調合師ブラン

しおりが挟まっています。続きから読む場合はクリックしてください
 
作者:しろあん
ログインするとお気に入り登録や積読登録ができます
読了時間目安:37分
大都市『ラカンデラ』
その住宅区域の外れに木造の二階建てが一軒、辺りの木々に覆われるようにして建っていました。
人通りの少ない場所ですが、その入り口の掛け看板には拙い字でこう書かれています。

「ブランのくすりや やってます」
 褐色の木材で組まれた建物のガラス窓から、朝の日差しが差し込む。
 自然の光に照らされたその部屋──薬屋の一階には、扉から少し前に進んだ所に木でできたカウンター、部屋中央に大きな机と長いす、そしてそれらを囲むようにして部屋の隅々に小瓶や木の実などが入った棚が設置されていた。
 他にも、部屋の奥にはキッチンに繋がっており、扉から向かって左手には二階へと続く階段が配置されている。

「ん……ごちそうさま」

 机の上で、頭に可愛らしいピンクの花飾りをつけた小さなイーブイが朝食のパンを食べ終えた。その幼げなイーブイ──「ブラン」はどこかぼーっとした表情で、皿を咥えてキッチンまで運んで行く。

「お皿は後で洗おうっと。ふぁ……」

 皿を流し台に浸けると、ブランは小さなあくびをした。しかし直後、扉の方からカランカランと鐘のなる音が聞こえ、尻尾と耳をピンと立たせて、慌ててキッチンから飛び降りた。

「こんにちはー。……おーい、店長さんいる?」
「い、いらっしゃいっ!」
「ああ、ブランちゃん、おはよう。朝から元気だね」

 うん、ちょっと眠たいけど、とブランは小さく呟きながら、カウンターの上でお店にやって来たお客さんと向き合った。
 そのお客さんは20代辺りの青年で、革の装備を着込んで大きな荷物を背負っていた。その胸にはギルド所属の探検家を示すバッジが付けられている。

「えっと……今日は何を買っていくの?」
「ああ、眠くならなくなる薬、ってあるか? 今日出向く重要な依頼で、あると便利なんだけど」

 青年は扉のすぐ横の棚に持っていた長剣を立て掛けて、カウンターに乗ったブランに尋ねた。

「もちろんあるよ……でも、どういったタイミングで使うの? 効果の弱いやつと強いやつがあるから……」
「えっとだな、詳しくは言えないが[ねむりごな]を防げるぐらいの強さが良い。できるだけ長く持続すればなお良い感じだ」
「分かった……ちょっと待ってて」

 ブランはカウンターから飛び降り、大量にある棚の中からピンポイントに青紫色の液体の入った小瓶を取り出してきて、また青年の下へ戻った。

「これ、カゴリエールって言うの……カゴの実と他いろんな薬草を混ぜたポーションで、飲めば6時間ほどは全然眠たくならない。」
「おお、良いな。それじゃあ一本貰おうか。いくら?」

 青年は財布を取り出し、価格を尋ねる。

「お代は銅貨12枚と小銅貨4枚だけど……」
「だけど?」
「その、もし……くさタイプのポケモンと戦うっていうんだったら、[しびれごな]から守ってくれる薬もお勧めするよ……」

 ブランの勧めに、青年は呆気にとられたような顔をする。そして、軽く笑いながら言った。

「はは、中々鋭いね、ブランちゃんは」
「だって、こんな薬を必要としてる探険家さんは、だいたい誰かと戦おうとしてる人だもん……大変だね、探検家って」
「いやいや、まだちっちゃい子どもなのに、立派に働いてる店長さんの方がすごいですよ」
「そんなこと無い……」
挿絵画像

 首を振ったブランだったが、青年はまさか、と笑いながらブランのを頭を撫でた。ぼーっとしていたブランの表情が綻ぶ。

「よし、その薬も買おう。いくら?」
「全部合わせて銀、銅、小銅がそれぞれ1、7、8枚だよ……」

 分かった、と青年は撫でるのをやめて、財布から1枚の銀貨と8枚の銅貨を差し出した。

「うん、それじゃあお釣りがこれだけで……今、お薬とって来るね」

 ブランは慣れた様子で応対し、棚から引っ張り出してきた黄色の薬と青紫の薬を紙袋に詰めて手渡した。

「あ、ありがとうございました!」
「ああ、また来るよ」
「うん……ばいばい」

 青年は紙袋を大切そうに持ちながら、入り口隣に置いた長剣を再び腰に差して店を出て行く。
 ブランはその後姿をじっと眺めていた。扉の閉まる音と、同時に鳴った鐘の音の後に、静寂の一時が流れる。

「…………えっと、そうだ。“ 記せ エンゼーペン ”!」

 ふと我に返ったブランは、後ろを振り返り、机のペン立てに向かって呪文を唱えた。
 すると摩訶不思議、ペン立てに入っていた一本の万年筆がふわりと宙に浮き上がる。──それは人間が作り出した魔力の込められた道具、『魔道具』の一種で、普通のペンが持てないポケモンを助ける道具だった。
 ブランはその「魔法のペン(エンゼーペン)」を[ねんりき]を使っているかのように操り、そばに置いてあった一冊の古めかしいノートに文字を記し始めた。ただ、その文字はまだ少し拙い。

「うん、お薬が二本売れたっと。……ふぁ」

 ブランは眠そうに小さくあくびをした後、前足で顔をくしくしと毛繕った。

「お皿洗って、掃除して……今日も頑張らなきゃ」


────────────────────────────────


 ポッポも元気に空飛ぶお昼頃。ブランは店の机の上で薬の調合を行っていた。

「えっと……このくらい?」

 水の入った小さな容器に、粉末状の薬草と、細かく砕いたヒメリの実、そしてある花の蜜を慎重に加えていく。
 その後ブランは小さな匙を咥えて、容器の中をぐるぐるとかき混ぜた。

「それで、1分半加熱する、と……」

 ブランは手早くアルコールランプと三脚台、金網、濡れタオルを用意し、店の照明に使っているろうそくの火でランプに点火を試みた。

「何度やっても緊張する……」

 ろうそくの持ち手をしっかり前足で挟んで、濡れタオルの上に置いたランプの芯に火を近づけていく。
 火がつくまであともう少し、といったタイミングで隣に置いていた完成品用のガラス瓶にブランの体が当たり、瓶が横に倒れた。

「あっ……ま、待って!」

 丸い形状の小瓶は机の上をゴロゴロと転がり、机の端へと向かっていく。
 このままでは瓶が割れてしまう、とブランは慌てて瓶を止めに向かおうとしたが、その際に持っていたろうそくを三脚台に引っ掛けてしまい、金網の上に載せていた調合物の容器がぐらりと揺れた。

「うそっ!」

 ブランが慌てて叫ぶ。
 揺れた容器はそのままバランスを崩して金網の上から落ちた。──そして机の上に中身をぶちまける……ことは無かった。

 ──カランカラン。

「間一髪、[サイコキネシス]が間に合ったようですね」
「わぁー! ブランちゃん大丈夫!? 平気かい!? 怪我は!?」

 扉の鐘が鳴ったかと思うと、そこには一匹のネイティオが、そして後ろからぼさぼさ髪で白衣とメガネを着けた男性が走ってブランに飛び込んできた。

「わうっ!? ……へ、へーきだよ、」
「ホント!? ほらでも、火を扱おうとしてたんでしょ!? 気を付けないと大やけどしてしまう!」
「あう、ちょっと……苦しい……」
「あ!? ご、ごめん!」

 ブランの体を激しく揺すっていた男性は、落ち着きを取り戻してブランを解放した。
 ブランは一度深呼吸をして、男性の後ろからゆっくりと歩いてきたネイティオの方を見た。

「あの、ありがとう……瓶と薬が落ちるのを止めてくれて」
「ええ、こちらこそうちの大馬鹿がご迷惑をおかけしました…………はぁっ!」
「イタッ!? つばさではたくのはやめて!?」

 スパンッ! と良い音で背中を殴られ、男性は手を当てて痛がった。

「でも、次からは気をつけるんですよ? 机の上はちゃんと整理する事」
「はーい」
「ちょ、スルーしないでくれないかい!?」

 喚く男性に向けてネイティオがもう一度翼を振り上げると、男性はひぇっ、と甲高い声を発して一歩距離を取った。

「いい年して、もう少し大人しくできないのですか」
「いやぁ、だって……君が大慌てでサイコキネシスなんか発動するもんだから、そりゃブランちゃんの身に何かあったかと思うでしょ!? ただえさえ君が取り乱す事なんてそうそうないのに、」
「別にそんな慌ててないです! 確かに瓶が落ちそうな瞬間が窓から見えたときはビックリしましたけど!」

 ────やっぱり仲が良いなぁ……
 ブランは微笑しながらそんな言い合いをする二人を見ていた。

挿絵画像

「えっと……今日は商品を買いに来てくれた……とか?」

 ブランは机の上に乗ったまま訊いた。

「買い物……というよりかはちょっと遊びに来た感じかな? ほら、久しぶりにブランちゃんに会いたいなーって思って」
「あ……そうなんだ。ううん、それでもブランは大歓迎」
「あ、いやいや! ちゃんとブランちゃんのために商品は買っていくからね! ほら、調合手伝ってあげよう!」

 そう言うと男性は机の上に戻されていた調合物の入った容器を手に取り、中身を確認した。

「ヒメリカバーを調合してたの? という事は、次は加熱をする所って訳だね?」
「あ……うん、その通り。よく分かったね」
「こっちも伊達に調合師やってる訳じゃないからねー! “ 火の子の目覚め ”!」

 男性はパチンと指をならし、魔法でアルコールランプに火を点した。三脚台にセットした金網の上に容器を載せて火で炙っていく。

「……ロクな薬も作らないのにあんなこといってるんです。おかしいでしょう?」

 ネイティオがブランの近くにやってきて、小さくそう耳打ちした。

「でもあの人の腕は確かだと思う……レティアもずっと近くで助手をやってきたんだったら、分かる……でしょ?」
「ええ、そうですね、確かに先生の腕はいいですよ。でも、最近は強力な放電を引き起こす薬なんか作ったりして……全く、誰が買うのやら……」
「なにそれすごい……ブランのところに来る探検家さんならそういうの好きな人、居るかも……今度見せて」
「えぇ……?」
「──ブランちゃん、加熱できたよー! こっからセシナの実を少しだけすりおろして加えればいいんだろう?」

 男性はランプに蓋をしてブランに訊いた。ブランはちがうよ、と首を振って、たくさんある棚の中の一つへ向かった。

「ブランはセシナの実は入れない……代わりに、これを使う」

 そういってブランは引き出しからおしゃれな形をした茶色い小瓶を取り出した。そしてそれを男性に渡す。

「なになに……? 『サンホーリー』?」
「うん……魔法でできたエッセンスだよ。滋養強壮に魔力回復? とかいろいろ効果があるんだって……あとは甘い香りが特徴」
「……あれ、それって確か結構高い代物じゃありませんでしたか?」

 ネイティオが不思議そうにブランの方を見た。

「そうなんだけど、えっとね……ある人から貰って、調合にも使える事を教えてもらったの。それからずっと大切に使ってる……」
「へえ、そうなのですね」
「ブランちゃん、これ何滴入れれば良い?」
「えっと、三滴いれて……」
「分かった」

 男性が調合した液体にエッセンスを三滴垂らした。するとみるみるうちに液体の色が赤っぽく変わっていく。

「おお……なんか色変わったけどこれでいいのかい?」
「うん、あとは冷やせば完成だよ……ありがとう」

 ブランが調合道具の後片付けを始める。ネイティオもサイコキネシスでその手伝いをしてあげた。

「ふーん、サンホーリーか……魔法のエッセンスなんかうちじゃあ使った事無いからなぁ」

 片付け終わった後、男性はおしゃれな茶色の小瓶を眺めながらそう呟いた。

「とっても便利だよ……でも気をつけて。混ぜ合わせる物や量を間違えると爆薬になったりするから……」
「ば、ばくや……!?」

 ブランの一言で男性の脳裏に電流が走る。そして、ブランの方を見て興奮気味に問いかけた。

「ぶ、ブランちゃん! ちょっとこのエッセンス、サンプルとして10mlぐらい貰ってかえっても、いいかな!?」
「はぁっ!」

 ──バチンッ!

「ぎゃああああ! イタいっ!」
「また変なこと企んでましたね!? うちの店が火事現場になるのはもうご免です!」
「なった事あるんだね……」

 男性は(はた)かれた頭を押さえて飛びはねながら、「モモネード1本とヒールオレン2本頂戴ぃぃッ!」と叫んだ。ブランは苦笑いのまま注文の品を棚から取り出した。

「はい……お代は銀貨1枚と銅貨13枚だよ」
「銀貨2枚でお願いします」

 ネイティオが男性と共同の財布を取り出し、銀貨を2枚カウンターの上に置いた。そしてその際にブランの頭を翼で軽く撫でた。

「ブランちゃん、毎日お疲れ様です」
「ん……ありがとう」
「ねー、ブランちゃんはホントすごいなぁ!」
「わ、ちょっと先生!?」

 横から急に飛び込んできた男性がネイティオを押しのけ、わしゃわしゃとブランの頭を撫で始めた。

「まだこんな幼いのに一匹でお店経営してて、しかも一流の調合師! それでこの愛くるしさ!! まさに神が創り上げた天使といっても過言じゃないな!!! まぁ、お客さんがこっちに流れちゃってうちの商品が全然売れないのがちょっぴりネックなんだけど」
「えっと、ごめんなさい……花飾りが取れちゃうからそろそろすとっぷ……」
「ああ、そうだそうだ、ブランちゃんに見せたい物があるんだった!」
「な、なに……?」

 一方的に話を進められ困惑するブランは、助けを求めるようにネイティオの方を見たが、ネイティオは心底呆れる様にため息をついて、首を横に振った。
 その間に男性はブランから一歩距離を取り、目を瞑って集中を始めていた。

 男性が両手で何かを念じるようにポーズを取ると、体の周りから淡い光の粒子が現れる。そして、その粒子が男性の手のひらへとどんどん集まっていき、一つの塊になった瞬間。男性は目を見開いて呪文を唱えた。

「“ 自然の恵み 幸せの贈り物 届け この想いと共に ”!」

 手のひらの粒子が眩く光り、辺りを白く包み込む。その次の瞬間には、色んな種類と色の花が集まった綺麗な花束が男性の手に握られていた。

「じゃーん! [花束のまほう]さ! すごいでしょ!?」
「わぁ……綺麗! すごい!」
「全く……どうして最近告白用の魔法なんか練習しているだろうと思っていたのですが、そういうことでしたか……」

 男性は満足そうな顔で、白衣のポケットから取り出したラッピング用の紙を花束に巻いていた。ネイティオは相変わらず呆れ顔だ。

「ほら、これはブランちゃんに」
「え、いいの? ……あ、でも」
「?」

 困ったような顔をするブランを見て、男性は首を傾げた。

「あのですね先生、こんな大量に花を贈られたらそりゃ困るに決まってるでしょう……ブランちゃん、無理に受け取らなくても大丈夫ですよ。私が責任を取って花の世話をしますから」
「いや……せっかくだから、この青い薔薇と……んー、黄色のコスモスを一輪貰うね」

 男性の差し出した花束から器用に2本の花を咥え出して、一度カウンターの上に並べた。

「うん、すごく綺麗……ありがとう。これは後で活けておくね! あ、後お釣りはコレ!」

 喜ぶブランの様子を見て、ネイティオと男性も自然と笑顔になった。

「それでは、また来ますね」
「じゃあねブランちゃん! 今日はありがとう!」
「ばいばい! ……また来てね」

 カランカラン。二人が出て行き、扉の鐘が鳴り終わった後の店には再び静寂が訪れた。

「……ブランも、助手とか欲しいな……」


────────────────────────────────


 夕暮れよりも少し前。ブランは机の上でコスモスの花びらを一枚ずつ千切って捨てる──花占いをしていた。

「帰ってくる、帰ってこない、帰ってくる……帰って、こない」

 花びらはそれで全部だった。ブランは深くため息をつく。

「……帰ってくる!」

 そして半ば投げやりにそう叫び、残っていたコスモスの茎を捨てた。そしてしばらく耳を垂れさせたまま、カウンターに置いた花瓶を眺めた。その花瓶には赤い薔薇と、先ほどもらった青の薔薇が一輪ずつ活けられている。

「そういや、おやつを何も食べてなかったな……何かあったかな?」

 ブランはふとそんなことを思い出し、キッチンの方へ向かおうとした。そしてその時、来客を告げる扉の鐘がなった。

「えーっと、おじゃまします?」
「誰かいるか?」

 扉からおそるおそる顔を覗かせたのは、白髪で帽子を被った少年とちょっぴり目つきの悪いキバゴだった。ブランは見慣れない顔だなと思いながらも、カウンターの上に飛び乗る。
 ──と、さらにその時。もう一匹のポケモンが少年の足元を潜り抜けるようにして飛び込んできた。

「久しぶりね、ブランちゃん!」

 とても嬉しそうな声。ブランはその声には聞き覚えがあった。
 そのポケモンは一心不乱にこちらに向かってくる。ブランはふとデジャブを感じ、一度左に飛んで避けようかと考えたが、やっぱり可哀想なので素直に受け入れる事にした。

「会いたかった!」
「あうっ!」

 ブランの胸元に飛び込んできたのは、赤いスカーフを首に身に着けたロコンだった。ロコンはブランに抱きついたままその前足で頭を撫でる。

「えへへ、やっぱ可愛いわねブランちゃんは! ねぇ、私が居ない間、悪い大人に絡まれたりとかしなかった? もしそんなことがあったら私に言って頂戴! そいつを骨の髄まで焼き尽くしてやるから!」
「んーんっ、全然問題なかったから……ね、ちょっと、フォロンお姉ちゃん……? か、カウンターから落ちちゃう!?」

 ロコンの激しいスキンシップになすがままにされるブラン。カウンターの上に押し倒されながらも接客を忘れてはならない、と前足を上げて扉の前にいるお客さんに向けて喋った。

「あう……その、武器は隣の棚に、きゃっ、置いてから……何か欲しい薬があったらブランに言ってぇぇ……!」
「あ、うん。えっと、大丈夫?」
「おいロー。なんか嫌がってそうだからそこまでにしておけ……」

 困惑する少年と呆れ顔のキバゴ。ロコンはようやくブランを解放し、最後に頬に軽いキスをしてから振り返った。

「なによー、私とブランちゃんの感動の再会なのよ?」
「お姉ちゃん、別にブラン達は生き別れたわけではないと思う……」

 カウンターの上で仰向けに倒れながらブランは突っ込んだ。白髪の少年は背中に背負った大きなスピアと、一振りのナイフ──キバゴが持っていたのをあわせると二振りのナイフ──を棚に置き、こちらへ近づいてきた。その左手にはなにやら袋が握られている。

「初めて来るから色々分からないことだらけなんだけど……まず、ローって妹がいたの?」
「ううん、残念だけど私はブランちゃんの姉ではないわ。私がそう呼ばせてるだけ」
「ブランちゃんって……この子どものイーブイの事だよな?」

 キバゴは少年の肩の上に登り、ブランの事を指差した。

「ええそうよ。彼女がこのお店の店長であり腕利きの調合師なの」
「まじか……? えっと、何歳だ?」
「ブラン、8歳だよ……」
「俺の妹より1歳年下じゃねーか!」

 キバゴが酷く驚いた顔をする。ブランは「別に凄くなんてないから……」と小さく呟きながらゆっくりと立ち上がった。

「ねぇ、フォロンお姉ちゃん。この人達は知り合い……?」
「ええ、最近知り合ったの。紹介するわね」

 ロコンはまず少年の方を前足で指して喋りだした。

「あの可愛い女の子の名前はハルカゼ、16歳よ」
「僕、男なんだけど」

 ブランは少年────ハルカゼの顔をじっくりと見た。確かに顔立ちはちょっぴり少女にも似ている。ふさふさな髪型も相まって中性的な印象を感じさせるのだろう。でも革でできた帽子はよく似合っているなと思った。

「えっと、よろしくね。ブラン、ちゃん?」
「あ、うん! よろしく……えっと」

 ブランが呼び名に困っていると、ロコンが隣から小さく耳打ちしてきた。ブランは小さく頷く。

「よろしく、ハルカゼお兄ちゃん!」

 その言葉を聞いて、少年は少し照れくさそうな表情をした。ロコンはすこしニヤけたような顔をしながら、今度はキバゴの方を指し示す。

「それで、あっちの弱そうなキバゴは……えっと、名前なんだったかしら?」
「グレッドだよ!? 知ってるだろ! つかなんだ弱そうって!」

 ああそうだったわね、と笑い飛ばすロコン。ずいぶん舐められてるんだな、という事はブランの頭でも理解できた。それと同時に、最初に抱いていた怖い印象もどこかに消えてしまった。

「あー、まぁ俺もハルカゼと同じ16歳だ。……ブラン、そのロコンと関わるのは控えた方が良いと思うぜ。俺ら、出会った最初、いきなり[かえんほうしゃ]を撃たれそうになって」
「グレぇ? もう一度焼かれてみたい?」
「いやぁ何でもねーよブラン。ローとは仲良くやりな」

 若干引きつった笑顔なのが少し気になったが、とりあえずブランは頷いておいた。

「えっと、よろしく。……グレッド?」
「違うわよブランちゃん、彼のことはグレちゃんって呼びなさい」
「変なこと教えんな! 呼ぶならグレだけにしろ!」

 少年の肩の上で喚くキバゴ。ロコンが「あんなのだけど悪いやつでは無いのよ」と小さく耳打ちしてきた。

「えっと、これ。お近づきの印にどうぞ」

 自己紹介が終わった後、少年は左手に握っていた袋から大きめの紙箱を取り出し、カウンターの上に置いた。

「ありがとう……これ何?」
「クッキーよ! しかもプラスルマイナン姉妹が経営してるお店の美味しいやつ!」

 ロコンが陽気にそう言いながらカウンターに置かれた紙箱を開いた。

「一つ食べてみる?」
「うん……ちょうど何かおやつが食べたかったところなの」

 ブランは紙箱の中から赤いトッピングの乗ったクッキーを一枚取り出して食べた。さくさくとした食感でほんのりハチミツの味がしてとても美味しい。

「美味しい……」
「良かった、僕も好きなんだよね。プラマイ姉妹の作ったクッキー」
「俺も。甘い食べ物は苦手だが、そのクッキーは嫌いじゃない」
「皆も食べて良いよ……? ブラン一匹じゃ食べきれないかもしれないから……」
「お、悪いな」

 キバゴが少年の肩から飛び降り、クッキーを一枚取り出して口の中に放り込んだ。それを見てロコンと少年もクッキーに手を付ける。

「ん……そういえば、ハルカゼお兄ちゃんとグレは何をしている人……ポケモンなの?」

 ブランはふと気になった疑問を尋ねてみた。

「んっとね、学生だけど……今は旅人かな。といってもラカンデラ在住で、旅立つのはもう少し先になりそうだけどね」
「そうなんだ……まぁ武器をもってたもんね」
「あはは、出来ればあれを使うようなトラブルは起きて欲しくないんだけどね」

 少年は笑いながらロコンのほうを見た。すると何故かロコンは少年から視線をそらしグルーミングをし始めた。

「えっと……グレの方は?」
「ん、ああ。俺はハルカゼの付き添いさ。といっても元は赤の他人で、俺は探検家に近い仕事をやってたんだけどな」
「そうなんだ……若いのにもう仕事?」
「まあ、色々あってな。……って、ちょっと待て、それはこっちのセリフだよ。8歳なのに商売やってんのか? 親は?」

 キバゴがそう問いた瞬間、ロコンがばっと顔を上げて、不味そうな表情でキバゴを睨んだ。
 ブランは、少し間を空けて答える。

「……お父さんとお母さんは今は遠くに出かけてていないの」
「そうなのか?」
「え、ブランちゃん一人だけなの?」

 少年とキバゴが驚いたような声を出す。ブランは小さく頷いた。

「うん……お父さんは世界中を旅する旅人なの。それでお母さんはお医者さんで、いろんなポケモンや人を助けて回ってる」
「……ブランちゃんのお父さんはブースターで、腕利きの探検家でもあったらしいわ。それでお母さんはエーフィで、その頭の良さを生かして名医師になったのよ」

 ブランの説明にロコンが付け足してそう言った。

「そ、そうなんだ。それで、一匹でその……調合師をやってるんだね?」
「うん……お母さんみたいになりたくてね。もちろんお父さんもカッコいいけど、ブランには探検はちょっと……」
「まぁ、探検家は物好きが多いからな。それで親御さんはちゃんと帰ってきてるのか?」
「えっと……お母さんは毎年春と冬に帰ってくるの。それで、お父さんも毎年冬には帰ってくるんだけど……」

 ブランがそこで口ごもった。少年とキバゴが首を傾げると、代わりにロコンが喋りだした。

「去年、ブランちゃんのお父さんは帰ってこなかったらしいの。手紙も何も無しね。だから……とても心配してるみたい」
「うん……」

 ブランが耳を垂れさせそう呟いた。それを見たロコンが心配そうに背中を撫でる。

「えっと、それは大変だね……というか、僕と似てる」
「え?」

 ブランが顔を上げる。

「えっとね、僕の父さんも去年から家を出て居なくなっちゃったんだよね。ほんと急に」
「……そうなの?」
「うん。それでそのうち帰ってくると思って母さんと待ってたんだけど……いつの間にか一年も経っちゃっててさ、それで、ふとした時に家の屋根裏で父さんが残した新品の日誌とメッセージを見つけて、それをきっかけに父さんを探す旅に出ることにしたんだ」

 ちょうど旅に出るのが認められる16歳になったっていうのもあったからね、と少年は付け足した。

「そういう訳で、私も面白そうだからハルカゼ達についていく事にしたのよ。まかせて、ブランちゃん! 私がブランちゃんのお父さんも見つけてあげるからね!」
「えっと……あ、ありがとう!」

 ブランは笑顔で言った。少年はロコンの発言に少し驚いていたようだったが、顔を頷かせブランに協力の意を示した。キバゴも軽く頷きながらもう一枚クッキーを頬張った。

「それで、何か必要なお薬とか……ある?」

 何枚かクッキーを食べた後、ブランが思い出したかのように聞いた。

「うーん、薬ってどんな物があるの? ローに勧められて来たけど、まだよく分からなくって」
「えっとね……ブランは基本的に木の実をベースにして薬草などを混ぜ合わせた液状の飲み薬を売ってるの……」
「っつー事は薬の効能は木の実を食べたときに起こる作用を参考にすれば良いって事か?」
「大体そんな感じかな。たとえば、体の治癒能力? を高めたい時はオレンの実をベースにした『ヒールオレン』とかがおすすめだよ……」

 なるほどーと相槌を打つ少年とキバゴ。ブランはさらに説明を続けた。

「一応、魔法薬とかも取り扱ってる……魔力の力で一時的に体を強くしたりとか、視力を格段に良くしたりとかね……」
「へぇー、いろいろ凄そうだね。でも効果がちょっとピーキーな感じが……」
「うん……薬屋っていっても普通に風邪引いたときはお医者さんを尋ねた方が早いよ……でも、探検家や魔法使いさんには人気なんだ」

 他にも取り扱っている薬は色々あるけど、それはまたその時に──とブランは一通りの説明を終えた。そしてロコンが少年に伝える。

「とりあえずこんな薬が欲しいってブランちゃんに伝えれば、いいのを持ってきてくれるわ。あ、私はアレ頂戴! ロジャミラル!」
「なんじゃそりゃ?」

 聞きなれない言葉を聞いて、キバゴが首を傾げた。

「美容に良い魔法薬だよ。どっちかっていうとサプリメントみたいな感じ……」
「ロー、そんなの使ってたんだ?」
「ええ、私の美しい毛並みはコレのおかげでもあるのよ!」
「お前、森の中とかに入ったらだいたい泥んこで帰ってくるだろ。意味あんのか?」
「うるっさいわねあるわよ!」

 ぎゃんと喚くロコンと、それを面白がって笑うキバゴ。ブランはなんとなくこの二匹は似通っている所があるなと思った。──その隣で少年が慌てるように二匹を諭している。

「えっと、それで他に欲しい薬は……?」
「あーアレだ、やけどに良く効く薬とかあるか?」

 キバゴが答える。

「うん、それならチーゴの実を使ったチゴロップがお勧めだよ……やけどを治すだけじゃなくて、前もって服用しておけばやけどを防ぐ事もできるの……」
「マジか、そりゃ便利だ! 2本ほど欲しいな!」

 さっきまでどこか淡々としていたキバゴが突然として喜びの声を上げた。そしてロコンが若干嫌そうな顔になったのもブランには見えた。

「でも残念な事に今は値上げしててちょっぴり高いの……一本で銀貨1枚と銅貨3枚、小銅貨が6枚」
「マジか? あー、じゃあ1本だけにしておく」

 キバゴは少し残念そうな表情をした。代わりにロコンが小さく笑っている。──お姉ちゃん、何か悪い事でも企んでるんだろうな……

「うーんとそれじゃあ僕は……魔力回復に効く薬とかってあるかな?」
「あ、それならマナスターかヒメリカバーがおすすめだよ……マナスターは言うなら魔力そのものを詰め込んだ薬って感じ。飲めば体の中の魔力が一気に回復するよ。ヒメリカバーはゆっくり魔力が回復していく他、ポケモンが『わざ』を使いすぎて疲れちゃった時にも効果があるの……」
「なるほどー。旅先に持ってくならヒメリカバーの方が良いかな? グレ達にも必要になるかもしれないし」
「そこら辺は好みで……あ、でもヒメリカバーの方がお値段は少し安いよ……一本で銅貨11枚と小銅貨8枚」
「じゃあそれ2本ください!」

 全員の注文を聞いた後、ブランは棚の中から色んな薬を引っ張り出して袋に詰め始めた。

「銀、銅、小銅の順でロジャミラル1本が2、0、2枚。チゴロップ1本が1、3、6枚。ヒメリカバー2本が1、8、6枚」

 袋に薬を詰めながらブランは代金を計算して述べていく。

「合計で銀4、銅14、小銅2枚になるよ……」
「なんかお前のだけちょっと高くないか?」
「魔法薬はどうしてもお値段が高めになってしまうのよ。別に私はこれくらいなんて事ないんだけども」
「えっと、それじゃあ皆、自分の買った薬代を出すってことで良いかな?」
「「賛成((よ))」」

 それぞれが財布からお金を取り出し、カウンターの上に置いていく。その間にブランはもう一本だけ別の薬を棚から引っ張り出してきた。

「……これはオマケ。ヒールオレンだよ。疲れちゃった時や、怪我をしちゃった時はこれ飲んでね」
「えっ、いいの? ありがとう」
「うん……お父さん探し、頑張ってほしいから……」
「良かったじゃないハルカゼ! ブランちゃんがサービスしてくれるのはかなり珍しいわよ!」
「ちょ、ちょっと、前が見えない!」

 ロコンが少年の帽子の上に登って頭をぽこぽこ叩いた。その際に帽子の位置がズレて少年の視界が遮られてしまっていた。

「これお釣りなんだけど……あの、大丈夫?」
「──知ってる? 彼女、割と肝がすわってるのよ。簡単には値引きに応じないし、かなり前に泥棒に入られそうになった時なんて、持ち前の愛くるしさで事を沈めちゃって……」
「うん、その時はどこからともなく現れたお姉ちゃんが泥棒を丸焼きにしてたよね……」
「ええ! ブランちゃんは私が守るのよぉ!」
「分かったらそろそろ降りてくれるー!?」
「おーい、ロー、お前のお釣り全部俺が貰ってくぞ」
「あー! 何してんのよグレ!?」

 ロコンが少年の頭の上からキバゴ目掛けて物凄い勢いで飛び降りた。その速さは狩りを営む一流のニャヒートのように素早く、驚いたキバゴはその場から一歩も動く事が出来ずに捕まってしまった。

「このっ返しなさい!」
「わぁー! ちょ、やめろ! ひっかくんじゃねぇ!」
「あぅ……ごめんブランちゃん、騒がしくて」
「慣れてるよ……フォロンお姉ちゃん、他人の言う事聞かないもん……」

 確かにその通りかも。と笑いながら少年は薬の入った紙袋を受け取った。

「その花飾り、綺麗だね」

 ふと少年がブランのピンクの花飾りを見て言った。

「ありがとう……これ、薔薇の花飾りなの。ブラン、薔薇が好きだから……」
「そうなんだ、僕も薔薇は好きだよ。そこに飾ってある薔薇もおしゃれで良いと思う」

 そう言いながらカウンターに置かれた花瓶を眺める少年。ブランもそれを見て、想いを語るようにして喋りだした。

「綺麗な花を魔法で出せるなんて、すごいよね……ブランも人間ならこんな事ができたのかな……?」
「あ、これって魔法で作ったやつなんだね。……うん、もしかしたら出来たんじゃないかな。僕だって一輪だけなら咲かせられるし」
「そっか……できる事ならブランも魔法を使ってみたいけど、ないものねだりだよね」
「大丈夫だよ。僕だってポケモンに生まれたらあんな事できただろうな、って思うことはよくあるし……それに、魔法が使えなくてもガーデニングっていう方法もあるよ!」

 僕も小さい頃はチューリップをねー、と楽しそうに語る少年。ブランも興味深くそれを聞いていた。──ちなみに少年の足元ではまだロコンとキバゴの戦いは続いている。

挿絵画像

「──うん、まぁそういう訳でさ、花を育てる鉢植えが足りなくなってきちゃって……」
「へぇ、そうなんだ……あ、ちょっと話は変わるんだけどね……?」
「ん、どうしたの?」

 少年の話を一旦止めて、ブランはおずおずと喋りだした。

「その、お願いっていうか……ちょっとだけ……」
「あぁ、ブランちゃんのお父さん探し? それなら大丈夫──」
「あ、そうじゃなくて!」

 ブランが少し恥ずかしそうにして口ごもる。少年は首を傾げた。

「えっとね……その、なでなでしてもらっても……良い?」
「なでなで?」
「うん。お客さんには皆してもらってるの……撫でてもらうと落ち着くから」
「そっか……うん、良いよ」

 少年はその手で優しくブランの頭を撫でた。ブランは気持ち良さそうに尻尾を振ってそれを受け入れる。

「ふわふわしてる……」
「えへへ……♪ ありがとう」
「あ! ちょっと待って私も撫でてあげるから!」

 キバゴの上でマウントを取っていたロコンがこちらに気づき近づいてくる。少年に甘えていたブランは、すぐに酔いを覚まし身構えた。

「わわっ、お姉ちゃんはさっき撫でてくれたからもう大丈──きゃあ!」

 案の定カウンターの上に押し倒されるブラン。少年は驚いて一歩後ろに下がった。

「必ずまた来るからね! 心配しないでブランちゃん!」
「あぅ、そんな……くすぐったぁ!」

 最初はじたばたと暴れていたブランだったが、しだいにピクリと動かなくなってしまった。

「うふふふ……♪」
「おいロー。楽しんでるところ悪いが、お前さっきさりげなく俺の財布から銀貨スっただろ」
「あら、バレた? ええ3枚ほど頂いたわよ! 返して欲しければ私を倒す事ね!」

 そう叫ぶとロコンはカウンターから飛び降り、一目散に扉へ向かって走って行った。

「あ、おい待てや!」

 その後をキバゴが追いかける。そして、扉の横の棚に置いていた一本のナイフを忘れず回収して外へと飛び出して行った。

「あーマズイ、二匹を止めなきゃ……えっと、また来るね! あとこれ、気に入ると良いけど。──── “ 運命結びの一等星 ”!」

 そう呪文を唱えてから、少年は大慌てで武器を手に取り、二匹を追いかけるべく店を出て行った。
 そしてしばらくすると外から響いてくる少年の大声も聞こえなくなり、店の中には静かな時間だけが流れた。

「う、あぅ……あれ? 皆居なくなってる……」

 静寂の中、半分放心状態だったブランはカウンターの上でゆっくりと目を覚ます。そして、一度顔をぶるぶる振って真っ白な頭を働かせ始めた。

「なんていうか、面白い人達だったな……」

 そう微笑みながら、ブランは余っていたクッキーをもう一枚取り出して食べた。と、その時に気づく。

「わ……すごい、何これ……?」

 薔薇を活けた花瓶の周りに、きらきらと星のような結晶が集まっているのを見つけた。花瓶の周りに浮かぶ星は赤と青の薔薇を綺麗に照らしており、とても神秘的だ。

「これも魔法なのかな……? ってなったら、さっきのお兄ちゃんがこれを……?」

 ブランはじっとそれを眺めた。懐かしい、昔の記憶がよみがえってくる。

「──わぁ……! お母さん、外見て! 星がきれい!」
「あら? ホント! とってもきれいだわ」
「おっ? 何だ、星を見てたのかブラン。──そうだ、船乗りは空に浮かぶ星を見て海を進む方向を確かめるんだぞ」
「そうなの? ……どうやって?」
「目に見える星の位置と水平線までの角度を測るんだ。昔、お父さんは旅の最中に船に乗った事があってな────」

 気がつくとブランの目には涙が浮かんでいた。胸が締め付けられるようで、でもぽっかりと空いているようで。
 それでもブランは溢れそうな気持ちを抑え、前足で涙を拭った。

「……うん、大丈夫。ブランは泣かない……だって、きっとお父さんは帰ってくる。それに、お母さんや優しいお客さんだって居るから……」

 ブランは顔を上げて、店の扉の方を向いた。お客さんの訪れを告げるあの鐘に。大好きな家族が帰ってくるあの扉に。

「よし、今日はあと少し……頑張らなきゃ!」



 大都市ラカンデラの住宅の外れに位置するそのお店。人通りは少ないですが、店長さんはいつでもあなたを待っています。
 こんな看板を、扉に引っ掛けて。

「ブランのくすりや やってます」
こんにちは、しろあんです。
ポケモン×ファンタジーシリーズの2作品目です。タグは「魔法の冒険日誌」になりました!
今回はRPGとかで良くある薬屋をイメージして書いてみました。ポーション買い溜めしなきゃ……!
そしてあいかわらずイーブイ好きなのはもう私のアイデンティティみたいな感じなので、許してくださいね((
とにかく、ここまで読んでいただいてありがとうございました!

読了報告

 この作品を読了した記録ができるとともに、作者に読了したことを匿名で伝えます。

 ログインすると読了報告できます。

感想フォーム

 ログインすると感想を書くことができます。

感想