130話 強敵(とも)のために

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 スイクンのランターンがポケパワー、潜水の効果で雷タイプから水タイプへと変化し、高津のランドロスの弱点を突く一撃をかましてきた。
 あんまりなそれに高津はまるで夢でも見ているんじゃないか、という面もちで口をぱくぱくさせている。
 全く持ってその通りだ。なにもかもが馬鹿げている。でも、これは現実だし、まだ終わってもいない。
 まだ、始まってすらいない。
 本番はこの後だ。この雷エネルギーが一つ、ダブル無色エネルギーが一つついたランターングレート110/110はまだ前座だし、ベンチにいるクチート60/60やチョンチー60/60でもない。その隣にいるスタジアム、セキエイ高原の効果でHPが上昇したエンテイ&ライコウLEGEND170/170だ。こいつがスイクンの切り札なのは、これまでのことを鑑みて間違いない。
 問題はそのワザと効果だ。今までの二組のLEGENDポケモンはどちらもポケパワーやポケボディーを有していない代わりに、ワザが二種類あった。
 傾向的にはスイクンが絡んでくるワザにはHP回復やエネルギーをセルフバウンス(自身の効果で自分のカードを手札に戻す)があった。これは水タイプのポケモンにはよく見られるモノだし、ライコウやエンテイもそれぞれ自身のタイプがもつ特徴を色濃く継いでいる。
 となるとどちらもエネルギーをトラッシュさせる大技か、もしくは一方がそれをアシストする役割を持つか。一つ確かなのはとんでもないダメージが飛んでくる予感だ。
 それをどうにかして高津のバトル場にいるゴーリキー90/90、ベンチにいるオドシシ70/70、カイリキーグレート150/150で凌ぎきれるか? 幸い、まだ高津のサイドは六枚でスイクンのサイドは五枚。
 すぐに終わるなんてことはないはずだが……。
「まさかランドロスが倒されるだなんて……! とはいえまだ勝負は始まったばかりだ。それにランターン自身の弱点は闘タイプだし、ゴーリキーやカイリキーは弱点が超タイプ。もうこれでそのランターンを恐れることはない!」
 しかしスイクンは泰然と佇むだけで、穏やかな目つきでこちらの様子を伺っている。
「俺のターン。手札の闘エネルギーをゴーリキーにつける。そして手札からポケモンの道具、ゴツゴツメットをベンチにいるカイリキーにつける。これでゴツゴツメットをつけたカイリキーにダメージを与えたポケモンに、ダメカンを二つ乗せる」
 カイリキーの頭上に忽然と現れた、突起の多いヘルメットがそのまま降下してカイリキーの頭上をすっぽりと覆い隠す。これはさすがに、なかなかに不格好だ。
「さらにサポート、チェレンを発動。その効果で山札からカードを三枚引く。さあゴーリキーで攻撃、ナックルダウン!」
 地面を左足で強く後ろに蹴り飛ばしたゴーリキーが、持ち上げた右手でランターン50/110を抉るようにナックルダウンを決める。
 ナックルダウンの本来の威力は30。それに加え、ランターンの弱点を突けたことで与えたダメージは30×2=60。次の番にもう一度同じワザを食らわせれば、ランターンは倒すことができる。
「今度は私の番です。私は、ベンチのチョンチーに雷エネルギーをつけ、ナゾノクサ(40/40)をベンチに出します。そしてそのチョンチーをランターングレート(110/110)に進化!」
 ランターンの方に先にエネルギーをつけてる、ってことはエンテイ&ライコウLEGENDはまだ出さないつもりか。
 そういう戦略なのか、あるいは単にこちらをなめているのか……。
「バトル場にいるランターンで攻撃。パワフルスパーク! この番に私の場のエネルギーは一つ増えたので、威力は80です」
 再びランターンの頭部から強力な光を浴びせられ、ゴーリキー10/90はふらふらと数歩後退して膝を付く。
 次の番にランターンを倒せたとしても、その次の番ヤツのベンチにいる二匹目のランターンがゴーリキーを倒す、って算段か。そうカウンターを受ければ、どちらもサイドを一枚ずつ引くことになるから差を縮められない。
 ゴーリキーを逃がすにしてもエネルギーが一つ足りないし、もしエネルギーをつけて逃げたとしても今度はどのポケモンがエネルギーがついていないことになる。ポケモン入れ替えを持っていたとしても、今の高津のベンチのポケモンではダメージを与えるのにエネルギーを二つ以上必要とする。ここはやむを得ないか。
「そこまで好きにはさせない! 俺はベンチにいるカイリキーグレートのポケパワー、ファイティングタッチを発動。この効果はカイリキーがベンチにいるとき自分の番に一度使える。バトル場のポケモンについている闘エネルギーをカイリキーに付け替え、付け替えた場合ベンチとバトル場のポケモンを入れ替える!」
 膝を付いたままのゴーリキー10/90に、駆け寄ったカイリキー150/150が手を向ける。ゴーリキーはそのカイリキーの手を強く叩いて、闘エネルギーを一枚渡すと、そのままベンチに戻っていった。
 なるほど、こうすれば攻撃も出来てベンチにゴーリキーを戻すことも出来る。うまい。
「カイリキーにダブル無色エネルギーをつけ、サポートカードの探求者を使う。この効果で互いのベンチポケモンを一匹手札に戻す。俺はゴーリキーをベンチに戻す!」
「……私はクチートを戻します」
 ゴーリキーが手札に戻ったことで、受けていたダメージは全て無かったことになる。うまく出来たコンビネーションだ。
「そしてもう一度俺はワンリキー(60/60)をベンチに出し直してランターンに攻撃する。クラッシュパンチ!」
 二本の右腕を振りかぶって、ランターンに強烈なストレートのパンチを食らわせる。空中へ体が浮かび上がったランターンはそのままHPバーを0/110にし、そのままフェードアウトしていく。
「サイドを一枚引いて俺の番は終わりだ。これでどうだ!」
 完璧だ。高津の手札には不思議なアメとカイリキーグレートがある。もし、次の番にバトル場のカイリキーが大きなダメージを受けても再びファイティングタッチでダメージのないカイリキーと入れ替えれば、リスクはどんどんと削れて楽に試合が運べる。
 今回は敵じゃなくて良かったぜ。素直にあまり相手にしたくないや。
「私はベンチのランターンをバトル場に出します。……どうだ、ですか。そう言い張るのも少し早すぎますよ」
「どういうことだ」
 高津の落としたトーンにスイクンは応じる気もなく、新たにカードを引く。エンテイに比べればいくらか口数は少ない。そういう「設定」なのか、或いは……。
「まずは手札からピーピーエイドを発動。自分の山札の一番上をめくり、それが基本エネルギーならば自分のポケモンにつけます。……雷エネルギー。私は雷エネルギーをベンチのライコウ&スイクンLEGENDにつけます。続けて不思議なアメを使います。その効果でナゾノクサをラフレシアに進化させ、手札からベルを発動。手札が六枚になるように、カードを五枚引きます」
 ラフレシア120/120へ進化を遂げるや否や、ラフレシアは頭の花びらの中心から薄い黄色の粉を場全体に振りまく。わずかにだが目に見える量だ。花粉症ならとんでもないことになっている。
 いや、そんなとぼけている場合じゃない。高津の場にも花粉が飛んでいるということはほぼ間違いなくなんらかのポケボディーのエフェクトだろう。どんな効果を持っているんだ。
「ランターンにダブル無色エネルギーをつけて攻撃。パワフルスパーク! 場に存在するエネルギーは四つなので、40+40の80ダメージです!」
 光によるランターンの攻撃を受けたカイリキー70/150は、腰を低く据えてなんとかワザに耐えきる。そして逆にランターン90/110自身がゴツゴツメットによって20ダメージを受けてしまう。
 潜水で弱点を攻撃されなければ、ランターンも一気に地味になる。カイリキーのクラッシュパンチは元の威力が60で、弱点を突く攻撃なのでランターンに与えるダメージはその倍の120。次の番もなんなくランターンは倒せる!
「俺の番だ。まずは手札から不思議なアメを発動!」
 高津はしっかりと不思議なアメのカードをバトルテーブルの所定の位置にプレイをした。しかし、場になんらかの変化が起こる様子がない。
 怪しいと思った高津は、何度もプレイをしなおすが不思議なアメが発動する毛色は全くない。カードを念のために表裏逆にプレイしても、不思議なアメが発動しない。
 さっきのスイクンの番にはしっかりラフレシアへ進化させるなどで発動していたはずなのに……。
 待てよ、ラフレシア? そうだ。ラフレシアが場に出てからあきらかにおかしいなと思うことがあったじゃないか。
「高津、これはラフレシアの効果だ! この花粉がそうだったんだ!」
「鋭い洞察力ですね。ええ、そうです。ラフレシアのポケボディーはアレルギーフラワー。ラフレシアがいる限り、互いのプレイヤーはグッズカードを使うことが出来ません」
「くっ……!」
 互いに使えない、ということはスイクン自体もリスキーな効果だ。それでも使ってくるということは確信しているのだろう。自分はグッズなどに頼らずとも勝てる、と。
 それに対して半分以上がグッズの高津の手札はほとんど死んだも同然だ。こうなれば出来ることはもはや限られてくる。
「ベンチのワンリキーをゴーリキー(90/90)に進化させ、ゴーリキーに闘エネルギーをつける。そしてカイリキーでランターンに攻撃。クラッシュパンチ!」
 一対の拳がランターン0/110を宙に吹き飛ばし、一撃で気絶に追い込む。そして高津がサイドを引いて残り四枚。一時的にスイクンよりもリードだ。
 その代わり、新たにスイクンのバトル場に出てくるのはエンテイ&ライコウLEGEND160/170。一体どんな能力を持っているんだ。
「私の番です。エンテイ&ライコウLEGENDに炎エネルギーをつけて攻撃します。必殺、爆豪の渦!」
 エンテイの口から放たれる逆巻く炎の渦がカイリキーを飲み込む。必死に体を動かして炎の中でもがくカイリキーだが、渦がどんどんと狭くなって途端に大気を揺らして盛大に爆発を巻き起こす。
 地震でも起きたかのような揺れに、後ろで見ていた俺たちもまともに立っていられない。黒煙が舞い上がるその元で、ようやく炭と化したカイリキー0/150が直立不動のまま固まっている姿だけ見え、やがてフェードアウトしていく。
 有瀬が言っていた通り、このエンテイとライコウは「本物」なのだろう。ワザの威力だけじゃない。こんな有様を見せつけられれば、心まで折れちまう……!
「爆豪の渦の威力は90。そしてワザの効果により自身の炎エネルギーを一枚トラッシュします。カイリキーの道具、ゴツゴツメットの効果で20ダメージを受けますが──。今更些細なダメージなど構いません」
 エネルギー二つで90ダメージ!? そんなんアリかよ……! 二進化ポケモンがエネルギー三つで叩き出すようなダメージをいとも簡単に与えちまうなんて。
 サイドを一枚引いたスイクンにツーテンポくらい遅れて我に返った高津が、ベンチのオドシシ70/70をバトル場に出す。
「くっ……! だったら俺はベンチのゴーリキーをカイリキーにして闘エネルギーをつける。これで俺の番は終わりだ!」
 そうだ。ここはなんとか凌ぐ他ない。手札が使えないグッズばかりでエネルギーも無い今の状況だ。少しでも耐えて、次の番のドローに起死回生をかけるしかない。
 爆豪の渦の威力が90というなら、なんとかカイリキーならばその攻撃を受けきれる。今バトル場にいるオドシシと併せてあと二ターンはやってくるんだ。
 それまでにあとカイリキーにエネルギーを二つつければ、こっちも威力100の大ワザの怪力バスターが使える。
 いくらLEGENDとはいえ、やつらにも弱点があることは分かっている。炎と雷タイプの二つを両方持っている以上、弱点も二つ。おそらく水と闘タイプだ。
 だとしたら、怪力バスターの威力は100×2=200ダメージ! 残りHPが150/170のエンテイ&ライコウLEGENDを撃破して大逆転が出来る……。
「耐えてチャンスを待つつもりですか……。殊勝な心意気です。でも、次はありません」
「は?」
「なんだと?」
 思わず間の抜けた声が出る。自然と構えていた体が一瞬緩み、スイクンのその意味をなんとなく察して身震いが全身に行き渡る。
 そうだ。確かにスイクンの言うとおりこの番で終わらせる方法は存在する。あのカードが手札にあるなら……。いや、ヤツがそう言ったってことはあるに決まってる。ダメだ、ダメだ!
「くっ、高津ッ!」
「私は手札から探求者を発動。互いのベンチポケモンを一枚ずつ手札に戻します。私はラフレシアを手札に」
「……なっ!」
 ようやく危機を察した高津。でも、一ターン気付くのが遅かった。今の高津のベンチにいるのはカイリキーのみ。そのカイリキーを手札に戻すしかない。
 そして戻してしまえば高津の場にいるのはオドシシ70/70のみ。
「貴方もうすうす思っていたでしょう。私相手に時間稼ぎなんてことが通用しないなんて」
 体の節々まで凍りつきそうだ。高津の後ろにいるため顔は見えないが、きっとただただ呆然としているだろう。立っていることすらままならなくなり、高津は膝を地につける。
「手札の炎エネルギーをエンテイ&ライコウLEGENDにつけて攻撃。これで終わりです、爆豪の渦!」
 炎と爆発がバトル場にいるオドシシ0/70を焼きつくす。爆風を受けて高津の体が棒きれのように舞い上がり、無抵抗に仰向けに倒れる。
「大丈夫か! ……な訳ねーか」
 戦えるポケモンを失った高津の敗北で対戦が終わり、高原から悪路の山道へと風景が変わっていく。夕陽が橙色の光線をぶつける最中、高津の体からオレンジ色の光が溢れだし、徐々に体が透けていく。
「まだ……、アイツの力はきっとある。爆豪の……、ゴホッ! 爆豪の渦だけじゃない! 気をつけろ……!」
 左腕で体を支えて上体を起こそうとする高津が、右手を伸ばしながら掠れた声で伝えてくる。ただ消えかかっているだけじゃない、さっきの爆豪の渦で思い切り体を打ちつけたんだ。普通なら脳震盪を起こしていてもおかしくはない。
 あんなことがあったにも関わらずになんて精神力なんだ。そうまでして俺に伝えようとしてくれている。
「任せろ、お前が体を張ってまで教えてくれたこと、絶対無駄にはしねぇ!」
 伸ばしていた手を握ろうとするが、もう触れる事すら出来ずに空ぶってしまう。
 それに気付いたからか、ふと安堵と困惑の混じった笑みを浮かべ、高津は無理に起きあがるのを止める。ゴロンと仰向けになったままどことなく呟く。
「これで……、俺もお前の仲間に、なれたかなぁ……」
 聞き間違いかもしれないような、小さな声だった。でも、完全に消えてしまう前に見えた涙の筋は間違いない。
 クソが。そんなこと言われたら負けられる訳ないだろ。ここで俺が負けたら高津の全てが無意味になっちまう。それだけはやっちゃいけない。絶対に勝つんだ!
「来いよ! 今度は俺が相手だ!」



拓也(裏)「今回のキーカードはエンテイ&ライコウLEGENDだ。
      他を寄せ付けない圧倒的な破壊力で、
      相手の場を蹂躙してやれ!」

エンテイ&ライコウLEGEND HP140 伝説 炎雷 (L2)
炎無 ばくごうのうず  90
 このポケモンについている炎エネルギーを1個トラッシュ。
雷無 サンダーフォール
 このポケモンについているエネルギーをすべてトラッシュし、ポケパワーを持つおたがいのポケモン全員に、それぞれ80ダメージ。このワザのダメージは弱点・抵抗力の計算をしない。
【特別なルール】
・手札にある2枚のスイクン&エンテイLEGENDを組み合わせて、ベンチに出す。
・このポケモンがきぜつしたら、相手はサイドを2枚とる。
※「伝説ポケモンのカード」は、「上」と「下」を組み合わせて使います。
弱点 水闘×2 抵抗力 - にげる 0

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