夢の輝きと裏の影

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作者:草猫
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読了時間目安:10分
ここは、カロス地方にある、人々に存在をあまり知られない小さな森。ここに住むポケモン達は、木のウロの中を住居として生活している。その中の一つである木からは、二つの怒号が飛び交っていた。
「パパ!分かってよ、あたしは旅に出たいの!」
 「ダメだと言っているだろう!」
 その出所は、マフォクシーとフォッコの親子。彼らは朝ご飯を食べるのも忘れ、論争している。
 「どーして分かってくれないの!?」
 「そんな事決まっている!森の外は危険なんだぞ!ナワバリに厳しいポケモンもいるし、何より人間がー」
 「やっていけるよ!森の外はうんたらかんたらとか、もう何千回も聞いた!もっとマシな理由を思いつきなさいっつーの!!」
 フォッコはあっかんべーをして、家を飛び出した。
 「ああっ、待て!......と言われて待つわけないよな、やれやれ」
 「まああなた、一旦落ち着きましょう。あなたの気持ち、私は分かっていますよ。」
 母親のマフォクシーはそう言い、父親にオレンの紅茶を差し出した。
 「ああ......だが、どうしたもんかな......。」
 普段は癒される香りのはずの紅茶。しかしそれは、今の彼の心を癒やすことは出来なかった。



「何よあの父親!こっちの気持ちなんて分かってくれないくせに!ママもママよ!どーしてこっちを応援してくれないの!?」
 森の中で、積もりまくった愚痴を撒き散らす。......いっつもそうだ。家族も、友達も、他のポケモン達も。誰も、あたしの気持ちを、夢を、肯定してくれない。
 ......あたしの夢は、この森を出て、外の世界に旅に出ることだ。あたしは、この森から出たことなんて一度もない。だから、「外の世界はどうなんだろう?」 「ここにはない食べ物もあるのかな?」 「外の世界なら、もっといっぱいのポケモンと、友達になれるんだろうな」といった思いは、ずっと膨らみ続けているんだ。もちろん、今も。
 親とのこんなケンカは、別に初めてじゃない。昔からあたしは、自分の夢を叶えたい、外の世界に出たいと言い続けていた。なのに、なぜ、誰も彼も「ダメだ」「無理だ」って言うの? なんで、どうして。
 そう思うともの凄く悲しくて、泣きそうになった。そして、涙のタガが外れそうになったその時ーー
 「......あれ?」
 自分のいる場所から、奥の方へ目を凝らす。何か黒い物体が見える。もう少し近づいてみるとそれが何かが明らかになった。
 「ポ......ポケモンだ!ポケモンが倒れてる!!」
 そこにいたのは倒れている大人のポケモン。見たことのないポケモンだ。......もしかして、外の世界の? って、そんな事考えてる場合じゃない!助けないと!あたしはとにかく家へと走り、パパとママを呼びに行った。



「申し訳ありません、ベッドも使わせて頂いてしまって......」
 「いえいえ、当然ですよ。『困っているポケモンには手を差し伸べる』 これが、私達の森のモットーですから。」
 彼はエンペルトと名乗った。身体の怪我がひどく、暫く寝たきりの状態だったが、ママの必死の看病によって、普通に話が出来る程度まで回復したようである。「子供は夜はちゃんと寝ろ」って、パパに言われたけど、構うもんか。エンペルトさんとママが話している横で、あたしは決意を固めた。
 
 夜になった。パパとママは......よし。寝ているな。あたしは足音を立てないよう注意して、エンペルトさんのいる部屋に向かった。
 ......着いた。エンペルトさんの部屋をそっと覗く。葉っぱに何か書いているようだ。日記かな? 少し深呼吸をして、あたしは彼に声をかける。
 「あの......エンペルトさん、入ってもいい?」
 ダメって言われるかな、そうドキドキしながら返事を待っていると、声が聞こえた。
 「ああ、もちろん。入っておいで」
 その言葉を聞くや否や、あたしは部屋へと飛び込む。まるで高速移動のように。
 「はは、元気がいいね。もう夜なのに。......改めてお礼を言わせてほしい。君が僕を助けてくれたんだね?あのままでは、僕はどうなっていたか......。」
 彼は安らぐような笑みを浮かべ、そう言う。でも今は、お礼を言われるために来たんじゃない。そう、あたしが聞きたいのはーー
 「あの、そんな事より、エンペルトさん。あなたは森の外から来たんでしょ?お願いします、外の世界のこと、教えてください!!」
 彼は少し驚くような顔を見せたが、すぐに笑顔になりこう言った。
 「僕でいいのなら、喜んで。」
 
 
 
 その後、彼が家に滞在している間に、いろいろ外の世界のことを教えてもらうようになった。砂の広がる場所、見渡す限り水に覆われている場所、雪や氷の世界......。彼の話す外の世界は、驚きや喜びという、本当に素敵なものが詰まっていた。そして、そんな話を聞くたびに、「パパ達の考えは間違ってる」と、強く思うようになっていった。
 そしてある日、エンペルトさんのリハビリにってことで、森の中を歩くことになった。あたしは彼と一緒に歩けることが嬉しくて、いろんな場所に案内してあげた。美味しいオレンの実がなる木とか、子供達の遊び場とか。......不思議だ。見慣れた景色のはずなのに、いつもより輝いて見えるなんて。唐突に、エンペルトさんがあたしに聞いた。
 「フォッコちゃん、君は、この森が好きかい?」
 「? うん、好きだよ。」
 「大事にした方がいいよ。大切なものは。......消えてしまってから気づいては、遅いんだ。」
 彼の言葉からは、何故か深い重みが感じられた。少し怖くなったのと同時に、ある質問を投げかけたくなった。
 「ねえ、エンペルトさん。今、あたしがこの大切な森を出て、あたしの......外の世界に出るっていう大切な夢を追いかけたいって言ったら、どうする?」
 
 
 あたしは、肯定的な答えを期待する。だけど、返ってきたのは予想外の答えだった。
 「......ダメだよ。今はご両親の元でちゃんと生活するべきだ。旅は、やってみると確かに楽しい。様々な世界を見せてくれる。だけど、その影には辛いこと、苦しいこともある。そうでなければ、僕はあんな怪我をしていないよ。」
 「......え?」
 ーあなたもか。そんな思いが心を支配した。みんなも、彼でさえも、あたしの夢を理解しようとしない。なんで......なんで!!
 「......なんで」
 「フォッコちゃん?」
 あたしは、もう限界だ。いいさ。いっそもう、ぶちまけてしまおうじゃないか。
 「なんでよ!あなたもそうなの!?あたしの思いも理解しないで!! もういい!もう話したくない!早くこの森からっ......出て行け!!」
 
 
 ......エンペルトさんの顔を見て、あたしは我に返る。だって、今まで見たことないくらい、悲しい顔をしていたから。
 「......そうだよね。すまない。君に、僕の勝手な考えを押し付けてしまったようだね。」
 あたしは戸惑う。
 「あっ......その」
 「すぐに出て行くよ。本当に今までありがとう。君のご両親にも、そう伝えておいてくれ。」
 そう言って彼は、森の外へ歩き出した。
 ーー引き留めたかった。ごめんって、言いたかった。 だけど、あたしの身体は、動いてはくれなかった。
 
 
 
 
 
 それから、あたしは部屋に引きこもった。あんなこと言って彼を傷つけた自分が惨めで、ほんとに憎くて。もう、何かをする気も起きなかった。そんなある日、今までこの事に沈黙を続けてきたママが、あたしの部屋に入ってきた。
 「......フォッコ。話してごらん。聞いてあげることなら出来るから。お母さんもお父さんも、こんなあなたの姿、見たくないのよ。」
 ママにぎゅっと抱き締められる。その温かさは、体温によるものだけじゃないんだろう。あたしはその温かさに身を任せ、ポツポツと話し始めた。
 
 全部聞いた後、ママはこう言った。
 「ごめんね、フォッコ。今まで否定することしかしてこなくて。だけど、これだけは分かって。私達はあなたの夢『自体』を、否定しているわけじゃないのよ。」
 「......え?」
 「あのねフォッコ。確かに夢には輝きが満ちてる。だけど、その裏には、絶対に影がある。その影を知っているからこそ、真に夢が叶ったと言えるの。だから、もう少し時間を置いて、ちゃんと、自分の夢がどんなものか知るの。大丈夫。夢を本気で追いかけようとするあなたなら、きっと出来るわ。お父さんもそう思ってるのよ。」
 「パパが!?」
 あたしは驚く。そんなこと、今まで一度も言ったことなかったのに。
 「彼、口下手だからね......。そんなこと自分から言えないのよ。まあ、それより......フォッコ。お母さんの言ったこと、やってみる?」
 あたしは、心の中で少し笑う。ーーそんなの、決まっているじゃないか。
 「うん、やるよ。あたしの夢を叶えるために!!」
 二匹は、にこりと微笑んだ。
 
 
 
 
 あれから、7年もの月日が過ぎた。え、今日がなんの日かって?そんなの、一つしかないよ!
 「テールナー、そろそろ行くぞ!」
 「うん、今行く!」
 ーーそう、あたしの、旅立ちの日!
 
 あの日以来あたしは、外の世界について、必死に猛勉強した。たまに来る旅ポケモン達に、旅の大変さを聞くなんてこともした。まあ、なんだかんだで、旅に出ることが出来るようになったの!......今なら分かるよ。あの時、パパやエンペルトさんがどう思っていたか。
 「お腹壊さないでよ?」「たまには帰ってこいよー!」
 みんなの応援の声が響く。いざ離れるとなると、やっぱ寂しいなぁ。
 ......これからどんなことが待ってるんだろう?いつかまた、エンペルトさんに会えたなら、何を言おうか......いや、これだよね!
 「それじゃみんな!行ってきます!!」
 あたしは胸にドキドキと小さな決意を抱いて、森の外への一歩を踏み出した。
テールナーがエンペルトに何を言おうとしたかは、ご想像にお任せします!

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