戦禍に咲いた月桃の花-Selfish amethyst-

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作者:理想の湊
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読了時間目安:41分

この作品には残酷表現があります。苦手な方は注意してください

 ここはとある町の郊外にある小さな家。小さいといっても二階建てのそれなりの大きさのある家だ。その中でとあるポケモン達が紅茶を嗜みながらゆったりと過ごしている。時間帯的には夕方も過ぎてきた頃。日が沈み朱色がかっていた空が紺色へと変わり始めていた。

「それにしても…トカラさんとジャワさんって仲いいですよねぇ」

 ゆったりと紅茶を嗜みながらアチャモのアカリは目の前で同じように紅茶を嗜んでいるポケモンに向かってそういったのだった。

「んあ?そうかぁ?」

 ザングースのジャワがそう少し抜けたような声でそう答えた。

「そうですよー!二匹で仲良く助け合ってるなぁって思います」
「へへっ、まあそうかもな。でも昔はそうでもなかったんだぜ?」

 照れ臭そうにジャワが鼻元を触る。トカラとジャワはここ時空教という宗教を開いていてトカラが教祖、ジャワがその幹部的な立ち位置なのだ。教祖だとか幹部だとかいっても様呼びしたりなどの堅苦しい雰囲気はなくここにいるメンバーはみんな気楽に過ごしているのだ。

「へぇ〜そうなんですか」
「そういえばジャワの昔の話ってオイラ聞いたことないのだー」
「あ、そうなの?」

 頭の上の話を聞いていたバチュルのビロウがそう言った。アカリの頭の上にビロウが乗っているのはアカリの頭の羽毛で静電気を作っているからだそうだ。アカリ自身は気にはしていないらしく逆にマッサージのようで気持ちがいいらしい。

「そういやそうだったな…気になるか?」
「気になりますー!」
「オイラも気になるのだー!」
「…私も少し気になるな…」

 さっきまで側でガジェットをいじっていたシャンデラのヒダマが唐突に会話に紛れ込んできた。

「…珍しいな、お前から声かけるなんてな」
「なぁに、私のことを深淵アビスの底より救いし二匹の救世主達メサイア閉ざされし過去クロニクルを聞けるというのだ。それに対して私が興味を示さない理由などあるはずがないではないか」

 普段はおとなしく内気な性格のヒダマだがたまにこうなるのだ。なんでもガジェットのつながりオーブツナガッターの中ではいつもこんな感じらしい。

「よーし!じゃあみんなで聞こうよ!ビロウ、みんなを呼んで来て!」
「了解なのだー!」

 ちっちゃな片手をビシッとおでこの方に当てながら元気よくそう返事をするとアカリの頭の上から飛び出し、自慢の糸を器用に天井に貼り付けながら二階いる他のメンバーを呼びにいたのだった。


「…というわけで、連れてきたのだー」

 ビロウはとても元気よくそう言うとアカリの頭の上に戻っていった。

「ビロウからある程度話は聞いたよ。俺も長らくここにいるけどその話だけは聞いたことなかったから気になってたんだ」

 そう言ったのはハッサムのビンガタ。一番ここに世話になっているビンガタでさえもジャワ達の過去についてはほとんど知らないらしい。

「でも今まで話そうとしなかったのになんで話そうと思ったのかしらね…」

 ニドクインのハルがそう純粋に疑問を投げかけた。これだけ長い間過去のことを秘密にしていたのだ。きっと何かあるはずだと思ったのだ。

「…まあ今話そうと思ったのはトカラさんがいないからなんだろうけど」
「おいクイナ、勝手に心覗くんじゃねぇ」

 考えていたことを当てられて図星をつかれたジャワ。ネイティのクイナにはポケモンの心を覗くことができる魔力が宿っているのだ。心を覗くことでそのポケモンが何を考えてるのかがわかるのだ。

「…いや、僕が心覗くまでもなく既にバレバレだよ」
「分かる分かる!ジャワってそういうとこわかりやすいのよね〜」
「…うっせ」

 今トカラは1匹で仕事に出ているのだ。その上ハルとビンガタは職業柄ここにいることが少ない。今こうして全員揃っていてなおかつトカラがいない今ならいつもトカラがいて話しにくい過去について話せると思っていたのだ。それをクイナに見破られてしまったが “まあいいや…” と区切りをつけ、話を再開することにしたのだった。

「まず最初にだな…あいつがこの時空教を開いた理由って知ってるか?」

「えっ…困ってるポケモン達を助けるためじゃないんですか?」
「世界に貢献しようとしたからとか?」

「どっちも不正解だな。答えは、あいつ自身の欲を満たすため、だったんだよ」

 トカラが自身の宗教を立ち上げた本当の理由、それはトカラ自身の他のポケモン達から認められたいという欲を満たすためだったのだ。

「…承認欲求ってやつね…」

 承認欲求と聞いて驚くアカリ達。承認欲求自体の意味が少し悪いイメージがあるため仕方のないことではあるが…
 アカリ自身にとってはポケ柄の良いトカラがそう思って時空教を立ち上げていたということに衝撃を受けつつも少し残念な感じがした。

「そうだったんですね…」
「そう思うのも無理はないかもな。ってまあそんなわけでトカラと俺の過去について話すぜ。聞かなきゃ良かったなんていうんじゃねぇぞ」

そう言ってジャワはそれぞれの過去について話し始めたのだった――――



「…結構早めに終われて良かったぁ〜…」

 帰路につきながらそう言葉を漏らしたのはハブネークのトカラだ。今日は仕事である研究者の代表会議に参加していたのだが意外にも早めに終わったので安堵のため息をついていたのだ。日が沈み暗くなりかけている道を歩き時空教の本部兼ジャワとトカラの家に着く頃にはあたりは真っ暗になっていた。

「……あれ、みんな集まってなにかしてるのかな?」

 窓から部屋の中を覗いてみるとみんながなにやらジャワの話を聞いていたのだった。いつも一緒にいるとはいえ自分がいないところでどんな話をしているのか気になったトカラは隠れながら外壁の方に移動する。ジャワの声は結構響きやすいため壁越しにいても何を喋ってるのか結構ハッキリと聞き取れるのだ。トカラは壁越しにジャワの話を聞いて見ることにしたのだった――――


 * * * * *


 俺はこの地方にある小さな島で生まれたんだ。俺たちザングース以外の種族のポケモンは住んでなかったから俺はザングースの島って呼んでたんだ。ただそんな小さな島なんだが治安ってのはあんまり良くはなかったんだ。同じザングースでもみんな喧嘩しあったり悪口を言いあったり…みんな険悪な感じだったな…
 そんな中で俺の両親は唯一まともだったんだ。外が荒れてる時は俺を家の中から出そうとしなかったし両親の関係も普通に仲が良かったんだ。その島では両親同士が仲がいいこと自体稀だったんだ。しかも仲が故に子供を産んでも卵のうちに捨てたり産まれてもどこかに売り飛ばしたり…ほんとに治安が悪かった。だからかな、俺、その島で友達って呼べるような奴と出会えなかったんだ。どっちかというと俺と同じくらいの俺みたいに普通に暮らしてる子供がいなかったんだけどな。
 そんな俺のことを両親は不憫に思ったんだろうな。俺と両親はその島から離れたところに引っ越すことになったんだ。そこであいつと出会ったんだ――

 引っ越した先で俺は新しい土地で色々なものを見てみたいと思い1匹で少し遠くの場所を探検したりしてたんだ。その時に野生のポケモンのであったんだ。俺のいた島では野生のポケモンというものがいなかったから急に襲ってくる野生のポケモンにどう対処すればいいのかわからなかった。逃げる途中足をくじいて転んでしまい野生のポケモンが俺の方に飛びかかってきたんだ。“やられる!” 心の中でそう思い目を閉じたその時、なにかが強く叩きつけられるような鈍い音がしたんだ。ゆっくりと目を開けてみるとそこには野生のポケモンの代わりに別のポケモンの姿があった。

「――ッ!ハブネーク…!」

 そこにいたのはハブネークだった。俺たちザングースにとってハブネークとは天敵同士の存在。俺は咄嗟に腕を構えながらハブネークを睨みつけた。

「…えっと、君、大丈夫…?」

 意外にも幼げのある声だった。腕を構え敵意むき出しにしている俺に対してそのハブネークは困惑した表情を浮かべながらも俺の方に心配そうに声をかけてくれたのだ。

「…アンタが助けたのか…?」

 構えていた腕を緩める。そのハブネークのそばにはさっき俺を襲おうとしていた野生のポケモンが倒れていた。俺はこのハブネークが助けてくれたんだろうって思ったんだ。

「…う、うん…」
「……ふんッ!」

 ぶっきらぼうにそうハブネークに言い捨て俺はそのまま森の方に駆けていき家に帰ったんだ。そしてそその夜にそのことを親に話したらすっごく怒られた。俺の両親はポケモンを傷つけるようなことをすごく嫌っていたんだ。そしていつも俺にポケモンを傷つけるようなことをしちゃダメだって言われてたんだ。その影響でかな、俺ってポケモンを傷つけるような争いや喧嘩が嫌うようになったんだ。ただ子供だった俺はそうは思っていてもたまに感情的になって発言しちゃうときがあったりしたんだ。その度に両親に怒られちゃってたけどな。          
 そう、俺はそのハブネークに助けられたのにそのハブネークにお礼を言わずにそのままその場を去ったのだ。そのことに対してものすごく怒られたんだ。そして明日お礼を言うようにって言わたんだ。
 そして次の日、俺は昨日ハブネークと出会った森に向かっていたんだ。

「あれ?君、昨日の…」
「………ん」

 俺はそのハブネークにオレンの実などの木の実を詰めたバスケットを渡した。

「…昨日の礼」

 その時の俺は少し恥ずかしがってたせいで昨日みたいなぶっきらぼうな口調で渡した。でもハブネークはとても嬉しそうな笑顔を見せ喜んでくれた。

「そっか!ありがとう!僕、トカラっていうんだ。君は?」
「………ジャワ」
「ありがとうジャワ!」

 これがあいつとの、トカラとの、初めての出会いだった。
 そしてその日を境に俺は何度かトカラのところを尋ねるようになったんだ。そしてあいつと色々話していくうちにトカラの素性を知ったんだ。
 トカラは捨て子だったんだ。
 トカラの家は代々家宝である召喚の魔法を受け継ぐ家系だったんだ。そしてその家に最初に生まれたトカラは召喚の魔法が宿りその家の次期当主として育てられるはずだった。けどトカラに宿った召喚魔法の魔力はあまりにも少なかったんだ。それが原因でトカラは家族から見放されるようになったんだ。トカラの家族は魔力の小さいトカラよりもっと大きな魔力を持つトカラの弟の方を選んだんだ。この家に必要のない存在として縁を切られ、そのまま捨てられたんだ。

 その話をした時、トカラの表情はすごく曇っていた。俺自身もどう声を掛けてあげるべきかわからなかった。けどその話を聞いて、俺は決心したんだ。

「トカラ!俺と…俺と、と、友達になってくれないか…?」

 恥ずかしくも少したどたどしくそうトカラに言ったんだ。トカラもその言葉を聞いてとても驚いた様子だったがすぐにいつものような笑顔を見せてくれた。

「…うん!ありがとジャワ…!」

 ちょっとだけトカラの目が潤んでいた。やっぱり嬉しかったんだろう。家族に見放されてからずっと1匹で生きてきたんだから。

 それからというもの俺はトカラと遊ぶようになったんだ。一緒に魔法の練習をしたり、探検をしたり、トカラと一緒に野宿したり…ほんとにいろんなことをやった。
 そしてそんな感じでトカラと一緒に過ごしていたある日のことだった。
この地方で大規模な戦争が起こったんだ。俺の親は戦争で危ないからってことで外出を禁止したんだ。当然そのせいでトカラとも会えなくなってしまった。けどそのくらい戦争は深刻化していた。魔法弾や銃声が異常というくらい聞こえるようになったんだ。そして戦争がかなり深刻化し始めた頃、俺たちは近くの安全な洞穴に身を隠すことになったんだ。野晒しの家にいては返って危険だと父さんが判断したからだった。それが功を奏すことになったんだ。野晒しだった俺の家は魔法弾が直撃し倒壊してしまったんだ。食料なんかはこっちの方に移動させてあったからよかったけど、家が崩れるところをその場で見てしまった俺は戦争に対して恐怖をより一層覚えるようになったんだ。
 そして俺たちは洞穴の中で生活することになった。そうして何日か経ったある夜のことだった。俺の両親は俺に洞穴の一番奥深くで寝るようにって言われたんだ。父さんたちが帰ってくるまでここからでちゃダメだとも言われた。
 その時はよく分からなかったから両親の話を聞くことにしたのだった。
 そして夜が明け、あたりを見てみるも両親の姿はなかった。帰ってくるまでここにいるように言われていた俺はその言葉を信じその日もその次の日もずっと待ち続けたんだ。そして俺は両親が帰ってこないことを心配し、外に出ることにしたんだ。外を出てしばらく歩く。まだ近くではいくつかの銃声が響いていた。

「――ッ!」

 そこで俺は“それ”を見つけてしまったんだ。
 戦争が起こっていたこの頃は弾丸なんかに当たってそのまま息絶えたであろうポケモン達が見るも無惨な姿となっていたるところに転がっていたんだ。でもその中でも俺にとってひときわ目立つものがそこにあった。

「…うそ…だろ……父さんッ!母さんッ!!

 そう、そこにあったには両親の姿だった。
 とても嗅げないような強い異臭が漂っていた。地面には飛び散った赤黒い血がこびりついていた。こうなってから結構時間が経っていたようだ…見慣れないような物体の破片がお腹に刺さっていたり、腕の一部が無くなっていたりと…もう俺の目の前で二度と動くことがないことを如実に物語っていた。

「…あ、ああ、ああああああああッッッッ!!!!」

 もうどうすればいいのかも分からなかった。目の前にある血みどろのものが両親だとも思いたくもなかった。けど現実は非情だった。
 俺は両親の死について理解してしまったんだ――

 俺はそのまま洞穴に戻っていった。そしてそこから二度と出ようとしなかった。幸いにも洞穴には両親が備蓄していたであろう食料があったので食料に飢えるようなことはなかった。けどその時の俺は餓死してもいいとさえ思っていた。それほどまでに両親の死に対する衝撃は大きかったんだ。
 そうしてから何週間か経った。その間に戦争は終戦したらしく外からは魔法弾や銃声の音は一切聞こえなくなっていた。そんなある時、とあるポケモンが俺のことを訪ねてきたんだ。

「…ジャワ!ここにいたんだね…」

 …トカラだった。トカラもまた俺と同じように戦争から逃れ生き延びていたんだ。トカラは俺のことを見つけるとすぐにそばに駆け寄ってきて心配そうに俺に声をかけてくれたんだ。
 俺はトカラに戦争で両親が死んでしまったことを話した。話している間あの姿が脳裏に浮かんだのがとても苦しくも辛く何より心がなくなったかのような喪失感が大きかった。
 トカラは俺の話聞いて優しく励ましてくれたんだ。

 それから俺はトカラと一緒に過ごすことになった。けど俺はずっとぼうっとして何もする気にもならなかった。その様子をトカラが見るたびに心配して声をかけてくれたがその時の俺は“大丈夫…”としか言わなかった。
 そして俺はあることを決心した。
   ――この世界から去ろう――
 そう決めてからは早かった。俺はトカラに別れの手紙を書いた。

 『トカラへ
  俺は命を絶つことにした
  親が殺されてからずっと心に大きな穴が空いた感じなんだ トカラのせいじゃないよ
  トカラには感謝してる ここまで一緒に過ごしてくれたこと
  俺のことずっと励ましてくれたこと ほんとに感謝してるよ
  でも それでもやっぱり 生きてくのが辛くなったんだ
  サンニンの丘で 俺は命を絶つ
  さよなら、トカラ』

 ジャワが食料を集めに行っている間に俺は手紙を洞穴の入り口に石で留めておいた。そして俺はサンニンの丘に向かっていった。
 サンニンの丘は海沿いにあるため海に接する崖がある。その崖から落ちれば泳げない俺はそのまま溺れて死ぬことができる。俺はゆっくりと崖の端の方に向かって歩み始めた。
 その時だった。後ろから俺を呼ぶ声が聞こえてきたんだ。

「ジャワ!」

 …やっぱり、トカラだった。恐らく手紙を見て急いでここまで追ってきたんだろう。俺はトカラに手紙を書いたことを後悔した。手紙を残さなければトカラに引き止められることなく死ねたのに…

「死んじゃダメだよジャワ!僕がジャワのこと見守ってあげるから!ジャワのこと助けてあげるから…!だからお願いジャワ…!」

 トカラの必死な訴えが聞こえてくる中、俺はずっと俯いていた。そして――

「……てん…だ…」
「…えっ…?」

「お前なんかにッ!俺の何が分かるってんだッッ!!」

「家族を失った俺が可哀想で仕方ないんだろッ?ただ俺に同情したいだけなんだろッッ?」
「――ッ!そ、そんなつもりじゃ――
「お前はいいよなぁ!家族だっていねぇし失うもんも何もなくてなぁ!俺とお前は違うんだよッ!そんななッ!…そんなお前なんかにッ……俺の気持ちが分かってたまるもんかッ!!」
「――ッ!イッ!!」

 息を荒げそうトカラに言い放ちながら手の爪がトカラの頰を掠れた。視界が歪んだ。悔しいわけでもなく悲しいわけでもないのに…目から涙が出ていた。俺自身も実際トカラがそう思って言ったわけではないことも本当は分かってたはずなのに…
トカラも顔を下に向け黙り込んでしまった。頰の部分に赤い切り傷が見えた。

「……そう…だよね……僕なんかに……分かるわけないもんね………」

 ほんの一瞬だったがトカラの淀んだ瞳には微かに涙が浮かんでるのが見えた。でも俺に涙が見えないように下を向きながらそう言ったんだ。精一杯出したであろうその声は涙で震えていた。

「…ゴメンね…ジャワ…」

 トカラは俺に背を向けてその場を駆けていった。トカラがいなくなった崖の上に俺はアイツが駆けて行った方向を見つめながらその場にただただ立ちつくしていた。海の方を見つめた。青い海から吹く風が頬を撫でようともそばに咲いていた小さな月桃の香りが鼻をくすぐろうともその時の俺には何も感じなかった。

「…なに…やってるんだろ…俺…」

 小さな喧嘩から争いが起きそれが他のポケモン達を巻き込んで大きな戦争になる。だからこそ俺は争いが、喧嘩するようなポケモンが嫌いだった――はずなのに…俺は喧嘩腰に感情的になってトカラに当たってしまったんだ。いくら自分がそう言おうがそう思おうが、所詮、俺もそんな奴らと変わらないんだ――

「……トカラ…俺…どうすれば良かったんだ…」

 トカラのいないこの場所で問いかけても答えが返ってくるはずなどなかった。トカラにしてしまったことを悔やみ、トカラに対してとても申し訳なく思った。このままでは死ぬにしての死にきれない…俺はその場でずっと1匹で寂しく海の方を見つめていた。
 その時だった。頭に強い衝撃が走った。最初は何が起こったのかわからなかった。けどその時の記憶がほとんどないから多分気絶してしまったんだと思う。

 気づいた時、俺は檻のような場所にいた。手には鉄の手鎖がつけられ身動きが取れない状況だった。

「お、気づいたみたいだな」

 聞き覚えのない声。どことなく癪に触るような汚らしい声のズルズキンが俺に対してそう話しかけたのだ。

「ここはどこだ?」
「ここか?ここは空き家の小さな小屋ん中だ。悪いがお前には消えてもらう」
「え、はぁ?どういうことだ!」
「…もう一度ぶたれたいか?」

 静かに強い口調でそういったのはそばにいたオノンドだ。恐らくこいつが俺のことをぶっ叩いて気絶させたんだろう。尻尾を強く空振り空気を斬った。いつでも俺を気絶させられるという意思の表れなのだろう。

「ま、いきなり殺すのも可哀想だから説明くらいはしてやるよ。お前が、お前らがどういう罪を犯したのか」

少し前までこの地方で起こっていた大規模な戦争。しかし実はその戦争の発端はザングースとハブネークの争いだったんだ。俺の生まれた小さな島がザングース族の領地だったんだがある時この地方で一番多くの領地を持っているハブネーク族の領地を奪おうと争いをふっかけたんだ。そしてそれが深刻化して他の地域をも巻き込んだ大きな戦争へと発展してしまったんだ。
ザングース族の侵略は凄まじいものだったそうだ。その地域に住むポケモン達を無理やり従属させそれに従わなかったら容赦無く殺しまくっていたそうだ。結果ザングース族はハブネークやその他の種族のポケモン達によって抑えられ戦争は終わったんだ。しかしそれまでにこの地方に住む多くのポケモンが犠牲となったんだ。
そう、この地方で起こった戦争の原因は俺たちザングース族の仕業だったんだ。そしてズルズキン達はそんな戦犯の一族であるザングースをこの世から抹消しようとしていたのだ。

「だからって俺が俺の両親も悪いっていうのか?」
「うっせぇな!戦犯の一族の血が流れてる、それだけでお前らは悪なんだよ!」

 こいつらだってあの戦争で大切なポケモンを失ってしまったのかもしれない。それが故に戦争を憎み戦争の発端であるザングースを撲滅しようとしてたのかもしれない。でもその思考は捻じ曲がった考えに過ぎず結局こいつら自身も同じことを繰り返しているだけに過ぎない。
 でもその時の俺は反論しようにもできなかった。そいつらのいう戦犯はポケモンを傷つけるような奴らのこと、そう思うとこいつらのいうことも当たってるのかもしれないと思い始めたんだ。だって俺は、大切なポケモンを、トカラを傷つけてしまったんだから…
 俺の両親も俺の見えないところでポケモンを傷つけていたのかもしれないとさえ思ってしまった。

「哀れだよなぁ自分たちの一族が起こした戦争で死んじまうなんてよぉ。ま、これも自業自得ってやつよ」
「そんな…」
「ま、お前もあいつらと同じとこに送ってやるから精々首を長くして待っとくんだな」

 そう言ってズルズキンとオノンドは外の方に行ってしまった。残された俺は必死に手鎖を外そうと手首に力を入れるも外れる様子は一切なかった。
 あいつらの言っていた戦犯の一族という言葉が頭の中から離れなかった――やっぱり俺はポケモンを傷つけるようなひどいポケモンなんだ…それだったらいっそのことあいつらに殺された方がマシなんだ…
 俺だけしかいないこの空間に手鎖が落ちる音だけが虚しく響いた―――


 日に光が木からこぼれ出る森の中、ジャワがいる小屋の目の前の見張り番をしているゴーリキー。その目の前に1匹のポケモンが草むらを掻き分けながら出てきた。不安そうに何かを探しているのだろうか。キョロキョロと辺りを見回している。

「おいッ!ここで何をしている!」

 威嚇的なゴーリキーの声にビクッと驚き戸惑った様子で慌てふためいてしまう。

「あ、えっと、すいません!少し道に迷っちゃって…」

 幼げのある少し高めの声からして子どものポケモンのようだ。そのポケモンが子どもであることと道に迷ってしまっていることを知るとさっきまでの態度を改め優しげな声をでそのポケモンに話しかけたのだった。

「あ、すまんすまん…道に迷ったってどこに向かってたんだい?」
「えっと、“サンニンの丘”ってところなんだけど…」

 サンニンの丘はここから森を抜けたところにある小さな丘のことだ。どうやらそのポケモンはそこに生えている花を摘みに行きたいそうだ。
 ゴーリキーがここから森の出口に向かう方法を教えるとそのポケモンはさっきまでの不安そうな表情を変え嬉しそうな表情を浮かべ喜しそうな顔を見せるとそのポケモンはゴーリキー向かって尻尾を差し出してきた。どうやらお礼の握手を求めているようだ。ゴーリキーはその尻尾に触れ彼と握手をしたのだった。
 その後再びそのポケモンはお礼を言ってゴーリキーに背を向けたのだった。その時そのポケモンの背後からドサッと何かが倒れるような音がした。そのポケモンが振り返ってみるとさっきのゴーリキーが地面に倒れていたのだった。
 そのポケモンはスルスルっと尻尾を動かしながらゴーリキーの方へ向かっていった。牙と尻尾が木漏れ日でキラリと同じように反射した。

「……ハブの毒って、結構強いんだよ?おじさん」

 そのポケモンは毒で気絶しているゴーリキーを横目にジャワのいる小屋の中へ入っていった―――



 俺ってどういうポケモンなんだろうか。今改めて考えてみる。
 争うことが嫌いで他のポケモンを傷つけるような奴が嫌いだった。そんな俺だったがあいつらから戦争の戦犯の一族だってことを告げられた。
 いくら戦犯の一族とはいえ俺は本当に要らない存在なのか?――そう思うも俺がトカラにしてしまったことが脳裏に浮かんだ。感情に任せ暴言を吐きあいつを、トカラを、傷つけてしまったんだ…いくら口で喧嘩が嫌いだと言っても、いくら他を傷つけたくないと言っても…口ではどうとでも言えるのだ…所詮俺はポケモンを傷つけるような奴らと変わりないんだ…
 そうだよ…俺は、この世界にいるべきじゃないんだ…たとえ俺がいなくなっても悲しむやつなんていない、寧ろ幸せになるやつの方が多いはずさ…トカラだってあんなことをして、しかもあの戦争の戦犯の一族である俺を憎んでるはずだ……
   俺は、この世界に必要ない存在なんだ―――



「……いた!ジャワ!」

 不意に檻の外から聞こえてきた聞き慣れた声が深い闇に沈みかけていた俺を引き戻した。

「ジャワ!助けにきたよ!」
「ト、トカラ?!どうやってここに…」
「ジャワが捕まってるの見て…それでこっそり忍び込んで来たんだ!今出してあげるからまってて…!“アイアンテール”!」

 強く尻尾を叩きつけ鉄柵を歪ませると歪んだ部分に噛みつきなんとか俺が出れるようにこじ開けてくれた。着いていた鉄の手錠も俺に当たらないように慎重にアイアンテールで叩き斬ってくれた。“早く!” そう急かし俺に向かって尻尾を差し出してきた。けど、俺はそれを手に取ろうとはしなかった。

「早くジャワ!あいつらが来ちゃうよ!」
「……なぁトカラ…俺さ…実は戦争の戦犯の一族だったみたいなんだ…」

 俺はトカラにあいつらから聞いたことを話した。俺は戦争の戦犯ザングースの一族であること。それ故に俺は生きていたらダメな存在だということ。俺は、この世界に要らない存在だったんだと…

「だからなんだよ!ジャワはジャワなんだから…ジャワは悪くないよ!!…ねぇだからさ…手に取ってよ…お願い…ジャワ…」

 トカラの必死な掛け声が俺に訴えてくるも負の感情が心を支配し始めていた。その感情に押されトカラの尻尾を取ることも自らの意思でここから出ようと立ち上がることもできなかった。

「でも…でも俺、お前にあんな酷いことしちゃったんだ…だから、俺は…」
「ジャワ!」

 そうトカラが叫んだ次の瞬間だった。不意に何か素早いものがトカラの頭上をかすめたのだった。その素早い何かは俺のいる折のすぐ横の石壁にぶつかり大きな穴が空いたのだった。

「おいおい…大事なとこで外すなよ〜」

 聞き覚えのある気持ちの悪い声と共に入り口の方に見覚えのある三つのシルエット。

「…わざとだ…あんな威力の技をまともに当てれるわけないじゃないか」
「そんな優しさ、こいつには無用だぜ」

 技を放ったであろうオノンドがそう呟く。それに対してゴーリキーが反発したのだった。

「よう、さっきはよくもやってくれたなガキンチョが」

 おそらくトカラにやられたのだろう、ゴーリキーは拳をポキポキ音を立ててトカラのことを強い眼力で睨みつけていた。

「俺らの邪魔すんだったらハブネークでも容赦しねぇぜ」

 ズルズキンの合図でゴーリキーがトカラに詰め寄ってきた。それに対して険しい顔をしながらジリジリと後退りをするトカラ。そんなトカラをゴーリキーが大きな手で首元を鷲掴みしたのだった。

「うぐっ……ぐあっ……!」

 尻尾をバタバタさせ抵抗するも首元を掴み締め付けられているため上手く反撃できずにもがき苦しむトカラ。その様子を気持ちの悪い笑みを浮かべながらズルズキンたちが見ていた。

「…ジャワッ!………逃げ…てッ…!」

 苦し紛れにトカラがそう俺に告げた。俺自身も負の感情に飲まれながらも必死で考えた。このままトカラを見捨てるのか…?そのままここに留まるのか…?…何もせずそのままトカラを苦しませるのか…?…本当にそれでいいのか…?
考えろ、考えるんだ、俺自身どうしたいのか、どうすればいいのか―――

「―――ッッ!!……………たす…けて……ジャ…ワ……」

 その言葉に負の感情に染まっていた心が戻り正気に戻った。
 …そうだよ、あいつが助けを求めてるんだ…だったらやることは一つしかないじゃないか…
 手に思いっきり力を込めた。

「“かまいたち”!」
「―――ッッ!?」

 力を込めた手で思いっきり宙を切り裂いた。その切り裂いた空気の刃がゴーリキーたちに直撃し鷲掴んでいた手からトカラを離したのだった。投げ出されたトカラは苦しみながらその場に倒れ込んでしまった。

「………俺の親友に手出すんじゃねぇよ」
「……ゲホッゲホッ…!ジャワ!」

 ふっとばされ床に叩きつけられたトカラだったがふらふらながらもなんとか立ち上がったのだった。

「クソガキがぁ…ッッ!」

 キレて突っ込んできたゴーリキーが俺のことを掴もうとしてくるのを間一髪で避け空中にジャンプしゴーリキーの向かって思いっきり尻尾を叩きつけたのだった。ガハッと声を上げゴーリキーはその場に倒れ込んでしまった。

「クソがぁ!“けたぐ――
「“ポイズンテール”!」

 けたぐりを繰り出そうとするズルズキンより先にトカラが繰り出したポイズンテールがズルズキンに直撃し鈍い音を立てて床に叩きつけた。

「ジャワ…!」
「おうさ!俺ら2匹の力、見してやるぜ!」

 それぞれ五芒星と六芒星を一筆描きすると二匹同時に魔法詠唱を行なった。

「【ハーぺステディアクロー】!」「【闇夜の巨大つぶて】!」

 俺の描いた魔法陣からは巨大な魔物の爪のような出現し辺りを無作為に掻き切り、トカラの魔法陣からは無数の岩が高速で飛び出しゴーリキーたちを襲い始めた。
オノンドがまもるを繰り出し魔法を防ぐもこちらの魔力の方が圧倒的に強かった。オノンドのまもるはあっさりと破れ魔法をもろに食らってしまいズルズキン含む3匹は完全に気絶してしまった。

「……やった…!」
「早く!今のうちに!」

 トカラに諭され俺たちはその場からなるべく遠くの方に走っていった。

「はぁ…はぁ…ここまで来れば安全かな…」

 かなり遠くまで走ってきた。ここまでくればあいつらが回復したとしても追いかけてくるのは不可能だろう。

「うぐッ……」
「だ、大丈夫か?!」
「ううん…大丈夫…」

 ゴーリキーに締め上げられダメージを負っている中で技や魔法を繰り出していたんだ。その上ここまで走ってきたんだからダメージの蓄積も大きいはず。それでもトカラは俺にいつもと変わらない笑顔を見せてくれた。

「…ありがとねジャワ…ジャワが戦ってくれなかったら、僕は…」
「……礼を言うのはこっちの方だ…ありがとなトカラ…」

 もしあの時トカラが助けに来てくれていなかったら俺はあいつらに殺されていただろう。この世界に対して、そして俺自身に対して絶望しながら――それをトカラが助けてくれたんだ。お礼を言うのはこっちの方だよ。

「それとトカラ…ごめんな…俺、トカラにあんなことしちゃって…」
「いいんだよジャワ…だってさ――

「――だって僕たち、親友でしょ?」
「――ッ!!」

 その言葉を聞いた時俺は息を呑んでしまった。そして頰を伝って涙が流れた。嬉しい気持ちや感謝の気持ち、申し訳ない気持ちなど様々なトカラに対する感情が今ここで溢れてでてしまったんだ。

「うんうん…いいんだよジャワ…思いっきり僕に甘えても…」

 泣き噦る俺をトカラは優しく包み込んでくれた。とても、本当にとても優しく包み込み尻尾で俺の頭を優しく撫でてくれたんだ。その優しい包容力に任せて俺は何度も謝りながら泣き噦ったんだ――

 それからまた俺はトカラに世話になりながら一緒に過ごしてたんだ。けどある時トカラがここよりもっと安全な場所に行こうって言ってきたんだ。俺のことを狙ってるやつらがここにはまだいるかもしれない。だからこそそう提案してきたんだ。そうしてエーテ地方の方に行くことにしたんだ。そこでマンタと出会って、三匹で魔法探検隊を始めたんだ。そうしてまたここに戻って来た時にビンガタと出会ったんだ。
 しばらくしてマンタのやつは魔法探検隊の本拠地のあるトライタウンの次期長老としてエーテ地方に戻っていったが俺とトカラはここに残って時空教を開くことにしたんだ。さっきも言ったが最初は本当にトカラが承認欲求を満たすためだけに開いたんだよ。家族から突っ放されてから俺と出会うまであいつはずっと一匹だったんだ。そういうこともあってかな、あいつは他のポケモンから認められたいって強く思う節があってな。でもビンガタやハルみたいに宿った魔力で生きづらい思いしてるポケモン達を救ったりしていくうちに周りからそういったポケモン向け宗教の先駆者として持て囃されるようになったんだ。あいつ自身、元々自己満足でみんなから何かしら認められたいっていう欲望の元で活動していたんだが、周りからそう言われたり、そういった困ってるポケモン達と触れ合っていくうちにあいつ自身もそうありたいって思うようになったんだ。
 そうしてみんなと出会って、今の俺とトカラがいるって感じなんだよ――――


 * * * * *


 ジャワが話し終えても誰一匹として口を開こうとはしなかった。気がつけば夜もだいぶ更け外の方からホーホーの鳴き声が聞こえてきた。話を聞く前までの賑やかさはそこにはすでになかった。それほどまでに部屋の中は静まり返っていた。

「なぁ…ビンガタに聞きたいんだ…あの戦争の戦犯が俺たちザングース族だって聞いてどう思ったかを……」

 重苦しい空気の中、ジャワがそう問いかけた。ビンガタもジャワのいう戦争で親を殺されているのだ。それも自身の目の前で――その影響かビンガタに恐ろしい魔力が宿ってしまい自分を含め多くのポケモンを殺めてしまったのだ。ビンガタにとってはその原因を作り出した種族のポケモンが今この目の前にいるということなのだ。

「…なんとも言えないけど…でも…少なくとも俺はジャワは悪くないと思う」

 彼の澄んだ声が静かな空間にゆっくりと静かに伝わった。

「なにより…ジャワ自身は何もしてないんだから――だから俺はジャワのことを咎めようとは思わないな」

 ビンガタの話をジャワは黙って聞いていた。冷静に考えればそうなのだ。いくらジャワ達ザングース族が戦犯だとしてもジャワ自身に非はないのは明らかだ。しかしジャワは敢えてこうビンガタに問いかけたのだ。彼なりのビンガタへの申し訳なさ、罪悪感の現れなのだろう。ビンガタがそう言ってもジャワの曇った表情は晴れそうになかった。

「……らしくないね。ここをなんだと思ってるのか…」
「そうさ!みんなで支え合って生きていく我らが時空教さ」
「もちろんアカリ達だけじゃなくてジャワさんも、でしょ?」

 ビンガタの答えを聞きヒダマやハル達もそう言って励まそうとしてくれた。ハル達のいう通り、どんなに辛い過去を持っていたとしてもみんながそれを理解し励まし合い心に寄り添って生きていく。それこそが時空教なのだ。

「……!…そうか………そうだよな…ありがとな、みんな」

 みんなで支え合って生きていくこの時空教の姿こそ、トカラが思い描いたポケモン達の仲なのかもしれない。そしてそれこそ争いなき未来におけるポケモン達の在るべき姿なのかもしれない―――時空教を通じて心の中で深くそう思ったのだった。
 そうジャワが思い更けている最中、ガチャンッと玄関の扉が開く音がした。

「た、ただいまぁ〜…」
「ト、トカラ?!」

 扉を開けたのはトカラだった。どことなくよそよそしく感じるその様子から扉越しに今までのジャワの話やみんなとのやり取りを聞いていたのかもしれない。もちろんそのわかりやすい様子からジャワもトカラが今までの全部聞いていたのではないかと思ってしまったのだった。

「(あ、どうしよ聞かれてた?さっきまでのもしかして聞かれてた?)」
「(どうしよう…聞いてたなんて言えないよぉ…なんて言っとけばいいかな…?えーっとえーっと…)」

 何も言えずにモジモジと焦りを見せる二匹。側から見ていてもとても不器用に思える。

「……………なあみんな、ぼくはもう眠いから寝てくるよ」

 さっきまで二匹をじっと見つめていたクイナが不意にそう言うと寝室のある二階へ向かっていった。

「……なるほど…じゃあ私も寝るとしよう」
「……ああ、そういうこと…じゃ私も寝ようかな〜」

 ヒダマとハルも彼の言動から何かを察したのだろう。彼に続いてわざとらしくそう言ったのだった。

「え、あでも俺まだやることが――
「いいからいいから、ビンガタもほら!…ってことでおやすみ〜お二匹とも〜」

 ハルは留まろうとするビンガタの背中を階段へ押しこみながら最後に慌ただしくジャワとトカラの二匹にそう言ったのだった。
二匹だけとなった部屋を再び静けさが包み込んだ。

「…あ、えっと、ジャワ…ごめん…さっきの話…実は聞いてたんだ…」
「そ、そうか…」

 静かな部屋の中にぎくしゃくした二匹の会話が飛び交った。飛び交ったといっても短い言葉での会話しかなかったが。なんとかしてこの微妙な空気感から抜け出そうということしか二匹の頭にはなかった。

「…外、行こうか…」
「…うん」

 ジャワがそう言うと二匹は外に出ることにした。外に出て夜の涼しげな外気がさっきまでの空気を一掃したが二匹の間に流れる微妙な空気感は未だ少し残っているようにも思えた。外に出てからしばらくの間、どちらも喋ろうとはしなかった。

 しばらく2匹が歩いて着いたのはサンニンの丘。夜の海から吹く潮風に混じり辺りに咲いている月桃の花の香りが鼻をくすぐる。2匹にとって懐かしくもある香りだった。

「…ねえジャワ…」

 丘の小さな岩にもたれ海の方を見つめながらトカラがジャワにそう言った。

「ジャワは気づいてたんだね…僕が時空教始めた理由…」
「…まぁな…どんだけ長い間過ごしてると思ってんだ」
「……そうだよね」

 トカラがそういうとその場に再び静寂が訪れる。吹いてくる心地よい夜風に対してトカラの言葉は少し曇っているような感じがした。

「…みんなに認められたいってだけで始めた僕ってさ…やっぱり身勝手だよね…」
「…どうだろうな…でも今はどうなんだ?そんなことないだろ?」

 たとえ最初は自分のためだったとしても今はみんなのためになっている。そしてトカラ自身もみんなのためになっていると自覚し自分自身でもそうあろうと思うようになったのだ。
 トカラの承認欲求は自己実現欲求になっていたのだ。

「…そっか…」
「ほら、過程も大事だが結果も大事だっていうだろ?“終わり良ければ全て良し”って感じでな」
「…まだ終わったわけじゃないけどね」

 2匹の間でささやかな笑いが起こった。あの時のような雰囲気が変わらずに2匹の間に残っていた。

「…なぁトカラ…」
「…何?」
「…ありがとな」
「…こっちこそ、ありがとうジャワ」

 月に照られ潮風香るその丘に月桃の花は2匹を優しく見守るかのようにその場に佇んでいた――――











 ――――俺はお前がいなかったら今頃生きてすらいなかったと思う…俺はそんな俺を救ってくれたお前を…全力で支えていきたいと思うんだ…ほんとにありがとな…トカラ……


 ――――僕もジャワがいてくれたからここまでこうしてこれたんだ…ジャワがいなかったら僕は1匹で寂しく生きていくことになってたと思う…だから…ありがとねジャワ…これからも…よろしくね……!

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