エスパータイプ:あなたを曲げたい

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作者:八十嶋 牢哉
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読了時間目安:3分



 フーディンというポケモンがいる。黄色い身体に長いヒゲ、両手に持った銀色のスプーンがその外観の特徴と言える。ポケモンバトルにおいてどのような活躍を見せているのかは誰にもわからない個人のことではあるのだけど、そんな彼には他のポケモンにはそうそう出来る者のいない稀有な特技がひとつ、存在した。
 『スプーン曲げ』というものをご存知だろうか。昔々はテレビの中で超能力者を名乗る人間が遺憾なく発揮した突飛な奇術の類である。世界各国の子供達は、この謎の技に驚き、慄き、真似をするものが続出したとまで言われている、そんな技である。
 フーディンは何を隠そう、そんな所謂超能力を自在に操る……まあ、生物的には脳から発される念波を具現化する云々の定説があるらしいのだが、それはそうと、そんなポケモンであった。フーディンは自らの超能力でスプーンを曲げる、或いは、曲がったものを元に戻すことができたりする。
 そんなフーディンであるが、現在はスプーンではないものに心酔していた。……心酔と言っては失礼だけれど、とある少年のことが気がかりで仕方がなかった。
 その少年の姿は、屋外から窓を隔てて見ることができた。少年は非常に病弱であり、常に病棟のベッドで過ごしていた。フーディンはその少年から発せられる呼吸の波、脳を駆け巡る信号の連鎖、そんな科学的な境地から少年の心を、読み取ることができた。いや、そんな小難しい論理回路が無くとも、少年の顔を見れば、何もかもが伝わって来た。
 少年は、人生を諦めていた。
 余命宣告でもされているのか、或いは否か、少年は常に無気力を体現したような面持ちでベッドの上でボーッとしているだけなのだ。まるで、もう何もすべきことがないかのような。まるで、何をしても何を言っても、誰にも届かないと悟っているかのような。
 それでも、死に向かって一方通行の憂鬱を繰り返している少年を、フーディンは放って置けなかった。
 どうか、どうかあの少年の諦めに似た気持ちを、曲げてあげられたら。人生はまだ捨てたものじゃないという理想論のレールに向かって、曲げてあげられたら。そんな風に思っていた。
 本当は病棟に立ち入って、彼にスプーン曲げの一発芸で笑顔を芽吹かせてあげられたら良かったのだけれど、少年の何でもないフーディンがその場に居合わせることは不可能だ。
 だからフーディンは窓越しに、たくさん集めたきのみをテレポーテーションのチカラを使って少年の元に転移させた。
 スプーンを使わなくとも、その諦めを、曲げられると信じて。一方通行の気持ちでも構わない。だから、あの人の元へ。


 

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