愛の残滓

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作者:揚げなす
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読了時間目安:11分

この作品は小説ポケモン図鑑企画の投稿作品です。

ホラー注意。でもあんまり怖くはないです。
ちょっと前に洒落にならない体験をしたんだ。それこそ悪夢みたいな。俺自身まだ整理が出来てないから、少し話を聞いてほしい。

まず前提なんだけどな、俺は小さい頃、何をするにもずっと持っていたぬいぐるみがあったんだ。
…いや、『いた』って言ったほうが正しいかな。ソイツは引っ込み思案だった俺にとって一番の友達だったし、意志のようなものすらあったような気がしていた。
まあ、イマジナリーフレンド、想像上のお友達ってやつさ。小さな子供は時々そういうものを作り出すことがあって、何もない空間やぬいぐるみみたいなおもちゃを相手に遊んだり喋ったりすることがあるんだ。
でもそれ自体は別におかしなものでも何でもない。珍しいのは大人になっても存在しているケースで、大抵は歳を重ねていくごとに見えなくなったり忘れていったりする。俺もそうだった。
俺も男だからさ、だんだんぬいぐるみよりもイーブイ戦隊とかトレーナーごっこに夢中になっていって、大事にしてたはずのぬいぐるみはそのまま押入れの中にしまいこんでたんだ。この間までは。

あの悪夢みたいな出来事の少し前、押し入れの中を整理していたら古いダンボールが出てきた。
もう10年はそのままだったんじゃないかな。角の潰れたダンボールの上部はホコリまみれで真一文字にガムテープで閉じてあった。
側面に『おもちゃばこ』って幼い俺の字で書いてあって、あー、なんか懐かしいなって思って開封した。
真っ先に出てきたのはボロボロの、一番のお気に入りだったミミロルよりも小さな白ウサギのぬいぐるみ。
柔らかく手触りのよかった体はつぎはぎだらけでところどころほつれていて、宝石みたいにキラキラしていて好きだった赤い目は経年劣化でくすんでいた。今はもうお世辞にも可愛いとは言えない、当時にはどこにでもあったんだろうなって感じの布と綿の詰め合わせ。
よくブンブン振り回しては腕や頭がちぎれてしまって、そのたびに母さんに泣きついて直してもらっては、「ごめんね、痛かったよね?」「大丈夫、もう直ったよ!」なんて会話を一人でしていたもんだ。
我ながら酷い扱いだったとは思うが、まだ大事にする方法も知らなくて、ただ好きだから一緒にいた、文句も言わずそれに付き合ってくれる友達だった。
そのうち生身の人間と接する機会が増えて、ちゃんと人とも遊ぶようになった。相手とのつきあい方や思いやりやらをその中で学んで友達も増えて、皆で毎日イーブイ戦隊ごっこしてたよ。俺はいつもサンダースイエローだったな、カレー好きだったから。…話がそれたけど、でも人の友達が増えた代わりに内在的な親友の影はどんどん薄れて、ついには思い出さなくなった。
当時のことを思い出して懐かしさは感じても、俺はもうあのぬいぐるみを再び友達とは呼べない。
少し寂しいことだけれど、それもまた成長なんだよな。それ以外の理由も今はあるけれど。

誰から聞いたのかは忘れたけれど、人形やぬいぐるみは捨てる時には焼くものなんだそうだ。大事にされたものには魂が宿るから、ちゃんと供養をしろってことらしい。
ただ残念ながら俺は思春期真っ只中。霊的なアレコレを信じているなんて、という気恥ずかしさがあって寺や神社に持っていくのは…わかるだろ?そういう時期だろ?
更に言えば地区条例の関係で自宅の庭では焼くのは禁止されている。ならどうしたかと言えば、最終的には焼却炉で燃えるからという理由で俺はぬいぐるみを翌日の燃えるゴミとして出してしまった。
今でもそれは後悔してる。今や汚い布の塊とはいえ当時は大事にしていたから可哀想に思う気持ちだってあったし、なによりこの後大変な目にあったからな。

ぬいぐるみを捨てた日から、俺の周りが少しおかしくなった。悪いことが少しずつ増え始めたような気がしていた。
とはいってもその時の俺は原因がぬいぐるみを捨てたからだなんて思っていなかったから、ただ運の悪い日が続くな、だなんて呑気なことを考えていた。

何もないところで転ぶことが増えた。
物が飛んでくることが増えた。
交通ルールを守っているのに車や自転車に轢かれかけることが増えた。
気分が憂鬱になる出来事が増えた。
気がついたら帰りの道で知らないところまで歩いていたり、バスを乗り過ごすことが増えた。
ぼーっとすることが増えた。
ふとした瞬間視線を感じて振り返ることが増えた。ちなみになにも居ない。
夜、寝苦しい日が増えた。
そうさ、増えた。増えた。増えた。増えたんだ。

一つ一つは小さな事だ。取るに足らない些細なこと。それでもそれが長く続けば流石に気づいた。明らかにおかしい。

最初は鬱を疑ったが、鬱で物が飛んできたりするはずもない。俺の恥ずかしがった霊的なアレコレだって判断した俺は神社からもらってきた札を部屋の四隅に貼って、ついでに塩も盛ってみた。
不調は決まって夕暮れ時から始まって、眠っている間にも続くものだから、だいぶ睡眠不足にも悩まされていた。もし霊的なものによるものなら、寝たふりをしたら何かわかるだろうだなんて札への信頼と好奇心から俺はその夜起きていることにした。

夜もだいぶ更けた頃だった。時計は丑三つ時をとっくに超えていて、寝たふりと言いつつもうつらうつらしていた俺は、突然聞こえた鈍い音に驚いて目を覚ました。
窓ガラスから聞こえた鈍い音は結構大きな音だ。
一度マメパトが窓ガラスに気付かずに家に入り込もうとした時があって、その時の音によく似ていた気がする。それよりは少し柔らかそうな音だったけれど。

何かいる。
窓ガラスの外には暗い街と街頭が映るばかりだったが、恐怖感から敏感になっている聴覚は部屋の壁の外側の気配をはっきりと伝えてきていた。その時ソレは壁の方から左に回って、右から回って、うろうろしながら時折カリカリと壁をひっかくような音を出していた。何かが、人じゃない。もっともっと小さいものだ。
正体のわからない何かが俺の部屋の壁を這いずるように移動している。それを理解してパニックになった俺は、とにかく相手の正体を見ないように布団に潜り込んで強く目を瞑った。大丈夫だ。あいつは家の中には入ってこない。自分を安心させようと震える体を抱きしめてそう頭の中で繰り返した。すると家の外を右往左往していた音が一瞬止んだ。

横になったすぐ後ろの壁からあの音が聞こえた。

俺のベッドは壁を挟んで廊下と隣接している。つまり、その音が後ろから聞こえるってことは……?

壁一枚先、大丈夫だと思っていた家の中に、他の家族が無防備に眠っている家の中に、ソイツは入り込んでいたんだ!
なんで、どうやって、ありえない。目を瞑ることすらできずただ息を詰めて布団を握りしめることしかできなかった。
カリカリ、カリカリ、俺の位置を把握しているらしいソイツはしばらく背後の壁を引っ掻いていたが、無駄だとわかったのか諦めたように引きずるような音を立てて遠のいていった。ホッとして布団から顔を出した俺は、突然バンッ!と苛立たしげに叩かれた窓ガラスの方を反射的に向いてしまった。
くすんだ赤色が闇の中で鈍く揺らめいていた。その目と視線が合った。


目が覚めた時には朝だった。情けないことに気絶したらしい。目が覚めて最初にしたことは、壁の後ろを確認することだった。あれは夢だったのか自信がなかったから。
壁を挟んだベッドの位置、その昨晩背を向けていたちょうどその場所に、三つ鈎のシャベルのような何かで引っ掻いた後がいくつも残っていた。
夢じゃないことを確認して、すぐさま家を飛び出した俺は、札をもらった神社でありったけの札を買い込んで家を囲った。
あれが、捨てたはずのぬいぐるみが、今まで俺の寝ている間に家や部屋の中を這いずり回っていただなんて、考えただけで身の毛がよだつような思いがした。恐ろしくてたまらなかった。
次の日からもう不調は起こらなかった。外でもだ。どうやら俺は諦めてもらえたらしい。
だからな、俺がお前に言えることは、ぬいぐるみや人形は絶対供養してやれよってことだ。周りで必要ないとか言ってるやつがいたら絶対止めてやれ。
巻き込まれて危ない目には遭いたくないだろ?俺も未だに怖くて余った札を持ち歩いてるくらいだ。

…悪かったよ。そんなに怖がるなって。なんなら明るい話でもしよう。
そうだ、俺さ、この間新しくポケモンゲットしたんだ。なんか街で暴れてだいぶ被害が出てたらしいから俺の腕前でなんとかしてやるって意気込んで行ったら、結構あっさり捕まったよ。なんせ俺を見つけた途端当ててくれって言わんばかりに飛び込んでくるんだぞ?フシギソウがお見舞いしてやったよ、しびれごな。楽勝だったな。ボールに入れた時も抵抗らしい抵抗もしなかった。
しかも何か俺のことよく理解してくれててさ、バトルの指示も的確に判断してくれてこいつをゲットしてから負けなしなんだ。いいだろ?
ボールから出したらずっと俺の事見てるし、主人として結構気に入られてるのかも。
でもまだ少し距離があるんだよな。この札のせいかとも思うんだが、時々こっちを見ながらすごく不気味な顔してるんだよ。口は笑ってるのに目が笑ってないっていうか…まあゴーストタイプって皆どこか不気味な所があるし、そこは俺もトレーナーだから受け入れてやりたいとは思ってる。でもやっぱりまだ札を外すのは怖いから我慢してもらうしかないんだけどさ。


え、ポケモンの種族?ジュペッタだよ。どんなって…普通のだよ、普通の。別に色違いでもなんでもないぞ?お前もトレーナーなら一度くらい見たことあるだろ?…なんだ、やっぱりあるんじゃないか。
なんならバトルで見せてやるよ。実はこいつをゲットしたすぐ後にジュペッタナイトを手に入れたんだけど、何故かメガシンカがうまくいかなくてさ。やっぱりまだ捕まえたばかりで距離があるからかもしれないけど、俺とこいつなら息もぴったりだしバトル中なら通じるものがあるかもしれないから…よかったら練習相手になってくれないか?

……おい、さっきから何怖い顔してるんだよ。感じ悪いぞ?俺がジュペッタのトレーナーだと何か都合が悪いわけ?
タイトル=恨み

図鑑説明から。ジュペッタちゃんに本気出して追いかけられてみたかったんです。

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