はねのいろは うつりにけりな いたづらに

しおりが挟まっています。続きから読む場合はクリックしてください
 
作者:Lien
ログインするとお気に入り登録や積読登録ができます
読了時間目安:7分
〈上の句〉

 ぽにの花園。藤色の花は枝葉より枝垂れ、幹は橋となり終の洞への導となる。湖面よりみにりゅうが跳ね、白き霧が訪れし者を迎える。花畑として異彩を放つこの場所に、蒼き鳥が一羽。名の如く舞い、花の香りに心躍らす。
 今日もまた例の如く、蒼き鳥は湖のほとりにて舞う。左右の翼をふわりと掲げ、落葉の如くひらりひらりと下らす。枝垂れる藤に向け跳躍し、躰をひねりひと回転。右の翼を広く広げ、左で空へと舞い上がる――。その優雅たる舞は、異郷の古都を彷彿とさせる事だろう。
 この藤の花園に、異界より訪れし者あり。その者蒼き鳥を見るなり、携えし紅白なるぼうるを手に取る。中より白き光放たれ、若草色のぽけもんが姿を現す。名をははこもりと言いしそのぽけもん、蒼き鳥を見て曰く。
 「主の言付けなので、貴女には私と来て頂きます」
 蒼き鳥、これに応へて曰く。
 「私はこの地が気に入っています。ですのでお引き取りを」
 と拒否する。
 ははこもりの主言を述べるも、蒼き鳥にその言葉は解せぬ。生を受けし時よりこの地で過ごす彼女に、人間という種に触れられぬのは想像に難くないであろう。
 「そうですか。では覚悟して頂きます」
 ははこもり、言を聞き俯くも、その視線を蒼き鳥に戻す。針の如し視線を彼女に向け、大きく跳躍す。その手に草色の刃を携え、蒼き鳥に斬りかかる。
 これを受け蒼き鳥、飛翔し回避す。軽やかに飛びしその姿、優雅たる舞の如し。翼を広げ降下し。
 「その言葉、あなたにお返しします」
 右に左にと、その翼を叩きつける。絶え間なき蒼の舞、草の刃を退ける。重く乾きし音色が霧に溶け、白へと紛れていった。
 ははこもり一時膝をつくも、すぐに立ち上がる。その吐息は湖面の如く滑らかで、波紋の一つすら見受けられぬ。地に降りし蒼を見て曰く。
 「少しは戦えるようですね。ですがこれはどうでしょう」
 その手には緑の葉があり、口元へと添えられる。
 「何のつもりかは分かりませんが、これで終いとさせて頂きます」
 蒼き鳥これに屈せず、二、三翼を羽ばたかせる。霧をかき分けははこもりに迫り、蒼を振りかざす。
 「それは貴女の方ですよ」
 しかしははこもり左に跳び、これをいなす。刹那心地よき音色が辺りを満たし、霧の花園に静寂をもたらす。
 「――! 」
 これを聴きし蒼き鳥、脱力し地を滑る。瞼を閉じすぅすぅと息をたて、眠りへと誘われていった。





〈下の句〉


 暫しの静寂の後、ははこもりの主、紅白のぼうるを投擲す。弧を描きしその球、蒼き鳥に当る。こつりと響きその後、中より白き光放たれる。その光蒼き鳥包み、紅白のぼうるに収まる。こんと地に落ちしその球、右に左にと振動す。その球見守り者、固唾を呑みこれを待つ。
 暫くの後、主、これを拾う。刹那これを投擲し、中より蒼き鳥現る。蒼き鳥ぼうるより出づるも、すぅすぅと寝息たてる。ははこもりこれを見、主より青き実受け取る。堅き実砕きし時、実の渋き香り広がる。ははこもり眠りし蒼き鳥に歩み寄り、これを食べさす。僅かの水にてこれを流し込む。
 「……っ! 」
 蒼き鳥、これにたまらず目を覚ます。目を開けその前にははこもりあり。蒼き鳥、これを見て曰く。
 「まだ戦うのですか」
 後ろに跳びその後、針の如し視線をははこもりに向ける。白き霧張り詰めるも、ははこもりこれを気にすることなし。蒼き鳥に微笑みて曰く。
 「いいえ、私にはもう戦う意思はありません。貴女のおうふくびんた、見事でした」
と右手差し伸べる。これを見て蒼き鳥、こくりと首を傾げる。警戒緩めははこもりを見て曰く。
 「あなたのりーふぶれーども、素晴らしかったです」
 とこれに応じ、蒼き翼を重ねる。その波紋、穏やかなるものなり。
 その時主、懐より小瓶取り出す。蒼き鳥に言を述べるも、例の如く解せぬ。ははこもり、首傾げし鳥を見て曰く。
 「私の主からです。お近づきの印に、どうぞ」
 主より黄色き瓶を受け取り、蓋を開ける。花の如く甘き香り、漂い藤白の香りに乗ず。これを受け蒼き鳥、笑みて曰く。
 「では、早速いただきます」
 黄色き瓶を地に置き、嘴にて中の蜜を嗜む。

 「ぴにゃっ? 」

 刹那、甘き味広がり、蒼き鳥驚愕す。蒼き鳥蜜の味好くも、黄色きこの味初めてなり。普段枝垂れし藤の蜜嗜むも、全く異なるものである。口内に甘き香り広がり、蒼き鳥に安らぎを与える。一歩遅れて柑橘のような甘酸っぱい風味が追いつき、味に変化をもたらす。更にシュワシュワと刺すような刺激が加わり、嗜む舌を楽しませてくれる――。……そう、これを例えるなら、応援された時のように沸き立つ感情。心がパチパチと弾け、この想いを誰かに届けたくなる。紫色の蜜も好きだけど、貰った黄色い蜜みたいに刺激的な味も、悪くないかもしれない。
 「うっ、噂通りね。気に入って頂けたかしら? 」
 一瞬驚いたような表情をしていたけど、ハハコモリはすぐ私に尋ねてくる。何故驚いていたのかは分からないけど、もしかすると私が頓狂な声を出してしまったからかもしれない。
 「ええ! こんなに刺激的な味、初めて。気に入ったわ! 」
 私はいてもたってもいられず、溢れる感情を解き放つ。彼女の問いかけに大きく頷き、自分でも驚くぐらい明るい声で答える。
 「そう。ならよかったわ」
 これを受けてハハコモリの彼女も、つられるようににっこり笑いかけてくれる。彼女のご主人も何か言ってるけど、似たようなことだと思う。
 「メレメレ、っていう島で採れたんだけど、よかったら一緒に来る?」
 何を思ったのかは分からないけど、彼女は私に尋ねてくる。期待の眼差しを私に向けてきているから、答えに迷うけど悪い気はしない。確かに私はこの場所が好きだけど、彼女たちに会わなければ、こんなにおいしい味を知る事なんて無かったと思う。
 「ええ! 私もご一緒したいわ! 」
 だから私は、後ろ髪を引かれるけど、彼女の提案に乗ることにする。頭が地面につくぐらい大きく頷き、満面の笑みで朗らかに言い放った。

 この後私は、生まれ育った藤色の花園を後にする。ここから出たことが無かったから、見るもの聞くことが凄く新鮮で楽しい。旅先で今日も私は、黄色い翼を羽ばたかせる。だけど自分の性格、話し方まで変わった事に気づくのは、しばらく後の話かな。




羽根の色は 遷りにけりな いたづらに     完

 誤字、一部修正  2019.07.06 22:50

感想フォーム

 ログインすると感想を書くことができます。

感想

お名前:花鳥風月さん
投稿お疲れ様です!

花畑と川柳ってなんてこう、相性がいいんでしょうか。ポケモンの特徴として、元の動物をモチーフにしているから今回でいう「鳥」の表現ができることが挙げられると思うんです。それ故、青い鳥のポケモンが飛んでいるんだなってスッとイメージが浮かびやすかったです。また、川柳を取り入れられていましたが、今回舞台になっているのがポ二の花園。メタ的な話をすると、日本国外をモチーフにしたものですよね。それでいて風情を現すの……うん、ずるい()
オドリドリの特徴を捉え、且つ解釈もなされていて、それでいてきれいな言葉で紡がれているの、脱帽です。ぜひとも作者さんにまた様々なポケモンで一句読んでいただきたいです!
書いた日:2019年06月29日
お名前:坑/48095さん
粋なギミックですね!
何をどうしたらこんな発想がうまれるのか……!
初読時、甘酸っぱいとかシュワシュワとかの言葉がでてきた辺りで変化に気づいて、どきどきしました。おそらく作者さんの思惑通りに驚かされました。すごいなあ。
作者さんの企みは大成功です!!
書いた日:2019年06月24日
お名前:円山翔さん
なるほどそう来ましたか。オドリドリが蜜によって、その姿と性質を変える設定を、このように生かすとは。上の句と下の句で文章の感じが変わっていたのもそのせいですね。小野小町の和歌のもじりも、非常にうまいなと思いました。(はなのいろは、と空目していた自分が恥ずかしいです)
書いた日:2019年06月06日