「ったく・・・回線いじってなにやってるかと思えば、まともに仕事をする気があるのか、お前は」
「だってぇ~、なにも知らずにのこのこと蟻のように調査団とやらがきたらめんどくさいじゃないですかぁ。これも仕事ですよ、仕事」
「ちっ・・・イイトコのガキは口だけは回りやがる」
コスモ団のアジトに戻ってきたヴェスターを出迎えたのは、幹部二人のそんなやりとりだった。ポケモンの回復装置にボールを置きながら尋ねる
「・・・今度は何したの?ペルシャ」
「ヴェスター君までひどいですよ~。ちょっと回線をジャックして調査団とやらを脅してみただけです」
それをちょっとで済ませるのがこのお嬢様の怖いところだ。調査団の存在についてはヴェスターも知っているし、既に手を下しに行ったりもしている。暴れる機会が増えるのはポケモン達にとっては好都合だが、ヴェスターにとって仕事が増えるのは面倒だった。ルファを追いかける時間が減る。
「ヴェスターも戻ってきたし、さっさとドクサ島に向かうぞ。お前も準備しろ」
「へえ・・・僕も着いていかせるんだ?」
「野生のポケモンを操る実験をするからな。もし異常に気付いたポケモンが襲ってきたら厄介だ。ーーそのときは、お前が何とかしろ」
「護衛は僕の仕事じゃないと思うんだけどなあ」
「なら、実験を止めにきたトレーナーを始末するってことで納得しろ。仕事ってのはそういうもんだ」
ぶっきらぼうなジュノーの言葉。やれやれと溜め息をついて回復させたポケモン達のボールを取る。準備など自分とポケモンがいればいい。コスモ団のしたっぱ達がポケモンを操る装置の機材を運びこむのが終わると共に、三人はドクサ島へと向かう船に乗るのだった。
「ドクサ島、か。わざわざ島を移動してまでポケモンを操るってことは・・・何か特別なポケモンでもいるのかな?」
船のブリッジで、そうひとりごちるヴェスター。ジュノーとペルシャはしたっぱ達に作戦の説明を行っているはずだ。しばらく一人の時間を過ごせるーーそう思っていたのだが。
「ご名答で~す。どのポケモンを支配しにいくかも教えましょうか?」
振り返ると、そこにはペルシャがいた。何でここに、とはまあ聞くまでもないだろう。どうせジュノーに丸投げしてきたに違いない。
「そういうのって、組織の秘密なんじゃないの?」
「ま、普通ならそうなんですけどね~。でもヴェスター君にはもしもの時私たちを守ってもらわないといけませんから」
何から守るかがわからないと、どうしようもないでしょう?とペルシャ。確かに一理ある。頷くヴェスター。
「ずばり、ドクサ島には伝説のポケモンがいるんですよ!驚きました~?」
「・・・ふーん」
「あれ、リアクション薄いですね?」
「だって、伝説のポケモンならさっき戦ってきたところだし」
「そうなんですか~・・・って、ええ!?」
驚きを露にするペルシャ。それはそうだろう。伝説のポケモンとはその辺で出会えるようなものではない。それ故伝説なのだから。
「ど、どんなやつでした?もしホントならボスに報告しないとですよ~」
「トルネロスかボルトロスかな。ダズ、って呼ばれてたから正確な個体の名前はわからないけど、強力な風を起こせる伝説のポケモンに間違いないね」
おかげで空まで吹き飛ばされたよ、とこぼすヴェスター。
「ん?ニックネームがついてるってことは、トレーナーがいるんですか?」
「そうだよ。ベルディア、っていう女の人。ついでにいうと、ルファの知り合い」
「あのブラックリストのルファとですかぁ。これはそのベルディアとやらもブラックリストに入れておく必要がありますね・・・危険分子は排除、です。」
「で、その排除をするのは?」
「勿論あなたですよ」
しれっと言うペルシャ。どうやらまた仕事が増えるらしい。まあ彼女の場合ルファと繋がりがあるので悪い話ではないが。
「話が逸れたね。ところで、ドクサ島の伝説って?」
「ああ!そうでしたね。ドクサ島の伝説とはーーときわたりポケモン、セレビィがいると言われているんですよ」
「ときわたり・・・か」
「そうです。時間を自由自在に越える驚異の力ーー故に、捕獲はきわめて難しいと言われていますが、今回の装置を使えば・・・」
くふふ、と悪戯好きの子供のような笑みを浮かべるペルシャ。まあヴェスターにはそこはあまり関係のない話だ。捕獲に成功しようが失敗しようが、どうでもいい。
「ねえヴェスター君、もし時間を自由に越えられるとしたら・・・あなたはなにがしたいですか?」
「僕?そうだね・・・」
ヴェスターは自分の過去を思い出す。研究者な毒虫の坩堝のような実験室に閉じ込められた地獄の日々を。そこから抜け出たあと、自分の呪いに気付かず世話になった人を殺めてしまった苦しい過去を。そして悪の組織を転々とすることでしか自分の呪いと、ポケモンの衝動は抑えられないと決断した悲しき決意を。そしてそれからの虚しき放浪を。
自分が何か、過去を変えるとしたらーー
「スピアー、ドクケイル。この子たちが死なない過去を選んでみたい・・・かな」
腰の、二つのモンスターボールを手に握る。その中には、今はポケモンは入っていない。この中に入っていた二匹は、放浪の間、血で血を洗う戦いのなかで命を落としてしまった。自分が過去を変えるならば、その選択をするのだろう。
「僕は蠱毒の存在。それ以外の僕なんて想像出来ないし、僕にとってはやっぱりこの子達が大事だよ・・・なんてね」
「はあ・・・愛ですねぇ。ある意味すごいですよ。私だったらまずそんな実験室に閉じ込められた過去を何とかします」
「それが普通じゃないかな」
ニヒルな笑みを浮かべるヴェスターをじっと見つめるペルシャ。
「それで、君は?変えたい過去とかあるの?」
「私ですか?そうですね~」
ペルシャが考えるーー素振りをする。もったいぶるだけもったいぶって、答えは。
「えへへ、乙女の秘密でぇす」
「・・・そんなところだと思ったよ。さあ、ドクサ島が見えてきたみたいだね」
「あ、ホントですねぇ。それじゃあ行きましょうか~」
はぐらかされたが、やはりヴェスターにはどうでもいいことだ。この会話自体、なんてことのない世間話なのだから。団員達より先に船を降り、森へと向かう。
「さあ出番だよ、僕のポケモン達」
野生のポケモン達に機材を破壊されないようにモルフォン、アリアドス、ペンドラーを繰り出すヴェスター。時折襲ってくる野生のポケモンを返り討ちにしながら進むと、目的地につく。
「これは・・・祠かな?」
「そうだ、セレビィを祀るためのな」
したっぱ達に指示を出しながら、ジュノーが答える。森の奥には、小さくも厳かな、苔むした祠があった。それを眺めていると、何やらがさがさと人の足音がした。
「・・・調査団とやらのお出ましかな?」
「どうやらそうらしい・・・俺達はまだ準備がいる。お前の出番だ」
ジュノーの指示で、ヴェスターは調査団と思わしき人物の前へアリアドスと共に立ちふさがる。
「ーーーー」
目の前の相手がポケモンを出し声をかけてくる。それにヴェスターは、こう答えた。
「君達・・・邪魔だよ?」
じゅぺっとです。コスモ団の日常をまたか書いてみました。
つきましては、この話の最後に出てきた調査団の誰かを募集してみたいと思います。ここから続くかたちで書いてくださってもOK。誰かのご協力をお待ちしております。聞きたいことがあれば、感想かツイッターまでお願いします。