泣かないあなたを守らせて

しおりが挟まっています。続きから読む場合はクリックしてください
 
作者:ドリームズ
ログインするとお気に入り登録や積読登録ができます
読了時間目安:9分

この作品には残酷表現があります。苦手な方は注意してください

俺はポッチャマのシズク。高校に通っているごく普通の男子だ。俺は昔から、人付き合いが苦手だった。けれど、彼女は違った。
現在、12時40分。昼休みの真っ最中だ。他の男子は、購買部に走り、女子達は机をくっ付け、女子トークを楽しみながら、弁当を食べている。そんな賑やかな教室から出て、俺はある場所へ向かう。目指すは、倉庫と化した空き教室だ。そこで、俺は弁当を食べる。多分彼女も来ているであろう。俺は空き教室のドアを開ける。

「あっ、シズク!」

そこには、1人のプラスルがいた。彼女はミカ。同じクラスの女子だ。彼女は、教室の窓際に座っていた。俺は、彼女の隣に腰掛けると、弁当を出し、食べ始める。弁当を開けると、そこにあったある物を見て、俺は顔をしかめた。それを見て、彼女が問う。

「本当にシズクって、トマト嫌いだよね。」

そう。俺はトマトが嫌いだ。弁当にはプチトマトが2つ程、入っている。多分、母が彩りかバランスを考えて入れたのだろう。
トマトを噛んだ瞬間に鳴る音が、俺は嫌いだ。何だか、体が潰れる時のような音がするのが嫌いなのだ。聞くと、当時の嫌な記憶が蘇ってくる。後少しのところで掴めなかった手。
この話は止めよう。吐き気がする。しかし、トマトはちゃんと食べた。

「シズクって、結構真面目だよね。」クスクス
「結構は余計だ。」

彼女は笑いながら言う。それはそうと、彼女はいつも白色のカーディガンを来ている。彼女いわく、これは「誰の色にも染まらない」という、彼女の意思を表しているそうだ。
思えば、彼女との出会いは、本当に些細な事だった。
高校に入ってすぐの頃、俺はこの空き教室を見つけた。幸い、誰も近づかないので、1人になりたい俺には丁度よかった。次の日の昼休み、俺は早速空き教室に行った。そこに彼女はいたのだ。窓から空をぼぉーっと見つめていた。彼女は俺の気配に気づいたのか、振り返った。そこからは、仲良くなるのは早かった。趣味なども思ったより合っていて、何よりも、俺と同じように、人付き合いが苦手というところが救いだった。


















今日も同じように、教室へと向かう。しかし、教室へと近づくにつれて、酸っぱい匂いがしているのに気づく。それは間違いなく空き教室からしている。中からは、咳き込むような音が聞こえてくる。駄目だ。この扉を開けては駄目だ!そう心の中で思っても、結局好奇心の方が勝ってしまった。俺は教室のドアを開ける。その瞬間、異臭が鼻をついた。彼女は激しく嘔吐いていた。俺はすぐに駆け寄り、背中を擦ってやる。いつも着ている白いカーディガンは、嘔吐物でドロドロになってしまっている。先ほどからずっと戻しているのか、胃の中には何も入っていないようだ。机の上を見ると、白い錠剤が入ったPTPシートが置いてあった。先ほど彼女が飲んだのか、5錠ほど無くなっている。
暫くして吐き気がおさまったのか、彼女が言った。

「シズク、ありがとう。もう、大丈夫だから……」

彼女は、汚れてしまったカーディガンを脱ぎ、吐物を拭き取り、口をゆすいだ。その間に、俺は床の吐物を拭く。彼女は自分でやると言ってきた。年頃の少女なのだから、自分が吐いた物を他人に拭かせたくはなかったのであろう。しかし、彼女の顔色の悪さを見れば、誰もが思うだろう。これは、彼女にはやらせない方がいいと。
念のため、俺はミカを保健室まで連れていった。保健室の先生は事情を知っているようだった。俺は彼女に問うた。

「君は、病気なの?」

彼女は初めは戸惑っていたが、全て話してくれた。自分が脳の病気を患っている事。そんなに長くは生きられない事。彼女の希望で、学校に通っていて、先生以外の生徒には、この事を秘密にしてもらっている事。
彼女いわく、先ほどの症状は、薬の副作用なんだという。

「今は、この薬で強制的に発作を抑えてるけど、飲むと、副作用なのか凄く気持ち悪くなっちゃって……」
「それでさっき……」
「うん……」

そんなの発作を抑える薬のせいで、また病気になっているような物じゃないか。思ってみれば、先程の嘔吐物の量は桁違いだった。これを彼女は、何回も何回も繰り返しているというのか!?この地獄のような悪循環を。

「でも、私、シズクと一緒にいられるから、それでいいんだ!」

そう言って、彼女は笑う。しかし、俺にはその笑顔が歪んで見えた。













暫くして、ミカは少しずつ学校に来る日が少なくなっていった。俺は、1人で抱え込んでいないだろうかと、心配になった。生き物は、1人で抱え込み過ぎると、壊れてしまう。何よりも、彼女は人前では弱さを見せない奴だ。そんな奴ほど、簡単に砕け散ってしまう。
俺は一度だけだが、ミカに電話を掛けた。しかし、彼女は出なかった。そして、そのまま夏休みになってしまった。
ある日、ミカの女友達から電話があったと、母から告げられた。ミカは人付き合いが苦手でも、そこそこの付き合いはしていた。電話に出ると、ミカが学校に向かうところを見たと、伝えられた。しかし、何故俺に……?俺は、彼女に聞いた。

『あんた、ミカと結構仲いいんでしょ?ミカがいつも楽しそうにあんたの話するから。』
「えっ……」
『私が見たとき、あの子凄く暗い目をしてた。もしかしてだけど……私の勘違いで終わってほしいけど、あんたが行ってあげなさい。私じゃ、あの子は止められない。』
「でも……俺は彼女を止める資格なんてない。」

俺は思った。もっと掛けるべき言葉があったかもしれない。もっとしてあげられる事があったかもしれない。なのに、俺がしたのは電話だけ。しかも、一回きりで、その後は掛けていない。そんな俺に彼女を止める資格なんてない。俺はなんて無力で非力なのだろうか。
そう言うと、彼女は言ったのだ。

『バッカじゃないの!』
「っ!!」
『私達はまだ16歳の高校生なんだよ?無力で非力に決まってるじゃん!』

そうだ。俺はまだ子どもだ。理想までは程遠いが、出来る事をやればいいんだ。

「ありがとう!吹っ切れたよ。」
『うん!そうこなくっちゃ!』











俺は、学校へ全力で走る。倒れそうになっても走る。走り続ける。もう、あんな事は起こさないように。

~~~~~~
「シズク、私と一緒に心中しない?」

俺は答えられなかった。

「そっか、君なら分かってくれると思ったんだけど……」

そう言って、彼女は飛び降りた。俺は必死に手を伸ばしたが、かすった程度だった。
何かが潰れる音がした。
~~~~~~

学校に着くと、俺は屋上に向かう。そこには、屋上の縁に立っていた。彼女は振り返った。まるで、いつかの少女のように。

「シズク!?何でここに……」
「君を止めに来た。」
「……ほっといてよ……」
「そう言うなら、俺にも作戦がある。」

首を傾げる彼女に向かって、俺は言い放った。

「君が死ぬなら、俺も死ぬ。」
「えっ……」
「俺は君が死ぬのが、嫌だ。トマト100万個くらい嫌だ。」
「っ!!」
「俺に死なれるのが嫌なら、生きろ!」

なんて卑怯で残酷な事をしているのだろうか。今の自分は、自身の命を人質にとって、脅しているようなものだ。けれど、それだけ俺は彼女に死なれるのが嫌なのだ。俺は彼女を縁から強制的に下ろす。そして、彼女を抱いた。

「君の痛みを俺が代わりに受けてやる事は出来ない。勿論、病気を治す事もだ。だけど、俺は生きて欲しいんだ!」

俺は半ば叫ぶように言った。すると、彼女が何か呟いた。俺は、聞き返す。

「生きろって……言って……」
「生きろ!」
「もっと……」
「生きろ!!」
「もっともっと……」
「生きろ生きろ生きろ生きろ!!」

そうだ。きっと、あの少女にも、こう言うだけで良かったんだ。シンプルに一言「生きろ」と言うだけで、良かったのだ。
彼女の瞳から、次々と溢れ出てくる宝石。これが、彼女が初めて人前で弱さを見せた瞬間だった。













あれから数年が経った。高校を卒業してから彼女の病態は悪化していく一方だった。発作を抑える薬も、副作用のせいでもう飲めなくなっていた。しかし、彼女はどんなにしんどくても、どんなに苦しくても、俺との約束は破らなかった。
そして、19歳の春、彼女は19年という短い人生に終止符を打った。彼女は生き抜いたのだ。彼女が自身の音が止まる前に言った言葉を俺は忘れない。

「ありがとう。生きててよかった。」
どんなに苦しくても、自殺だけはしてはいけないと、私は思うんですよね。だって、死んでから後悔したって、遅いですし、何よりも命を簡単に捨てるのはもったいないと思います。いつかきっと、「生きていてよかった」と思える日が絶対に来るはずです。

感想フォーム

 ログインすると感想を書くことができます。

感想

お名前:オレンジ色のエースさん
自殺はいけない…………口ではそう言ってもそれを決断してしまうときがある。「生きる理由」を失ったとき。でも、ミカにとって「生きる理由」はたった一言だったんでしょうね。ずっとその声が欲しかったんだろうな。

自殺は恐ろしい。例え未遂で終わったとしても、ひとつの選択肢として覚えてしまうから。本当に周りの支えが必要。ミカは幸せだったのかな。

命って難しいですね。
書いた日:2019年09月15日
作者からの返信
そうですよね……。私も脳の病気を患った事があるのですが、幸い治るものだったので、それが救いでした。しかし、彼女の病気は治らない。ただその音が止まるまで、自分を蝕んでいくものに怯えながら生きるしかないのです。しかも、薬の副作用ときたら、もう生きているのか死んでいるのかさえ分からなくなってしまう。
けれど、彼女には自分を分かってくれるシズクがいた。シズクの一言が彼女の心の鎖をほどいたのです。
いじめ経験者の私としては、自殺しそうな人にはただ一言、シンプルに「生きろ!」と言ってあげればいいと思います。それが、彼女が欲していた言葉であり、私が欲していた言葉でもあるので……。
私がこのシリーズを書いているのは、自殺する人を少しでも減らしたいから。残念ながら、いじめはなくなることはないと思います。けれど、自殺者は減らす事が出来る。今、苦しんでいる人達には、生きていてほしい。決して自殺だけはしてほしくない。だって、今生きている私は、こんなにも幸せなんですから。
書いた日:2019年09月15日