この作品には残酷表現があります。苦手な方は注意してください
嫌われるのが怖いから
裏切られるのが怖いから
だから、私は仮面を付けるの
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一面赤い世界。ここは……教室?なんでこんな所にいるんだろう?まだ、完全に覚醒していない頭で考える。目を擦る。しかし、何も変わらない。とにかく誰か探さないと。私は、その場を離れようとした瞬間、気がついた。私の周りを、複数の生徒らしきポケモン達が囲んでいる事を。辺りの景色は既に一転しており、赤い殺風景な世界が広がっている。一瞬何の真似だと思ったが、その感情もすぐに消え去った。そのポケモン達の表情を見たからだ。ゴミを見るように、まるで汚い物でも見るかのような目をする者。楽しそうに口を歪ませ、笑い声をあげる者。これから始まる事に興奮し、口角を上げ、嫌な笑みを浮かべる者。その表情は、私の中の危険だという警告音を鳴らさせるには十分だった。そいつらは、その表情のまま近づいてくる。
「いや……やめて……こないでっ……」
私の声はやつらには届かず、ただ空間に吸い込まれていくだけだった。誰かの手が、私に襲いかかろうとする。
「ッッ!!」
私は、今から襲いかかるであろう不幸に耐えるため、ギュッと目を閉じた。
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「ハッ!!」
私は跳ね起きた。息が上がって、呼吸が苦しい。壊れてしまうのではないかと思うほど、心臓の鼓動が速い。あれは夢だったのだ。しかし、あの教室。そして、あの生徒達には見覚えがあった。小学校の時に私を地獄に叩き落とした同級生達だった。
何度か深呼吸をし、呼吸を落ち着かせる。込み上げてきそうな悲鳴を抑え込む。上から重りを乗せられているかのように重い身体を起こす。もう高校生だというのに、今だにあの頃の夢を見るなんて、どうかしている。早く忘れてしまいたいのに、頭のキャンバスには、しっかりとあの頃の美しいほどに醜い絵が綺麗に描き込まれてしまっているのだ。忘れようにも忘れられない。
なんとなく朝は憂鬱だ。自然とため息が出る。私はずっと夜を待ち続けているのかもしれない。中学受験をし、もう何も怖い物などないはずなのだ。憂鬱になる物からは離れたはずだ。なのに、この痛みは何なんだ?少しも満たされない。
身支度をする。少し寒くなってきたし、カーディガンでも羽織っていこうか。持ったスクールバッグで、より身体が重くなる。部屋から出る前に鏡を見た。いつも通りのハリマロンの私_コハルがいる。酷い顔だった。
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「おはよ~」
「あっ、おはよう、マイ!」
私は笑顔で言う。今朝の事を悟られないように、平然を装う。過去の事だけは、たとえ親友でも知られたくない。こんな醜い私なんて……。
「んっ?どうしたの?」
「えっ!?なっ何でもないよ!?」
「……そう?」
難しい顔をしていたのか、心配そうな顔をして覗き込まれた。私はどうにか誤魔化す。危なかった……絶対にバレてはいけない。そうしないと、私は……。
私達は教室へと向かう。教室に入ると、直ぐにあるポケモンが声を掛けてきた。友達のミクルだった。いきなり何なのだろうと思ったが、彼女のすがるような目を見て、嫌な予感がした。
「コハル、お願い!今日の掃除当番変わってくんない?」
「えっ!?な
「今日、部長に呼ばれて早く行かないといけないの!お願い!頼まれてくんない?」
私の声は、彼女によって遮られた。私は……
「……分かった。」
「ほんと!?有り難う!」
「ううん。いいんだよ。」
ほら、まただ。私の悪い所。本当の事が言えない。だって、断ったら嫌われるかもしれない……。ポケ付き合いが悪いと思われるかもしれない……。そう思うと、本当の自分を隠してしまう。今の私は偽りの私。嘘という仮面を付けた、穢れた私。
「?」
マイにまた、心配そうな顔をされた気がした。
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「ねぇ、お願い~。数学、教えて~。」
私は放課後、また友人にせがまれていた。内容は、数学の問題を教えてほしいという事だった。しかし、今日は学校には残らず、すぐに帰る予定だったのだが……。本当は……
「……分かったよ。教えてあげる。」
「本当!?」
「うん。」
「やったぁ!!」
まただ。また隠した。
私は彼女に数学を教え、すぐに帰った。
帰り道、ふと思ったのだ。
今の私は、本当に私なのか?
私は……
ダレナンダ?
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次の日の放課後、私は屋上に行った。物思いに耽る。私は誰なんだろう。私は私だ。他の誰でもない私のはずなのだ。なのに、何だか違う気がするのだ。こんな穢れた羽を持った天使など、誰も望まないであろう。しかも、そこから飛び立つ事が出来ないなら、尚更だ。むしろ、飛び立つではなく、沈んでいっているのだ。深い深い「負」という名の海へと。まともに呼吸も出来ない。だけど、誰も助けてくれるはずないのだ。それなら……
「ちょっと!?あんた、何してるの!?」
「えっ……」
突然、腕を捕まれた。マイだった。どうやら、知らぬ間に前に歩を進めていたようだ。
「大丈夫なの、あんた?もう少しで落ちる所だったよ!?」
私は口をつぐんだ。しかし、その後に口から出る言葉があった。
「ねぇ……私って、誰なのかな……」
「えっ?」
「マイ……知ってた?私って、とっても嘘つきなんだよ?」
「何を言って……」
マイは眉間にシワを寄せ、意味が分からないという顔をしている。しかし、私は構わず話し続けた。
「私って、いつも他のポケモンの頼み事、受けてるでしょ?あれね……本当はしたくないの……。だけど、断ったら嫌われるかもしれない……だから、偽りの仮面を付けて、私は私を隠したの。もう……私は……私じゃない何かになってしまったッ」
視界が歪む。目から熱い物が込み上げてくる。すると、私を何かが包んだ。マイの腕だった。彼女が私を抱き締めているのだ。
「そんな事ないよ……コハルはコハル。他の誰でもないコハルなんだよ?」
海の中から上へと上がっていく感覚がした。私の心を癒すには、十分な言葉だった。次々と溢れてくる物を、マイは指の腹で拭っていく。その行動に、また感情が溢れだしてしまう。
私は私。他の誰でもない私。彼女は、こんな穢れた羽を持つ天使を好いてくれたのだ。初めて私は空を飛んだ。今までは忌々しいと思っていた太陽の光が、暖かく感じられた。
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「落ち着いた?」
「うん……」
私はしばらく彼女に抱かれていた。もう涙も止まったので、彼女の腕が私から離れる。と思ったその時、彼女の手が私の頭に乗った。
「もう。こんな事しないでよ?寿命縮まるよ……」
「……ごめん……なさい……」
私は小さく答える。すると、彼女が私の頭を豪快にクシャクシャッと撫でた。
「コハルはコハル。この世界に1人だけしか、貴女はいないんだから。」
「!……うん!」
少しだけ、視界が歪んだ。しかし、不思議と満たされた気分だった。
本心とは違う事を言って、自分が分からなくなる時ってありませんか?