第92話 ガルーラの特訓

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この作品には残酷表現があります。苦手な方は注意してください

「ルーちゃん、冷凍パンチ!」

 最後のジムバッジであるライジングバッジを手に入れようとマイは捕獲したばかりのガルーラを翌日から育成に力をいれていた。
 ドラゴン使いであるイブキはハクリューを繰り出してくることは予想が出来たが他のポケモンが何を出してくるかは分からないままでいる。
 ガルーラにルーちゃんと名付けたマイはパンチ系統を覚えさせようと、ガルーラが拳を突き出すのに合わせて自分も一緒になって拳を前に突き出していた。

「うんっ完璧だね! 氷タイプに弱いってゴールドが教えてくれたから氷タイプばっか練習してるけど……他のパンチもやっていきたいよね」
「そうだなー、そうだ! マイ、ピーくん出しな。同時に雷パンチを覚えさせようぜ」
「できるかなぁ。うーん、いやっできるね! ピーくん出ておいで!」

 ガルーラが疲れてきたのか額の汗を大きな手で払っていたのでゴールドはタオルをガルーラに渡してやる。
 ピカチュウが久しぶりに戦闘が出来ると嬉しいのか尻尾を振ってマイを見つめている。

「えっとピーくんとルーちゃんには雷パンチを覚えてもらいます! これが技マシンだよ、はい。どーぞ」
「技マシンって便利だよなぁ。自力で覚えなくても済むからなー。まあ負担は大きいかもしれねえけど」
「負担……?」

 雷パンチと書かれた小瓶から錠剤を二つ取り出しそれぞれに与えた。苦そうに飲み込むガルーラと違いタイプが一致しているピカチュウは美味しそうに飲んでいた。元からピカチュウは雷パンチを覚えていたが苦手な技だったので完璧に覚えさせようとあえて飲ませた、と言うかガルーラを見てピカチュウが欲しがってきた。ゴールドが食べていると自分も欲しくなる、マイに似ている。
 ゴールドが言う負担が大きいとはこういう事なのかもしれない。

「そっか、ごめんねルーちゃん……あとは炎のパンチだけでもって思ってたけどやめておくね。じゃ、雷パンチの練習! いっくよ~」

 マイとゴールドがいる現在地は周りに人がいない大きな広場だ。ピカチュウとガルーラに拳に電気を集中させてお互いにぶつけ合う練習。
 小さな拳と大きな拳でピカチュウが心配にもなるが信頼しているマイにとってはあまり気にならないようだ。
 素早さのあるピカチュウが拳の電撃をガルーラ目掛けて突っ込む。

「ガルッ!? ガウガー!」
「ピッカ!」
「わー激しいー」
「他人行儀だなあオイ」

 衝撃をモロに受けて巨体が後ろに下がったが反動を付けてガルーラも己の拳をピカチュウに殴りこむと小さな身体は宙に浮かんで地面に落ち掛けたがクルリと身軽に着地の態勢になる。

「えへへ、なんだか楽しくて。おかしいかなぁ」
「おかしくはねえよ。お前が楽しけりゃ俺も楽しいさ」

 朗らかに会話を楽しんでいる間にも二匹は拳のぶつけ合いは止まらないが険悪の仲になりそうな雰囲気ではなくあくまでも仲間としての礼儀をぶつけているように思えた。
 イブキはドラゴンタイプを使用してくるので、主力のカイリューとピカチュウはパーティに入れるとマイは考えているが他にどの子をパーティに入れようとは考えがまとまっていなかったのだが、ガルーラのファイトを見ていると作戦が思いついたのかマイはあーっと声を大きくする。

「リューくんおいで!」
「ばう!」
「リューくん、ピーくん! ルーちゃんに向けて雷パンチ!」

 相当鬼畜な特訓をし始めたのでゴールドは内心、俺のせいでこうなったのか? と心配をしていた。
 二つの方向からの雷パンチを身体に受け止めることはできても反撃は難しい、ならば拳に拳をぶつけられてダブル雷パンチを食らわしてやれ! とマイは思いついたのだ。

「ピッカァ!?」
「バウ……!」

 威力は少なかったもののピカチュウは宙へ舞い、カイリューは一歩退くことになった。何度か繰り返していけばダブル雷パンチを覚えることも可能だ。さらに知能の高いガルーラならば、ダブル冷凍パンチも覚えてくれるだろう。

◆◆◆

 ガルーラが疲れ果てたのでポケモンセンターへ戻ることに。かなりの時間を掛けて特訓をしたので夕日も沈んでしまって星が瞬きをはじめている。

「ふはー疲れた~」
「お疲れ。マイ、身体壊すなよ。お前頑張りすぎっとすぐに身体に出るんだから」
「へへそうだね。今日は早く寝るよー」

 部屋につくなりベッドに俯け倒れ込むとゴールドが髪をくしゃくしゃに撫でてきた。顔だけ上げると眉をハの字にしたゴールドが笑っていた。

「うー……」
「風呂入れよ。そのまま寝そうになってるから」

 身体を起こしてやると脱衣所まで背負って運んでやる。タオルやパジャマを置いてからゴールドは部屋から出たのか扉がしまる音がした。
 不思議に思ったが眠気には負けてしまいさっさと風呂に入ろうとマイは準備をする。

「っはー……」

 一方ゴールドは部屋から出て、さらにポケモンセンターの外にも足を運んだ。冷たい風がゴールドを襲う。もう十一月か、と吐く息が白くて柄にもなくボーと風景を眺めている。
 もう夜だと言うのに外は賑やかで人があっちこっちと動き回っていた。

(俺も強くならないといけないのか……それはそれで……面倒かもしれねえ)

 鬼のような特訓を見ていてゴールドも焦っていたようだ。もし仮にマイとバトルをすることになったら勝てる気がしないのだ。実際戦えば互角か、知識のあるゴールドが勝利はするのだが自信消失の今は余裕がない。

「うおっ……! さみぃ! 戻るかな!」

 北風に負けて足早くゴールドは部屋に戻るのだった。

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