あなたが振り向くその日まで

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作者:真白
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読了時間目安:11分
「ねぇ、あなたはなんでここで一人でいるの?」
「関係ないでしょ、ほっといてよ」

 綺麗な花畑の中で、そんなやり取りがされていた。
 一方的に突っぱねる者と、心配する者。簡単に交わるはずが無いタイプ同士だ。
 フラエッテの少女が、ツタージャの少女に話しかけている
「と言うか、なんで初対面の癖に人を心配してるのよ」
「だって、ここ綺麗なお花畑の中だしさ……何かあったのかなって。 あ、私の名前はリンよ。よろしくね」
 花畑の中と言っても端っこの方だが。
「名前まで教えてって言ってないし……はぁ、帰ろ」
 彼女はそう言うと近くの森へ入っていった。
 (一度も顔を見せてくれなかったな……振り向かせたいなぁ)
 リンと、ツタージャが出会った瞬間であった。

「あのねあのねモモ、誰かに振り向いてもらう為にはどうしたら良いと思う?」
「帰ってきて早々何よ……眠たいのアタシ」
 リンは自分の家に戻ってすぐに、同じ住人のエモンガのモモに話しかけていた。
「でもそうね、やっぱり話しかけるのが第一よね。その子の名前は聞いたの?」
「まだなの。名前も仲良くなって知りたいなぁ」
 あれでは一方的に自己紹介していただけである。
「そう、せいぜい頑張りなさい」
 「応援してるから」と、リンには聞こえない小さな声で呟くと、モモは目を閉じ寝てしまった。
「あ、お花を摘むの忘れてた。明日も行かなくちゃ。また会えると良いなぁ」
 リンも静かに自分の寝床へと入っていった。

 翌朝。リンはまた花畑に向かった。もちろん目的はツタージャに会う事と、花を摘む事。
 モモにも声を掛けたらしいが「アタシはめんどくさい事はしたくないの」と一蹴されたとの事。まぁ、会いに行くだけでツタージャは気を悪くするかもしれないのに、また初対面の者を連れていっても更に嫌そうな顔をするだろうし妥当だろう。
 リンはお人好しでお節介だ。この世の中珍しい程に、他のポケモンに構っている。良い意味でも悪い意味でも、特徴的だ。その行動がどう出るのかは……蓋を開けてみないと分からないが、浮かない顔をしながら花畑を出たという事は今日もダメだったらしい。しかし昨日と違うのは、ちゃんと手に花を持っている所だった。
 リンが家に帰った時は、既にモモは寝る準備をしていた。
「帰ったのねリン。遅いわよ全く……」
「ごめんね。お花を摘んでたのと、あの子と話してたから遅くなっちゃった」
「そう……あのね───」「明日こそはちゃんと話せると良いなぁ。でしょ、モモ?」
「……そう、ね。じゃあアタシ眠たくなったから寝るわ」
「お休み~」
 モモにそう言うと、リンは手に持っていた花を草の蔓で優しく縛り壁に立て掛けた。どうやら部屋の飾りに使うらしい。
 一作業が終わると、リンもすぐに寝てしまった。手には物心ついた時から持ってる花を抱いて。
 暫くしてから静かな部屋に、誰かのすすり泣く声が聞こえた。

「今日も飽きずツタージャに会いに行くの?元気ね」
「うん、行ってくるね」
 そう言いリンは家を飛び出ていった。
「…………はぁ」
 モモは静かに俯いた。

「今日も来たの?もう来ないでって言ったはずなのに」
「だって、あなたの事が心配だし」
「なんで知り合いでもなんでも無いのに心配するのよ?」
「それは……」
 相変わらず平行線の会話を続けている彼女達。だが、ツタージャの方が優勢だった。
「とにかく、私は花を眺めていたいの。分かったら帰ってよ」
 そう言い終わると、うっかり喋り過ぎた事を悔やんでいる様だ。
「お花が好きなの?じゃあ一緒に見る?」
「嫌よ!……帰って」
「……ごめんね。じゃあ、帰るね」
 依然として突き放すツタージャの気持ちを汲み取ったかは知らないが、リンも引き下がっていった。
 (私だって、好きでこんな言葉を言ってる訳じゃないのに……ごめんなさい)
 ツタージャも心の中で謝っていた。届かないと知っていても。

 リンもまた、後悔していた。しつこく声を掛けすぎてたのかもしれないと。話し掛けられるのが嫌だったりしたのかなと。
 (ごめんね。本当にごめんね……)
 気が付いたら家の前にいたリンは、慌てて顔を作りドアを開けた。
「ただいま~……ってあれ?モモ?」
 モモがいないのだ。置き手紙も無く、忽然と消えている。
 (どこに行ったのかな……探しにいかなきゃ)
 先ほどまでいた森の中にとんぼ返りをし、モモに呼び掛ける。
「モモー?どこにいるのー?いたら返事してー!」
 必死に、必死に呼び掛ける。それほどまでにモモの事が大切だから。
「モモ、お願いだから出てきて。私、モモがいなくなったら……私……」
 リンの声はだんだん震えていき、小さくなってしまった。リンの心情を表すかのように雨が降り始め、彼女に容赦なく雨粒が降り注ぐ。
 それでも彼女は声を掛け続けた。だが、リンの声は雨によってかき消され、吸い込まれていく。モモの事が心配だから、自分の心配なんかしている余裕が無かった。自分が雨に打たれ続け、弱っているなんて分かっているはずが無かったのだ。
「モモ……どこ……? あれ、なんか視点が……」
 リンの身体は根を上げ、ゆっくりと地に落ちていく。それでも雨は容赦なく降り続けていた。
 (モモ……どこにいるのかな。風邪引いてないと良いけど……寒い。あ、もうダメ……かも)
 ゆっくりと地面に落ちていく。落ちた場所は花畑のすぐ前だった。

 一方その頃、ツタージャは樹洞で雨宿りをしていた。はぁ……とため息をつき、考えているのはリンの事だった。どうしても忘れられないのだ、優しくしてくれたリンの事が。自分にある事情が無ければ、ちゃんと話せているはずなのに……と。
 自分の欠点を嘆いていると、いつの間にか雨が止み、月が少し顔を出していた。さて、帰ろうと思っていた所、雨によって倒れているリンの姿が目に映る。
「リンちゃんが……何とかしないと」
 リンを優しく蔓で包み、自分がいた樹洞に運んでいった。
 その姿を見ていたモモ。実は花畑の近くにいたのだ。やはり雨が酷く少し雨宿りをして、丁度出てきた所でリンを運ぶツタージャを見たのだ。
 (リンを連れていって何をするつもりなの?あのツタージャ、気になるわね。リンを傷付けたらとっちめてやる!)
 樹洞に入っていった二人を追い、隙間から覗くモモが見た光景は……
「大丈夫かな、早く目を覚ましてくれると良いけど……」
 リンを優しく介抱するツタージャの姿だった。

 モモは何が何だか分からなかったようで、樹洞に突撃していく。
「ねぇ、あなた何を───」「ひゃあ!?」
 モモが声を掛けていた時には、ツタージャはもう洞の隅に収まっていた。
「え、なにこれ……?もしかしてアンタ恥ずかしがりや?」
 その言葉は致命的だったようで、ツタージャは渋々と顔を出し話し始めた。
「私恥ずかしがりやで、人見知りなんです。だから、誰に対してもつい突き放すような言葉を使ってしまって。最近あんな所に花畑があるの知って通い始めたのですが……あ、花が好きなんです私。リンちゃんが来て、つい彼女に酷い言葉を掛けちゃって……ずっと謝りたかったんです。でも人見知りだから、仕方ないって正当化しちゃって……ごめんなさい、リンちゃんの友達ですよね?リンちゃん悲しんでましたよね……」
 ツタージャが申し訳なさそうに言う。
「ええ、それこそアンタの事しか見ていないような……だからアタシ、つい家を飛び出しちゃって。リンに振り向いてもらいたくて……」
 だんだんモモの声が沈んでいく。
「多分リンちゃん、あなたを探してたんだと思います。一回花畑を出るの見てましたし……」
 その言葉を聞いた途端、モモの身体が震える。
「……リン、ごめんね。アタシの事見ていてくれてたのね。なのにアタシ、全然気付いてなくて。アタシのせいで……リンを倒れさせちゃって。本当にごめんね……!」
「リンちゃん……ごめんなさい。沢山酷い事を言って、ごめんなさい……」
 とうとう二人とも泣き始めた。その涙は抑えるという事を知らずに溢れでる。
「二人とも......なんで泣いてるの?」
 いつの間にか目を覚ましていたリンの一声で、またツタージャは隅に逃げようとしたが引き留まった。
「ごめんね、リン」「ご、ごめんなさい……リンちゃん」
「どういう事?」

 二人から事情を聞いたリンの顔は相当曇っていた。
「全部……私のせいじゃない。私がツタージャにしつこくしてしまったから、私がモモの事を見てなかったから……二人ともごめんね……私が悪いの……」
 そんな訳がない、とは言える空気ではなかった。だが、モモはこう言う。
「みんな悪くないのかもね。みんなの意見が全く正反対なのよ。だから今回みたいなすれ違いも起きるし。それに欲しがる事は悪じゃない。それがいきすぎた物で無ければ、だけど」
 その言葉に二人も納得したようだった。
「……そっか。改めてごめんね。モモ、ツタージャ……ええと、もう顔を向いて話してるから、名前を教えてくれたり、なーんて……」
「……私の名前は……カナです」
 赤面し、小さい声ながらも答えていた。
「カナかぁ......良い名前だね。よろしくね!」
「モモよ、アタシからもよろしくね」
「リンちゃん、モモちゃん、よろしくお願いします!」
 樹洞の中は温かい空気で溢れていた。

「もう大丈夫なの?」
「うん、張り切り過ぎていたのかもね」
 三人は花畑の中にいる。
「やっと三人でお花が見れるね。私、嬉しいよ」
「一人で見るのよりも、とても綺麗に見える……」
「でしょでしょ?」
「……ねぇ、カナ。アタシ達の家に来ない?そっちの方が楽しいと思うし」
 そのやり取りを見てたモモが、何を思ってかこう言った。
 (私がリンを独占しそうになっても、カナがいるって意識すれば……いつかは独占欲も良くなるかもしれないし)
 歪んではいるが、それが彼女なりの決断だった。
「モモ、良いアイデアだね!カナはどう?」
「……私も人見知りは治さないと、って思ってました。だから、よろしくお願いします!」
 カナも変わりたくて、前に進もうとしている。
「よし、じゃあ決まりね……後、リンはもう少し自分の事を考えなさいよ」
「うぅ……分かったよ」
 リンもその言葉を受け入れるようだ。
 
 月明かりが彼女達を照らしている。
 リン、モモ、カナの顔はとても美しく綺麗に見える。
 花畑の中で彼女達は笑い合っていた。
「じゃあ、一緒に帰ろう!」
 (やっと振り向いてもらえた。二人と一緒が良い)
「アタシ眠たくなっちゃった。早く行きましょ」
 (ずっと振り向いてくれてたんだ。嬉しいよ)
「ドキドキしてますけど、楽しみです」
 (やっと振り向く事が出来ました。二人のお陰です)

 花畑に咲く花が静かに揺れている。
 それは彼女達の新たな生活を応援し、彩っていく様に見えた。

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感想

お名前:花鳥風月さん
投稿お疲れ様です!

ポケモンのチョイスがかわいい!かわいらしいです!
ポケモンってジャンル自体が特性上、男の子同士の友情モノや男女のロマンスが多いイメージが個人的に勝手にあるので、女の子同士のやりとりがすごく新鮮に感じました。女の子同士の友情って、男の子同士のソレとはまた違った特徴があるんですよね。この話でいえば、リンちゃんとツタージャが仲良くしているところに、ちょっとモモちゃんがもやっちゃうような。でもそれって、それほどモモちゃんにとってリンちゃんが大切な存在だからこそなんですよね。
ちょっとお互いの思いが複雑に絡み合うのが、女の子の友情の大きな特徴にして魅力だと実感しました。
そして個人的な嗜好として、リンちゃんが倒れるところでほくそ笑んでいました。感謝とお詫びを申し上げます。
書いた日:2019年06月29日
お名前:円山翔さん
微笑ましい三角関係だなって思いました。リンはカナに振り向いてほしかった。モモはリンに振り向いてほしかった。カナは恥ずかしくて言い出せなかった。でも、最後にはちゃんと思っていることを伝えあって、分かり合えた。伝えるって大事なことなのだと再確認できました。
書いた日:2019年06月29日