雨乞い二匹と秘密の花園

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作者:ジェード
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読了時間目安:22分
以前、連載として投稿したものですが、短編の方が良いと判断し、一旦消去して新しく投稿し直しました。読了などして下さってた方には申し訳ないです。
「ウパーは知っているかしら? 」


編み物をしながらヌオーはウパーを見て聞きました。ヌオーが手を動かす度に、朱色の毛糸玉がくるくるとヌオーの膝の上で回ります。


「なになにー?」

「この梅雨の時期には、とても美しい大輪の紫陽花が咲く花園が見れるのよ」


つぶらな小さな瞳を瞬かせて、ヌオーは自分の膝元にいるウパーへと優しく語りかけました。


「あじさいー! ボク、あじさい見たい!」


するとウパーは、“紫陽花”という言葉にいたく目を輝かせました。丸い瞳が爛々と煌めき、ヌオーを捉えます。


「そうね、とても綺麗なのよ。でもね、決して近づいてはダメよ」


ヌオーはしんとした澄んだ声で言います。
その様子に、ウパーは不思議そうに顔を傾けます。


「えー? なんでダメなのお母さん?」

「その花園の主は、綺麗な紫陽花を自分以外の誰にも見せたくないの」


ヌオーの言葉を聞いて、ウパーはますます顔を傾けます。その様子は大袈裟な子供っぽさが伺えます。


「えー? せっかく育てたんだから見せてくれたっていいのに」


ヌオーの膝元でぴょこぴょこと跳ねて反論するウパー。ヌオーは仕方ないというように、ひとつため息を吐きました。


「そうね、ちょっと意地悪なんだわ。だから、綺麗な紫陽花を見ても近づいちゃダメよ。主に怒られてしまうから。お母さんとの約束よ?」

「うー、わかった!」


ウパーは首をぶんぶんと振ってヌオーと約束をしました。その様子を見て、ヌオーが優しさを湛えた微笑みを投げかけています。

季節は雨降りの続く梅雨。
今日も外ではしとしとと小雨が降り、青々と生い茂る草木に煌めく雨粒を載せていました。





「あっめあっめふっれふれ、かあさんが〜♪」


調子っぱずれの童謡がざあざあと降る雨に混じって聞こえてきます。

雨の中で二匹のポケモンがさらに雨乞いをするように、童謡を歌っていました。

ウパーとその友達のヌメラです。

二匹は雨なんてなんのその、いや、むしろ喜んで、空から降る恵みの雨を全身で浴びていました。


「今日も探検するうぱ!」

「探検楽しみめら〜」


こうして近くの森を探検するのが、二匹は大好きでした。毎日、仲良く森の中を探索してお宝探しをしているのでした。

美味しいきのみ。綺麗な石。珍しい色の葉っぱ。これまで様々な自然物が彼らのコレクションとして加えられました。

そして、探検が終わった日には毎回、それはそれは楽しそうにお母さんに探検の報告をするのです。

二匹は相変わらず音の外れた童謡を口ずさみながら、ぱしゃぱしゃと水たまりを踏み抜き、草むらを掻き分け、いつも通りの探検を始めます。


「のどがかわいてきためら」

「雨が降ってるからまだ大丈夫うぱ!」


いつもと変わらず、鬱蒼とした森をウパーたちが探検し始めてしばらく経ち、そろそろ二匹も喉の乾きを覚えてきた頃合いでした。


「あっ! オボンのみだ!」


大きく重なり合う木の根を、ぴょこぴょこと踏み越えて行くと、木にぶら下がるようにして、一つ大きなみずみずしい香りのきのみが成っていました。

ウパーとヌメラは顔を合わせてにっこりと喜び合います。


「今日の最初のお宝めら!」

「ほーしゅー、ゲットうぱー!」


ウパーは自分のいる位置よりも少し高い位置に成っているきのみを、尻尾で弾んで幹に登り、収穫しました。


「ナイスジャンプめら!」


ヌメラは飛び跳ねることが出来ないため、こうした木に実ったきのみを獲るのはウパーの役目でした。


「えっへん」


ウパーは誇らしそうに笑います。
手に入れたオボンのみを尻尾で高らかに掲げて、木の根元から見上げるヌメラに見せました。


「ぼくも木登りしたいなぁ」

「ヌメラくんにもしっぽ、あったらいいのに」

「しっぽほしいめら!」


ヌメラはぬめりある体をもにょもにょと動かして、木の上にいるウパーに話しかけました。

ヌメラのお母さん、ヌメルゴンをヌメラは思い出していました。自分も進化したら、あんなカクレオンの舌のような尻尾がつくのかと思うと、ちょっぴりわくわくしました。


「ヒーロージャンプ! とうっ!」


きのみを尻尾で抱えて、勢いよく木の上から飛び降りたウパー。カッコよくポーズも決めて、何かエフェクトでも見えてきそうです。それは良かったのですが。


「うわっ、うぱー!?」


着地した瞬間に、ぬかるんだ地面に足を持っていかれてしまいました。

この森の今の天候は雨。
つまり、かなり地滑りしやすい状態な訳です。


「うわわわわ!」

「ウパーくん!」


雨で濡れた地面と「しめりけ」のウパーの相性は最悪でした。

ウパーはきのみを抱えたまま、留まるところを知らず、一気に滑り落ちていきました。

段々と、ウパーを呼ぶヌメラの声が遠ざかっていきます。


「いてて、ここは?」


しばらくの間、森の高台から滑り落ちて、ウパーは自分が見たこともない場所へと辿り着いてしまったことに気づきました。

そしてどうやらきのみは途中で落としてしまったようです。

ふと、甘く爽やかな、それでいて青々とした匂いに、ウパーは気が付きました。どうやら花の香りのようです。その匂いに惹かれて、きのみを落としてガッカリする間もなく、匂いのする方へ歩いていきます。


「わぁ、きれい」


濡れた草むらを抜けた先に、ウパーは辿り着きました。

そこには一面の紫陽花の花園が広がっていたのです。

菖蒲色から藤色まで、絵の具をパレットで混ぜたかのような見事なグラデーションで、紫陽花たちはそこに精彩に、淑やかに、咲き誇っていました。

小さな四角い花々に雨粒が散るように載っています。雨粒は触れている紫陽花の色を僅かに取り込み、薄らと紅掛空色を包容し煌めいていました。雨粒は透明なはずなのに色が見えることを、ウパーは不思議に思いました。

ウパーはすっかり今自分がどこにいるのか分からないことも忘れて、誇らしく咲く紫陽花たちに見入っていました。

そんなウパーに、のそりのそり、と隠密行動をする忍びのように、ゆっくりと背後から迫るポケモンが一匹いました。


「誰だ、僕の紫陽花を盗み見る悪いヤツは」

「うぱ?」


その怪訝な声に、ウパーは無邪気に振り向きます。

その声の主は、キノコのような大きな笠に、存在感のある大きなハサミを持っていました。

橙色の両腕のハサミには、萎びた紫陽花の花と、剪定したであろう青々とした葉が握られています。

彼こそが、この密やかな花園を手入れし、一から育て上げたポケモン、花園の主パラセクトなのでした。


「む、子供か」


パラセクトはハサミをカチカチと鳴らすと、ウパーを嫌そうに見下ろしました。抜け殻のような白く濁った瞳が不気味に動きます。ウパーは雨が降る前の雲のようだと思いました。

ウパーは邪険そうなパラセクトを気にも留めず、彼を好奇心に満ちた目で見つめます。

そんなウパーを、パラセクトは白い瞳をますます困らせて覗きこみます。


「子供はキライ。さっさと向こうに行って」


葉を持った橙色のハサミを、しっしっとウパーを追い払うように振ります。

ウパーはそんな自分を厄介払いするようなパラセクトと、一面に広がる紫陽花の花を見て、お母さんの言っていた言葉を思い出しました。


「あー!」


ウパーは元々大きな口をこれでもかと言うほどに開けて声を上げます。


「うるさい、なに?」

「ひみつの花園の主!」


ウパーは小さな丸い瞳を輝かせて、パラセクトに詰め寄ります。その様子に、パラセクトが困ったようにたじろぎました。

パラセクトの持つ青々とした葉がひらり、と地面に落ちました。


「秘密の、花園?」

「お母さんが言ってたんだ! 梅雨の時期には、きれいなあじさいが咲くひみつの花園が見れるって!」


ウパーの言葉を聞いて、ふぅん? とちょっと満更でもなさそうに呟きました。精魂込めて育てた、自慢の紫陽花が褒められて嬉しかったのでしょう。上機嫌にハサミをカチカチと鳴らしました。


「あと、花園の主がいじわるで花を見せてくれないって!」

「い、意地悪で悪かったね」


パラセクトは少しだけ見せた満足そうな表情を、元の仏頂面に戻しました。

そして、ウパーを紫陽花から退けるように割り行って、また紫陽花の手入れを始めます。

ぽつりぽつりと降る雨の音に混じって、カチカチと、パラセクトが左右の大きなハサミを鳴らす音が響きます。


「ねー? やっぱりこのあじさい、全部おじさんが世話してるの?」


ウパーは紫陽花から退かされても、一向にめげずに尋ねます。


「そうだけど、おじさんじゃないし」

「そうなんだ! ねぇ名前教えてよ! ボクはウパーって言うの!」


ウパーは小さな瞳を爛々と輝かせて、パラセクトを尊敬の目で見ると、まくし立てるように言いました。


「知ってどうするつもり」

「お互いの名前を教えるのはれーぎだってお母さん言ってたもん!」


ムスッとしたウパーを見て、鬱陶しそうにパラセクトはため息を吐きました。諦めないという意思を感じる真っ直ぐな瞳を向けてくるウパーに、これだから子供はキライなんだとパラセクトは改めて思い直しました。


「パラセクトだよ」


枯れた葉を右のハサミで器用に切り取りながら、半ば消え入りそうな小さな声で、パラセクトは呟きました。

その言葉にウパーは花開くような明るい笑みを浮かべます。“パラセクト”と口を動かして復唱してみます。


「パラセクト! パラセクトはすごいんだね! こんなにたくさんのあじさいを全部きれいにしてるんだもん!」

「まあね」


一切手を止めることなく、パラセクトは答えます。その器用で無駄がない剪定模様を、ウパーはただただじっと観察するように見つめていました。

沈黙に附する二匹に、ぽつぽつと差す雨音と、パラセクトが忙しなく動かす乾いたハサミの音だけがその場を支配しています。


「ねぇねぇ」

「うるさいなー、剪定の邪魔」


無邪気にこの沈黙を破ったウパーに、パラセクトがまた心底鬱陶しそうに返事をしました。


「なんで、あじさいみんなに見せないのー?」


パラセクトがハサミを動かすのを止め、ゆっくりとウパーに振り返ります。真っ白な瞳が不気味に動いて、ウパーを捉えます。


「こんなにきれいなのに。ねー、みんなに自慢しよーよ!」


雨空に似合わず、晴れやかに言うウパーに、パラセクトはまたもや少したじろぎました。

パラセクトは何かをウパーに言おうとして、ごにょごにょと言葉を飲み込みました。


「誰も見てくれやしないよ。それに、僕は嫌われ者だから」


パラセクトは白く濁った瞳を、僅かに動かして、俯いたように呟きました。
立て続けに地面を穿つ、雨音に掻き消されてしまいそうな、弱々しい声でした。

その表情は読めず、抜け殻のような外見は不気味めいて見えますが、少なくともウパーには、今まででも特にしおしおとしたものに見えたのでした。


「きらわれものー?」

「そうだよ。僕は嫌われ者」


ウパーがぽつりと呟くと、パラセクトがその言葉を強く肯定するように、後に続けて言いました。


「なんできらわれてるの」

「それは」


すっかり葉を切るのを止めて、ウパーに向き合っていました。
その躊躇いには、複雑な感情がポフィン作りをする時のようにぐるぐると込められているのでした。


「それはー?」

「それが分かったら、僕だって苦労してないっての」


ツン、とそっぽを向き、パラセクトは答えました。それは傍から見ればどっちが子供か分からないような素振りでした。


「それって、自分でもわからないってことー?」

「何で子供って説明してもまた聞き返してくるんだろ。ああ、キライ」


そう言うとパラセクトは、橙色の大きなハサミをウパーを振り払うようにぶん、と大きく振りました。


「それはわからないからだよ! だってまだ、パラセクトがきらわれてるりゆーがわからないもん! 誰かにいじわるとかされたのー?」


パラセクトのハサミにも全く怯まず、ムスッと膨れ上がった蒸しパンのような顔をして、ウパーはパラセクトに問いかけます。

その様子を見て、ちょっとだけたじろいで、また持っていた紫陽花の葉を落としました。


「意地悪は、されてない」


今すぐ消えてなくなってしまいそうな小さな声でした。
ウパーはそんなパラセクトを見て、ふっくら柔らかい土が水をかけて萎んでいくのを連想しました。


「じゃあ、なんできらわれてるって思うの?」

「なんで、だろ」


俯き、ハサミを顔に当ててぽつり、と呟きました。


「実はパラセクトがそう思ってるだけで、きらわれてないんじゃないの?」


黒いつぶらな丸い瞳は、真っ直ぐにパラセクトを捉えて離しません。

パラセクトはその言葉に、溝尾を突かれたかのような、小さな呻き声を上げました。
わさわさと側面の脚が、困惑を表すかのように蠢きます。


「そ、そんなことは」

「きらわれてるって悲しいことだよね。そんな悲しいことを自分で強く裏付けるりゆーってある?」


パラセクトは何か言おうとして、しかし言葉を飲み込みました。

二匹の間に雨粒がぱらぱらと落ちてきます。消炭色の空は、そんなパラセクトの心情を鏡に映したかのようでした。


「ボク、パラセクトのこときらいじゃないよ! こんなにきれいなあじさいを全部自分でお世話してるんだもん!」


にぱっと、それはパラセクトの隣で咲く紫陽花たちのような快活で華やかな笑顔でした。

そんなウパーに、またまたパラセクトはどんな顔をしていいのか分からず、静かに白い瞳を濁らせていました。


「ウパーくん!」


黙って俯いている、パラセクトを見つめていたウパーでしたが、聞き慣れた声に振り向きます。


「ヌメラくん!」

「探しためらよ。結局ぼくもあそこから滑ってきためら」


そう笑顔で言う、ヌメラの体はどろあそびをしたのかと言うほど、泥だらけでした。
誰だか分からないような泥まみれの顔で、点々とした瞳をぱちぱちと瞬きさせています。


「ヌメラくん見て見て! あのきのみは手に入らなかったけど、ひみつの花園を見つけたんだ!」

「めら!? 一面花畑めら! すごいめら! これはママも喜ぶめら〜!」


ヌメラは瞳をビー玉のようにきらきらと輝かせて紫陽花の花たちを見ます。

雨粒に打たれて揺れる紫陽花たちが、ほら、私たち美しいでしょう?と見せつけているようでした。


「また子供が増えた」


さっきまでのしおらしい様子はどこに行ったのか、嫌そうにパラセクトがぼそりと呟きました。


「ヌメラくん! パラセクトだよ。この花園の主なんだ!」

「はじめましてめら。ヌメラといいますめら」


ヌメラは地面に触覚をつけるようにしてお辞儀をしました。
その様子をパラセクトは一瞥すると、またツン、とそっぽを向きました。


「パラセクトはすごいんだよ! このあじさい全部自分でお世話してるんだ」

「ぜんぶ!? これを? す、すごいめらー!」


たちまち尊敬の念がこもった、輝きに満ち溢れた瞳で、ヌメラはパラセクトを見つめました。

その様子に、パラセクトはまた照れたような、どうしたらいいのか分からないような表情をして、脚をわさわさと動かしました。


「ね? ほら、パラセクトはきらわれてなんかないよ!」

「で、でも僕には友達なんてまるでいないし」

「だったら、ヌメラたちが友達になるめら」

「友達、いい響きうぱ!」


ウパーとヌメラはならんでにっこりと笑っていました。二つの眩しい笑顔をパラセクトは覗き込むように見て逡巡していました。


「とも、だち」


白く濁った瞳がゆっくりと動き、頷くように見て、パラセクトが口を開こうとしたその時でした。

消炭色の爛れた空から、一閃の稲光が耳を塞ぎたくなるような轟音を纏い、焼き焦がれるように地に打ち付けられました。

三匹が同時に肩を震わせます。


「かみなりだー!」

「帰らなきゃ、ママに怒られちゃうめら!」


ウパーとヌメラはきゃーきゃーと声を上げて、逃げ惑うようにその場をあたふたしました。


「で、お子様諸君は帰り道分かるの?」


パラセクトが至って真面目なトーンで尋ねると、ウパーとヌメラはお互いの顔を見て、ぱちぱちと瞬きをし、そして刺し固まった笑顔でパラセクトに向き直ります。


「わかんない!」


二匹の揃った元気な声が雷雨の中で轟きました。それに対してパラセクトが呆れたといったため息を漏らしたのでした。





「パラセクトって意外といいやつ!」

「意外とは余計」


帰り道が分からない二匹は、パラセクトの後に続いて森の抜け道を進んでいきます。

森の中は二匹がまだ見たことない、水道や、森の植物がありました。

毒性なのか分からない、やたらといい香りのキノコ。木からぶら下がるように花を付けた珍しい植物。苔だらけのふさふさな岩。

二匹はそれらを見つける度に立ち止まり、そして、うんざり気味なパラセクトに引っ張られていきました。


「本当はさ」


雷雨は一向に止むところを知らず、鋭い雨粒がしきりに音を立てる風と共に降りしきっていました。


「自分でも分かってたんだ。ただ自分が他者が怖いだけで、本当に嫌われてるわけじゃないって。でも、僕には誰かと関わる勇気が持てない。それに、紫陽花を見せないようにしてしまった」


ウパーはそんな中でも、パラセクトが消え入るように呟いたこの言葉を聞き逃すことはありませんでした。


「だいじょーぶ! だってボクたち、もうパラセクトの友達だもん! 友達は助け合うものってお母さん言ってた。だから、パラセクトがいいやつだって、ボクらがみんなに教えるよ! ね、ヌメラくん!」

「めら!」

「だから、あじさいみんなに自慢しよーよ!」


二匹は天候とは対極的な笑顔をしていました。
ヌメラは雨ですっかりと顔の泥を落とし、元のぬめぬめの体になっているのでした。


「分かった」


しばらく冷たい雨に打たれて、パラセクトは頷きました。そして二匹からは見えませんでしたが、そっと口元を歪ませました。


「ウパー! 一体どこに行ってたの?」

「あ、お母さん!」


先頭のパラセクトが森を抜けると、ウパーのお母さん、ヌオーが丁度姿を現しました。どうやら、雷雨になって、探検に行ってたウパーたちが心配で探していたようです。

ウパーとヌメラは一目散にヌオーの元に駆け寄り、優しく抱きしめられます。


「あら、あなたは?」

「この子供が僕の庭に迷い込んだから、その」


パラセクトが上手く言えず言い淀んでいると、ウパーがぴょこっと飛び跳ねてヌオーの前に出ました。


「お母さん! パラセクトはいいやつだよ! 迷子になったボクとヌメラくんをここまで案内してくれたんだ」

「それに、あのたくさんのすごいあじさいの育て主なんだめら!」


ヌオーはウパーたちの言葉を聞いて、少し戸惑いましたが、二匹の様子を見るにどうやら本当にここまで送ってもらったことらしいと気づいたのでした。


「紫陽花.......それは、そうだったのですね。この子たちをありがとうございます。すみません。どうにも好奇心旺盛なものですから」


ヌオーは丁寧に頭を下げました。
その様子にパラセクトはいやいやそんな、とハサミを動かしてあたふたしていたのでした。


「じ、じゃあ、僕はこれで」


そそくさと逃げ帰るように森に入ろうとしたパラセクトでしたが、ヌオーに引き止められます。


「今度、何かお礼をさせて下さい。この子たちがお世話になりましたから」


花のような、柔らかく優しい笑みでした。パラセクトは、もっと何か自分が二匹を攫った悪者のように仕立て上げられると思っていたばかりに、拍子抜けしました。


「また遊びに行くからね!」

「ありがとう、めら!」


尻尾と触覚をぴょこぴょこ動かして二匹もパラセクトに笑いかけました。

パラセクトは少し俯いて、それから少し息を吸って、二匹を見ると、大きな橙色のハサミを左右に振ったのでした。





「まあ、いいのですか? こんなに綺麗なのに」


ヌオーの持つ手には、撫子色の可憐な紫陽花の花束があります。
小さな花々は寄せ合って、大きな青々とした紫陽花の葉に抱き留められていました。


「マフラー、もらいましたし。それにたくさん咲いてるから」


そう小声でぼそぼそと言うパラセクトの顔は照れたものでした。

マフラーは、初めはウパーのためにヌオーが編んでいたものでしたが、ヌオーがウパーとヌメラを送ってくれたお返しに、とパラセクトに贈ったものでした。


「ありがとうございます。大事に飾らせてもらいますね」

「こ、こちらこそ。ハサミで傷つけないよう気をつけます」


ヌオーは手元の紫陽花にも引けを取らない、弛たんだ笑顔で言いました。
パラセクトが、恥ずかしそうにもじもじとハサミを動かしていました。


「一件落着、うぱ!」

「でもこれじゃ、探検隊じゃなくて探偵団めらね」

「雨乞い探偵団.......それもまたかっこいいうぱ!」

「それもそうめらね。あめあめふれふれ〜」

「ふっれふれ〜!」


ウパーとヌメラが、紫陽花の葉の元でこっそりと、二匹のやり取りを見てはにかんでいました。

季節は梅雨。
二匹の雨乞いに呼び合わせられたかのように、小雨が降り始めます。

点々と土に染み入る雨粒は次第に勢いを増し、濡れた赤土は裾を広げていき、やがて二匹が談笑するのに劣らないくらいの雨足になっていきました。




──了──


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