常花 ~決して散る事のない物~

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作者:ドリームズ
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読了時間目安:11分

この作品には残酷表現があります。苦手な方は注意してください

「泡沫のあい」のスピンオフです。
私_ニャスパーのユリは、ピンチに立たされていた。私の住んでいる涼味町りょうみちょうは、四季桜のすぐ前にある町だ。そこまで大きくはないが、自然豊かな場所で私は好きだった。しかし、そのどんな自然の中でも、私は四季桜が好きだった。四等分になった桜の木に飾られる、四季くさばなは、私の心をいつでも癒してくれる。そんな四季桜の周りを散歩するのが、私の日課だった。しかし、ここはケガレが沸く場所。とても危険な場所なのだ。しかし、一度もケガレに憑かれたポケモンには会ったことがないし、大丈夫だろうと思っていた事が、裏目に出てしまった。ケガレに憑かれたポケモンと出くわしてしまったのだ。それは、私目掛けて突進するように襲いかかってきた。私はもう駄目だと思い、目を瞑った。しかし、不思議と体に衝撃は来なかった。恐る恐る目を開くと、そこには一匹のポケモンが立っていた。ミジュマルだった。

「大丈夫だった?」
「えっ!あっ、はい!!」

そのミジュマルは刀を二刀持ち、私に微笑みながら言った。最初は男かと思ったが、鈴のように透き通った声を聴き、私とそう年端もいかない女の子だと理解した。私は慌てて返事をする。すると、彼女は一言「良かった!」と言って、ケガレへと走っていく。そして、舞うようにケガレに攻撃を仕掛けていく。その姿に私はときめいてしまった。そして、同時に思ったのだ。私も、このような事が出来るのだろうかと。そんな事を思っている内に、彼女はケガレの体力を十分に削ったのか、連続攻撃を止めた。そして、刀を持ったまま舞い始めた。いわゆる剣舞という物だ。そのしなやかな動きに、私は釘付けだった。

水明の舞すいめいのまい!」

彼女がそう叫ぶと、ケガレの周囲に水の刃が現れる。それは一斉にケガレへと放たれた。彼女はケガレの浄化に成功したのか、ケガレは元のポケモンの姿に戻っていた。彼女はそのポケモンの安否を確認すると、私へやってきた。

「危ない所だったね。怪我はなかった?」
「はい。大丈夫です。」

私がそう言うと、彼女は嬉しそうに笑いながら「良かった良かった!」と言った。

「でも、あまり四季桜には近づいちゃだめだよ?四季桜は綺麗だけど、ここはケガレが沸く危険な場所でもあるから。」

彼女が少し苦笑しながら言ってきたので、何だか無性に恥ずかしくなった。私がコクリと頷くと、彼女は安心した顔をして、その場から去ろうとした。

「あっあの……」

私は無意識に呼び止めていた。言いたい事は分かっているはずなのに、言葉が出てこない。口をパクパクと動かしているだけの私を見て、彼女は首を傾げる。

「どうしたの?」
「……あの!私も貴女みたいになれますか……」

なんて事を聞いているのだろう。彼女は大きく目を見開いている。つまり、驚いているのだ。きっと、引かれたに違いない。私はそう思い、きゅっと目を瞑った。しかし、彼女がとった行動は意外なものだった。私の頭の上に何かが乗った。目を開けるとそこにあったのは、私の頭に手を乗せ微笑んでいる彼女の姿だった。

「別にアタシはそこまでベテランでもないから何とも言えないけど、でも……



貴女もなれる。」

彼女は、その目に強い光を宿して言い放った。その光に、私は目を細める。

「祈祷師になりたいの?」
「はい……でも、駄目なんです。」
「何で?」

彼女は私の返答に疑問を感じ、問うた。
私は、有名な箏奏者の家元の娘として生まれた。中でも私のおばあさまは、「鵲端じゃくずい会」の主宰を勤めており、私も弟子として彼女に習っていた。そして、彼女は何人もいる弟子の中から、私を後継ぎに選んだのだ。それは、私が祈祷師に憧れを抱く一つ前の年に起こった出来事だった。しかし、今さら「私は祈祷師になりたい」だなんて、言える訳がない。勿論祈祷師にはなりたいが、彼女が何人もの中から自分を選んだという事実が、私の本音に蓋をしていた。
一頻り聞いた彼女は、唸りながら腕を組み、考え込むような仕草をする。

「難しい問題だね……でも、これは貴女の人生なんだし、貴女が決めたらいいとアタシは思うけどなぁ……」
「……そうですよね!」
「うん!応援するよ。アタシ、スイレン。貴女は……」
「私は、ユリと言います。」

こうして私達は出会ったのだ。

~~~~~

私達は都合が合う日は必ず会った。スイレンはこの涼味町にある清夏せいか堂に勤めているらしい。彼女は私と同い年で、私に色々な事を話してくれる。依頼で行った町やダンジョンの事。そこで出会ったポケモン達の事。そして、ケガレの事も教えてくれた。私は彼女の話しをしている時の表情が好きだった。とても輝いていた。そして、いつか私も……と思った。
ある日、彼女は私に聞いてきた。

「そっちはどう?」
「いいえ……まだ言えてないです。」

私は俯きながら言う。私自身も焦っていた。いつ私が弟子から師匠へと変わるのか分からない。一応、親は承諾が取れているのだが、肝心のおばあさまへ話しが切り出せずにいた。早く早くと、私の中で何かが警告音を鳴らしていた。

「そうか……」

ふと彼女を見ると、いつもより元気がない気がした。

「どうしたんですか?」
「えっ?何が?」
「いえ……何だか元気がないような気がして……」
「へっ!?そっそんな事ないよ?!何でもないって。」
「いいえ!何でもなくありません!!」

私は、何故かムキになって言い返した。私の珍しい行動に、彼女は驚いていた。そして、焦りを表していた表情は、苦笑いへと変わる。

「本当にユリには隠し事出来ないよ……」

そう言うと、彼女はぽつりぽつりと話し始めた。

~~~~~~

アタシには親がいないんだ。赤ちゃんの頃、清夏堂の前に捨てられているのを神主のゲッカと、副リーダーのゴウが見つけてくれたみたい。それからは本部のみんなが親代わりだった。でも、やっぱり彼女達が親だとしても、他人にはかわりない。
そんなアタシの友達には、ちゃんとした親がいる。それに少しばかりヤキモチ焼いてた訳よ。ホント、子供みたいだよね……。

「そんな事ありません!!」
「……でも」

私は彼女の言葉を遮るように、大声で言い放った。

「貴女の立場になって考えれば、当然の事です。それなのに私ったら……」
「しょうがないよ。知らなかったんだし。」

彼女は苦笑しながら言う。そして、思った。絶対に私は祈祷師になると。そして、彼女と……

「私、絶対に祈祷師になります!」

~~~~~~

「あの……おばあさま。」

今日は箏の稽古の日だった。私は稽古が終わった後、思いきってあの話しを振った。突然声を掛けてきた私に、彼女は少し驚いた表情をする。まして神妙な面持ちだと尚更だろう。

「どうしたのですか?」
「あのッ……その……」

緊張で口が回らなくなる。そんな私を、彼女は優しい顔で見つめてくる。私はその重い口を開いた。

「私、祈祷師になりたいんです!」

私がその言葉を発した途端、彼女は口に手をあて、固まった。それでも私は話し続ける。この思いを伝えるために。

「おばあさまが私を選んでくださったのは、とても嬉しく思います。けれど、私には守りたい者が出来てしまいました。」
「守りたい者とは?」
「同い年の祈祷師の女の子です。彼女には本当の両親がいません……。親代わりのポケモンはいたとしても、彼女はとても寂しかった。ずっと孤独だったんです!だから、私が彼女の家族になってあけたい……いいえ!なりたいのです!!」

言いきった。体が震える。喉が苦しくて息がしにくくなる。そんな時、一つの声が響いた。

「分かりました。」
「おばあさま……?」

紛れもなく目の前にいる彼女の声だった。

「その子を守ってあげてください。」
「でも、後継ぎの方は……」
「また考えます。これは貴女の人生。私に口出しは出来ません。」
「ッ……おばあさまッ」

ああ……なんて暖かいんだろう。私はその温もりに抱かれながら、涙を流した。

~~~~~~

そして、私は晴れて祈祷師の仲間入りを果たした。その時もスイレンは、一緒に着いてきてくれた。そして、私は全ての儀式が終わると、彼女に言った。

「あの、スイレン。貴女さえ良ければ、チームを組みたいのですが……」
「えっ!?」

彼女はとても驚いていた。そんな事を言われるとは思わなかったのだろう。

「アタシなんかでいいの?」
「はい!貴女がいいんです!」
「……分かった!」

彼女は笑った。思えば、彼女のこのような笑みは初めてかもしれない。いつも何処か悲しげで、心から笑えていなかった気がする。もしそうならば、私は彼女の力になれたのだろうか。
私達はチーム名を常花とこはなとした。

~~~~~~

「まさかユリに、チームメイトになってくれなんて言われるとは思わなかったよ。」

今は夜。私達は四季桜の根元に腰掛け、話していた。ここは涼味町を一望出来る、絶景スポットでもある。彼女は街明かりを見つめながら言った。私は彼女を見る。

「スイレン。私は貴女の過去を知ってから、ずっとこうするつもりでした。」
「えっ?」
「私の祈祷師になりたい理由は、最初は憧れという物でしたが、今は違う。私は貴女の家族になりたいのです。」
「家族……」
「はい。スイレン、今日から私も貴女の家族です。もう孤独にはさせません。」

その時、彼女の留め金が外れたのだろう。彼女は私に抱きつく。小刻みに震え、嗚咽が聴こえる事から泣いている事が分かる。私的には、彼女が弱みを見せてくれた事が嬉しかった。一切他人に弱みを見せない彼女。ずっと一人で抱え込んでいたのだろう。私は彼女が落ち着くまで、背中を撫でてやった。
そんな彼女達を、淡く光る四季桜が見守っていた。
初めての「泡沫のあい」のスピンオフ作品でございます。また、何作か書くと思うので、よろしくお願いいたします。

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