超克の魔術師

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作者:jupetto
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読了時間目安:12分
「追い詰めたぞ」
「一緒に来てもらうよ」

 2人の男性が一人の白いローブを被った少女を50mほど離れた状態から取り囲んでいる。男達はとある悪の組織の幹部達で、少女の持つ特殊なポケモンを狙って町の外れの山まで追い回し、そして追い詰めた。
一人は黒髪を刈り上げた長身痩躯の猛禽のような眼をした大人、一人は青い髪を肩まで伸ばし電子スコープのようなものをかけた少女と見まがうような柔らかい目の少年だった。
黒髪の男は、少女を睨むと重々しく言う。


「超克の魔術師」


 魔術師、と呼ばれた少女はローブの下から象牙色の髪を覗かせ、可笑しそうに、そして不敵な笑みを浮かべた。

「追い詰めた?ふふ……誘いこまれた、の間違いじゃないの?」
「何?」
「つまらない虚勢だね。行くよ、ブースター、シャワーズ、サンダース!」

 青髪の少年がボールを放り投げる。中から出てくるのは、イーブイの進化系3体。可愛らしい外見とは裏腹に全員の目つきは鋭く、悪意に満ちている。

「やれ!!」

 イーブイの進化系たちが水、炎、電気の属性の攻撃をローブの少女に放つ。ぶつかり合う技同士が炸裂し、もうもうと煙を巻き上げた。黒髪の男が制止の声をかける。

「おい、生かして連れてこいと言われたのを忘れたか」
「ふん……死なない程度に加減はしてるよ。それにしてもあっけないね。ポケモンを出す前に終わっちゃうなんて」

 煙が晴れていく。そこにいたのは無残に転がった少女の姿 ――ではなく、少女を守るように展開する複数の石板だった。その奥から少女の涼しげな声が聞こえる。

「へえ、手加減してくれたの?どおりでぬるい攻撃だと思ったよ」
「……どういうことだ、この石板がポケモンなのか?」

 石板は一変2mくらいの正方形で、それぞれ違う単色で構成されていた。相当レベルの高いはずの3体の攻撃を受けて、傷一つついていない。

「どういう手品か知らないけど……僕が暴いてやるよ、今度は本気でやる!出てこい、僕のイーブイ達!」

 青髪の少年がさらに5つボールを取り出す。繰り出されるのは、残るイーブイの進化系5体。合計8体のポケモン達が、一斉に攻撃を仕掛けた。炎水雷念悪草氷妖の連撃が怒涛と放たれる。
少女は自在に石板を操れるのか、わずかな指の動きで何もない空間からさらに色の異なる石板を呼び出し攻撃を防ぐ壁にする。少女は人間離れした身のこなしで飛び上がり、一枚の石板の上に乗った。

「5……10……15……まだ増える!?」
「そう、17枚!君は8体のポケモンを持っているようだけど、その倍以上だね。……じゃあ、こっちからいくよ?」
「くっ……!」

 少女は指揮者の様に手をくるくると動かす。8枚が攻撃を防ぎ、残りの8枚がきりもみ回転しながらイーブイの進化系へと突っ込んでいく。火炎放射や十万ボルトなどものともしていない。

「くそ、一旦散らばれ!『電光石火』だ!」

 全てのイーブイの進化体が、同じ速度で地を駆ける。すんでのところで石板を躱していく。だが少女の手によって石板は繰られ、ぴたりとそのあとを突いていく。イーブイ達が一瞬でも足を止めれば、トラックに轢かれた猫のように轢殺されるだろう。

「いつまで逃げきれるかな?それと、そっちのお兄さんも参加してもいいんだよ?」
「ふん」
「もう、せっかく女の子の方から誘ってるのにいけずだなあ」

 少女と黒髪の男の目が一瞬交差する。男の目は挑発には乗らないと語っていた。少女は舌を出す。それを見て青髪の少年は怒った。

「僕を馬鹿にして……やれニンフィア!ハイパーボイス!!」
「フィアーーーー!!」
「!うるさっ……!」

 少年の命でニンフィアは躊躇なく足を止め、その愛らしい姿に似合わぬ咆哮を放つ。一瞬後に石板に跳ね飛ばされ、動かなくなったが『音』は石板による遮蔽では防げない。少女は思わず耳を塞ぐ。それでも音は脳に響き、一瞬聴覚を奪う。

「―――!」

 だから、次の少年を指示を少女は聞くことが出来なかった。だからひとまず、『今までのイーブイ達の速度と攻撃力から計算した防御布陣を敷こうとする』
それを見て少年は勝ちを確信した。イーブイの進化系たちに同じ速度で電光石火による移動をさせたのは欺くためのフェイク。本来は個体によって速度が違う。その中でも最速を誇るサンダースが目にも留まらぬ速さで少女の背後を取り電気を纏って突撃する。


(勝った!!)


 『電光石火』は威力の高い技ではない。だがいかに不思議な石板を操れようと相手は人間。ポケモンの音速に等しい突進を受ければ、まず気絶は免れない。

「し、しまっ……!」

 背後を取られたことを少女は気づいたようだが、もう遅い。そのまま電光石火が直撃し――なかった。


 突然現れた白い巨影が、サンダースの突進を跳ね飛ばす!!サンダースの悲鳴が響き、地面に転がって動かなくなった、電気によって逆立つ毛並みがへたりと縒れる。

「な……!?」
「……!」

 幹部たちは驚愕する。二人はサンダースの速度を知っている。ましてや使っている技は『電光石火』だ。それより早く動くことのできる存在など、見たことがなかった。白い影は、少女を諫める。

【油断しすぎだぞ、ラー】
「……ごめん、アル。調子に乗っちゃった。本当はあなたを出さずに終わらせたかったんだけど。随分自信あるし対策でもしてるかなって」

 アルと呼ばれた声の主は決して大きくはないのに。天地に、地球上に、否宇宙全てに響くのではと錯覚するような深く轟く声だった。それが自分たちが捕えに来た『ポケモン』であることに凄まじい不釣り合い差を感じる。残る6匹のイーブイ達は、オオスバメに睨まれたケムッソの様だったそして、それと当然のように会話する少女が化け物に見えた。

「なんだこいつ……とにかくターゲットのポケモンがおでましか」
「『ポケモン』?それは違うよ」
「何を馬鹿な!こんな化け物ポケモン以外にあり得ない!」
「アルは『ポケモン』じゃない――【神】だよ」
「は、はは……ふざけるなよ!!やれお前達!!」

 だがそれでも訓練された悪のポケモン。少年の指示でイーブイ達は臆しながらも一斉に攻撃しようとする。

【本当に我を出す気がなければここまで誘い込む必要はないだろう。……終わらせるぞ】

 声が終わると同時に爆風が吹き荒れた。少年は最初は『エアスラッシュ』か『暴風』でも使ったのかと思った。だが、風がイーブイ達を襲う前に勝負は決まっていた。少年の運命も。

「……!?」

 少年の体が息がすべて吐き出される。視界が明滅して抵抗のしようもなく膝を突き、地面に倒れた。自慢のイーブイ達も、全員が吹き飛ばされて姿が見えなくなっている。黒髪の男が舌打ちした。

「その技……『神速』か。『電光石火』や『アクアジェット』よりも超える速度の一撃……それもこの威力、ノーマルタイプだな」
「ご名答」

 白い影は、『神速』で刹那の内にイーブイ8体と少年を打ち据え、一瞬で少女の前に戻っていた。男を狙わなかったのは、両方とも仕留めてしまえばまた追っては来る。それよりはどちらかは生かして自分たちには敵わないと思わせるためだ。
黒髪の男は、もはや少年を見ていなかった。舌打ちの理由は、味方の損失ではなく得体の知れない敵へと向いている。

「頼む……たすけ、て」

 少年は、愚かな望みであると知りながら黒髪の男に救いを求める。黒髪の男は、自分の腰のモンスターボールに手をかける。

「さあ、お仲間の一人はこんな姿だよ?君もこうなる前に帰ってくれないかな。で、もう二度と私たちに手を出さないでほしいんだけど」
【力の差は歴然だ。塵芥が何十、何百集まろうとも我等には勝てぬ】
「笑止」

 少女の脅しを、神の畏怖を、男は一刀の元に切り捨ててモンスターボールを開く。

「何百集まろうとも勝てないか……面白い」
「ま、待て!お前、僕を!」

 何が起こるのかを知っている少年は制止の声を上げる。中から出てくるのは一体のゲンガーだ。元より恐ろしいその姿が、更に禍々しく変化していく――少年と、イーブイ達の魂を生贄に。少年とイーブイの顔から見るみるうちに生気が抜けていき、5秒と経たぬうちに白骨化した物言わぬ骸と化した。男は、少年の遺品であるゴーグルを拾い上げる。

「自分の仲間を平然と……」
「こいつをメガシンカさせるのにはいくらかの魂が必要でな。どうせ死ぬ命だ。遠慮なく使わせてもらった」
【外道だな】

 ゲンガーの姿は地に足をつけ、額に真っ黒なオーラを纏った姿になっていた。その目が光り輝く。

「アル、こんな奴相手にしてられない……『神速』で逃げるよ」
「逃がさん。メガゲンガーの特性は既に発動している」
【……!!】

 メガゲンガーから伸びた影はいつの間にか、少女と【神】の名を関するポケモンの影と繋がり、その身動きを封じていた。

「特性『影踏み』により貴様たちは逃げ出せない。……どうだ、【神】とやら」
【貴様……今までそのポケモンに何匹の命を食らわせてきた?】

 少女にも『神』と呼ばれるポケモンにも、ゲンガーから伝わる怨念の数は尋常ではないのが伝わってきた。男は今まで食べてきたパンの枚数でも応えるように平然と。


「人口約50万の都市一つの生命を丸ごと喰らわせた。貴様らを捕える為にな。……さて、50万なら神に届くか?」


 男の瞳には何の揺るぎもない。それが今の言葉が真実であることを告げてきた。ゲンガーから伝わる影から、今なお天国へと昇れず亡霊に閉じ込められた魂たちの凄まじい怨嗟の声が聞こえてくる。新たな仲間を求めるように怨念が少女の首に伸び、締め上げようとする。

「ぐっ……」
「【神】よ。この女を殺されたくなければ我々に従え」
(……裁く)
【やるのか、あれを】

 喋れない代わりにテレパシーで自らの【神】と通じ合う。黒髪の男は『神』に余計な手出しはせず、少女を人質にすることで従わせようとする算段なのだろう。だがそれは【神】の前には不十分だった。

 (散らばれ、魂のプレート)
 
 少女が念じ力を振り絞って指を動かすと、17枚の石板が消える。黒髪の男はそれを少女が怨念の呪縛に耐えかねたのだと思った。

(天空に輝け、神の意思)

 頭の中で詠唱を続ける。石板たちはバラバラになり、無数の礫となって雲の上に対空する。それはまさに、『空』に舞う『石』。準備が整ったところで、少女は締め付けられる喉を振り絞って叫んだ。


「今創造神【アルセウス】の名の元に、万象を束ねる!!降り注げ、『裁きの礫』!!」 

 
 雲を突き破り、降り注ぐのは神が生み出した礫。世界、そしてポケモンを構成する礎である18属性(タイプ)を全て内包した神の力がゲンガーに、男に……そして、この山全てに降り注いだ。

「シャドーボール!」

 咄嗟に男は50万の怨念が込められた漆黒の珠を放つ。だが50億年の時を生き、全てを作り出した創造神にとっては――象を蟻が止めようとするようなものだった。遍く怨念を叩き潰し、山の地形ごと変化させる勢いで押しつぶした。


「……終わったね」


 


 少女と【神】――アルセウスを縛る影が消える。男がどうなったかは、わざわざ確認するまでもない。敵を退け、自分の放った力で地形すら変えた少女の声は、どこか寂しげだった。

【ようやくあの追っ手から逃れられたのだ。喜んでもいいのではないか。我が力も十全に引き出せているようだしな】
「そうだけど……いろいろ、壊しちゃったし」

 山の原形を止めなくなった更地を見ながら呟く。少女は神の力を操るが、それに驕らない。否定もしない。故にこそ、アルセウスも彼女を認めている。

【……まあ、お前はそれでよいのかもな】
 
 宇宙の端までその存在感を響かせる【神】が、ふっと笑った気がした。

「だからこそ、アルの力を使わせないためにあなたに捕まるわけにはいけないんだ――Mr,ホルス」

 超克の魔術師、と呼ばれるラーの名を持つ少女は自分たちの力を執拗に求める敵の名を呟く。彼の野望を阻止するために、彼女は行く当てのない旅を続けている――。

 

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