いわタイプ:腐れ胎動と僕

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作者:八十嶋 牢哉
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読了時間目安:3分



 人間のお兄さんは不思議なことを僕に訊いてきたんだ。それは……まあ、イワンコというポケモンっていうくくりに入る僕にとっては少しだけ難しい質問だったんだけど、それでも僕には僕の知っていることがあるんだし、答えることができないってことも、ないってことだろう。

「君って……ポケモンってどうやって生まれてくるんだい?」

 生まれる。そう、この広い広い世界の中で大きく息を吸うその瞬間こそが生まれるってことだよね。頭の悪い僕だって、それくらいならわかるよ。
 まあ、そんな質問をされた時は……素直にタマゴって答えれば良いんだろうけれど、人間のお兄さんはそのタマゴって存在をどうにも知らないような顔つきをしているわけだ。ならば、少しばかり詩的で素敵な例えを投げかけてみても面白いんじゃあないだろうか。
 例えば。
 僕はいわタイプだから、大きな岩に覆われたところから始まる。大きな岩は時間とともに外側から風に当てられて薄く脆くなっていく。そんな中で僕という命が時間とともに出来上がっていくんだ。そして、岩が完全に崩れ去った時、ひとつの命としてこの世界に産み落とされる準備ができた赤ん坊の僕が、誕生するわけだ。それは、言うなれば『岩のタマゴ』、『石ころのタマゴ』。どうかな、詩的で素敵に仕上がったかな。
 まあ、そんな僕の言葉なんて、この人間のお兄さんにはカケラほども伝わらないんだけどね。僕はそんな唄をお兄さんにどうにか伝えるべく、足元の大きな石を蹴り転がした。
 すると、お兄さんは。

「へえ……君は石の中から生まれるんだね。……その石は、腐っているのかい?」

 お兄さんは、またもやよくわからない言葉を放った。石が腐る? 石は、生モノじゃないよ?
 人間のお兄さんは言う。

「僕は……腐った胎内から生まれてきたんだ。まあ、人間はみんなそうだよ。腐った人間と腐った人間が腐ったようなことをして、その成れの果てに命が胎内に出来上がるんだ。やっぱり僕はそんな胎内で、腐ったままで胎動を繰り返すんだ」

 たいどう? たいない? 腐ってる?
 お兄さんは、一体何を言っているのだろうか。めでたく生まれてくる命なのに、なんで腐っているんだろう。

「僕のお母さんは、不倫……って言っても君にはわからないだろうけれど、望まれない形で、いや、望むべきではない形で僕を授かったんだ。だから……腐っている。君はどうだろう。本当に石ころから生まれてきたのなら、君は腐っていないのかな? いや、親の顔を知らないって時点で、何処かのナニカが腐っているのかな?」

 お兄さんの言うことは、僕にはまったくわからない。だけれど、そんなお兄さんの自虐的な話し方を見て、僕は何故だか心が締め付けられた。いわタイプのくせに、心は岩のようには硬くない。そんな自分が情けないとさえ思えた。そう言う風に、自分を蔑んでいることこそが、お兄さんの言っている『腐ってる』ってことなのかな?
 わからない。わからないよ。


 

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