終わりの呪い

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作者:雪椿
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読了時間目安:7分
その魔女が使うのは、とても不思議な「呪い」だった。
 おや、こんな時間にお客さんかい? いや、そんなに縮こまらなくてもいいよ。単に客が来るのが珍しいって意味で言っただけだからね。それで、お嬢ちゃんはこの私に一体何の用で来たんだい?
 ――え? ただ森を散歩していたらいつの間にかここに来ていた? それは何とも不思議なことだね。この屋敷には何か目的を持った人物か私に縁のある人物しか辿り着けないようになっているから……。
 お嬢ちゃんも心当たりがないのかい。だとしたら、私には尚更わからないよ。こんなパターンはこの仕事をやっていて恐らく初めてだ。もしかしたら今後もあるかもしれないから、早いとこ日記に書き留めておこうかね。
 ん、何を焦っているんだい? ああ、私の様子を見て邪魔しちゃ悪いと思ったから帰ろうとしたのか。そういう気遣いは嬉しいけど、どうやって来たのかわからないのにお嬢ちゃんだけで家まで帰れるのかい?
 ちょ、泣かせるつもりはなかったんだよ! 意地悪してすまなかった。私がちゃんと送ってあげるから、少しだけ私の話を聞いてみる気はないかい? え、お嬢ちゃんのことを知らないのにどうやって送るのか、だって? ちょいとどの辺りにいたかを教えてくれれば魔法で送ってやれるよ。魔女を舐めて貰っちゃ困る。
 あれは、そう。お嬢ちゃんが生まれるよりもずっと前のことだ。

*****

 あの頃、私は魔女らしいセリフを言いながらとある呪いをかけることに夢中になっていた。当時の私は若くてね。昔からの知り合いから偶然出会った者まで、見境なく呪いをかけていたよ。今になって思うととんでもない迷惑行為以外の何者でもなかっただろうね。
 あの日偶然出会った綺麗なサーナイトに対しても、それは同じだった。一目見た瞬間にビビッと来たもんだから、何の説明もなしに呪いをかけてしまったのさ。私は喜びの感情に浸りながら、彼女に向かってこう言った。

「お前に定期的に子供達の『笑顔』を奪わなければ生き続けられない呪いをかけたよ。奪い方は自ずと理解するだろう。笑顔を奪い続けるだけで生き続けられるのだから、いい呪いだろう? だが、もし奪うのをやめたら……どうなるかわかっているだろうね?」


 ……そんなに怯えた目で私を見ないでおくれ。字面だけを見ると確かに怖い気もするけどね。今となってはただの言い訳にしかならないが、私はこう言いたかったんだ。

「お前に定期的に子供達を『笑顔』にさせなければ生き続けられない呪いをかけたよ。笑顔のさせ方はお前も知ってだろう? 子供達を笑顔にさせ続けるだけで生き続けられるのだから、いい呪いだろう? だが、もしそれをやめたら……お前はあっと言う間に年をとるどころか消えてしまうよ?」

 意味が真逆に聞こえるって? はは、今なら私もそう思うよ。お嬢ちゃんでさえそう思うのだから、あのサーナイトもきっと勘違いしてしまったのだろうね。あの子はどうなってしまったのだろう。気になるけど、どこの誰かも知らないから確かめようもない。
 賢そうな子だったから、途中で本当の意味に気が付いて幸せになっていて欲しい、だなんて。ちょっと自分勝手すぎたね。
 そんなことを繰り返していたから、私はいつの間にか「終わりの魔女」と呼ばれるようになった。今はちゃんとやっているからか「始まりの魔女」と呼ばれているけれど、一度黒くなってしまった私は何度頑張っても真っ白にはなれない。私は灰色の魔女なんだ。
 だから、私は自らの魔法で作ったこの屋敷にいる。光にも影にもなれない私には、こんな場所がお似合いなのさ。

*****

 さて、これで私の話は終わりだよ。あの始まりからすると短すぎて拍子抜けさせちゃったかもしれないね。……ん、どうしたんだい? 私は見た通りゴーストタイプだから、気を付けないとすり抜けてしまう。そこの机にぶつかると危ないから、そんなに強く抱き着くのはおやめ。
 ……え、魔女さんはとてもいいポケモンだから、そんなこと言わないで? おやおや、今の話を聞いてあの反応をしていたというのに、嬉しいことを言ってくれるじゃないか。それにしてもお嬢ちゃんはひんやりとしていて気持ちがいいねえ。どうしてシャワーズになろうと思ったんだい?
 へえ、お祖母ちゃんがシャワーズで不思議な力を使えたから、それに憧れて進化したのかい。言われてみればお嬢ちゃんにも何か私に似た力を感じる気がするよ。こりゃ将来化ける可能性が高いね。
 ……さあ、そろそろいい時間だ。お嬢ちゃんを元いた場所に帰すから、散歩していた森の名前を教えておくれ。蒼雨の森、か。森のどこにも蒼い雨なんて降っていないのに、何であんな名前がついかのか不思議に思っていたから場所はよくわかるよ。
 飛ばす時少しだけ揺れるかもしれないけど、すぐに終わるから我慢することだ。準備はいいかい? それじゃ――って、何だい!? 突然大声をあげて。自分の名前を教えるのを忘れていた? いやいや、私とお嬢ちゃんが出会ったのは偶然。次に会うことは恐らくないのだから、教える必要なんて全くないよ。
 偶然出会ったのなら、また偶然出会うかもしれない。だから自己紹介しておく? はいはい、わかったよ。お嬢ちゃんの目を見ていたら、何を言っても聞かないことは安易に想像できるよ。
 お嬢ちゃんはアイラと言うのかい。いい名前だねえ。そっちが名乗ったのなら、私も名乗っておこうか。私はシエラ。魔女をやっているムウマージだよ。こうしてみると、私達は名前だけだけど少し似ている気がするね。
 それじゃあ、今度こそ準備はいいかい? さようなら。また会う日があったなら、今度はそっちの話を聞かせて欲しい。私はアンタの言う偶然を信じて、いつまでも待っているよ。
 ……行ってしまったか。実はアンタに一つだけ伝え忘れていたことがあるのだけれど、こえは伝えない方が逆に面白いかもしれないね。アンタには私からとっておきの「呪い」をかけておいたよ。何か大きな「始まり」に足を突っ込むかもしれない、魅力的でどこか危なっかしい呪いを。
 さあ、アイラ。この呪いをどっちに転がすのか、私にたっぷりと見せておくれ。


「始まりの呪い」 終わり

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