123話 50%

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「激流の刃の効果でこのポケモンについている水エネルギーを二枚戻す。そしてサイドを一枚引いて己の番は終わりだ。さあ、どうした長岡恭介。貴様の力はその程度か」
 読み負ける……こと自体は何度も経験しているが、あまりにも読み負け過ぎている。まるで未来や心でも見透かされているような。
 この感覚、やっぱりあの時と同じだ。
 底冷えする恐怖。こちらから向こうは奥が見えないのに、向こうからこちらは全て見られているような。あまりにも自然的すぎる力の差。これはもう間違えようがない。
「このプレイングは一之瀬さんと一緒だ……。お前、まさか……」
「残念だがそれは違う。50%だ」
「どういう意味だよ!」
「そのままだ。お前のその推測は50%は当たっている。だが残り50%は違う」
 さっぱり意味が分からない。じゃあ残りの50%ってのはなんなんだ? どう50%なのかもだ。でも一つだけはっきりしたことはある。
 一之瀬さんはこの件に確実に絡んでいる。今言わないのなら、後で勝ってから問い詰めてやる。
「さあ、今度は貴様の番だぞ」
「分かってらぁ!」
 今の俺のバトル場にはダブル無色エネルギーがついたトルネロス110/110。そしてベンチには雷エネルギーが一枚ついたゼクロム130/130、雷エネルギーとレインボーエネルギーが一枚ずつついたボルトロス100/110。
 向かいにはスタジアム、セキエイ高原の効果でHPが30上昇し、炎エネルギーが一枚ついているスイクン&エンテイLEGEND190/190、その二匹の奥のベンチにオーダイルグレート140/140がいる。
 サイドは俺が四枚、ライコウが三枚。状況は良いとは決して言えない。でも、そんなに悪くも無い。
「まずは手札の雷エネルギーをボルトロスにつけ、ポケモン入れ替えを発動! バトル場のトルネロスとベンチのボルトロスを入れ替える」
 確かに前の番、シェイミを倒されたのは痛い。だけど、だからといってボルトロスが倒されなかったことはそんなに損したことでもない!
「そのいけ好かない態度ももう飽きたぜ。手札からサポートカード、空手王を発動だ! 相手のサイドの枚数の方が少ないとき、俺がこの番に与えるダメージはプラス40になる」
 しかしライコウは、ほう。とだけ小さく呟くだけだ。ポーカーフェイスとかこれも読んでいた、というよりはもっと違う。まるでどっちかというと「そうでもしてくれないと」と言いたげな……。
「行くぜ、ボルトロスでディザスターボルト!」
 対戦に熱中していて忘れていたが、いつの間にか夜になり暗くなった空から、突如一筋の稲光がエンテイとスイクンに突き刺さる。
 元々の威力が80のディザスターボルトに、空手王の効果を加えて120。それに最後の仕上げとしてスイクン&エンテイLEGEND0/190は雷タイプが弱点だ。計240ダメージがあれば一撃でぶっ潰せる!
 セキエイ高原を出してディザスターボルトを耐えきるようにHPを上げたところで、それよりも強いワザをぶつけてやれば結果は一緒だ。
「ディザスターボルトの効果により、雷エネルギーを一つトラッシュ。そしてLEGENDポケモンは気絶したときはサイドを一枚多く引くんだっけな。これでサイド差はひっくり返したぜ。しかもお前の残りのポケモンはどちらかというと攻めるというよりは支援がメインのオーダイルだけだ」
 隠し切れなかったガッツポーズに押され、ライコウを指さして意気込んでそう言った。しかしライコウは相変わらず苦い表情を浮かべるどころか、俺を嘲笑ってやがる。
「己の切り札が一枚だけだと誰が言った」
「なっ、まさか……」
「さあ貴様の貧弱な心はいつまでもつかな。己の番、手札から二組目のスイクン&エンテイLEGEND(190/190)をベンチに出す!」
 ふざ……けんなよ。やっとここまでこぎつけたのに。
 向井との対戦を見て、出来る限りの対策を考えた。考えた末に、一撃が重いスイクン&エンテイLEGENDの対策を思いついた。対策、とまではお世辞には言えないが、極力ヤツの攻撃を受けないように戦うように意識をしていった。そして出来れば一撃で決める。向井の時のようにまんたんの薬を使われる可能性だってあるんだ。
 その結果、激流の刃を一撃だけで抑えて要の砦を撃破した。……そのはずだった。まるで悪夢でも見ているような、そんな気がする。
「オーダイルのポケパワーにより、新たにベンチに出したスイクン&エンテイLEGENDに水エネルギーを二枚加える。続けて手札からエネルギー回収。トラッシュにある基本エネルギーを二枚まで手札に加える。己は炎、水エネルギーを加え、炎エネルギーをスイクン&エンテイLEGENDにつける。さらにもう一枚、ポケモン入れ替えを発動する」
「ざっ……、けんなよなんてスピードだ!」
 苦心して倒したと思ったら、もう再び目の前にスイクン&エンテイLEGENDが立ちはだかっている。ポケモン入れ替えの効果で、バトル場にいたオーダイルはベンチに引っ込んだ。
 まだだ。気持ちでは絶対に負けたくない、負けられない。気持ちで負けたら、勝負にも負ける。それだけは嫌だ……!
「さらにもう一枚、グッズカードを発動。ポケモンキャッチャー! 相手のベンチのポケモン一匹をバトル場に呼び出す。己は貴様のベンチにいるトルネロスと、バトル場のボルトロスを入れ替える。そして攻撃だ。激流の刃!」
 スイクンから発せられた二本の水柱が互いに絡み合いながら、ベンチにいるボルトロスを強襲する。
「っぐあああああ! っく!」
 軽く体が浮くほどの衝撃波に押され、手札をなんとか離さずに、片手で後ろ受け身をとる。さっきも雷の檻で同じ箇所を打ち付けたせいもあって、受け身も崩れそうになったがなんとか成功させることが出来た。
 精神的だけじゃなく肉体的にも疲労が蓄積してきて余裕がねえ。早くどうにかしないと。
「サイドを一枚引いて己の番は終わりだ。さあサイドは共に残り二枚。せめてあがいてみせろ」
「はぁ、はぁ……。あがくんじゃ、ねーよ。勝ちに行くんだよ。俺のターン!」
 今バトル場にいるのはトルネロス。トルネロス110/110なら、相手の攻撃を一度は耐えられる。つまりそのうちに二度は攻撃が出来る。でも俺のデッキにはもう空手王は入っていないから追加ダメージは望めないし、二度攻撃しても一度で80だから計160ダメージと削りきれない。
 そんな状況でまんたんの薬でも使われたら目もあてられない。だったらトルネロスは下げないと。
「トルネロスについているダブル無色エネルギーをトラッシュすることで、トルネロスをベンチに逃がす。そしてゼクロムをバトル場へ出す!」
 バトル場に進んだゼクロムは、待ってましたと言わんばかりに大きな雄叫びを上げ、尻尾から電撃をバチバチと響かせる。
「っし。ゼクロムに雷エネルギーをつけて、攻撃だ。逆鱗!」
 薄い炎を体に身に纏ったゼクロムが、右手を大きく振りかぶってスイクンに叩き付ける。逆鱗の威力は元々20だけど、スイクン&エンテイLEGEND150/190が雷弱点なので受けるダメージは20×2=40ダメージだ。
 さらに逆鱗にはゼクロムに乗っているダメカンの数×10ダメージ威力を増やす効果がある。次の番、スイクン&エンテイLEGENDがバーストインフェルノを使って80ダメージをゼクロムに喰らわせてくれたら、次の番に(20+80)×2=200ダメージをぶつけることが出来る。
 これならばもしまんたんの薬を使われてもまだ勝てる。
「……。なるほど、中々に肝が据わっている。しかしこの手はどうだ。己はスイクン&エンテイLEGENDの炎エネルギーをトラッシュし、ベンチに逃がす。そしてオーダイルをバトル場に出し、ポケパワーによって水エネルギー四枚をオーダイルにつける」
 一瞬声も出なかった。まさかここでポケモンを変えてくるなんて。確かに俺のサイドは残り二枚。スイクン&エンテイLEGENDを倒せば一気に二枚引けるが、その前にオーダイル140/140が気絶しても結果に変わりはない。
 しかもただ当て馬にするっていうだけじゃねえ。俺の最後の策を潰しに来てる。
「オーダイルでゼクロムに攻撃。ハイドロクランチ!」
 水圧により加える力を増やした噛みつき攻撃がゼクロム70/130を襲う。今は60ダメージだが、ハイドロクランチは相手に乗っているダメカンの数×10だけ威力を増やす効果がある。つまりもう一度喰らえばゼクロムは気絶する。
 かといって、草タイプが弱点のオーダイルを一撃で倒す手段もない。
 ゼクロムをベンチに戻してトルネロスで攻撃しようにも、トルネロスにエネルギーが一つもついていない。入れ替えたところで無意味にサンドバックになるだけだ。エネルギーを自由に入れ替えるポケパワーを持つシェイミが中盤で倒されたことが、ここに来てボディーブローのように効いている。
「どうやら今度こそ万事休すと言ったところだな。残念だがもうこれで終わりだ。無駄に苦しむよりも早めに降参すれば楽に終われるぞ」
「何度も何度もふざけたことを言いやがって、笑わせんなよ! 負けが決める前に負けを決めたりはしねえ。自分から諦めて負ける事だけはしねえ! 行くぞ、俺の番だ!」
 ダメだ、引いたカードはデュアルボール。こいつだけじゃ現状を変えることが出来ない。正直なところ、かなりここから巻き返すのは難しい。でも、難しいっていうだけで可能性は残っている。
 あと三十枚近くあるデッキに三枚だけ残っている逆転のカード。それをなんとしてでも引かないと……!
「手札からサポート、アララギ博士を発動。手札のカードを全て捨て、新たにカードを七枚引く」
 ここが最後のターニングポイントだ。引く。絶対に引いてみせる!
『希望を残すことだ! たとえ僕が負けたとしても、先輩がきっとお前を倒してくれる。僕はそう信じているから、最後まで全力で戦える!』
 ライコウに負ける。それが分かっていながらも、向井は果敢に立ち向かってくれた。
『僕が負けたからといって先輩が勝てる訳じゃないけど、それでも『希望』は繋がる! 先輩が今まで僕にくれた『希望』を、僕がこうして紡ぐんだ!』
 そのお陰でライコウをここまで追い詰めた。でもそれではい負けた、じゃ意味がねえ。勝つんだ。勝って、お前の希望を絶対に無駄にはしねえ。
「うおおおおおおお!」
 引いたカードはエレキッド、アララギ博士、ダブル無色エネルギー、探究者、坊主の修行、ポケモンキャッチャー、ジャンクアーム。ある、この対戦を終わらせる「エンドカード」が。
「これで終わりだ! ポケモンキャッチャーを発動。もう一度スイクン&エンテイLEGENDにはバトル場に来てもらう」
「くっ!」
「今度こそもう偉そうなことは言わせねえ。トドメだ、ゼクロムで逆鱗!」
 さっきよりも一層激しい炎を身に纏い、ゼクロムがスイクン&エンテイLEGEND150/190に突撃していく。ゼクロムに乗っているダメカンは六つだから、与えるダメージの合計は(20+60)×2=160ダメージ。もう攻撃を妨げられることは無い。
 ゼクロムの攻撃が決まり、スイクンとエンテイは二匹とも悲鳴を上げながら地面に伏す。
「っしゃああ! サイドを二枚引いて、ゲームセットだ!」



恭介「今回のキーカードはゼクロムだ。
   追い込まれれば追い込まれるほど強くなる!
   それに雷撃の威力もバッチリだぜ」

ゼクロム HP130 雷 (BW1)
無無 げきりん  20+
 このポケモンにのっているダメカンの数×10ダメージを追加。
雷雷無 らいげき  120
 このポケモンにも40ダメージ。
弱点 闘×2 抵抗力 - にげる 2

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