8話 漆黒の鎧

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 インターネット掲示板ではAfの話題が上がることが以前よりも減ってきていた。
 Afの総数が一体どれだけあるか分からないが、風見達が有しているAfは約十枚。当初に比べると、Afはいくらかの勢力が既に集めきっているのだろう。そうなればここから先はAfを持っている勢力同士の削り合いとなるだろう。
 どれだけの勢力があるかも不透明だが、ロドニーを送り付けてきた「鬼兄弟」がいる勢力とはすぐに戦うことになるだろう。
 そしてもう一つ気になる事がある。Afの話題が減ったことに反比例して、黒い甲冑をつけた人物に関する話題が上がっている。
 掲示板に投稿された画像は解像度が低く、あまりはっきりとした姿ではないが、確かにそれらしき人物がポケモンカードをしている。人目を引く派手なネタであるため、Afから話が逸れていくのはありがたい。その反面、この甲冑の人物とAfが関係の無い事を祈るばかりだ。
 風見は自宅の壁掛け時計に目をやる。時間を確認すると、立ち上がって出かける支度を整える。
 明後日に澤口美咲との直接対決を控えている風見は、それに向けての準備と試験をするために自分の父親の会社、株式会社TECKの実験室に向かうのであった。



 そんなことは露知らず。翔は薫と共に科学博物館に遊びに来ていた。
 古生物研究者を父親に持つ薫は、その影響か化石が大好きだ。本来は海外の博物館に展示されている化石が二か月だけ日本で展示される、その噂を聞きつけ翔を引っ張りだしてきたのだ。
 翔と薫は同じ高校出身で、薫の方が一つ歳が下。出会いは学校行事とかでなく、とあるポケモンカードの大会だった。
 大会でだけならここまでの関係になっていたかは分からない。偶然学校で出会い、それから何度か話しているうちに自然と居心地の良さを感じていた。
 気付いた頃には恭介ら同級生たちに付き合ってるのかよ、と言われるようになり始め、それ以来互いに少しずつ意識しはじめて晴れてそういう関係になった。
 以前は男の子と変わらないようなルックスをしていた薫も、今や一介の女子大生。翔はそんな風にゆっくりとだけど、変わり始めていく薫を見るのが好きだった。
 翔も翔で、薫に何か応えないといけない。そう思っていろいろと取り組んだりはしているが、どうしても化石趣味にはイマイチついていけないままであった。
 化石みたいな昔の事を考えたところで一体なんだってんだ。な! と、かつて風見に話したことがあるが、理解者だと信じていたはずの風見からはそうか? と容易く斬り返された。お前の趣味はなんなのか俺はわかんねえ。そう言って突き返したのはもう一年前以上の話か。
「おお! タルボサウルスだ!」
「おいおい、子どもじゃないんだから大声出すなよ」
 おもちゃ屋に連れてこられた子供のように、目を輝かせてあちこちのショーケースに張り付く薫を見て、翔は口元が緩む。俺は化石を見に来たんじゃない、薫を見に来たのか。
 バイトやAf事件のことで、去年以上に忙しい夏休み。バイト終わりの疲れたタイミングで風見から呼び出され、Af使いと戦ったり、昨日のように遊んでいたら追手が現れたり。今日はそういうことのない、極めて和やかで暖かい一日を過ごしたいもんだ。
 その日は結局閉館時間間際まで博物館にいた。徐々に陽が落ちて、博物館屋上のパラソルガーデンにも幻想的な風景が広がる。ラウンジで購入したドリンクを片手に、他愛ない事を語りあっていたその最中。アスファルトを踏みつける音が一つ、こちらに近づいてくる。
 それをいち早く察知した翔は、気持ちをスイッチしてバトルデバイスに手をかける。振り返った先には以前見たようなシルエット。
 そんなに遠くないうちに一度手合せしたことがある。その記憶はすぐに鮮明に蘇る。パラソルで影が出来てようやく見えたその顔。自然と腰かけていた椅子から立ち上がる。不安げに翔の目を追う薫の視線に気づき、翔は薫を一瞥して来たるべき敵を見つめる。
「久しぶりだな、奥村翔」
「まさかまた会うとは思ってなかったぜ」
 決してそんな知り合いだとかそういうわけでもない。ただ、翔が初めてAfと対峙したというエピソードから、今まで戦った相手の中でも少し印象が強く残っている。
 以前翔と戦った時はAfギガントミラージュを携え、レジギガスEXを強化して翔と激戦を繰り広げた男だ。闘志全開のその表情から、決して平和的な事が起きるとは思えない。
 物々しい雰囲気に薫も立ち上がる。翔に駆け寄ろうとしていた薫を翔は手で制す。
「離れてろ!」
 予想していなかった怒号に面食らい、言葉が出なかった薫。なんとか首を縦に振り、背後でバトルデバイスの起動音を聞きながらパラソルガーデンから離れる。
 当館の屋上は大きく二つのエリアに分かれている。太陽光発電でパラソルが開閉するパラソルガーデンの隣には、薬用、食用、香味料用など三ケタに上るハーブが育てられているハーブガーデンが拡がっている。
 薫はハーブガーデンまで駆け寄り、歩く足を止めないまま振り返る。その先では戦いを始めた二人が、各々ワカシャモとエムリットを出している様子が見える。
 よそ見していた薫は弾力のある何かにぶつかり、押し返される。思わず尻餅をつき、反射的にすみませんと謝る。その薫の目の前には大きなお腹を出したガタイのいい男が。
「へへっ、本当に作戦通り女の方がこっちに来たんだなあ。Afとはいえ、たかがカードの取引に人質をひっとらえようとするなんて。ほんとアニキらも酷な事考えるよなあ」
 人質という言葉と威圧的な目でこちらに近づく大男に一瞬怯んだが、薫は我を取り戻して立ち上がり、バックステップで距離を取る。
「な、何よ。やる気?」
「素直に人質になってくれれば何もする気は無いんだよなあ。これもAfを集める奥村翔達を恨んだほうがいいんだよなあ」
 今翔と戦っている方はあくまで囮。本命は薫自身を捕え、その身柄とAfを交換させようとする。そういう手順だと大男は話す。
 薫自身はAf回収作戦に参加していないが、Afの持つ力を伝聞で知っている。しかしいくら特別な力を持つカードを集めるためとはいえ、あまりに道徳性のない敵のやり口にひどく憤慨した。
「大丈夫。人質といっても本当に身柄を預かるだけなんだよなあ。でも抵抗するんなら、少し痛めつけなくちゃいけないんだよなあ」
「どの口がそんなことを!」
 歩幅を詰めようとする大男に対し、薫はさらに距離を取る。デッキポケットを腕に装着し、戦闘準備を整える薫に突如耳慣れない音が後ろから響く。
 カチャリ、という金属音が一定のリズムを保ったままこちらに近づいてくる。金属と金属がぶつかり合うような、異質の音。たじろぐ大男の視線を追うように薫も振り返ると、真っ黒な甲冑がそこに立っていた。
「貴様、Af使いだな」
 声からして男だろうか。両肩に白い布のようなものを翻し、首筋辺りに赤のライン。それ以外はほとんど黒一色で占められた鎧の男は、薫と大男に割って入る。
 鎧の男が右手を天にかざすと、淡いオレンジの光の粒がその手に集まり大剣へと姿を変える。鎧の男は自分の身体の半分程の大きさはあるだろう大剣を軽々と振り回し、その切っ先を大男の喉元に向ける。大男は二三歩後ろに下がり、凍りついた顔を貼り付けたまま尻餅をついて倒れる。
「逃げられると思うな。相手をしてもらうぞ」



挿絵画像




 鎧の男は剣を地面に突き刺す。幅のある刀身にいくつもの緑の筋が駆け抜けると、剣の(つば)にあたる部分が変形してバトルテーブルへと姿を変える。それに連動するように、倒れ込んだ大男のバトルデバイスが勝手に起動してバトルテーブルが現れる。
 置いてけぼりを喰らう形になった薫は、突然の状況の変化を飲み込めていなかった。ただただ不気味な存在が放つ異様な緊張感に、全速力で走った後のような絶え絶えの息をするのがやっとだ。この場にいる、それだけがこんなにも苦しいことだなんて。そんな薫に鎧の男が振り返って声を掛ける。
「お前も戦うのか」
 火の粉が自分にも降りかかってきた。喉元に刃物を突き付けられたような感覚に陥った薫は、言葉が喉でつっかえて出てこない。次第に頭が混乱し、目が潤んでくる。大男に攫われそうになると思うと、次いで現れる鎧の男。状況の変化に追い付けない。それでいて、心の奥の冷めた部分でなんて自分は情けないんだと感じるほど冷静だ。
 ようやっと小さく首を横に振ると、鎧の男は大男に向き直り薫に向けて一言だけ放つ。
「戦わないのなら離れろ。私の剣に巻き込まれるとただではすまない」
 この男が何を言っているのかさっぱり意味が分からないが、本能的に危険だと察した薫は小さい歩幅ながら二人から距離を取る。
『ペアリング完了。対戦可能なバトルデバイスをサーチ。パーミッション。ハーフデッキ、フリーマッチ』
 大男も戦わざるをいけない状況を飲み込み、立ち上がる。その顔には冷や汗が流れているが、腕でさっと拭うとカードを手に取る。
「この男、正庫倫太郎(まさこ りんたろう)。受けた勝負からは逃げないんだな!」
「ちょ、ちょっと待って! 貴方は一体?」
 我に返った薫は一時的に恐怖心を振り払い、鎧の男に向けて問いかける。
「光無き世界に、新たな秩序を切り開く闇の剣」
 どうしよう、想定外の回答だ。困り果てた薫に、正庫から助け舟が飛んでくる。
「そいつはたぶん最近話に上がってるAfハンターで、ネットでダークナイトと呼ばれてるんだな! 強いって聞くけどアニキに見込まれてAfを託された実力を見せてやるんだな。先攻はもらうんだな!」
 大男、もとい正庫のバトルポケモンはチョボマキ60/60、ベンチにはカブルモ60/60。対する鎧の男、もといダークナイトはヤミラミ70/70のみ。
「早速手札からグッズ『Afエボリューションエナジー』を発動なんだな。場に出たばかりまたは進化したばかりで進化出来ないという条件を無視して、強制的にポケモンを進化させる。チョボマキをアギルダー(90/90)に進化させるんだな。そして進化させたアギルダーに草エネルギーをつけるんだな。続いてサポート『ティエルノ』を使い、カードを三枚ドロー。そしてエーススペック『ダウジングマシン』を発動! 手札を二枚トラッシュして、トラッシュのカード一枚を手札に加えるんだな。『Afエボリューションエナジー』を手札に加えるんだな」
 正庫は間髪入れず二枚目のエボリューションエナジーを使い、ベンチのカブルモもシュバルゴ90/90に進化させる。先攻一ターン目から一進化ポケモンが二体。EXポケモン程ではないがプレッシャーはあるはずだ。先ほどまで冷や汗をかき、怯えていた正庫にみるみる生気が蘇る。
「それだけか」
 刺すような威圧感に正庫が怯む。
「な、何を言うんだな! このアギルダーとシュバルゴのコンボを見くびっては困るんだな」
「そのコンボとやらを見せられるならな。私のターン。『Afハイレートドロー』を発動。手札のEXポケモンを捨てることでカードを三枚引き、その後手札を一枚捨てる。私はダークライEXをトラッシュして三枚ドロー。そして悪エネルギーをトラッシュ。さらに『Af覆水蘇生』を発動。トラッシュにいるEXポケモンをベンチに出し、山札の基本エネルギーをつける。私はトラッシュのダークライEXと山札の悪エネルギーを選択。深淵から生まれし欲望が、悪夢を象り顕現する。現れよ、ダークライEX!」
 ダークナイトのベンチに黒い旋風が舞い上がり、その中から旋風を振り払うようにダークライEX180/180が現れる。数メートル離れた所で見守る薫の元にも、強烈な風圧が襲い掛かる。
 夕闇を背に佇む姿は禍々しくも、どこか美しさを感じるほどだ。それを手足のように操るダークナイトが並び立つと、自分ならば戦意を喪失しているかもしれない。薫はそう思わざるを得なかった。
「手札の悪エネルギーをヤミラミにつけ、グッズ『ダークパッチ』を発動。トラッシュの悪エネルギーを自分のベンチの悪ポケモンにつける。ダークライにその悪エネルギーをつける。そして『Af空間補填─サルベージアンカー』を発動」
「三枚目のAf……」
 ダークナイトの手元に、長い鎖の付いた錨が現れる。ダークナイトは錨を正庫の数歩前に向かって振りかぶって投げる。錨は地面に突き刺さることなく、突如地面に開いた異空間に吸い込まれていく。ダークナイトが鎖を引っ張り上げると、異空間から錨と共に一枚のカード──ダウジングマシンが浮かび上がる。
「サルベージアンカーは相手のトラッシュに存在するグッズの効果を得る。ダウジングマシンの効果によって手札を二枚捨て、ダークパッチを手札に戻す。その戻した『ダークパッチ』を再度発動し、もう一枚ダークライにトラッシュの悪エネルギーをつける」
 今捨てた二枚は共に悪エネルギー。ダークパッチを連続して使うことでそのロスをなくし、あっという間にダークライEXには悪エネルギーが三枚も。
「だ、だけどもいくらエネルギーをつけてもバトル場にいるのはヤミラミなんだな。入れ替えてもダークライEXはワザエネルギーが三つ、攻撃は出来ないんだな」
「ダークライEXの特性『闇の衣』を発動。このカードが存在する限り、悪エネルギーがついたポケモンはにげるエネルギーが無くなる。ヤミラミとダークライを入れ替え、グッズ『エネルギー付け替え』によってヤミラミの悪エネルギーをダークライにつける」
「う、嘘だぁ……」
 直感的に薫はマズいと察した。場に現れただけであの異様な存在感を放ったダークライが攻撃に転じれば、ダークナイトのすぐ後ろにいる自分も巻き込まれかねない。
 そうは分かっていても恐怖なのか、緊張なのか思うように体が動かない。後ろに下がる足取りは重く、抜き足差し足といったところか。
「バトルだ。光無き世界を、闇ごと貫け! ナイトスピア」
 ダークライが右手をかざすと瘴気が集まり槍の形となる。そのままダークライはアギルダーめがけて瘴気の槍を振りかぶる。轟、という風切り音の後、槍がアギルダー0/90を易々と貫く。
「ぬうううっ!」
 攻撃の風圧で正庫の巨体が圧され、十センチほど後方まで押しやられる。
「な、なんなんだなこの衝撃……。本当にバトルデバイスによる衝撃ものなんだな? ……で、でもまだベンチにはシュバルゴが──」
「ナイトスピアは90ダメージだけでなく、追加効果として相手のベンチポケモンにも30ダメージを与える。ナイトスピアセカンド!」
 今度は左手をかざしたダークライの手元に再び瘴気の槍が現れ、ベンチのシュバルゴめがけて放られる。
「シュバルゴのHPも90! 二投目だけでは」
「この瞬間手札からグッズカード、『Af透過連撃─ファントムブレード』を発動。ベンチのヤミラミを気絶させることで、ワザによって相手のベンチポケモンに与えるダメージは、気絶させたポケモンの残りHPだけ増加する」
「そ、そんな。たった一撃、一ターンで」
 ヤミラミのHPは70。これで二投目のナイトスピアの威力は30+70=100! 薫は身の危険を感じ、身を翻そうとするも間に合わない。シュバルゴ0/90の固い装甲をものともせず、無慈悲に瘴気の槍がその身に突き刺さる。
「ぐわああああっ」
「きゃああ──」
 正庫から距離は離していたはずが、それでも攻撃の巻き添えを受け足がもつれる。よろけた薫は何かにぶつかり、そのまま強く抱き締める。衝撃が止み、確かな脈動とほのかな温かさをその身に感じる。
「大丈夫か」
 真上から降り注ぐ声に驚いた薫は慌てて上を見ると、心配そうな翔の顔が映る。驚いた薫は条件反射的に翔から離れ、大丈夫と答える。
「ちょっと下がっててくれ」
 一時は身を案じた翔だが、再度かけられたのは切迫した声。薫はそれに圧倒され、ただ首を縦に振るだけだ。そういえば翔の前に立ちふさがったあの追手は倒したのだろうか。いや、ここにいるという以上それは自明だ。
 翔はバトルテーブルを剣に戻し、正庫からAfをせしめるダークナイトに近付いていく。先ほどまでこの手にあった温もりが、今は無い。心の中では仕方がないと思っていても、本心では簡単には割り切れない。
 本当は危ない事をしてほしくない。でも、翔自身は戦うことを望んでいる。翔の気持ちを尊重したいとはいえ、自分の力では肩を並べることも出来ないのがもどかしい。いつも近くにいてくれるのに、突然遥か彼方へ飛び立ってしまう。今はこうして彼を待つことしか出来なくて、胸が痛む。
「お前一体何者だ! さっきの追手の親玉か! その剣はなんだ? そもそもお前の目的は? なぜAfを集めるんだ」
 矢継ぎ早に質問を浴びてもダークナイトは微動だにしない。それどころか翔の鼻先に大剣の剣先を突きつける。
「勘違いしているようだが、親玉でもなんでもない。Af使いに復讐をするためにこの剣を振るっている」
「復讐だと?」
 陽は沈み、空は闇に包まれた。閉館を告げるアナウンスと共に、翔達が立つ屋上に小さな電灯が点々と輝く。翔の問いかけに黙するダークナイトの甲冑は、灯りが無ければ闇に溶けて消えてしまいそうだ。烈火のような強い意思があることは想像できるが、それを覆い隠すような冷たい鎧だ。
 翔はダークナイトの背後で仰向けに倒れる正庫を見る。服は土に塗れ、その肌の至る所に擦り傷や切り傷のようなものが見られる。頭を強打したのか、うめき声は微かに聞こえるものの起き上がってくる様子はない。
 風見からAf事件で負傷した人物の怪我の程度は何例か聞いてきたが、ここまで惨いのは初めてだ。例えダークナイトの過去に何があろうと、こんなことは許されない。いや、許してはいけない。こいつをこのまま野放しにするわけにはいかない。
「事情は知らない。だがこれがお前の復讐だと言うのなら、俺は許さない!」
 剣先から離れるよう後方にステップ。一定の距離を確保してデッキポケットを構え、臨戦体勢を取る。連戦になるというのに体の疲れが吹き飛び、ダークナイトの仕打ちにこれ以上ない怒りを感じる。
 突如翔の心の奥から声が聞こえる。その声は強く叫び続けるものの、どこか心地よさを伴っている。戦え。こいつを倒せ。叩き潰せ。何があろうと。再起不能にしてやれ。そうだ、怒りに全てを委ねればたとえ誰が相手だろうと跡形残さず焼き尽くせる。
 怒りに歪む翔の瞳が赤く輝き、じっとダークナイトを見据える。しかしダークナイトは大剣を高く掲げ、大剣を紫色の光の粒に変えて消失させる。
「どうした! 俺と戦え!」
「コモンソウル……。今はまだ戦う時ではない。しかしいずれ貴様らの持つAfも回収させてもらう」
「待て! 逃げる気か!」
 踵を返し、歩き出すダークナイトを追いかけようと駆け出した翔は、瞬間的に視界が黒で塗りつぶされて目が眩んだ。
 身に何が起こったかを判断する以前に、回復した視界からダークナイトがいないことに気付く。
「くそっ、どこだ。あいつどこに行きやがった! 俺と、俺と戦えぇ!」
 心配な面持ちな薫を他所に、翔は溢れ出る怒りをただただ夜の闇に向けて放つばかりだった。



──次回予告──
翔「あの時の感覚、一体なんだったんだ。俺は一体何を──」
風見「Afはまだまだ未知の力。しかしそれに対抗する以上手段は必要だ。
   次回、『制御する者』
   俺はAfを破棄もしない。その力を制御する」

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