想像のしようがないか。
 侍がいた時代が突然終わって、それから急速に近代化して今に至るし。一五〇年でカントー地方だけでなくて、世界中で色々な技術が進歩しているって言うし。
「人間は怖いなあ」
 別に、恐怖心ではない。ただ、常に発展を続ける人間のエネルギーに驚きを隠せない。そんな怖さ。どこまで、彼らは大きくなるのだろう? 僕はあと何百年それを見続けるのか? 怖い物見たさが心をくすぐる。
「お前も人間。怖いのか?」


 場所は変わって、神社の社務所の縁側。
 すっかり空も暗くなって、街の灯りが空を照らす。そんな空を眺めながら、僕は二匹のお客さんにペットボトルのお茶と、お中元の残り物のお菓子を差し出す。
「こんな物しか無いけど」
 二匹は静かに受け取る。
 ドーブルとカクレオン。どおりで誰も姿を見ないわけだ。ドーブルをカクレオンが上手い具合に、壁になって見えないように隠していたから。
「どうしたものかな?」
 探し人から現れてくれるとは。手間が省けたというか……。複雑だ。
「僕は悪戯を。そう、落書きを止めてくれれば別に何も言わないけど……。まあ、君たちの事情は事情であるんだろうけど。話してもらってもいい?」
 すぐには話してもらえないか……。まだ、僕の事も警戒しているようだし。
 でも、二匹の様子を見るとただ事ではないだろうなと。そう見える。なにしろ、痩せ細っているし。カクレオンは右足を引き摺っている。多分、骨折した後ちゃんとした治療を受けていないのだろう。骨が変につながってしまった感じ。
「……」
 無言で、お茶を飲んでお菓子を食べる二匹。
 その横で、そんな二匹を無言で見つめる僕。
 虫の音が静かに響く。

 無言で半時ほど。僕は虫の音を聴きながら。二匹のお客さんはお菓子を食べ、お茶を飲んで。
「まあ、べつに今どうこうするつもりはないから。ただ、落書きは止めてくれれば嬉しい。あと、食べるものに困っているなら、僕の所に来てくれても良いし。二ッ池の、この近くの大きな緑地の中にある池の長老を頼ってくれても良いよ」
「……」
「……」
 無言。
「ここは、一応保護区としてポケモンの捕獲や、野生のポケモンとのバトルは禁止されているから。人間と関わりたくないのなら、この神社や二つ池の周りに住めば安全だとは伝えておく。僕は、それ以上の事は多分出来ないけど。ポケモン関係で困った事があれば言いに来てくれれば相談には乗れるよ」
 相変わらず無言だけど、話は聞いてくれていると思って僕は話し続ける。
「ま、君たちの事は黙っておくから。少し考えてみて。でも、落書きが続くなら僕としては、君たちを止めないといけないからね? そこだけは覚えておいて」
 お菓子を食べ終えた二匹は僕の話を聞いているのか分からないけど、しばらく空を見上げながら縁側で無言を貫いた。そして、そのまま立ち上がると僕に会釈をして神社の境内から静かに立ち去った。
 結局、「お前も人間。怖いのか?」の一言しか言葉を聞けなかった。僕の思う怖いと、彼らの思う怖いは違うだろうな。それくらいしか分からない。ただ、怖いと言う言葉は共通している。人間の何に対して怖いのか。それは、僕とあの二匹とでは違うけど。各々に怖いと感じさせる人間って本当に不思議な生き物だ。
「だから怖いのかな」
 ただ、生き物として生きているけど。考えたり感情を持っていたりとか、共通する点があるけど。人間って、突然何かのエネルギーが湧き出してきて、森羅万象を凌駕しようとする。

 もう一度社殿の屋根に上ってクチバの街並みを見る。今は、墓標に見えた摩天楼は、窓一つ一つが星のように輝いている。
「夜景か。地上に星を作り出すんだもんね。人間には脱帽だね」
 僕は、この街の成長。そして、住人に嫌悪感はない。今のところは。
 この神社や、二ッ池がどうにかなる時はどう思うかは分からないけど。でも、少なくとも、今はこの場所と街を気に入っている。良いも悪いも、併せ持っての生き物だから。だから、人間を一概に嫌悪する対象だとは思わないし、ポケモンにも嫌いな奴だっている。
「気の持ちようだけど」
 だから、あの二匹が人間とポケモンを避けてまで暮らしている理由が知りたい。いつか、二匹の口から聞く事が出来るだろうか? それはわからない。いつかは、ここのポケモン達と暮らすようになるかもしれない。だからこの地域が、二匹がコソコソせずに暮らせる場所であり続けて欲しいなと思う。
原稿が終わらないと、短編掌編が増えるんですよね……

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