クリスマスプレゼントはラティアスの妹だった

しおりを挟みました
しおりが挟まっています。続きから読む場合はクリックしてください
作者:えびフライ
読了時間目安:54分
 どうも、えびフライです。
 僕からのクリスマスプレゼントと思ってお読み頂ければ幸いです...。
(因みに僕はこの小説を書くのにクリスマスの全てを費やしました。)
 正直僕の小説のイメージを全部ぶち壊しかねない感じの作品となっておりますのでご了承下さい。僕のクリスマスの妄想に付き合って頂ければ嬉しいです。
 1

 クリスマスの日の朝、彼女はそこにいたのだ...。

「えっ?何、もう一回言って?」

「だーから!私はサンタのあなたに向けたプレゼントなの!」

 きょとんとしている彼の名はリンド。高校生だ。今日はクリスマス。昨日のイブも安定のクリぼっちだった男である。

「夢?」

「そうだと思うなら頬をつねってみなさいよ」

 今年もぼっちか...等と呟きながら寝、次の日目が覚めると、ベッドの上の足元に謎の女の子が座っていた、という訳だ。
「痛い」

「そういうことよ」

 彼女はぶっきらぼうに言う。
「...とりあえずもう一回寝るか」

「起きろ馬鹿」ゲシッ








「おはようございます」

「起きた?」

 すっきりとは目覚めたが...殴られた頬が痛む...

「大体は状況飲み込めた?」

「うん...っていや、飲み込めるかッ!」

「ですよねー」

 危うく流されるところだった...

「簡単に状況整理させて」

「良かろう」
 何故俺が下手に出なきゃならないんだ...なんて不条理に苛まれながら、頭の中で昨日の夜からの出来事を振り返る。

「俺は妹が欲しかった」
 彼女はこくりと頷く。
「だから昨日の夜、『サンタの奴、本当にいるなら俺に妹でもくれよ!』なんてふと思ったりはしたよ!」
「そ~れで?」
 彼女は少しニヤニヤしながら聞いてくる。
「サンタって本当にいるんだな」
「あっ、そこなのね」

「まあ、細かいことはこの際気にしないよ」
 正直やけくそ自暴自棄である。貰ったチャンスなんだから細かいこと口に出さない!なんて。
「その方がいいと思うよ、私も。」

「...結論から言うと、俺に妹が出来たってことで良いんだよな?」
 妹はこくりと頷き、
「うん。制限時間付きではあるけどね。」
「制限時間?」
「そう。他の子の願い事みたいに、ゲームやオモチャだったら、まぁサンタのへそくりから出せるんだけどね、」
「あ、いつもサンタ自腹なんだ...大変だな...」
「でもさ、妹ってお金出しても買えないじゃん。だから、私はサンタの魔法で産まれたんだ。だけどね、サンタの力にも限界があるからね。」
 成る程...

「で、制限時間はいつまでなの?」
「来年のクリスマスまで」
 さらっと言ってのける彼女。
「思いの外長いな」
「だからまあ、一年間宜しくね。」
 妹は立ち上がって一礼する。
「こちらこそ...って何か忘れてる気が...そうだ!あの願いには続きがあったんだ!」
 彼女は何?という感じでこちらを見てくる。
「『で、妹はラティアスがいい!』っていう部分はどうなった?」
 彼女はフッと笑い、
「もちろん、サンタが願いを聞き逃す訳無いじゃない。」
 そういい終わるや否や、彼女の姿は女の子からラティアスに変わっていた。

「えええ?!」
 女の子改めラティアスはニコッと笑い、
「サンタは何でもお見通しだからねー。あ、ちゃんと血は繋がってる設定だから。安心して。」

「そうだ、あなたの名前は?」
 そう言えば自己紹介してないんだっけ。
「俺はリンド。高校二年生。」

「ふーん、何か名前で呼ぶのもアレだから、にいさんって呼ばせて貰うわ。因みに私はフリージア。」

「あっそう。」
 軽く流す。
「あっ、何かイラッと来たらクソ兄って呼ぶからね」

「何か初期の好感度低くない?」

「気のせい」
 ぷいと向こう側を向く...かわいい。


「にいさん、お腹すいた」
 そのまま硬直状態が数十秒続いた後、彼女はぼそっと言ったり
「じゃあ下行こう。お母さんが朝ごはん作ってくれているはず。」
と言いフリージアを手招きする。
「ありがと。」
「お母さんフリージアのこと見たら驚くだろうなー」
 階段を降りながら呟く。
「あ、そこらへんは大丈夫。上手い具合にみんなの記憶いじってあるはずだから。」
 何とも無いようにさらっと言ってのけるフリージア。
「サンタが?」
「サンタが」
 サンタ...もう凄いを通り越して恐ろしいわ...

「おはよー、朝ごはん出来てる?」
 半信半疑でフリージアを連れ、母に声をかける。
「出来てるよ。ほら、フリージアも手を洗って座りなさい」

 マジか...

「そうだ、今日は二人でデートでもするのかい?」

「「え!?」」

「せっかくのクリスマスなんだし、外で遊んで来なさいよ」
 母はニヤニヤしながら言ってくる。

「クリスマスはカップルの行事かと...兄妹も含まれるのか?フリージア?」

「知るかそんなもん」

「...遊び行くか?」
 一応誘ってみる。
「私は別に構わないけど?」
 ...と言いつつ顔が笑っている。嬉しいのだろう。
「この町、案内してやるよ。」

「ありがと。」
 頬を赤らめているように...見えるだけか。
「仲がよろしいようで」
と、母。今度こそ顔を赤らめたフリージア。




「賑やかだね」
 辺りを見回しながら呟くフリージア。
「まあクリスマスだからな」

「そう言えば外に出る時は人の姿になるんだな」
 家の玄関を開ける直前に姿を変えた気がする。
「そりゃ他の人に私がラティアスってこと言える訳ないでしょ、見つかったら大ニュースだよ。」

「流石のサンタも...」

「無理です」

「あっそう」
 やっぱりサンタにも無理なことはあるんだなぁ...
「あ、あと私、一般常識位は大丈夫だから。」

「まあクリスマスとは言えど、カップル以外には平日と変わらないよ。」

「てことにいさんにとっては平日なんですね」

「中々ストレートに心をえぐるな...」
 心の奥深くまで突き刺さったぞ...
「まぁ今日からは特別な日かな」

「え?」

「だって、妹が出来たから。願いが叶った...日だから。」

「そう言われるとにいさんの妹になった意味があるというものですね」

「いやいや、ありがとうな。本当に。」


「...ん。」

「何?その手?」

「何って、この町を案内してくれるんでしょう?エスコートしなさいよ!」

「手繋ぐの?」

「んなっ...訳無いじゃん!早く行こうって意味!」

「わかったわかった...」

「案内して、にいさんの町を。」

「そして今日からフリージアの町、な。」
 やめろ...そんな呆れ顔するんじゃない、フリージア...















「早く朝ごはん食べないと遅刻するわよー」
 今日は新学期だ。慌てて階下に駆け降りる。
「いただきまーす」
 前を見ると、フリージアもご飯を食べはじめていた。が、梅干しで手が止まる。
「まさか」

「わかってる癖に」
 じとーっとこちらを見てくる。
「わかったわかった。食べてやる」

「どうも」
 フリージアは梅干しが嫌いなのか...。小さな発見だ。

「着替えた?」
「うん」
「歯磨きした?」
「した」
「忘れ物は?」
「無い...たぶん」
「じゃあ行こうか、フリージア。」
「わかった。」

「「いってきまーす!」」
 玄関を出た瞬間、またもやフリージアは人間の姿に変わる。

「もうフリージアが来てから2週間か。」

「そうだね。」

「ちょっとは生活に慣れたか?」

「...何か私を見てておかしいところある?」

「まあ...無くは無いけど概ね次第点。」

「あるんだ...」

「...世間一般の妹はそんな四六時中兄に付いて回ったりしない」

「しょうがないじゃない!私、いろいろ勉強しなきゃならないのに!誰が好き好んでにいさんと一緒にーー」

「わかったわかった。となると、問題は学校だな」

「ご心配なさらずに」

「まさか、またサンタの...」

「もちろん」
 自信たっぷりだ。
「全員の記憶を操作して?」

「して」
 つくづく恐ろしいことやってるな...
「で、フリージアの学年は中学三年でいいのか?」

「うん」

「誰が決めたんだ?」

「私の気分。」

「大丈夫か、これ......着いたぞ。」

「中学校?」

「そう。俺の通ってた中学校。」

「よ、よぉーし」

「本当に大丈夫?」

「たぶん」

「なら良いんだけど...じゃ、俺は高校行くから。」

「うん...」

「また迎えに来るからさ。」
 さらっと言ったつもりだったが...これがまた。
「い、いらないから!そんなの!」

「はいはい...じゃあね。」

「じゃあね、にいさん。」

 そうして俺は高校に向かった...が心配で仕方がない。



 そして放課後...

 「普通だったら校門の前で妹を待つ兄なんて考えられないわな」

「なに待ってんの?」

「うわっ!びっくりした...」

「...お兄ちゃん?」
 フリージアの横にはもう一人女子が。フリージアの友達か?
「うん。出来損ないの。」
 まーたさらっと言ってのけるフリージア。
「おいおい...」

「じゃあまた明日ね」
「うん!」

「一緒に帰るんじゃなかったのか?」

「いえいえ、大丈夫ですよー、じゃあね、フリージア。」
とフリージアの友達。
「うん。ばいばいー」

「来なくていいって言ったのにー」
 フリージアはむすっとしている。
「いやいや心配だったし。まあ...友達も出来たみたいだし。大丈夫そうだな。」

「......。」
 フリージアは黙ったままだ。
「ん?どした?」

「何でもない」
 あれ?
「帰ろう、にいさん。」

「ああ。」

 その後、しばらく歩いていたが、やはり俺の疑念は晴れない。
「どうしたんだよ、フリージア。」

「...今日いきなり友達が出来る訳無いじゃん。」

「ああ、そっか。例の記憶操作で前から友達だったってことか。」

「そう」

「フリージア、何かあったのか?」

「なんにもないよ」

「嘘つけ」

「にいさんには...にいさんには、分からないこと」
 そうこうしているうちに、家に着く。そして、俺は自分の部屋に入るが、何故かフリージアも付いてくる。
「言いたくないなら言わなくてもいいけど...でも一応、お前の兄だからさ。困ってることがあったら、何でも聞くよ。」

 暫くの間の後、
「...あのさ」

「ん?」

「私の好きな食べ物って知ってる?」

「嫌いな食べ物なら一つ知ってるけど」

「ふふふ、そうだね。」

「で?」

「私ね、わさびの効いた寿司とスイカが大好きなんだってさ」

「...なんで他人事?」

「今日、学校の子が言ってた。私、スイカなんか食べたことないのに...」

「記憶操作、か。」

「さっきにいさんが校門で喋った子、朝私が教室に入ったら真っ先に話し掛けてきたの。怖いよね、私にとっては初対面なのに...。あの子だけじゃない。教室にいる子みんなが私を知っているの。私が知らない私を、ね。」

「フリージア...。」

「怖かった...。みんなの話してる私って誰なんだろって。まわりの子がみんな怖かったの。そう。私の部屋だって、すごい女の子らしい部屋で、確かに私の好きそうな物がたくさん置いてあるんだけどね、それを置いたのは私じゃない。私の知らない、誰かだから。そう考えたら凄く気持ち悪くなってきちゃって...」

「...だから、いつも俺の部屋にいるのか」

「しょうがないんだけどね...だって私、生まれてまだ2週間だし。全部『作り物』の妹だもんね。分かってる、分かってるんだけど、なんか悲しくなっちゃって。私のこの体だってよくわかんないし。高速飛行の仕方もわかんないし、念力なんて使えやしない。何が何だかわかんないよ...」

「......。」

「ごめん、こんなこと言われても困るよね」

「......。」

「うん、大丈夫だから。」

「......。」

「すぐ慣れるよ、きっと。それに、たった一年我慢すれば良いことだから。...ね、にいさん。」

「フリージア。」

「え?」

 俺はフリージアの肩を掴む。
「行くぞ」

「行くって...え?私の部屋...」
 ドアを開け、フリージアの部屋を見渡す。
「...綺麗な部屋だこと、でもな、この部屋は暖かくない。全部、捨ててしまっていいよな。こんなもの使ってるフリージアなんか、俺知らないし。」

「...にいさん」

「よし、ちょっと出掛けるか。」



 俺はフリージアを連れ、ショッピングモールへ向かう。
「フリージア。自分は作り物だとかさ、一年我慢すりゃ良いとかさ...そんなこと、言うなよ...。お前は、俺のわがままから生まれちゃったかも知れないけど、俺に出来ることなんて、お前を大事にすることくらいしかないけどさ。でもな、お前を悲しませることだけはしたくないから。」

「...にいさん」

「だからさ、お前の部屋、お前の物で一杯にしようせ」

「でも...」

「返事は?」

「うー」

「返事」

「...はい」




 そのまま二人はバスに乗り、ショッピングモールに向かう。
「ところでさ、俺は、お前の兄になれてるか?」

「...うーん」
 な、悩んでる...マジか...
「少しは頼りがいが出てきたかな?」

「兄への道のりは険しいってことか」

「にいさん」

「ど、どした?フリージア?」

「ありがとう」
 初めてフリージアのしっかりとした笑顔を見た気がする。そしてさらに、バスの最後部とは言え、本当の姿(ラティ)に戻ってる...
「...どうも」
 かわいいやつめ。





 2 

 数日後...リンドの部屋にて。
「そうだフリージア、今中学三年なんだろ?」

「そうだけど」

「受験は」

「...受験?」
 やっぱり気付いてなかったか...
「そっか、私って受験生...」

「いやはや、早めに気付いてよかったよ」

「受験まであとどれくらい?」

「...2ヶ月無いくらいかな」

「それって早め?」

「いや、ごめん。」

「...うー」

「あー、泣くな泣くな」

「な、泣かないし、バカッ!」

「ごめんごめん...あのさ、フリージアって頭良いの?」

「国語と英語と社会は大丈夫だけど...数学と理科が...」

「成る程、苦手なんだな。」

「......。」

「ん?」

「...ちょっとだけだもん」

「その変に高いプライドはなんなんだ...」
 フリージアの頬が膨れている。やっぱり何気にかわいい。

「...まあそれでも普通に高校行けるレベルか。」

「...そうなの?」

「数理が苦手な人なんてたくさんいるだろうしな。」

「そうだ!にいさんの高校には?」

「...え?」

「私、にいさんの高校には行ける?」
 うっ...
「...きついかな...」

「...どして?」

「一応、俺の高校この辺でトップだし」

「にいさん、意外に頭良かったんだー」

「それなりには」

「......。」
 なんだその目は...。やめてくれ。

「あのさ、にいさんは?」

「ん?」

「にいさんは、私に同じ高校に来て欲しい?」

「...もちろん」

「わかった。」

「え?」

「しばらく、にいさんの部屋からはお別れ。私、受験生になります」

「え?」

「目標は、にいさんと同じ高校。」

「......。」

「だからさ、待ってて、にいさん」

「...無理、すんなよ?」

「大丈夫!私をなめるな」

「...おう」

「えへへ、じゃあ」

「頑張れよ...」


 その後、フリージアは勉強に励んだ。日夜勉強勉強勉強...
 体壊すんじゃないかと母が心配するほどだった。そんな訳でだいたい1ヶ月ちょいが過ぎ、受験2週間前となる。

 学校帰り、リンドは考え事しながら歩いていた。すると、フリージアの友達がいた。
「お、フリージアの...」

「こんにちはー」

「今から帰るところ?」

「いえ、塾に行くところです」

「あー、勉強頑張ってるんだ」

「はい、フリージアちゃんほどじゃないですけど」

「あいつ家でもずっと部屋で勉強してるからなぁ」

「知ってます、学校でも机から一切離れませんよー」

「だろーな...」

「わかんないところはすぐ聞いてきますしー」

「迷惑かけて悪いな」

「いえいえ!私、頼って貰えて嬉しいんです!」

「ありがとうな。そうだ、そういや名前なんて言うの?」

「クロッカと言いますー」

「そうだ、クロッカさんはどこの高校狙ってるの?」

「フリージアちゃんと同じ高校ですー」 

「ってことは...」

「はい、お兄ちゃんと同じ学校ですよ」

「そうだね...って、お兄ちゃん?!」

「お兄ちゃんって呼んじゃダメですか...?」

「いや、ばっちこい」

「良かったー」

「...フリージアに何か言われそうだけど」

「どうかしましたか?」

「いや、何も。...そうだ、フリージアは高校に受かりそうかな」

「...えっとー」

「あ、思ってること言えばいいよ」

「...数学がですねー」

「ですよね」

「でもフリージアちゃん、英語とか国語とかは誰にも負けない位いいんですよ」

「あ、そうなんだ」

「それに、数学と理科もどんどん力つけてますこら、たぶん大丈夫だと思います。」

「ありがとう」

「それじゃあ、塾に遅れちゃうのでー」

「あ、ごめんね」

「いえいえー、フリージアちゃんに宜しく伝えておいて下さい」

「了解!フリージアと二人で来るのを、高校てでで待ってるよ」

「ぜひぜひ、待っててくださいー」


 その後、フリージアは誰のために、とは言わなくてもわかるだろうが、必死に勉強を重ねた。母も心配する位に。さらに、リンドもフリージアのために数学や理科を必死に教え、夜遅くまで付き合ってあげていた(そのせいで授業寝まくったのは別の話)。かくして、受験前日を迎えたのであった...。

「...なんとか、ギリギリ間に合ったか...」

「......。」

「フリージア、あとは過去問を解いてみて今日は寝るぞ」

「...詰め込みすぎで、頭痛い」ゲホッ

「おい、大丈夫か?」

「大丈夫大丈夫、じゃあ過去問やってみるよ」
 フリージアはやる気満々。が、無理させてはダメだ。
「いや、大事を取って今日は寝よう」

「え、無理ー」
 ここは譲れない。
「体調崩したら元も子もないだろ?」

「でも、こんなんじゃ不安で寝れないよ」

「だめと言ったらだーめ」

「フリージアが寝るまで部屋出ていかないからな」

「うー...」

「ほら、布団の中入って」
 渋々布団に入るフリージア。
「横になってるだけでもだいぶ違うから」

「...はぁい」

 暫く沈黙が続く。
「...にいさん」

「なんだ?」

「...手、握っていい?」

「いいよ、ほら」

「ありがと」
 その手からは、フリージアの不安な気持ちがしっかりと伝わってきた。

「にいさんの手、初めて触った」

「そうだな」

 また暫く沈黙が続く。

「...にいさん」

「なんだー」

「私、合格するかな?」

「余計なこと考えてないて寝ろって...」
 が、フリージアは手を強く握りしめてきた。
「...フリージア?」

「大丈夫かな...」

「...きっと合格するよ、フリージアは。」

「フリージアは、頑張ったから。それは俺が一番良く知ってるから。誰よりもお前は頑張ったよ。だから、フリージアは合格するさ。」

「にいさん...」

「つーか俺がここまて付き合ってやってるんだから合格しないとぶっ飛ばすからな」

「...う、プレッシャー...」

「あれ?この言葉を欲してそうに見えたんだけどなぁ...」

「...合ってるよ。にいさんがそう言ってくれたら、私は安心。ありがと、にいさん。」

「お礼は受かってから言え」

「受かったらもう一回言うもん!」
 まーた頬を膨らませている。
「楽しみにしてるよ」
 思わず笑みがこぼれる。

「うん、待ってて」

「フリージアが高校生になったら、色んなところに遊びに行こう。まだまだお前が知らないものもたくさんあるからな。お前がやりたいことは何でもやろう。何でも俺、付き合うから...まあ、お金のかかることはできないけど...な」

「......。」

「あれ?」

「......。」スー
 ...寝ちゃったか。
「...ん...にいさぁん」
 かわいいなぁ...よく頑張ったよ、あと少しだからな。フリージア。おやすみ。




ピピピピピピピピピピ
「ふぁあ...」
 さーて、いよいよだな。とりあえず起こしに行かないと。

「おーい、朝だぞー!」

「ふぇ?」

「ふぇって...ってお前!顔真っ赤だぞ、熱あるんじゃないだろうな?」

「大丈夫...」

 すぐさまフリージアの顔に手を当てるリンド。フリージアの額は...熱い

「母さん!すぐ来て!ほら、起きなくていいから横になって。」

「でも」

「良いから」

「...私、受けにいかなきゃ。今日のために勉強してきたんだから。だから、このくらいの熱は...覚悟の上だもん...。」

「嘘つけ...」

「嘘じゃない...お願い、行かせて。私、こんなことじゃ諦められない。」
 必死の目付きだ。でも...フリージアの体が...
「いいよ。行きなさい。フリージア。私が別室受験の申し込みしといてあげるから。だけどこれだけは約束して。辛くなったら無理しないで必ず先生に言いなさい。ほら、風邪薬。」
 母だ。
「リンド、車のエンジン掛けてて。私が車で送るから。」

「わかった。フリージア、俺がついてるからな。落ち着いて行けよ。」

「...頼もしいな」

「だから、大丈夫。」

「ありがとう。にいさん。私、頑張って来るよ!」

 そうして、母とフリージアは車で戦いの場へ出掛けて行った。家に残されたのはリンド一人...

...さて、あとは祈るだけか。頑張れ、フリージア。






 さて、合格発表の日...
「フリージア!いい加減用意しないとクロッカさん来ちゃうぞ」

「いーやーだ!私まだ熱あるもんー!」

「嘘つけ、とっくに治ってるだろうが!」

「うー、いやぁ...」

「じゃあ代わりに俺が」

「それもやだぁ!」

「やけにめんどくさいな今日...」

 そうこうしているうちに、チャイムが鳴った。ビクッとなるフリージア。
「お、来た」

「うー...」

「ほら、クロッカさん待たせるなって」

「うん...」

 その後、フリージアは渋々外に出て行った。居間で一息つくリンド。母がスープを出してくれる。
「...あの子はちゃんと行ったかい?」

「ああ、なんとかね。」

「リンドはずいぶん余裕があるわね...てっきりフリージア以上に心配してると思ってたのに。」

「あ、そのことだけど」

「?」

「実はフリージアに内緒でフリージアの回答を採点したんだけどさ、英語と国語が満点、社会が一問ミス、数学と理科も数問しか間違えてなかったからさ、よほど熱のせいでマークミスとかさえしてなければ、余裕で合格なんだよな。」

「...へぇ、成る程。私もだいぶ安心したわ。ところでリンド、聞きたいことがあるんだけど」
 急に小声になる母。
「なに?」

「もしかしてフリージアって、サンタクロースからあなたへの贈り物なの?」

「ぶっ!!」

「あら、ほんとなのね」

「な、なんで...」

「いやいや。私の旦那、あなたが産まれたその後すぐ亡くなったのに、あの子は誰の子ってなるじゃないの。そもそも人間の子がドラゴンってのもおかしいし」

「なーるほど、...いつから気付いてたの?」

「最初からよ。」

「クリスマスから?」

「そう。なんか変な記憶のせいで曖昧だったけど......母親を見くびって貰ったら困るわ。」

「......。」

「ま、わかったからといってなにも変わらないけど。あの子は私の大事な娘。そして、大事なあなたの妹なんだから。」

「...ありがとう、母さん。」

「それじゃ、お祝いの準備をしましょうか。」

「そうだな。すぐに帰ってくるぞ、あいつ」

...イサーン!

「ふふふ、言ってるそばから」

「いや...早すぎだろ」

「にいさん、私受かってたよ!!」

「わかったわかった。そうだ、クロッカさんは」

「受かってたー!これでにいさんと同じ高校だね!」

「そうだな」

「ねえねえ、嬉しい?」

「もちろん。嬉しいよ」

「えへへ...私も嬉しい。...そうだ!クロッカちゃん忘れてきた!迎えに行ってくる!!」
 と言うと、妹はまた走り去っていった...。

「フリージア、はじめよりずいぶん明るくなったわよね。」

「かもな。」

「このまま、この生活がいつまでも続けば良いわね。」

「......。」

「リンド?」

「いつまでも続けば...良いのに」

「......。」

「ま、今日は...祝おう。」

「そうね。」

 ...イサーン!
「主役も来たみたいだし」

「ふふふ、じゃあ用意してくるわ。」

 今はこれで、良いんだ。たぶん。






 3

 梅雨のある日、
「ちょっと雲行きが怪しくなってきたね、クロッカ。」

「うん。そういう季節だから仕方ないねー」
 フリージアとクロッカは窓から外を見ていた。
「雨降る前に帰ろ、クロッカ。」

「合点承知ー!」

 その後、帰り道にて...
「ねえフリージア、フリージアのクラスは楽しい?」

「うーん...普通、かな?」

「普通かー」

「何せクロッカが違うクラスになっちゃったからね」

「あ、嬉しいこと言ってくれたー」

「折角にいさんと同じ高校に入れたのに、学校であまり会えるわけじゃないし...」

「またお兄ちゃんの話ー」

「......!」(顔真っ赤)



「今のはナシ!ナシだから!」 
必死なフリージア。

「良いじゃん別にー」 

「お兄ちゃん、すごく優しい人だし、好きになるの分かるもん」 

「すす、すすす好きぃッ!?」 

「お兄ちゃんのこと好きでしょ、フリージア。」 

「ど、ど、どこからそんな話になるのさ!」 

「好きじゃないのー?」 

「そ、そりゃあ兄妹としてなら…い、言っておくけど兄妹としてならだよ?それならまあ、頼りにならないこともないし?好きか嫌いかって言われたら、そ、それなら好きっていっても、別に嘘じゃないけど」 

「フリージア、目が泳いでるよー」 

「…あう」 

「フリージアにごまかされるのは、友達として傷付くなー」 

「べ、別にごまかしてなんか…」 

「んー?」 

「で、でもにいさんは、私のにいさんだし」

「でも本当のお兄ちゃんじょないんでしょー?」

「......。」

「あ、良い意味でだよ?本当のお兄ちゃんじゃないから、お兄ちゃんだからっていう理由で好きになっちゃ駄目なんてことは無いってことだからねー。だから、お兄ちゃんが好きなら好きって言って良いんだよー?私にはねー」

「クロッカ。」

「なにー?」

「私の言ったこと、信じてくれてるんだ。」

「うん。もちろん。」

「信じられないような話なのに...」

「んー、あれから色々調べてみたんだけどねー、私とフリージアがずっと友達だったっていう記憶はあるのに、二人の思い出は私、一つも持ってなかったんだ。写真の一枚も無いの、おかしいよねー。だから、嘘じゃないのはすぐにわかったよー。」

「それだけで...」

「それに、フリージアの言ったことなら、私、どんなことでも信じるよー。たとえ記憶は嘘だったとしても、私はフリージアの友達だもん!」

「クロッカ...ありがとう。」

「だから...フリージアに言われるまで、このことに気づけなかった自分が、悔しい。少し考えれば分かることなのに、そんな嘘の記憶に騙されてた自分がとても恥ずかしいし悔しいよ。本当のフリージアの友達なら、すぐに気づくべきなのに!」

「クロッカ...違うよ。クロッカは悪くないよ」

「ううん。気づけなかった私が悪いの。それと、話してくれてありがとう。フリージアの真の姿のことも。めっちゃかわいいじゃない!あの姿。」

「...うん。だって、友達に隠し事はダメだもんね。」

「...友達。」

「うん。友達。信じてくれてうれしい」

「...フリージア、ティッシュー」

「はいはい」

 クロッカは、泣いていた。
「クロッカが友達でよかった、ほんとに」

「あーもう、やめてよぉ、今泣き止みそうだったのにー」

「そ、そういうつもりじゃないよ」

「分かってるけど...フリージア、ティッシュー」

「はい」

「ありがと。」

「クロッカと友達になれたことは、サンタに感謝しないと。」

「...サンタも、酷いことするよね。」

「え?」

「人の記憶をいじって、フリージアを苦しめて、子供に夢を与える人
のすることとは思えないよー...」

「しょうがないよ、そうしないともーっと大変なことになるんだから」

「でもー...」

「それに、サンタには十分感謝してるよ。だって、にいさんの、妹になれたんだもの。それに、もちろんクロッカの友達にもね。」

「...でも、期限付きじゃんか...。」

「......。」

「フリージアがあと半年でいなくなっちゃうなんて...そんなの、酷すぎるよ...」

「...それでも、サンタには感謝してるよ。だって私、今凄く幸せだもの。」

「フリージア...」

「ね?クロッカ?」

「...そんな顔見て、私が嘘に気付かないわけないじゃんか...。ずっと、一緒にいたいって思ってる癖に...。」

「ごめん...。」

「私に嘘ついてもすぐわかるんだからねー」
 クロッカはニコッと笑った。その笑みにどんな心理が含まれているかはだれにもわからない...。




 4

 夏の終わり、夏休みももうあと少しで終わり、という日曜日。今日は近くの海岸で花火大会が開催される。なんならフリージアを連れて見に行こう、と思い立ったリンド。
「フリージア、いるか?」

「いるよ...何?」

「ちょっと見せたいものがあってだな...」

「わかった。少し待ってて。」

 しばらくすると、フリージアは出てきた。
「行こっか、にいさん。」


 他愛ない話をしながら30分。リンドとフリージアは花火会場に到着する。
「にいさん、ここは?」

「花火大会がある会場。...そっか、花火がわからないか...」

「わからないわけないでしょ...見たことは無いけど、さ。」

「凄いぞ、まあ、もうすぐ始まるから見てろよ」

「うん」

 その後、一発目が上がる。
「...うひゃあ!」
 花火の音で飛び上がるフリージア。
「ほーら」

「あう...」
 さらに二発目、三発目。その度、フリージアは飛び上がる。
「音は怖いけど...綺麗だね。」

「でしょ?」

「連れてきてくれてありがとう、にいさん。」

「いえいえ」
 二人は寄り添いながら花火を見ていた。
 花火は夏の夜空に消えて行った。私の存在も、こんな感じで消えて行くのかな...。フリージアはふと思った。嫌だ...消えたくない...。

 花火大会の数日後、リンドの部屋にフリージアがやって来た。
「にいさん、これあげる」

「...?」
 押し花だ。それをラミネートしてしおりにしてある。これは忘れな草?
「ありがとう。」
 何故急に...と思うところもあったが、敢えて黙っていた。が、後々気になってきたので、とりあえず博識...っぽそうなクロッカに電話をかけてみた。
「もしもし...あ、お兄ちゃん!どうされましたかー?」

「あー、突然掛けてごめんね。実はさ、さっき突然フリージアから忘れな草の押し花入りのしおりを貰ったんだけど...何か意味があるのか気になってね。」

「もしかすると花言葉か何かかもしれないですねー。ちょっと調べてみます」

 少しの間を置き...
「わかりましたー!忘れな草の花言葉は『私を忘れないで』だそうですー。」

「私を忘れないで、か。ありがとう。」

「いえいえー!お兄ちゃんのお力添えが出来たならよかったですー。」

 リンドは電話を切る。
 フリージア...お前...。






 私を、忘れないで





 5


 時が過ぎるのは早いものだ。もう師走。世間一般は新しい年に向けて忙しく、そして期待を膨らませる時期、それが師走である。が、リンドとフリージアはだんだんと迫る別れに対し、ただ落ち込むことしか出来なかった。
 師走となれば、お互い忙しい。冬休みに入るまで特にこれといったことを一緒に出来ていなかった。言葉数も、否応なしに減る。
 そんなこんなで冬休みに入った。
 まず始まって一週間は、母がスキー旅行に連れていってくれた。もちろんスキー板など履けないフリージアだが、雪だるまを作ったり雪合戦をして思う存分雪山を楽しんだ。
「フリージア、背中乗っていい?」

「...仕方ないなぁ...。今日だけだよ。」
 旅行最終日、ついにリンドはフリージアに、誰もいない雪山で、彼女の背に乗せて貰った。
 絶景だった。
 パラシュートで滑空するのが好きな人の気持ちがわかった気がする。
 その時のフリージアの自慢気な顔も、忘れられない。彼女はついに飛ぶことを完璧に覚えられたのだ。

 そうしてイブの前日、23日を迎える。

「ほら、起きろ。朝だぞ」

「うーん...」

「今日はさ、お前にサプライズだ。皆で遊びに行こうって約束したんだ。」

 フリージアはムクッと起き上がって来る。
「ふあぁ...おはよう」

「おはよう。早く着替えろー。行くぞ!」







「おーす、リンド。」

「よ!ヒルガ。」

 昼前、リンド、フリージア、クロッカ、そしてリンドの幼なじみであり、フリージアたちとも行き来のあったヒルガが駅前に集合した。
「で、今日はどこに行くのかい?」
 早速ヒルガが言う。ヒルガはまだフリージアの事情を知らないが、他の三人は割と焦っていた。
「今日はさ、全員でそれぞれ行きたい場所を言っていって、そこに行きたいと思うんだ。」
とリンド。
「わかりましたー。じゃあ最初はどなたが...」
とクロッカ。
「じゃあ今日の企画者、リンドくん宜しく」
とヒルガ。
「俺でいいの...?じゃあ...」



 ガゴーン!
「成る程ー。ボウリングですかー!」

「知らんかったぞ...もうあいつとの付き合い長いのに...」
 ぼやくヒルガ。

「でもフリージアちゃんと、楽しそうにやってますよー」

「というかあの子上手くね?初めてって言ってた気がするんだが...」

「そうですねー(棒読み)」

 もちろんフリージアが上手い理由は、無意識に出ている念力のせいである。
「よし!1ゲーム終わった!そう言えばお前らしないの?」
 リンドとフリージアが軽く汗を流しながら帰って来た。

「私は遠慮しますー」

「俺はやめとくわ。」
 そんな訳で渋々次の場所を決める。
「次はクロッカちゃん決めてよ」
とフリージア。
「合点承知ー!」






「ふふー♪幸せですー」
クロッカは幸せそうだ。


「...まさかクロッカちゃんにこんな趣味があったとはな、ヒルガ。」

「ああ。美術展とはな。」
 クロッカとフリージアは仲良く絵を彫刻を見て回っている。リンドも中々興味が湧いてきたようで、ちょくちょく気になった絵を眺めていた。二時間程で見終わり、外へ出る。

「次は俺言っていいか?」
とヒルガ。
「「「どうぞ」」」

「『カラオケ』に行きたい」
...とヒルガが言った瞬間のリンドの顔、クロッカは見逃さなかった。
「出やがった...平成のジャイアン」
リンドがぼそっと呟いたのも、聞き逃さなかった。

~地獄の二時間パックの後~

「あー歌った歌った」
 ヒルガは満足そうだが、他の三人はげっそり。
「歌い放題じゃなかったのが不幸中の幸いだったな...」
ぼそっと呟くリンド。
「そうですねー...」
苦笑いのクロッカ。

「ラストはフリージア。どこ行きたい?」


「...皆は楽しくないかもだけど。」







「公園かー」
ヒルガがリンドに喋りかける。
「成る程ねー。1人じゃ遊べないもんね。」

「クロッカー!ブランコしよう!」

「うんー!漕ぎ方わかる?」

「わかんない」

「じゃあ教えてあげるー。こうして、膝を...」


「仲良さげだな」
とヒルガ。
「まあな。よし、暗くなってきたからそろそろ帰るか。」

「ああ。今日は楽しかったよ。ありがとさん。」
 その後、ぼちぼち解散となった...。

~その後、家にて~
「何だよヒルガー。急に電話してきて。」

「すまんリンド。...他に俺ができることあるか?フリージアちゃんのために。」

「......。」

「クロッカちゃんに聞いたんだ。本当にすまん。」

「...そっか」

「話してくれても良かっただろ」

「悪い、余計な心配かけたくなかったんだ。それに、普通は信じられないだろ?」

「なーに言ってんだか。お前の話なら信じるに決まってるだろ。何だってやるぜ。」

「なら...お言葉に甘えて...。」







「本当にこれだけでいいのか?」

「ああ。頼んだぞ、ヒルガ。」

「おう。」









「...ん?」
 また携帯が震えている。
 画面を見ると、クロッカちゃんからだ。
「もしもし、お兄ちゃんですか?」

「ああ。どうした?」

「明日の真夜中...ですよね。運命の時。」

「ああ。」

「...私、フリージアの友達になれて良かったです。きっと、私がフリージアと友達になれたのは偶然ですけど...それこそ、サンタの気まぐれて選ばれたんでしょうけど。それでも、フリージアの友達になれて、本当に嬉しかった。だから、フリージアに会えるのが今日で終わりなんて絶対に嫌です。まだ出来てないこと一杯あるんですよ!映画もまだ一緒に見に行けてないですし、一緒に食べようって言った駅前のパフェ屋さんもまだ行けてないですし...。あと、面白い小説もたくさん教えてあげるって言ったのも...。」

「......。」

「フリージアとはたくさん約束をしてるんです。一年間だけじゃ守れないようにって、私、フリージアとたくさん約束したんですから。だから、それを守る前にいなくなっちゃうなんて許さない。」

「......。」

「...お兄ちゃん、明日はフリージアと二人で一緒にいるんですよね。」

「うん。」

「明日一日は、お兄ちゃんにあげますから。約束して下さい。絶対に私を、もう一度フリージアに会わせて下さいね?」

「...わかった。約束するよ」

「...あと。お兄ちゃん。私にできることありますか?フリージアのためなら、私何でもします。」

「...じゃあ、一つだけ。」








「...本当にそれだけですか?」

「うん。頼むよ。」

「後は任せました......あ、最後に一つ。」

「...ん?」

「そろそろフリージアの気持ちに気付いてあげて下さい。フリージア、あの通りにちょっと...素直じゃないから。」

「......。」

「じゃあまたね、お兄ちゃん。」

「ああ。」

「あ、これは別にどうでも良いことなんですけど、ついでだから言っちゃいますね」

「...ん?」

「私、お兄ちゃんのことが好きです。こんなふつつか者で良ければ、どうか一声おかけ下さい。それでは。」ツーツー

「...ごめん、クロッカちゃん。」


 その後、夜ご飯を食べ、部屋に上がったリンド。が、普通のようにフリージアが部屋に入ってくる。
「フリージア...あのさ。明日さ、」

「知ってる。デートでしょ?」

「な、なんで!知ってるの!」

「そりゃもう顔に書いてあるもん!...えへへ、デート楽しみ」

「......。」

「早く寝ないとね。にいさん。」

「そうだな」

「あのさ、にいさん。一緒に寝てくれない?もう...最後かも知れないし。にいさんと寝られるの。」

「...!...ああ。いいよ。」

「わー、やったぁ」







「じゃあ電気消すぞ」

「うん。」

「はい、にいさん。布団に入って。」

「...ん」

「そんでもって、ぎゅー」
 フリージアはリンドを抱き締める。
「...にいさん、鼓動早いよ?」

「...気のせいだよ」

「ふーん」
 さらに強く抱き締めるフリージア。
「おいこら、やめろって...」

「あーあ、こんなことならもっと早くにいさんと寝てたら良かったなー」

「どういう意味だよ」

「えへへ、どういう意味でしょう」

「...はあ、もう良いから寝るぞ」

「まだ早いよ...」

「いいから。おやすみ、フリージア。」

「...もう。おやすみ、にいさん。」


~次の日(イブ)~
「おはよう」

「おはよー」

「あらあら、二人揃って早起きだこと」

「えへへ、今日はにいさんとデートなんだよ」

「へぇークリスマスイブにデートなんて羨ましいわねー」

「でしょー」

「そう言えば去年のクリスマスも二人で...」

「あれはお散歩だよ!」

「おいおい...二人とも。朝からハイテンションだなぁ...」



~およそ三十分~
「じゃあ行くか」

「うん!」
 二人は家を出た。
「はい!にいさん!最初のお願い!」

「どした?」

「腕...組んで?」

「はいはい」
 フリージアは満足そうな顔をしている。
「行きたいところある?」

「...とりあえず私はにいさんと一緒にいられればいい。」

「...そんなので良いのか?」

「うん、それが良いの。」

「じゃあ最初。行きたいところがあるんだ。」










「父さん、来たぞ」

「......。」

「どした?フリージア。」

「あ…なに話していいか分からなくて」 

「気にすんなって。話したいこと話せよ」 

「え、えっと…じゃあ」 

「……。」 

「私、今日にいさんとデートするんだよー」 

「結局それか…」 

「お父さん、なんて言ってるかな」 

「お前は誰の子だー、だってよ」 

「ひ、ひどい!」 

 そうして、リンドの父の墓を掃除した後、二人はそこを発った。
「父さん...天国で見守っててくれよ」
 リンドはぼそっと呟いた。




「……。」 

「ほら、今日はデートなんだろ?」 

「…うん」 

「なら、笑ってろ」 

「…えへへ」 

「そうそう」 

「ごめんね」 

「良いよ、じゃあ行くか」 

「次はどこに行くの?」 

「ん、妹の行きたいところ」 

「行きたいところ?」 

「今日一日、お前のわがままは何でも聞いてやるよ」 

妹「…なんでも、かー」 



~バスの中~
「とりあえず、街に出てぶらぶらする、でいいんだよな」

「うん。それが一番の願い。」

「わかった。もう着くぞ。」

『はい、ご乗車ありがとうございましたー。お忘れ物等御座いませんよう御注意願います。』

 ドアが開く。
「ありがとうございましたー」
とリンドが運賃箱に二人ぶんのお金を入れた、その時、
「お兄さん、昨日の紙。捨てちゃだめだよ。」
と運転手さんが声を掛けてきたように聞こえたーー、と同時に、ドアが閉まった。
『発車しまーす、動きますので御注意願います。』
 バスは行ってしまった。
「...気のせいか?」
 リンドはいつの間にか先に歩いて行っていたフリージアを追いかけ走る...。











「疲れたね。」

「ああ。楽しかったけどな。」

「...にいさん、帰ろうか?」

「そうだな。母さんが待ってる。」

「...デート、終わっちゃったね。」

「...フリージア。」

「何?」

「家に帰るまでがデートだぞ」

「...うん!」
 抱きついてきたフリージア。これも...今日が...







「「ただいまー」」

「お帰りなさい、二人とも」

「お腹空いちゃったよ、お母さん。」

「フリージア、今日はご馳走よ!」

「ご馳走?やったー!」

「...一日中歩いたのに元気だな...フリージア。」
 隅のほうでぼやくリンド。







「ごちそうさまー、おいしかったよ、お母さん!」

「ふふ、ちゃんと歯磨きしてから寝なさいよ」

「...ねえ、お母さん」

「ん、何かしら?」

「...ぎゅってして良い?」

「...おいで」
 フリージアは母に抱きつく。
「...私、ちゃんとあなたの母親になれてるかしら」

「うん」

「そう、なら良かった」

「ありがとう、お母さん」

「バカ。ここでありがとうなんて言われても嬉しくないわよ。明日の朝、もう一回顔を見せなさい。」

「......でも」

「大丈夫、お兄ちゃんがあなたを守るから。ね?」

「......。」

「あら...嫌だ。涙が。強い母親ってところ、見せたかったんだけど...上手くいかないものね。」

「......。」

「ほら、早く上に行ってお兄ちゃんとお話でもしてきなさい」

「......。」

「明日、美味しい朝ごはん作って待ってるから」

「...うん。」

「おやすみ、フリージア。」

「お母さん......おやすみ。」




 その後、二人は昨日のように布団に入った。
「あと、日が変わるまで二時間位か。」

「ねえにいさん。私のわがまま、今日中は聞いてくれるんだよね?」

「…妹のわがままなら、いつだって聞いてやるよ」 

「にいさんだから?」 

「まあな」 

「じゃあ、聞いて」 

「なんだ?」 

「私のこと、ぎゅってして」 

「…こうか?」 

「ん…それで頭、撫でて」 

「…ほら」 

「んー」 

「なんだ?」 

「嬉しいの」 

「そっか」 

「このまま最後まで、離さないで」 

「......。」 

「幸せ…にいさん、私、今とっても幸せ」 

「……。」 

「今なら、このまま消えちゃっても怖くないかな」 

「……。」 

「…えへへ、嘘。ほんとはちょっと怖い」 

「でもね、このまま消えても良いかなーって…幸せだから」 

「……。」 

「…ね、にいさん、私」 

「分かってるよ」 

「……。」 

「分かってるから」 

「…にいさん…私ね、私。…消えたくなんか…ないよぉ……せっかくにいさんの妹になれたのに、にいさんに、ぎゅってしてもらってるのに……。今私、幸せなのに…これで消えちゃうなんて、嫌だ…」

「...フリージア」 
 今度はリンドがフリージアを抱き締める番だった。ぎゅっと、ずっと......

「フリージア。最後に聞かせてくれ。もし、俺が今年のクリスマスで妹を願ったら、お前はまた来てくれるのか?」

「うん......」

「...じゃあ俺はまた今夜妹をお願いすれば、お前は消えずに済むんだな?」

「……。」

「フリージア、まだ何か俺に隠してること無いか?」

「...うっ...もしこのまま、サンタの魔法が溶けて、私が消えちゃったら、たら!......私の存在が、みんなの記憶から消えちゃうの。はじめっから私なんていなかったことになって、みんなの記憶も修正されるの。だからね、にいさんがもう一度私を願うのは......無理だよぉ......」

「フリージア、」

「何?」

「『私を、忘れないで』」

「...!」

「お前が本当に願ってるのは、このことだったんだろ!なら最初からそう言えばいいだろ!俺はお前の兄なんだから、なんだって聞いてやる!」

「...そんなの、ひどいよぉ...」

「......。」

「せっかく私の中で諦めがついてたのに、にいさんにそんなこと言われたら、私...期待しちゃうじゃんか。余計、消えたくないって思っちゃうじゃん...」

「思えば良いじゃねぇか。俺は、お前の兄だ。」

「......。」

「......。」

「......にいさん。」

「ん?」

「私の今日最後のわがまま、聞いて。『私のこと...ずっと、ずっと、覚えていて』」

「わかった。絶対に忘れない。」

「あともう一つ。にいさん、こっち向いて?」

「......なんだ?」

チュ

「えへへ...やっとできた♪」
 その時だった。フリージアの体が微かな音と共に消え始めた。
「思ってたより、タイムリミットは短かったみたいだね」
 そうこうしているうちに、どんどん体の色は薄くなる。
「おい、待てよ......おい」

「あーあ、まだ言ってないこと、あるのになぁ...もう少し、ぎゅってしてたかったんだけどなぁ...」

「フリージア!ほら、ぎゅってしてやるから。」

「ありがと。にいさん。」
 リンドは彼女のあらゆるところをぎゅっ、と抱き締めた。彼女の翼。彼女の首。
「フリージア。大丈夫だからな、また俺、お前のことサンタに頼んでやるから。」

 フリージアは一呼吸おいて、
「...ありがとね、にいさん。私のこと想ってくれて。にいさんがそう言ってくれただけで、私、とても幸せ。でもね、ごめんね、にいさん。さっきのわがまま、取り消すよ。」

「おい!...待てよ!」

「私の本当の最後のわがまま。どうか...にいさんも、幸せに生きて下さい。」

「なんだよそれ...バカなこと言うな!」

「私、にいさんの妹になれて良かった。」

 もう、フリージアの体は完全に消えかかっていた。
「...消えちゃうね」

「あぁ...」

「楽しかったよ、にいさん。サンタのプレゼント、私なんかでよかったのかな...それだけがちょっと、心配だけど。.........じゃあ、ばいばい」

「フリージア...フリージア!」

 フリージアは、リンドの願いもむなしく、完全に消えてしまった。

「...フリージアの...バカ。最後で強がるなんて...絶対、許さないからな。絶対、忘れてやらねえ...」

「......。」

「......。」

「......。」

「......。」

「...あれ?なんで俺、泣いてるんだ?」

「...なんだこれ、気持ち悪いな。クリスマスに彼女がいないからって、知らないうちに涙が...なんて、馬鹿らしいな。...あとクリスマスまで一時間ちょいか。寝るか...」

プルルルル

「ん?なんだこんな夜中に......ヒルガの奴、何の用だよ...」

ピッ
「何だよ」

『お、出たか』

「こんな夜遅くに」

『伝言。昔のお前から。』

「はぁ?!」

『寝るな。と伝えろ。とな。』

「そんだけ?」

『いや、もう一つ』

「?」

『サンタに願い事したら寝ろ』

「サンタ?」

『そう。メモ帳に絶対伝えろって書いてあったからな。あと何か俺の走り書きも。みんなで遊んで楽しかったなー』

「昨日のことか」

『だろーな。じゃ。メリークリスマス。』

「...ああ。」





「寝るなって何だ?まあ、とりあえず起きとくか...昨日はボウリング行って、美術展行っ.............美術展?もう一人いたよな。流石にヒルガと二人じゃみんなじゃない...が。誰がいたかわかるもの...。そうか、ボウリングのスコアシート...って捨てた...いや待てよ、バスの運転手に何か変なこと言われてゴミ箱から取り出したんだっけ。何言われたんだっけな...」

 机の上にあったぐしゃぐしゃの紙を開くリンド。
「んー、ああ!クロッカちゃんか。何で忘れてたのかな...というかあの子といつ会ったんだっけ...」

 その瞬間、スマホの画面に通知が
「何だ?『カレンダー 用件:今日俺何してた?』何だこれ」

「今日...か。父さんの墓参り行って、一人でぶらぶら?して...あれ?俺なんで一人で色んなところ行ったんだっけ?...俺、何か、大事なこと、忘れてないか?」

プルルルル
「またか」
 今度は相手も見ずに電話に出るリンド。
「もしもし」

『あのー、私、クロッカと申しますが...』

「...ああ。そっか。昨日遊んだばっかだもんな。」

『えっと...すいません、私、あなたのこと、あんまり覚えてなくて...』

「ふぇ?」

『でも、私の日記帳に絶対電話するようにって書いてあったんです』

「クロッカちゃんもか...そうだ、昨日遊んだのは覚えてる?」

『はい』

「でもさ。俺、クロッカちゃんといつ、どこで出会ったのか全く覚えて無いんだ。」

『同じくです...あと、私にも気になることがありまして。...私、毎日日記をつけてるんですけど、その日記...いつも「お兄ちゃん」のことが書いてあるんです...そのお兄ちゃんって、リンドさんのことですか?』

「...お兄ちゃん」

『何故か私の日記、内容がスカスカなんです。毎日しっかり書いてたはずなのに...ぽっかりと抜けちゃっているんです。少し書いてある所は、家のこととお兄ちゃんのことばかりで...お兄ちゃんと一緒にいた誰かのことは、全部消えてるんです...』

「俺と一緒に...いた?」

『私、大切な誰かのことを忘れちゃってる...絶対に誰かがいたはずなのに...』

「俺と一緒にいた、大事な人...?」

『たぶん、私の大切な...お兄ちゃん?』

「お兄ちゃん」

『あれ?私、今なんでお兄ちゃんって...』
 リンドはふと、机の棚に直し込んでいた日記帳を取り出す。夏休み、興味本位で始め、秋頃に飽きが来たやつだ。
 しおりが挟んであったので、そのページを開くが、日記帳と言えど日付だけ書いてあって中身は殆ど無い。時々クロッカちゃんとヒルガと遊んだことが書いてあるだけだ。

 そのしおりには、綺麗な花が上手く押し花にされていた。

「クロッカちゃん、花に詳しい?」

『え?まあ、絵を描くのが好きなので、多少はわかりますけど...』

「わす...から始まる花の名前、わかる?なんか頭に引っ掛かってて」

『...それは、忘れな草ですね。』

「...わすれなぐさ」

『綺麗な花ですよね。名前がそのまま花言葉になってますよ。忘れな草の花言葉は...』

「...私を、忘れないで」

『あ、ご存じでした?』

「......。」

『それで、忘れな草がどうかしました?』

「......。」

『...お兄ちゃん?』

「......。」

『えっと...大丈夫ですか?』





「バカ。やっぱり、忘れられねぇじゃねぇか、フリージア。」

『お兄ちゃん...今、なんておっしゃいました?』

「......。」

『フリージア...何故か涙が...』

「俺にとっての、大切な人だよ。大切な、妹だよ。」

『うー...えーっと』

「クロッカちゃんにとってもね。」

『フリージア......!』

「思い出した?」

『はい。ごめん、何とか思い出せたよ、フリージア。』

「よかった...そうだ。クロッカちゃん、頼みが」

『大丈夫です、分かってます。』

「ありがとう。ヒルガにも連絡だ。」

『はい。お兄ちゃん、また明日、遊びに行きます』

「...待ってるよ」
プツッ

「フリージア......。」








「うっ...足の上に何かが...重っ」

「......。」

「...おかえり、フリージア。」

「......。」

「どうした?」

「...なんで私、ここにいるの?」

「...バーカ。誰が忘れられるか。わがままに付き合うって、俺言ったろ?」

「...ったく、世話の焼ける妹だ」

「...にいさん」

「ん?」

「...えへへ、ただいま!」

「...おう」





 また少しの間沈黙が走る。お互いに喜びを味わっていたのだ。
「なんで、私のこと覚えてたの?」

「そうだな...たぶん、サンタが結構いい加減だったせいじゃないか?」

「...え?」

「いや、フリージアが来た時も色々矛盾あったじゃん。だからさ、消える時もいい加減に記憶操作されるんじゃないか、と思ってね。」

「え...」

「…ま、細かいことは良いんだよ。俺にとっては、フリージアが目の前にいることが最高に嬉しいんだから。」

「うん!とりあえずお母さんに挨拶してくる!」

「おう!行ってこい!」

「あ...最後に。何だか今回は願いが強くて、ずっと一緒にいられるみたい。その分魔法が強くなってるのかな?」

「そうだろうな。俺とクロッカちゃんと、ヒルガの一生分の願いが詰まってるからな」

「ありがと、にいさん」

「お礼は皆に言えよ。もうすぐ来るぞ」
 その瞬間、チャイムが鳴った。
「ホントだ。そうだ、にいさん、これからもよろしくね。」

「...おう、さっさと下行ってこい」

「...うん!」

 階段を駆け(?)降りながら、フリージアは呟く。

「...にいさん、あの時は言えなかったけど、ずっとずっと...大好きだからね」

 クリスマスプレゼントはラティアスの妹だった おしまい
 一部に表記揺れがあるかと思いますが、少しずつ直していこうと思ってます。
 実際長すぎて校正があまり出来ていないため、誤字指摘はどしどしお寄せ下さい。

読了報告

 この作品を読了した記録ができるとともに、作者に読了したことを匿名で伝えます。

 ログインすると読了報告できます。

感想フォーム

 ログインすると感想を書くことができます。

感想