フワライドの空のお仕事日記

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作者:ジェード
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読了時間目安:70分
ポケダン空に準拠した短編小説です。
〇月〇日 ひざしがつよい

今日から日記を付けることにしたんだー。
何で? かわいい日記帳をもらっちゃったからだよー。
きちんとお礼しなきゃねー。

せっかくもらったのに、使わないのはなんだか日記くんがかわいそうだよね。

だからねー、初めてだけど、今日からちょっとずつ自分の思ったことを書いていくことにしたのー。

そらのいただきでのお仕事のこと。
お客さんたちと話したりしたこと。
いつも変わるそらのいただきの景色のこと。

色んなこと書いていくからねー。
これからよろしくねー、日記くん。




〇月〇日 きりがふかい

今日はきりがふかくって大変だったんだよー。

見にくいから、途中でオニドリルの群れにぶつかりそうになっちゃった。
危ない危ない。
お客さんが乗ってなくて本当に良かったー。

きりってこわいねー、全然見えないんだもの。
ああいう時ってあやしいかぜを使えばよかったのかなー?
そらのいただきは、だれかの顔色みたいにころころ天気が変わっちゃうんだよねー。
それがおもしろいんだけどねー。

今日も一日お疲れさま。
おやすみなさい。




〇月〇日 はれ

今日は忙しかったなぁー。
観光しに来たお客さんでいっぱい。

次から次にボク以外のフワライドも飛んでってさ、なんかそういうひこう大会?みたいだなーって思っちゃった。

あったらいいのにねー。
いちばん早く飛べるフワライドを決めるコンテストみたいなの。
みんなふわふわ飛ぶから、決めるの大変かなー?

ボクもう腕がクタクター。
おやすみなさいー、また明日。




〇月〇日 ゆき

今日は肌寒い日だったねー。
雪を久しぶりにみたんだ。

ボクはあくまで運び屋さんだから、頂上まで行ったことはないんだけど、8合目より上は雪がふることも多いんだってねー。

寒いのは苦手だなー。
こおりタイプが苦手だからかな?
寒いと思わず体をちいさくしちゃうんだよねー。

おやすみなさいー。
明日は暖かいといいなー。




〇月〇日 あめ

今日はずっと雨だったからびしょびしょになっちゃったー。
水でどんどんカラダが重くなって運ぶのも大変だったんだー。

シェイミの里に戻った後、ぺリッパーさんに乾かしてもらったよー。
ありがとうー。すっごく助かったよー。

感謝って言うと、シェイミさんとそらのおくりものが思いつくなぁ。
アレって貰うとほっこりする何かが入っているんだってー。

それって何だろうね? 気になるなー。

ボクもそらのおくりもの探してみようかなー?
でも探検は無茶かなー?




〇月〇日 はれ

久しぶりのおやすみだったから街にお出かけしたよー。

大好きなむらさきグミとオレンのみたくさん買ってきて満足だー。

そういえば、ギルドのポケモンさんが何かたくさん道具を買ってくのを見かけたんだー。
お使いだったのかなー?

いつも食べものしか買わないけど、よく見ると、カクレオンさんの商店には色んな商品があるよねー。

あの高そうなスカーフとかわざマシンとか……探検隊ならみんな買うのかな?

んー。探検隊ってすごいなぁ。
ボクはむらさきグミとオレンのみがあればそれでいいやー。




△月〇日 はれ

今日はね、なんとね、ボクのところの常連さんのデリバードさんが来たんだよ。
ちょっとおトクな気分だー。

彼は、そらのいただきに登ってきたポケモンにそらのおくりものを贈るのが趣味なんだってー。
あくまでもプレゼントするのが好きなんだってさー。

他のフワライドがよく話を聞かせてくれるんだよねー、だから気になってたんだー。
それでちょっと質問してみたんだー。

「どうしてわざわざそんなことするの?」って。

そうしたらデリバードさん、答えてくれたんだー。

「だれかの喜ぶ顔が自分にとっても幸せだから」

だって。
ステキな考えだよねー。
ボク、その時イイですねーって言いすぎて、もうこの言葉使えないかもねー。

大げさかな? でもそれくらい感動したんだー。
だからこの日記もちょっと長くなっちゃったー。

ボクはだれかの笑顔の役に立ってるかなー?
立ってるといいなー。
おやすみなさい、日記くん。




△月〇日 くもり

んー……今日はちょっと困ったお客さんがいたよ。

4合目まで運んだのは良かったんだけど、その後にさ、ボクに一緒にダンジョンに来てくれなんて言うんだよ。

無理無理ー。ボクに出来るのは空の運び屋さんだけだってー。

あ、でもずっと壁の上を飛んで行けば、戦わなくてもダンジョン攻略は出来るのかな?

んー。
でもやっぱりこわいし無理!

ごめんねー。
ボクじゃなくて、やっぱりちゃんと探検隊に依頼しなきゃだよね。




△月〇日 ひざしがつよい

今日は探検隊のポケモンさんを運んだ時に、少しお話ししたんだー。
なんてことない世間話なんだけどね。

彼はギルドには入ってないんだけど、救助メインで活動しているんだってー。
で、そらのいただきには観光で来たんだって。

探検隊ってやっぱりすごいよねぇ。
ダンジョンで迷子になっても、いのちがけで助けてくれるんだもの。

それ以外にも道具を探してくれたりするんだよねー。
便利屋さんだねー。

もちろんその分報酬はお高いんだけどねー。
いいなー、すごいよねー。




△月〇日 くもり

またデリバードさんと会ってお話出来たんだー。

そらのおくりもの、ってみんなの感謝が空から降ってきたんだって聞いたよ。
なんだかロマンチックなお話だねー。

ダンジョンは入る度に形が変わって、落ちてるものも変わるんだよねー。
だれが置いてるんだろうー?
本当に全部空から降ってきてたりしてねー。

ボクがそらのおくりものが欲しいんだーって話したら、一個くれるって言ってくれたんだけど。
んー、それは違うんだよねー。

やっぱりプレゼントは自分で用意して、しっかりと気持ちを込めて贈りたいや。




△月〇日 きりがふかい

んー。
んんー。

今日はなんて事はない普通の日だったよー。
それよりボクは悩んでることがあるんだけど……。

どうしようかな?
勇気を出してみるべきかなー?

あんまり悩んでいるとお客さんを不安にさせちゃうからなぁ。
早く決断しないとだねー。

よーし、今日中にしっかり悩んで決めよう! そうしよー。




◇月〇日 はれ

決めたー。
うん、決めたよー。

もうお休みももらう約束もして、依頼も出しちゃったー。

ボク、探検隊さんと探検しに行くって決めたんだー。

不安もあるけど、でもそれより楽しみだー。
初めてのダンジョン探検が出来るかも。
どんな探検隊さんが案内してくれるのかなー?

あ、忘れないうちに、まとまったお金をヨマワルさんのところに取りに行かないと。

とにかく今は楽しみだよー。




◇月△日 はれ

まだボクの依頼は誰も受けてないみたい。
そりゃそうだよねー。
昨日の今日だもんねー。

掲示板にはたくさんの依頼が毎日貼られたもんなー。
あの中にボクが書いたものもあるんだなー。
依頼を出したら、みんなこんな感じでそわそわと待ってるのかなー?

どこかの探検隊さんの目に届いて欲しいなー。
そう信じて、ボクはボクのお仕事を頑張ろう。

おやすみなさい。




◇月▽日 ひざしがつよい

やったー!
依頼の話が決まったよー!

あの有名な、プクリンのギルドの探検隊さんがボクを護衛してくれるんだってー。

今からもう遠足気分だよー。
お仕事中もその事ばっかり考えちゃってさー、うっかり風に流されそうになっちゃったくらいだよー。

明後日、探検隊さんたちと詳しい話があってダンジョンに行くみたい。
ああ、楽しみ。
ちゃんと目的もあるけど……それ以上にボクの心が踊ってるのがよく分かるよー。

いきなり明後日になってないかなー。
それはそれで楽しみが減っちゃうかな。




◇月✕日 くもり

明日はいよいよ探検隊さんたちと会う日だー。
いったいどんなポケモンさんなのかなー?

ちょっと強面だと緊張しそうだなぁ……。
うーん、でもあのプクリンのギルドのポケモンさんたちだから、強さは間違いないと思うし。
自然な感じでお話出来たらいいなぁ。

ちょっとだけ緊張して来ちゃったよ。何せ、依頼もダンジョンも初めてだからねー。

とにかく会って見なきゃわからない!
明日はちょっと気張って行ってみよう!




◇月▽日 はれ

探検隊さんたちと初めての対面、もう本当に緊張しちゃったー。

ボクの依頼を受けてくれたのは、ポッチャマさんとリオルさんの2人組のチームみたい。

どっちもこわくなくてホッとしたよー。
今日はとりあえず顔合わせして、依頼内容と報酬の確認をしたんだー。

で、ボクもびっくりなんだけど、さっそく明日からダンジョン攻略するんだって!

明日、○○時にシェイミの里に集合、依頼をもう一度確認して突撃!

なんだってー。
さすがはプロの体験隊さん、やり取りに無駄がなくてすばやいなぁー。

そういうわけだから、ボクも心の準備をしっかりして早く寝ないとねー。
おやすみなさいー。
明日は絶対いい一日になるよー。




◇月△日 はれ

今日はよく晴れた日だねー。
ボクは、いつもお仕事しているシェイミの里で2人を待っていたんだー。





「あ、いたいた。フワライドさーん!」

「どうもー」


あ、リオルさん……青い人型のポケモンさんがボクに手を振っているや。
じゃあボクも、とふわふわと手を振って挨拶する。


「ポッチャマさんにリオルさん、今回はよろしくお願いしますー」


ボクは改めて2人を見てから、ペコリと頭を下げた。


「こちらこそよろしく! 」

「よろしくね」


挨拶をして2人とぎゅっと握手をした。
リオルさんの笑顔がまぶしいよー。すっごくさわやかな方なんだなぁ。

ポッチャマさんは……昨日もそうだったけど、なんだかクール?
あんまり口数はないみたいだねー。

道具と依頼書をしっかりと見直しているみたい、さすがはプロの探検隊さんだねー。


「それから、僕たちのことはポッチャマとリオルでOKだよ」


リオルさん、いや、リオルが微笑んでくれた。ポッチャマもうん、とうなずいている。


「そうなんですかー、じゃあよろしくですー。ポッチャマにリオル」

「うん! 任せて」


探検隊さんって結構フレンドリーなんだ。いい探検隊さんに出会えたみたいでひと安心。


「で、今日の依頼の件だけど……そらのいただきに登って、そらのおくりものを探す」

「その間、私たちがフワライドさんの護衛をする。報酬は2500ポケとむらさきグミ、と」

「これで間違いないよね? 」

「うん、間違いないですー」

「オッケー、じゃあさっそくだけどそらのいただきに登ろう! 」

「おー」


準備はサクサクと進んで、いよいよボクの初ダンジョン挑戦だー。
どんな冒険が待っているのかなー?


「フワライドさん!」


んー? この気さくで明るい感じの声は。


「フワライドさん探検に行くんデスネ!」

「わ、ぺリッパーさんこんにちはー」


里を出ようとしたボクらに声をかけてきたのは、空輸サービスをしているぺリッパーさん。
いつも一緒にシェイミの里で働いているんだー。


「うん、そうなのー。初めてだから探検隊さんに付いてきてもらうんだー」

「なるほど。それはきっといい旅になりマスヨ、行ってらっしゃいマセ! 」

「ありがとうー。いってきまーす」

「準備は、いいかな? 」


リオルとポッチャマがボクらのやり取りをぼんやりとながめてたみたいー。
ごめんごめん。
つい世間話しちゃった。


「あ、うん大丈夫ですー。行きましょうー」

「よし、じゃあ行くよ。そらのいただきに……!」

「わーい」


今度こそ、ボクは初めてダンジョンに足を踏み入れる。

一体どうなっちゃうんだろう?
たくさんの想いを持って、ついにボクらはシェイミ里を出たんだー。



─そらのいただき1合目への道 1F─




「わぁ、ここが」


いつも空からここをながめていたけどずいぶんと空気が違うみたい。
周りにはたくさんの緑。
シェイミの里や街とはずいぶん違う入り組んだ地形。


「そらのいただきかぁ」


すごい。見たことないものだらけだー。
あ、向こうにはまた違う部屋が見える。ボクはふわふわと上へと上がろうとしたけど、引き止められちゃった。


「えーと、一応ダンジョンだし、あんまりうろうろすると危ないよ?」

「あ、うんごめんなさいー」


リオルに注意されちゃった。
いけないいけない。
あまりにも初めてにあふれていて、目的を忘れてしまうところだったよー。


「大丈夫。そのための私たちだから」


ポッチャマはくるりと振り返って答えた。
頼もしいなぁ。


「たぶんこの階層にはないね、早く階段を見つけて先に進もう」

「わかった、ポッチャマの指示に従ってついて行くよ」

「うん、リオルは後方で護衛をお願い」


ふたりは作戦会議をしているみたい。

ボクはダンジョンの空気? を味わいながらぼーっと景色を見てた。

ここにはないって、何でわかったのかなー? 探検隊さんのカンってやつ?


「フワライドさーん、こっちこっち」

「あ、はーい」


とりあえず、ボクは手招きするリオルのあとをふわふわとついて行く。

ダンジョン内は細い路地がたくさんつながってた。ボクじゃあとても地形が覚えられそうにないなー。

そんなことをぼんやりと考えてたんだけど、何か空気が変わるのを感じた。


「一旦止まるね」

「わかった、サポートする!」


ポッチャマの一声で前にいたリオルも立ち止まる。

何だろう。ふたりの顔が一気にフレンドリーなポケモンから探検隊のポケモンに変わった?


「あっ」


一本道の通路の先、ポッチャマの少し前に緑のポケモンがちらっと見える。
あれって、ダンジョンのポケモン?


「アクアジェット!」


一瞬で水をまとったポッチャマが、勢いよくポケモンにタックル。
スキなんていしのつぶてもないや。

今度はリオルが前に出て拳からわざを放つ。


「はぁっ!」


しんくうは、かなぁ?
拳から出た衝撃波が、ポッチャマが倒したポケモンの後ろにクリーンヒット。

まだいたんだねー。

にしても、今のせまいすき間を通した攻撃は鮮やかだったなぁ。


「わぁ、お見事」


ポケモンがこっちに近づく前にふたりも倒しちゃった。
思わず声が出ちゃったよ。


「あとは大丈夫みたい。先に行こう」

「うん」


なんてことない風にポッチャマは言うけど。
今の場面ってあのまま考えなしに進んでいたらすごく危険だったんだよねー?

探検隊のバトルってこれが日常なんだねー。
緊張と集中の連続。
こわいけど、探検隊さんに憧れるポケモンが多いのもわかるかもー。

ちょっと長かった一本道を抜けると、大きな部屋に出たみたい。
周りを見ると中央に不思議な空間がある。アレって……?


「あれが階段なんですー?」

「そうだよ」


部屋を確認し終わったリオルが、ボクに教えてくれた。


「山を登っているはずなのに、階段があるなんて不思議ー」

「うぅん、たしかに」

「なんで階段なんですかねー?」

「さぁ……?」


ボクの何気ない疑問に、たくさんのダンジョンに登ってきたはずのリオルは、案外あっさりと同感してくれた。

探検隊さんでもダンジョンの不思議なところは分からなかったりするんだねー。
ボクは、そのいわく付きの階段をジロジロと見つめながら上る。


─そらのいただき1合目への道 2F ─




「同じだけど、ちょーっと違う」


ボクは初めてダンジョンの階段を上って、不思議なダンジョンのその不思議の意味を知った。

この辺りは手短に済ませたいから観光はほどほどにね、とポッチャマにクギを刺されちゃった。

ポッチャマはフロアに降りてすぐに進路を決めて歩き始めた。
どうして、そっちにしたんだろう。
やっぱりこれも探検隊さんのカン?

特にポケモンとも出くわさずに、すぐ東の部屋に着いた。
あ、部屋の奥にまたアレがある。


「あー。階段だー」


探検隊さんのカンはすごいや。


─そらのいただき1合目─




「1合目かぁ。早いようでまだまだだよねー」

「ここは中継地点が多いけど、まだふもとだからね」


いつもボクが行き来しているのは2合目、4合目、6合目。
実際にダンジョンを抜けるのと、空を飛んで行くのとじゃやっぱり全然違うんだ。

そう考えると、ボクのお仕事って結構色んなポケモンの役に立っているのかもねー?
なんだかうれしくなってきちゃった。


「さぁさぁ、次に行くよ」

「はーい」


そうそう。観光もいいけど、ボクにはちゃんと目的があるんだからそっちも頑張らないと。


─そらのいただき2合目への道 2F ─




ボクの目的。
そらのおくりものを見つけること。

ポッチャマの話だとダンジョンの階層ごとに落ちているアイテムも違うんだってー。

それで、そらのおくりものは中腹より上へと行かないと見つかりにくいみたい。

だからかなー? ふたりはさっきから道具を探さず、ひたすら階段を目指しているみたい。
慣れた動きでポケモンを倒して、探索している。

ボクも、こうしてぼんやり考えるのもほどほどにして、しっかり2人について行かなくっちゃ。


─そらのいただき2合目─




あっさりと2合目に到着ー。
まだまだ遠足気分かなー?

あ、同僚のフワライドだ。

お疲れ様ー。
ゆるーりと手を振るとこっちに気づいたみたい。


「今度おみやげ話持ってくからねー」


たぶん、しばらくその話で楽しめるくらいには持って帰るねー。

ダンジョンと探検隊さんのお話。
みんな身近だけど、今回はちょっと違う話になりそうだよー。


「フワライドさんってここで働いてたの? 」


リオルが目を丸くしている。
そういえば、まだボクの仕事ことは話してなかったんだー。


「そうなんですー。普段はここでゴンドラ役をしているんですー」

「やっぱり、あのフワライドなんだね!じゃあ、僕らよりよっぽどここには詳しいの? 」

「天気のこととか、常連さんのこととかはそうですねー」


ボクはリオルに普段のお仕事のことなんかをカンタンに話した。
リオルとポッチャマは前にもここに来たことがあるみたいで、キョーミ深そうにボクの話を聞いてくれた。


「でもダンジョンには入ったことなかったからー。何かお役に立てばいいんですけどー」


例えば、いざという時にふたりを運んで逃げるとか?
ふたりともボクよりよっぽどたくましいから、それはないかなー。


「そっかあ。でも僕らに頼まなくてもさ、フワライドさんならお客さんからもらったりはしないの?」


リオルの言っていることは間違ってないんだよねー。

デリバードさんや、ほかの常連さんからそらのおくりものをもらった。
そんな話をするフワライドもいるみたい。
実際、ボクもこの話をしたらあげようか? って聞かれちゃったし。

だから、そらのおくりものが欲しいだけなら、ボクは意外と楽チンに手に入る立場なのかもね。


「んー、そうですねー。でも」

「今回はボクの手で探したかったんですよねー」


そうは言っても、ボクはまだそらのおくりものは見たことないんだけどねー。一体どんなシロモノなのかはわからない。それに。


「だってその方が、感謝の気持ちがこもるんじゃないかなーって」


カンゼンに受け売りだけど、そうしたいって思っちゃったんだよねー。
デリバードさん、ありがとうー。

プレゼント、モノの価値って何で決まるんだろうね?
ボクならお金にはならなくても、思い出に残るモノをおくりたいなぁ。


「そんなのって」


くだらない話だと思われたかなぁ?

たくさんのお宝を探して、あの不思議なダンジョンを冒険するのが日常の探検隊さんからしたら、そうなのかも。


「そんなのってステキすぎるよ!」


リオルの目がオーブみたいにキラキラ輝いている。
なんだぁ。ボクの話を聞いてなおさら気合いが入ったみたい。


「ポッチャマー! この依頼頑張ろうね!」

「……うん? どうしたの、そんなに気合い入れちゃって」


倉庫で荷物整理してたポッチャマが少し不思議そうにたずねる。

さぁ、ここからがまた長いんだよねー。のびーっと手を伸ばしてみた。
次に目指すは4合目かな?



─そらのいただき3合目への道 2F ─




新しい階に出たと思ったらうわぁ、ダンジョンのポケモン達で囲まれてる。
最初からクライマックスってやつ?


「わわっ、いたいっ!」


ぎんいろのかぜだ。
遠くからの全体攻撃なんてよけられないよー。


「仕方ない、せいなるタネを使うね」


少しフォローをお願い、そう言ってポッチャマの姿がポンッと消えた。

ええっ? すごいや、まるで魔法だね。

なんて、驚いている暇もないみたい。
周りのポケモンたちがにらみながらじりじりと寄って来ている。


「フワライドさん! ボクに任せて後ろに!」


ポッチャマはワープしたみたいだけど、ボクらはどうなっちゃうのー?



─そらのいただき3合目への道 3F ─




「あれー?」


気がつくとさっきとは似ているけれど違う部屋。
どうやら後からボク達もワープしたみたい。


「ちょっとヒヤリとしたけど。良かった、持ってきて正解だったみたい」

「もう最初から囲まれるのは勘弁だね」


渡されたオレンのみをかじりながら、思い返してみたんだけど、今のピンチ……だったよね?
もし、ボクひとりで来ていたら、一体どうなっていただろう?

やっぱりダンジョンってこわいところだなぁ。

しばらく歩いてジグザグとした道を抜けると小さい部屋に出た。

中央のカラフルな床に気を取られてたけど、聞き覚えある声が聞こえる。これは。


「いらっしゃい!」

「これって、あのカクレオン商店ー?」

「ハイハイ、あのカクレオン商店ですよー! さあ、どうぞご覧あれー!」


周りにはリンゴ、なぞのたま、高そうなスカーフ。
本当にあのなじみのカクレオンさんのお店みたい。


「こんなダンジョンの中にも出張しているんですねー」


でも、大丈夫なのかなー?

だってあんなワープ出来るタネもあれば、上がりさえすればすぐに違う場所に行ける階段だってあるのに。

ドロボーする方法なんていくらでもありそうだけど。


「あのカクレオンさんって、実はとっても強いのかも」


このダンジョンの中でたったひとりでお店を切り盛りするのは、相当骨が折れそうだからねー。
多分、このふたりに負けないくらいダンジョンには慣れているんだよね。


「え、う、うん。そっそうかもね!」


あ、ボクのひとりごとをリオルが聞いてたみたい。
それでどうしてこんなに動揺してるのかはわからないけどねー。


「カクレオンはね、増えるよ」

「ふえるー?」


ポッチャマがボソッとボクに向かってつぶやいた。
ふえるって……増える?


「ちょっと、ポッチャマ!」

「冗談だよ」


二人の顔を見る感じ、冗談じゃなさそう。
どうして増えるんだろう? かげぶんしんかなー?


「私たちは遠慮しておくよ、持ち合わせも今はないから」

「それは残念、またの機会に」


ポッチャマは品物をちらっとだけ見てまたダンジョンを進み始めた。

にしてもカクレオンさんが増えるってどういうことなのー?

ボクもボクの疑問も置き去りにして、ふたりがどんどん離れていく。



─そらのいただき4合目への道 3F ─




3合目も通過して、ダンジョンの周りも、遠足道からどんどんと山になってきた。

変わらずポッチャマはきびきびと先頭を行って、リオルがボクの後ろについてくれている。

ボクは、ふたりに従って移動しているだけなんだけど、ちょっぴりお腹が空いてきちゃった。

なんとなーく、さっきのポッチャマの言葉を思い出した。

カクレオンさんが増える。
ではなく、持ち合わせがないって方。

ふたりはすごい。
毎回、形の変わるダンジョンを探り探り探索して、自分の身を守って、ボクの護衛もして、依頼の道具探しもこなして。

ボクのあの報酬じゃとてもわりに合わない気がしてきたんだよね。

いや、そもそも探検隊さんってそういうお仕事なのかも……?


─そらのいただき4合目─




草原からは少し岩肌が見えてきた。

ここがいちばん日当たりと景色がよくて、観光しに来るお客さんはよくこの4合目にやってくるんだよねー。

すーっと吸い込めるだけ息を吸い込んで、今度は思い切りしぼんでみる。
青っぽくてさわやかな草の香りだ。
それから、暖かいお日様の香り。

ボクは山に来たんだなぁ。
もちろんいつも来ているんだけど、今回はスペシャルに? いい気分だと思う。


「あのー、答えられないならいいんですけどー」

「ん? ポッチャマなら荷物整理してるよ。呼んでこようか?」


ボクはううん、と首を振って、気になっていたことをつい質問しちゃった。

ボクってこういうクセ、あるみたい。
リオルはあっさりとうん、とうなずいて答えてくれた。


「ポケ稼ぎだけだと、探検隊は大変なんじゃないかな? 準備とかはボクらが自費で負担しなきゃいけないからね」

「もし、今回の探検で依頼が達成出来なかったら?」

「ボクらが準備し直してもう一度探索だよ。もちろん、費用はボクら持ちで」

「それはー、大変ですねー。なんとか今回で持ち帰りたいですー」

「その方がボクらも助かるかな」


ははは、とリオルは笑ってはいるけどやっぱり大変そうだなぁー。探検隊さん。
必死になるのは依頼したボクだけじゃなくて、ふたりもそうなんだね。


「それに、ギルドに入ってると仲介料が……ね」


そうか、お仕事を紹介したギルドにもお金は流れるよね。
そうすると、探検隊さんの取り分って、本当に少ししか残らないんじゃあないかなー?


「ボクらもギルドにたーっぷりしぼり取られててさぁ」

「あのー」

「え? 」

「ちゃんとご飯食べられてますー?」

「そりゃあもうたくさん! ギルドのみんなで毎日ガツガツムシャムシャとね!」

「ならいいんですー」


ほっ。

ボクのことじゃないけど、ギルドも悪いところじゃないみたいでとりあえずひと安心したよー。


「それに、ダンジョンに潜る時は最低限のポケしか持ち歩かないようにしているんだ」

「それは、なにゆえにですー?」

「ダンジョンで倒れるとポケと道具を失くしてしまうんだ、それでだよ」


そうなんだ。
ダンジョンにはダンジョンの中以外にもリスクがあるなんて。

知らなかったなぁ。

こんなにもダンジョンの身近なところでお仕事していたのにね。
これだから誰かのお話を聞くのってやめられないんだ。


「だから、持っていくものはよく選んでいるよ。貴重な道具は失くしたら困るからね」

「なるほどですー」


もし、ボクがまた探検に行くようなことがあったら、むらさきグミはしっかりとガルーラさんの倉庫に預けておこう。
おいしいから、探検のお供にはぴったりなんだけどねー。


「でもいいんだよ。僕は後悔なんてしていないし、探検隊にもギルドにもそれ以上のモノをたくさん、たっくさん、もらったから!」

「それに何より探検は楽しいからね!」


例えるなら、ばくはつスマイル?
リオルはそんな顔をしている。


「だから報酬が少なくても僕は探検隊を続けてられるんだ。けどそれ以上に、ポッチャマと一緒だからっていうのが大きいかな?」

「また私抜きで何の話?」

「楽しい話だよ!」


ひょっこりと青くて丸い顔が出現。
ポッチャマは準備を終えたみたいで、ボク達を宝箱を鑑定する、あの鳥のポケモンさんみたいな目で見てた。


「そうなんだ。ここからは道具を探しながら進むから、ふたりとも気を引きしめてね」

「はーい」


ボクとリオルは同時に声を出す。

そしたら、その声がやまびこになって返ってきた。

今、山からがんばれーって言われた気がするのは気のせいかなー?
まぁ山はしゃべらないよね。

きっと今のはボクの声だ。

そう、ここからが本番、気合いを入れていけ。
そんなボク自身からのエールなんだろうね。

うん、頑張るよ。

ボクのためにも、日記をくれたあの子のためにも。
そしてふたりの探検隊さんのためにも。


─そらのいただき5合目への道 1F ─




「そらのおくりものって、あの空色の箱? ですよねー?」

「そうそう、キレイな箱だよね」


今までにぺリッパーさんが荷物を包んでいるのを何度か見たことがあるんだよねー。

記憶ではなんとなく、四角い箱だった気がする。
他はさっぱりわかんない。

あ、でも空から降ってくるって聞いたんだった。もし急にたくさん流れ星みたいに落ちてきたらどうしよう?
そうしたら探検隊さんやお仕事仲間みんなに贈りたいな。

うん、そうしようっと。
今すぐ空から落ちてこないかなー?

ふたりはポケモンを倒しながらひたすら新しい部屋を探して歩く。
ボクは、というと、特に出来ることもなくふたりの間をウロウロ。

そういう依頼なんだけど、何も出来ないのはちょっぴりもどかしいね。

気がつくと、最初いた部屋にぐるりと戻ってきてた。
残念ながらこのフロアには無いみたい。


「なかったですねー」

「だね。さあ、次行くよ」


ちょっぴりガッカリしてたら、ポッチャマのさっぱりした返事で目が覚めた? かな。
なんか悩みが吹き飛んだ感じー。

まだ山の折り返しなんだよね。
さぁさぁ次のフロアも探すぞー。


─そらのいただき5合目への道 2F ─




「あっ、てアレはリンゴかぁ」


ダンジョンに落ちてるリンゴ。
いったい君はどこから来たの?

いつもカクレオンさんのお店に並んでるリンゴも、もしかしてここから仕入れているのかも。

ってこの部屋にもリンゴが落ちてる。

こんなにたくさんリンゴがあるなんて。まちがえてリンゴの森に来たとかないよねー?

これだけたくさんのリンゴがあったら当分食べ物には困らなさそうだなー。
街のリサイクルでくじ引きも出来るかも。

まあ、依頼したアイテム以外はボクは持ち帰れないんだけどさ。


「このリンゴ3つでおくりもの1つと交換してくれたらいいのになー」

「それなら、僕らのおみやげの分も手に入りそうだね!」


リオルの眩しくて優しい笑顔に、なんだかこっちまで優しい気持ちになっちゃった。

そういえば、優しいリオルとクールなポッチャマ。
このふたりは全然違った感じのポケモンなのに一緒に探検隊をしてる。

ふたりはどうして出会ったのだろう?



─そらのいただき5合目への道 3F ─




「この壁の向こうに何か道具があるみたい」


新しいフロアをしばらく歩き回って、ボク達は行き止まりに来たみたい。

で、今のセリフはポッチャマお得意のカンって感じかなー?


「うーん。少し周り道だけど仕方ない、戻ろうか」

「あのー」

「この壁のすぐ向こうなんですよねー? だったら、ボクが見てきましょうか?」


ふたりとは違って、ボクは空中を移動出来る。
こういう偵察? には向いているんじゃないかなー?


「少し不安だけど。見てくるだけなら大丈夫……かな?」

「間違っても、部屋に入らないでね。それと、何かあったらとにかくまずは私たちに知らせて」

「はーい」


ボクはふたりの視線を背中に感じながらふわふわと上昇する。
そして壁を越え、隣の部屋が見えてきた。


あんまり広くない部屋だ。

ポッチャマの言う通り、二つの道具が落ちてる。
でもあれは。


「おつかれ。でも違ったみたいだね」


リオルの言葉にうん、とうなずく。
せっかく自分で動けたのになぁー。

そう上手くはいかないものだね。


「おつかれさま」

「……ふわわー」


思わずため息が出ちゃう。
もっとふたりの役に立てたらなあ。


「大丈夫、きっと見つかるよ! そのためのボクらだもんね!」

「うん、もちろん信頼してますよー」


もう5合目に着く。
山頂に行くまでには何とか見つかってくれないかなー。


─そらのいただき6合目への道 1F ─




5合目を過ぎて、草原から完全に山になっちゃった。
ダンジョンの中もゴツゴツの岩ばかりで緑はちょこっと顔をみせるくらいかなー。

それになんだか空気もひんやりしてきた。
ボク、寒いのは苦手なんだよー。


「少し肌寒いけど、頑張ろう」


あれ? ポッチャマも寒いのは苦手なんだねー?
ポッチャマってポケモンは、もっともっと寒いところに住んでるって聞いたことあるけど。


「ボクも寒いのは苦手なんです、早く見つけたいですねー」

「それが一番だね」


少し不思議だけどまあいいか。
そういうポケモンさんもいるよね。

なんでも決めつけるのは良くないことだってお仕事のリーダーのフワライドが言ってたっけ。


─そらのいただき6合目への道 3F ─




「……っ!」


いつもの通り、フロアの中を全部グルグルと探索の途中。

いきなり先頭のポッチャマが回避? した。
部屋に入る直前に、とにかくいきなり後ろに下がったんだよ。

もちろん、続くボク達ふたりもおどろいて散り散りに。


「ポッチャマ、何があったの? まさか」

「いや大丈夫、ただのわなだった」

「わな?」

「そう。だから、ここは避けて通って」


そんなものもあるんだ。
おとしあなみたいやつかな?
本当にダンジョンには新しい発見がたくさんあるなぁ。

ポッチャマの指さす方を見ると、なんか四角い装置が床にある。

街のカフェスタンドの、パッチールさんだっけ? あのポケモンさんの目みたいなぐるぐる模様だ。

おとしあなではなさそうだね。
そもそもアレって生えてるのかな? それとも律儀にだれかが仕掛けているのかな?

……乗ったらどうなるんだろう?


「ほら、先に行こう」

「ふわわー」


ジーッと見ていたらポッチャマに手を引かれて連行されちゃった。
これじゃあおたずねものみたいだ。


「気になっちゃうかもしれないけど、本当にわなだし危ないからさ」


リオルが後ろでくすくす笑いながら教えてくれた。

いやいや、ちょっぴり気になって見てただけなんだってー。


─そらのいただき6合目への道 4F ─




「リオル!」

「うわっ!」


ポッチャマの一声でリオルは華麗な回避を見せた。

おお、すごいや。
じゃなくて、また囲まれてるよボク達。


「フワライド、キミは下がっていて。戦闘は私が引き受ける」

「りょ、了解ですー」


ポッチャマの背中はボクよりも小さいけどとっても頼りになる。

だからなのかな?
なんとなく、ポッチャマは普通のポケモンとは違う気がする。

それはボクだけじゃなく、リオルやほかの探検隊のポケモンとも。

何がって、でもなんだろう? 雰囲気?

これがカリスマってやつなのかなー?
ともかく、ボクはふたりのジャマしないようにしないと。





「ふぅ焦ったなぁ」

「この階でラストだけど、次に持ち越しみたいだね」


こうは言うけど、ふたりは特に難なくダンジョンのポケモン達を倒してった。そりゃもう、ばったばったとね。

しかもボクを守りながら。
うーん、お見事。


「ありがとうございますー。しかし、おふたりのコンビはすごいですねー」

「まぁ、私たちパートナーだから」

「僕らパートナーだからね!」


まさか返事まで一緒とはねー。
どこまで仲がいいんだろう?

あっ、と気づいたふたりは一緒に笑ってる。

ポッチャマってああいう感じに笑うんだ。

ボクは、ますますふたりの馴れ初めが気になってきちゃった。
このふたりは一体どうして出会って探検隊を組んだのかな?

気になるなー。

次の6合目、そこの休憩所で聞いちゃおうかな?


─そらのいただき6合目─




あっという間に6合目だ。

この6合目へ来るお客さんは、観光より探検や頂上までの登山目的が多いんだよね。

ボクがいつもお仕事に来るのはこの6合目まで。
それから上へは、危険だから行かないように言われているんだよね。

だから、次からはほとんど知らない世界だ。

今日は天気がいいみたいで良かったけど、時々このあたりはきりがふかくって危ない。
それが少し、不安かな。

うーん。良くないもやもや気分はきりばらいしよー。

さ、リオルにさっきのこと聞いてみようっと。


「僕たちがどうして出会ったか、かぁ。どこからどこまで話していいんだろう?」


ボクのまたまた唐突な質問に、リオルはうーんとうなりながらも考えてくれてる。


「んーじゃあ、おふたりは非常に仲良しみたいですけどー。それはギルドで意気投合してー、なんですー?」


ボクがこれまで話したことのある探検隊さん。その中にはギルドでチームを組んだからそれからずっと、なーんて理由も聞いたっけ。


「あ、ううんそれは違うんだ」

「むしろ、僕がポッチャマをギルドに誘って探検隊を結成したんだよ」

「なるほどー」


ふたりはギルドよりも前からの仲なんだ。

幼なじみとかかなー?
それともポッチャマのカリスマに一目惚れして探検隊にスカウト、だったりー?


「じゃあもっと古い付き合いなんですねー」

「そうだね、うーん。その僕らの出会いってのはさ、ポッチャマの事情があるから、僕からはあんまり言えないかな」


リオルが小さくごめんね、と手を合わせた。


「あ、いえいえ。こちらこそすみませんですー」


とっても気になるけど、プライベートなことだし、あんまり踏み込み過ぎちゃいけないよね。
ちょっと、ボクも知りたがりの度が過ぎたかも知れない。


「私なら平気だよ、リオル」

「ポッチャマ、いいの?」

「それより、たまには私からも話させてよ」


これまでずっと、雑談には深く入らなかったポッチャマが切り出してきた。

これは、いつにも増して面白い話が聞けそうな予感ー。


「私とリオルの出会いは、浜辺に私が倒れていたところからだったよ」

「その時、私は記憶をほとんど失くしていてね」


記憶って、ええっ!?

それって記憶喪失ってヤツだよね?
ポッチャマに何があったんだろう?
なんだかすごく大事件の予感がするよー。


「それをリオルが助けてくれてね。それで……」

「わけも分からないままリオルにギルドに連れていかれて、試験でダンジョンに入って、ギルドに入門して。気がつくと探検隊になっていたんだ」

「作り話みたいだけど、これは全部本当の話」


話し終えたポッチャマがひと息ついた。

気がつくと探検隊に、ってそんなのアリ?
色々気になって仕方がないけど、それは深入りし過ぎかな。

それにしても夢みたいな話だなぁ。
でも、ポッチャマが本当と言うんだからそうなんだろうねー。


「その、記憶って今でも……?」


ポッチャマの話には驚いた。
けどそれよりも心配になっちゃった。
探検隊してて大丈夫なのかな?


「まあうん。いくつかアテは探したし、失くす前のことも分かったけれど。肝心の記憶は戻らないままだね」

「それって、その、とっても苦しくないですか?」


自分のことが全くわからない、それってすごく不安になるよね……?
きっとボクなら、すぐさま自分の家族や故郷を探すだろうなー。

それも結局わからないまま。ポッチャマのことを思うとなんだか身が縮むようだよー。


「いいや? 全く未練がないわけでもないけどさ」


相変わらず、クールに答えてくれるポッチャマ。さっぱりしてるなぁ。
でもこの時は微笑んだ。


「私は今の探検隊生活も充実してるから、これでいいかなって思ってるよ」

「そうなんですねー。いやはや、素敵なお話ありがとうございますー」


そうか、ポッチャマは今を生きているんだ。
きっと彼なら大丈夫だね。
ひと安心、ひと安心。

彼……?
あれ、ポッチャマってオス? メス?
そういえば知らない気がする。まあいいか。

それより、さっきから隣のリオルがずーっと深刻そうな顔してだんまりだったからねー。


「そ、そっか。良かった……!」

「ありがとうポッチャマ! これからも僕のパートナーとしてよろしくね!」


リオルって、すぐに涙が出ちゃうタイプ?
これは感激の涙みたいだけど。

けれど、こうして信頼し合える仲間? そんな存在がいるのは純粋に羨ましいやー。


「うん、こちらこそ」


ふたりは固い握手を交わしてる。

仲間かぁ。

ボクには、友人や同僚はいても仲間はいないかも。なーんて、寂しいこと考えてないで、そらのおくりものをゲットしなくっちゃ。

まだ見ぬ7合目目指して先に進もう。
Let's go フワライドだよー。




─そらのいただき7合目への道 1F ─




「さむーい」


空気がさっきまでとは全く違う。
ほんの少し、6合目から移動してきただけなのに。

草木もほとんど見えなくなっちゃった。周りにあるのはゴツゴツした岩、岩、岩……岩しかないや。

これが、ボクの知らなかったそらのいただきの本当の姿なんだ。

それも、まだ一部分の。もしこのまま頂上まで行くのなら。


「くしゅんっ」


あー。やっぱり寒いのはいやだなぁ。


「大丈夫? 寒いなら動いていれば温まるよ」


リオルはパンチングポーズでほっほっと白い息を出してる。
かくとうタイプらしいなぁ。


「フワライドは依頼主なんだから、それじゃあ護衛に困るでしょ」

「あ、そうだね」


ポッチャマのツッコミがぴしゃりとはいった。こうかはばつぐんだ?
とりあえずふたりの相性が抜群なのはもうよく分かったけどねー。


─そらのいただき7合目への道 2F ─




ボクらはまたフロアをぐるぐると探索中。
道具はいつもいくつか見つかるけど、どれも目的のものじゃないみたい。

このまま頂上まで登るのも悪くは無いかなぁ。なんて考えていたら。


「フワライドさん、危ない!」


リオルが突然飛び込んできた。
ボクは驚いて後ろにふわーっと飛んじゃった。

リオルがいた方を見ると、敵はいない?

あ、いや……いる。
壁の上だ。


「攻撃が届かない……!」


リオルは壁に空振り攻撃を続けている。


「近づくと逃げるね。厄介だ、たまを使うか」


壁越しではあのふたりでも為す術がないらしい。
あの抜け殻みたいなポケモン、確か……。

ボクなら何とか出来るかもしれない。


「あ、ちょっと待ってくださいー」

「フワライド?」


すーっと息を吸い込んで、カラダの中心にチカラを込めて。


「ふーっ」


カラダの底から、生暖かい風を思い切り吐き出した。

ポケモンは致命的なダメージを受けたみたいで、壁の奥にスっと消えてった。

あやしいかぜ。
やっぱり、こうかはばつぐんみたいだね。

ふぅ。良かったぁ。


「すごい! 倒したよ!」

「助かった。ありがとうフワライド」


ふたりから肩をポンポンと叩かれた。
これはよくやったのポンポンだよね。

うん、ボクも嬉しいな。

やっと自分で、探検してるって実感が持てたんだもの。

あとは、そらのおくりものをボクの手で持ち帰るだけなんだけど。

そのあとひとつが、なんだか遠いよねぇ。まだまだ頑張らなくっちゃ。


─そらのいただき7合目─




あっという間に、見知らぬ7合目に到着ー。
いつもより、ちょっとだけ高くて寒くて見心地いい景色。
これも日記に書かないとねー。


「おっ? お前さん、ここのゴンドラのフワライドかい?」

「あ、どうもータマタマさん。いつもご利用ありがとうございますー」


彼はボクら空のゴンドラの常連客さん。
登山が趣味なんだーって前に聞いたっけ。


「おうよ、でそこのふたりは探検隊か? まさかお前、探検隊に入ってたのか!? 知らなかったぜ」

「いえいえー、ボクはただのゴンドラですー。彼らはボクを護衛してくれてるんですよ」

「なぁるほどな。だからいつも6合目までのお前がここにいるのか」

「そうなんですー」


リオルとポッチャマが小さく挨拶するとうんうん、と6体? がそれぞれ違う顔で納得したみたい。


「ま、頂上まではあと一息だからな。事情は知らんが頑張れよ!」


またエールをもらっちゃった。
ありがとうございますー、とふんわり手を振りながらボクから彼が小さくなっていく。

ボクは探検隊さんじゃあないけど、探検は真面目に頑張ってくるよー。


─そらのいただき8合目への道 3F ─




「うわっ!?」


あのクールなポッチャマがびっくりした声を上げて飛び上がった。
そんな声出すとこっちまでびっくりどっきりだよー。

もしかして、またわなってやつー?


「ポッチャマ!? わなでも踏んだ?」

「いや違うよ。これは、安全な方」


安全なわなー?
ポッチャマがいた方を見ると真っ暗な闇がある。

あれ、これって落とし穴?


「しかも私たちにとって嬉しい方だ」

「あっ、これって!」


ポッチャマは嬉しそうに頷いてる。
うーん、真っ暗な空間しか見えないけどなぁ。ふたりには違うものが見えてるのかなー?


「フワライド、ちょっと寄り道するから付いてきてくれない?」

「寄り道、とりあえず喜んでー!」


ポッチャマに手を引かれて真っ暗闇に入る。
不思議な、良い? 落とし穴。
とにかく気になって仕方がないや。


─ひみつのへや─




「ふわわー。すごいですー」


中にはぽつんと小部屋があった。
で、その周りにはキンキラキンに輝く宝箱が置かれてる。
それもたくさん、持ちきれないくらいに。


「やっぱり! やったねポッチャマ、お宝だよ!」


ふたりは、今までの頼れる探検隊さんから、今ははしゃぐ子供みたいに周りの宝箱を集めてる。

見ているだけでも、嬉しいのと楽しいのが伝わってくるよー。


「中身が楽しみですねー」

「うん! そのためにも早くそらのおくりものを見つけないとね!」

「ほんと、そうですねー」


探検隊さんが探検隊さん、って感じにしているところが見れちゃった。

すごいや。こんなボクの身近なダンジョンにもたくさんのお宝が眠っているなんて。

そしてそれを自分で探しに行くのって、とっても楽しそうだなー。


─そらのいただき8合目への道 4F ─




探検もそこそこ長くなってきたっていうのに、ふたりはまだまだ元気だ。

むしろさっきのことでワクワクが止まらないって感じ。宝箱の中身をボクが知れないのは残念だけれども。

果てしない不思議のダンジョンを何度も挑戦出来るのって、きっとああいうお宝を見つけた時の感動がとっても大きいからなんだろうね。

お宝だけじゃない。
新しい大陸を発見したり、隠された遺跡を見つけたり。探検には大変なバトルや準備以上にたくさんのものが手に入る可能性があるんだ。

前のリオルの言葉がちょっとだけ分かったような気がするよー。

あ、ボクもまだまだ元気だよー。

おなかは空くこともあるけど、それよりもボクの知らないことがたくさん見たり聞いたり。ああ、もう今から日記に書くのが楽しみだよー。


─そらのいただき8合目─




ボクがお宝発見の感激にひたって、探検のロマンについてウンウンと考えているうちに8合目に到着したみたい。

ここまで来たのはもちろん初めて。
8合目ってもっと高いから景色のいいところなのかと思っていたけれど、あたりはふかーいきりで囲まれていて全然見えない。

おまけに6合目よりも暗くて、険しい。
もう草木の緑なんて影も形もないや。

この先、ダンジョンのポケモンはもっと手強くなる。
ボクは、きちんと目的を達成出来るかなー?

ううん、暗い考えは良くないよね。

きっと見つかるよ。
ふたりも一緒なんだもの……ってあれ、ふたりが誰かと話してる。誰だろう?


「デンリュウさん、久しぶり!」

「やぁ、元気そうだね。今日も頂上までかい?」


あのデンリュウさんってポケモンは話に聞いたことがあるなー。
仕事仲間のフワライド達が「団長」って呼んでたっけ。

団長ってギルドマスターってこと?
だったらそれってすごい探検家さんだよね。

あのふたりも知り合いなんだとしたら、ボクって思っていたよりずっとスゴーイポケモンさん達に出会ったのかも。

デンリュウさんは、焚き火に火をくみながら、ふたりと探検隊トークをしているみたい。

残念だけどボクは入れそうにないなぁー。

面白い話が聞けるチャンスだったけど、なんでもかんでも首を突っ込むのも良くないよね。
ききゅうポケモンのボクに首はないんだけどね。


─そらのいただき9合目への道 2F ─




ボク達はまたフロアをぐるぐると探索していた……んだけどお馴染みの顔に足を止めた。


「いらっしゃい!」


またお店だ。
さっきのカクレオンさんとは別なのかな。それともボク達に付いてきて……?

いやそんなわけ、ないよね。
商品もさっきとは違うし。
高そうな宝石にどこかの山の岩に水色の箱……水色の、あれ?


「あれってもしかして?」


ボクは隣にいたポッチャマの肩をついついパタパタと叩いて指差した。
ポッチャマはちらっとそれを見ると、首を横に振った。


「あれは、れんけつばこっていう道具でそらのおくりものではないんだ」

「なぁんだ、違うんですねー」


ちょっとがっかりだけど、よくよく思い出したら、ポッチャマはダンジョンに落ちてるものって言ってた。

また根気よく探すしかないみたいだねー。
うん、まだ山頂まではあるし、気を切り替えていこう。


─そらのいただき9合目への道 3F ─




やっぱり思っていた通り、この辺りはボクには厳しいダンジョンだ。


「ふわわっ!」

「フワライド、大丈夫?」

「あ、はいー。なんとか助かりましたー」


こうして気を抜いてると、すぐに近づいて必殺の一撃を食らわそうとくるんだもの。

ボク、食べることは好きだけど痛いのは嫌いだよー。

早く、見つからないかな。

そうして早くこのダンジョンを脱出して、うん? いや、そうか……ここまで来たら頂上は目前なんだ。

ボクにひとつ欲張りな考えが浮かんだ。

見てみたい。

ボクがまだ見たことない、そらのいただきの絶景を。


─そらのいただき9合目─




「うーん。ここまで来ても見つからないか」

「私たちはひたすら探すしかないよ」


肩をならしながら、ふたりはあんまり良くない現状の話をしていた。
さすがのふたりも、少し不安が顔に出ているみたいだった。

そうだよね。依頼の達成が出来ないと困るのはふたりも同じだもの。


「あのー。ちょっとお願いしたいことがあるんです」


ボクはそれとなくひかえめに、ふたりに割って入る。

まだ、最初の目的すら達成出来ていないのに。
欲張りかもしれない。それでも、どうしてもふたりに頼みたかったんだ。

少し大きく息を吸って、話した。


「ボクを、この頂上まで連れて行ってもらえませんか?」


ふたりが顔を合わせてから、ボクを見た。


「それは、このそらのおくりものを探す依頼とは別に、ということ?」

「はい、そうですー」

「悪いけど、そういう契約じゃないんだ」

「まぁまぁ、ポッチャマ。ちょっと話を聞いてみようよ」


さばさばとしたポッチャマをリオルが止めてくれた。
良かった。とりあえず聞いてもらえるみたい。

ボクはまた少し大きく息を吸って話し出す。


「おふたりと探検するうちに、色んなそらのいただきを見れたんです。それがボクはとても楽しくて、嬉しくて。だから本当のそらのいただきを知りたくなってしまって」

「もちろん、その分の報酬は上乗せします。これはただのボクのわがままですから、おふたりに任せます」


話し終わってふぅ、とひと息。
とってもあいまいでわがままだけれど、それでもボクの思ったこと、素直に話せたと思う。


「どうする?」


リオルとポッチャマはお互いに顔を合わせてちょっと困った顔してる。

少し間が空いてポッチャマがふぅ、とひと息ついてから話し出した。


「じゃあ、だいだいグミとあおいグミを貰える?」


「あ、はい。用意出来ますー。あの、じゃあ引き受けてもらえるということですかねー?」


ボクはいけないことをした時みたいにおそるおそるたずねる。


「うん、オッケーだよ頂上まではすぐだしね!」

「あんまりこういうことは良くないと私は思う。けどそこまで言われたら、ね」


ふたりともそれぞれの個性の笑顔だった。
ふたつの笑顔を見て、ボクも安心してなんだか顔がゆるんじゃう。


「ありがとうございますー!」


そらのいただき、9合目にして新しい目的が出来ちゃった。

ここまでふたりに良くしてもらったんだもの、絶対にそらのおくりものをゲットして頂上まで登るんだー!


─そらのいただき 頂上への道 1F ─




ありとあらゆる部屋を探索して、そらのおくりものを探すボク達。

だけど、またはたりとポッチャマが足を止めた。

それになんだか心配そうな顔。この先に何があるんだろう?

またわなかな?
それとももっと危険な何か?


「まずい。この先はモンスターハウスだ」

「分かった、僕に指示をお願い!」


ポッチャマはリオルに向って静かにうん、とうなずいた。


「フワライド、キミは最後尾で待機していて」

「は、はいー」


モンスターハウスって何だろう。とにかくここはふたりに任せよう。
ボクはサッとリオルの後に隠れた。


ポッチャマが足を進めたその瞬間、それは突然起こった。

どこにいたのかは全然わからない。
でもダンジョンのポケモン達が次から次へと現れて、ポッチャマ達を囲むのをボクはリオルの背中越しに見ていたんだ。


「……このっ!」


ポッチャマはバックから取り出した道具、あれはたま? を地面に叩きつける。

と、その直後。

ボクはびっくりして自分までカチコチになるところだった。


「これで良し」

「うん、あとはわなに気をつけないとね」


何が起こったと思う?

さっきまでわらわらとふたりを囲んでいたダンジョンのポケモンたち。
それが突然、みんな凍ったみたいに動かなくなったんだ。

一体全体なんで?
たぶん、あのポッチャマが持っていたたまの効果なんだろうなぁ。

で、今ふたりはそんなカチコチのポケモンたちをばったばったと倒してるって感じー。


「フワライドさーん、もう平気だよー!」


あ、それももう終わったみたい。
さすがに仕事が早いなー。


「はいー、今行きますー」


うーん。展開の流れが早くて、ボクはポカーンだなぁ。
でもそんなにピンチにならなくて良かった、良かった。


─そらのいただき頂上への道 2F ─




さっきのモンスターハウスにはたくさんのポケモンがいた代わりに、たくさんの道具も落ちてた。

ついでにわなもね。

でもボクたちが探しているそらのおくりものは無かった。

なので、ボクたちはまたフロアの中を目を凝らしながら、ぐるぐるしているわけなんだ。
そろそろこのぐるぐるにも飽きてきそう。

このままだと頂上に着いてしまう。

頂上に行けるのは嬉しいけどねー。
でも、肝心のそらのおくりものが見つからないんじゃまたここに来ることになっちゃう。

それはあんまりうれしくはないなぁ。

こんなに探しても見つからないなんて、ボクの感謝の気持ちが足りないからだったらどうしよう。

ああ、神さま、お父さん、お母さん、仕事のみんな。いつもありがとう。
言葉には詰められないくらいいつも本当にありがとう。

このボクの唐突な感謝、お空に届いてくれたらいいんだけど。
現実はそんなに甘くないかなぁ。

それでもボクはまだ信じてるよー。
次のフロアにはありますように。


─そらのいただき頂上への道 3F ─




ボクたちの先頭を歩くポッチャマ。
彼の言葉には何度も心揺さぶられたけど、今回は飛びっきりだった。


「フワライド、見つけたよ」


振り返ってから、ボクの目を真っ直ぐに見たポッチャマが静かに言った。


「ふわわっ! ほ、本当ですかー!」


やった。やっと、ボクの願いが天に届いたんだ。
諦めなくてほんっとうに良かった。

神さま、実は本当にいるのかもね。
もう一度だけど、ありがとう。


「ただ」


そんなポッチャマの顔は今まででも一番険しいかもしれない。


「少し厄介な位置にある」


真っ直ぐな青い目が鋭くなってある方向に向いた。
ボクもその方を見てみる。

見ると、本当だ! 例の空色の四角い箱がある!

けど、喜ぶ間もなくその隣にすぐ目がいってしまった。

大きな拳の、いかにもバトルが得意ですよーって感じのポケモンさんが寝ている。
そのプレッシャーが身体の中に吸い込まれてくるみたいで、なんだか心地が悪い。


「幸いにも隣接しているのはあの1体だけだ、私が行ってくるよ」


ふぅ、とひと息ついたポッチャマ。
相変わらずあの青い目は鋭いままだ。

このまま、ポッチャマは単身で部屋に入って、そらのおくりものを取りに行くつもりなんだろうな。

でも、そうしたらボクは。


「分かった、フワライドさんは僕に任せ……」

「あの」


ボクはあえてふたりの作戦会議を遮った。
そして、やっぱりまた大きく息を吸い込む。


「その役、ボクにやらせてもらえませんかー?」

「危険だし、依頼が失敗する可能性があるのも知ってますー。でも、ボクがあの子に本当の感謝を込めて贈るためには、ボクが取りに行かないと意味がないんです」

「だから、どうかやらせてもらえませんかー?」


ボクは目をぎゅっとつむって手を合わせた。

これで何度めかなぁ。
ふたりには本当にわがまま言ってばっかりだ。

でもこれだけは譲りたくない。
これだけは、ボクがやらなきゃダメなんだから。

恐る恐る、ボクは目を見開いた。

そこにいたのは、いつもの柔らかい笑顔のリオルと、やれやれって感じにため息をつくポッチャマだった。


「分かったよ。ただし、きちんと持ち帰って来てね」

「僕らもサポートするからね! 頑張ってフワライドさん!」

「はーい! ありがとうございますー。頑張りますー!」


いよいよ、ボクの最初で最後? の戦いが始まる。

気を引き締めなくっちゃね。
ボクはパンパン、と自分のほおを叩いて目を見開いた。


ボクが、あのそらのおくりものを手に入れるには。

あの寝ている大きなこぶしのポケモンを倒す、なんて無茶なことは出来ないから、前と同じ作戦で行こう。

壁の上空を飛び、そのお隣からこっそりと持ち去り帰ってくる。

そんなちょっとドロボーじみた作戦。
探検隊さんでも、バトルが得意でもないボクに可能性があるならいちばんだと思う。

すーっと、音をたてないように深呼吸をした。
そうしたら、ふしゅるるる、と少しずつ緊張と空気が一緒に抜けていった。

よし、心の準備はオッケーかな。

ボクはふたりに「大丈夫です」のアイコンタクトをして、体を風にあずけて飛び立った。

ゆっくり、ゆっくり。
ふわり、ふわふわと風を感じてボクは今部屋の周りを飛んでいる。

周りにダンジョンのポケモンは、いないみたい。

良かった。
大丈夫だってふたりに目配せをしなきゃ。

ボクの目に映るのは、心配そうなリオルと鋭い目をしたポッチャマ。

ふたりはどんどん小さくなっていく。

大丈夫、上手くやれるよ。
そうウインクしたボクはふたりに背を向けた。

そして、空色の小さな箱に目を向ける。

こっそり、気付かれないように。
ゆっくりと、囲まれないように。

ボクは箱に近づいていく。

おおよそ部屋の壁の周りの半分を飛んできたくらい。

長い時間探してきた、あのそらのおくりものはようやくボクの目に見えてきた。

わぁ、なんて、爽やかな空色なんだろう。
これは本当にお空から降ってきたものなのかもしれない。

なんて、感動している場合じゃないや。ここからが肝心なんだから。

そらのおくりものは壁越しにキラキラと輝いている。
その隣で、大きなこぶしのポケモンさんの寝息がすーすーと聞こえてくる。

もうほとんど間近まで下りてきたんだから後は。一瞬降り立って、あの箱を持ってまた飛ぶ。

たったそれだけ。
たたかう必要なんてない。

なのに、とってもドキドキする。
あのポケモンの鋭いプレッシャーが、ボクのからだをプスプスと突き刺しているみたいだ。

ボクは、いつの間にかシェイミさんを思い浮かべていた。

日記をくれた、優しい笑顔が素敵なシェイミさん。
そうだ、シェイミさんにお礼がしたくってボクはここまで来たんだ。

うん、大丈夫。上手くいくよ……!

意を決して、ボクは空色の箱の上に降り立った。

ふわっと地面に着地。
そして焦らずゆっくりと、でも急いで箱を抱きしめる。

本当にあった、良かったぁ。
あとはこのまま帰るだけだ。

またふわりと上へと飛び立とうとした。


「ふわっ!?」


けれど、そうはさせてくれないみたい。

大きなこぶしを持ったポケモンはボクとばっちり目が合っていた。

しかもパンチングポーズまでとって。
やる気満々って感じに。

まずい。とってもまずい。
たたかう? ふたりに助けてもらう?
どちらにせよこのそらのおくりものは持って帰らないといけな……。

バシュッ!!!

それはボクが無理くりに頭を回転させていたときだった。
凍てつくような冷気を纏ったこぶしが、間髪なくボクを捉えた。

大きなこぶしから繰り出された、身も凍るようなパンチは完全にボクを捉えた……と思った。

ボクも、そのポケモンも。

凍てつくこぶしは、すんでのところでボクをかすって外れた。
予想外だったみたいで、相手のポケモンはポカーンとしてる。ボクもだけど。

なんで? あれっ。

そらのおくりものと同じくらいに、ちんまりとしたからだを見る。

ボクはいつの間にか「ちいさくなる」を使っていたみたい。

そっか。この頂上付近、寒いからとっさにいつもの癖でわざを使ってしまったんだ。

っていけないいけない。
また攻撃される前に、早くこれを持って壁上に飛ばないと!

ボクは自分と同じくらいに大きく、重くなった空色の箱を持って再び浮上しようとする。

早く。
早く空へ行かないと。

ちら、とあのポケモンがまたこぶしを飛ばそうと構えを取っているのが見えた。

怖い。

さっきの凍るようなパンチはとっても怖い。ボクは寒いのは苦手だし、バトルなんてほとんどしたことない。

でも、あれを喰らうよりも、このままボクが倒れて探検が失敗する方が怖い!

箱をぎゅっと抱きしめさぁ、空へ!
飛ぶんだ!

あの凍てつくこぶしは再びボクに迫ってきた。

けれど、ボクに届くことはなかった。

それはボクがそれより早く空へと逃れたから。
ともうひとつ、ポッチャマの攻撃であのポケモンが倒れたから。

本当に一瞬だった。


「はぁ。ヒヤリとしたよ」


小さくなったボクからは、遠い空の下でも大きなポッチャマが大きな手で汗を拭う動きが見える。


「もう大丈夫だよ。よくやった」

「やったねフワライドさん! あとは頂上まで登るだけだよ!」


ふたりのそれぞれの労いの言葉が届く頃には、もうボクのからだも元通りになっていた。

ボクは、やり遂げたんだ。
このボク自身の手でそらのおくりものを手に入れたんだ!


─そらのいただき頂上への道 5F ─




あの時の一瞬の駆け引き。
あのままボクが倒れてしまっていたら?
どうなっていただろうなー。

さっきのことを考えながらボクは手の中にある空色の箱を見つめる。

爽やかで可愛らしい、でもキレイな箱。見ていると思わず、にまにましちゃう。
これならプレゼントにはぴったりだね。


「それ、さっきからずっと抱きしめてるけど、そんなに嬉しかったんだね」

「そりゃあもう! 感動と喜びの雨あられこなゆきですよー」

「ふふっ、なにそれ」

「それじゃあ次は嵐かな。もうすぐ頂上だよ」


ポッチャマの言う先には、もう何度もくぐってきたあの階段がある。

あの先に、ボクがまだ知らない本当のそらのいただきが広がっているんだ。


「見たい!」


お客さんや仕事のみんながいつも話す、そらのいただきの頂上。

その素晴らしい眺めを!

ふたりよりも先に階段を勢いよく駆け抜け、たまらずダンジョンを飛び出した。


─そらのいただき 頂上─




「ふわわー。ここがそらのいただき。本当の、いただき」


今までの暗くて、寒くて、ゴツゴツした岩場はどこに行ったのだろう?

そこには、今までとは全く違う、鮮やかな草木と可愛らしく美しい花々が、頂上を埋めつくすみたいに広がっていた。

これは、シェイミさんの言っていたグラシデアの花?

すーっと息を吸い込んでみた。ボクの体内にふわーっと広がる新鮮な緑の香り。そして、暖かくて優しい、グラシデアの花の香り。

そういえばシェイミさんと同じ香りだ。

頂上から見るそらのいただきは、これまたすごい。
見下ろすと点々と中継所が見える。
ボクたちあれを全部登って来たんだよね。

いつものお仕事のあとに食べるむらさきグミはとーっても美味しいけど、ここで食べたらもっと美味しいのかも。


「ふう。いつ来てもいい眺めだよねー!」

「そうだね」


ふたりは依頼の達成感とお宝を見つけて満足、って感じにのびのびと景色を楽しんでいる。

たしかに、緑がキレイで星もよく見えて、いい景色ー。
ボクもとっても満足。

で、思いついたんだ。
ボクは多分もっといい景色をふたりに見せてあげられるってね。


「あの、良ければ乗っていきませんかー?」

「え?」


いつもの空のゴンドラでのお仕事。

まさかここで役に立つとはねー。
よし、お仕事だし張り切っちゃうぞー!


「うわわわ、 た、高ーい!」

「風に飛ばされないでよ?」


ふたりを乗せてボクは頂上から浮上した。


「大丈夫ですー。しっかり握っててくださいねー」


ふたりを乗せて、頂上の周りの景色を見れるようにゆっくり、たまにふわりと風に流されつつ、旋回するように飛ぶ。

いつもはただの運び屋さんだけど、今回は観光ゴンドラだねー。


「この頂上からの眺め、とっても素敵です。おふたりに依頼して良かったですー」

「だから、お世話になったふたりには特等席で見てほしかったんですー」


ボクのわがまま、たくさん聞いてもらっちゃったからね。
ふたりにはもっと素敵なそらのいただきを見てもらいたかったんだ。


「すごい、すごいよ! ポッチャマ、見てほら星があんなに近くに!」


リオルは子供みたいに目をキラキラさせて、たくさんの星を指差してる。


「本当だね」


ポッチャマの目は静かに空に集中している。
でも、それはあのダンジョンで見た鋭いものとは違うみたい。


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ふたりとも、あのたくましく勇敢な探検隊さんとは思わない顔をしている。
それは、何だかボクがふたりから引き出した顔って感じがしてとっても嬉しい。


「本当に、いい眺めだ。ありがとうフワライド」

「僕からもありがとう!」


ふわり、とゆっくり着地。
お客さんを酔わせちゃいけないからね。


「いいえー。おふたりに見てもらえて良かったですー」


フワライドの空中遊覧はこれにて終わり。
そして、長いようで短かったこの冒険も。





◇月〇日 はれ

次の日、ボクはさっそくプクリンのギルドにお礼に行ったんだ。
もちろん、報酬の2500ポケとグミ3種を持ってね。

ギルドに通してもらうと、仕切り役してますよーって感じの鳥ポケモンさんに案内された。

それにしても、ギルドって色んなポケモンさんがいるんだねー。

うわさの親方さまには会えなかったけど、色んな探検家さんがいたり、怪しげなお店まで中にあっておかげでボクの興味は尽きない尽きない。

みんなここで探検を学んで、探検隊さんになるんだなぁ。


「そらのおくりものを見つけてくれてありがとうございますー、これはお礼の品ですー」


ぺこりと頭を下げてあの鳥ポケモンさんに報酬を渡す。


「これはこれは、追加分まで! よろしければ今後とも我々のギルドをごひいきに」

「全然僕らの取り分無いくせにー」

「だまらっしゃい! オマエたちをここまで育てたのは、我々ギルドのみんなの苦労があってですねぇ!」


あの時に、リオルが何かそのポケモンさんと揉めてたけど、例のガッツリ搾り取られてるってヤツかなー?

ともかくこれで依頼はおしまい。

ふたりともお別れ。

のはずだったんだけど。


「あ、あのー」

「はいー! 何でございましょうー!?」


鳥ポケモンさんの応答を突き破る大きな声でボクは答えた。


「そのー、ボクを探検隊の仲間にしてください!」


わいわいにぎやかなギルド内が急に静まった。
その中心にいるボクは何だか気分が悪くなりそうだったよー。


「どう、ポッチャマ?」

「そうだね」


リオルとポッチャマはお互いに向き合っている。

さすがに無謀だったかなー。
ボク、あの時は上手くいったけどバトルはからっきしだもん。

からだは小さくても威厳たっぷりのポッチャマ。
あの鋭く青い瞳がつかつかと歩いてきて真っ直ぐにボクを見上げる。

うぅ、緊張するなぁ。


「歓迎するよ、フワライド」


ポッチャマは優しい顔をしていた。

いつの間にかリオルも駆け寄ってきていて、ボクをポンと叩いた。


「え、それじゃあ」

「今日から僕らは同じ探検隊ってことだよ! これからよろしくねフワライド!」

「そういうこと、よろしくね」


つまり、ふたりに認めてもらえた?

やったー!
またこのふたりと探検が出来るんだー!


「探検隊……よ、よろしくお願いしますですー」

「あはは、もう敬語はやめてよ仲間なんだからさ」

「仲間。そっか」

「ボク、これからは探検隊にもなりますー。リオル、ポッチャマ、よろしくねー」


ふたりとぎゅっと固い握手をした。
ギルドのみんなにもわいわいと歓迎の言葉をもらっちゃった。

そう、ボクは探検隊さんになっちゃったんです。





「まあ! それで探検隊に?」

「そうなんですー。でもまだこうしてゴンドラのお仕事もしてますよー」

「ふたつもお仕事を持つなんて、フワライドさんすごいです! もう新しい探検には行かれたのですか?」

「まだですー。用がある時には、ギルドのチリーンさんが教えてくれるみたい」

「そうなのですね。でしたら今度はまた違う探検のお話を聞きたいです」

「はいーぜひぜひ」


探検隊、一体どんな世界が広がっているんだろう。
想像するだけでも夢が広がりまくりだよー。また眠れなくなっちゃう。


「あのーシェイミさん」


ボクはそそくさと後ろ手をゴソゴソして、例のものを取り出した。
ボクのおみやげ話をずっと聞いててくれた、そして、なんてったって日記をくれたシェイミさんがこっちを見た。


「遅れてすみませんー。これがそのお礼、そらのおくりものです」


冒険の成果、キレイな空色の箱をシェイミさんに手渡す。


「まあ! わざわざありがとうございます」


シェイミさんがぱあっと明るい顔で笑った。頂上で見た大輪のグラシデアの花みたいだなーとボクは考えていた。


「中身が楽しみです。 日記の方はどうです?」

「それが、あの日のことを書きすぎてもうすぐ無くなりそうですー」


逐一、思ったことをそのまんま素直に書き込んでたからねー。
あれは日記帳というより、メモ帳って感じの使い方だね。


「でしたらまた差し上げますよ」


にっこりとシェイミさんは笑っていた。


「それは、いいんですかー? ありがとうございますー」

「そうしたら、またそらのおくりものをいただけるのでしょうか」

「そうなりますねー。あ、じゃあ次はボクひとりで行ってみようかな」

「ふふ、それは素敵な考えですね」


ボクはひたすら嬉しくて笑っていた。
そしたらシェイミさんも、柔らかく笑って、ボク達はしばらく笑いあっていた。

平和な時間だったなぁー。





〇月△日 はれ

日記くん、本当は毎日少しずつ書くものなのに、しばらくこんな感じでごめんねー。

あの日に体験したこと。
そこからボクの生き方が、ちょっぴりだけど変わり始めた気がするんだ。

だからそんな自分を見ていくためにも、日記はこれからも続けていこうと思うんだ。

これからは、お仕事日記から探検日記にもなるけど、これからもよろしくねー!日記くん!



─END─

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