調合師ブラン りたぁんず

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作者:しろあん
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読了時間目安:112分
「調合師ブラン」の続編というか小話を三つほど詰め込んだ短編です。ちょっぴり長いのでしおり機能等を使って少しずつ読んでいただければ幸いです……!
──『数え唄勝負』──


 昼下がりの事。大都市『ラカンデラ』の住宅地域の外れにひっそりと建っている二階建ての木造の建物で、不思議な薬屋を経営している小さなイーブイ──「ブラン」は、お店の中にしきりに設置された大きな棚の内の一つをじーっと見上げていた。

「…………ブランはあんなところにどうやってきのみのカゴを置いたんだろう?」

 その棚の天板には、チーゴの実が大量に入った藁の籠がぽつんと置かれていた。
 普通ならイーブイの身長と棚の天板とでは余りにも高低差があるため、ブランがそこにチーゴの実が入った籠を載せるのは不可能な筈なのだが、間違いなく籠は棚の上に置かれていたので、ブランは頭に疑問符を浮かべざるを得なかった。勿論、籠を置いたときの記憶は全く残っていない。

「長い棒を使ってきのみをカゴごと落とそうかな……? いやでも、頭に降ってきたら大事故だよね……チーゴの実は硬いし」

 うーん、と頭を捻って木の実を手に入れる方法を考えていたブランだったが、突然、お店の扉がやや乱暴に開かれ、扉に取り付けられた鐘の音が聞こえてきたので、尻尾を振りながら急いでカウンターの前まで走っていった。

「よぉー、テンチョーさんは居るかい?」
「いらっしゃい……!」

 お店に入ってきたのは一匹のニューラだった。体中にじゃらじゃらとしたアクセを大量に身につけており、いつ、何処でやり合ったのかは分からないが、皮膚には無数の引っ掻き傷が刻まれていた。
 傷といっても、大怪我を負っているわけではなく、古くからの傷を治療せずにそのままにしておいたといった様子である。
 一応、アクセサリーの中には探検家を示すバッジが混ざっていたので、そういう仕事をしているという事は、誰が見ても読み取る事はできた。

「久しぶりだねぇ、ブラン。元気してたかい?」
「うん……そっちこそ、いつも通りって感じだね。変わったところといえば……その左耳のピアスとかかな?」

 ブランはそう言って前足でニューラの赤くて短い左耳に付けられたピアスを指し示す。ニューラは、よく気づいたねぇ、と笑いながらそのルビーがあしらわれた綺麗なピアスをブランに見せびらかした。

「さてと、ヒールオレン2本とチゴロップ1本を売ってくれ。金はここに置いとくよ」
「あー……足りてないよ。代金は合計で銀貨2枚、銅貨6枚、小銅貨が4枚になる……」
「なんだって?」

 さも当然のように銀貨2枚を差し出したニューラの顔が、怪訝なものになった。ブランは少し気まずそうに言葉を続ける。

「い、言いたい事は分かるよ……? 前にこれと同じものを銀貨2枚弱で売ったもんね……でも、チゴロップは最近値上げしたんだ」
「それまたどうしてさ?」
「チゴロップに使うチーゴの実が、最近高くなってきてるんだ……それに、このお店にあるチーゴの実の在庫も、あれで最後なの……」

 そう言うとブランはカウンターの左後ろを向いて、先ほどのチーゴの実が入った籠を指し示した。ニューラが首を傾げながらその棚の前まで歩いていく。

「テンチョーさんよぉ、アンタ、あんなとこにどうやってそのカゴを置いたんだ?」
「知らないよ……! たぶん、ブランのお店に来た誰かがそこに移動させたんだと思うけど……」

 棚の上に置かれた木の実の籠を眺めていたニューラは、ひょいと棚の出っ張りの部分に足を掛けて籠を回収し、お店の中央に設置された木のテーブルの上に移動させた。

「まったく、そいつは悪い奴だな! ほら、アタシが取っといてやったから安心しな」
「あ、ありがとう……!」
「気にすんなよ。あ、でも、お礼に薬の代金をちょいと安くするっていうのは」
「残念だけどそれはできない……」

 ブランの食い気味な返答に笑顔のままで固まるニューラ。一瞬の静寂が流れた後、目にも留まらない速さでニューラはブランに詰め寄った。ブランは驚いて一歩後ろに身を引く。

「ちょっとぐらい良いだろ? アタシとブランのよしみでさぁ」
「だ、だめ……値引きはしない……!」
「今度お土産持ってくるからさ! ほら、な?」
「なんでそんなに必死なの……!?」

 詰め寄られすぎてカウンターから落ちてしまいそうだったので、ブランはニューラの横をすり抜けるようにして自分からカウンターを飛び降りた。

「そんなに言うなら……ブランと一つ勝負をしよう」
「勝負?」

 ニューラが飛び降りたブランの方向に体を向きなおしながら、そう言葉を反復し、不思議そうな表情で首を傾げた。
 ブランはこくこくと頷いてから話を続ける。

「カディンは『ポケモン数え唄』って知ってるよね……?」
「おう、勿論さ。あの覚えるのがやたらと大変な唄だろ?」

 腕を組んで、どこか懐かしむような仕草をしながらニューラはそう言った。
 『ポケモン数え唄』。それはその名の通り、ポケモンにちなんだ歌詞に合わせて数を数えていくという唄で、人間でもポケモンでも、子どもの頃なら誰しも一度は歌った事があるというほど有名な唄だ。

「そう、それでね? ブランとカディンで数え唄勝負をしよう……! ルールは同時に唄を歌いながら踊りを踊り始めて、どちらが長く踊りや歌詞を間違えずに続けていられるか……で!」

 そんなポケモン数え唄だが、これには唄だけでなく、踊りも存在している。しかもその踊りは、人間のような二足歩行の生物の為の振り付けと、四足歩行のポケモンの為の振り付けが、なんと数字の600以上に及ぶ歌詞の一つ一つに用意されているのだ。
 無論、こんなものを全部覚えられるのはIQ5000のフーディンぐらいしか居ないので、普通のポケモンや人間はせいぜい覚えられて20ぐらいと言った所だろう。
 ブランの提示した勝負の内容を聞いて、ニューラが興味深そうに声を漏らした。

「なるほど……面白いねぇ。言っておくけど、アタシは数え唄だろうと絶対に負けたりはしないぜ?」
「望むところだよ。それで、カディンがこの勝負に勝ったら、薬の代金を銅貨7枚引きの、銀1、銅14、小銅4枚にしてあげる……」

 よほど自信があったのか、その条件を聞いてニューラは少し口角を吊り上げた。そして落ち着いた口調でブランに質問を投げかける。

「仮にアタシが負けたら?」
「そうだね……ブランが勝ったら、薬の代金を銅貨5枚増しの、銀2、銅11、小銅4枚で払ってもらうよ」
「なるほどな……よし、その勝負乗った!」

 ブランとニューラは十分なスペースの中で踊るために、カウンターから少し離れて、店の入り口付近にお互い向き合うようにして立った。
 ニューラは軽く肩を慣らし、ブランは一度心を落ち着かせて、数え唄の歌詞と振り付けを頭の中で思い返す。
 そして軽いウインクを交わし、お互いの準備が出来たことを伝え合った。

「それじゃあいくよ? せーのっ!」








「「ポ、ケモ、ン、かーぞえーうたっ♪」」

 合図と共に、二匹はリズムの良いメロディーを高らかに歌い上げる。さらにそのメロディーに乗りながら手拍子((前足踏み))を二回。その場で一回転してポーズを決めた。

「「いっちばん、最初は、フッシギダネ♪」」

 「いっちばん」と「最初は」のリズムに合わせて右へ一歩ずつ進み、腰を曲げて体を縮こまらせる。イメージとしては、フシギダネのように背中に大きなタネを乗せているような感じだ。

「「はりきりサニーゴうーみのなか♪」」

 今度は歌詞に合わせてガッツポーズ((ワンジャンプ))を取り、海の中をすいすい泳ぐようなイメージで左に二歩戻る。ちなみにこのフレーズは “2” とサ “ニー” ゴを掛けた洒落となっている。

「「サンドの飯よりすっながー好き♪」」

“三度” と “サンド”、これも分かりやすい洒落だが、まず三回指振り((前足踏み))をして、ゆるやかな動きで左右に腕を広げる((ステップを踏む))

「「四匹かーぞくーのヨーテリー♪」」

 そして広げた腕をわんこのように体の前で軽く曲げて構え、((尻尾))を振って可愛らしくポーズを決めた。恥じらいなど微塵も無い。

「「獅子ーも逃ーげ出すゴウカザルのようにっ!」」

 円周を辿るように左回りに3歩進んでポーズ((ジャンプ))、それから右回りに3歩戻って再びポーズ((ジャンプ))を決める。ここのポージングは、歌詞にちなんでいるのか、勇ましさが表現されている。ただ、ブランの場合はどちらかというと勇ましいというよりかは無邪気さが表れているといった方が正しいのかもしれない。

「「ロックに行こうぜソルロックッ!」」

 若干のヒートアップを感じさせながら、弦をかき鳴らすような動作((その場でぐるりと一回転))を行い、「ソルロック」のリズムに合わせてえい、えい、おー!((ワン、ツー、ジャンプ!)) と元気よく弾みをつけて腕を振り上げた。
 ここまで歌い上げれば、ニ小節分のインターバルが入るので、そこでブランとニューラは一度呼吸を整えた。ちなみにこの休憩は6の倍数ごとに毎回挟まれる。
 唄も踊りも互いに引けを取らない展開。ブランとニューラは真剣な眼差しで相手を見つめ、次の歌詞を歌うべく、同時に息を吸った。

「「せーのっ! ポ、ケモ、ン、かーぞえーうたっ♪」」

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────それから戦いは二匹が予想していたよりも長時間に渡って行われた。


「「ロコン、キュウコン、ろっくじゅうきゅう♪」」

 ((ポ、ケモ、ン))

「「おっそらを目指して伸びてけナッシー((74))♪」」

 ((かーぞえーうたっ♪))

「「まっくらーな砂の中にナックラー((79))!」」


 ブランとニューラは心の中で、かなりの焦りを感じていた。よもや幼く内気な性格のイーブイが、よもや荒くれで探検家を営むニューラが、ここまで踊って唄えるとはお互いに思ってもいなかったのだろう。
 額にかいた汗が激しい動きで飛び散るのも気にせず、二匹はひたすらに踊り、相手の降参を待ち続けた。

────そしてそれは、80を越えた時にやってきた。

「やー、あー…………」
「屋敷に住まう、ヤトウ……モリ……?」

 先に動きを止めたのはニューラだった。
 バツの悪そうな顔をしながら、大きな爪で頭を掻く。ブランも踊りを中断して、ニューラの方を向いた。

「……完敗だ。アタシ、こっから先は覚えてねぇんだ」
「そっか、ということはこの勝負……ブランの勝ち、って事だね……?」

 ニューラが微妙に悔しそうに頷いたのを見て、ブランは喜ぶ……というよりかは、ほっと安堵の息をついた。

「危なかった……ブランも、84までしか覚えてなかったから……」
「いやいや、それでも十分すぎるほど凄いぜ? 嬢ちゃん、どんな記憶力してるのさ」
「別に、自然と覚えただけだけど……そっちこそ、どうしてそんなに覚えているの……?」

 ブランの質問に対して、ニューラは少し悩んだ後、「さぁ、どうしてだろうな?」と返した。

「ま、アタシは賢いからな。それで、代金は銀貨1枚だったか?」
「3枚弱だよっ……!? なんで安くなってるの……!?」

 カウンターに戻ったブランは困惑しながらそうツッコミを入れた。ニューラは笑いながら3枚の銀貨を取り出してカウンターの上に置いた。

「ほらよ、これで良いんだろ?」
「…………ちゃんとある」
「あ、アンタ今『最初から定価で払えるのに値引き交渉するなんてケチな奴だな』とか思ったな?」
「いやいや、思ってな……わうっ!?」

 首を振って否定しようと思ったブランだったが、ニューラの手に頭を押さえられ、かなりがさつに頭を撫でられた。ただ、爪で皮膚を傷つけないようにちゃんと加減はしている。

「ほれほれ~、次やる時は絶対アタシが勝つからな~!」

 頭の毛をくしゃくしゃにされながらも、なんとかニューラの拘束から逃げ出したブランは、そのまま棚の中から手早く青と赤の薬を取り出して紙袋の中に詰めた。
 そしてそれをお釣りと共に勢いよくニューラに差し出す。

「はい……! ご注文の品はこちらでよろしかったでしょうか……!」
「なんでそんな急に畏まるのさ」
「薬を売るだけなのにこんなに疲れるなんて初めてだよ……次はもう勝負しないからね!」

 そりゃ残念だなぁ、と呟きながらニューラは紙袋とお釣りを受け取った。そして、体に付けたアクセサリーをじゃらじゃら鳴らしながらお店の扉へと歩いていった。

「じゃあな、テンチョーさん。仕事、頑張るんだよ」
「うん……ありがとう。また来てね……」

 バタン、と扉が閉められ、それと同時に扉に取り付けられた鐘が鳴った。お店に静寂が訪れた後、ブランは一息ついてから、カウンターの上に置いてあった古めかしいノート──店舗日誌のページを開いた。

「“ 記せ エンゼーペン ”……まぁでも、結構楽しかったや」





──『風邪引きブラン』──


 確かに、ここ数日の間で体の調子があまりよろしくないな、とは少なからず感じていた。

「でもまさかこんな急に……けほっ、けほっ!」

 今日はラカンデラに住む皆の休みの日が終わって、それぞれが仕事に戻るといった、そんな日。
 もちろん、わたし────ブランも、今日はお店を開いてお客さんを待とうと思っていたんだけど、今朝、布団の中で目覚めた時、喉に変な違和感を感じたんだ。

「ううっ……喉が痛いし、頭もふらふらする……」

 どうやらわたしは風邪を引いてしまったみたいだった。咳や寒気が止まらず、頭もぼーっとして上手く物事を考えられない。正直、わたし自身あまり風邪を引いたことがなかったから、完全に……油断してた。
 お母さんとお父さんは居ないし、他に今すぐ面倒を見てくれる人も居ないというこの状況に不安を抱えながら、とりあえず今日は臨時休業にしようと、お店の表に向かった。
 少しふらつきながらも脚の長い木の椅子を玄関の外まで押してきて、その上に飛び乗る。そして、扉の掛け看板を口で咥えて、裏表をひっくり返した。

「これで……げほっ、大丈夫……」

 『ブランのくすりや やってます』から『ブランのくすりや おやすみです』という文字に入れ替わった掛け看板を見て、わたしは一つため息をついた。

「はぁ……これからどうしようかな……」
「あら、こんにちはブランちゃん。今日はお休み?」

 ふと急に声を掛けられて、わたしは椅子の上に乗ったまま後ろを振り返った。するとそこにはサイドで三つ編みにした金髪が印象に残る、薄橙色のワンピースを着た女の人が立っていた。
 わたしは声を掛けられた相手を見て、一瞬きょとんとしたけれど、すぐそこの住宅地区に住むブランのお隣さんだという事を思い出し、心配を掛けないよう、風邪だという事を隠しながら返事を返した。

「えっと、こんにちは……その通り、今日はお店はお休みなんだ」
「……? あら、そうなの。いつもお仕事頑張ってて偉いから、今日はゆっくりしてね」
「うん、ありがとう……今日はちょっと、ゆっくり休む事にするよ」

 労いの言葉を受け、素直に感謝の気持ちを伝えたつもりだったのだが、金髪のお姉さんは少し不安そうな顔になってこちらの顔色を窺い始めた。

「ブランちゃん、ちょっとだけ鼻声なんじゃない?」
「え……?」

 どきりとした。鼻は別になんともないと思っていたから、喋り方で風邪だとバレるなんて予期していなかった。
 でも、確かにちょっと鼻がむずむずするような……

「き、気のせいじゃないかな……? 別になんとも──くしゅん!」
「あらあら、やっぱり風邪かしら……? ちょっとだけおでこを見せて」
「ま、待って、違うよ……あ」

 わたしが何か言い繕うとする前にお姉さんはそっとわたしの額に手の平をくっ付けた。今更これを振りほどくわけにもいかないので、わたしは黙って目を閉じた。
 外は少し風が吹いていたからか、お姉さんの手は若干冷たい……ような気もしたが、正直よく分からなかった。しばらくして、わたしの額から手の平が離れる。

「やっぱり……ちょっと熱っぽいわ。ブランちゃん、黙ってたらダメ。風邪は引き始めの時の対応が一番大事なんだから、誰かに診てもらわないと!」
「ご、ごめんなさい……心配掛けたくなくて……」

 真剣な顔で叱られてしまい、わたしは少し悲しい気持ちになった。耳も無意識の内に垂れていた。
 おそるおそる顔を上げると、そっとお姉さんに抱きかかえられ、そのままお店の中へと連れて行かれた。わたしは驚いて、お姉さんに目線で訴えかけると、さも当然のようにこう言われた。

「今日一日は私がブランちゃんを看てあげるから、まずはお布団まで行きましょう!」
「え……?」

 
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 そういうわけで、今現在。わたしはお店の二階で布団をかぶってぼーっと天井を見上げていた。額には濡れタオルが載せられているが、まだ頭はくらくらしていた。

「けほっごほっ……!」

 お隣に住むあのお姉さんは、もう結婚していて、旦那さんとお子さんが帰ってくる夕方までならわたしの事を看ていられると言っていた。本当に感謝の気持ちでいっぱいだけど、それと同時に申し訳ない気持ちもいっぱい……かな。

「ブランちゃん、お粥が出来たわ~」

 わたしの名前を呼びながら、小さなお椀と桶をもって階段を登ってくるお姉さん。わたしは濡れタオルが落ちないように前足で押さえながら、ゆっくりと階段の方へ体の向きを変えた。

「ありが、とう。キッチンの釜、ちゃんと使えた……?」
「ええ、使えたわ。ほら、ちょっとだけ体起こせる?」
「けほっ、うん……」

 わたしはそっと布団から体を起こし、額のタオルをお姉さんに渡した。「後で新しいのに変えるからね」と言いながらタオルを置いた後、出来たてのお粥を小さな木のスプーンで掬い、ふーふーと冷ました後にわたしの口の前まで持ってきてくれた。

「ちょっと熱いかも、気をつけてね」

 食欲はあまり無かったけれど、湯気の立ったお粥からは良い匂いがして、わたしはそっとスプーンを咥えてお粥を口にした。
 丁度良い塩気と、お米の優しい甘みが口の中に広がる。野菜も少し入っていたが、細かくすり潰して混ぜてあったので、とても食べやすかった。

「ん……美味しい」
「それは良かったわ。はい、もう一口」

 再び差し出された木の匙を咥えて、ゆっくりとお粥を噛み締める。

「お母さんもお父さんも居ないのに、風邪を引いちゃうなんてブランちゃんも大変ね……」

 湯気の立つお粥を軽く混ぜながら、お姉さんがそう言葉を漏らした。わたしのお母さんとお父さんが家に居ない事は、ある程度近所の人やポケモンにも認知されている。
 最初は酷く心配されたけれど、お母さんからある程度薬の調合の仕方を教えてもらっていたおかげで、調合師として私一匹でもなんとかやっていく事ができた。……今はこうして風邪を引いて助けを借りている訳だけども。

「仕方ないよ……お母さんはお医者さんの仕事で忙しいし、お父さんも……けほっ、どこいっちゃったか分からないし……」

 わたしはそう言った後、またお粥を口にする。お姉さんはそんなわたしの言葉を聞いて、優しい笑みを浮かべながら頭を撫でてくれた。

「あらあら、本当に偉いのね、ブランちゃん……でも、無理だけはしないでね」
「うん、ごめんなさい……えっと、ずっと聞きたかったんだけど、名前を……」
「あぁ! そうね、ちゃんと自己紹介をしないとね。私の名前はアサっていうの」

 綺麗な金色の髪を持った優しいお姉さんは────アサはそう名乗ってくれた。

「アサ、アサ……うん、覚えたよ」
「アサおばさんでも何でも、ブランちゃんの好きなように呼んで?」

 好きなように……かぁ。
 
「じゃあ、そのままアサって呼ぶね」
「ふふふ、それだとなんだか私とブランちゃん、仲の良いお友達みたいね」

 アサは微笑みながら、木の匙をわたしの口元に運んだ。
──一つ、ブラン達の文化に補足を入れるなら、ここに住む人たちは呼び捨てにされても誰も怒ったりはしない。むしろ、呼び捨ては相手への親しみの意がある。
 ブランのお店に来てくれる人達は皆優しいから、わたしも一番親近感の湧く呼び方で相手を呼ぶことが多かった。

「今、タオル変えてあげるからね」

 お粥の入ったお椀を一度置き、アサは空っぽの桶の中から新しいコットンのタオルを取り出した。そして、その桶に右手の人指し指を向けると、

「────“ ひとすくいの岩清水 ”!」

 呪文を唱え、指をくるりと反時計回りに回した。
 すると、現れ出た青い光の繊維が桶の中で渦巻くように集まっていき、それはしだいに透き通った綺麗な水へと姿を変えて桶の中を一杯に満たした。

「すごい……!」
「一応、水の魔法が得意なの。こんな簡単なものしか使えないんだけれどね」

 そういって桶の水にタオルを浸し、ぎゅっと強く絞った。────たとえどんなに些細な魔法だったとしても、わたしにとって魔法が扱えるというのはとても羨ましい事。
 『魔道具』を使えば話は別だけど、ポケモン単体では魔法が使えない──それこそ、絵本で読んだ昔話にすら魔法が使えるポケモンは居なかった──から、その憧れはなおさら強かった。
 アサが私の額の上に濡らしたタオルを載せる。魔法で生み出した水はとても冷えていたのか、濡れタオルもひんやりしていて気持ちよかった。

「お粥は? もう少し食べる?」
「ううん……大丈夫。もうお腹いっぱい」
「それじゃあ、ブランちゃんはゆっくり休んでて。片付けは全部やっておくから」
「けほっ……ありがとう」

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 わたしはもう一度布団を被って天井を見上げた。アサがお椀と古いタオルを持って1階へと下りていく。

────なんだか、眠たくなってきたな。
 
 看病してくれたアサに改めて感謝の気持ちを抱きつつ、わたしは再び瞼を閉じる。
 そうして、暗闇の中でだんだんと意識が朧げになっていって、完全に眠りに就こうとしたその瞬間、わたしはある事を思い出した。

「……調合しておかないといけない薬があるんだったぁ!」

 調合師の(さが)だった。





「────それで、火で炙って柔らかくしたナナシの実を半分に切って、中の果肉を取り出すのね?」
「そう……その果肉をさっきの細かくすり潰した樹皮と一緒に容器に入れて……」
「ほ、本当に木の皮なんて入れて大丈夫なのかしら?」
「大丈夫。その皮は生薬として使われるし、調合素材としても──はっくしゅん! ……ううぅ」

 お店の一階。部屋の中央に置かれた大きな木のテーブルの上で、アサは薬を調合していた。
 ……そう、わたしの代わりに調合してもらっていた。

「ブランちゃん。やっぱり、一度寝たほうがいいんじゃない……?」
「ごめん……どうしても心配で……実は、ブランのお得意さんがね、そのナナシの実を使った薬──えっと、『ナナシャーべ』って言うんだけど……とにかくそれを買いたいってこの前言ってたんだ。でもその時はその薬を切らしてて、『今度作っておくね』って約束してて……」

 そのお客さんは週に1回はわたしのお店に来てくれて、多分、明日がその日のはず。だから、今日中に薬を調合しておかなきゃいけないんだけど……

「本当に偉いのねぇ。分かったわ、レシピは教えてもらわないと分からないけど、律儀なブランちゃんとそのお客さんの為にも、必ず私が薬を調合してみせる」
「けほっ、ありがとう……あ、次はその小瓶に入った液体を混ぜてね」

 アサが調合を手伝うと言ってくれて本当に大助かりだった。今わたしが調合なんてしたら、頭が働かないせいで必ずどこかで失敗すると思うから。
 でも、こうやって長いすの上で毛布を被って薬の作り方を教えるだけなら、問題なくできそうだ。レシピは全部頭の中に入ってるし、アサは見たところ手器用なようだからきっと調合を成功させてくれるはず。

「ふんふんふん♪ 薬の調合って、お料理みたいで楽しいのね」
「そう……? ブラン、料理はよく分からないから……」
「あら? それじゃあブランちゃん、普段は何を食べてるの?」

 そんな質問を受けて、わたしはうーんと頭を捻る。

「……パンと木の実?」
「あらら……もっと色んな物を食べないとダメよ?」

 そう窘められて、確かにその通りかもしれないと思った。ここ最近、パンや木の実以外にちゃんとしたものを食べていなかった気がする。
 もしかすると、風邪を引いたのは栄養バランスの良い食事が取れていなかった事が原因だったのかもしれない。

「お母さんが居てくれたらなぁ…………」

 わたしは小さく呟いた。アサの作ってくれたお粥を食べた時もふと思った事だ。
 お母さんはエーフィだから、[ねんりき]で自在に調理道具を操って、毎日料理を作ってくれていた。勿論、料理はどれも美味しくて、わたしはお母さんの料理が大好きだった。
 昔、人間と一緒に旅をしていたというお父さんも自炊ができると言ってたけど、ブースターらしいというか、豪快に焼いて味付けした料理が大半だった。旅先では問題ないのだろうけど、お母さんは「あんまり家庭的じゃない」と言葉を漏らしていたのを覚えている。

「わわっ、ブランちゃん、液体の色が変わってきてる!」
「うん、それで良いんだ……そしたら次はその液体を別の容器に移し替えて……」

────アサに調合のやり方を手取り足取り教えるのは、なんだか新鮮な気持ちになれてとても楽しかった。まるで、新しく助手が傍に就いてくれたような……そんな感じだ。まぁ、この場合は手助けしているわたしが助手みたいなものなのだろうけど。



 そうして順調に調合は進み、無事「ナナシャーべ」を完成させることができた。完成用の小瓶をじっくり眺めながら、わたしは言う。

「うん……完璧だよ。これなら商品として売れる!」
「ふぅ、良かった……! ちなみに、この薬って飲むとどうなるのかしら?」
「しばらくの間冷気に対して体が強くなるんだ……たとえ極寒の地に降り立ったとしても、この薬を飲んでいれば凍傷の心配は無いよ」
「へぇ……なんだか凄いのね。私、そんなもの作れちゃったんだ」
「アサ、とってもセンスが良かったよ……何はともあれ、これで一安心──う、げほっげほっ!」
「だ、大丈夫、ブランちゃん!?」

 激しく咳をしたわたしの傍に、アサが慌てて駆け寄ってきてくれた。

「う、調合してるときは何とも思わなかったんだけど、やっぱりしんどいかも……」
「それならもう早くお布団に入って寝ましょう!」

 アサに抱きかかえられて、お店の二階へと移動する。そしてすぐに布団の上に寝かされて、毛布を上から被せられた。
 
「晩御飯は作り置きしておくから、目が覚めたら無理しない程度に食べてね。起きたときに夕方を過ぎてたら私はもう居ないと思うけど……」
「げほっ、げほっ……大丈夫だよ。本当にありがとう、色々迷惑掛けちゃったね……」
「とんでもない、迷惑だなんて全然思ってないわ。ブランちゃんはまだ子供なんだから、もっと誰かに頼って甘えてもいいの」

 アサが優しくわたしの事をハグして、ぽん、ぽんと背中を叩いてくれた。
 ……もっと甘えてもいい、かぁ。

 今日一度、風邪を引いたことを隠そうとした事もそうだけど、わたしは誰かに迷惑を掛けたくないばかりに、困難に陥っても自分自身でなんとかしようとしてしまう節があったように思う。
 でも一匹で何とかしようとするより、誰かに助けを求めた方がずっと良い。アサに看病してもらって、その事に気付くことができた。

「……えへへ、ありがとう。これからはもっと色んな人やポケモンを頼るようにするよ」
「ええ、私みたいなお節介もいるからね」

 アサは軽く笑いながらそう言ったので、私も釣られて笑ってしまった。
 
────それに、いっぱい甘えて良いなら…………ぜひともそうしたいからね。

「あ、それから……明日は用事があってブランちゃんの様子を見に来る事ができないの。本当にごめんなさい」
「そっか……あ、それじゃあ──へっくし! うぅ……えっと、ブランの知り合いの調合師に手紙を書こうと思うから、それを郵便まで持っていってくれる?」
「もちろん! 今便箋とペンを持ってくるわ。それを書いたらゆっくり休んでね」

 そう言うとアサは棚の引き出しに入れてある便箋とペン立ての中のエンゼーペンを取りに一階へと降りていった。
 わたしは心の中で改めてアサに大きく感謝し、布団の中でアサが戻ってくるのを待った。

 
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 次の日。外は晴れ晴れしく、二階の小窓からも明るい日差しが差し込んでくる。
 そして、わたしは毛布に包まりながら一人の人間と一匹のポケモンを見上げていた。

「わぁー! ブランちゃん手紙読んだよ!? 風邪引いたんだって!?」
「うん……ちょっとマシにはなってきたけどね」
「ブランちゃん、心配しないでくださいね。今日一日は私と先生でお店を回しますから」
「ありがとう……助かるよ」

 わたしが書き、アサが送ってくれた手紙を読んで早朝から駆けつけてきてくれたのは、二人の知り合いの調合師──ぼさぼさの茶髪とシンプルな丸メガネ、そして白衣姿が印象に残るお茶目なお兄さんと、そんな彼を『先生』と呼んで慕う助手のネイティオ──だ。
 彼らとはそこそこ長い付き合いで、特にメガネのお兄さんとは一緒に新薬開発をしたりする仲でもある。

「それで……シズルとレティアは手紙を送ったから来てくれると予想してたけど……」

 わたしはそう言いながら寝返りを打って、さりげなくそこに鎮座していた一人の少年と二匹のポケモンの姿を見た。

「……なんでハルカゼお兄ちゃん達まで居るの?」
「いやぁ、それはね? 風の噂で」
「ブランが風邪を引いたっつー事を」
「耳にしたからよっ! かぜ・・だけにねっ!」
「お姉ちゃんそれ最後の言う必要あった?」

 特に何かを伝えたわけではないけれど、わたしの風邪の見舞いに来てくれたのは、頭に被った茶色い皮帽子が白髪と似合う「ハルカゼ」お兄ちゃんと、ちょっと怖い目つきをした、本当は優しいキバゴの「グレッド」。
 そして、いつも元気一杯でわたしの事が大好き……だと言う赤スカーフのロコン「フォロン」お姉ちゃんの三人だった。この三人はいつも一緒に居る旅仲間だという。

 それから、お兄ちゃんやお姉ちゃんと呼んでいるが、別に血が繋がってたりするとか養子であるとかそういう訳ではない。特に深い理由は無いけど、しいて言うならいつも親身になってわたしに接してくれるからそう呼んでいる、だろうか。

「風邪は他人に移すと治るっていうじゃない? だからブランちゃん、遠慮せず私に風邪を!」
「ちょちょちょ近いってお姉ちゃん……というかそれ迷信だし……」
「ブランちゃん、何か食べたいものはある? 僕が買ってくるよ」
「えーっと……アイスクリームとか……?」
「あ! 私美味しいアイスクリーム屋さん知ってるわよ! ハルカゼ、一緒に行きましょう!」

 そうして、ハルカゼお兄ちゃんとローお姉ちゃんはアイスクリームを買うべく外へと向かっていった。
 その途中、一階で調合師の二人とお兄ちゃん達が会釈する声が聞こえてくる。初対面のはずなのに、どうやらもう仲良くなっているみたいだった。

「わりぃな。ハルカゼもローもお前の事が心配なんだとよ。今日だけは付き合ってやってくれ」

 お兄ちゃん達について行かず、お店の二階に残ったキバゴのグレが、苦笑いをしながらわたしにそう言った。

「えへへ……むしろありがたいよ。ブランの事心配してくれる人がこんなにもいるんだもん」
「そうか、なら良いんだ。……さてと、ずっと黙って寝てんのは退屈だろ? 俺が冒険話の一つや二つでもしてやろうか?」

 グレが口角を吊り上げてそう問いた。
 わたしは即座に頷く。冒険話はお父さんからよく聞いていた事もあって、大好きだ。

「そうだな……じゃあ、とある遺跡に金銀財宝を探しに行った時の話をしてやるよ」
「へえっ、面白そう!」
「よし、いいか? 最初、その遺跡の情報を掴んできたのはローの奴だったんだ。それで俺達は半信半疑でローの話を聞いていたんだが────」

 グレがわたしの興味をそそる様に、巧みに話を続けていく。もちろん、わたしもそれに食い入るようにその話をずっと聞いていた。

──風邪を引いてしまったのは災難だったけど、逆に考えればそのおかげでわたしの周りにはこんなにも支えてくれる人やポケモンがいるという事をこうして実感することができたのかもしれない。
 だから、その事に気付かせてくれたアサや皆には本当に……

 ……ありがとう。





──『守りたい気持ち』──


「はい、これが学級だよりで、こっちが今日の宿題のプリント。結構量あるぞ」
「大丈夫だよ、これくらいならすぐ解ける……」

 とある日の夕方前。時期としては夏の終わり頃だろうか。
 ブランのお店の玄関には、ブランと同じ学校に通うクラスメートのグレッグルが立っていた。

「確かに、授業はいつも休むのにテストではしっかり100点取っていくブランだもんな。心配いらないよなー」

 ブランと同じクラスメートという訳で、当然年端もいかない子供なのだが、『皮肉』という言葉の意味を完璧に理解しているかのような口調でグレッグルはそう言い放った。

「そんな事言うけど、リーグ君だっていつも良い点取ってるじゃん……」

 受け取ったプリントを一度床に置き、ブランは少しムッとした顔でグレッグルにそう返す。

「いや、オレなんかブランに比べたら全然だし!」
「でもクラスの間でブランとリーグ君は二大頭良いコンビって言われてるんでしょ?」
「そうだな……そのせいで何故かオレが休んだお前のプリントを届ける係に選ばれたんだぜ……家遠いのに」
「あはは……いつもありがとね。明日はお店が休みだから、ちゃんと学校に行くよ」

 「言ったからな?」とブランの言葉を念押ししつつ、踵を返そうとするグレッグルだったが、直後に何かを思い出したのか、再びブランの方を振り返ってこんな事を話し始めた。

「そういえばさ、オレ、さっきブランのお母さんを見かけたぞ」
「え?」

 突然振られた自身の母親の話題に、ブランの表情が一転する。驚きと期待が入り混じったその眼差しは、真っ直ぐにグレッグルに向けられた。

「ど、どこで見たの……!?」
「え、えっとな……『フラワー・シェルト』っていう花屋は知ってるだろ? ほら、学校の近くにある」
「知ってる! 知ってるよ! そこにブランのお母さんが居たの!?」
「お、おう……前足に青十字のリストバンドを付けたエーフィが居たから、多分ブランのお母さんかな~って……」

 それを聞いたブランは、心の中にあった疑念が消え去り、母親がラカンデラに戻ってきたという事を確信した。

(青十字のリストバンドは、世界各地を回る医者が身に付ける信頼の証……! 冬になるまで帰ってこないと思ってたけど、お仕事が早く終わったのかも……!)

 ブランの母親は世界各地を飛びまわり、数々の病を治してきた名医師である。ブランが生まれて暫くの間は、育児のために仕事を休んでいたが、最近になってまた彼女の手が必要だという国や村が増えてきたので、ブランを一匹ラカンデラに残し、また仕事を再開したのだ。

「“ 記せ エンゼーペン ”!」

 急いでブランは宿題のプリントをお店の中央にある机の上に広げ、「魔法のペンエンゼーペン」で問題の解答を記入し始めた。

「な、なあー、なんでそんな慌ててるんだ……?」

 いつものゆったりとした姿からは想像も付かないような興奮っぷりのブランに対し、グレッグルは困惑気味にそう問いた。

「ブラン、お母さんを迎えに行こうと思う!」
「え? そんなことしなくても、家に帰ってくるまで待ってればいいのに」
「そんなの待ってられないよ! 今すぐ会いたいもん! ……はい宿題終わり!」
「はやッ!?」

 怒涛の勢いで宿題を終わらしたブランは、そのままグレッグルの横を通り抜けるようにして玄関を飛び出した。

「行ってくるね! リーグ君、また明日ー!」
「あ、おい! 気をつけろよ、最近都市内で不審者が────って、行っちゃったし……」

 一匹取り残されたグレッグルは、肩をすくめた後、仕方なさそうにお店の玄関の掛け看板を『ブランのくすりや おやすみです』という文字が見えるようにひっくり返し、自らの家路を辿っていった。

 
────────────────────────────────


 最初にブランはグレッグルが話していた花屋を訪ねた。

「あのっ……! 青十字のリストバンドと白い薔薇の花飾りを身に付けたエーフィを見ませんでしたか……!」
「ええ、それなら先ほどうちの薔薇を暫く眺めた後、屋台通りの方へ向かっていきましたよ」

────薔薇を見るとついつい足を止めてしまうのは、薔薇好きのお母さんの癖だ。
 ブランは花屋の店長にお礼を告げると、今度は美味しそうな匂いが漂ってくるラカンデラの屋台通りに向かって走った。

「あのっ……! 青いリストバンドと白い薔薇を付けたエーフィを見ませんでしたか……!」
「おー、それならあっちの方向に向かっていったぞ。それより嬢ちゃん、焼きそば買ってくかい?」

────いや、結構です。
 ブランは屋台で焼きそばを作っていたおっちゃんにお礼を告げて、母親が向かったという方向に位置していた探検家ギルドを訪ねた。

「あのっ……! かくかくしかじかなエーフィを見ませんでしたか……!」
「あぁ、見た見た! にしてもイーブイちゃん、給仕服似合ってるねぇ!」

────そ、そうかな……? えへへ…………じゃなくてぇ!
 何故かギルドの中に入った瞬間、可愛らしい服装を着せられたブランだったが、とりあえず食堂に居た探険家の証言に従って、今度はラカンデラのとある公園を訪れた。

「あのっ……! ブランのお母さんを見ませんでしたか……!」
「んぁ~……? それなら風船に乗って飛んでったよ……」

────昼寝をしてる人に尋ねたのが間違いだったかもしれない。
 明らかに寝ぼけた様子でベンチに座っている男性に一応のお礼を言葉を告げて、ブランは仕方なく都市内をアテもなく探し回った。



 そうして母親を探し続けること約1時間。まったくその姿を見つける事が出来ぬまま、日が暮れ始めようとしていた。

「色んな人の話を聞くかぎり、確かにお母さんはラカンデラに帰ってきてるみたいなんだけどなぁ……」

 地面が石畳で整備され、白い壁の家が立ち並んでいる住宅地の一本道を歩きながら、ブランは独りでにそう呟いた。

「……もしかしたら、お母さんはもう家に帰ってるのかも?」

 随分と長い間ラカンデラの中を走り回っていたのだから、どこかで母親と行き違いが起きていたとしても不思議じゃない。
 そう考えたブランは垂れていた尻尾をピンと立たせ、家へと向かって走り出そうとした。その矢先。

「ったく! まだ追いかけてきてるのかぁ!?」
「みたいですぜ親分! まったく、しつけぇ奴等ですぜ!」

 道の向かいから一人の人間と一匹のポケモンが叫びながら走ってくるのが見えた。
 なんだなんだとブランはすぐ近くの家の壁に身を寄せ、走ってくる彼らの姿を目を凝らして確認する。
 一方の人間は、『大男』という言葉が似合いそうなスキンヘッドの男性で、布と革で出来た鎧を着込み、背中には大きな斧を背負っていた。
 そしてもう一方は、大きなトサカと下半身のズルズルの皮が特徴的なポケモンのズルズキンで、右手に長剣、左手に大きな麻袋を担ぎ、『親分』と呼んだ大男と共に全力疾走していた。

(こ、こっちに向かってくる……! どうしよう?)

 二人とも旅人や探検家の証である武器を持っているが、どうにも様子がおかしい。何か大変な事に巻き込まれるんじゃないかと思ったブランは、慌てて近くの家のフェンスの裏に隠れた。
 その直後、新たな声が大男達のさらに向かいの方向から聞こえてきた。

「待て! 逃がさないよ!」
「いい加減、私の商売道具を返しなさい!」

────ブランはハッとした。その二つの声は、明らかに聞き覚えのあるものだったからだ。

「……お母さん? それにハルカゼお兄ちゃん!?」

 思わずブランはフェンスの裏から飛び出す。すると予想通り、青十字のリストバンドと白い薔薇の花飾りを付けたエーフィと、茶皮帽子を被り、背中に大きな槍を背負った少年の姿がそこにあった。
 そして、少し左に視線をずらすと、驚いたような目でこちらを見る大男とズルズキンの姿もあった。

「え────ブラン!?」
「ブランちゃん! どうしてここに!?」
「な、なんだお前?」
「イーブイ……が出てきましたぜ、親分?」

 この場にいる全員の視線が自分に集まっている様子を見て、ブランは自分があまり良くないタイミングで飛び出してしまったという事を悟った。

「嬢ちゃん……あのエーフィがあんたのお母さんか?」
「え、あ、えっと……」

 ズルズキンがこちらを覗き込むようにして近づき、顔の位置は目と鼻の先。ブランは怖気づいて首を縦に振りながら、一歩後ろへと下がった。

「ブランちゃん、ダメだ!」
「その人達からすぐに離れて!」

 エーフィ──もとい自分の母親とハルカゼの叫び声に突き動かされるようにして、ブランは地を蹴り全速力で背中側へと駆け出した。
 
「うわああ、お母さぁんっ!」
「親分、あいつあのエーフィの子供ですぜ!?」
「なるほどなぁ? ──“ 駆けろ 疾風(はやて)の狩猟豹よ ”ッ!」

 ブランとエーフィ達のやりとりを聞いて、その関係性を察した大男は、悪い笑みを浮かべながら素早く呪文を唱え、突き出した右腕をぐっと手前に引き寄せた。

「う────きゃああっ!?」

 すると突如、四足の獣のような姿を形作る白い風がブランの目の前に現れ出たかと思うと、その獣は目にも留まらない早さでブランの体を通り抜けるようにして駆け抜けた。
 刹那、獣が駆け抜けた跡に強烈な暴風が吹き荒れる。ブランは成す術なくその風に飲み込まれ、大男の元へと吹き飛ばされてしまった。

「ハハハ! 悪いな。お前に恨みは無いが、ちょっとだけポケ質になってもらうぞ」
「う……? う、うわぁ!? やめっ、離して!」

 大男は吹き飛んだブランを強引に左手で掴むと、そのまま胸元で抱きかかえるようにホールドし、ポケットから錆びた小刀を取り出してブランの首元にあてがった。

「ひっ……!?」

 ずいぶんと切れ味の悪そうな小刀だったが、年端もいかない子どもを怯えさせるには十分な効果を発揮したようで、じたばたと大男の腕の中で暴れていたブランを一瞬で大人しくさせた。

「大変だ、ブランちゃんが!?」
「うそ……? やめて! 私の娘を今すぐ放して!?」

 ブランが悪党の手に渡り、酷く狼狽するハルカゼとエーフィ。特に、エーフィは自分の愛娘をポケ質に取られたこともあってか、顔を赤くし、裏返った声でブランを解放するように叫んだ。

「ケヘへ! 嬢ちゃんを放してほしければ、素直にオイラ達の事を見逃すんだな!」
「な……卑怯だよ! ミツの医療道具を全部奪っておいて、そんなの!」

────お母さんの医療道具を?
 ブランは小刀がもふもふの深くまで食い込まないよう、顔を仰け反らせながら視線を動かし、ズルズキンが持っている大きな麻袋をチラリと確認した。

(つまり、この人達はお母さんが患者の治療に使う大切な道具を盗んだお尋ね者って事……?)

 ブランは思案する。
 周りの家の窓を見てみると、さっきまで閉められていなかった窓などが全部閉まっており、カーテンまで掛けられている。つまりこの異常事態を近隣住民達も把握し始めているという事だ。
 ここまで騒ぎを起こしてしまってはもうラカンデラに滞在する事なんて出来ない。

(なるほど、だから逃げるつもりなんだ。『都市の外』に! ブランをポケ質に取ったのは、逃亡を成功させるための悪あがきって訳だね……!)
「ケヘへ! こんなガラクタでも高く買い取ってくれる所を知ってるんでねぇ!」

 ズルズキンは左手に持っている麻袋をハルカゼ達に見せびらかす。
────お母さんの医療道具はガラクタなんかじゃない! ブランはそう叫びたい気持ちになったが、下手に動くと小刀に当たってしまう可能性があったので、そこはぐっと堪えた。

「さあ、素直に俺様達の提案に応じた方がいいと思うぞ? 心配するな、俺様達は盗みが好きなだけで、ポケ攫いまでする趣味はないからな」
「でも、親分は逃げ延びる為なら手段を選ばない男ですぜ? オイラ達を見逃さないって言うなら、この嬢ちゃんがどうなることやら……」

 大男達がハルカゼ達を挑発する。ハルカゼは握りこぶしを作りつつも、何も言い返せず、ブランの母親であるエーフィの返答を待っているようだった。
 その当のエーフィは、体を微かに震わせながら黙っていた。
 
 ……否、彼女はそれだけでなく、エスパー特有の予知能力を駆使して大男の動きを探ろうとしていた。
 大男達の条件を飲めば、娘は確実に助かる。しかし、このまま大男達の野放しにしてしまうと、必ず他の誰かが彼らの被害に遭うのは明白に予知できた。
 かといって今の状況で無理に大男達を止めようとした場合────鮮明な未来は見えなかったが、万が一のリスクは少なからずあるようだった。

「どうした、ずっと黙ってるだけか?」

 いずれにせよ、答えは必ず出さなければならない。
 エーフィは顔を上げ、言葉を紡ごうとしたその瞬間、大男に抱きかかえられたブランと目があった。

 助けて、お母さん。

 言葉こそ発しなかったものの、ブランの口が確かにそう動いたのをエーフィは見逃さなかった。

「……分かりました。ブランを放してもらいます」
「ケヘへ、という事はオイラ達の条件を飲むって事だな?」
「ミツ……本当に彼らを見逃すの……?」
「ハルカゼさん、私は今何て言いましたか?」

 微笑みながらそう言ったエーフィを見て、ハルカゼは不思議そうな顔を浮かべた。

「見逃すなんて、一言も言ってませんよ────[ねんりき]っ!」

 キラリと、エーフィの額の宝石が妖しく光った。
 その瞬間、小刀を持った大男の右腕が念動波に包まれ、ブランの首元から小刀が引き剥がされる。

「ブラン! そこから抜け出して!」
「わ、分かった!」
「くそっ、小癪な!」

 男が必死にねんりきに抵抗して、小刀をもう一度ブランの首元へと近づけようとした。しかし、その前にブランは男の右手に思いっきり[かみつく]。

「うあっ! くそっ、やめろ!」
「んぐぐ……!」
「親分、今エーフィを止めにいきますぜ!」

 ズルズキンが[ねんりき]を行使するエーフィの元へ、右手に持った剣を振り上げて走りだした。しかしハルカゼはその瞬間を見逃さず、素早く呪文を唱える。

「“ 穿て 精霊のほうき星 ”!」

 呪文によって手の平から生み出された星の結晶を、ズルズキンに向けて放つ。
 
「ゲッ!? なんだ、うわぁっ!?」

 ズルズキンは己に向かって飛んでくる星型の物体に驚いてとっさに防御姿勢を取ったが、星はズルズキンに命中すると共に魔力の爆発を起こし、ズルズキンは吹き飛ばされてしまった。

「どう? 僕の[星撃ちのまほう]は!」

 ハルカゼは突き出した腕を下ろし、威勢よくそう言った。
 [星撃ちのまほう]。それは術者の体内に宿る魔力を星型の結晶として具現化し、それを相手にぶつけて攻撃するという星の魔法使いの汎用的な攻撃まほうだ。

「いでででで! やめろ! 指を噛むな! 千切れちまうって!?」
「んぐぐぐぅ~~!!!」

 一方で、必死に男の親指に食らい付くブラン。男はたまらずブランの拘束をやめて、左腕を振り回し始めた。その瞬間、ブランは大男の親指から口を離し、そのまま地面へと落下する。
 同じタイミングでエーフィもねんりきの対象を大男の右腕からブランへと変更した。不思議な念動波に包まれたブランは、そのままエーフィの元へと浮遊していき、無事に回収された。

「おかあさんっ!」
「ブラン! 良かった……!」

 ブランは感極まって母親の元に飛び込んだ。エーフィもそれを優しく受け止める。これでも実に4ヶ月ぶりの再会になるのだ。
 ハルカゼもそんな様子を見て、安心したように息をついている。

「ちっ、よくもやってくれたな……! “ 駆けろ 疾風(はやて)の────」
「いけない!? [ねんりき]!」
「うぇっ!?」

 怒気を含みながら呪文を唱え始めた大男を見て、エーフィは慌てて[ねんりき]を発動させ、ブランを出来るだけ遠くへと移動させた。

「──狩猟豹よ ”ッ!」

 直後、エーフィとハルカゼの足元から、空に向かって獣が駆ける。

「な…………うわああああっ!!!」
「きゃああああああ!?」

 その次の瞬間には真上に向かって激しい竜巻が巻き起こり、ハルカゼとエーフィの体はいとも容易く宙へと放り出された。
 ブランは母親のねんりきのおかげで、ギリギリ竜巻の外へと避難することができたが、その風の勢いを目の当たりにして言葉を失っていた。

「うああッ!!」
「きゃうッ!!」

 約3、4メートル上空へと打ち上げられた二人は、竜巻が止むと同時に重力に従って落下し、地面へと衝突した。その衝撃はかなりのものだったのか、二人はすぐには立ち上がれず、地面に横たわったままうずくまってしまった。

「お、お母さん!? ハルカゼお兄ちゃん!」
「ハハ、どうだ? 俺様の[疾風のまほう]の威力は!」
「ケヘへ、さすがは親分ですぜ……!」

 [疾風のまほう]。それは文字通り魔力を使って強力な疾風を巻き起こす呪文まほうで、風の魔法使いの中でも熟練した者しか扱えない強力な魔法だ。
 たとえ重量のあるポケモンでも吹き飛ばすことが出来るその魔法を操る大男は、魔法使いとしてもかなりの技量を持ち合わせている事を物語っていた。

「うぅ……!」
「お母さん、しっかりして! ハルカゼお兄ちゃんも!」

 ブランは慌てて倒れた母親の元へ駆け寄り、体を揺さぶった。そんなブランの元に、麻袋を担ぎ直したズルズキンが長剣を向けながら近づいてきた。先ほど食らった魔法のダメージがまだ残っているのか、若干ふらついてはいたが。

「嬢ちゃん、そこをどきな。そのエーフィはオイラ達にとって厄介な存在なんだよ」
「嫌だ! 絶対に退かないよ!」
「ブラン……だめよ……」

 ブランは凜としてズルズキンの前に立ちはだかった。大好きな母親を傷つけさせたくないという想いが大きいのだろう。流石の度胸に、ズルズキンも感心せざるを得なかった。

「嬢ちゃん……あんたはとっても勇敢だな? でも、自分の命を大切にする事を覚えた方がいいと思うぜ……?」

 そう言うと、ズルズキンは右手に持った長剣を大きく振り上げて、ブランに対し再度警告する。

「良いのか? オイラは本気(マジ)だぞ? なんせ、オイラ達は逃げ延びる為なら手段を選ばないからな…………それでも退かないっていうなら!」

 ズルズキンは振り上げた剣を────思い切りブラン目掛けて振り下ろした。

「[まもる]!」

 瞬時、ブランが高らかにそう叫ぶと、淡い黄緑色の障壁がブランの体を包み込んだ。

「な────!?」

 突然ブランがわざを使用した事に驚いたズルズキンだったが、勢いに乗った剣を咄嗟に止めることもできず、そのまま刃を障壁に強く打ち付けた。
 ガキンッ、という音を立てて長剣は弾き返される。跳ね上がった右腕に、ズルズキンの体は強く持っていかれた。

「ブランも、お母さんを守る為なら本気(マジ)にだってなるんだからね……!」
「────ブランちゃん! 大丈夫!?」

 ズルズキンが仰け反るのとほぼ同時、痛みをなんとか克服して起き上がったハルカゼが、槍の穂の反対側──石突を構えてズルズキン目掛けて突進した。

「はあああああああっ!!!」

 ハルカゼはズルズキンに向けて渾身の突きを繰り出す。しかし、ズルズキンはとっさに剣を振るって、突き出された鉄の柄を勢い良く叩き落とした。

「うわっ!」
「あぶねっ!?」

 ハルカゼは攻撃がいなされたことを即座に理解すると、槍を一度頭上でくるくると回してから構え直し、今度は石突を下から上へと突き上げるようにしてズルズキンを攻撃した。
 しかしそれすらも回避され、今度はお返しとばかりにズルズキンの方から剣を構え突撃する。

「これでどうだぁ!?」
「ほっ! とやっ!」

 振り下ろされた剣撃を槍の柄でいなし、矢継ぎ早に繰り出された切り上げをバックステップで回避する。その後、もう一度相手が切りかかってくると読んだハルカゼに対し、ズルズキンはピタリとその場で動きを止めた。
 どうしたんだ、とハルカゼが油断したその瞬間を逃さず、ズルズキンは全速力で前へと駆け出した。

「オイラの必殺技を食らえッ!」

 ズルズキンは強く地を蹴って飛び上がり、ハルカゼ目掛けて勢い良く膝を突き出した。
 ハルカゼは慌てて防御の姿勢を取る。しかし、元よりズルズキンはかくとうに長けたポケモン。その[とびひざげり]の威力は、並大抵のものではなかった。

「うああっ!!」

 蹴りの衝撃を殺しきれず、そのままハルカゼは後ろへと倒れた。すかさずズルズキンが近づいて、剣の刃先をハルカゼの首元に向ける。

「お兄ちゃん!?」
「ハハハ! 残念だったな、俺様達はそう簡単には捕まらねぇ。さ、そろそろ潮時だ。さっさと仕留めてここからおさらばするぞ」
「了解ですぜ、親分!」

 大男が背中から斧を取り出し、エーフィの元へ近づく。ブランは慌てて大男の前に立ちはだかったが、丁度そのタイミングで[まもる]の効果が切れてしまった。
 それを見て不敵に笑った大男は、ブランを軽く蹴り飛ばした。小さなイーブイの体はそれだけでごろごろと地面の上を転がっていってしまう。

「うぅ……やめて……! お母さん達に手を出さないで……!」

 ブランは必死に前足を伸ばした。当然、それで大男達を止める事ができる筈もないわけで。
 大男達は各々の武器を振り上げる。エーフィとハルカゼの二人は立ち上がることが出来ず、絶体絶命だ。

 ブランの目から一筋の涙が零れる。


 お願い……! 誰かお母さん達を助けて……!



「────ハルカゼ達に手は出させないわよ!」

 大男達の武器が振り下ろされる直前。家の屋根の上から、大きく叫ぶ声が聞こえた。ブランは顔を上げ、声が聞こえた向かいの屋根へと視線を向ける。
 すると、そこにはズルズキン目掛けて屋根から飛び降りる六尾の赤狐の姿があった。

「[かえんほうしゃ]ッ!」
「うげ、なんだ────うぎゃあぁぁああっちぃぃぃぃ!?」

 全く予期していなかった空中からの奇襲に、ズルズキンは回避することもままならず灼熱の炎に包まれてしまった。
 涙で霞んだ視界に映る赤狐の姿に、ブランは思わずそのポケモンの名前を零す。

「フォロン、お姉ちゃん……?」

 赤いスカーフを身に付けたロコンは、燃え上がるズルズキンを背に地面へと着地し、間髪入れずに大男の元へと駆け出した。

「くそっ、何だコイツは!?」

 突然の乱入者に驚き、斧を振り下ろす直前の姿勢で固まっていた大男は、こちらに向かってくるロコンに対し、慌てて横薙ぎを放った。

「甘いわねッ!」

 しかし、ロコンは薙ぎ払いのタイミングに合わせて高くジャンプし、斧刃の上に見事飛び乗った。さらにそのまま勢いを殺さず、神懸かったバランスで斧の柄の上を駆け抜け、大男の腕を伝い、顔面へと飛びついた。

「うわ、何すんだ! 離れろっ!」
「さぁ、私の目を見なさい? [あやしいひかり]ッ!」
「ぐあああッ!?」

 ロコンの双眸が紫色に光り、その光を直視してしまった大男はグラリと体勢を崩す。ロコンは素早く大男の顔面から飛び離れ、一度距離を取った。

「ぐっ……くそっ、前が……!?」
「あら? 私の[あやしいひかり]を食らってもまだ立っていられるだなんて……それなりにやるようね」

 見た者を惑わす不思議な光を直視してしまった大男は、堪らず両目を手で覆い、ふらふらとよろめきながらも、斧を支えにしてなんとかその場に立ち留まった。
 ブランは足に力を入れてなんとか立ち上がり、ロコンに向かって大きな声で呼びかける。

「お姉ちゃん、ローお姉ちゃん! 助けに来てくれたんだね……!」
「えぇ、グレから話を聞いて駆けつけてきたのよ! それよりブランちゃん、怪我はない?」
「ブランは大丈夫……!」
「それは良かったわ! ハルカゼ、あなたは!?」
「ううっ……き、“ 傷を癒せ 差し伸べた救いの手 ”! ……なんとかいけそう! 助かったよロー!」

 ハルカゼの旅仲間である「フォロン」────またの名をローの活躍によって絶体絶命の危機を回避し、ハルカゼは[癒しのまほう]を唱えて体に受けたダメージを回復しながら、ゆっくりと立ち上がった。

「お兄ちゃん、お母さんにも魔法を……!」
「分かった、すぐ行くよ!」

 ハルカゼは急いで倒れたエーフィの元に駆け寄り、そっと体に手を当てて呪文を唱え始めた。
 その様子を一瞥したローは「そっちは任せるわ」とハルカゼ達に伝え、体から煙を上げてうつ伏せに倒れているズルズキンの方へと体を向けた。

「ぐぅっ……!」

 ズルズキンの周りには、燃えた麻袋から転げ落ちた医療道具の数々が散乱している。
 
「私の[かえんほうしゃ]の威力はどう? ブランちゃんのお母さんの荷物を奪った罪、こんなのじゃ報いにはならないわよ。ここで大人しく捕まってもらうわ!」

 ローはそう言うと、ズルズキンに向かって駆け出した。その瞬間、ズルズキンはとっさに近くに落ちていた自分の長剣を右手で掴み、振り向き様に刃を振るった。

「きゃあっ!?」

 ローは間一髪の所で後ろに飛び退いて、刃を回避する。姿勢を低くし、臨戦態勢を取りながらズルズキンの事を睨み付けると、ローは相手の左手にある物が握られていることに気が付いた。

「あなた、それって……!」
「ケヘヘ……確か、やけどを治す薬だったよなぁ……!」

 ズルズキンは左手に持っていた試験管のコルク栓を外すと、中に入っていた赤い液体を一気に呷った。
 それを見て、ローの表情は苦いものになる。

「おお……? こりゃすげぇぜ。やけどのヒリヒリがどんどん無くなってく!」

 ズルズキンが飲んだ薬、『チゴロップ』はチーゴの実をベースにした調合薬で、やけどを綺麗さっぱり治すだけでなく、炎に対しても耐性が付くという不思議な薬だ。
 恐らく、エーフィから奪った荷物の中に薬が入っていたのだろうとローは推測する。もしそれが名医師エーフィが調合した薬だったとしたら、品質も一級品のはずで、なおさら厄介だ。

「ケヘヘへ、さあどうする? もう一回オイラに[かえんほうしゃ]でも放つのか?」
「いいえ……その必要は無いわね」

 挑発的な態度をズルズキンが取ると、ローはふっと軽く息を吐いた後、ニヤリと不敵な笑みを浮かべてそう答えた。
 ズルズキンはそんなローの様子を見て、怪訝さと緊張が入り交じった表情を一瞬浮かべる。そのすぐ直後、ズルズキンの目のピントが、ローの遥か後ろへと引き寄せられるように合わさった。

「見つけた! 保安官、あのズルズキンと男が犯人だ!」

 ズルズキンの視線の先、一本道の向かいからは目つきの悪いキバゴが大声で叫びながらこちらを指差し、走ってきていた。

「なるほど、随分と派手にやり合った後のようですが……とにかく彼らを捕まえて事情を聞き出す必要があるみたいですね!」

 さらにその隣に並んで、緑のベレー帽とチョッキを着こなしたグラエナがお尋ね者を捕まえんと吼えている。胸元に付けられた盾のバッジが、このグラエナが大都市ラカンデラの治安を守る保安官であることを示していた。

「分が悪いのはあなた達のようね?」
「チッ! 親分、早く逃げましょうぜ! これじゃ多勢に無勢だ!」
「ぐあっ……くそっ、分かった!」

 さらなる増援の到来に焦りを感じたズルズキンは奪った荷物の事は諦め、迫ってくる保安官達とは反対の方向に駆け出した。それに続いて、大男がちかちかする目を押さえながら逃げ出そうとする。

「こらっ、待ちなさい! ここ最近ラカンデラで窃盗の被害が相次いでいるのはアナタ達の仕業でしょう!? 大人しく捕まりなさい!」
「おまわりさん! 私も追いかけるわ!」

 大男達の後を追いかけようとするグラエナに向かってローはそう伝えた。それを聞いたグラエナは驚いて、一瞬迷った後にローの方へと振り返った。

「ダメです! 市民を巻き込むわけにはいきません!」

 グラエナは女性らしいよく通った声できっぱりとそう言った。そして、一瞬だけ大男達との距離を確認した。まだ追いつける。

「あら? 言っておくけど私はそんなにやわなポケモンじゃないわよ?」

 そう言うとローはグラエナの前に近づき、自身の首に巻いた赤色のスカーフを一瞬だけめくってみせた。すると、グラエナの表情が一変する。

「アナタ、もしかして裏ギルドの…………分かりました。お尋ね者逮捕の協力をお願いします」
「ええ、行きましょ!」

 何かを察したグラエナはローの同行を許可し、再び大男達の追跡を始めた。保安官であるグラエナの脚力は凄まじく、ローもそれに引けを取らないほどの身軽な走りを見せる。



「俺達も後を追いかけるべきなんじゃないか? ハルカゼ」

 そんな様子を見ていたキバゴのグレは、エーフィの治癒を済ませたハルカゼにそう訊いた。

「いや、それよりも先に僕達はブランちゃんを安全な場所へと移動させよう」
「そうか……いや、待てよ。何でブランがこんな所にいるんだよ?」
「えっとね、お母さんがラカンデラに帰ってきたっていう噂を友達から聞いて、ブラン、お母さんの事を探し回ってたんだ……」
「それで、運悪くこの場に鉢合わせちゃったって訳だね……ミツ、立てる?」

 ハルカゼがそっとエーフィに手を差し伸べる。エーフィは手に前足を乗せて、ゆっくりと立ち上がった。

「ええ……ありがとうございます、ハルカゼさん。もう大丈夫です」
「お母さん! 無事で良かった……!」

 怪我も治って、悪い人達はもうここには居ない。ようやく母親と落ち着いて顔を合わせられる。
 そう思うと、今まで必死だったブランの表情からは憑き物が落ちたかのように穏やかな笑顔が浮かんできた。エーフィも、それに答えるようにして優しい笑みを見せる。

 そして。

「ブラン、ハルカゼさん達と一緒に先に家に帰ってなさい」
「……え?」

 エーフィは突然、大男やロー達が向かっていった方向へと駆け出した。状況が理解できず固まってしまったブランに代わって、ハルカゼが慌てて呼び止める。

「待って! どこへいくつもりなの?」
「私もあの人達を追いかけます」
「な……それは止めときなって、ブランの親御さん。さっきまでボロボロだったじゃないか。後の事はローの奴等に任せとけば良い」
「……とてつもなく嫌な予感がするんです。このままだとあの人達を逃がす事になってしまうかもしれない…………だから、私も止めにいかないと」
「で、でもね、ミツ!」
「それに、私だってもう許せないんです。私の大切な娘をポケ質に取った彼らの事が……!」

 エーフィはいたって真剣な表情で、ハルカゼ達は返す言葉を詰まらせてしまう。そんな中、ブランは戸惑いを隠せないまま母親に呼びかけた。

「お母さん……そんな、ダメだよ! 危ないよ!」
「心配しないで、ブラン……悪い人達を捕まえたら、すぐに戻ってくるからね」
「え……ちょっと? ねぇお母さん! もう良いんだよ! 無理して捕まえに行かなくたって、ブランはお母さんが無事ならそれで!」

 大男達を追うべく走り出した母親を、ブランは必死に呼び止めようとする。しかし、母親は足を止めようとしなかった。

「待ってよ! 嫌だよ行かないでよ! お母さん! ねぇ、おかあさぁぁん!!」

 ブランの悲痛な叫びも虚しく、母親はあっという間に一本道の奥へと姿を消していった。ブランはがくりと力なく項垂れる。
 
「お母さん……嫌だよ……」

 ブランはただその場に立ち尽くす事しかできなかった。喧騒が止み、周囲の家からは外の様子を確認しようと恐る恐る窓から顔を覗かせる人も出てくる。
 何とも言えない微妙な雰囲気に耐えられなくなったのか、グレは落ち込むブランにそっと声を掛けた。

「あー……ブラン、元気を出せよ。あんたの母親ならきっと大丈夫だ」
「でも……! お母さんの身に何かあったら……!」
「気持ちは分かるが、まずは落ち着いて、一旦状況を整理しよう。多分あんたも色々と聞きたい事があるだろうしな」

 そうグレに言われて、ブランはハッとした。

「そういえば……なんでお兄ちゃん達はブランのお母さんと一緒に居たの?」

 ずっと気になっていたことをブランは尋ねる。自身の母親とハルカゼ達はまだ一度も顔を合わせた事が無かったはずだ。

「それはね、まぁちょっと説明が長くなるんだけど……僕とグレは旅立ちの準備をするために必要な道具の買い出しに出掛けてたんだ。僕達、三日後にはラカンデラを出るからね」
「え……そうなの……?」
「うん。少し前に、居なくなった僕の父さんの足掛かりを掴んだんだ。それから……ブランちゃんのお父さんの足掛かりもね」
「えっ!?」

 ブランは思わず驚きの声をあげた。自身の父親は1年半前に家を空けてからずっと音沙汰が無いままでいる。そんな中でのハルカゼの知らせは、嬉しいが、にわかにも信じがたい事だった。

「本当に、ブランの……お父さんの行方が分かったの……!?」
「正確には分からないけど、僕の父さんに似た人物がブースターと一緒に行動しているところを、ここからずっと西に進んだ所にある国で目撃されたって聞いたんだ。しかもそのブースター、尻尾に銀色の薔薇のアクセを身に付けてたって」
「銀色の薔薇のアクセ……そういえば、お母さんがお父さんにそんな感じのアクセサリーを贈ってたような気がする! ……でも、どうしてブランのお父さんとお兄ちゃんのお父さんが一緒に……?」
「理由は分からないよ……それに、この目撃情報はかなり前のものだから、もしかしたらまた他の場所に移動してるかもしれない。でも、とにかく行って真相を確かめなきゃ」

 ハルカゼがそう言った後、グレが話を続ける。

「少し話がずれちまったな。それで、買い物を終えて俺達が泊まっている宿に帰ろうとした時だ。あの男達が道端を歩いていたエーフィの荷物をひったくる瞬間を見てしまったのさ。それで、見逃すわけにも行かないと俺達は男達を止めにかかった」
「荷物を盗られたエーフィがブランちゃんのお母さんだと知ったのは少し後の事だったよ。薔薇の髪飾りを付けてたからもしかしたらとは思ってたけど……それで、僕はグレに宿で休んでいるローと、ラカンデラの保安官を呼んでくるように頼んだんだ」
「あぁ。ローの奴、ブランの母親がお尋ね者に荷物を盗まれたって聞いた時『それは許せないわね。私が懲らしめてやるわ!』なんて威勢良く言ってたが、あいつも時々俺の荷物を盗ったりするから、あんまり説得力は無かったな」

 まぁ荷物は後でちゃんと返してくれるから良いんだけどな、とグレは苦笑いでそう付け足す。

「なるほど、大体分かったよ……だから最初、お母さんとお兄ちゃんの二人だけであの人達を追いかけてたんだね……」

 騒動の一連の流れを聞いて、ブランはとりあえず納得する。しかし、ブランはまだ大男達の元へ向かっていた母親の事が気掛かりだった。

「ハルカゼお兄ちゃん、グレ。本当にありがとう。お母さんの助けになってくれて…………それで、ブラン、今からでもお母さんの元に────」
「あっー! 見つけた! グレ~! ハルカゼ君~!」

──突如、大きな声がブランの喋りを遮るようにして後ろの方から聞こえてきた。その場に居た全員が声の方向へと振り向く。
 大男達が逃げていった方向とは反対側の一本道の奥からは、真っ赤な髪をお団子にして結んだ元気そうな少女と、眼鏡を掛けた黒髪の少年がこちらに向かって走って来ていた。

「シオリ、モリト! お前ら付いて来てたのかよ?」
「そりゃあグレがあんなに大慌てで宿に戻ってくるものだから、一体何事だと……」

 黒髪の少年が息を整えながらグレにそう答えた。ブランがこの人達は誰だろうと思っていると、さらに後ろの方から一匹のグレイシアとブースター(当然、ブランの父親とは全くの別ポケ)が追いかけてきているのが見えた。

「ちょ、ラビィ、待って、しんど……!」
「もう、ファルメのノロマぁ! もっと急いでよ!」

 ブースターの方は体力があまりないのか、息をぜぇぜぇ切らしながら必死にグレイシアの後を追いかけている。

「ハルカゼお兄ちゃん……あの人達は誰……?」
「同じ宿に泊まってるルームメイトだよ。うちの宿、料金は安い代わりに見ず知らずの人やポケモンが複数人同じ部屋に入れられて、そこで雑魚寝するんだ。僕も最初はビックリしたけど、長い間泊まってる内にすっかり皆と友達になっちゃった」

 なるほど……とブランは相槌を打つ。そんなブランの前に、赤髪の少女が近づいてきて話し始めた。

「初めまして~! 私はシオリって言うの。17歳! 気軽にシオリちゃんって呼んでね! それで、キミの名前は?」
「あ、えっと、初めまして……ブランだよ。8歳で、一応、調合師をやってるんだ……よろしくね、シオリちゃん……」

 ブランはおずおずと「シオリ」という名の赤髪の少女に答える。当のシオリは「このコとっても可愛いねー!」とハルカゼに笑顔で言いながら、ブランの事を抱き上げた。どうやら人間にもポケモンにも、結構フレンドリーな性格らしい。

「私が他の皆を紹介するね! この眼鏡を掛けたお兄さんがモリトだよ!」
「あぁ、初めまして……モリトさ。グレから色々話は聞いてる」
「初めまして……その、随分とおっきい本を持ってるね」

 「モリト」と呼ばれた黒髪の少年の脇には、革表紙の分厚い本が三冊も抱えられていた。若干無愛想な目つきと、黒縁の眼鏡が合わさって本の虫という言葉が似合いそうな印象がある。

「あまり気にしないでほしい。読書の途中だったからね……」
「モリトってば、いっつも部屋の隅で本ばっか読んでるんだ~。宿に行ってみたら分かるよ、モリトのスペースには凄い量の本が山積みにされてるんだもん」

 シオリがそう付け足す。それを聞いてモリトは一瞬だけ微妙な顔を浮かべたが、自覚があるのかあまり気にはしていない様子だった。

「で、こっちのグレイシアとブースターがラビジェルとファルメだよ~! 二匹は一緒に旅をしていて、私達よりずっと年上のカップルさんなんだ!」
「初めまして、ブランちゃん。あたしはグレイシアのラビジェルよ。皆からは『ラビィ』って呼ばれてるからそう呼んで。成り行きで付いて来ちゃったけど、あたしに出来る事があったら何でも言ってね」
「はぁ……はぁ……や、やぁブランちゃん……僕はブースターのファルメ……僕にも出来る事があったら……う、しんどぉ……!」
「もう、ファルメったらしっかりしなさいよ!」

 息を切らしてまともに喋れていないファルメを、ラビィが前足で小突く。
 一応、旅人である事を証明する為か、それともお守りとして持っているのか、二匹の首には鞘に納められたナイフが紐で吊るされていた。

「えっと、皆、ありがとう。ブランの為に駆け付けてくれて……それで、皆よく聞いてほしいの」

 ブランはここに居る全員が自分の為にやって来てくれたという事に感謝の意を示し、それから自分の思いを伝え始めた。

「今、ローお姉ちゃんとグラエナ保安官が悪いお尋ね者を追ってくれてる。でもそこにブランのお母さんまで追いかけにいっちゃったんだ…………お母さんはエーフィだけど、お医者さんであって、別に戦いが得意なポケモンっていう訳じゃないから、ブラン、とても心配で……」
「つまり、ブランちゃん。それってお母さんを連れ戻しに行きたいって事ー?」
「その通りだよ、シオリちゃん……」

 ブランがそう言うと、グレがうーんと腕を組んで唸った。

「ブラン。もう一度言うが、その気持ちは分かる。ただ、武器を持ったお尋ね者の前にあんたを連れて行くのは流石に危険すぎるな……」
「そうだね。ここは僕とグレの二人でミツを連れ戻しに行って来るよ。だからブランちゃんはシオリ達と一緒に安全な場所で待ってて」
「でも、お母さん、凄く怒ってた……もしかしたら、止めても無茶して戦おうとするかもしれないよ……」

 だからブランも一緒に止めに行きたい。ブランの言うことならきっと聞いてくれるはずだから。と、強く訴えた。ハルカゼとグレが困ったような顔をする。
 ラビィが「いざという時はあたし達がブランちゃんの盾になれば良いのでは」と提案するが、弱気なファルメがすぐに首を横に振った。シオリも不安そうな顔を浮かべる中、モリトだけは何かを思いついたようで、全員に話を聞いてほしいと促した。

「お母さんを連れ戻すという目的とはかなり外れているんだが……一つ、その逃げ出したお尋ね者とやらを捕まえられるかもしれない策がある」
「モリト、それは本当なの?」
「あぁ、これはイーブイ、つまりブランが居るからこそ出来る方法だ」
「え……ブランが?」
「そうだ……まずは皆、これを見てほしい」

 そう言うとモリトは、脇に抱えていた分厚い本の中から一冊を取り出し、地面に置いてとあるページを開いた────


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 この大都市ラカンデラの中央部には、大きな広場があり、そこには国のシンボルである大きな時計塔が建てられている。
 そこに、長い逃走劇の末にたどり着いた大男達と、後を追いかけていたローとグラエナが睨み合って対峙していた。

「さあ、もう逃げられませんよ!」

 保安官のグラエナが、威勢良くそう叫ぶ。
 日も沈み、魔法の光を放つ街灯が並ぶ時計塔下では、どこからか騒ぎを聞きつけた野次馬達が集まってきており、大男達はいつの間にか包囲される形で逃げ場を失ってしまっていた。

「くそっ、どいつもこいつも面倒な奴らだ!」
「もう諦めて大人しく捕まったらどうかしら? これ以上抵抗しても無駄よ!」

 ローがそう言いながら一歩前に歩み寄ると、大男達はそれに反応して一歩後ろへと下がる。
 大男達の背に映る大きな時計塔。もう何処にも逃げ出せないのは確かなはずなのだが、それでも大男達は額に汗を流しながらニヤリと笑って言った。

「ケヘヘ、それだけは絶対に御免だぜ! 親分、あの手を使いましょう!」
「ああ、そうするしかないな! “ 何人通さぬ────」

 大男が両手を前に突き出し、目を瞑って呪文を唱え出す。突然の事に、ローとグラエナは慌てて呪文の行使を止めるべく前へと走り出した。

「────風の障壁 ”ッ!」

 しかし、ロー達が大男の元にたどり着くより早く呪文は完成し、大男が前に突き出した両手を勢いよく上に振り上げると、地面から壁がせり出してくるかのように灰色の暴風の障壁が出現した。

「きゃあ!? 何よこの風は!」
「ハハハハハ! これでもう俺様達には近づけまい!」

 灰色の暴風は大男達を中心として、時計塔を巻き込むような形で時計回りに吹き荒れており、少し触れただけで体が吹き飛ばされてしまいそうな程の勢いがあった。
 当然、ロー達にこの障壁を突破する方法は無く、歯を立てて唸る事しか出来なかったのだが、そこでグラエナがある一つの疑問を覚え、風に囲まれて姿が見えなくなった大男達に向かって問いかけた。

「それで、そこからどうするつもりですか! その状態じゃアナタ達も外には逃げ出せないでしょう!?」
「ケヘヘへへ! それはどうかねぇ!」

 ズルズキンの愉快そうな笑い声だけが返事として返ってくる。
 何がそう可笑しいんだとロー達が怪訝な表情を浮かべると同時、野次馬達の中から一際大きな叫び声が聞こえてきた。

「今すぐその人達を捕まえないと! 逃げられてしまいます!」

 ローにとっては聞き覚えのあるその声。驚いて二匹は声の聞こえた後ろの方向へと振り返った。
 そこには、必死な表情でこちらに走ってくる、白い薔薇の髪飾りを身に付けたエーフィの姿があった。

「ブランちゃんのお母さんっ!? どうしてここに!」
「お久しぶりですね、ローさん。先ほどは助けて頂いてありがとうございます。それより、今すぐに彼らを止めないと!」

 ブランの母親──エーフィはロー達に向かって必死に訴える。グラエナは一般ポケが乱入して来たことに酷く驚いていたが、すぐにそのエーフィが先ほど大男達にやられていた被害者であるという事を思い出し、とにかく一度なだめて話を聞くことにした。

「彼らが逃げてしまうとは、どういうことですか?」
「私には見えるんです。このままだと彼らはいつの間にか姿を眩ましてしまう、そんな未来が……」
「でも、どうやってかしら? あいつらは竜巻の中に居て、外には出られないはず……」

 ローは吹き荒れる暴風の壁を見ながらそう言った。エーフィはその質問に答える為、もう一度意識を集中させて大男達の未来を予知した。

「何か……一瞬でこの場から離れられる……そんな不思議な力……」

 『不思議な力』というワードを耳にして、グラエナはまさか、と声を漏らした。

「魔法……? 魔法を使って、ここから逃げだそうとしているのでは?」
「なんですって? それって大変じゃない! 今すぐに止めないと!」

 ローが慌ててそう叫ぶ。すると、エーフィが二匹の前に歩み出て、風の障壁を見据えながら言った。

「私が[ねんりき]を使って、一瞬だけ風の流れを止めます。その間にお二方は中に入って、あの人達を捕まえてください」
「分かったわ! おまわりさんも、それで良いわよね?」
「……分かりました。でもエーフィさん。何か危険を感じたらすぐに逃げるようにしてくださいね」
「ええ、分かってます。なので…………絶対に、彼らを捕まえてください」

 エーフィはそう言いながら、暴風の向こう側に居る大男達をキッと鋭く睨み付けた。穏やかな性格の彼女でも、可愛い娘を危険な目に合わされたその怒りはかなりのものなのであろう。
 ローとグラエナは暴風の前まで近づいて、突撃の準備をした。その後ろで、エーフィが深く深呼吸をする。

「いきますよ…………[ねんりき]っ!」

 エーフィが高らかに叫ぶと同時、額の宝石が妖しく光った。その瞬間、激しく吹き荒れていた風の流れは不思議な念動波に阻まれて、一瞬だけその動きを止めた。
 その瞬間を逃さず、ローとグラエナは風と風の間に出来たトンネルを即座に通り抜ける。

「なっ!? お前ら!?」

 突如として障壁を突破し、中に転がり込んできたロー達を見て、大男とズルズキンは酷く驚いた。その足元には、まだ未完成の魔方陣がチョークで描かれていた。

「やっぱり! 『儀式まほう』を使ってここから逃げ出すつもりだったのね!」
「チッ……どうしますか親分! バレちまいましたぜ!」
「こうなったら仕方ねぇ、返り討ちにしてやる! ブロウ、あのわざを使え!」
「了解ですぜ!」

 大男が指示を飛ばすと同時、ズルズキンは両手を広げて手の平に力を込めた。すると、ズルズキンの両手からは紫色の球体が形成されていく。

「食らえ! [ヘドロばくだん]!」

 ズルズキンは形成された二つの紫色の球体をローとグラエナに向かって一つずつ投げた。ロー達は突然繰り出された遠距離攻撃に驚いたものの、素早く左右に飛び退いてヘドロを避けた。
 しかしその直後、立て続けに大男が斧を振り回しながら突撃してくる。

「おらぁッ!!」

 斜め上に斬り上げられた斧の刃を、ローは軽々とバク転で間合いから離れる。大男は攻撃が外れたことを理解するも、そんなことは気にも留めずそのまますぐ右前に居たグラエナに向かって斧を振り下ろした。

「甘いですね」

 グラエナは四肢に力を入れて素早く横にステップを踏む。斧はグラエナを掠め、ガンッ! と勢い良く石造りの地面にめり込んだ。
 そして、大男が斧を引き抜こうとするその隙を逃さず、グラエナは大男の腕に力強く噛み付いた。

「うああああッ!? いってえ!?」

 当然だが、大人であるグラエナの噛み付く力は8歳児のイーブイなどとは比にもならない。革の鎧である程度保護されているとはいえ、[かみくだく]レベルの威力で噛まれ続けてはひとたまりもないと、大男は必死になって腕を振り回した。

「親分!?」
「あら? あなたの相手はこっちよ?」

 一瞬、ズルズキンが気を取られている間に、ローは口から炎を漏らしながらズルズキンとの距離を縮めていた。

「さっきのお返しよ! [かえんほうしゃ]!」

 ローが顔を大きく仰け反らせ、口に溜めた炎を一気に吐き出そうとする。その様子を見て、ズルズキンは両腕をクロスさせて身構えた。

「チッ、オイラに炎わざはもう効かね────!?」

 その次の瞬間。目の前に居たはずのローは残像となって消えた。ズルズキンが目を見開いて驚いていると、背後から声が聞こえる。

「騙されたわね?」

 ズルズキンが後ろを振り向くと同時、勢い良く飛び込んできていたローの強烈な後ろ足キックが顔面に決まった。
──かえんほうしゃを撃つとみせかけてからの華麗な[だましうち]。そのままローは倒れたズルズキンの上に乗っかり、前足で首元を押さえつけた。

「もう暴れさせはしないわよ!」

 馬乗りになった状態でローは力強くそう言う。すると意外にも、ズルズキンは暴れたりして抵抗するような素振りを見せなかった。その代わり、ズルズキンは顔を俯かせながら不敵に笑い出した。

「ぐっ……ケヘへ……まだ捕まえた気になるには早いぜ……?」

 そう言うと、ズルズキンは口角を吊り上げながらローの事を睨んだ。その瞬間、ローはハッと目を見開いて、反射的に後ろを振り返った。
 ローの目前に迫ってきていたのは、[ヘドロばくだん]。

「きゃあ!?」
「きゃううっ!」

 ローは咄嗟にヘドロを避けようと試みるが、僅かに間に合わず、べちゃりと体にヘドロを受けてしまった。同時に、グラエナも不意打ちのヘドロを食らったようで、悲鳴を上げていた。

「オラッ、離れろ!」
「オイラの上から退きやがれっ!」

 大男とズルズキンは、ヘドロを受けて怯んだグラエナとローを強引に引き剥がす、あるいは蹴り飛ばした。そしてそのまま、地面に倒れた二匹に追撃を仕掛ける。

「食らえやあああああ!!」
「はああああああッッ! [きあいパンチ]ッ!!」

 大男が力強く叫びながらグラエナを全力で蹴り上げ、ズルズキンがローに渾身の[きあいパンチ]をお見舞いする。モロにその攻撃を食らった二匹は、暴風の壁を突き破って外へと吹き飛ばされた。

「ぐぅぅぅぅっ…………!」
「うぁっ……! うぅ……!」
「ローさん!? 保安官さん!?」

 吹き飛ばされた二匹を見て、野次馬達が驚いたような声を上げる。そんな中、少し離れた場所で待機していたエーフィが大慌てでロー達の元に駆け寄った。

「だ、大丈夫ですか!? しっかりしてください!」
「へ、平気よ、これぐらい……う、げほっ! アイツら、やってくれるじゃないの……!」
「う……さっきのヘドロ、竜巻の方向から飛んできてました……! 私達が避けたヘドロをあの男が風をコントロールして再利用してきたみたいですね……!」

 ローとグラエナは体に付いたヘドロを振り落とし、よろめきながらも何とか立ち上がる。前を向くと、灰色の暴風は既に消え去っており、中から大男達が姿を現していた。

「はぁ……まさかこの壁を破って入ってくるとはな……今度はもっと頑丈な壁を作らないといけなさそうだ」

 大男がため息をついてそう言った。しかしそこにエーフィが食ってかかる。

「何を言っているのですか? もうあなたにそんな魔力は残ってないでしょう!」

 大男は先ほどから強力な風の魔法を連発している。だからもう今の[風壁のまほう]を越える魔法を発動できる魔力など体に残っているはずがないのだ。
 しかしそこで大男はまたニヤリと笑って、ズルズキンの方に左手を差し出した。

「奪ったあの薬を寄こせ」
「了解ですぜ、親分!」

 ズルズキンはよれたズボンのような皮の中から、一本の試験管を取り出して大男に手渡す。試験管に満たされたキラキラと光る鮮やかな青紫色の液体を見て、エーフィはそれが何なのかを即座に理解した。

「マナスター……!?」

 体内の魔力を一気に全快させる魔法薬、『マナスター』。麻袋が焼け焦げて医療道具が散乱した際にズルズキンがこっそり掠め取っておいたその薬を、大男は一気に飲み干した。

「ふぅ……ハハハハハ、俺様達を捕まえようなんざ100年早いんだよ! はぁぁぁぁ……! “ 何人通さぬ────」
「っ! いけない!」

 大男が再び呪文を唱え始めたのを見て、エーフィは誰よりも早く大男を止める為に全速力で前に走り出した。後ろからロー達が危ないと叫ぶ声も聞こえてきたが、それでも足は止まらない。
 ズルズキンはこちらへ向かってくるエーフィを止める為、腰に差した長剣を引き抜いて素早く大男の前へと躍り出た。

 エーフィは驚いて一瞬動きを止める。しかしすぐに[サイケこうせん]をがむしゃらに放ちながらズルズキンの横へと回り込み、無視して大男の元へと駆け出した。

「風の── ”」

 大男との残り距離は僅か5mほど。しかし、もう呪文は完成寸前。
 これじゃ間に合わない────大男の体から発せられる膨大な魔力の流れを微かに感じ取りながら、エーフィがそう思った瞬間。

「“ 唄は届かない ”」

────バチィ!

「なッ!?」
「えっ……!?」

 どこからか、低い男性の声が聞こえてきたかと思うと、大男の体から発せられていた魔力の流れが急に途切れて、消え去ってしまった。大男と、その目の前に居たエーフィが驚いて声を漏らす。

「なんだ! 何が起きやがった!?」

 魔法行使の失敗──すなわち『バニッシュ』を起こした大男は、しばらくの間一切の魔法を使うことが出来なく無くなってしまう。
 大男は狼狽して、喚きながら辺りをキョロキョロと見渡した。

「ギリギリ間に合ったって感じか……」

 そう言いながら、野次馬達の群れの中からゆっくりと出てきたのは、黒髪の眼鏡を掛けた少年。
 
「モリト!? それに……シオリちゃん達も!」

 黒髪眼鏡の少年──モリトの後ろには、シオリやハルカゼ達も付いてきており、同じルームメイトであるローは、いの一番に声を上げた。

「ローちゃん~! シオリちゃんと皆が助太刀にきたよー!」

 シオリはローに向かって笑顔で手を振る。ローはハルカゼ達がやって来た事に加え、その後ろから『エーフィを除いたイーブイの進化形』が、勢揃いでやって来ている事にも驚いていた。

「げっ……! 親分、何だかヤバそうですぜ……」
「さっきよりも人数が大量に増えてやがる……!」

 大男とズルズキンもイーブイの進化系、いわゆる「ブイズ」のほとんどがずらりと並んでいるという異様な光景に呆気を取られていた。
 そんな中、モリトの足元に隠れていたブランが飛び出してきて、母親のエーフィに向かって大きな声で叫んだ。

「お母さん! お願い、こっちに戻ってきて! お母さんの力が必要なの!」
「ブラン……!? わ、分かったわ!」

 突如としてこの場に現れた娘の姿にエーフィは一瞬混乱するが、すぐに、娘は自分の事を心配して危険を承知でここまでやって来てくれたのだろうと理解すると、一目散に大男達から背を向けブランの元へと走った。

「ハルカゼ、これで準備はokだな」
「そうだね、モリト。よし、皆! 力を貸して!」

 ハルカゼが後ろのブイズ達に向かって大きな声でそう言うと、脇に抱えている茶色味の帯びた紙のシートを勢い良くその場に広げた。そのシートには、九つの円が複数の線と模様で結ばれているという不思議な形の魔方陣がチョークで描かれていた。

「さ、あたし達の出番ね!」
「ほ、ほんとに上手くいくよね……?」

 その九つの円の内の一つずつに、グレイシアのラビィが意気揚々と、ブースターのファルメが心配そうに入っていく。

「要はこの円の中に立っておればいいんじゃろう? 悪者退治の為なら、ワシも是非とも力を貸すぞ」

 それに続いて円の中に入っていったのは、左耳に白いねじりはちまきを結び付けた少しおじいちゃんなリーフィアであった。

「…………ワタシも、正義の為なら」

 さらにその後に続いて、探険家バッチを身に付けたクールなシャワーズがゆっくりと円の中に入っていく。
 
「な、何だ? お前らは一体何をしようとしているんだ?」
「そうですぜ! そんなにイーブイの進化系を連れてきて!」

──次々とブイズが魔方陣の中に集まっていく様子を見て、何か嫌な予感がした大男達は耐え切れずにそう聞いた。恐らく、エーフィやロー達、周りの野次馬達も同じ疑問を持っていただろう。
 その疑問に、モリトが代表として一歩前に歩み出てきて答える。

「そんなに気になるなら教えてあげるよ……今俺達が行おうとしているのは『九進獣のぎしき』さ」
「「九進獣の、ぎしき……?」」

 大男とズルズキンが声を揃えてその儀式まほうの名前を復唱した。モリトはふっと笑って、大男達に説明を続けた────





「────九進獣のぎしき?」
「ああ。イーブイと、その進化系全員が集まることで発動できる儀式まほうさ」

 時は少し戻って、住宅地の一本道の真ん中。
 モリトは地面に広げた一冊の本のとあるページを指差して「お尋ね者を捕まえられる策」の説明をハルカゼ達に行っていた。

「たまたま読んでいたこの本に発動の仕方が詳しく記されていたんだが……どうやらこの九つの円が描かれた魔方陣の上に、イーブイとその進化系のポケモンがそれぞれ一匹ずつ乗って、人間の血を捧げれば、イーブイの進化系八匹分の魔力を一匹のイーブイに分け与える事ができるらしい」
「つまりここでは……ブランがその八匹分のポケモンの魔力を貰うわけだね……」
「そういう事になるね。そして、その魔力があれば、少しの間スピードやパワーを爆発的に上昇させる事ができる……たとえ幼いイーブイだったとしても、お尋ね者二人組ぐらいなら軽く翻弄することが出来るはずだ」

 モリトがそう説明すると、ハルカゼがうーん、と首に手を当てて、一つの不安を投げかけた。

「でもそれって、ブランちゃんがお尋ね者の前に出てきて戦うっていう事だよね……? 仮に九進獣のぎしきでパワーアップしたとしても、ちょっと危険なんじゃない……?」
「そうだな……確かに、少なからずリスクはある。だから、これをやるかどうかは……ブラン自身に聞きたい」

 そう言いながら、モリトはシオリに抱きかかえられているブランの事を見た。ブランは迷いを見せず、力強く頷く。

「その作戦……ブラン、やるよ! お母さんを連れ戻して、悪いお尋ね者もブランが懲らしめてみせる!」
「…………なんとなく、君ならそう言うんじゃないかと思ったさ。じゃあ、そうなったら次はどうやってイーブイの進化系を全員集めるかだね」

 モリトがそう言うと、グレは三本指を折って数を数えながら喋りだした。

「まず、イーブイとブースターとグレイシアはここに居るわけで、エーフィもブランの母親を連れ戻してくれば良い訳だから……残るイーブイの進化系はシャワーズ、サンダース、ブラッキー、リーフィア、ニンフィアの5匹か」
「5匹だけなら、ラカンデラを手分けして探せばすぐ見つかりそうだよね~!」

 シオリが元気そうに言うと、首に前足を当てていたファルメが何かを思い出したようで、話し出した。

「そう言えば、僕……この街で大工をやっているリーフィアを知ってるよ。ちょっとお年寄りだけど、良いポケモンだから、事情を話せば助けに来てくれる……かも?」
「よし、ファルメ。すぐにそのリーフィアを呼んできてほしい。他に、イーブイの進化形で知り合いが居る人は?」

 モリトが続けて尋ねると、今度はブランが喋りだす。

「ブランの知り合い……というか、よくお店に来てくれるお客さんに探検家のニューラが居るんだけど、そのニューラのパートナーがブラッキーなんだ……ギルドに行って頼めば、きっと力を貸してくれるはず」
「あ、それじゃあ私はブランちゃんと一緒にそのギルドに行ってみるよー! 他にも進化系のポケモンが居るかもしれないし、そろそろ暗くなってきたから、ブランちゃん一匹だけだと危険だからね~」

 シオリが腕に抱えたブランの事を優しく撫でながら、にこやかな笑顔でそう言った。ブランにとっても、一匹でギルドに行ったらまたいきなり可愛い服を着せられるんじゃないかと内心心配だったので、シオリの提案はありがたかった。

「分かった、じゃあ二人は探検隊ギルドに向かうとして……俺とハルカゼはここに残ってこの本に描かれた魔方陣をチョークで描き写す作業をしようと思う。グレとラビィも、手分けして残りのイーブイの進化系を探してきてほしい」
「了解だぜ。それなら、誰がどのポケモンを探すかを決めた方が効率が良いな。俺はサンダースを探すから、ラビィはニンフィアを、シオリはギルドでシャワーズを探してきてくれ!」
「了解よ、グレ!」 「分かった~!」

 それぞれの役割を確認し終えた頃には、ハルカゼは背中に背負っていた鞄の中から大きな紙のシートを取り出して、その場に広げ始めていた。

「それじゃ、僕達は早速魔方陣を描き写し始めるから、皆も行ってきて! イーブイの進化系を全員見つけたらすぐに合流してお尋ね者が逃げた場所に向かおう────」





「……と言うわけさ。この九進獣のぎしきが発動すれば、すぐに君達はブランの手によって捕らえられるだろうね」

 モリトが眼鏡をクイッと上げてそう締めた。大男達がそんな馬鹿な、といったような表情を浮かべる。

「ささ、そういう事だからお母さんも早く魔方陣の中に入って……!」
「え、ええ……? わ、分かったわ!」

 まだ少し困惑気味の母親をブランはぐいぐいと魔方陣の中に押し込んで立たせる。そして、すぐ近くに居たブラッキーにも魔方陣の中に入るように催促した。

「イルビド……だったよね? お願い、ブランに力を貸して!」
「へっ、姉御の知り合いだって言うから仕方なく来てやったが、嬢ちゃん、ホントにアイツらを止められんのかい?」

 全身古傷だらけで、じゃらじゃらのアクセを大量に身に付けた探検家のブラッキーがブランの事を見下すようにそう言った。

「ここまで来たらやるしかないよ……! だから、お願い!」
「……しゃーねーな。それならオレも手伝ってやるさ」

 ブラッキーはめんどくさそうな表情を変えず、ゆっくりと魔方陣に向かって歩き始めた。

「ありがとう……! その右耳のルビーのピアス、カディンとお揃いだよね? とっても似合ってるよ」
「……へっ、嬢ちゃん、目の付け所が良いじゃねーか」

 ブラッキーは一瞬だけニッとブランに笑いかけ、すぐに顔を背けて魔方陣の中へと立った。

「くそっ、九進獣だかなんだか知らんが、そうはさせねぇ!」
「親分、行きましょうぜ!」

 一方で、大男達は儀式の発動を妨害しようと、武器を振り上げてハルカゼ達の元へと駆け出した。しかしそこに、ローとグラエナとシオリの三人が立ちはだかる。

「ここから先は通さないわよ! さぁ、シオリちゃんやっちゃって!」
「りょ~かい! “ 煌めけ 愛と幻想の閃光よ ”!」
「「ぐわあああっっ!?」」

 シオリが右手を大きく開いて前に突き出し、素早く呪文を唱えると、手の平から眩い虹色の光が広がりだして、大男達の視界を奪った。さらにそこにローとグラエナが大男達に飛びかかって足止めを試みる。
 その一方、少し離れた場所でシオリの放った光を目にしたグレが思わず顔を覆っていた。

「うっ……!」
「Hey,どうしたんだヨ? ここならそんなに眩しくネーだろ?」
「うっせぇ、あの光には妖精(フェアリー)の力が宿ってるんだ。ドラゴンタイプの俺にはどうも慣れねぇ」

 若干のしかめっ面でグレがそう答えた相手は、黒い帽子を被っている少しおちゃらけたサンダースであった。サンダースは笑いながらグレの背中を前足で叩く。

「確かに、あの女の子は可愛いもんナ! 眩しく見えるのも仕方ないゼ」
「いやそういう事を言ってるんじゃねぇよ! つかお前も早く魔方陣の中に入れっての」
「おいおい、俺は知るポケぞ知るストリートダンサーだゼ? 俺に変に指図したらファンが黙っちゃいネェ!」
「おい止めろっ!? 電気を放出するな! ハルカゼがビビるだろ!」
「エ?」

 サンダースがグレを軽く威嚇するように電気をバチバチと放出させると、慌てて止められたので、思わずきょとんとした顔を浮かべた。
 グレが指差した方向をサンダースが見てみると、とても怯えたような表情でこちらを見るハルカゼの姿があった。

「……電気苦手ナの?」
「電気タイプのポケモンとまともに会話が出来ないレベルで苦手だ。さ、もういいから魔方陣の中に入れ」

 それは申し訳ない事をしたナ、と呟きながらサンダースも魔方陣の円の中に立った。その後ろをニンフィアが惚けた表情でついて行き、同時に魔方陣の中に入る。

(わぁ……すごい、レク様だぁ……こんなところでお目にかかれるなんて……)

 どうやらこのニンフィア、知るポケぞ知るサンダースのファンの一匹であるようだった。

「よし、これで全員だな。ハルカゼ、後は血を…………ハルカゼ?」
「え? あ、いや、だ、大丈夫だよ僕は大丈夫。ウン、へいきへいき。電気なんか」

 ハルカゼは若干の片言でモリトにそう返事をしながら、背中に隠し持っていたナイフをゆっくりと引き抜いた。

「え、えっと……ブランちゃん、準備は良い?」
「いつでも……!」

 魔方陣の先頭にある円の中に立ったブランは、力強くハルカゼに頷き返す。ハルカゼがナイフの先端で左手の人差し指を軽くつつくと、指先から垂れた血が数滴、魔方陣の線の上に落ちた。
 すると、魔方陣は淡い水色に輝きだし、円の中に立ったブイズ達の体から、それぞれの体色と同じ色をした魔力のオーラが現れ始めた。その八つのオーラはゆっくりとブランの体に集まっていく。

(……!? 凄い、力がどんどん湧き出てくるよ……!)

 体に流れ込んでくる膨大な魔力をブランは感じる。その影響なのか、ブランの精神は高揚しだし、今にも前へと駆け出してしまいそうになる強い衝動に目覚めた。

「行け、ブラン! これであいつらを巻き上げてやれッ!」

 グレがそう叫びながら、四本にも連ねたとても長いロープの端っこをブランに向かって投げ渡した。

「──やってやるっ!」

 ブランはそれを口でキャッチしながら、全速力で前へと走り出す。

「なっ!? なんだありゃ!?」

 目にも留まらぬ速さでこちらに向かってくる茶色い毛玉を見て、大男は思わず叫んだ。近くに居たロー達も、このままじゃブランと衝突しかねないと、慌ててその場を飛び退いた。
 ブランは風の速さで大男達の横を通り抜けると、すぐさまUターンして再び大男達の横を通り抜ける。

「ゲッ!? なんだ!? オイラ達縄で巻かれて……!?」

 ズルズキンが驚いたのもつかの間、ブランは大男達の周りを超高速で走り回り、二人の体にどんどんとロープを巻きつけていった。

「くそっ、なんなんだ!? こいつイーブイの癖に、速ぇ!」
「こうなったら縄を切り落としてやりますぜ!」

 ズルズキンはまだ縛られていない右手で長剣を振り上げ、体から伸びているロープに向かって振り下ろそうとする。

 その次の瞬間、ズルズキンの右手に強い衝撃が走った。

「なっ────!?」

 ズルズキンの視界に映ったのは、口にロープを咥えたまま、空中でその大きな尻尾を自身の右手に叩きつけるブランの姿だった。どうやら、すれ違い様に剣を叩き落とそうとしたらしい。
 ブランの思惑通り、ズルズキンの右手からは長剣が零れ落ちる。ズルズキンは、幼いイーブイの体から到底繰り出せるとは思えないそのパワーに目を見開いて驚いていた。

「良いぞ、ブラン! そのままロープを引っ張れ!」

 グレがロープの端っこをしっかりと握りながらそう指示を飛ばすと、ブランは即座に口に咥えたロープを勢い良く引っ張り、簀巻きにした大男達を締め上げようと試みた。

 しかし。

「うおわああああっ!?」
「グレっ!?」

 ブランのあまりの力の強さに、グレは握っていたロープごと体を持っていかれてしまった。直後に慌ててハルカゼとモリトがロープを掴んで引っ張り返そうとするが、それでも体が引きずられていってしまう。

「み、みんな! お願い! ロープを引っ張って!」

 ハルカゼは魔方陣の上で魔力を分け与え終えたブイズ達にもそう指示を飛ばした。ブイズ達は大急ぎでロープを咥え始め、少し離れた所でシオリ達もロープを引っ張り出す。

「ぐああああ!? い、いてぇ! 締めすぎだ……!」
「おや、ぶん……! こりゃ抜け出せそうにないですぜあいでででで!」

 片方に14人、もう片方に1匹という極端な人数差の綱引きで、大男達は1ミリも動くことが叶わずに締め上げられてしまう。
 それでも何とかしてロープから抜け出そうともがいていると、いつの間にか綱引きから離脱したローと保安官のグラエナが大男達の前に立っていた。

「さて……随分と大暴れしてくれましたね。事情を聞く前に、まずはアナタ達の身柄を確保します」

 そう言うと、グラエナは緑のチョッキに付けられた胸ポケットから、雷の形を模したバッジを二つ咥えて取り出した。

「アナタはズルズキンの方を」
「分かったわ」

 ローにもバッジを一つ渡すと、グラエナ達はおもむろにそのバッジを大男達の体に取り付け始めた。どうやらバッジは体に押し付けるだけで勝手にくっ付いてくれるらしく、四足のポケモンでも簡単に取り付けが可能だった。

「おい、なんだこれ!?」
「親分、聞いたことありますぜ……これって確か、一瞬で相手を気絶させる電気ショックを流す魔道具だって────」
「「“ 痺れよ ”!」」

 グラエナとローがそう叫んだ瞬間、バチィ! と激しい電流がバッジから流れ、大男達はそのまま気絶してしまった。
 グラエナ達はしばらくの間大男達の事をじっと睨み続けていたが、もう暴れ出すことはないと分かると、ほっと息をついた。

「ふぅ……これでもう安心ですね」
「ようやくね……」
「「「おおおおおおーー!」」」

 お尋ね者が逮捕されて、周りの野次馬達から歓声が上がった。もう夜中になるというのにその声はかなりやかましいくらいで、ブランは観衆の注目の的となっていた。

「良かった…………う……」

 ブランも、ついにお尋ね者を捕らえることが出来たのだと安心すると、急激に眠気が襲ってきて、そのまま地面へと倒れてしまった。

「ブラン!?」

 ブランの母親は慌てて倒れたブランの元へ駆け寄っていく。

「大丈夫!? ブラン、しっかりして!」
「心配ありません。ブランは儀式の影響で少し疲れてしまっただけですよ。しばらく眠っていれば、また元気になる筈です」

 その後ろから、モリトがやって来て丁寧な口調でそう説明した。そして、エーフィに向かって頭を深く下げた。

「ごめんなさい、お尋ね者を捕まえる為とはいえ、あなたの娘さんをこんな危険な場所に連れて来てしまって……」
「僕からも……本当に、ごめんなさい!」

 ハルカゼも続いて頭を下げ、エーフィは一瞬驚いたような表情になったが、すぐにそれは優しい笑みへと変わった。

「いえ……こちらこそ、自分勝手な行動を取って、皆さんを心配させてしまい本当に申し訳ありませんでした」

 エーフィも頭を下げてそう謝罪し、倒れたブランをそっと背中の上に乗せた。そして、尻尾を使って優しくブランの背中を撫でながら呟く。

「この子の勇敢な所は……きっとお父さんに似たのでしょうね」

 ズルズキンにやられそうになった時も[まもる]で自身の事を庇い、逃げた大男の後を追いかけた時も自身の事を心配して連れ戻しに来てくれた愛娘の優しさと勇気に、エーフィは深い感謝と愛おしさを感じていた。

「本当にありがとう……ブラン」

 そう静かにエーフィが言葉を紡ぐと、ハルカゼも安心したように笑みを見せて「これ、取り返した医療道具です」と、中身の入った新しい麻袋を手渡した。
 エーフィはそれを[ねんりき]を使って受け取ると、協力に駆けつけてくれたブイズ達にも感謝の言葉を告げた。

「皆さんも、わざわざ私達の為に力を貸してくれて、本当にありがとうございました」
「全然気にしないで! あたし達が勝手にやろうって決めた事だから。ね、ファルメ?」
「う、うん、そうだねラビィ」

 ラビィとファルメが笑顔でそう返事をする。

「ワシも構わんよ、無事に悪者が捕まって良かったわい」
「…………礼はいらない」

 大工のリーフィアと探検家のシャワーズも、お尋ね者が捕まって安心したような顔でそう言った。

「姉御が嬢ちゃんの店を贔屓にしてるってな。オレもまた今度行かせてもらうぜ」
「Yo,ブランちゃん! また何かあった時は俺を頼ってくれていいゼ!」
「いや寝てるから聞こえてねーっての」

 全身にアクセをつけたブラッキーがニッと笑ってそう言い、黒帽子を被ったサンダースがハイテンションでブランにそう呼びかけて、グレに突っ込まれていた。
 ニンフィアも一応リボンをゆらゆらと振って挨拶をしたが、すぐに心を奪われたかのようにサンダースの事を見つめ始めた。

 皆が返してくれる暖かい言葉に、エーフィが優しい笑顔を浮かべていると、目の前にローがやって来て言った。

「ブランちゃんのお母さん、後の事は全部私達に任せてもらっていいわ! だから今は早くお家に帰ってブランちゃんを暖かいお布団で寝かせてあげて?」
「ありがとうございます、ローさん……そうさせてもらいます」
「ふふ……ブランちゃん、ここ最近すっごくお仕事頑張ってたわよ」

 そう言ってローが軽くウインクしてその場を離れると、エーフィはきょとんとして背中で寝ているブランの方に顔を向けた。そして、柔和な笑みで何かを想う様にじっと目を瞑った後、前を向き、自らの家に向かって歩き始めた。


────────────────────────────────


 次の日の夕方、ブランのお店にて。

「…………明日はちゃんと学校に行くって、昨日言ってたよな?」

 玄関の前で、かなり不機嫌そうなグレッグルが右手に持ったプリントを差し出しながらブランにそう言った。

「ご、ごめん……色々あって、丸一日寝てたんだ……」
「丸一日……? 随分と寝ぼすけだなぁ」
「あ、あはは……」

 苦笑いを浮かべながら、ブランはプリントを受け取った。グレッグルは「そういえば」と話を続ける。

「ブラン、お前のお母さんは見つかったのか?」
「あ、うん。今二階に居るよ……呼んでこようか?」
「いや、いいや。オレ、人見知りだし……」
「え、そうなの? 意外だね……」

 グレッグルの意外な一面を知って、少し驚くブラン。グレッグルは少し気だるそうに手を振りながら踵を返した。

「じゃあな、ブラン。次こそは学校来いよ?」
「う、うん……必ず」

 少したじたじな返事をブランがしていると、グレッグルは走り出そうとしていた足を止め、顔だけこちらを振り返ってぼそっと言った。

「…………お母さん、帰ってきて良かったな」

 グレッグルは返事も待たずに駆け出していき、ブランはぽかんと口を開けて固まっていたが、すぐにふふっと笑みを零した。

「えへへ……ありがとね、リーグ君……」

 親愛なる同級生に、そう感謝の言葉を呟いた直後、二階から母親がゆっくりと降りてきた。

「あら、ブラン。お友達はもう帰ったの?」
「うん、帰ったよ」

 お母さんも一言挨拶すれば良かったわね、と呟きながら、母親はねんりきで床に置かれていたプリントを机の上に移動させた。
 その後ろで、ブランは少し迷った後、意を決して母親に話しかけた。

「……ねえ、お母さん。本当に、明日出発しちゃうの……?」
「ええ、明日の朝には家を出る予定だわ」

 母親がそう告げると、ブランはしゅんと悲しそうな顔を浮かべた。
──母親がラカンデラに戻ってきた本当の理由。それはここから西に進んだ所にある村で新しい病が流行り出したという情報を聞き、そこへ向かう為の中継地点としてラカンデラに寄って帰ろうと思ったからだったらしい。

「……本当にごめんね、ブラン。いつもお留守番させて……」
「ううん……大丈夫。お母さんも仕事で忙しいもんね」

 そもそも、母親は春と冬にしか仕事の休みを取ることができないのだ。こんな夏の終わり頃に母親が帰ってくるなんて普通はありえない事なのだと、それはブラン自身がよく分かっている事だった。
 ……それでも、少しでも長く母親と一緒に居れるかもしれないと期待していた自分が、いた。

「心配しなくても、調合師の仕事はちゃんとこなせてる……お母さんがやり方を教えてくれたおかげだよ」
「ええ、よく頑張ってるみたいね。ローお姉ちゃんも褒めてたわ。でも…………やっぱり一匹は寂しいでしょう?」
「ううん、そんなに寂しくないよ。だってブランの事を見守ってくれる優しい人が周りにいっぱいいるもん……!」

 ブランは笑顔でそう言った。それは、ブランの本心からの気持ちであった。

「それにね? ハルカゼお兄ちゃんが、ブランのお父さんの足掛かりを見つけたって。探しに行ってくれるって言ってた!」
「え? ハルカゼさんが、お父さんを?」

 母親はとても驚き、信じられないといった表情を浮かべた。そして、少しの間言葉が出せずに瞬きだけをしていたが、次第にいつもの優しい笑顔に戻って、喋りだした。

「そう……それなら安心だわ、あの人なら……もしかしたら本当に居なくなったお父さんを見つけてくれるかもしれないわね」
「お兄ちゃんなら、きっと……見つけてくれるよ! またお父さんとお母さんと一緒に過ごせる時が来るって、ブラン信じてるから……!」

 ブランは力強くそう言った。母親はこくりと頷きながら、そっとブランの事を抱き寄せて、前足で頭を優しく撫でた。

「……お母さんも信じてるわ。お父さんは、きっと帰ってくるって……」
「うん……だからね、今は……おかえりなさい、お母さん!」
「ええ、ただいま、ブラン」

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こんにちは、「ポケモン数え歌」という曲が公式にある事を知らなかったしろあんです←
さてさて、この作品は「魔法の冒険日誌」シリーズの四作品目にして「調合師ブラン」の続編となっております!文章量が想像以上に多くなって自分でも驚きです……!
ブランちゃんを主人公としたお話はここで一旦終わりにさせていただいて、次からはまたハルカゼ君達にスポットを当てたお話を書いていけたらなぁと思います。
これからもゆるーく続いていくこの「魔法の冒険日誌」シリーズをよろしくお願いします!

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感想

お名前:TaKaさん
読まさせていただきました!!!!うわあああああ!!最高です!!数え歌ではダンスがやばいくらいに可愛いしニューラが最高でした!!!そして風邪!!粥をふーふーして冷ましてくれるお姉さん!ふふふ...素晴らしいものを見させてもらいました!!そこから急展開のさらに急展開!お父さんのいる場所が...?!お母さんに会えてよかったね!とは言えずお尋ね者を捕まえるためにブランちゃん大活躍でした!!お母さん大丈夫なのかな...と読んでる僕も心配してました...!とはいえお尋ね者を捕まえることができてよかったです!!最後の押絵は本当に尊かった...!あー!!みんな大好きです!!個人的にサンダースのキャラが濃くて好きです((
これからが本当に楽しみです!お父さんと会うことができるのか?!全てはハルカゼ君たちにかかっているぞ...!みんな頑張れ!!!!
いや〜素晴らしいものを読まさせていただきました...!ありがとうございます!長文になってしまいごめんなさい!ここまでの執筆お疲れ様でした!次回も楽しみにしています!!!
書いた日:2019年08月15日
作者からの返信
TaKaさん、読了ありがとうございますー!執筆中の時から応援していただいて、すごくモチベーションに繋がってました……!
今回は様々なキャラクターが登場しましたけれど、どれも個性が溢れるように頑張ってキャラ作りをしていたので気に入っていただけたようでとても嬉しいです!ニューラは私もお気に入りです((
今回のお話でブランちゃんの一面をまた深く知ってもらえたかなぁと思いますし、自分でも書いててとても楽しかったです!ブランちゃんは、意外と、お金に、うるさい!

そして何気にハルカゼ君達が重要な情報を手に入れてましたね←
彼らがどうやってその情報を手に入れたのか、そして父親を探す旅はどうなっていくのか。そういうお話も書いていきたいなぁと思いますので、気長に続きを待っていただけたらなと思います!
改めて、読了と感想、ありがとうございましたー!
書いた日:2019年08月15日