Spica

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作者:ドリームズ
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読了時間目安:5分

この作品には残酷表現があります。苦手な方は注意してください

「スバルー!」
「スピカ!」

僕はエルレイドのスバル。向こうから走ってくるサーナイトは、彼女のスピカだ。去年の高校一年生の夏から付き合っている。彼女とは、昔からの幼なじみである。思いきって彼女に告白してみたら、思っていたより上手くいったのだ。
今日は僕にとっては、勝負の日だ。このデートで僕は伝えるんだ。無意識に鞄を触っていた。僕がこの事ばかり気にして、彼女を見ていなかったせいか、スピカは不機嫌な顔をして僕を見る。これはマズイ。

「ちょっと、スバル!どこ見てんの!」
「あっ!ごめん……」
「その辺歩いてる女に見惚れてたとかだったら、ぶっ飛ばすからね!」
「そんなんじゃないよ。」

「ぶっ飛ばす」というフレーズは、彼女の口癖だ。彼女はバレーボール部に所属している。彼女はその部活のエースで、強烈なサーブが特徴だ。この細い体からは想像出来ないだろうが。そして、サーブをする時、いつも

『ぶっ飛ばす!!』

って叫んでいる。たぶんそのせいだろう。そんな強気な彼女が、僕は好きだった。










僕達の住んでいる町は海に面している。堤防の一番端までやってくる。二人でそこに座ると、僕は話を切り出した。

「あのさ、スピカ。」
「ん?何?」
「今まで、ずっと言おうと思ってたんだけど……」

僕は鞄を漁り、紫色の四角い箱を取り出す。それを開けて彼女に見せるように向けた。中に入っているのは、シンプルなシルバーの指輪。バイトをして貯めた金を使って買った物だ。

「これって……」
「こんな僕でよかったら……」

僕がそこまで言うと、何の事か分かったのか、うっすらと目に涙を浮かべ、微笑みながら言った。

「幸せにしないと、ぶっ飛ばすからね……ッ」












無事プロポーズが成功し、僕は浮かれながら帰っていた。そんな時だった。携帯が鳴ったのは。画面を見ると、スピカからだった。

「はい、もしもし。」
『スバル君?』
「はい。そうですが……」

それは、女性の声だった。しかし、明らかにスピカの声ではない。僕は、嫌な予感がした。

『スピカの母なんだけど、スバル君、信じられないだろうけど、落ち着いて聞いてね。スピカが』







えっ











スピカは僕と別れた後、交通事故にあったらしい。当たり所が悪かったらしく、即死だった。何故なんだ……。僕達はこれからだったのに……。すぐに駆けつけた僕は、彼女の亡骸を前にして、泣き叫んだ。
それからは、僕は部屋に閉じ籠りがちになった。何をするにもやる気が起きなかった。いっそ、自分も彼女の元へと逝きたかった。どうして彼女が……。僕は事実を受け入れられず、ずっと塞ぎ込んでいた。
そんなある夜の事だった。ショックのせいで、不眠症だった僕は、ベッドに寝転んで天井を見ていた。その時だった。廊下から、変な音が聞こえてきたのは。それは、足音のようだった。誰かがトイレに起きたのだろうと気にしていなかったが、それが途中で止まず、僕の部屋へと向かっている事に気づくと、途端に怖くなった。幸い、僕の部屋には鍵が付いていた。僕は鍵を閉めると、ベッドに潜り込んだ。やがて、足音は僕の部屋の前で止まった。そして、ドアノブをガチャガチャと動かす音だけが響く。僕は、ベッドの中で震えながら、その音に耐えていた。誰か気づいてくれ!
しかし、その願いは虚しく、鍵が開けられ、何かが部屋に入ってきた。

『私を閉め出そうだなんて、ぶっ飛ばすわよ!スバル!』

その声を聞いた時、僕は空耳かと思った。だって、それは

「スピカ?」

僕がタオルケットを取ると、そこには透けている事以外は普通のスピカがいた。彼女は僕の足に跨がるように座った。そして、僕の目尻をなぞる。自分でも知らない内に、泣いていたらしい。

『もう、そんなにくよくよしないの。』

そんな僕に、彼女はいつものように強気な言葉を投げ掛けてくる。それに、また泣きたくなる。

『私、これを返しにきたの。』

彼女が僕に渡してきたのは、彼女に渡した指輪だった。彼女は、それを僕に半ば強引に握らせた。すると、その体はどんどん薄くなり、光が天へと上っていく。それは、彼女との本当の別れを意味していた。また、泣きそうになる僕に、彼女は言った。

『立ち直らないと、ぶっ飛ばすからね。』

それが、彼女の最後の言葉だった。僕は、指輪を握った手を硬く握り、胸に引き寄せ、泣いた。
















「スバル、もう大丈夫なの?」
「うん!」
「もう、心配させないでよね。お兄ちゃん。」
「全くだ。」
「ごめんってば。」
「でも、何かあったの?」
「そうだよ。あんなに引きずってたのに……」
「別に。いつまでもくよくよしてたら、スピカにぶっ飛ばされるからね。」
「「「?」」」








スピカ、ありがとう。僕、もう迷わないよ。だから、僕がそっちに逝った時には……その時はよろしくね。その日が来るまで、僕は生き続けるよ。だから、そこからみていてね。
彼女に渡した指輪は、チェーンを使ってネックレスのようにし、いつも持ち歩いている。

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感想

お名前:オレンジ色のエースさん
なんて切ないんだ…………。この一言に尽きます。
書いた日:2019年09月01日
作者からの返信
ありがとうございます。
少し弱気なスバル君と強気なスピカちゃん。夜を彩る星がうみだす星座のように、この二人は欠けてはいけない存在だったのです。
しかし、彼女がいなくなった事で、スバル君は光を失ってしまいましたが、彼女の一言でまた光を取り戻したのです。
スバル君、弱気なんですけど、芯は強いんですよね……。
書いた日:2019年09月01日