134話 最後の布石

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 眼前で銀の翼をはためかせるルギア。そのルギアにハーフマッチを仕掛けられた。……まではいいとして、この行為に本当に意味があるのだろうか。
 ワームホールの先に行きたいだけであれば、こうしてルギアとホウオウを用意せずとも足下にある白いパネルだけでワームホールの先に行ける人数を二人は削ることができる。
 先へ進まれるのがよろしくないことだとすれば、それだけで目的は達せられるのに、わざわざここまで手の込んだことをするには何か別の目的がある。という可能性が十分にある。
「貴方たち……、と言っていいのかわからないけど、私たちと貴方たちが戦う理由は無いはずよ。どうしてこんな勝負を挑んできたの」
「それはお前たちには関係のないことだ」
 分かってはいたけれど、そう簡単には答えてくれないか。だとすれば力付くでも聞いてやる!
「ならば私と賭けをなさい。こっちは本当に命が消される、というわけではないにしろ、実質ほとんど命を懸けて戦っているわ。それなのに貴方たちは負けても何のリスクも無し。そんなの不平等とは思わない?」
「……何を望む」
「私が勝てば、貴方たちの本当の目的を教えなさい! そして私たちも先へ進めるようにすること」
「なるほど。……受けよう。もっとも、それが必ずしも叶えられるとは限らないがな」
「そんな御託はいらないわ。真正面から突っ切るのみよ!」
「その言葉が最後まで保てばいいがな……。それでは先攻は俺からだ。行くぞ!」
 私のバトル場にはジーランス80/80。そして向かい側にはピィ30/30だけ。どちらも出だしはよくないと見える。けど、動き出すと早いことは読める。
 私のジーランスはエネルギー一つで使える太古の知恵というワザがある。手札のポケモンを一枚ロストすることでカードを三枚ドロー出来る。対するピィの持ちワザはエネルギー無しで使えるピピピ。手札を全て山札に戻しシャッフルしたのち、山札からカードを六枚加えられる。
 そう。どちらも展開型のポケモン。だからここで重要なのはいかに向こうより先に自分の場を整えるか。ということ。
「俺は手札からピッピ(50/50)をベンチに出し、ピッピに雷エネルギーをつける。そしてピィでピピピを発動し、手札を入れ替える。そしてピピピのもう一つの効果を発動!」
 ルギアのピィはその小さな体を丸め、横になる。そしてピィのHPバーに現れるZが三つ並んだマーク……。
「ピピピでカードを加えた後、ピィを自ら眠り状態にする。これで俺の番は終わりだ」
 ピィに限らずベイビィポケモンはワザを使うと皆自分から眠り状態になる。だけどそれはもう一つの利点への布石。ベイビィポケモンはそれに加え、眠り状態だとワザのダメージを受けないポケボディー、天使の寝顔を持っている。だからこそ、自分から眠りに入り、HPが異常に低いという欠点をかき消している。
「そして俺の番が終わるとともにポケモンチェックに入る。眠りのポケモンがいる場合、コイントスを行う。そしてオモテなら眠りが解け、ウラなら眠りのままとなる。……オモテだ。ピィは眠り状態から回復する」
 これでポケボディーの効果は消える。が、今はピィを強襲する手段がない。今は目をつぶるしか……!
「私の番よ。私はアブソルグレートをベンチに出すわ!」
 ベンチに白い穴が開くと、そこからアブソルグレート80/80が飛び出してキッと前をにらみつける。
「ジーランスに超エネルギーをつけて、手札からサポートカード、Nを発動。その効果で互いに手札を山札に戻しシャッフル。そして自分のサイドの枚数だけカードを引く」
「む……」
 ハーフデッキでの対戦なので、私たちの初期サイド枚数は三枚。私の手札は四枚から三枚へ枚数的に減ることになるものの、不要だった四枚から新たな三枚に変わるだけで価値がある。むしろそれ以上に価値があるのはルギアの妨害だ。
 ルギアの手札は六枚から三枚へ一気に半減させることが出来た。いくら六枚とも不要だとしても、それがここまで枚数が開けばその意味もまた違ってくる。
 スタンダードデッキとハーフデッキの大きな違いは早さだ。スタンダードデッキであれば平均三十分から一時間かかる対戦の時間がその半分以下になる。それはデッキの枚数やサイドの枚数が半分になるだけでなく、サイドの猶予が減ったからこそ急いで戦わねばならないという視点の変化からも生じている。
 だからこそ、こうして手札の枚数を減らして妨害し、相手の思うようにさせないことで、相手が遅れている間に私が抜きんでることも可能になる。
「ここでジーランスの太古の知恵を使うわ。私は手札のチラーミィをロストし、カードを三枚引く」
「今度は俺の番だ。ピッピに炎エネルギーをつけ、ベンチにロトム(60/60)を出す。そしてピィで再びピピピを使わせてもらう。そしてその効果でピィを眠りにする」
 ピィのピピピを二度使わせる手間を作らせれた。これでルギアの先攻一ターン目をほぼロスさせたといっても良いくらいだ。ただ、問題はまだ残っている。このポケモンチェックでピィが眠りから覚めなければ、私がピィを攻撃できる手段がなくなる。すなわち私もまた足止めを食らいかねないということだ。
「フッ。残念だが松野藍。貴様の思うようにはいかないようだ。コイントスの結果はウラ。すなわちピィの眠り状態は継続となる」
「……だったら私はアブソルに手札から特殊悪エネルギーをつける」
 特殊悪エネルギーが悪ポケモンについているならば、相手のバトルポケモンに与えるダメージは+10される。
 相手はルギアだ。あのエンテイやライコウのようにLEGENDポケモンとやらがいつ現れてもおかしくない。そのために相手に与えれるダメージを少しでも高めにしておくのが吉!
「続けてベンチにリオル(50/50)を出し、ジーランスで太古の知恵。手札のチラチーノをロストして、山札からカードを三枚引くわ」
 やはりピィが邪魔で動けない。でもそれもまたルギアも同じ。私の番の後のポケモンチェックでウラを出し、ピィは眠ったまま。
 眠り状態ではワザを使うはもちろん、逃げることすら出来ない。もしもルギアが準備を整えたところでピィを逃がし攻撃することは出来ない。
「俺はピッピをピクシー(80/80)に進化させる。そしてグッズ、ポケモン通信を発動。その効果で手札のピィを戻し、ルギアLEGEND上パーツを手札に加える」
 やはりLEGENDのカード! ただ一つ気になるのは、ポケモン通信でカードを手札に加えようとしたときのあのルギアの目。
 ルギアは空中で戦っているため、どういう仕組みかは知らないけどバトルテーブルを浮かしている。また、翼をはためかせているためカードに触れずに念動力的な何かでカードやバトルテーブルを操作している。これはエンテイなども同じことをしていた。
 ただ、あのときと違うのが先に述べたバトルテーブルが宙に浮いているということだ。そのせいで、操作を行うときルギアはわざわざ首を動かして下を向かずとも、常に前を向いたままあらゆる操作が出来る。そのため普段なら下を向いて見えなくなるはずの表情までまるごと見える。
 だからこそ分かる。ポケモン通信を使った際、明らかにルギアは眉をひそめて目を細めていた。おそらくあるはずのものが無い、いわゆる求めているカードがデッキや手札でなくサイドに混ざってしまっている「サイド落ち」に陥っている。
 そしてそのカードは私の推測があっていればルギアLEGENDの下パーツ!
 上パーツも下パーツも、どちらもルギアLEGENDという名前である以上、上下パーツ併せて二枚までしかデッキには入れられない。つまり上下パーツ一枚ずつでしかデッキに入れられないのだ。そしてその片方がサイドにあれば、ルギアLEGENDは現れない!
「ククク……。喜色満面にはまだ早いぞ松野藍! そう。おそらく気づいているであろう。確かにルギアLEGENDの下パーツはサイド落ちしているようだ。だがこの俺がなんの対策もしてないとでも本気で思っているのか?」
「……」
「まずは手札から研究の記録を発動。山札の上から五枚を確認し、それらを好きな順に山札の上、底に置くことが出来る。続けてベンチにいるロトムのポケパワー、悪ふざけ! サイドを一枚オモテを見ずに選び、山札の一番上のカードと入れ替える」
「なっ……!」
「もちろん俺としてもどれが下パーツかは分からない。だがサイドは三枚。最低でも三回行えば必ずルギアLEGENDは貴様の目の前に姿を現し、貴様の場を焦土に変えるだろう。それがただ早いか遅いかの問題だ。俺はピクシーに水
エネルギーをつけこの番を終わる」
 なるほど、サイド落ちのカードを回収する方法は確かにあった。しかもそれを止める手段がない。いくら私が全力で攻撃し尽くしたとしても、私がサイドをすべて引き終わる前にルギアはすべてのサイドと山札の一番上を入れ替え、ルギアLEGENDが私の前に現れてしまう。
「ここでポケモンチェック。……オモテだ。ピィは眠りから覚める」
「私のターン! 手札からグッズ、ポケモン入れ替え。ジーランスをベンチに戻し、アブソルをバトル場に出すわ。そしてそのアブソルに闘エネルギーをつけ、ベンチにミュウグレート(50/50)を出すわ」
「……HPが僅か50? そんなグレートポケモンで何が出来る」
「貴方の前に今いるのはアブソルよ! 手札のアブソルグレートをロストして、アブソルでピィに攻撃。ブラッディクロー!」
 ブラッディクローは悪、無エネルギーで70ダメージも与える大技。でも、その発動条件として手札のポケモン一匹をロストしないとワザが失敗してしまう。もっと加減したワザがあれば、わざわざ手札コストが無くてもいいんだけど生憎とアブソルグレートはこのワザしか使えない。
 アブソルは疾風のように相手のバトル場まで駆け抜けると、鮮血の如く赤に染まった爪を持つ右前足を振り上げる。そのまま爪は振り下ろされ、ピィ0/30は小さな悲鳴を挙げて切り裂かれる。
「私はサイドを一枚引いて番を終わるわ」
「ならばピクシーをバトル場に出そう。さあ俺のターンと行こう」
 もしもさっきの番に入れ替えたカードがルギアLEGENDであればこの番に現れるだろう。もし出てこないのであれば、次の番にアブソルのブラッディクローでピクシー80/80を倒すことができる。本来の威力は70だけど、アブソルについている特殊悪エネルギーの効果で70+10=80ダメージを与えられ、ルギアLEGENDが出てくるまでに戦力を削ることができる。
「残念だが『当たり』のようだ。俺は手札の上下パーツを組み合わせ、ルギアLEGENDをベンチに出す! ここは折角だ。俺自らベンチに赴こう」
「なっ、何をする気!」
 ルギアは翼を強くはためかせると、浮いたバトルテーブルごとベンチにいるロトムの隣へ割り込んでいく。
「そんなことが……。でも、ベンチにポケモンが現れたときかつアブソルがバトル場にいるとき、アブソルのポケボディーが発動するわ。災いの目! 相手にダメージカウンターを二つ乗せる」
 アブソルの瞳が怪しい色に変わるとともに、その瞳から深い紫色のレーザーが放たれてルギアLEGENDを襲う。はずだった。ルギアLEGENDが怪獣のような唸りを上げると、レーザーは霧散し、まるで何事も無かったかのような雰囲気へ巻き戻る。
「松野藍、悪いがそれは通らない。アブソルの災いの目でダメージを受ける対象は『たねポケモン』だ。たねポケモンがベンチに出されたときのみ。それに対し、この俺は『伝説ポケモン』。そんなちょこざいダメージ、受けるまでもないわ!」
「そんな……!」
「今度はこちらから行かせてもらおう。俺は俺自身のポケパワーを発動。オーシャングロウ! 俺自身を手札からベンチに出したときのみ一度だけ使える。山札を上から五枚めくり、そのうちのエネルギーを全て俺につけ、残りをトラッシュする! 俺のデッキのカードは順に、ピクシー、水エネルギー、雷エネルギー、ポケモン通信、炎エネルギー。俺は三つのエネルギーを自分につけ、残りを全てトラッシュする!」
 ルギアの背後の滝が轟音と共に突然爆発し、ルギアを大量の水が飲み込んでいく。しかし逆にルギアは瑞々しさをまとっていった。
「これですべての準備は整った。俺はピクシーについている水エネルギーをトラッシュし、ベンチに逃がす。その代わり俺がバトル場に出る」
 今なら翔くん達の言っていたことが分かる。雰囲気が今までとまるで異なっている。
 この、単純なルギアLEGEND130/130の大きさだけじゃない。一口で飲み込んでしまいそうなほどの強烈な威圧感。ただ相手を威圧するだけじゃなく、こっちの心まで圧迫し、不安と恐怖で押し潰してくる。
「この俺の一撃は何人たりとも止めることも、防ぐことも出来ない。海のよう相手を飲み込み押し潰す、その力の差に震え、怯え、悶えろ! バトルだぁ! エレメンタルブラストォ!」
 ルギアLEGENDは羽ばたいて少しだけ高度をつけると、顔を上げながら深く息を吸い込んで、赤、青、黄色の三色の光線を口から解き放つ。三つの光線は互いに螺旋のように渦巻き、アブソル0/80を貫く。
「きゃあああああああっ!」
 衝撃が私の体を持ち上げて後方まで吹き飛ばす。こんなに吹き飛ばされたことは初めてだ。打ちつけた背中が痛む。それだけじゃなくて、圧倒的な音の洪水で耳鳴りが止まらない。
 晴れた煙の向こうでルギアは悠然と構えている。これが、LEGENDポケモン……。
「エレメンタルブラストの威力は200! たとえどのようなポケモンが現れようとこの力の一撃を耐えきれるポケモンはどこにもいない。ただ、そのデメリット効果としてワザを使ったあと、俺は自身の炎、水、雷エネルギーをトラッシュする。だがアブソルは簡単に木っ端微塵。サイドを一枚引いて、俺の番はこれで終わりだ」
 風見君とスイクンを見かけたときはビルの陰に隠れていたし、翔君とエンテイの戦いを見ていたときは炎の檻で隔絶されていた。だからLEGENDの力をこの身で体感するのは初めてだ。そして改めて思う。
 あまりにも危険過ぎる!
 思えばこれは前々からだ。PCCが始まる前から、私たちは能力者を下すために翔くんを始め、何人かの有力プレイヤーに能力者と戦うことをお願いしてきた。
 大阪ではダメージを相手の体の内側に与える能力(ちから)や、東京では相手の意識を奪ったり、外傷を与える極めて危険な能力があった。にも関わらず、私はそれを他人に。しかも私よりも年下の少年少女達に任せっきりで私は何もしていない。
 そんなことで許されるはずがない。本来なら私たちが全て私たち自身の手で解決しなければいけないことだった。今回だってそう。やろうとすれば私が出来る場面で、また私は何もしていない。デスクワークにばっかり慣れ、日和ってしまっているだけだった。
 気付くのがあまりに遅すぎた? いや、そんなものとっくに分かっていた。気付いていた上で、それが合理的判断だと勝手に思いこんで逃げていた。今更責任が取れるどうこうの問題で無いのは百も承知している。だからって何もしないのでは気が済まない!
 そのために、ルギアを必ず倒す!
「私はミュウをバトル場に出すわ。そして私のターン。まずはレインボーエネルギーをミュウにつける。レインボーエネルギーは全てのエネルギー一個分として働く代わり、これをつけたポケモンにダメカンを一つ乗せる」
「わざわざそのさやけき命の灯火を短くしてきたか」
 確かにミュウのHPは40/50で、数多くいるグレートポケモンの中では最も低い。その代わりミュウのポケパワーがHPを小さくなっている分強力でもあるということ。
「手札から、グッズカードのエネルギー付け替えよ。その効果で私はベンチのジーランスのエネルギーをミュウにつけるわ。そして、ミュウで貴方に攻撃よ。ブラッディクロー!」
「馬鹿な! ブラッディクローはアブソルグレートのワザだ!」
「ミュウのポケパワー、ロストリンクはロストゾーンにいるポケモンのワザを発動条件さえ満たしていれば自由に使うことが出来るの。そして、現にアブソルグレートはロストゾーンに存在する」
「い、いつの間に……。そうか、あのときか!」
『貴方の前に今いるのはアブソルよ! 手札のアブソルグレートをロストして、アブソルでピィに攻撃。ブラッディクロー!』
 流石に私もアブソルだけでルギアを倒せるはずがないと思っていた。だからこそ、あのタイミングでミュウでもブラッディクローを使えるように布石を用意しておいた。
「さあ、もう一度攻撃の宣言から仕切直すわ。手札のルカリオをロストしてミュウで攻撃。ブラッディクロー!」
 ミュウの愛らしいその手が深紅に染まり、爪のように鋭利な形状へ変化する。そしてその爪でルギアLEGEND60/130の左翼へ抉り込む。
「ぐおおおおおおっ……!」
 ルギアはバランスを崩して墜落しそうになるも、なんとか持ちこたえて再び舞い上がってくる。ただ、疲労しているのは目にも見えている。
「貴方はさっきのエレメンタルブラストで力を使いすぎた……。もう一度攻撃するためにはエネルギーを三枚つけなければならない。それには三ターンもかかるわ。それに対して私は次の番もう一度攻撃すれば貴方を倒せる! それで私の勝ちよ!」
「……フフッ、何か思い違いをしているようだな」
「思い違い……。ですって?」
 苦しそうな表情を見せながらも、ルギアの声音には明確に自信に満ちている。苦し紛れで言っているようには聞こえない。
「何故俺を倒せば勝ちなんだ?」
「何故って……、それは貴方がLEGENDならば、サイドを二枚引けるはず――」
「そいつが、違うんだな」
「どういう意味?」
「その通りだ。倒してもサイドを二枚引けないLEGENDもいる。最も、この俺とホウオウLEGENDの二種類だけだがな。ただ、それ以上にもっと根本的で大きな思い違いをしている!」
「まだあるというの?」
「貴様にこの俺を倒すチャンスはないということだ。俺は手札の炎エネルギーを俺自身につける。そして俺の炎エネルギーをトラッシュし、ピクシーと入れ替える」
 確かに、バトル場にいなければダメージを与えられず、倒すこともできない。だけど、それだけだろうか。まだ何かある。そんな気配がする。
「ここで俺は手札からサポート、チェレンを使い、カードを三枚ドローする。そしてピクシーでワザを発動。妖精の奇跡! 自分のポケモンとそのポケモンについているカードを全て手札に戻す。俺が戻すのはもちろん俺自身!」
「くっ……!」
 ルギアは翼をはためかせ、ベンチから一線引いたところで再び泰然と構える。確かにバトル場にもベンチにも存在しない相手を倒すことなど不可能!
「さあ、どうした。今度は貴様の番だ」
「……私は、ベンチのリオルに闘エネルギーをつけ、サポートカード、オーキド博士の新理論を発動。その効果で手札を全て戻しシャッフル。そしてカードを六枚引く。続いてベンチのリオルをルカリオ(90/90)に進化させ、グッズカードのプラスパワーを使うわ。これでこの番相手バトルポケモンに与えるダメージをプラス10する。さあ、手札のアンノーンをロストしてミュウでピクシーに攻撃するわ。ブラッディクロー!」
 ブラッディクローの基本威力70に加え、プラスパワーでダメージが加算され、与えるダメージは70+10=80。これでピクシー0/80のHPは尽きる。
「サイドを一枚引いて終わりよ」
「……ロトムをバトル場に出す。俺は再びサポートカード、チェレンを使いカードを三枚引く。そしてグッズ、エネルギーリターナーを発動。トラッシュに眠る基本エネルギー四枚を山札に戻す。俺が戻すのは水が二枚、炎、雷エネルギーが一枚ずつだ」
 エネルギーを山札に戻す、ということはやはり再びルギアLEGENDを場に出してオーシャングロウを狙っている……。そうとしか考えられない。
「俺は再び手札の上下パーツを組み合わせ、俺自身。ルギアLEGENDをバトル場に出す! そしてこの瞬間俺のポケパワー、オーシャングロウが発動する。山札の上から五枚をめくり、その中のエネルギーを全て俺につけ、残りをトラッシュする! 水エネルギー、探求者、水エネルギー、雷エネルギー、炎エネルギー。よってエネルギー四枚を俺につけ、探求者をトラッシュする!」
 また水、炎、雷エネルギーの三種類が揃ってしまった! このままだとまた飛んでくる。エレメンタルブラストが!
「手札の炎エネルギーをロトムにつける。そしてそのエネルギーをトラッシュしてロトムと俺を入れ替え、続けてグッズカード、ポケモンキャッチャーを使う。その効果でルカリオをバトル場に引きずり出す」
「ル、ルカリオを!?」
「さあ括目するがいい! エレメンタルブラストォ!」
 再び強力な光線攻撃がルカリオ0/90を貫く。再び来ることが分かっているなら、あらかじめ姿勢を低くしておけば吹き飛ばされずに済んだ。
 ただ、それ以上にダメージが。あの圧倒的な力は想像以上に心にダメージを与える。
「サイドを一枚引いてこれで俺の番は終わりだ」
「私は……、ミュウをバトル場に出すわ」
「そう。貴様はそうするしかない。ミュウしか戦えるポケモンがいないからだ。そしてこれからが貴様の最後の番になる。その次が来る前勝負が決するだろう。貴様のミュウのブラッディクローでは俺のHPを削りきれない。俺は次の番、俺自身をベンチに戻し、ロトムをバトル場へ送り出して雷エネルギーをつける。そしてロトムのワザ、プラズマアローで攻撃すれば、ミュウ(40/50)の残りHPは確実に尽きる。プラズマアローの効果は相手についているエネルギーの枚数かける20ダメージを与えるが、ミュウについているエネルギーは二枚。よって40ダメージを受けてミュウは気絶し、俺は最後のサイドを勝利する」
 ……確かに似ている。長岡君が、ライコウと戦っていたときに一之瀬君と戦ったときに似ていると言っていたが、その通りだ。対戦の中盤以降で、エースカードを使って相手の心をへし折りにくる感じが特にそうだ。
 私と彼は新製品のゲームバランス調整などで何度も対戦経験はある。だからこそ分かる、これはまさしく彼のプレイングだ。ただ、調子は万全ではないように伺える。どういう事情かは分からないけど、本気の一之瀬君ならこのルギアの二倍、……いや、三倍はゲームの展開が早い。
 だからこそ浮いて見えてくる。普段は小さな弱点が、ここ一番で致命傷になっているということが。
「確かに、次の番で勝負は終わりね……」
「ふっ、全てを悟ったか」
「ええ。私の勝ちという結末でね!」
「なっ、なんだと!」
 初めて聞くルギアの焦燥する声が、私の勝利を確信させる。もうルギアにこれ以上策はない。
 一之瀬君は論理的技巧派プレイヤー。彼は合理性をもって戦っているため、危険度とHPの低いと判断した相手は倒すのを後回しにする。そしてそれ以上にサイドが引ける状態では大胆に攻め込んでしまう。
 ルギアLEGENDのエレメンタルブラストは、確かにどんなポケモンでもっても耐えることは不可能だ。ただ、デメリットを持つそれをミュウグレート40/50を倒すために費やすのは非合理的だ。他のポケモンでも十二分に倒す手段はある。そう捉えたのが展開の遅さも相まって自らの首を絞めたことになる!
 右手で一度を拳を作り、そして人差し指でルギアを力いっぱい指す。
「思い違いをしていたのは貴方のようね。ロストリンクで使えるワザは一つじゃないわ。ロストしているポケモン全てのワザが使えるのよ!」
「そうだとしてこの俺のHPを全て削り切らねばその時点で負けだ」
「ならば目にモノを見せてやるんだから! ロストリンクの効果でロストゾーンにいるルカリオのワザを使ってミュウで攻撃。波動弾!」
 ミュウは宙をふわりと回転してから、青いエネルギーを両手の間に溜め込み、打ち放つ。
「ふん、この程度で俺を倒すだと?」
「波動弾の基本威力は30。ただ、波動弾は自分のロストしているポケモンの数かける20だけ威力が加算されるわ。私のロストゾーンにはチラーミィ、チラチーノ、アブソルグレート、ルカリオ、アンノーンの計五匹。よって与えるダメージは130!」
「な、何だと!? まさか最初からこのワザの威力を上げるためにあんなにポケモンをロストし続けていたのか!」
「そうよ。流石に何も考えずに、わざわざリスクの高い行為をするはずがないわ。これが私が最初から築き上げた最後の布石よ!」
「くそっ、ぐおああああああっ!」
 爆発音と共にルギアLEGEND0/130が舞い上がる煙の中からただひたすら落ちていく。そして、遙か視線の下に見える滝壺に落ち、私の近くまで水飛沫が跳ね上がる。
「……サイドを一枚引いてゲームセットよ」
 全てのポケモンのビジョンが消えて、バトルテーブルをバトルベルトへ戻していく。それとほぼ同時に、足下の白いパネルが溶けてしまったかのように消えていく。
「ふぅ……」
 達成感と疲労感が混ざって、糸が切れた人形のようについついその場にヘたり込む。限界だ。精神を磨耗し過ぎて、このまま一眠りでもしてしまいたい。
 ただ、不服なこととしてはルギアLEGENDから有瀬の目的が聞けなかったということだった。話を聞く前に攻撃し、墜落させたこちらにも非はあることはある。が、向こうもこうなることで話を受けたのではないだろうかと勘ぐりたくなる。
 そのときだった。背後から悲鳴と共に熱風が押し寄せてくる。確か向こうの方では薫ちゃんとホウオウが戦っているはず……。
 そうだ、決めたじゃないか。もう他の皆に決して押し付けない、と。今からでもまだ間に合う。少しでも薫ちゃんの助力にならないと!



松野「今回のキーカードはルギアLEGENDよ。
   エレメンタルブラストはどんなポケモンも一撃で倒す危険な一撃。
   その一撃を放つために、オーシャングロウで力を蓄えるのよ!」

ルギアLEGEND HP130 伝説 水 (L1)
ポケパワー オーシャングロウ
 自分の番に、このカードを場に出したとき、1回使える。自分の山札を上から五枚見て、その中のエネルギーをすべて、このポケモンにつける。残りのカードはトラッシュ。
炎水雷 エレメンタルブラスト  200
 このポケモンについている炎エネルギーと水エネルギーと雷エネルギーを、それぞれ1個ずつトラッシュ。
【特別なルール】
・手札にある2枚のルギアLEGENDを組み合わせて、ベンチに出す。
※「伝説ポケモンのカード」は、「上」と「下」を組み合わせて使います。
弱点 雷×2 抵抗力 闘-20 にげる 1

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