第90話 温かい歓迎(物理)
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この作品には残酷表現があります。苦手な方は注意してください
「ここがスイクンの言っていた火山か。思ってたより普通の山だな」
「まあいつでも噴火してたらジョウト地方は終わってるわよ。さ、行きましょう。山頂へ!」
スイクンに案内されて辿り着いた所は地図には載っていない、海にぽっかり浮かぶ島だった。
海岸にはヤシの木やハイビスカスが植えられていて整備されていた。人が住んでるいるようにも思える。
「それにしても……暑い、わね」
「ああ、もうすぐ十一月になるのにな。拒まれてるのか? スイクン、教えてくれエンテイっていうのはどんな性格なんだ?」
アヤノはポケットからボールを取り出しスイクンを外へ出してやると、スイクンはコウに向かって話を始めた。アヤノにはイマイチポケモンの言う言葉が理解出来ずにいて、もやついているのか胸を押さえた。
「温厚な性格? うーん、まあこの暑さが温厚って言えばそうかもな……」
「そう言ってるの? コウは凄いわね、私にはさっぱり理解できないわ」
「凄くなんてないさ、なんとなく分かるくらいだし。マイよりはアヤは優れている。マイで例えて悪いけど」
視線をスイクンからアヤノに向けコウは照れるように笑って言う。元気付けているのだ。
比べる対象がマイなので元気になるかはさておいて、だが。
「ありがとう! どうやら、エンテイからお出迎えみたいよ?」
「なっ!?」
海岸で話し込んでいた二人の元に一つの影が差し掛かった。スイクンではない、四本足で大地を踏むポケモン。
スイクンの気配を察知してここまで降りて来たらしいエンテイはスイクンと顔を合わせると今度はコウの元へゆるりと近寄って来る。
「……!」
思ってもいない行動にでるポケモンにコウは身を守るように固まる。それはそうだ、見た目はかなり強面だ。もしかしたら噛みつかれる可能性だってある。
顔をコウに近づけるとアヤノは戦闘の構えとしてギャラドスの入ったボールを手に取り、いつでも出せるようにする。しかし。
「あら?」
「へあ?」
しっかりと握ったはずのボールはアヤノの手から力なく落ちて行き出てきたギャラドスも一瞬にして固まる。
なぜなら、エンテイがコウの頬をペロと舐めたからだ。
顔に何か付いていたわけでもなく舐められた本人はパニックで目が回っているが、スイクンは呆れたような顔でエンテイを見つめている。触覚のような尻尾でアヤノの肩を叩くと今度はアヤノがハッとしてモンスターボールを投げる。
「も、もんすたぁぼぉる~」
「は!? 何考えてんだよ!? まだ何もしてないのに捕獲出来るわけないだろ!」
緩く投げられたモンスターボールにエンテイはそのまま入り……出てくることなくボールに収まった。
「捕獲完了?」
「お疲れさまですアヤさん」
本当にこれで捕獲と言えるのか分からずにアヤノは首を傾げながらコウに聞くも、問われたコウもよく分かっておらず社交辞令を述べる。
山頂に行く手間も省けたのでスイクンとエンテイの会話に耳を傾けるコウは頷く。
「なんて会話しているの?」
「あーいや……人間に捕まって研究されそうになってるけど面白そうだからお前もどうだ、とか話してる」
「…………まあ、結果オーライね」
研究を前向きに捉えていることが分かり、更にエンテイも研究に付き合うと言ってくれたのでアヤノの株も上昇するだろう。
るんるん気分でアヤノは鼻歌を歌ってギャラドスの背中へ乗り込む。
「アヤ、もう一匹自分と似たような奴がいるってエンテイが言ってる」
「ええ!? まだいるの? その子はどこに?」
背中に跨ったアヤノは降りるのが面倒なのか乗ったまま声を大きくして聞きかえす。
「詳しい場所は分からないらしいが山奥に住んでいるらしい。な、なに凶暴な性格なのか……嫌だなぁ」
「山奥? うーん思い当たる箇所がありすぎるわね。とりあえずスイクンは私が、エンテイは貴方がトレーナーとして所持していて二手に別れて探しましょう!」
エンテイはどうしてか随分コウに懐いているためボールから出していてもぴったりついて離れない。不思議なものだ。
スイクンとエンテイがいれば凶暴な性格のポケモンも少しは大人しくなるだろうと考えたアヤノはモンスターボールをコウに投げてキャッチさせる。
「その子の名前は?」
「ライコウっていうそうだ。電気タイプか。電気タイプ……マイにも連絡しておかないか? あいつ今どこにいるか知らないが山奥とか行きそうじゃないか?」
「まあ連絡は賛成だけど、ゴールドさんがいるのよ? 山奥なんて危険だし行かないと思うけど……私が連絡しても出ないだろうからコウ、あなたから連絡してくれる?」
「分かった。じゃあ二週間後の午前十時にワカバタウンの研究所前で集合だ」
無駄のない会話を終えると二人は手を振って手掛かりのありそうな山奥へとそれぞれ飛び立った。
(あいつ電話出るタイプかな……とりあえず掛けてみるか)
ポケギアを操作して電話帳を開き「マイ」を選択し電話を掛ける。が。出る気配はない。そんな時、とある人物からの電話が。
「ソラさん!? どうしたんですか?」
『ああ、よかった! 久しぶりだな元気にしてたか~? なんて呑気な事言ってられないんだけどな、ちょっと助けてほしいんだ』
繋がりの洞窟へ行こうと飛び立っていたコウの元にソラから電話が来た。電波が弱い場所にいるのか若干聞きづらい。
しかし、助けてほしいという言葉ははっきりと聞こえたためコウは早口になって問う。
「どうしたんですか!? 今どこに!? 俺は今繋がりの洞窟に行こうとヒワダタウンにいます」
『いやースリバチ山の山頂にいるんだけどさ、珍しいポケモンを捕獲してね。図鑑で調べてほしくて。そっちまで行くよ、待っててくれ』
「いや、今向かっていますので!」
相変わらずのんびりとして掴み所のないソラを苦手とするが嫌いではないためコウはスリバチ山へ急ぐのだった。