ピンクバッヂの壁

作者:早蕨

本文冒頭

[一]

 潮の香りが懐かしい。青々とした山々も、見覚えのある形だ。
 久しぶりに、帰ってきた。
 灼けるような暑さはどこに行っても一緒だが、地元の暑さは幾らか優しい。空気が軽く、過ごしやすい。見慣れた風景が、こんなにも安らぎを与えてくれる物だとは知らなかった。
 セキチクはピンク、華やかな色。昔からある町の謳い文句は、夏到来の様相の中、しぶとく町を彩っていた。民家にも石竹。街路樹の脇にも石竹。嫌になる程記憶にこびり付いた匂いも、今ではどこか心地良い。
「ケン坊! どこ行ってんだよ。こっちだこっち!」

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