31―Bond 4

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作者:円山翔
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読了時間目安:10分
お借りしたキャラクター
ioncrystalさんよりレギアさん、公式よりウツブシ島ジムリーダーのルーインさん

収録話
In the reversal world 3、Ruin in the ruins 3
 In the reversal world 3

 ”トリックルーム”。空間を捻じ曲げることで、速いものほど遅く、遅いものほど速く動くようにする技である。
 単純に種族の平均値を考えれば、ギラティナの動きはゴチルゼルやジグザグマよりも速い。そのためトリックルーム内ではギラティナの動きが遅くなることは必然と言えば必然なのである。
 しかし、今ここで戦っているジグザグマは訳が違う。通常の空間でさえギラティナの動きに対応し、かつギラティナが空を泳ぐよりも速く動いて見せた彼は、間違いなくこの場にいるポケモンの中で最速である。にもかかわらず、”トリックルーム”の中で最も速く動いているのは、本来最も遅くなるはずのジグザグマなのである。
何故なのか。このジグザグマを従える男に、同じ問いを投げかけた者は数知れない。
そして、男は明確な回答を残さない。
「私はマジシャンだ。マジシャンは自らを継ぐ意思のない者に、種を教えない」
 そう言ってはぐらかしてきた。
 彼を訪ねた者の中には、自力で答えに辿り着いた者もいる。余談だが、カリノカオルもその一人である。
 よくよく考えてみれば単純な話なのである。速いものが遅くなり、遅いものが速くなる。ならば、この空間の中でできるだけ遅く動こうと努めれば、逆に速く動くことになる、という訳である。ただ、考えるのと実際に動くのは別の話であり、速く動くために敢えてゆっくり動くなどということは、頭では分かっていても容易ではない。
 ”トリックルーム”の中でジグザグマは普段よりも更に機敏に動き回った。彼は進化をしない代わりに、ジグザグに動き回る習性を利用した高速移動法を身に着けている。そして、その逆、即ちできる限り遅く動く術も然り。”トリックルーム”の中と外を行き来して、どの空間でも速く、遅くと緩急をつけて動けるように訓練されていたのであった。故に、捻じ曲がった空間の中でジグザグマは目にもとまらぬ速さで駆け回る。かと思えば、その動きを予測して繰り出されたギラティナの触手を、今度は速度を極端に落として避ける。
 空間に開いた穴から、未来を左右する戦況はよく見えた。外で行われている二つの戦いは、いずれももうすぐ終わる。
「もうひと踏ん張りだ!」
 男の激励が飛ぶ。ジグザグマとゴチルゼルは振り向かずに頷く。
 そして、永遠とも思える時間にも、ついに終焉は訪れる。





    *





 Ruin in the ruins 3

「一撃で終わらせるぞ!とげとげ、”神速”!」
 マッスグマが地を蹴る音が耳に入る前に、ルーインは指示を飛ばしていた。
「今だ!ジュペッタ、ゴーストダイブ!」
 ”神速”で突っ込んでくるマッスグマの爪が届く直前、ケタケタと嗤うジュペッタは足元の影に潜り込んだ。レギアはどこからジュペッタが出てくるものかと目を凝らした。”守る”や”見切り”では防げない一撃でも、別のタイプの攻撃と合わせて使わなければノーマルタイプのマッスグマには効果がない。それ以前に、出てきた瞬間を叩けばそれで終わる。しかし、彼の視界にジュペッタは映らない。
「どこだ、どこにいる!?」
「君の後ろさ」
「なっ……」
 手持ちのポケモンへの攻撃を予測していたレギアにとっては、完全に虚を突かれた形で振り向いた。バリヤードが貼ったバリアの内側で、装置が音を立てて壊れていく。
「お前、初めから……」
 悔しげにルーインを睨むレギアとは対照的に、ルーインは静かに笑っていた。
「そうだよ。最初の戦闘は、これを君とのバトルだと思わせるためのフェイクさ。僕の目的は、きみに勝つことじゃない。ポケモンを操る装置とやらを壊すことだよ」
 姿を現さないジュペッタは、装置の内側に腕だけを貫通させて破壊しては装置の影に潜って電波を回避していく。レギアが慌ててバリヤードにバリアの解除を指示した時にはもう遅かった。完全にスクラップになった装置の傍で、ジュペッタはしてやったりといわんばかりにケタケタと嗤っていた。ようやくバリアが解けた瞬間に、マッスグマが神速で近づいて、ジュペッタめがけてシャドークローを振り下ろした。最初は指示の時点で反応したから躱すことができたが、その姿を目で見た時にはもう遅い。慌てて影の中に姿を眩まそうとした時には、ジュペッタは顔から肩にかけてを引き裂かれ、苦しげな断末魔を上げながら体を地面に投げ出した。
「お見事。僕の負けだ」
 ルーインは倒れたジュペッタをすぐにボールに戻した。それからすぐにレギアの方に向き直って、顔の両側で両の手を上げた。降参の合図だった。彼の手持ちのポケモンは、非戦闘要員のランプラーを除き、全て戦闘不能になっていた。
「君のポケモンはよく鍛えられている。戦い方も見事だった。コスモ団としてではなく、ジムの挑戦者として戦っていたら、バッジをあげたかったくらいだ」
 穏やかに告げるルーイン。対するレギアは、苛立ちと批判のこもった声で静かに言った。
「じゃあ、くれよ。そして教えてくれよ。どうしたら強くなれる?どうしたら勝てる?」
 それは、彼がずっと抱き続けた想い。チャンピオンを目指して旅立った純真無垢な少年トレーナーだった彼を悩ませ続けた問い。
「君は強い。だから僕に勝った。違うかい?」
「違う。強いやつが勝つんじゃない!勝てたやつが勝者になって、笑顔でこういうんだよ。ポケモンとの絆のおかげですってな!じゃあ、負けたらポケモンとの絆が足りなかったってか?そういう奴は大抵こう言うよ。どんなに強く育てたポケモンだって、どんなに強い絆で結ばれてたって、負ける時は負けるんだよ。じゃあ、本当の強さって何なんだよ?」
「……多分、君が求めている答えは、言葉では語り得ないものなのかもしれないね」
「……誰に聞いたってそんなふうにはぐらかすんだよ。絆を謳ったって、負けたらポケモンのせいにするやつもいる。言ってみたら俺だってそうだ。だが、俺はあんたに勝った。こんな絆もクソもないろくでなしが、絆を謳う大人のあんたに勝ったんだ!じゃあ、ポケモンを道具として、いかにうまく操るか。それが勝敗を分けるって俺の持論が正しいことになるよなぁ!?どうなんだよ?」
「……」
 目を閉じて考える。道を踏み外してしまった青年を、いかにして納得させるのか。
「人間は時に御都合主義に走ってしまう。勝てば聞こえがいい言葉で勝利を飾り、負ければ何かのせいにしてしまう。そういう生き物なんだよ」
 ルーインは懐からウツブシバッジを取り出して、レギアに差し出した。レギアはルーインの手のひらで輝くバッジをまじまじと見つめた。かつては本気で集めようとしていた、地方公認ジム制覇の証。
「君のポケモンは君の指示を信頼して、嫌な顔一つせずに指示通りに動いている。とてもいきいきとしているんだ。君はポケモンを信頼し、ポケモンたちも君を信頼している。絆っていうのは、そういうことを言うんじゃないかな」
「俺が?倒れたあいつらを散々罵倒していた俺が?あいつらを道具としか思っていない俺が!?」
「君と君のポケモンは、切っても切れない絆で結ばれている。だから、ここぞという時に強い。どうしてそうなのかという答えは残念ながら持ち合わせていないけれど、君とポケモンの絆を疑う理由も、僕は持っていない」
「……そんなの、所詮は綺麗事だろ」
「君は、ポケモンは所詮道具だと言った。どれだけうまく操れたかが勝敗を分けるとね。後半は間違っちゃいない。前半も、そういう扱いをする人間がいる事には違いない。でも、君はそういう人間とは少し違うと僕は思うよ」
 レギアの表情が、徐々に険しいものになっていく。レギアもかつては、ポケモンとの絆が勝利の鍵になると信じてやまなかった。それがいつからか、
ルーインの手のひらに乗った小さなバッジを、レギアは受け取らなかった。差し出された手を払い、顔をそむける。バッジは軽い金属音を立てて、廃墟の床を転がった。
「……いいのかい?」
 弾き飛ばされたバッジには目もくれず、レギアの目をじっと見つめて、ルーインは尋ねた。
「けっ……本当にバッジが欲しけりゃ、ちゃんとジムまで出向いて挑戦するさ。それに、本当に為すべきことを、俺は完遂できなかったんだ。バトルに勝ったからって、そんなもの受け取る資格はない」
「資格があるかどうか判断するのは僕の仕事だ。そして、僕は君が、このバッジを受け取るに値するトレーナーだと判断したんだ」
「いいって言ってんだろ!」
 叫ぶと同時に、レギアはルーインとの戦いで触れなかった最後のモンスターボールの開閉スイッチを押した。そこからマルマインが飛び出し、全身からバチバチと火花を放つ。この局面でマルマインを出せば、やることは一つ。
「やめろ……!」
 ルーインは叫んだが、その声はレギアの心には届かなかった。
「やめねぇよ!やれぇ、まる!―――――――!」
 技の予測はしていたものの、レギアの最後の指示を、ルーインは聞き取ることができなかった。マルマインは閃光を放って弾けた――ように見えた。ルーインは咄嗟に両腕で顔を庇い、地面に伏せた。しかし、爆発の衝撃はなかった。
 マルマインお得意の、差し違えを狙った大爆発ではない。ほんの一瞬だけ廃墟を包んだ光の正体は、”ボルトチェンジ”。電撃を浴びせた後、ものすごい勢いで主人の元へ戻る、一撃離脱の技。レギアのマルマインは、それを閃光弾の代わりに用いたのだ。
 閃光で眩んだ眼が元通り見えるようになった時、レギアの姿はそこにはなかった。装置を守っていたはずのバリヤードも、そこにはいなかった。後に残されたのは、廃墟の出入り口をぼんやりと眺めるルーインと、彼のジュペッタが破壊したコスモ団の装置だけだった。

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