キミと大樹のもうひとつの冒険伝説 Zの覇者

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作者:ioncrystal
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読了時間目安:24分
「よっす。」
「うんうん、おはようおはよう。」
海の民の村。幻のポケモンを護る由緒正しい一族とか、その先祖が古代文明のことごとくを滅ぼしたとされるとか、そんなことは全然ない、海の民が住む村だ。
少女メリアは今日も飽きもせず、とある絵描きとグランブルたち家族の住む船に来て集中を邪魔しながら駄弁っていた。
「なんかさ、どっかの森に祈ると、奇跡が起きるらしいよ。」
「なにいきなり。」
「運命の人に会えるとか。」
「メリアはカレシいるんじゃん?」
言い慣れない言葉を使ったので、絵描きは自分でむせた。
アローラからここ数年海の民が動こうとしないので、ついにマツリカはこの間アローラのキャプテンに選ばれてしまった。
先ほどの言葉をごまかすようにメリアは、マツリカの絵を見る。
「本当に、マツリカは絵が上手いね。」
「まだぜんぜん上手くなんかないよ。」
思い出すのは、マツリカがアローラに来る前の記憶と、旅を始めた頃の記憶。



 その日サンドイッチをかっさらったカモメは、いまいましくも楽しそうに海に遊んでいた。
買ったばっかりの遅いおやつをかっさらわれたわたしは、黙ってそれを見送った。
まるで、船よりどんなポケモンより、遠い世界につながる海をカモメたちは知っているみたいだ。
ある日、数バトルを終えたわたしは、夕方になる前にクチバシティの波止場に立ち寄って、ニョロゾや他のポケモン達につかまって泳いでいる子供たちをスケッチしていた。

『123ばん グランブル ようせいポケモン
したアゴが とても はったつした ポケモン。キバが おもたいので くびを かしげている。おどろかさなければ むやみに かみつかない。』

突然、背中で機械みたいな人の声がしゃべって、わたしは身体を震わせた。
心地よい疲れにも負けず子供たちやらむしやらを飽きずに目で追いかけるグランブルは、やはりきょとん、と隣で後ろを振り返る。

「こーんにちはー!」

わたしより一回りくらいでかい兄ちゃんたちが、大声をあげていた。
少年少女が、その後ろでポケモンたちを追い回しながら向かってくる。
その中の、ホワイトの大きすぎる白衣をつけた姿が、ちょっとおかしい女の子が、手帳型の赤い機械を持っていた。どうやら、これが先ほどの声の主のようだ。
「こんにちわこんにちわ。ーーでも、この子はいつも『かみつく』で活躍してくれるよ?」
機械に、疑問を投げかける。後から考えたら変なことだけど。
「それはグランブルって言って、かみつくのは愛情表現なんです。
あなたがトレーナーなのに、そんなことも知らなかったんですか?」

しばし、その女の子の声にわたしは沈黙した。次に、グランブルと目を見合わせたが、もちろんグランブルは首を傾げるだけだった。
集中を邪魔されて怒ったのと、その言い方でわたしはにらみ返すと、機械を持っていた女の子は見下したように口角を上げた。
取りなすように、一番前を走っていたでかい兄さんと、隣の赤くて中くらいの大きさのねこポケモンがこちらを呼ぶ。
「にゃ!」
「きみがマツリカちゃん、でいいんだよね?」
いかにも、それはわたしの名前だ。前にお金を大枚使ってチケットを買ったサントアンヌ号にちょっと乗り遅れ、別の船に乗る為バトルで賞金稼ぎするあわれなわたし。みんなが勧めてくれた絵のコンクールで賞をとって何度か新聞やテレビで取材されているので、目の前のお兄さんがわたしのことを知っていても、そんなに不思議なことではなかった。
うなづき、目がその白衣の兄ちゃんと会った瞬間、赤いポケモンがわたしの周りを一気に熱した。炎色の大の文字がまともに空気を色付け、
それにグランブルはじゃれついて、熱気を等倍で受け止めてとシャドーボールを物理的に投げつけた。
その兄ちゃんは驚くことにそれに真っ向からぶつかって、グランブルに比べれば小さい身体があわやボーリングのピンのように後ろを倒しそうになる。
根性か何かだろう、白衣を真っ黒けにしつつ踏みとどまった兄ちゃんは、グランブルの顔に少しだけおびえるねこポケモンを安心させるつもりで笑いかける。
「驚いた!根性もウワサ以上と来た!」
「すごいすごい。私もそのワザ受けてみたら勉強になったかも。」
万感の思い込めてシェイクハンズするわたしたちへ、失礼なことに後ろの白衣の女の子は呆れていた。白衣でなく制服だったろうか、その帽子からねこポケモンが出てくる。お兄ちゃんは改めてこちらに向き直り、すっとんきょうなことを言う。
「きみは、常盤色を描けるかな。」
それが、ククイ兄さんと出会って一番に、わたしが彼から受けた絵の最初のお願いだった。

「トキワのもりの絵、ですか?」
「ああ、ごめん、そういうことじゃなくて。」
自己紹介もそこそこに。
夏なのだからだそうで、クチバシティにはごろごろマルマインが転がっていた。電気グループのお兄さんたちが彼らをその気にさせるのを手伝っていた。
そんな波止場を、わたしは名残惜しく見送った。
カントーで最後に聴くポケギアには、いつかどこかで見たような子が正式にポケモンリーグのチャンピオンに就任したニュースが流れている。
当たり前だけど、11才は歴代最年少だ。
詳しくお願いを聞いたのだけど。
「かくかくしかじか。と、それがオレの夢なんだ!」
ポケモン図鑑を作ること。リーグに出るということ。それらは、ククイ兄さんの中では一つの言葉に集約されるらしい。
その熱量は伝わってきて、でも一つマツリカにはまだ分からないことがあった。
「あの。なんで、夢を一つに決めるんでしょうか。」
「声に出せる具体的な夢があれば、それに向かって小目標を立てられるだろ。」
そうして差し出されたるは、にじいろの羽飾り。わたしも当然、その羽がポケモン界、訂正。
ポケモントレーナー界で表すものは知っている。
旅立ちの時伝説の鳳凰らしき生き物に遭遇った少年が、地方をまたにかけ相棒と共に、ポケモンと冒険を続けるアニメ。
現チャンプにマツリカが会ったのは、放送開始から3年が経った時で、主人公の少年がジョウト地方を訪れた頃だ。
最後に見た放送ではなんとあの美しいミレニアムタウンを訪れたやつだ。
ポケモントレーナーの端くれであるマツリカも、少年は決して強いトレーナーではないけれど、彼にレッドと同じくらいに憧れている。
光が当たる向きによってプリズムのように色を変えるそれは、これから訪れるアローラの熱帯の日差しを受けて爛々と輝いていた。
人間が想像して作ってこれなら、本物はどれだけ美しいのだろう。
夢中でぶれていく思考を努力して戻す。
結論から言えば、新たな地方に渡れるだけでじゅうぶんだった。
ククイお兄ちゃんは遠い地方の研究者の助手で、ガオという相棒と世界を駆け回って新しい図鑑を作っていた。
そして、それを手伝ってくれる子供を研究者の代わりに探しているみたいだ。
われらがエーテル財団とのアローラきょうどう研究なんです、と、さっき機械を向けてきたサクラちゃんは自慢してきた。
要するに、わたしはククイ兄さんの故郷のアローラ地方という場所にある森のポケモンの生態調査に、ねこポケモンの手も借りたい、とお願いされたのだ。
たしかに、目的こそ違っても、ポケモンの絵を描く練習にはうってつけかもしれなかった。
何より、タダで新しい地方に渡れるなんて、願ってもない話だ。



新しい地を踏むのはいつも少しは不安なもので、そんな気持ちを鎮めてくれたのは、アローラでの場合。
ククイ兄ちゃんが案内した、森の中でひときわ目立つ大樹だった。
少し上の方が特徴的な形をしていて、クロともチャイロともつかない色に苔やキノコが生えている。
「ーーそうだ。オエカキングに、見せたいものがあったんだ。」
ククイ兄さんが言っていたが、わたしはあまりよく聞いていなかった。
白い綿毛を踏んでしまい、ごめんね、とつぶやくと、黄色っぽいむしが後ろからびゅんびゅんと飛び去っていく。
初めて見るポケモンだ、と急いで色鉛筆とスケッチブックを取り出す。
「可愛い可愛い!」
そうでしょ、と自慢げなみんな。
「オレたちはアブリーと呼んでいるね。」
ククイ兄さんが解説を入れる。
「主にアローラに生息しているんだけど、どうやら、彼らはオーラの色を見ているらしい。」
「オーラ、ですか?」
変な話になってきた、と眉をひそめる。そうするとククイ兄さんは解説を加えた。
「正確には、彼らーー不思議な生き物が見ている、人間には見えない色、かな。
花が出すそれと、生き物が発する気合い?みたいなのが似ているって言われてるんだ。
それを調べたら、感情が昂ぶった生き物には、花と同じように近づいてくるって分かったんだ!」
「おー。」
いつか、いつか捕まえたいな、とポケモンの姿を思い出しながら、今は白い紙に夢中で描き進める。
「オエカキング。」
「呼ばれてる、マツリカちゃん!」
「へ、わたし?」
ククイさんに、アローラから同行していたそうなカキくんが、見上げて呼んでくる。
「ククイ先生にはみんなをキングにしちゃう癖があるんだぜ。いつからかは知らないけど。」
「ちょっとかっこ悪くないですか?まだ色キングとかーー」
「それだ!」
「えー…?」
悪くないセンスだった。みんなのさざめきに身を任せながら、わたしとグランブルは森で動き回っている草木を目で追う。
ウグイス、ビリジアン、モエギ、モスグリーン…きょとん、としたフシギダネと目が合う。
さらさら、さららとその姿を描いてあげると、紙の中の自分に笑いかけては不思議そうに口でつかんで、見せる相手はいるのか森の中に消えていった。
「色キングはさ。」
気を悪くするな、と何度も繰り返しククイ兄ちゃんが前置きして呼んできたので、わたしはようやく色キングがわたしの呼び名だと知ることができた。
「家族とか、いないのか?」
「おう。」
「いるんだ。」
「うん。いるよいるよ!」
「今更だけど、親御さんに連絡とかした方がいいよな。お金も払わなきゃいけないし。」
「くれるの?」
「ああ。」
「うーん、でも、どっちかっていうとこっちの番号に振り込んでくれたらうれしいな。」
ポケギアを取り出して難儀して画面を見せる。
「だって、わたし家ないもん。」
「やっぱり、そうなのか。どういうこと?」
「確かに最近は会ってないけど、わたしにとっては海の民みんなが、家族みたいなものだから。」
「そうか!スポンサーって言われてたの、家族のことなんだな。」
「ところで、気を悪くしないでって言ったのなんで?」
「いろいろ理由はあるんだけどさ。」
「うん。ククイ兄ちゃんは探偵?なんでわかったの?タネも仕掛けもあるの?」
「あ!そっちか。」
「そっちそっち!」
「会った時、サントアンヌに乗り込むつもりで乗り遅れたって言ってただろ?
でも、早く帰りたいみたいな寂しさは全然ないみたいだった。そこまでは、まあ普通の冒険してるトレーナーかなって思うけど。
天才少女画家のマツリカはずっとクチバにとどまってたって聞いてたし、マチスさんにはとっくに勝ってるみたいだし。
スポンサーがいるのは知ってたけど、不思議だなって。」
ふと、また綿毛を踏んでしまう。緑色の、植物でヘタにあたりそうなところをもぞもぞ動かして、今度は怒っておどろかせてこようとした。
だが、いぬとねこ2体が反射的に綿毛を睨み付けると泣いて逃げていって、ちょっと後味が悪かった。
ちょっと可愛いな、と思ったのに、せっかくのチャンスに絵も描けなかったし。
「…そういえば、ポケモンって死ぬんだろうか?」
「うん。レッドさんたちのレポートしか信頼できる文献がないからまだ確かなことは言えないんだけどね。たとえば、草ポケモンは、終わる時、眠るように動かなくなるんだって。 ああ、ごめん。」
「それは死ぬ、とは言えないんじゃない?フランスのXの伝説のプラターヌのスケッチ見た?」
「Xの姿をした死なない平和の象徴ってあの話?」
「X?もうそれは…」
「アルフ遺跡じゃ古代文字が動き出したって報告が最近図鑑にレポートされたばっかりだよ?伝説上の話としても、生き物としてありえないとばかり言いきれないよ。」
「よくわからないけど、不思議な生き物なんだね?」
突然、ククイお兄ちゃんが何かを思い出したみたいに足を止めたが、それに気付かないみたいに子供たちは森を歩きながら議論に熱中し始めていた。
彼の顔をとっさに伺おうとして、帽子のツバで隠された。
「…ごめんなさい。」
「ん?色キングがなんで謝るの?」
「ククイ兄ちゃんが普段しない行動をしたから…」
「うん、気にするなよ。」
わけがわからないなりに、そう返された。
そんな時間を過ごしていると、
「ククイ。おどおど帰ってきて、あいさつもなしか?」
「ーーしまキング。」
ククイ兄さんが呼ばれた。
「誰も彼も最近の若者は修行が長続きしない。ハウのやつに見せる顔がないーー」
「それは、帰るにあたって連絡を取らなかったことはお詫びします。」
「そんなことじゃないだろう、謝るのは。」
「お言葉ですが、しまキング。前にも言ったように、私はキャプテンになれないんじゃない、ならないんです。」
まあ、とりあえず家に来い、とククイ兄さんに言うと、しまキングのハラと名乗ったおじさんは子供たちに打って変わってにこやかに笑いかけた。
前に会った時より随分日に焼けたな。付け加えるように、おじさんはそう言った。



「なに?」
「カントーで11才の新チャンピオンが誕生し、みんなが新たなポケモン図鑑を作ろうとしている今こそ、アローラの魅力を世界にアピールする大チャンスなんです。
『いま』なんです。今こそ、アローラはもっと新しい風といっしょに歩きだすべきなんです。その為に、私は次のポケモンリーグに出場します。」
難しい話が始まった、と誰かがささやく。むずかしくないよ、とサクラちゃんが口をすぼめる。
「…とりあえず、子供達をもう家から出したらどうでしょうな。」
「わたしは、ククイさんの仲間です。」
子供達を代表して、ハマボウさんが言う。
「ククイさんのお仲間だから、見せたくないんですよ。」
「グズマさんとオレが違うってこと、わかってもらえたと思います。」
「…」
ハラおじさんは今まで見せたことのない怖い顔を見せたので、わたしはグランブルをあやさねばいけなかった。
「そうやっていつまでもカプを困らせてばっかりいて、…いや。オージーが喜ぶと思うのか?」
「そうですか。」
「…なんですかな、ククイさん。」
「人間に、ポケモンの気持ちなんてわかるもんかっ!」
「ククイっ!」
長く、忘れたくなるような重苦しい空気だった。
アローラの風習なんてまるで知らなかったけど、ククイ兄さんがハラおじさんと傷つけ合っていることはわかる。
「えっと、」
それから、お兄さんにそこまで言わせるキャプテンというのは、いったいなんなのか、という疑問。
オロオロするわたしたちと、
冷え切った空気を破ったのは、
「ずりぃよ、ハラさんは。」
すてゼリフだった。ククイさんはそれだけ残して、その町の外へ駆け出していった。
ガオは、ハラさんを心配そうに一度見つめて、ククイさんを追いかけていった。
「…あいつも少ししたら頭が冷えるだろう。わたしからしたら、ずるいのはあいつの方なんですが、な。」
しまキング、というよくわからない名前で呼ばれているハラさんは、大きな家にかみさんと小さな赤ちゃんと二人で暮らしているらしくて、
わたしたちに向けて玉ネギご飯を作ってくれて有り難かった。ちょっと複雑な味で、わたしは胃もたれをしたけど。
キャプテンって、なんなんですか?わたしが聞くと、ハラさんは親切にも絵巻物を出してきてくれた。
このアローラ地方を外敵から守るといわれている、月と太陽の獣の伝説がこのアローラ地方にはあり。
それがカプに与えた力を、太古の昔から守るぬしポケモン。
島巡り制度というジム破りのアローラ版のような制度において、そのぬしポケモンを育てるトレーナーとかなんとか。
おなかいっぱいになったので、わたしはククイさんを探すと名乗り出た。



とはいえ、ハラさんの出したヒントでは、マツリカにとってあまりに狭い島は広すぎたのだ。
やけくそになって、足元に綿毛を探し始めると、実際にそれはいた。
「メンメン!」
今度こそ逃すまい、と気高く意地悪そうな緑のヘタを追いかけると、気付けばホテルを背にしたアローラの船着場にたどり着いていて。
「メンカ?」
人混みの中に、ククイ兄ちゃんがいた。
大人たちの中に混じって、マルマインとにらめっこしているようだった。
「おお、やってるな色キング!そら。綿毛ポケモン見いっけ。」
捕まえられた綿毛ポケモンは、ジタバタしていて。探し人を見つけたわたしは、そこで頭が冷えた。
「乱暴なことしてごめん。でも、またよかったら今度こそ、ゆっくりキミの絵を描かせてね。」
言葉が通じたのかどうか、綿毛は雑踏の中に消えて、色合いすらもわからなくなった。

「イヤなところ、見せちゃったな。」
「しなよ、仲直り。」
「するさ!絶対に。」
ククイ兄ちゃんは取り出した写真に目を落とし、
懐かしさは媚薬だな、と言い捨てた。
「びやく?」
「うん。オレさ、5才ぐらいの時にサトシみたいなトレーナーに会ったことがあるんだ。写真も残ってるんだぞ。」
「えっ。」
夢中で写真に飛び付いたけど、全然似ているように思えなかった。
見守るような大樹を背に、写真の中には小さいククイ兄ちゃんと今のククイ兄ちゃんくらいの背丈の少年と、2匹のねこポケモンがいた。
「すっげえ強くて、優しいんだ。」
ククイ兄ちゃんにとって、鳳凰から始まったサトシ少年の旅は、ポケモンと共に成長する旅だった。
「フィールドわざの色んな活かし方を知ってるし、リーグのことも、キミから教わったんだ。」
ククイ兄ちゃんは、そのトレーナーとサトシを重ねているようだけど、現実のサトシは全然強くなんてない。
同じ炎ポケモンのリザードンにはなかなか心を開いてもらえなくてポケモンリーグで負けたし、女の子にもちょっと弱いし。
でもマツリカにとってサトシは、どんなポケモンともまっすぐに向き合うトレーナーの鑑だった。
誓いのように、ククイ兄ちゃんは写真に声を落とす。
夢を声に出す大切さは、キミが教えてくれたんだ。
ドン。大きい音がした。
こんなことがなかったら、オレの家族と一緒にキミに見せたかったものだ、と、ククイ兄ちゃんが呟く。
いつしか沈んだ日の代わりに、太陽みたいに明るく。
「今度開くカーニバルの予行演習なんだ。カントーにも負けない色合いだろ?」

「花火だ!」
ドン、ドンと鳴る合間を縫って、爽やかな風が吹き抜けていった。
「花畑みたいだ…」
「そうだろ。」
森に戻りながら、マツリカとククイはつぶやく。
「うん。海に群がる生き物達が。花畑のアブリーみたいで、綺麗だ。」
「えっ?」
「十人十色、みんな色んな気持ちなんでしょう。」

なんとなく、綿毛のポケモンが見つかる気がして私たちは森に戻った。
夜の風は爽やかではあったけれど力強くもあり、そのせいで大樹の中ぐらいの枝が折れ、その枝がマツリカの頭に落っこちてきた。
「いたっ。」
「大丈夫?」
そして、マツリカは一緒に落ちてきた何かにつまづいた。
「ククイ兄ちゃん。」
「なに、色キング…ううん、キャプテン・マツリカ。」
「これ、どうしましょう。」
一見、一緒に落ちてきたそれはビーズのようだった。
カントーで言えば、「褪紅色」とか「石竹色」とか呼ばれるかもしれない色をしていた。
「オー爺、こんなの持ってたっけ…?」
そうしてククイ兄ちゃんが取り出したのは、炎みたいに燃える色をした、同じひし形?をしたビーズだ。
「うん、やっぱりこうしてみるとちょっと色が違うな。」
「ククイ博士だ!」
「まだ博士じゃないぞ!」
ククイ兄ちゃんはマツリカに向き直って、言った。
ほとんど同時に、わたしも言った。
「このビーズ、よかったら私がもらっていいですか。」
「うん、そうだね。だったら、これはようせいポケモンとキミの冒険だ。そのクリスタルはキミとグランブルが持っておくべきだろう。」
「それから、この樹とククイさんの絵を描いていいですか。」
「…どうして?」
何よりそれが、風に揺られた命の姿が、おじいちゃんにわしゃわしゃ自分が撫でられたみたいに、マツリカには見えたのだ。



夜空に咲いた花畑の絵は、わたしの図鑑のひとつだ。
絵を描いて笑ってくれる人達を思い浮かべる。
自分の夢を忘れそうになったら、傷みに名前をつけて、思い出す。
けど、わたしは忘れっぽい方なので、たぶんこのマルマインのことは忘れてしまうんだろう。

UB:Slashなる新発見のポケモンに感銘を受け、20X7年ポニ唯一のキャプテンは、友人としゃべりながら手元の紙を玩んで折り紙にしていた。
「ククイって、昔と比べて冷たくなってない?」
「そう?」
「その心は。」
「大事なとこは変わらない人だと思う。多分ね。」
少女メリアは海の民を抜けて、もう連絡がつかない。
「まあ、どっちにしろーーキャプテン業は思ったより楽しかったけどさ。」
と、しゃべっていると、その理由たるトレーナーが船に飛び込み、マツリカの前に飛び出してきた。
「カミツルギだ!」
紙の質感を残しながら、鋼みたいなその姿。
「何それ。」
「エーテル財団でそう命名されたんです。かっこいいでしょ?…ところでその紙!」
「招待状だってさ。ポケモンマスターズっ、”平行世界のトレーナー同士が、鎬を削り合うお祭り騒ぎ!!”」
「あ、それキャプテンも出るんですか?」
「メガタブンネ。」
「なんて言ってる場合じゃなかったんです!」
「ソーナノ?」
そのトレーナーは神妙に、それを切り出した。
「マツリカさん。」
「どしたのどしたの?」
「わたしたち、どこかで会ったことありますか?」
「なーに今更?きみがアローラに越して以来の付き合いじゃん。」
「そういうことじゃなくて、もっと前に会ってた気がして。」
喉の奥の方に詰まったように、それが気になってどうしようもなくて。と、トレーナーはそう言った。



「あの頃カントーにいた誰かがアローラに来てるんじゃないかって、そう思うのよね。」
自分が、のちにキャプテンに選ばれたのは、ほとんど運命なのかもしれない。
けれど運命というのは、自分で記憶から捏造して、夢を本当にするものだ。
アローラを初めて訪れたあの日のことを当時メリアにそう話すと、
「会ってたらそれくらい覚えてない?もうーー才だったんでしょ?」
って言われた。



「ポケモン図鑑小説企画?」
「うん、アローラに人を呼びたいなら。」
「人の言葉で説明されない、自然な姿のポケモンをわたしは描きたいんだよね。」

「伝説の白龍を発見せり、我伝説の白龍を発見せり。」
「赤いギャラドスを調査隊は見つけられなかったのだった。シンオウテレビ。」
「                」
ポケモンブームは再燃し、ポケモンの総数、それを知るものはいない。



「ぼくが、ククイです!」
「グランブルに噛まれて、もっと絵を上手くならなきゃって思って、それで今のわたしがいるんです。」
けど、わたしは忘れっぽい方なので、たぶんこのマルマインのことは忘れてしまうんだろう。

夜空に咲いた花畑の絵は、わたしの図鑑のひとつだ。
絵を描いて笑ってくれる人達を思い浮かべる。
自分の夢を忘れそうになったら、傷みに名前をつける。

世の中には、不思議なことがたくさんあって、でも頑張って思い出すから。
わたしは、そう送り出した。

「アローラ。未来のチャンピオン。キミが望むのなら、決勝で会おう。」

するとチャンピオンはさっきまでの懐っこさが嘘のように好戦的な笑みを返してきて、気圧されないようにする。
「はい。今度は負けませんよ!」

今、人々とトレーナーとポケモンたちの、出会いと冒険と戦いの物語がはじまる。

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感想

お名前:ioncrystal さん
作者です。
のちのち余裕があればちゃんとしたあとがきを用意したいところですが。
まず、ククイさんの扱いについて、謝罪したいと思います。
注意書きというものを用意できたらすればよかったんですがここってそういう空気でもないと判断し。

根底からプロットを覆す、のは、話があれば検討するつもりです。
いや、そういう世の中舐めた態度とってるからダメなんだぞ、なんですが。

このククイはゲーム時空と同じくしまキングと仲直りすると思います。それはそう。
あと、個人的にカキに本当に申し訳ないんですよ。それは。
書いた日:2019年07月06日
お名前:円山翔さん
原作キャラクターの知らない一面を見ることができた作品でした。読み込むのにはすこし時間がかかりそうです。さりげなく図鑑企画の宣伝がしてあって嬉しくなりました。これを機に参加者が増えるといいなぁ、なんて思ってみます。
書いた日:2019年06月29日
作者からの返信
円山さん、感想ありがとうございます!
テスト終わって、でかい用事済ませて、その頃にはちゃんと改稿できたらいいな!
できればどんな風にすれば読みやすいかこんど機会があれば教えてくださいね。
書いた日:2019年07月09日
お名前:坑/48095さん
この掴み所のない文体は作者さんの個性であり強みでもあるのかなと思います。私はすきだしステキだと思います。
登場人物の心の揺らぎや見えている景色の移ろいが感じられるようで、読者としてはすべてを手に取ることまではできていませんが、作品を作り上げるよき演出となっていたように感じました!
書いた日:2019年06月29日
作者からの返信
お褒め頂き、大変ありがとうございます。
もっと沢山手に取ってもらうにはどうすればいいか、良ければ教えて頂けると幸いです。
どこまで伝わっているのか… 

ってとこまで書いていたんですが、わざわざ感想ありがとうございますね本当に…
書いた日:2019年07月09日