美味しい友情

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作者:雪椿
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読了時間目安:8分

この作品には残酷表現があります。苦手な方は注意してください

 バサリ、と何かが羽ばたく音が聞こえ、俺は耳をピクリと動かす。目を閉じているから、音源となる者がどこにいるかはわからない。音は遠くから聞こえてくる。この近くを通り過ぎるだけかと思いきや、音は段々とこちらに近づいてきた。
 羽ばたきのリズムが鮮明に聞こえる頃には、俺の毛並みを乱す風のおまけまで付いてきてしまった。いい迷惑だ。
「……何の用だ」
 重たいまぶたを持ち上げ、音と風の原因であるそいつ……バルジーナへと視線をやる。ファサリと地面に着地をした彼女は、意地悪そうな目を更に意地悪そうに吊り上げてケラケラと笑い声をあげる。
「何の用だって、アンタと『遊ぶ』ために来たに決まっているじゃないかい! さあ、今日はどの子と遊ぶ? 先月『遊んだ』子の友達とか、どうだい?」
 愉快そうに笑い続けるあいつにフンと鼻息を鳴らすと、俺は再びまぶたを下げて心地よい暗闇の世界に浸る。暗闇の中であいつが何か喚いているが、眠たい俺にとってそれは単なる子守歌程度にしか聞こえない。
「ちょっと、グラエナ!? 聞いているのかい!?」
 怒りが混ざった声で俺の名前を呼び続けるあいつに心の中で小さく謝ると、俺は現実と眠りの世界の狭間へと旅立っていった。


 俺があいつと出会ったのは、俺がまだポチエナであいつがバルチャイだった頃だ。俺のご主人様が異国の地を旅している時に、あいつは無謀にもご主人様の前に飛び出した。そして当時四匹いた仲間の中では実力ナンバーワンだったご主人様の「相棒」にこてんぱんにやられ、捕まった。
 捕まった当初、あいつは必死に逃げ出そうとして、よくコテンと転んでは泣いていた気がする。さすがに何度も逃げる度に泣く回数は減っていたが、そうまでしてなぜ逃げたいのだろうと俺は不思議で堪らなかった。
 何十回もの挑戦の末、あいつはやっと逃げるのを諦めてご主人様と一緒に旅をした。そして立派なバルジーナとなったあいつは、空を飛べると知ったや否やモンスターボールを持って飛び出していった。その際なぜか俺が入っていたボールも掴んでいたため、俺も強制的にご主人様と別れることになってしまった。
 ボールから解放された直後、俺は粉々になったボールを背景にあいつに散々詰め寄ったものだ。当時の俺は真剣そのものだったが、ポチエナのままだった俺がバルジーナであるあいつに詰め寄る姿は傍から見たら笑える光景だっただろう。
 人間と一緒にいるより、こうして自由に生きている方がいい。あいつの主張を受け入れるのにはそれなりに時間が必要だったが、受け入れてからはとても気が楽だった。あの変な石を捨ててから、すぐにグラエナになれたしな。
 そして数多の困難に二匹で打ち勝っていくにつれて、俺とあいつの間には強い絆が生まれていった。生活の違いで途中から離れて暮らしているが、こうして時々あいつから遊びに来ては『遊んで』いる。
 あいつは今日も『遊ぶ』予定を立てていたようだが、俺は残念ながらとても眠かったので予定はお流れになりそうだ。それに、『遊ぶ』にしても今日の俺はいつもの虫を狩るような気分じゃない。
例えるなら、そう――、

「いつまで待たせる気だい!!」

 眠りの狭間でそのようなことを考えていた時、脳天に強い衝撃が走った。ピンポイントの部分がズキズキすることから、どうやら鋭い嘴で突かれたと考えていいようだ。
 はあ、今の一撃ですっかり目が覚めてしまった。頑張って三度寝しようにも、すぐに嘴攻撃が飛んできてしまうだろう。俺は脳が覚醒しても岩のように重たいままのまぶたを渋々と持ち上げ、のろのろと立ち上がった。
「はあ、やっと起きたね。それで、どの子と『遊ぶ』? 私はさっき言った通り、あの子の友達がいいと思うんだけどね?」
 俺が起きたことで、こいつは一緒に『遊ぶ』つもりになったと思ったらしい。目をギラギラと輝かせながら、先月『遊んだ』ポケモンの友達と『遊ぼう』と言っている。この反応を見る限り、どうやらとてもあの種族が気に入ったらしいな。
 だが、俺が今『遊び』たいのはそいつじゃない。俺が今最も『遊び』たいのは――、

「悪いが、バルジーナ。俺が『遊ぶ』相手は既に決めているんだ」

 この返事に驚いたのか、意地悪そうな目をまん丸く開き、ポカンと嘴まで開けるバルジーナ。こいつが驚くのも無理はない。いつも『遊ぶ』相手は相談があるにせよ結局こいつが決めていて、俺が自分から決めたことは一度もなかったのだから。
「アンタが自分から決めるなんて、珍しいこともあるものだねぇ。で、誰なんだい? そのアンタが『遊び』たい相手っていうのは?」
 驚きから一転、再び目をギラギラさせてこちらの発言を伺ってくるバルジーナ。俺は片前足を使って首をこちらにもっと近づけるようにと言うと、こいつは素直にもグイと頭を近づけてきた。
「俺が『遊びたい』相手。それはな――」
 わざと聞き取りにくいよう声を小さくしながら、牙に電気を溜め始める。まだだ。威力が足りない。あともう少し。もうすぐ溜まるか?
 ――――今だ!

「お前だよ!!」

 そう叫ぶと共に、あいつの無防備な首元に雷の牙を力強く突き立てる。牙から流れる電気があいつの全身に流れ、悲鳴をあげることなく息の根が止まった。電気が流れたからか、辺りに少し香ばしい匂いが漂う。
 このままいただいてもよさそうだが、あの頃ご主人様と一緒に食べたステーキのように少し加工したい。だが、自慢の爪を使っても力加減がわからなければ、これを引き裂くだけで終わってしまうだけだろう。
 だったら、せめて焼こうか。炎ポケモンが使うような派手な炎技は使えないが、俺にはこの技がある。牙に宿った炎をそれに移し、鼻がちょうどいいと判断する匂いになるまで放置をする。問題はどうやって火を消すかだが……。砂をかければ何とかなるだろう。口に砂が入るだろうが、それはそれで醍醐味がありそうだ。

 辺りに腹の虫を呼び寄せそうな匂いが漂う頃、俺は軽く砂をかけて火を消した。無事に消えるかどうか冷や冷やしたが、かける時の勢いがよかったからか、それとも元々消えかけていたのかすぐに消えた。
 前足でかかった砂を取り払い、完成したご馳走とご対面をする。腹の虫はもう大合唱をしており、口を開けばすぐにヨダレが出てきそうだ。
 もし今までの経緯を見ていたやつがいたら「友達なのに、なぜこんなことを」なんて言いそうだが、元より俺とあいつには一方的な友情しかなかった。あいつの主張を受け入れたのは、あいつのためじゃない。俺自身のためだ。あいつも単に一緒に『遊ぶ』相手が欲しかっただけだろう。
 こんなことを考えているうちに他のやつに気づかれたら、十中八九このご馳走を盗られてしまう。もし盗られなかったとしても、いただく分はかなり減ってしまうだろう。ここはすぐに行動を実行すべきだ。

「いただきます!」

 俺は大きく口を開けると、美味しそうに焼かれた肉へとかぶりついた。


「美味しい友情」 終わり

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